JP3998355B2 - 食用油 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
調理適性および安定性に優れ、n−3系多価不飽和脂肪酸であるα−リノレン酸の供給源として良好な品質を有する、摂取脂肪酸のバランスを考慮した食用油に関する。
【0002】
【従来の技術】
平成6年に厚生省から発表された「第5次改定日本人の栄養所要量」には、日本人の栄養摂取の現状から見ると動物、植物、魚類由来の脂肪の摂取割合は4:5:1程度となっており、これが一つの目安となると述べられている。また、平成5年国民栄養調査によると、日本人は一人一日あたり平均58.1グラムの油脂類を摂取しており、そのうち42.4グラム(約73%)が食材料にもともと含まれる油分(「見えない油」)であり、残りの15.7グラム(約27%)が調理に用いた油脂製品(「見える油」)となっている。さらに「見える油」のうち10.2グラムがサラダ油等の植物油脂である。
【0003】
通常われわれが食用油として摂取している油脂に含まれる脂肪酸には、分子内に炭素−炭素2重結合を持たない飽和脂肪酸(Saturate、以下Sと略す)、分子内に炭素−炭素2重結合を1つだけ持つ一価不飽和脂肪酸(Monounsaturate、以下Mと略す)および分子内に複数の炭素−炭素2重結合を持つ多価不飽和脂肪酸(Polyunsatuate、以下Pと略す)があり、さらに多価不飽和脂肪酸はその炭素−炭素2重結合の位置によって、n−3系とn−6系とに分けられる。それぞれの脂肪酸は分解されてエネルギーになる他、その種類や系列ごとに異なった代謝系に組み込まれてエイコサノイドの前駆物質となり、さまざまな機能を発揮して、全体として体調の維持に役立っている。
【0004】
厚生省は、「第5次改定日本人の栄養所要量(平成6年)」の中で、初めて多価不飽和脂肪酸をn−3系とn−6系とに分け、目標とする日本人の脂肪酸の摂取バランスを数値化して示した。それによると、S:M:P=1:1.5:1が望ましく、さらにn−6/n−3=4が望ましい摂取バランスである旨述べられている。しかし、日本人の食生活は昭和50年以降、肉類の消費が増加し、魚介類の摂取量が減少する、いわゆる「食生活の欧米化」が進行している。国民栄養調査における全国民平均値は、全体としてバランスが取れているが、年齢階層別に見てみると、若年層ほど肉を多く食べて魚を摂らない食生活を送っていることが分かる。このような「食生活の欧米化」が進行すると、上述の「動物、植物、魚類由来の脂肪の摂取割合は4:5:1程度」という摂取バランスが崩れ、結果として「見えない油」に含まれる飽和脂肪酸とn−6系脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸等)の摂取量が増加し、n−3系脂肪酸(エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、α−リノレン酸等)の摂取量が減少するので、n−6/n−3の数値は厚生省の推奨値よりも大きくなる。摂取脂肪酸のn−6/n−3値の変化は、体内のエイコサノイドのバランスをも変化させ、大きくバランスが崩れた場合は血栓性疾患および炎症などへの影響に加え、発ガンやガン転移に関与することも示されている。
【0005】
このような「食生活の欧米化」の進行に対しては、n−3系脂肪酸の補強、増強等の方策が考えられる。n−系脂肪酸を多く含有する油脂としては魚油およびフラックス油が挙げられる。しかし、精製した魚油はコレステロールを多く含む他、酸化安定性にも劣り、劣化のごく初期の段階からいわゆる魚油臭が発生する。そのため、魚油を配合した食用油の場合でも、魚油臭が原因となり品質低下が起こる。一方、フラックス油はヨウ素価が170〜190程度の代表的な乾性油であり、これまでインクや塗料の原料等の主として工業的用途に消費されてきたが、食用油としての用途にはその物性から不向きとされてきた。しかし、フラックス油はその構成脂肪酸の組成中α−リノレン酸が50〜70重量%を占めるn−3系多価不飽和脂肪酸が豊富な植物油であるため、フラックスは食用油原料としての開発が望まれてきた。
【0006】
食用を前提としたフラックス油については、上記の酸化安定性が悪いことによる風味の低下と、精製工程でのトランス型脂肪酸の発生等の課題がある。特開平5−51593公報は、フラックス種子、エゴマ種子またはシソ種子を搾油に先立って150〜350℃にて焙煎し、その後対油10重量%以下の水を添加して30℃以下で水洗することにより、風味や酸化安定性の優れた食用油を得ている。しかし、種子を焙煎する工程においてトランス型脂肪酸が生成する危険性については考慮していない。トランス型脂肪酸は、分子内の炭素−炭素2重結合がシス型からトランス型に変わることによって融点が上昇し、物理的には安定な構造になる。その栄養的な効果については、主として水素添加工程において生成するエライジン酸に議論が集中しているが、リノール酸、α−リノレン酸のトランス型脂肪酸もまた、体内でエイコサノイドに変換されず、摂取してしまった場合に必須脂肪酸要求量が上昇してしまうなどの弊害があるとの報告がある。α−リノレン酸摂取による栄養効果を期待するならば、トランス型脂肪酸の生成については抑制する必要がある。また、特開昭64−3117公報では、シソ油、フラックス油、エゴマ油、キリ油等を利用したα−リノレン酸を20重量%以上、特に40重量%以上含有し、α−リノレン酸とリノール酸との重量比が1以上、特に4以上である油脂組成物により、老齢時の脳卒中発作を抑制できるとしているが、該各油脂の製造方法についての詳細な言及はないため、食用とするにふさわしい風味で調理適性に富み、かつ酸化安定性に優れた品質のものが得られているかいなかは必ずしも明確でない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、フラックス油を利用することで、n−3系多価不飽和脂肪酸であるα−リノレン酸が強化され、かつ安定性、調理適性および風味に優れた食用油を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、特定の精製条件を用いてトランス型脂肪酸の生成を抑制したフラックス油に、高オレイン酸の油脂を加えることによりn−3系多価不飽和脂肪酸が強化され、かつ安定性に優れることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、α−リノレン酸の含量が50重量%以上、かつトランス型脂肪酸の含量が4重量%以下であるフラックス油に、オレイン酸の含量が60重量%以上である高オレイン酸の油脂を加え、オレイン酸とα−リノレン酸の重量比を、オレイン酸:α−リノレン酸=1:0.2〜0.6とし、α−リノレン酸の含量が10重量%以上であることを特徴とする、食用油に関する。上記フラックス油は脱臭温度220〜240℃、脱臭時間60〜90分間、蒸気吹込量対油3.5〜5.5重量%の処理を施して得られるものであることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明において、フラックス油はn−3系多価不飽和脂肪酸であるα−リノレン酸供給源として重要である。フラックス油はその構成脂肪酸のうち通常約50重量%以上のα−リノレン酸を含んでおり、比較的少ない量の配合で十分なα−リノレン酸量を確保できる。フラックス油の配合割合は15〜35重量%、より好ましくは20〜30重量%である。フラックス油の配合割合が、15重量%より少ないと、本発明の食用油のα−リノレン酸の含量が10重量%以上にならないため、n−3系多価不飽和脂肪酸の補強が達成できない。35重量%を越えると本発明の食用油の酸化安定性が損なわれる。フラックス油は、通常食用とされているその他の油脂と比較して、ヨウ素価が非常に高いため、酸化安定性において劣るという欠点があり、劣化の初期の段階からいわゆる戻り臭が発生する。そのため、本発明におけるフラックス油は、食用として提供するためには製造条件に細心の注意が必要となる。α−リノレン酸は、分子内に3個の炭素−炭素2重結合をもち、熱や酸化に対しては非常に不安定である。精製工程において、脱臭温度が高すぎたり、処理時間が不必要に長すぎたりした場合、α−リノレン酸の炭素−炭素2重結合がシス型からトランス型に変化したトランス型脂肪酸が生成する。トランス型脂肪酸はα−リノレン酸の必須脂肪酸としての機能を失っており、摂取した場合、体内の必須脂肪酸要求量が増加してしまうなど、栄養的に好ましくない。このため、製造工程の脱臭条件は、脱臭温度220〜240℃、脱臭時間60〜90分間、蒸気吹込量対油3.5〜5.5重量%であることが好ましい。上記条件で脱臭することにより、風味が良好でかつトランス型脂肪酸含量が4重量%以下に抑えられたフラックス油を製造できる。
【0010】
本発明で用いる高オレイン酸の油脂は、交配、突然変異、遺伝子組み換え等の技術を利用して、オレイン酸の含量が60重量%以上ある品種に改良された菜種、とうもろこし、大豆、サフラワー等の種子に、少なくとも搾油処理および精製処理を施して得られる食用油脂やオリーブ油である。すなわち、搾油処理は物理的な圧搾方法とヘキサン等の有機溶剤を用いる抽出方法とがあり、いずれか一方または両方を使用できる。精製処理は一般の製油工程の手段すなわち原油の脱ガム処理、アルカリ脱酸処理、活性炭や白土による脱色処理、および減圧脱臭処理等を適宜に採用できる。本発明の目的を達成するためには、高オレイン酸の油脂は十分に精製されていることが好ましい。具体的には、日本農林規格に定める精製油あるいはサラダ油の規格に適合する程度の精製状態であることが好ましい。なお、本発明で用いる高オレイン酸の油脂は、上記精製油を対象とするが、精製処理の前または後段階で公知の油脂加工処理例えばウィンタリング処理、シリカゲルやアルミナなどの吸着剤処理、ヘキサンやアセトンなどの有機溶剤を用いて分別処理等の単独または組み合わせの処理を施すことによって脂肪酸組成中のオレイン酸含量をさらに高めることができるため、このような処理を経て得られるものを必要に応じて対象とすることも可能である。本発明において、高オレイン酸の油脂はオレイン酸の供給源として重要である。具体的には、ハイオレイック菜種油、ハイオレイック大豆油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油等である。これらの高オレイン酸の油脂は、フラックス油と共に配合することにより、脂肪酸のn−6/n−3値の調整を容易にする。
【0011】
本発明の食用油は、オレイン酸とα−リノレン酸の重量比をオレイン酸:α−リノレン酸=1:0.2〜0.6とし、α−リノレン酸の含量が10重量%以上になるように、原料である上記フラックス油と高オレイン酸の油脂を、適宜配合することによりn−3系多価不飽和脂肪酸が強化され、かつ安定性が優れる食用油を製造することができる。また、本発明の食用油に大豆油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、ごま油、パーム油、とうもろこし油等をさらに適宜に配合することが可能である。α−リノレン酸がオレイン酸1に対して0.2より少ないとn−3系多価不飽和脂肪酸の補強効果が得られず、0.6を越えると酸化安定性が悪くなる。フラックス油、高オレイン酸の油脂としての菜種油等の配合割合は、上記α−リノレン酸とオレイン酸の重量比が達成される限りにおいて基本的に任意であるが、本発明の所望の効果を確実にするためには、高オレイン酸の油脂の配合割合は33重量%以上であり、さらに好ましくは50重量%以上である。また、上述したようにフラックス油の配合割合は15〜35重量%、好ましくは20〜30重量%である。本発明においてはフラックス油の弱点である酸化安定性の低さを、高オレイン酸の油脂で補うことで、配合後の調理適性や風味ならびに酸化安定性を高め、食用油とするにふさわしい品質を達成できる。また、菜種油の配合比率を高くすることによって、飽和脂肪酸の含量を低減できることは、本発明の望ましい態様である。
【0012】
なお、この食用油に特定の機能を付与するために、必要に応じてレシチン、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、トコフェロール等の酸化防止剤、ガーリックやペッパー等の香辛料、香料等を適量添加してもさしつかえない。また、本発明の食用油の収納容器としては缶、ガラス瓶、プラスチック、紙等の公知のものを用いることができる。本発明の食用油は、従来の食用油と同様の用途に利用できる。
【0013】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらにより限定されるものではない。
【0014】
製造例1
フラックス種子(カナダ産)を80℃に加熱後、圧搾処理してフラックス原油を得、攪拌しながら70℃にて対原油3重量%の水を加えて20分間保持した後、3,000×Gで20分間遠心分離して水和性リン脂質を沈殿除去し、得られた上澄みを真空ポンプを用いて減圧状態で100℃に加熱して乾燥し、脱ガム油を得た。次いで脱ガム油に75容量%のリン酸を対脱ガム油0.1重量%添加し、70℃で攪拌を続けながら15分間保持した後酸価を測定し、次いで、16度ボーメの苛性ソーダ水溶液を遊離脂肪酸のケン化に必要な量の50%過剰量加え、70℃で攪拌を続けながら15分間保持後、3,000×Gで20分間遠心分離して、非水和性リン脂質と脂肪酸石けんの混合物を油滓として沈殿除去後、水洗液が中性になるまで水洗を繰り返し、脱酸処理を行った。その後、真空ポンプを用いて減圧状態で100℃に加熱して乾燥した。引き続き、この乾燥油に対該油1重量%の活性白土(水澤化学(株)製)を加え、前記同様に減圧状態で110℃で20分間保持した後、85℃にて白土を濾別し、脱色処理を行った。さらに230℃にて60分間、水蒸気吹き込み脱臭処理(水蒸気吹き込み総量:対油5重量%)して精製フラックス油を製造した。このフラックス油を官能評価し、また酸化、過酸化物価、色度および脂肪酸組成を「基準油脂分析試験法(1996年)」に準じて測定した(以下の比較製造例、実施例および比較例でも同様)。結果を表1に示す。
【0015】
比較製造例1
製造例1のフラックス種子を用い、80℃に加熱後、圧搾処理してフラックス原油を得、さらに製造例1のフラックス油の場合と同条件で脱酸・脱色処理を行った。さらに255℃にて90分間、水蒸気吹き込み脱臭処理(水蒸気吹き込み総量:対油5重量%)して精製フラックス油を製造した。このフラックス油の分析値を表1に示す。
【0016】
比較製造例2
製造例1のフラックス種子を用い、80℃に加熱後、圧搾処理してフラックス原油を得、さらに製造例1のフラックス油の場合と同条件で脱酸・脱色処理を行った。さらに215℃にて60分間、水蒸気吹き込み脱臭処理(水蒸気吹き込み総量:対油5重量%)して精製フラックス油を製造した。このフラックス油の分析値を表1に示す。
【0017】
比較製造例3
製造例1のフラックス種子を用い、80℃に加熱後、圧搾処理してフラックス原油を得、さらに製造例1のフラックス油の場合と同条件で脱酸・脱色処理を行った。このフラックス油の分析値を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
実施例1
高オレイン酸低リノレン酸菜種サラダ油(日清製油(株)製、オレイン酸含量;74.0重量%)、とうもろこしサラダ油(日清製油(株)製)および製造例1の精製フラックス油を、重量比で50:30:20の割合で配合した。この食用油の分析値を表2に示す。また、この食用油の酸化安定性を調べるため、AOM試験およびCDM試験を「基準油脂分析試験法(1996年)」に準じて行った(以下の実施例および比較例でも同様)。結果を表2に示す。
なお、平成5年国民栄養調査の結果をもとに、本発明の食用油のS:M:P比およびn−6/n−3値を計算した。すなわち、魚介類からの油脂の摂取量が平成5年の国民平均の2分の1で、かつ肉類からの油脂の摂取量がその分多い人が、本発明の食用油を一日10.2グラム摂取すると仮定した場合の最終摂取脂肪酸は、S:M:P=1:1.45:0.99、n−6/n−3値が4.02であった。
【0020】
比較例1
実施例1と同様の高オレイン酸低リノレン酸菜種サラダ油、とうもろこしサラダ油に、比較製造例2のフラックス油を、重量比で50:30:20の割合で配合した。配合後の食用油の分析値を表2に示す。また、この食用油のAOM試験およびCDM試験の結果を表2に示す。
【0021】
実施例2
高オレイン紅花油(日清製油(株)製、オレイン酸含量;75.4重量%)、綿実サラダ油(日清製油(株)製)に製造例1のフラックス油を、重量比で50:20:30の割合で配合した。配合後の食用油の分析値を表2に示す。また、この食用油のAOM試験およびCDM試験の結果を表2に示す。
【0022】
実施例3
菜種サラダ油(日清製油(株)製、オレイン酸含量;60.6重量%)、大豆サラダ油(日清製油(株)製)に製造例1の精製フラックス油を、重量比で45:35:20の割合で配合した。配合後の食用油の分析値を表2に示す。また、この食用油のAOM試験およびCDM試験の結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、トランス型脂肪酸含量が低く、高α−リノレン酸含量のフラックス油に、高オレイン酸の油脂を加えることで、n−3系多価不飽和脂肪酸であるα−リノレン酸が強化され、かつ安定性の優れた食用油が提供される。該食用油を家庭においてサラダ油に代用した場合、肉食中心の食生活で不足するα−リノレン酸を補い、また、飽和脂肪酸やリノール酸の過剰摂取を抑制し、結果として理想の脂肪酸バランスを実現することができる。
Claims (1)
- (a) の処理を施して得られ、かつ α−リノレン酸の含量が50重量%以上、トランス型脂肪酸の含量が4重量%以下であるフラックス油に、オレイン酸の含量が60重量%以上である高オレイン酸の油脂を加え、オレイン酸とα−リノレン酸の重量比を、オレイン酸:α−リノレン酸=1:0.2〜0.6とし、α−リノレン酸の含量が10重量%以上であることを特徴とする食用油。
(a) 脱臭温度220〜240℃、脱臭時間60〜90分間、蒸気吹込量対油3.5〜5.5重量%の処理
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