JP3988644B2 - 磁石粉末およびボンド磁石 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷却ロール、薄帯状磁石材料、磁石粉末およびボンド磁石に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
磁石材料として、希土類元素を含む合金で構成される希土類磁石材料は、高い磁気特性を有するため、モータ等に用いられた場合に、高性能を発揮する。
【0003】
このような磁石材料は、例えば急冷薄帯製造装置を用いた急冷法により製造される。以下、この製造方法を説明する。
【0004】
図23は、従来の磁石材料を単ロール法により製造する装置(急冷薄帯製造装置)における溶湯の冷却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【0005】
同図に示すように、所定の合金組成の磁石材料(以下「合金」と言う)を溶融し、その溶湯60を図示しないノズルから射出し、ノズルに対して図23中矢印A方向に回転している冷却ロール500の周面530に衝突させ、この周面530と接触させることにより合金を急冷、凝固し、薄帯状(リボン状)の合金を連続的に形成する。この薄帯状の合金は、急冷薄帯と呼ばれ、速い冷却速度で凝固された結果、そのミクロ組織は、非晶質相や微細結晶相からなる組織となっており、そのまま、または熱処理を施すことにより、優れた磁気特性を発揮する。なお、図23中、溶湯60の凝固界面710を点線で示す。
【0006】
ここで、希土類元素は、酸化され易く、酸化されると磁気特性が低下するため、前記急冷薄帯80の製造は、主として不活性ガス中で行われていた。
【0007】
そのため、周面530と、溶湯60のパドル(湯溜り)70との間にガスが侵入し、急冷薄帯80のロール面(冷却ロール500の周面530と接触する面)810にディンプル(凹部)9を生じることがあった。この傾向は、冷却ロール500の周速度が大きくなるほど顕著となり、生じるディンプルの面積も大きくなる。
【0008】
このディンプル9(特に、巨大ディンプル)が生じると、ディンプル部分においては、ガスの介在により冷却ロール500の周面530との接触不良が生じ、冷却速度が低下して、急速な凝固が妨げられる。そのため、ディンプル9が生じた部位では、合金の結晶粒径が粗大化し、磁気特性が低下する。
【0009】
このような低磁気特性の部分を含む急冷薄帯を粉砕して得られる磁石粉末は、磁気特性のバラツキが大きくなる。したがって、このような磁石粉末を用いて製造されたボンド磁石は、低い磁気特性しか得られず、また、耐食性も低下する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、磁気特性が優れ、信頼性に優れた磁石を提供することができる磁石粉末およびボンド磁石を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(14)の本発明により達成される。
【0012】
(1) 磁石材料の溶湯を冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化して得られた薄帯状磁石材料を粉砕して得られる磁石粉末であって、
前記冷却ロールは、ロール基材と、該ロール基材の外周に設けられた表面層とを有し、
前記表面層がセラミックスで構成されたものであり、かつ、
前記表面層の周面上に、前記薄帯状磁石材料の冷却ロールとの接触面において発生するディンプルを分割するディンプル矯正手段として少なくとも1本の凸条または溝を有するものであり、
磁石粉末は、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織で構成されるものであることを特徴とする磁石粉末
【0013】
(2) 磁石材料の溶湯を冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化して得られた薄帯状磁石材料を粉砕して得られる磁石粉末であって、
前記冷却ロールは、ロール基材と、該ロール基材の外周に設けられた表面層とを有し、
前記表面層は、室温付近における熱膨張率が3.5〜18[×10-6-1]の材料で構成されたものであり、かつ、
前記表面層の周面上に、前記薄帯状磁石材料の冷却ロールとの接触面において発生するディンプルを分割するディンプル矯正手段として少なくとも1本の凸条または溝を有するものであり、
磁石粉末は、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織で構成されるものであることを特徴とする磁石粉末
【0014】
(3) 前記凸条の平均幅は、0.5〜95μmである上記(1)または(2)に記載の磁石粉末
【0015】
(4) 前記溝の平均幅は、0.5〜90μmである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の磁石粉末
【0016】
(5) 前記凸条の平均高さまたは前記溝の平均深さは、0.5〜20μmである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の磁石粉末
【0017】
(6) 前記凸条または前記溝が並設されており、その平均ピッチは、0.5〜100μmである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の磁石粉末
【0018】
(7) 前記周面上における前記凸条または前記溝の占める投影面積の割合が10%以上である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の磁石粉末
【0019】
(8) 磁石材料の溶湯を冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化して得られた薄帯状磁石材料を粉砕して得られる磁石粉末であって、
前記薄帯状磁石材料において、前記冷却ロールとの接触面に溝または凸条が形成されており、前記冷却ロールとの接触面において発生したディンプルが、前記溝または前記凸条により前記ディンプルが分割されており、
磁石粉末は、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織で構成されるものであることを特徴とする磁石粉末
【0020】
(9) 磁石粉末は、その製造過程または製造後少なくとも1回熱処理が施されたものである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の磁石粉末
【0021】
(10) 平均粒径が1〜300μmである上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の磁石粉末
【0022】
(11) 前記ハード磁性相および前記ソフト磁性相の平均結晶粒径は、いずれも1〜100nmである上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の磁石粉末
【0023】
(12) 上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の磁石粉末を結合樹脂で結合してなることを特徴とするボンド磁石
【0024】
(13) 室温での固有保磁力H cJ が320〜1200kA/mである上記(12)に記載のボンド磁石
【0025】
(14) 最大磁気エネルギー積(BH) max が40kJ/m 3 以上である上記(12)または(13)に記載のボンド磁石
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の磁石粉末およびボンド磁石の実施の形態について、詳細に説明する。
【0040】
[急冷薄帯製造装置の構成]
図1は、冷却ロールの第1実施形態と、その冷却ロールを用い、単ロール法により薄帯状磁石材料(急冷薄帯)を製造する装置(急冷薄帯製造装置)の構成例とを示す斜視図、図2は、図1に示す冷却ロールの正面図、図3は、図1に示す冷却ロールの拡大断面図である。
【0041】
これらの図に示すように、急冷薄帯製造装置1は、磁石材料を収納し得る筒体2と、該筒体2に対し図中矢印A方向に回転する冷却ロール5とを備えている。筒体2の下端には、磁石材料の溶湯6を射出するノズル(オリフィス)3が形成されている。
【0042】
筒体2の構成材料としては、例えば、石英、アルミナ、マグネシア等の耐熱性セラミックス等が挙げられる。
【0043】
ノズル3の開口形状としては、例えば、円形、楕円形、スリット状等が挙げられる。
【0044】
また、筒体2のノズル3近傍の外周には、加熱用のコイル4が配置され、このコイル4に例えば高周波を印加することにより、筒体2内を加熱(誘導加熱)し、筒体2内の磁石材料を溶融状態にする。
【0045】
なお、加熱手段は、このようなコイル4に限らず、例えば、カーボンヒータを用いることもできる。
【0046】
冷却ロール5は、ロール基材51と、冷却ロール5の周面53を形成する表面層52とで構成されている。
【0047】
表面層52は、ロール基材51と同じ材質で一体構成されていてもよいが、ロール基材51の構成材料より熱伝導率の小さい材質で構成されているのが好ましい。
【0048】
ロール基材51の構成材料は、特に限定されないが、表面層52の熱をより速く放散できるように、例えば銅または銅系合金のような熱伝導率の大きい金属材料で構成されているのが好ましい。
【0049】
表面層52の構成材料の室温付近における熱伝導率は、特に限定されないが、例えば、80W・m-1・K-1以下であるのが好ましく、3〜60W・m-1・K-1であるのがより好ましく、5〜40W・m-1・K-1であるのがさらに好ましい。
【0050】
冷却ロール5が、このような熱伝導率を有する表面層52とロール基材51とで構成されることにより、適度な冷却速度で溶湯6を急冷することが可能となる。また、ロール面81(冷却ロールの周面と接触する側の面)付近とフリー面82(ロール面と反対側の面)付近とでの冷却速度の差が小さくなる。したがって、得られる急冷薄帯8は、各部位における結晶粒径のバラツキが小さく、磁気特性に優れたものとなる。
【0051】
このような熱伝導率を有する材料としては、例えば、Zr、Sb、Ti、Ta、Pd、Pt等、またはこれらを含む合金等の金属材料やこれらの酸化物、セラミックス等が挙げられる。セラミックスとしては、例えば、Al23、SiO2、TiO2、Ti23、ZrO2、Y23、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si34、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、TaN、NbN、CrN、Cr2N等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al43、CaC2、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC等の炭化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組合せた複合セラミックスが挙げられる。この中でも特に、窒化物系セラミックスを含むものであるのが好ましい。
【0052】
また、従来、冷却ロールの周面を構成する材料として用いられてきたもの(Cu、Crなど)に比べ、このようなセラミックスは、高い硬度を有し、耐久性(耐摩耗性)に優れている。このため、冷却ロール5を繰り返し使用しても、周面53の形状が維持され、後述するディンプル矯正手段の効果も劣化しにくい。
【0053】
ところで、前述したロール基材51の構成材料は、通常、比較的高い熱膨張率を有している。そのため、表面層52の構成材料の熱膨張率は、ロール基材51の熱膨張率に近い値であるのが好ましい。表面層52の構成材料の室温付近での熱膨張率(線膨張率α)は、例えば、3.5〜18[×10-6-1]程度であるのが好ましく、6〜12[×10-6-1]程度であるのがより好ましい。表面層52の構成材料の室温付近における熱膨張率(以下、単に「熱膨張率」とも言う)がこのような範囲の値であると、ロール基材51と表面層52との高い密着性を維持することができ、表面層52の剥離をより効果的に防止することができる。
【0054】
また、表面層52は、単層のみならず、例えば組成の異なる複数の層の積層体であってもよい。例えば、表面層52は、前述した金属材料、セラミックス等で構成された層が2層以上積層されたものであってもよい。このような表面層52としては、例えば、ロール基材51側から金属層(下地層)/セラミックス層が積層された2層積層体で構成されたものが挙げられる。このような積層体の場合、隣接する層同士は、密着性の高いものが好ましく、その例としては、隣接する層同士に同一の元素が含まれているものが挙げられる。
【0055】
また、表面層52が複数の層の積層体である場合、少なくとも、その最外層が前述した範囲の熱伝導率を有する材料で構成されたものであるのが好ましい。
【0056】
また、表面層52が単層で構成されている場合でも、その組成は、厚さ方向に均一なものに限らず、例えば、含有成分が厚さ方向に順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
【0057】
表面層52の平均厚さ(前記積層体の場合はその合計厚さ)は、特に限定されないが、0.5〜50μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
【0058】
表面層52の平均厚さが下限値未満であると、次のような問題を生じる場合がある。すなわち、表面層52の材質によっては、冷却能が大きすぎて、厚さがかなり大きい急冷薄帯8でもロール面81付近では冷却速度が大きく、非晶質になり易くなる。一方、フリー面82付近では急冷薄帯8の熱伝導率が比較的小さいので急冷薄帯8の厚さが大きいほど冷却速度が小さくなり、その結果、結晶粒径の粗大化が起こり易くなる。すなわち、フリー面82付近では粗大粒、ロール面81付近では非晶質といった急冷薄帯となり易くなり、満足な磁気特性が得られない場合がある。また、フリー面82付近での結晶粒径を小さくするために、例えば、冷却ロール5の周速度を大きくして、急冷薄帯8の厚さを小さくしたとしても、ロール面81付近での非晶質がよりランダムなものとなり、急冷薄帯8の作成後に、熱処理を施したとしても、十分な磁気特性が得られない場合がある。
【0059】
また、表面層52の平均厚さが上限値を超えると、急冷速度が遅く、結晶粒径の粗大化が起こり、結果として磁気特性が低下する場合がある。
【0060】
表面層52の形成方法は、特に限定されないが、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVDなどの化学蒸着法(CVD)または真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理蒸着法(PVD)が好ましい。これらの方法を用いた場合、比較的容易に、表面層の厚さを均一にすることができるため、表面層52の形成後、その表面に機械加工を行わなくてよい。なお、表面層52は、その他、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ、溶射等の方法で形成されてもよい。この中でも、溶射により表面層52を形成した場合、ロール基材51と表面層52との密着性(接着強度)は、特に優れたものとなる。
【0061】
また、表面層52をロール基材51の外周に形成するのに先立ち、ロール基材51の外表面に対して、アルカリ洗浄、酸洗浄、有機溶剤洗浄等の洗浄処理や、ブラスト処理、エッチング、メッキ層の形成等の下地処理を施してもよい。これにより、表面層52の形成後におけるロール基材51と表面層52との密着性が向上する。また、前述したような下地処理を施すことにより、均一かつ緻密な表面層52を形成することができるため、得られる冷却ロール5は、各部位における熱伝導率のバラツキが特に小さいものとなる。
【0062】
[ディンプル矯正手段]
後述するように、急冷薄帯8は、冷却ロール5の周面53に磁石材料の溶湯6を衝突させ、急冷することにより製造される。このとき、周面53と、溶湯6のパドル(湯溜り)7との間にガスが侵入することにより、ロール面81においてディンプルが発生する場合がある。図4に示すように、ガスが侵入した部位は、ガスが溜まった状態で冷却されるので、得られる急冷薄帯8のロール面81には、ディンプル9が発生することとなる(図6参照)。また、ガスが侵入した部位では、パドル7の他の部位に比べて、冷却速度が小さくなり、結晶粒径の粗大化が起こる。その結果、急冷薄帯8の各部位における結晶粒径、磁気特性のバラツキが大きくなる。このような傾向は、ディンプル9の1個あたりの面積、ディンプル9の総面積が大きくなるほど顕著となる。
【0063】
これに対し、冷却ロール5の周面53には、急冷薄帯8のロール面81において発生するディンプル9を分割するディンプル矯正手段が設けられている。
【0064】
これにより、図5、図7に示すように、ディンプル9は、溝84によって分割される。また、後述するガス抜き効果により、周面53とパドル7との間に侵入したガスの少なくとも一部が排出されることとなり、周面53とパドル7との間に残存するガス量は少なくなる。これらの理由から、得られる急冷薄帯8のロール面81に形成されるディンプル9の1個あたりの面積は小さくなり、ディンプル9の総面積も減少する(図7参照)。そのため、パドル7の各部位における冷却速度のバラツキが小さくなり、結果として、結晶粒径のバラツキが小さく、磁気特性に優れた急冷薄帯8が得られる。
【0065】
図示の構成では、ディンプル矯正手段として、冷却ロール5の周面53上に、溝54が冷却ロールの回転方向に対し、ほぼ平行に形成されている。(このとき、隣接する溝54、溝54間は、凸条55となっている。また、逆に、隣接する凸条55、凸条55間は、溝54となっているものとみなすこともできる。このように、溝と凸条とは、相対する関係にあるので、以下、特に断りのない限り、ディンプル矯正手段として、溝について代表的に説明する。)
【0066】
溝54が周面53上に設けられていることにより、周面53とパドル7との間に侵入したガスは、溝54内に入り込んだ後、さらに溝54に沿って移動することが可能となる。そのため、周面53とパドル7との間に侵入したガスは、冷却ロール5の回転に伴い、溝54を介して外部に排出される。このような効果(ガス抜き効果)により、ガスが侵入した部位における周面53とパドル7との接触が起こり易くなる。このようにして周面53とパドル7との接触が起こると、図7に示すように、ディンプル9は分割され、ディンプルの1個あたりの面積は小さくなる。また、周面53とパドル7との間に残存するガス量が少なくなるため、形成されるディンプル9の総面積も小さくなる。したがって、パドル7の各部位における冷却速度のバラツキは、小さくなり、結果として、結晶粒径のバラツキが小さく、磁気特性に優れた急冷薄帯8が得られる。
【0067】
図示の構成では、溝54および凸条55は、それぞれ複数本形成されているが、少なくとも1本形成されていればよい。
【0068】
溝54の幅(周面53へ開口している部分での幅)L1の平均値は、0.5〜90μmであるのが好ましく、1〜50μmであるのがより好ましい。溝54の幅L1の平均値が下限値未満であると、周面53とパドル7との間に侵入したガスを排出するガス抜き効果が低下し、ディンプル矯正手段としての効果が十分に発揮されない場合がある。一方、溝54の幅L1の平均値が上限値を超えると、溝54で面積の大きいディンプルが発生し、結晶粒が粗大化する場合がある。
【0069】
凸条55の幅(最大幅)L2の平均値は、0.5〜95μmであるのが好ましく、1〜50μmであるのがより好ましい。凸条55の幅L2の平均値が下限値未満であると、ディンプルの矯正手段として、凸条が十分に機能しなくなり、結果として、大面積のディンプルが形成される場合がある。一方、凸条55の幅L2の平均値が上限値を超えると、凸条の表面積が大きくなり、凸条とパドルとの間にディンプルが形成される場合がある。
【0070】
溝54の最大深さ(または凸条55の最大高さ)L3の平均値は、0.5〜20μmであるのが好ましく、1〜10μmであるのがより好ましい。溝54の深さL3の平均値が下限値未満であると、周面53とパドル7との間に侵入したガスを排出するガス抜き効果が低下し、ディンプル矯正手段としての効果が十分に発揮されない場合がある。一方、溝54の深さL3の平均値が上限値を超えると、溝54を流れるガス流の流速が増大するとともに、渦を伴う乱流となり易くなり、ディンプル矯正手段としての効果が十分に発揮されない場合がある。
【0071】
並設されている溝54(または並設されている凸条55)のピッチL4は、ロール面81上に形成されるディンプル9の1個あたりの大きさや、ディンプル9の総面積を規定する重要な要件である。並設されている溝54(または並設されている凸条55)のピッチL4の平均値は、0.5〜100μmであるのが好ましく、3〜50μmであるのがより好ましい。溝54のピッチL4の平均値がこのような範囲の値であると、溝54(または凸条55)がディンプル矯正手段として十分に機能し、かつパドル7との接触部分−非接触部分の間隔が十分小さくなる。その結果、周面53に接触している部分と接触していない部分との冷却速度の差は、十分小さくなり、得られる急冷薄帯8の結晶粒径、磁気特性のバラツキは小さくなる。
【0072】
周面53上における溝54(または凸条55)の占める投影面積(周面に投影したときの面積)の割合は、10%以上であるのが好ましく、30〜99.5%であるのがより好ましい。周面53上における溝54(または凸条55)の占める投影面積の割合が10%未満であると、周面53とパドル7との間に巻き込まれるガス量に対して、ガス抜きのための流路が十分に確保されず、周面53とパドル7との間にガスが残存し、その結果、巨大ディンプルを形成し易くなる。
【0073】
溝54および凸条55は、いかなる方法で形成されたものであってもよい。
溝54は、例えば、冷却ロール5の周面53に対し、切削、転写(圧転)、研削、ブラスト処理等の各種機械加工、レーザー加工、放電加工、化学エッチング等を施すことにより形成することができる。その中でも、溝54の幅、深さ、並設された溝54のピッチ等の精度を高くすることが比較的容易である点で、機械加工、特に、切削であるのが好ましい。
【0074】
また、凸条55は、例えば、周面53に前述した溝54の形成方法による加工を施した結果、(周面53上に残存する部分として)形成されたものであってもよい。
【0075】
ロール基材51の外周面上に表面層52が設けられる場合(表面層52がロール基材51と一体形成されていない場合)、溝54または凸条55は、表面層に直接、前述した方法により形成されたものであっても、そうでなくてもよい。すなわち、図8に示すように、表面層52を設けた後、その表面層に前述した方法により溝54または凸条を形成してもよいが、図9に示すように、ロール基材51の外周面上に、前述した方法により溝または凸条を形成した後、表面層52を形成してもよい。この場合、表面層52の厚さをロール基材51に形成された溝の深さまたは凸条の高さに比べて小さくすることにより、結果として、表面層52の表面に機械加工を施すことなく、周面53上にディンプル矯正手段である溝54または凸条55が形成される。この場合、表面層52の表面に機械加工等が施されないため、その後、研磨等が施されなくても周面53の表面粗さRaを比較的小さくすることができる。
【0076】
なお、図3、図5(後述する図14、図16、図18、図20、図21も同様)では、ロール基材と表面層との境界は、省略して示した。
【0077】
[磁石材料の合金組成]
本発明における薄帯状磁石材料や磁石粉末としては、優れた磁気特性を有するものが好ましく、このようなものとしては、R(ただし、Rは、Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種)を含む合金、特にR(ただし、Rは、Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種)とTM(ただし、TMは、遷移金属のうちの少なくとも1種)とB(ボロン)とを含む合金が挙げられ、次の[1]〜[5]の組成のものが好ましい。
【0078】
[1] Smを主とする希土類元素と、Coを主とする遷移金属とを基本成分とするもの(以下、Sm−Co系合金と言う)。
【0079】
[2] R(ただし、Rは、Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種)と、Feを主とする遷移金属(TM)と、Bとを基本成分とするもの(以下、R−TM−B系合金と言う)。
【0080】
[3] Smを主とする希土類元素と、Feを主とする遷移金属と、Nを主とする格子間元素とを基本成分とするもの(以下、Sm−Fe−N系合金と言う)。
【0081】
[4] R(ただし、Rは、Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)とFe等の遷移金属とを基本成分とし、ソフト磁性相とハード磁性相とが相隣接して(粒界相を介して隣接する場合も含む)存在する複合組織(特に、ナノコンポジット組織と呼ばれるものがある)を有するもの。
【0082】
[5] 前記[1]〜[4]の組成のもののうち、少なくとも2種を混合したもの。この場合、混合する各磁石粉末の利点を併有することができ、より優れた磁気特性を容易に得ることができる。
【0083】
Sm−Co系合金の代表的なものとしては、SmCo5、Sm2TM17(ただしTMは、遷移金属)が挙げられる。
【0084】
R−Fe−B系合金の代表的なものとしては、Nd−Fe−B系合金、Pr−Fe−B系合金、Nd−Pr−Fe−B系合金、Nd−Dy−Fe−B系合金、Ce−Nd−Fe−B系合金、Ce−Pr−Nd−Fe−B系合金、これらにおけるFeの一部をCo、Ni等の他の遷移金属で置換したもの等が挙げられる。
【0085】
Sm−Fe−N系合金の代表的なものとしては、Sm2Fe17合金を窒化して作製したSm2Fe173、TbCu7型相を主相とするSm−Zr−Fe−Co−N系合金が挙げられる。ただし、これらSm−Fe−N系合金の場合、Nは、急冷薄帯を作製した後、得られた急冷薄帯に適切な熱処理を施し、窒化することにより格子間原子として導入されるのが一般的である。
【0086】
前記希土類元素としては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、ミッシュメタルが挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができる。また、前記遷移金属としては、Fe、Co、Ni等が挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができる。
【0087】
また、保磁力、最大磁気エネルギー積等の磁気特性を向上させるため、あるいは、耐熱性、耐食性を向上させるために、磁石材料中には、必要に応じ、Al、Cu、Ga、Si、Ti、V、Ta、Zr、Nb、Mo、Hf、Ag、Zn、P、Ge、Cr、W等を含有することもできる。
【0088】
前記複合組織(ナノコンポジット組織)は、ソフト磁性相10とハード磁性相11とが、例えば、図10、図11または図12に示すようなパターン(モデル)で存在しており、各相の厚さや粒径がナノメーターレベルで存在している。そして、ソフト磁性相10とハード磁性相11とが相隣接し(粒界相を介して隣接する場合も含む)、磁気的な交換相互作用を生じる。
【0089】
ソフト磁性相の磁化は、外部磁界の作用により容易にその向きを変えるので、ハード磁性相に混在すると、系全体の磁化曲線はB−H図(J−H図)の第二象現で段のある「へび型曲線」となる。しかし、ソフト磁性相のサイズが数10nm以下と十分小さい場合には、ソフト磁性体の磁化が周囲のハード磁性体の磁化との結合によって十分強く拘束され、系全体がハード磁性体として振舞うようになる。
【0090】
このような複合組織(ナノコンポジット組織)を持つ磁石は、主に、以下に挙げる特徴1)〜5)を有している。
【0091】
1)B−H図(J−H図)の第二象現で、磁化が可逆的にスプリングバックする(この意味で「スプリング磁石」とも言う)。
2)着磁性が良く、比較的低い磁場で着磁できる。
3)磁気特性の温度依存性がハード磁性相単独の場合に比べて小さい。
4)磁気特性の経時変化が小さい。
5)微粉砕しても磁気特性が劣化しない。
【0092】
このように、複合組織で構成される磁石は、優れた磁気特性を有する。したがって、磁石粉末は、このような複合組織を有するものであるのが特に好ましい。
【0093】
なお、図10〜図12に示すパターンは、一例であって、これらに限られるものではない。
【0094】
[薄帯状磁石材料の製造]
次に、前述した冷却ロール5を用いた薄帯状磁石材料(急冷薄帯)の製造について説明する。
【0095】
薄帯状磁石材料は、磁石材料の溶湯を冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化することにより製造される。以下、その一例について説明する。
【0096】
図1に示すように、急冷薄帯製造装置1は、チャンバー(図示せず)内に設置され、該チャンバー内に不活性ガスやその他の雰囲気ガスが充填された状態で作動する。特に、急冷薄帯8の酸化を防止するために、雰囲気ガスは、不活性ガスであるのが好ましい。不活性ガスとしては、例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。
【0097】
雰囲気ガスの圧力は、特に限定されないが、1〜760Torrであるのが好ましい。
【0098】
筒体2内の溶湯6の液面には、チャンバーの内圧より高い所定の圧力がかけられている。溶湯6は、この筒体2内の溶湯6の液面に作用する圧力と筒体2内における液面の高さに比例してかかる圧力との和と、チャンバー内の雰囲気ガスの圧力との差圧により、ノズル3から射出する。
【0099】
溶湯噴射圧(筒体2内の溶湯6の液面に作用する圧力と筒体2内における液面の高さに比例してかかる圧力との和と、チャンバー内の雰囲気ガスの圧力との差圧)は、特に限定されないが、10〜100kPaであるのが好ましい。
【0100】
急冷薄帯製造装置1では、筒体2内に磁石材料を入れ、コイル4により加熱して溶融し、その溶湯6をノズル3から射出すると、図1に示すように、溶湯6は、冷却ロール5の周面53に衝突し、パドル(湯溜り)7を形成した後、回転する冷却ロール5の周面53に引きずられつつ急速に冷却されて凝固し、急冷薄帯8が連続的または断続的に形成される。このとき、パドル7と周面53との間にガスが侵入すると、急冷薄帯8のロール面81にディンプル9が形成されるが、冷却ロール5の周面53上にディンプル矯正手段(溝54および凸条55)が設けられていることにより、ディンプル9は分割される。このようにして形成された急冷薄帯8は、やがて、そのロール面81が周面53から離れ、図1中の矢印B方向に進行する。
【0101】
このように、周面53上にディンプル矯正手段が設けられることにより、ロール面81における巨大ディンプルの発生が防止され、パドル7の不均一な冷却が防止される。その結果、結晶粒径のバラツキが小さく、磁気特性に優れた急冷薄帯8が得られる。
【0102】
また、急冷薄帯8を実際に製造するに際しては、必ずしもノズル3を冷却ロール5の回転軸50の真上に設置しなくてもよい。
【0103】
冷却ロール5の周速度は、合金溶湯の組成、表面層52の構成材料(組成)、周面53の表面性状(特に、周面53の溶湯6に対する濡れ性)等によりその好適な範囲が異なるが、磁気特性向上のために、通常、5〜60m/秒であるのが好ましく、10〜40m/秒であるのがより好ましい。冷却ロール5の周速度が下限値未満であると、溶湯6(パドル7)の冷却速度が低下し、結晶粒径が増大する傾向を示し、磁気特性が低下する場合がある。一方、冷却ロール5の周速度が上限値を超えると、逆に冷却速度が大きくなり、非晶質組織が占める割合が大きくなり、その後に、後述する熱処理を施したとしても、磁気特性が十分に向上しない場合がある。
【0104】
以上のようにして得られた急冷薄帯8は、その幅wおよび厚さができるだけ均一であるものが好ましい。この場合、急冷薄帯8の平均厚さtは、8〜50μm程度であるのが好ましく、10〜40μm程度であるのがより好ましい。平均厚さtが下限値未満であると、非晶質組織が占める割合が大きくなり、その後に、後述する熱処理を施したとしても磁気特性が十分に向上しない場合がある。単位時間当たりの生産性も低下する。一方、平均厚さtが上限値を超えると、フリー面82側の結晶粒径が粗大化する傾向を示すため、磁気特性が低下する場合がある。
【0105】
このようにして得られる急冷薄帯8は、ロール面81の少なくとも一部に、冷却ロール5の周面53の表面形状が転写(部分的な転写も含む)されることがある。これにより、冷却ロール5の周面53の表面形状(溝54または凸条55)に対応する凸条83または溝84が形成される。このようにして、凸条83または溝84が形成されることにより、ディンプル9が効率よく分割され、ディンプル9の1個あたりの面積が小さくなっている。また、冷却ロール5の周面53上に形成された溝54のガス抜き効果により、ディンプル9の総面積も減少している。その結果、急冷薄帯8の各部位における結晶粒径のバラツキが小さくなり、優れた磁気特性が得られる。
【0106】
急冷薄帯8のロール面81において、凝固時に形成された2000μm2以上のディンプル9(巨大ディンプル)の占める投影面積の割合は、10%以下であるのが好ましく、5%以下であるのがより好ましい。巨大ディンプルの占める投影面積の割合が10%を超えると、冷却ロール5と接触していた部分に比べ、冷却速度が極端に小さい部分(特に、巨大ディンプルの中央部付近)の占める面積の割合が大きくなり、急冷薄帯8全体としての磁気特性が低下する。
【0107】
なお、ディンプルの投影面積の割合は、ロール面81上の所定の面積中に占める面積率として算出される。特に、ロール面81上の数箇所以上について算出した面積率の平均値を取るのが好ましい。
【0108】
急冷薄帯8のロール面81において、凝固時に形成されたディンプル9の占める投影面積(総面積)の割合は、40%以下であるのが好ましく、30%以下であるのがより好ましい。ディンプル9の占める投影面積(総面積)の割合が大きすぎると、凝固時における冷却速度が全体として低下することとなり、その結果、結晶粒径の粗大化が起こり、得られる急冷薄帯8の磁気特性が低下する。
【0109】
なお、得られた急冷薄帯8に対しては、例えば、非晶質組織(アモルファス組織)の再結晶化の促進、組織の均質化等を目的として、熱処理を施すこともできる。この熱処理の条件としては、例えば、400〜900℃で、0.2〜300分程度とすることができる。
【0110】
また、この熱処理は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×10-6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0111】
以上のようにして得られた急冷薄帯(薄帯状磁石材料)8は、微細結晶組織、もしくは微細結晶が非晶質組織中に含まれるような組織となり、優れた磁気特性が得られる。
【0112】
なお、以上では、急冷法として、単ロール法を例に説明したが、双ロール法を採用してもよい。このような急冷法は、金属組織(結晶粒)を微細化することができるので、ボンド磁石の磁石特性、特に保磁力等を向上させるのに有効である。
【0113】
[磁石粉末の製造]
以上のようにして製造された急冷薄帯8を粉砕することにより、本発明の磁石粉末が得られる。
【0114】
粉砕の方法は、特に限定されず、例えばボールミル、振動ミル、ジェットミル、ピンミル等の各種粉砕装置、破砕装置を用いて行うことができる。この場合、粉砕は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×10-6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うこともできる。
【0115】
磁石粉末の平均粒径は、特に限定されないが、後述するボンド磁石(希土類ボンド磁石)を製造するためのものの場合、磁石粉末の酸化防止と、粉砕による磁気特性劣化の防止とを考慮して、1〜300μmであるのが好ましく、5〜150μmであるのがより好ましい。
【0116】
また、ボンド磁石の成形時のより良好な成形性を得るために、磁石粉末の粒径分布は、ある程度分散されている(バラツキがある)のが好ましい。これにより、得られたボンド磁石の空孔率を低減することができ、その結果、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を同じとしたときに、ボンド磁石の密度や機械的強度をより高めることができ、磁気特性をさらに向上することができる。
【0117】
なお、得られた磁石粉末に対しては、例えば、粉砕により導入されたひずみの影響の除去、結晶粒径の制御を目的として、熱処理を施すこともできる。この熱処理の条件としては、例えば、350〜850℃で、0.2〜300分程度とすることができる。
【0118】
また、この熱処理は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×10-6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0119】
このような磁石粉末を用いてボンド磁石を製造した場合、該磁石粉末は、結合樹脂との結合性(結合樹脂の濡れ性)が良く、そのため、このボンド磁石は、機械的強度が高く、熱安定性(耐熱性)、耐食性が優れたものとなる。従って、当該磁石粉末は、ボンド磁石の製造に適しており、製造されたボンド磁石は、信頼性の高いものとなる。
【0120】
以上のような磁石粉末は、平均結晶粒径が500nm以下であるのが好ましく、200nm以下であるのがより好ましく、10〜120nm程度がさらに好ましい。平均結晶粒径が500nmを超えると、磁気特性、特に保磁力および角型性の向上が十分に図れない場合がある。
【0121】
特に、磁石材料が前記[4]のような複合組織を有するものである場合、平均結晶粒径は、1〜100nmであるのが好ましく、5〜50nmであるのがより好ましい。平均結晶粒径がこのような範囲の大きさであると、ソフト磁性相10とハード磁性相11との間で、より効果的に磁気的な交換相互作用を生じることとなり、顕著な磁気特性の向上が認められる。
【0122】
[ボンド磁石およびその製造]
次に、本発明のボンド磁石について説明する。
【0123】
本発明のボンド磁石は、好ましくは、前述の磁石粉末を結合樹脂で結合してなるものである。
【0124】
結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
【0125】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0126】
これらのうちでも、成形性が特に優れており、機械的強度が高いことから、ポリアミド、耐熱性向上の点から、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイドを主とするものが好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂は、磁石粉末との混練性にも優れている。
【0127】
このような熱可塑性樹脂は、その種類、共重合化等により、例えば成形性を重視したものや、耐熱性、機械的強度を重視したものというように、広範囲の選択が可能となるという利点がある。
【0128】
一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、ビスフェノール型、ノボラック型、ナフタレン系等の各種エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0129】
これらのうちでも、成形性が特に優れており、機械的強度が高く、耐熱性に優れるという点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。また、これらの熱硬化性樹脂は、磁石粉末との混練性、混練の均一性にも優れている。
【0130】
なお、使用される熱硬化性樹脂(未硬化)は、室温で液状のものでも、固形(粉末状)のものでもよい。
【0131】
このような本発明のボンド磁石は、例えば次のようにして製造される。磁石粉末と、結合樹脂と、必要に応じ添加剤(酸化防止剤、潤滑剤等)とを混合、混練(例えば、温間混練)してボンド磁石用組成物(コンパウンド)を製造し、このボンド磁石用組成物を用いて、圧縮成形(プレス成形)、押出成形、射出成形等の成形方法により、無磁場中で所望の磁石形状に成形する。結合樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、成形後、加熱等によりそれを硬化する。
【0132】
ここで、前記3種の成形方法のうち、押出成形および射出成形(特に、射出成形)は、形状選択の自由度が広く、生産性が高い等の利点があるが、これらの成形方法では、良好な成形性を得るために、成形機内におけるコンパウンドの十分な流動性を確保しなければならないため、圧縮成形に比べて、磁石粉末の含有量を多くすること、すなわちボンド磁石を高密度化することができない。しかしながら、本発明では、後述するように、高い磁束密度が得られ、そのため、ボンド磁石を高密度化しなくても優れた磁気特性が得られるので、押出成形、射出成形により製造されるボンド磁石にもその利点を享受することができる。
【0133】
ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有率)は、特に限定されず、通常は、成形方法や、成形性と高磁気特性との両立を考慮して決定される。具体的には、75〜99.5wt%程度であるのが好ましく、85〜97.5wt%程度であるのがより好ましい。
【0134】
特に、ボンド磁石が圧縮成形により製造されたものの場合には、磁石粉末の含有量は、90〜99.5wt%程度であるのが好ましく、93〜98.5wt%程度であるのがより好ましい。
【0135】
また、ボンド磁石が押出成形または射出成形により製造されたものの場合には、磁石粉末の含有量は、75〜98wt%程度であるのが好ましく、85〜97wt%程度であるのがより好ましい。
【0136】
ボンド磁石の密度ρは、それに含まれる磁石粉末の比重、磁石粉末の含有量、空孔率等の要因により決定される。本発明のボンド磁石において、その密度ρは特に限定されないが、4.5〜6.6Mg/m3程度であるのが好ましく、5.5〜6.4Mg/m3程度であるのがより好ましい。
【0137】
本発明では、磁石粉末の残留磁束密度、保磁力が大きいので、ボンド磁石に成形した場合に、磁石粉末の含有量が多い場合はもちろんのこと、含有量が比較的少ない場合でも、優れた磁気特性(特に、高い最大磁気エネルギー積(BH)max)が得られる。
【0138】
本発明のボンド磁石の形状、寸法等は特に限定されず、例えば、形状に関しては、例えば、円柱状、角柱状、円筒状(リング状)、円弧状、平板状、湾曲板状等のあらゆる形状のものが可能であり、その大きさも、大型のものから超小型のものまであらゆる大きさのものが可能である。特に、小型化、超小型化された磁石に有利であることは、本明細書中で度々述べている通りである。
【0139】
本発明のボンド磁石は、保磁力(室温での固有保磁力)HcJが320〜1200kA/mであるのが好ましく、400〜800kA/mがより好ましい。保磁力が前記下限値未満では、逆磁場がかかったときの減磁が顕著になり、また、高温における耐熱性が劣る。また、保磁力が前記上限値を超えると、着磁性が低下する。従って、保磁力HcJを上記範囲とすることにより、ボンド磁石(特に、円筒状磁石)に多極着磁等をするような場合に、十分な着磁磁場が得られないときでも、良好な着磁が可能となり、十分な磁束密度が得られ、高性能なボンド磁石を提供することができる。
【0140】
本発明のボンド磁石は、最大磁気エネルギー積(BH)maxが40kJ/m3以上であるのが好ましく、50kJ/m3以上であるのがより好ましく、70〜120kJ/m3であるのがさらに好ましい。最大磁気エネルギー積(BH)maxが40kJ/m3未満であると、モータ用に用いた場合、その種類、構造によっては、十分なトルクが得られない。
【0141】
以上説明したように、本実施形態の冷却ロール5によれば、ディンプル矯正手段として溝54および凸条55が設けられているため、ロール面81に形成されるディンプル9を分割することができる。そのため、巨大ディンプルの発生を防止し、パドル7の各部位における冷却速度の差を小さくすることができる。その結果、急冷薄帯8においては、結晶粒径のバラツキが小さく、高い磁気特性が安定して得られる。
【0142】
したがって、前記急冷薄帯8から得られるボンド磁石は、優れた磁気特性を有している。また、ボンド磁石の製造に際し、高密度化を追求しなくても高い磁気特性を得ることができるため、成形性、寸法精度、機械的強度、耐食性、耐熱性等の向上を図ることができる。
【0143】
次に、冷却ロール5の第2実施形態について、説明する。
図13は、冷却ロールの第2実施形態を示す正面図、図14は、図13に示す冷却ロールの拡大断面図である。以下、第2実施形態の冷却ロールについて、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明は省略する。
【0144】
図13に示すように、ディンプル矯正手段である溝54(または凸条55)は、冷却ロール5の回転軸50を中心とする螺旋状に形成されている。溝54(または凸条55)がこのような形状であると、比較的容易に、周面53全体にわたり溝54(または凸条55)を形成することができる。例えば、冷却ロール5を一定速度で回転させておき、旋盤等の切削工具を回転軸50に対して平行に、一定速度で移動させながら、冷却ロール5の外周部を切削することによりこのような溝54を形成することができる。
【0145】
なお、螺旋状の溝54(または凸条55)は、1条(1本)であっても、2条(2本)以上であってもよい。
【0146】
溝54(または凸条55)の長手方向と、冷却ロール5の回転方向とのなす角θ(絶対値)は、30°以下であるのが好ましく、20°以下であるのがより好ましい。θが30°以下であると、冷却ロール5のあらゆる周速度において、周面53とパドル7との間に侵入したガスを効率よく排出することができる。そのため、ディンプルの分割がさらに起こり易くなり、ディンプルの1個あたりの面積、ディンプルの総面積は、さらに小さくなる。
【0147】
周面53上の各部位において、θの値は、一定であっても、一定でなくてもよい。また、溝54(または凸条55)を2条以上有する場合、それぞれの溝54(または凸条55)について、θは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0148】
溝54は、周面53の縁部56において、開口部57で開口している。これにより、周面53とパドル7との間から溝54に排出されたガスがこの開口部57から冷却ロール5の側方へ排出されるため、排出されたガスが再び周面53とパドル7との間に侵入するのを効果的に防止することができ、ディンプルを矯正する効果がさらに向上する。図示の構成では、溝54は、両縁部に開口しているが、一方の縁部にのみ開口していてもよい。
【0149】
次に、冷却ロール5の第3実施形態について、説明する。
図15は、冷却ロールの第3実施形態を示す正面図、図16は、図15に示す冷却ロールの拡大断面図である。以下、第3実施形態の冷却ロールについて、前記第1実施形態、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明は省略する。
【0150】
図15に示すように、周面53上には、螺旋の回転方向が互いに逆向きである少なくとも2本の溝54が形成されている。これらの溝54は、多点で交差している。
【0151】
このように、螺旋の回転方向が逆向きである溝54が形成されることにより、製造された急冷薄帯8が右巻きの溝から受ける横方向の力と左巻きの溝から受ける横方向の力とが相殺され、急冷薄帯8の図15中の横方向の移動が抑制され、進行方向が安定する。
【0152】
また、図15中、θ1、θ2で示すそれぞれの回転方向の溝54の長手方向と冷却ロール5の回転方向とのなす角(絶対値)は、前述したθと同様な範囲の値であるのが好ましい。
【0153】
次に、冷却ロール5の第4実施形態について、説明する。
図17は、冷却ロールの第4実施形態を示す正面図、図18は、図17に示す冷却ロールの拡大断面図である。以下、第4実施形態の冷却ロールについて、前記第1実施形態〜第3実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明は省略する。
【0154】
図17に示すように、複数の溝54が、冷却ロール5の周面の幅方向のほぼ中央から両縁部56の方向に、ハの字状に形成されている。
【0155】
このような溝54が形成された冷却ロール5を用いた場合、その回転方向との組み合わせにより、周面53とパドル7との間に侵入したガスをさらに高い効率で排出することができる。そのため、ディンプルの分割がさらに起こり易くなり、ディンプルの1個あたりの面積、ディンプルの総面積は、さらに小さくなる。
【0156】
また、このようなパターンの溝が形成された場合、冷却ロール5の回転に伴って生じる、図17中、左右の両溝54からの力がつりあうことにより、冷却ロール5の幅方向のほぼ中央に急冷薄帯8がよせられるため、急冷薄帯8の進行方向が安定する。
【0157】
なお、本発明では、ディンプル矯正手段の形状等の諸条件は、前述した第1実施形態〜第4実施形態に限定されるものではない。
【0158】
例えば、溝54は、図19に示すように間欠的に形成されたものであってもよい。また、溝54の断面形状は、特に限定されず、例えば、図20、図21に示すようなものであってもよい。
【0160】
このような冷却ロール5でも、前述した第1実施形態〜第4実施形態の冷却ロール5と同様の効果が得られる。
【0161】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【0162】
(実施例1)
図1〜図3に示す周面にディンプル矯正手段を有する冷却ロールを製造し、この冷却ロールを備えた図1に示す構成の急冷薄帯製造装置を用意した。
【0163】
冷却ロールは、以下のようにして製造した。
まず、銅(20℃における熱伝導率:395W・m-1・K-1、20℃における熱膨張率:16.5×10-6-1)製のロール基材(直径200mm、幅30mm)を用意し、その周面に切削加工を施し、ほぼ鏡面(表面粗さRa0.07μm)とした。
【0164】
その後、さらに、切削加工を施し、ロール基材の回転方向に対し、ほぼ平行な溝を形成した。
【0165】
このロール基材の外周面に、セラミックスであるZrC(20℃における熱伝導率:20.6W・m-1・K-1、20℃における熱膨張率:7.0×10-6-1)の表面層をイオンプレーティングにより形成し、図1〜図3に示すような冷却ロールを得た。
【0166】
このようにして得られた冷却ロール5を備えた急冷薄帯製造装置1を用いて、以下に述べるような方法で合金組成が(Nd0.75Pr0.2Dy0.059.0FebalCo8.25.6で表される急冷薄帯を製造した。
【0167】
まず、Nd、Pr、Dy、Fe、Co、Bの各原料を秤量して母合金インゴットを鋳造した。
【0168】
急冷薄帯製造装置1において、底部にノズル(円孔オリフィス)3を設けた石英管内に前記母合金インゴットを入れた。急冷薄帯製造装置1が収納されているチャンバー内を脱気した後、不活性ガス(ヘリウムガス)を導入し、所望の温度および圧力の雰囲気とした。
【0169】
その後、石英管内の母合金インゴットを高周波誘導加熱により溶解し、さらに、冷却ロール5の周速度を28m/秒とし、溶湯6の噴射圧(石英管の内圧と筒体2内における液面の高さに比例してかかる圧力との和と、雰囲気圧との差圧)を40kPa、雰囲気ガスの圧力を60kPaとしたうえで、溶湯6を冷却ロール5の回転軸50のほぼ真上から冷却ロール5の頂部の周面53に向けて噴射し、急冷薄帯8を連続的に作製した。
【0170】
(実施例2〜7)
溝および凸条の形状を図13、図14に示すようなものとした以外は実施例1と同様にして冷却ロールを製造した。このとき、溝の平均幅、凸条の平均幅、溝の平均深さ(凸条の平均高さ)、および並設された溝(凸条)の平均ピッチを種々変化させて、6種の冷却ロールを製造した。なお、いずれも、3本の切削工具を等間隔に設置した旋盤を用いて、併設された溝のピッチが周面上の各部位において、ほぼ一定となるように3条の溝を形成した。なお、溝の長手方向と冷却ロールの回転方向とのなす角θは、いずれの冷却ロールも5°であった。実施例1で用いた急冷薄帯製造装置の冷却ロールをこれらの冷却ロールに順次交換し、実施例1と同様にして急冷薄帯を製造した。
【0171】
(実施例8)
溝および凸条の形状を図15、図16に示すようなものとした以外は実施例2と同様にして冷却ロールを製造し、急冷薄帯製造装置の冷却ロールをこの冷却ロールに交換して、実施例1と同様にして急冷薄帯を製造した。なお、溝の長手方向と冷却ロールの回転方向とのなす角θ1、θ2は、いずれも15°であった。
【0172】
(実施例9)
溝および凸条の形状を図17、図18に示すようなものとした以外は実施例1と同様にして冷却ロールを製造し、急冷薄帯製造装置の冷却ロールをこの冷却ロールに交換して、実施例1と同様にして急冷薄帯を製造した。なお、溝の長手方向と冷却ロールの回転方向とのなす角θ1、θ2は、いずれも20°であった。
【0173】
(比較例)
ロール基材の外周を切削加工によりほぼ鏡面とした後、溝、凸条を設けずに、そのまま表面層を形成したものを製造した以外は、実施例1と同様にして冷却ロールを製造し、急冷薄帯製造装置の冷却ロールをこの冷却ロールに交換して、実施例1と同様にして急冷薄帯を製造した。
【0174】
前記実施例1〜9および比較例の各冷却ロールの表面層の厚さは、いずれも、7μmであった。なお、表面層の形成後、該表面層に対し、機械加工は施さなかった。各冷却ロールについて、溝の幅L1(平均値)、凸条の幅L2(平均値)、溝の深さ(凸条の高さ)L3(平均値)、並設された溝(凸条)のピッチL4(平均値)、冷却ロールの周面上における溝の占める投影面積の割合の測定値を表1に示す。
【0175】
【表1】
Figure 0003988644
【0176】
前記実施例1〜9および比較例の急冷薄帯について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、ロール面の表面形状の観察を行った。その結果、実施例1〜9の各急冷薄帯では、いずれも、冷却ロールの周面の表面形状(溝または凸条)が転写され、対応する凸条または溝が形成されており、これにより、ディンプルが分割されている様子が確認された。これに対し、比較例の急冷薄帯では、巨大ディンプルが数多く存在することが確認された。実施例3の急冷薄帯について、電子顕微鏡写真を図22に示す。
【0177】
前記実施例1〜9および比較例の急冷薄帯に対し、それぞれ、下記▲1▼および▲2▼の評価を行った。
【0178】
▲1▼急冷薄帯の磁気特性
それぞれの急冷薄帯について、長さ約5cmの急冷薄帯を取り出し、さらにそこから長さ約7mmのサンプルを5サンプル連続して作製し、それぞれのサンプルについて平均厚さt、ロール面における巨大ディンプル(2000μm2以上)の占める投影面積の割合、ロール面におけるディンプルの占める投影面積(総面積)の割合および磁気特性を測定した。
【0179】
平均厚さtは、マイクロメーターにより1サンプルにつき20箇所の測定点で測定し、これを平均した値とした。ロール面における巨大ディンプル(2000μm2以上)の占める投影面積の割合およびロール面におけるディンプルの占める投影面積(総面積)の割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の結果から求めた。磁気特性は、振動試料型磁力計(VSM)を用いて保磁力HcJ(kA/m)および最大磁気エネルギー積(BH)max(kJ/m3)を測定した。測定に際しては、急冷薄帯の長軸方向を印加磁界方向とした。なお、反磁界補正は行わなかった。
【0180】
▲2▼ボンド磁石の磁気特性
それぞれの急冷薄帯に対し、アルゴンガス雰囲気中で、675℃×300秒の熱処理を施した。
【0181】
これら熱処理を施した急冷薄帯を粉砕し、平均粒径75μmの磁石粉末を得た。
【0182】
このようにして得られた磁石粉末について、その相構成を分析するため、Cu−Kαを用い回折角(2θ)が20°〜60°の範囲にてX線回折を行った。回折パターンからハード磁性相であるR2(Fe・Co)14B型相と、ソフト磁性相であるα−(Fe,Co)型相の回折ピークが確認でき、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果から、いずれも、複合組織(ナノコンポジット組織)を形成していることが確認された。また、各磁石粉末について、各相の平均結晶粒径を測定した。
【0183】
次に、各磁石粉末とエポキシ樹脂とを混合し、ボンド磁石用組成物(コンパウンド)を作製した。このとき、磁石粉末とエポキシ樹脂との配合比率(重量比)は、各サンプルについてほぼ等しい値とした。すなわち、各サンプル中の磁石粉末の含有量(含有率)は、約97.5wt%であった。
【0184】
次いで、このコンパウンドを粉砕して粒状とし、この粒状物を秤量してプレス装置の金型内に充填し、温度120℃、圧力600MPaで圧縮成形(無磁場中)してから冷却し、離型した後、175℃で加熱硬化させて、直径10mm×高さ8mmの円柱状のボンド磁石を得た。
【0185】
これらのボンド磁石について、磁場強度3.2MA/mのパルス着磁を施した後、直流自記磁束計(東英工業(株)製、TRF−5BH)にて最大印加磁場2.0MA/mで磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJおよび最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定した。測定時の温度は、23℃(室温)であった。これらの結果を表2〜表4に示す。
【0186】
【表2】
Figure 0003988644
【0187】
【表3】
Figure 0003988644
【0188】
【表4】
Figure 0003988644
【0189】
表2および表3から明らかなように、実施例1〜9の急冷薄帯では、巨大ディンプルの占める面積の割合が0.1〜3.8%と小さく、ディンプルの占める面積(総面積)の割合も小さくなっている。また、磁気特性のバラツキが小さく、全体として磁気特性が高い。これは、以下のような理由によるものであると推定される。
【0190】
実施例1〜9の冷却ロールは、その周面上に、ディンプル矯正手段を有している。そのため、急冷薄帯のロール面への巨大ディンプルの発生は、防止または抑制され、ディンプルの1個あたりの面積が小さくなり、ディンプルの占める面積(総面積)の割合も小さくなる。このため、パドルの各部位における冷却速度の差は小さくなり、結果として、結晶粒径、磁気特性のバラツキの小さい急冷薄帯が得られるものと考えられる。
【0191】
これに対し、比較例の急冷薄帯では、巨大ディンプルの占める面積の割合が15.5〜25.5%と大きく、ディンプルの占める面積(総面積)の割合も本発明の急冷薄帯に比べ、大きくなっている。また、連続した急冷薄帯から切り出したサンプルであるにもかかわらず、磁気特性のバラツキが大きい。これは、以下のような理由によるものであると推定される。
【0192】
周面とパドルとの間に侵入したガスにより、急冷薄帯のロール面に巨大なディンプルが形成される。このため、周面に接触している部分における冷却速度は大きいのに対し、周面に接触していない部分(特に、巨大ディンプルの中央部付近)における冷却速度は低下し、結晶粒径の粗大化が起こる。その結果、得られる急冷薄帯の磁気特性のバラツキは大きくなると考えられる。
【0193】
また、表4から明らかなように、実施例1〜9のボンド磁石では、優れた磁気特性が得られているのに対し、比較例のボンド磁石は、低い磁気特性しか有していない。
【0194】
これは、実施例1〜9では、磁気特性が高く、かつ磁気特性のバラツキの小さい急冷薄帯から得られる磁石粉末を用いているのに対し、比較例では、磁気特性のバラツキの大きい急冷薄帯から得られる磁石粉末を用いているため、全体としての磁気特性が低下しているものであると考えられる。
【0195】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果が得られる。
【0196】
・冷却ロールの周面にディンプル矯正手段が設けられているため、製造される急冷薄帯における巨大ディンプルの発生が防止または抑制され、ディンプルの1個あたりの面積も小さくなる。また、ロール面におけるディンプルの総面積も小さくなる。そのため、パドルの各部位における冷却速度の差が小さくなり、製造される急冷薄帯においては、高い磁気特性が安定して得られる。
【0197】
・特に、表面層の形成材料、厚さ、ディンプル矯正手段としての、溝、凸条の寸法、ピッチ等の条件を適宜選択することにより、製造される急冷薄帯のロール面におけるディンプルの1個あたりの面積や総面積等をコントロールすることができ、優れた磁気特性の磁石材料を得ることができる。
【0198】
・磁石粉末がソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織で構成されることにより、磁化が高く、優れた磁気特性を発揮し、特に固有保磁力と角型性が改善される。
【0199】
・高い磁束密度が得られるので、等方性であっても、高磁気特性を持つボンド磁石が得られる。特に、従来の等方性ボンド磁石に比べ、より小さい体積のボンド磁石で同等以上の磁気性能を発揮することができるので、より小型で高性能のモータを得ることが可能となる。
【0200】
・また、高い磁束密度が得られることから、ボンド磁石の製造に際し、高密度化を追求しなくても十分に高い磁気特性を得ることができ、その結果、成形性の向上と共に、寸法精度、機械的強度、耐食性、耐熱性(熱的安定性)等のさらなる向上が図れ、信頼性の高いボンド磁石を容易に製造することが可能となる。
【0201】
・着磁性が良好なので、より低い着磁磁場で着磁することができ、特に多極着磁等を容易かつ確実に行うことができ、かつ高い磁束密度を得ることができる。
【0202】
・高密度化を要求されないことから、圧縮成形法に比べて高密度の成形がしにくい押出成形法や射出成形法によるボンド磁石の製造にも適し、このような成形方法で成形されたボンド磁石でも、前述したような効果が得られる。よって、ボンド磁石の成形方法の選択の幅、さらには、それによる形状選択の自由度が広がる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 冷却ロールの第1実施形態と、その冷却ロールを用いて薄帯状磁石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)の構成例とを模式的に示す斜視図である。
【図2】 図1に示す冷却ロールの正面図である。
【図3】 図1に示す冷却ロールの周面付近の断面形状を模式的に示す図である。
【図4】 従来の薄帯状磁石材料を単ロール法により製造する装置(急冷薄帯製造装置)における溶湯の冷却ロールへの衝突部位付近の状態を模式的に示す断面図である。
【図5】 図1に示す薄帯状磁石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)における溶湯の冷却ロールへの衝突部位付近の状態を模式的に示す断面図である。
【図6】 従来の薄帯状磁石材料を単ロール法により製造する装置(急冷薄帯製造装置)で製造された薄帯状磁石材料の表面形状を模式的に示す斜視図である。
【図7】 図1に示す薄帯状磁石材料を製造する装置(急冷薄帯製造装置)で製造された薄帯状磁石材料の表面形状を模式的に示す斜視図である。
【図8】 ディンプル矯正手段の形成方法を説明するための図である。
【図9】 ディンプル矯正手段の形成方法を説明するための図である。
【図10】 本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図11】 本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図12】 本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図13】 冷却ロールの第2実施形態を模式的に示す正面図である。
【図14】 図13に示す冷却ロールの周面付近の断面形状を模式的に示す図である。
【図15】 冷却ロールの第3実施形態を模式的に示す正面図である。
【図16】 図15に示す冷却ロールの周面付近の断面形状を模式的に示す図である。
【図17】 冷却ロールの第4実施形態を模式的に示す正面図である。
【図18】 図17に示す冷却ロールの周面付近の断面形状を模式的に示す図である。
【図19】 冷却ロールの他の実施形態を模式的に示す正面図である。
【図20】 冷却ロールの他の実施形態の周面付近の断面形状を模式的に示す図である。
【図21】 冷却ロールの他の実施形態の周面付近の断面形状を模式的に示す図である。
【図22】 本発明の薄帯状磁石材料の表面形状を示す電子顕微鏡写真である。
【図23】 従来の薄帯状磁石材料を単ロール法により製造する装置(急冷薄帯製造装置)における溶湯の冷却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【符号の説明】
1 急冷薄帯製造装置
2 筒体
3 ノズル
4 コイル
5、500 冷却ロール
50 回転軸
51 ロール基材
52 表面層
53、530 周面
54 溝
55 凸条
56 縁部
57 開口部
6、60 溶湯
7、70 パドル
710 凝固界面
8、80 急冷薄帯
81、810 ロール面
82 フリー面
83 凸条
84 溝
9 ディンプル
10 ソフト磁性相
11 ハード磁性相

Claims (14)

  1. 磁石材料の溶湯を冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化して得られた薄帯状磁石材料を粉砕して得られる磁石粉末であって、
    前記冷却ロールは、ロール基材と、該ロール基材の外周に設けられた表面層とを有し、
    前記表面層がセラミックスで構成されたものであり、かつ、
    前記表面層の周面上に、前記薄帯状磁石材料の冷却ロールとの接触面において発生するディンプルを分割するディンプル矯正手段として少なくとも1本の凸条または溝を有するものであり、
    磁石粉末は、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織で構成されるものであることを特徴とする磁石粉末
  2. 磁石材料の溶湯を冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化して得られた薄帯状磁石材料を粉砕して得られる磁石粉末であって、
    前記冷却ロールは、ロール基材と、該ロール基材の外周に設けられた表面層とを有し、
    前記表面層は、室温付近における熱膨張率が3.5〜18[×10-6-1]の材料で構成されたものであり、かつ、
    前記表面層の周面上に、前記薄帯状磁石材料の冷却ロールとの接触面において発生するディンプルを分割するディンプル矯正手段として少なくとも1本の凸条または溝を有するものであり、
    磁石粉末は、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織で構成されるものであることを特徴とする磁石粉末
  3. 前記凸条の平均幅は、0.5〜95μmである請求項1または2に記載の磁石粉末
  4. 前記溝の平均幅は、0.5〜90μmである請求項1ないし3のいずれかに記載の磁石粉末
  5. 前記凸条の平均高さまたは前記溝の平均深さは、0.5〜20μmである請求項1ないしのいずれかに記載の磁石粉末
  6. 前記凸条または前記溝が並設されており、その平均ピッチは、0.5〜100μmである請求項1ないしのいずれかに記載の磁石粉末
  7. 前記周面上における前記凸条または前記溝の占める投影面積の割合が10%以上である請求項1ないしのいずれかに記載の磁石粉末
  8. 磁石材料の溶湯を冷却ロールの周面に衝突させ、冷却固化して得られた薄帯状磁石材料を粉砕して得られる磁石粉末であって、
    前記薄帯状磁石材料において、前記冷却ロールとの接触面に溝または凸条が形成されており、前記冷却ロールとの接触面において発生したディンプルが、前記溝または前記凸条により前記ディンプルが分割されており、
    磁石粉末は、ソフト磁性相とハード磁性相とを有する複合組織で構成されるものであることを特徴とする磁石粉末。
  9. 磁石粉末は、その製造過程または製造後少なくとも1回熱処理が施されたものである請求項1ないし8のいずれかに記載の磁石粉末。
  10. 平均粒径が1〜300μmである請求項1ないし9のいずれかに記載の磁石粉末。
  11. 前記ハード磁性相および前記ソフト磁性相の平均結晶粒径は、いずれも1〜100nmである請求項1ないし10のいずれかに記載の磁石粉末。
  12. 請求項1ないし11のいずれかに記載の磁石粉末を結合樹脂で結合してなることを特徴とするボンド磁石。
  13. 室温での固有保磁力HcJが320〜1200kA/mである請求項12に記載のボンド磁石。
  14. 最大磁気エネルギー積(BH)maxが40kJ/m3以上である請求項12または13に記載のボンド磁石。
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