JP2003077748A - 冷却ロール、薄帯状磁石材料、磁石粉末およびボンド磁石 - Google Patents

冷却ロール、薄帯状磁石材料、磁石粉末およびボンド磁石

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JP2003077748A
JP2003077748A JP2001264337A JP2001264337A JP2003077748A JP 2003077748 A JP2003077748 A JP 2003077748A JP 2001264337 A JP2001264337 A JP 2001264337A JP 2001264337 A JP2001264337 A JP 2001264337A JP 2003077748 A JP2003077748 A JP 2003077748A
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magnet
roll
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聖 新井
Hiroshi Kato
洋 加藤
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    • H01F41/00Apparatus or processes specially adapted for manufacturing or assembling magnets, inductances or transformers; Apparatus or processes specially adapted for manufacturing materials characterised by their magnetic properties
    • H01F41/02Apparatus or processes specially adapted for manufacturing or assembling magnets, inductances or transformers; Apparatus or processes specially adapted for manufacturing materials characterised by their magnetic properties for manufacturing cores, coils, or magnets
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Abstract

(57)【要約】 【課題】磁気特性が優れ、信頼性に優れた磁石を提供す
ることができる冷却ロール、薄帯状磁石材料、磁石粉末
およびボンド磁石を提供すること。 【解決手段】急冷薄帯製造装置1は、筒体2と、加熱用
のコイル4と、冷却ロール5とを備えている。冷却ロー
ル5は、ロール基材51と、伝熱調整層52と、表面層
53とで構成されている。ロール基材51、伝熱調整層
52、表面層53の構成材料の熱伝導率を、それぞれ、
、C、C[W・m−1・K−1]としたとき、
>C>Cの関係を満足する。また、冷却ロール
5の周面54には、ガス抜き手段が設けられている。不
活性ガス中、筒体2の下端に設けられたノズル3から磁
石合金の溶湯6を射出し、周面54に衝突させ、冷却固
化することにより、急冷薄帯8は製造される。この場
合、周面54とパドル7との間にガスが侵入するが、ガ
ス抜き手段により、このガスは、周面54とパドル7と
の間から排出される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷却ロール、薄帯
状磁石材料、磁石粉末およびボンド磁石に関するもので
ある。
【0002】
【従来の技術】磁石材料として、希土類元素を含む合金
で構成される希土類磁石材料は、高い磁気特性を有する
ため、モータ等に用いられた場合に、高性能を発揮す
る。
【0003】このような磁石材料は、例えば急冷薄帯製
造装置を用いた急冷法により製造される。以下、この製
造方法を説明する。
【0004】図20は、従来の磁石材料を単ロール法に
より製造する装置(急冷薄帯製造装置)における溶湯の
冷却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図で
ある。
【0005】同図に示すように、所定の合金組成の磁石
材料(以下「合金」と言う)を溶融し、その溶湯60を
図示しないノズルから射出し、ノズルに対して図20中
矢印A方向に回転している冷却ロール500の周面54
0に衝突させ、この周面540と接触させることにより
合金溶湯を急冷、凝固し、薄帯状(リボン状)の磁石材
料、すなわち急冷薄帯80を連続的に形成する。なお、
図20中、溶湯60の凝固界面710を点線で示す。
【0006】ここで、希土類元素は、酸化され易く、酸
化されると磁気特性が低下するため、前記急冷薄帯80
の製造は、主として不活性ガス中で行われていた。
【0007】そのため、周面540と溶湯60のパドル
(湯溜り)70との間にガスが侵入し、急冷薄帯80の
ロール面(冷却ロール500の周面540と接触する
面)810にディンプル(凹部)9を生じることがあっ
た。この傾向は、冷却ロール500の周速度が大きくな
るほど顕著となり、生じるディンプルの面積も大きくな
る。
【0008】このディンプル9(特に、巨大ディンプ
ル)が生じると、ディンプル部分においては、ガスの介
在により冷却ロール500の周面540との接触不良が
生じ、冷却速度が低下して、急速な凝固が妨げられる。
そのため、ディンプル9が生じた部位では、合金の結晶
粒径が粗大化し、磁気特性が低下する。
【0009】このような低磁気特性の部分を含む急冷薄
帯を粉砕して得られる磁石粉末は、磁気特性のバラツキ
が大きくなる。したがって、このような磁石粉末を用い
て製造されたボンド磁石は、低い磁気特性しか得られ
ず、また、耐食性も低下する。
【0010】また、従来、急冷薄帯製造装置を構成する
冷却ロールとしては、銅または銅合金等で構成されたも
のが使用されてきた。また、耐久性向上のために、冷却
ロールの周面に、Crメッキ等の金属または合金の表面
層を設けたものも知られている。しかし、このような冷
却ロールは、いずれも、その周面が熱伝導性の高い金属
で構成されているため、得られる急冷薄帯は、冷却速度
の差から、そのロール面810とフリー面(ロール面8
10と反対側の面)とにおける組織差(結晶粒径等の
差)が大きくなり、そのため、これを粉砕して磁石粉末
としたときに、各磁石粉末ごとの磁気特性にバラツキが
生じる。したがって、このような磁石粉末からボンド磁
石を製造した場合に、満足な磁気特性が得られない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、磁気
特性が優れ、信頼性に優れた磁石を提供することができ
る冷却ロール、薄帯状磁石材料、磁石粉末およびボンド
磁石を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記
(1)〜(35)の本発明により達成される。
【0013】(1) 磁石合金の溶湯をその周面に衝突
させ、冷却固化して、薄帯状磁石材料を製造するための
冷却ロールであって、ロール基材と、該ロール基材の外
周面に設けられた伝熱調整層と、該伝熱調整層の外周の
全周に設けられた表面層とを有し、前記周面上に、前記
周面と前記溶湯のパドルとの間に侵入したガスを排出す
るガス抜き手段を有し、かつ、前記ロール基材の構成材
料の室温付近における熱伝導率をC[W・m−1・K
−1]、前記伝熱調整層の構成材料の室温付近における
熱伝導率をC[W・m−1・K−1]、前記表面層の
構成材料の室温付近における熱伝導率をC[W・m
−1・K ]としたとき、C>C>Cの関係を
満足することを特徴とする冷却ロール。
【0014】(2) 前記伝熱調整層の平均厚さは、
0.05〜20μmである上記(1)に記載の冷却ロー
ル。
【0015】(3) 前記伝熱調整層は、金属メッキ層
である上記(1)または(2)に記載の冷却ロール。
【0016】(4) 前記伝熱調整層は、無電解メッキ
により形成されたものである上記(1)ないし(3)の
いずれかに記載の冷却ロール。
【0017】(5) 前記伝熱調整層は、Niおよび/
またはCoを主とする材料で構成されたものである上記
(1)ないし(4)のいずれかに記載の冷却ロール。
【0018】(6) 前記伝熱調整層は、Pおよび/ま
たはBを含む材料で構成されたものである上記(5)に
記載の冷却ロール。
【0019】(7) 前記表面層は、前記伝熱調整層の
表面に対する清浄化処理を行った後に、形成されたもの
である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の冷却
ロール。
【0020】(8) 前記表面層の構成材料の室温付近
における熱伝導率は、50W・m-1・K-1以下である上
記(1)ないし(7)のいずれかに記載の冷却ロール。
【0021】(9) 前記表面層は、セラミックスで構
成される上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の冷
却ロール。
【0022】(10) 前記表面層の平均厚さは、0.
5〜50μmである上記(1)ないし(9)のいずれか
に記載の冷却ロール。
【0023】(11) 前記表面層は、その表面に機械
加工を行わないで形成されたものである上記(1)ない
し(10)のいずれかに記載の冷却ロール。
【0024】(12) 前記ロール基材の構成材料の室
温付近における熱伝導率は、110W・m-1・K-1以上
である上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の冷
却ロール。
【0025】(13) 前記周面の前記ガス抜き手段を
除く部分の表面粗さRaは、0.05〜5μmである上
記(1)ないし(12)のいずれかに記載の冷却ロー
ル。
【0026】(14) 前記ガス抜き手段は、少なくと
も1本の溝である上記(1)ないし(13)のいずれか
に記載の冷却ロール。
【0027】(15) 前記溝の平均幅は、0.5〜9
0μmである上記(14)に記載の冷却ロール。
【0028】(16) 前記溝の平均深さは、0.5〜
20μmである上記(14)または(15)に記載の冷
却ロール。
【0029】(17) 前記溝の平均幅をL1、平均深
さをL2としたとき、0.5≦L1/L2≦15の関係を
満足する上記(14)ないし(16)のいずれかに記載
の冷却ロール。
【0030】(18) 前記溝の長手方向と、冷却ロー
ルの回転方向とのなす角は、30°以下である上記(1
4)ないし(17)のいずれかに記載の冷却ロール。
【0031】(19) 前記溝は、前記冷却ロールの回
転軸を中心とする螺旋状に形成されたものである上記
(14)ないし(18)のいずれかに記載の冷却ロー
ル。
【0032】(20) 前記溝が並設されており、その
平均ピッチは、3〜100μmである上記(14)ない
し(19)のいずれかに記載の冷却ロール。
【0033】(21) 前記溝は、前記周面の縁部に開
口しているものである上記(14)ないし(20)のい
ずれかに記載の冷却ロール。
【0034】(22) 前記周面上における前記溝の占
める投影面積の割合が10〜99.5%である上記(1
4)ないし(21)のいずれかに記載の冷却ロール。
【0035】(23) 上記(1)ないし(22)のい
ずれかに記載の冷却ロールを用いて製造されたことを特
徴とする薄帯状磁石材料。
【0036】(24) 平均厚さが8〜50μmである
上記(23)に記載の薄帯状磁石材料。
【0037】(25) 薄帯状磁石材料は、製造後少な
くとも1回熱処理が施されたものである上記(23)ま
たは(24)に記載の薄帯状磁石材料。
【0038】(26) 薄帯状磁石材料は、ソフト磁性
相とハード磁性相とを有する複合組織で構成されるもの
である上記(23)ないし(25)のいずれかに記載の
薄帯状磁石材料。
【0039】(27) 前記ハード磁性相および前記ソ
フト磁性相の平均結晶粒径は、いずれも1〜100nm
である上記(26)に記載の薄帯状磁石材料。
【0040】(28) 上記(23)ないし(27)の
いずれかに記載の薄帯状磁石材料を粉砕して得られたこ
とを特徴とする磁石粉末。
【0041】(29) 磁石粉末は、その製造過程また
は製造後少なくとも1回熱処理が施されたものである上
記(28)に記載の磁石粉末。
【0042】(30) 平均粒径が1〜300μmであ
る上記(28)または(29)に記載の磁石粉末。
【0043】(31) 磁石粉末は、ソフト磁性相とハ
ード磁性相とを有する複合組織で構成されるものである
上記(28)ないし(30)のいずれかに記載の磁石粉
末。
【0044】(32) 前記ハード磁性相および前記ソ
フト磁性相の平均結晶粒径は、いずれも1〜100nm
である上記(31)に記載の磁石粉末。
【0045】(33) 上記(28)ないし(32)の
いずれかに記載の磁石粉末を結合樹脂で結合してなるこ
とを特徴とするボンド磁石。
【0046】(34) 室温での固有保磁力HcJが32
0〜1200kA/mである上記(33)に記載のボン
ド磁石。
【0047】(35) 最大磁気エネルギー積(BH)
maxが40kJ/m3以上である上記(33)または(3
4)に記載のボンド磁石。
【0048】
【発明の実施の形態】以下、本発明の冷却ロール、薄帯
状磁石材料、磁石粉末およびボンド磁石の実施の形態に
ついて、詳細に説明する。
【0049】[冷却ロールの構造]図1は、本発明の冷
却ロールの第1実施形態と、その冷却ロールを用い、単
ロール法により薄帯状磁石材料(急冷薄帯)を製造する
装置(急冷薄帯製造装置)の構成例とを示す斜視図、図
2は、図1に示す冷却ロールの正面図、図3は、図1に
示す冷却ロールの拡大断面図である。
【0050】図1に示すように、冷却ロール5は、ロー
ル基材51の外周面に、伝熱調整層52と、表面層53
とが、この順に積層された構成となっている。
【0051】後に詳述するように、ロール基材51は、
銅または銅系合金等の熱伝導率の高い材料で構成され、
表面層53は、熱伝導率の低い材料で構成されている。
すなわち、ロール基材51と表面層53とは、それぞれ
の構成材料の熱伝導率が大きく乖離している。
【0052】本発明では、ロール基材51と表面層53
との間に、ロール基材51の構成材料の熱伝導率より低
く、かつ表面層53の構成材料の熱伝導率より高い熱伝
導率を有する材料で構成された伝熱調整層52を有して
いる。
【0053】すなわち、本発明は、ロール基材51の構
成材料の室温付近における熱伝導率(以下、単に「熱伝
導率」とも言う)をC[W・m−1・K−1]、伝熱
調整層52の構成材料の熱伝導率をC[W・m−1
−1]、表面層53の構成材料の熱伝導率をC[W
・m−1・K−1]としたとき、C>C>Cの関
係を満足する点に特徴を有する。
【0054】冷却ロールがこのような関係を満足するこ
とにより、以下のような効果が得られる。
【0055】合金溶湯(急冷薄帯)は、冷却ロールと表
面層にて接触し、その熱がロール基材方向に抜熱・冷却
される。
【0056】ここで、表面層が比較的熱伝導率の低い材
料で構成されることにより、冷却ロールと急冷薄帯のロ
ール面との接触部分における実効的な熱伝達率を下げる
ことができる。これにより、急冷薄帯のロール面(冷却
ロールの周面と接触する側の面)付近と、フリー面(ロ
ール面と反対側の面)付近とでの冷却速度の差異を小さ
くすることができ、結果として、ロール面付近とフリー
面付近とでの組織差(例えば、結晶組織のバラツキ等)
を小さくすることが可能となる。
【0057】一方、ロール基材は、急冷薄帯からの熱を
効率的に抜熱するために、比較的高い熱伝導率を持つこ
とが好ましい。
【0058】このようなことから、冷却ロールは、低熱
伝導率の材料で構成された表面層と、高熱伝導率の材料
で構成されたロール基材とを有するものであるのが望ま
しい。
【0059】しかしながら、ロール基材の周面に、直
接、表面層を形成した場合、以下のような問題を生じ
る。
【0060】すなわち、表面層は、低熱伝導率の材料で
構成されているため、高温の合金溶湯を急冷する場合等
において、蓄熱し易いが、ロール基材との界面付近にお
いては、高熱伝導率を有するロール基材により、急激に
冷却されることになる。このため、表面層は、ロール基
材との界面付近と、それ以外の部分とで、大きな温度差
を生じることとなり、内部熱膨張あるいは熱衝撃による
表面層の破壊を生じ易くなる。
【0061】これに対し、ロール基材と表面層との間
に、後に詳述する伝熱調整層を設けた本発明の冷却ロー
ルでは、上述したような急激な温度勾配を解消すること
ができる。これにより、前述した表面層の効果と、ロー
ル基材の効果とを併有することができる。
【0062】また、ロール基材の周面に、直接、表面層
を形成した従来の冷却ロールでは、以下のような問題点
も有していた。
【0063】すなわち、所望の冷却速度を得るために比
較的厚い表面層を設けた場合、初期には適切な冷却速度
が得られていても回転数を重ねていく(操業時間を長く
していく)につれて表面層からロール基材への抜熱が表
面層の低熱伝導率のために妨げられて表面層の温度上昇
が顕著となり、冷却速度の低下が顕著となる。このため
操業を重ねるほど急冷薄帯の結晶粒径の粗大化が起こ
り、結果的に磁気特性の低下を招く。この様な事態を防
ぐために表面層のみを薄くしても冷却速度が大きくなり
過ぎて適切な結晶組織が得られなかったり、ロール基材
が高温にさらされることで基材が再結晶化するなど変質
してしまうという問題が生じる。
【0064】これに対して、本発明の冷却ロールは、ロ
ール基材と表面層との間に伝熱調整層を有しているた
め、繰り返し急冷薄帯を製造することによる(特に、連
続操業による)表面層の温度上昇を防ぐことができると
共に、冷却速度を適正な範囲に維持できる。このため、
均一微細な結晶組織の形成がなされ、結果として磁気特
性が向上する。
【0065】以下、冷却ロール5を構成する各部位につ
いて説明する。前述したように、ロール基材51は、伝
熱調整層52および表面層53の構成材料より高い熱伝
導率を有する材料で構成されている。
【0066】ロール基材51の構成材料の熱伝導率は、
例えば、110W・m-1・K-1以上であるのが好まし
く、150W・m-1・K-1以上であるのがより好まし
く、200W・m-1・K-1以上であるのがさらに好まし
い。このような熱伝導率を有する材料としては、例え
ば、銅または銅系合金、鉄または鉄系合金等が挙げられ
る。
【0067】また、伝熱調整層52は、ロール基材51
の構成材料の熱伝導率より小さく、かつ表面層53の構
成材料の熱伝導率より大きい材料で構成されたものであ
れば、いかなるものであってもよい。
【0068】ロール基材51の構成材料が前述した範囲
内の熱伝導率を有し、かつ表面層53の構成材料が後述
する範囲内の熱伝導率を有するものである場合、伝熱調
整層52の構成材料としては、例えば、Ni、Co、T
a、Pt、Pd、Sn、Feおよびそれらの合金等が挙
げられ、この中でも特に、Niおよび/またはCoを主
とするものが好ましい。これにより、伝熱調整層52の
伝熱調整効果がより顕著なものとなるとともに、ロール
基材51および表面層53との密着性も特に優れたもの
となる。
【0069】また、伝熱調整層52の構成材料は、Pお
よび/またはBを含むものであるのが好ましい。これに
より、伝熱調整層52の伝熱調整効果がさらに顕著なも
のとなるとともに、ロール基材51および表面層53と
の密着性も向上する。
【0070】また、伝熱調整層52は、図示のような単
層のみならず、例えば組成の異なる複数の層の積層体で
あってもよい。この場合、隣接する層同士は、密着性の
高いものが好ましく、その例としては、隣接する層同士
に同一の元素が含まれているものが挙げられる。
【0071】また、伝熱調整層52が単層で構成されて
いる場合でも、その組成は、厚さ方向に均一なものに限
らず、例えば、含有成分が厚さ方向に順次変化するもの
(傾斜材料)であってもよい。
【0072】伝熱調整層52が、上記のような積層体、
傾斜材料である場合、その熱伝導率は、伝熱調整層52
全体の平均値として求めることができる。
【0073】伝熱調整層52の平均厚さ(前記積層体の
場合はその合計厚さ)は、特に限定されないが、0.0
5〜20μmであるのが好ましく、1〜10μmである
のがより好ましい。
【0074】伝熱調整層52の平均厚さが下限値未満で
あると、構成材料の熱伝導率等によっては、前述した伝
熱調整効果が十分に得られない可能性がある。
【0075】一方、伝熱調整層52の平均厚さが上限値
を超えると、伝熱調整層を通しての表面層からロール基
材への抜熱が不十分となり、表面層の蓄熱、温度上昇に
よる冷却速度が低下する可能性がある。これにより、急
冷薄帯の結晶組織における結晶粒の粗大化を生じ、結果
として、十分な磁気特性が得られない可能性がある。
【0076】伝熱調整層52は、いかなる方法で形成さ
れたものであっても良いが、金属メッキにより形成され
たものであるのが好ましい。これにより、その厚さが比
較的薄く、かつ厚さのバラツキが小さい伝熱調整層52
を、容易に形成することができる。これにより、冷却ロ
ール5は、各部位での熱伝導度のバラツキが小さいもの
となり、安定した冷却速度で、磁石合金の溶湯を冷却す
ることが可能なものとなる。したがって、このような冷
却ロール5を用いて製造される急冷薄帯8(薄帯状磁石
材料)は、各部位での組織差が小さく、安定した磁気特
性を有するものとなり、結果として、全体としての磁気
特性に優れた磁石を提供することが可能となる。
【0077】金属メッキ法としては、例えば、電解メッ
キ、無電解メッキ、浸漬メッキ、さらにはPVD、CV
D等の気相メッキ等が挙げられるが、この中でも特に、
無電解メッキが好ましい。
【0078】伝熱調整層52の形成方法として無電解メ
ッキを用いることにより、形成される伝熱調整層52
は、ロール基材51との密着性が特に優れたものとなる
とともに、各部位での厚さのバラツキ、密度のバラツキ
が特に小さいものとなる。このため、冷却ロール5の各
部位での熱伝導度のバラツキを、さらに小さくすること
ができ、安定した冷却速度で、磁石合金の溶湯を冷却す
ることが可能となる。したがって、このような冷却ロー
ル5を用いて製造される急冷薄帯8(薄帯状磁石材料)
は、各部位での組織差が特に小さく、安定した磁気特性
を有するものとなり、結果として、特に優れた磁気特性
を有する磁石を提供することが可能となる。
【0079】また、伝熱調整層52の形成方法として無
電解メッキを用いることにより、伝熱調整層52を形成
時におけるロール基材51の温度上昇を効果的に防止、
抑制することもできる。このため、伝熱調整層52の形
成時等におけるロール基材51の構成材料の酸化等を効
果的に防止することができるとともに、伝熱調整層52
の形成後においても、ロール基材51の表面形状を劣化
させることなく、維持することができる。
【0080】このように、伝熱調整層52の形成方法と
して無電解メッキを用いた場合、厚さのバラツキ、密度
のバラツキが小さい伝熱調整層52を容易に形成するこ
とができ、かつ、ロール基材51の表面形状を劣化させ
ることなく、維持することができるため、後述するガス
抜き手段を、表面層53の表面に機械加工を施すことな
く、容易に形成することが可能となる。
【0081】また、伝熱調整層52の形成前に、ロール
基材51の外表面に対して、清浄化処理を施してもよ
い。これにより、ロール基材51と伝熱調整層52との
密着性が特に優れたものとなる。前記清浄化処理として
は、例えば、アルカリ洗浄、酸洗浄、有機溶剤洗浄等の
洗浄処理や、ボンバード処理等が挙げられる。
【0082】また、表面層53は、前述したように、ロ
ール基材51および伝熱調整層52の構成材料より低い
熱伝導率を有する材料で構成されている。
【0083】表面層53の構成材料の熱伝導率は、例え
ば、50W・m-1・K-1以下であるのが好ましく、3〜
45W・m-1・K-1であるのがより好ましく、5〜35
W・m-1・K-1であるのがさらに好ましい。このような
熱伝導率を有する材料としては、例えば、Zr、Sb、
Ti、Mn等、またはこれらを含む合金等の金属薄層や
金属酸化物層、セラミックス等が挙げられる。セラミッ
クスとしては、例えば、Al23、SiO2、TiO2
Ti23、ZrO2、Y23、チタン酸バリウム、チタ
ン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、Al
N、Si34、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、
TaN、NbN、CrN、Cr2N等の窒化物系セラミ
ックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al43、C
aC2、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC
等の炭化物系のセラミックス、あるいは、これらのうち
の2以上を任意に組合せた複合セラミックスが挙げられ
る。この中でも特に、窒化物系セラミックスを含むもの
であるのが好ましい。
【0084】また、従来、冷却ロールの周面を構成する
材料として用いられてきたもの(Cu、Crなど)に比
べ、このようなセラミックスは、高い硬度を有し、耐久
性(耐摩耗性)に優れている。このため、冷却ロール5
を繰り返し使用しても、周面54の形状が維持され、後
述するガス抜き手段の効果も劣化しにくい。
【0085】また、表面層53は、図示のような単層の
みならず、例えば組成の異なる複数の層の積層体であっ
てもよい。この場合、隣接する層同士は、密着性の高い
ものが好ましく、その例としては、隣接する層同士に同
一の元素が含まれているものが挙げられる。
【0086】また、表面層53が単層で構成されている
場合でも、その組成は、厚さ方向に均一なものに限ら
ず、例えば、含有成分が厚さ方向に順次変化するもの
(傾斜材料)であってもよい。
【0087】表面層53の平均厚さ(前記積層体の場合
はその合計厚さ)は、特に限定されないが、0.5〜5
0μmであるのが好ましく、1〜20μmであるのがよ
り好ましい。
【0088】表面層53の平均厚さが下限値未満である
と、次のような問題が生じる。すなわち、表面層53の
材質によっては、冷却能が大きすぎて、厚さがかなり大
きい急冷薄帯8でもロール面81付近では冷却速度が大
きく、非晶質になり易くなる。一方、フリー面82付近
では、急冷薄帯8の厚さが大きいほど冷却速度が小さく
なり、その結果、結晶粒径の粗大化が起こり易くなる。
すなわち、フリー面82付近では粗大粒、ロール面81
付近では非晶質といった急冷薄帯となり易くなり、その
後に熱処理を施したとしても、満足な磁気特性が得られ
ない場合がある。また、フリー面82付近での結晶粒径
を小さくするために、例えば、冷却ロール5の周速度を
大きくして、急冷薄帯8の厚さを小さくしたとしても、
ロール面81付近での非晶質がよりランダムなものとな
り、急冷薄帯8の作成後に、熱処理を施したとしても、
十分な磁気特性が得られない場合がある。
【0089】また、表面層53の平均厚さが上限値を超
えると、冷却速度が遅く、結晶粒径の粗大化が起こり、
結果として磁気特性が低下する場合がある。
【0090】表面層53の形成方法は、特に限定されな
いが、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVDなど
の化学蒸着法(CVD)または真空蒸着、スパッタリン
グ、イオンプレーティングなどの物理蒸着法(PVD)
が好ましい。これらの方法を用いた場合、比較的容易
に、表面層の厚さを均一にすることができるため、表面
層53の形成後、その表面に機械加工を行わなくてよ
い。なお、表面層53は、その他、電解メッキ、浸漬メ
ッキ、無電解メッキ、溶射等の方法で形成されてもよ
い。
【0091】また、表面層53の形成前に、伝熱調整層
52の外表面に対して、清浄化処理を施してもよい。こ
れにより、伝熱調整層52と表面層53との密着性が特
に優れたものとなる。前記清浄化処理としては、例え
ば、水洗、アルカリ洗浄、酸洗浄、有機溶剤洗浄等の洗
浄処理や、ボンバード処理等が挙げられる。
【0092】また、冷却ロール5の周面54には、周面
54と溶湯6のパドル(湯溜り)7との間に侵入したガ
スを排出するガス抜き手段が設けられている。
【0093】ガス抜き手段により、周面54とパドル7
との間からガスが排出されると、周面54とパドル7と
の密着性が向上する(巨大ディンプルの発生が防止され
る)。これにより、パドル7の各部位における冷却速度
の差は小さくなる。このため、得られる急冷薄帯8にお
ける結晶粒径のバラツキが小さくなり、結果として、磁
気特性のバラツキが小さい急冷薄帯8が得られる。
【0094】このようなガス抜き手段が設けられること
による効果は、前述した表面層53の効果と相乗的に作
用する。その結果、得られる急冷薄帯8は、磁気特性に
優れ、部位による磁気特性のバラツキが特に小さいもの
となる。したがって、この急冷薄帯8を用いることによ
り、特に優れた磁気特性の磁石を得ることができる。
【0095】図示の構成では、ガス抜き手段として、溝
55が形成されている。溝55は、冷却ロールの回転方
向に対し、ほぼ平行に形成されている。ガス抜き手段が
このような溝であると、周面54とパドル7との間から
溝55に送り込まれたガスが溝55の長手方向に沿って
移動するため、周面54とパドル7との間に侵入したガ
スの排出効率は、特に高く、周面54に対するパドル7
の密着性が向上する。
【0096】図示の構成では、溝55は複数本形成され
ているが、少なくとも1本形成されていればよい。
【0097】溝55の幅(周面54へ開口している部分
での幅)L1の平均値は、0.5〜90μmであるのが
好ましく、1〜50μmであるのがより好ましく、3〜
25μmであるのがさらに好ましい。溝55の幅L1
平均値が下限値未満であると、周面54とパドル7との
間に侵入したガスを十分に排出できない場合がある。一
方、溝55の幅L1の平均値が上限値を超えると、溶湯
6が溝55に入り込み、溝55がガス抜き手段として機
能しない場合がある。
【0098】溝55の深さ(最大深さ)L2の平均値
は、0.5〜20μmであるのが好ましく、1〜10μ
mであるのがより好ましい。溝55の深さL2の平均値
が下限値未満であると、周面54とパドル7との間に侵
入したガスを十分に排出できない場合がある。一方、溝
55の深さL2の平均値が上限値を超えると、溝部分を
流れるガス流の流速が増大するとともに、渦を伴う乱流
となり易くなり、急冷薄帯8の表面に巨大ディンプルが
発生し易くなる。
【0099】溝55の幅L1および溝55の深さL2は、
下記式(I)を満足するのが好ましい。
【0100】0.5≦L1/L2≦15・・・(I) また、式(I)に代わり、式(II)を満足するのがより
好ましく、式(III)を満足するのがさらに好ましい。
【0101】0.8≦L1/L2≦10・・・(II) 1≦L1/L2≦8・・・(III) L1/L2の値が前記下限値未満であると、ガス抜きのた
めの十分な開口幅を得るのが困難となり、周面54とパ
ドル7との間に侵入したガスを十分に排出できない場合
がある。また、溝55の深さL2の値が相対的に大きく
なるため、溝部分を流れるガス流の流速が増大するとと
もに、渦を伴う乱流となり易くなり、急冷薄帯8の表面
に巨大ディンプルが発生し易くなる。
【0102】一方、L1/L2の値が前記上限値を超える
と、溶湯6が溝55に入り込み、溝55がガス抜き手段
として十分に機能しない場合がある。また、溝55の深
さL 2の値が相対的に小さくなるため、周面54とパド
ル7との間に侵入したガスを十分に排出できない場合が
ある。
【0103】並設されている溝55のピッチL3の平均
値は、特に限定されないが、3〜100μmであるのが
好ましく、3〜50μmであるのがより好ましい。溝5
5の平均ピッチがこのような範囲の値であると、溝55
がガス抜き手段として十分に機能し、かつパドル7との
接触部分−非接触部分の間隔が十分小さくなる。その結
果、パドル7において、周面54と接触している部分と
接触していない部分との冷却速度の差は、十分小さくな
り、得られる急冷薄帯8の結晶粒径、磁気特性のバラツ
キは小さくなる。特に、表面層53が前述したようなセ
ラミックスで構成されている場合、表面層53上にこの
ような十分に細かいピッチの溝55が形成されていて
も、表面層53の摩耗や欠けによる表面形状の劣化が起
こりにくい。したがって、冷却ロール5を繰り返し使用
しても、ガス抜き手段としての効果が維持される。
【0104】周面54上における溝55の占める投影面
積(周面に投影したときの面積)の割合は、10〜9
9.5%であるのが好ましく、30〜95%であるのが
より好ましい。周面54上における溝55の占める投影
面積の割合が下限値未満であると、急冷薄帯8のロール
面81付近では、冷却速度が大きくなり非晶質化しやす
くなるのに対し、フリー面82付近ではロール面81付
近に比べて冷却速度が遅いため結晶粒径の粗大化を招
き、結果として磁気特性が低下する場合がある。一方、
周面54上における溝55の占める投影面積の割合が上
限値を超えると、冷却速度が小さくなり、結晶粒径の粗
大化を招き、結果として磁気特性が低下する場合があ
る。
【0105】周面54の溝55を除く部分の表面粗さR
aは、特に限定されないが、0.05〜5μmであるの
が好ましく、0.07〜2μmであるのがより好まし
い。表面粗さRaが下限値未満であると、冷却ロール5
とパドル7との密着性が低下し、巨大ディンプルの発生
を十分に抑制できない可能性がある。一方、表面粗さR
aが上限値を超えると、急冷薄帯8の厚さのバラツキが
顕著となり、結晶粒径のバラツキ、磁気特性のバラツキ
が大きくなる可能性がある。
【0106】なお、図3(後述する図10、図12、図
14、図16、図17も同様)は、冷却ロールの周面付
近の断面形状を説明するための図であり、ロール基材と
伝熱調整層との境界、伝熱調整層と表面層との境界は、
省略して示した。
【0107】次に、溝55の形成方法について説明す
る。図4、図5は、ガス抜き手段の形成方法を説明する
ための図である。
【0108】溝55の形成方法は、特に限定されない
が、例えば、切削、転写(圧転)、研削、ブラスト処理
等の各種機械加工、レーザー加工、放電加工、化学エッ
チング等が挙げられる。その中でも、溝の幅、深さ、並
設された溝のピッチ等の精度を高くすることが比較的容
易である点で、機械加工、特に、切削であるのが好まし
い。
【0109】溝55は、直接、表面層53に形成された
ものであっても、そうでなくてもよい。すなわち、図4
に示すように、ロール基材51の外周面に、伝熱調整層
52および表面層53を設けた後、表面層53に前述し
た方法により溝55を形成してもよいが、図5に示すよ
うに、ロール基材51の外周面上に、前述した方法によ
り溝を形成した後、伝熱調整層52および表面層53を
形成してもよい。この場合、表面層53の表面に機械加
工を施すことなく、周面54上にガス抜き手段である溝
55が形成される。また、表面層53の表面に機械加工
等が施されないため、その後、研磨等が施されなくても
周面54の表面粗さRaを比較的小さくすることができ
る。
【0110】[磁石材料の合金組成]本発明における薄
帯状磁石材料や磁石粉末としては、優れた磁気特性を有
するものが好ましく、このようなものとしては、R(た
だし、Rは、Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1
種)を含む合金、特にR(ただし、Rは、Yを含む希土
類元素のうちの少なくとも1種)とTM(ただし、TM
は、遷移金属のうちの少なくとも1種)とB(ボロン)
とを含む合金が挙げられ、次の[1]〜[5]の組成の
ものが好ましい。
【0111】[1] Smを主とする希土類元素と、C
oを主とする遷移金属とを基本成分とするもの(以下、
Sm−Co系合金と言う)。
【0112】[2] R(ただし、Rは、Yを含む希土
類元素のうちの少なくとも1種)と、Feを主とする遷
移金属(TM)と、Bとを基本成分とするもの(以下、
R−TM−B系合金と言う)。
【0113】[3] Smを主とする希土類元素と、F
eを主とする遷移金属と、Nを主とする格子間元素とを
基本成分とするもの(以下、Sm−TM−N系合金と言
う)。
【0114】[4] R(ただし、Rは、Yを含む希土
類元素のうち少なくとも1種)とFe等の遷移金属とを
基本成分とし、ソフト磁性相とハード磁性相とが相隣接
して(粒界相を介して隣接する場合も含む)存在する複
合組織(特に、ナノコンポジット組織と呼ばれるものが
ある)を有するもの。
【0115】[5] 前記[1]〜[4]の組成のもの
のうち、少なくとも2種を混合したもの。この場合、混
合する各磁石粉末の利点を併有することができ、より優
れた磁気特性を容易に得ることができる。
【0116】Sm−Co系合金の代表的なものとして
は、SmCo5、Sm2TM17(ただしTMは、遷移金
属)が挙げられる。
【0117】R−TM−B系合金の代表的なものとして
は、Nd−Fe−B系合金、Pr−Fe−B系合金、N
d−Pr−Fe−B系合金、Nd−Dy−Fe−B系合
金、Ce−Nd−Fe−B系合金、Ce−Pr−Nd−
Fe−B系合金、これらにおけるFeの一部をCo、N
i等の他の遷移金属で置換したもの等が挙げられる。
【0118】Sm−TM−N系合金の代表的なものとし
ては、Sm2Fe17合金を窒化して作製したSm2Fe17
3、TbCu7型相を主相とするSm−Zr−Fe−C
o−N系合金等が挙げられる。ただし、これらSm−T
M−N系合金の場合、Nは、急冷薄帯を作製した後、得
られた急冷薄帯に適切な熱処理を施し、窒化することに
より格子間原子として導入されるのが一般的である。
【0119】前記希土類元素としては、Y、La、C
e、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、D
y、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、ミッシュメタルが
挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができ
る。また、前記遷移金属としては、Fe、Co、Ni等
が挙げられ、これらを1種または2種以上含むことがで
きる。
【0120】また、保磁力、最大磁気エネルギー積等の
磁気特性を向上させるため、あるいは、耐熱性、耐食性
を向上させるために、磁石材料中には、必要に応じ、A
l、Cu、Ga、Si、Ti、V、Ta、Zr、Nb、
Mo、Hf、Ag、Zn、P、Ge、Cr、W、C等を
含有することもできる。
【0121】前記複合組織(ナノコンポジット組織)
は、ソフト磁性相10とハード磁性相11とが、例え
ば、図6、図7または図8に示すようなパターン(モデ
ル)で存在しており、各相の厚さや粒径がナノメーター
レベルで存在している。そして、ソフト磁性相10とハ
ード磁性相11とが相隣接し(粒界相を介して隣接する
場合も含む)、磁気的な交換相互作用を生じる。
【0122】ソフト磁性相の磁化は、外部磁界の作用に
より容易にその向きを変えるので、ハード磁性相に混在
すると、系全体の磁化曲線はB−H図(J−H図)の第
二象現で段のある「へび型曲線」となる。しかし、ソフ
ト磁性相のサイズが数10nm以下と十分小さい場合に
は、ソフト磁性体の磁化が周囲のハード磁性体の磁化と
の結合によって十分強く拘束され、系全体がハード磁性
体として振舞うようになる。
【0123】このような複合組織(ナノコンポジット組
織)を持つ磁石は、主に、以下に挙げる特徴1)〜5)
を有している。
【0124】1)B−H図(J−H図)の第二象現で、
磁化が可逆的にスプリングバックする(この意味で「ス
プリング磁石」とも言う)。 2)着磁性が良く、比較的低い磁場で着磁できる。 3)磁気特性の温度依存性がハード磁性相単独の場合に
比べて小さい。 4)磁気特性の経時変化が小さい。 5)微粉砕しても磁気特性が劣化しない。
【0125】このように、複合組織で構成される磁石
は、優れた磁気特性を有する。したがって、磁石粉末
は、このような複合組織を有するものであるのが特に好
ましい。
【0126】なお、図6〜図8に示すパターンは、一例
であって、これらに限られるものではない。
【0127】[薄帯状磁石材料の製造]次に、前述した
冷却ロール5を用いた薄帯状磁石材料の製造について説
明する。
【0128】薄帯状磁石材料は、磁石合金の溶湯を冷却
ロールの周面に衝突させ、冷却固化することにより製造
される。以下、その一例について説明する。
【0129】図1に示すように、急冷薄帯製造装置1
は、磁石材料を収納し得る筒体2と、該筒体2に対し図
中矢印A方向に回転する冷却ロール5とを備えている。
筒体2の下端には、磁石材料(合金)の溶湯6を射出す
るノズル(オリフィス)3が形成されている。
【0130】筒体2のノズル3近傍の外周には、筒体2
内の磁石材料を加熱(誘導加熱)するための加熱用のコ
イル4が配置されている。
【0131】このような急冷薄帯製造装置1は、チャン
バー(図示せず)内に設置され、該チャンバー内に不活
性ガスやその他の雰囲気ガスが充填された状態で作動す
る。特に、急冷薄帯8の酸化を防止するために、雰囲気
ガスは、不活性ガスであるのが好ましい。不活性ガスと
しては、例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス
等が挙げられる。
【0132】雰囲気ガスの圧力は、特に限定されない
が、1〜760Torrであるのが好ましい。
【0133】筒体2内の溶湯6の液面には、チャンバー
の内圧より高い所定の圧力がかけられている。溶湯6
は、この筒体2内の溶湯6の液面に作用する圧力と筒体
2内における液面の高さに比例してかかる圧力の和と、
チャンバー内の雰囲気ガスの圧力との差圧により、ノズ
ル3から射出する。
【0134】溶湯噴射圧(筒体2内の溶湯6の液面に作
用する圧力と筒体2内における液面の高さに比例してか
かる圧力の和と、チャンバー内の雰囲気ガスの圧力との
差圧)は、特に限定されないが、10〜100kPaで
あるのが好ましい。
【0135】急冷薄帯製造装置1では、筒体2内に磁石
材料を入れ、コイル4により加熱して溶融し、その溶湯
6をノズル3から射出すると、図1に示すように、溶湯
6は、冷却ロール5の周面54に衝突し、パドル(湯溜
り)7を形成した後、回転する冷却ロール5の周面54
に引きずられつつ急速に冷却されて凝固し、急冷薄帯8
が連続的または断続的に形成される。このとき、パドル
7と周面54との間に侵入したガスは、溝55(ガス抜
き手段)を介して外部に排出される。このようにして形
成された急冷薄帯8は、やがて、そのロール面81が周
面54から離れ、図1中の矢印B方向に進行する。
【0136】このように、周面54上にガス抜き手段が
設けられることにより、周面54とパドル7との密着性
が向上し(巨大ディンプルの発生が防止され)、パドル
7の不均一な冷却が防止される。また、冷却ロール5
は、比較的高い熱伝導率を有する材料(熱伝導率:C
[W・m−1・K−1])で構成されたロール基材51
と、比較的低い熱伝導率を有する材料(熱伝導率:C
[W・m−1・K−1])で構成された表面層53とを
有し、かつ、ロール基材51と表面層53との間には、
>C>Cなる関係を満足するような熱伝導率C
[W・m−1・K−1]の材料で構成された伝熱調整
層52が介在しているため、ロール面81付近とフリー
面82付近とでの冷却速度の差も小さくなる。その結
果、各部位における結晶粒径のバラツキが小さく、高い
磁気特性を有する急冷薄帯8が得られる。
【0137】また、急冷薄帯8を実際に製造するに際し
ては、必ずしもノズル3を冷却ロール5の回転軸50の
真上に設置しなくてもよい。
【0138】冷却ロール5の周速度は、合金溶湯の組
成、表面層53の構成材料(組成)、周面54の表面性
状(特に、周面54の溶湯6に対する濡れ性)等により
その好適な範囲が異なるが、磁気特性向上のために、通
常、5〜60m/秒であるのが好ましく、10〜40m
/秒であるのがより好ましい。冷却ロール5の周速度が
下限値未満であると、溶湯6の冷却速度が低下し、結晶
粒径が増大する傾向を示し、磁気特性が低下する場合が
ある。一方、冷却ロール5の周速度が上限値を超える
と、逆に冷却速度が大きくなり、非晶質組織が占める割
合が大きくなり、その後に、後述する熱処理を施したと
しても、磁気特性が十分に向上しない場合がある。
【0139】以上のようにして得られた急冷薄帯8は、
その幅wおよび厚さができるだけ均一であるものが好ま
しい。この場合、急冷薄帯8の平均厚さtは、8〜50
μm程度であるのが好ましく、10〜40μm程度であ
るのがより好ましい。平均厚さtが下限値未満である
と、非晶質組織が占める割合が大きくなり、その後に、
後述する熱処理を施したとしても磁気特性が十分に向上
しない場合がある。単位時間当たりの生産性も低下す
る。一方、平均厚さtが上限値を超えると、フリー面8
2側の結晶粒径が粗大化する傾向を示すため、磁気特性
が低下する場合がある。
【0140】なお、得られた急冷薄帯8に対しては、例
えば、非晶質組織(アモルファス組織)の再結晶化の促
進、組織の均質化等を目的として、熱処理を施すことも
できる。この熱処理の条件としては、例えば、400〜
900℃で、0.5〜300分程度とすることができ
る。
【0141】また、この熱処理は、酸化を防止するため
に、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×1
-6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウ
ムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で
行うのが好ましい。
【0142】以上のようにして得られた急冷薄帯(薄帯
状磁石材料)8は、微細結晶組織、もしくは微細結晶が
非晶質組織中に含まれるような組織となり、優れた磁気
特性が得られる。
【0143】以上のような急冷薄帯8は、平均結晶粒径
が500nm以下であるのが好ましく、200nm以下
であるのがより好ましく、10〜120nm程度がさら
に好ましい。平均結晶粒径が500nmを超えると、磁
気特性、特に保磁力および角型性の向上が十分に図れな
い場合がある。
【0144】特に、磁石材料が前記[4]のような複合
組織を有するものである場合、ソフト磁性相10、ハー
ド磁性相11の平均結晶粒径は、いずれも1〜100n
mであるのが好ましく、5〜50nmであるのがより好
ましい。平均結晶粒径がこのような範囲の大きさである
と、ソフト磁性相10とハード磁性相11との間で、よ
り効果的に磁気的な交換相互作用を生じることとなり、
顕著な磁気特性の向上が認められる。
【0145】また、ロール面81付近におけるハード磁
性相11の平均結晶粒径をD1h、ロール面81付近に
おけるソフト磁性相10の平均結晶粒径をD1s、フリ
ー面82付近におけるハード磁性相11の平均結晶粒径
をD2h、フリー面82付近におけるソフト磁性相10
の平均結晶粒径をD2sとしたとき、下記式(IV)、
(V)のうちの少なくとも一方を満足するのが好まし
く、双方を満足するのがより好ましい。
【0146】 0.5≦D1h/D2h≦1.5 ・・・(IV) 0.5≦D1s/D2s≦1.5 ・・・(V) D1h/D2hまたはD1s/D2sがこのような範囲
の値であると、ハード磁性相11、ソフト磁性相10の
それぞれについて、ロール面81付近とフリー面82付
近とでの結晶粒径の差が少なく、その結果、磁気特性が
均一となり、全体として優れた磁気特性が得られる。よ
り詳しく述べると、急冷薄帯8から磁石粉末を製造し、
さらには該磁石粉末を用いてボンド磁石を製造したと
き、高い磁気エネルギー積(BH)maxが得られると共
に、ヒステリシスループにおける角型性が良好となり、
その結果、不可逆減磁率の絶対値が小さくなるので、磁
石の信頼性も向上する。
【0147】なお、以上では、急冷法として、単ロール
法を例に説明したが、双ロール法を採用してもよい。こ
のような急冷法は、金属組織(結晶粒)を微細化するこ
とができるので、ボンド磁石の磁石特性、特に保磁力等
を向上させるのに有効である。
【0148】[磁石粉末の製造]以上のようにして製造
された急冷薄帯8を粉砕することにより、本発明の磁石
粉末が得られる。
【0149】粉砕の方法は、特に限定されず、例えばボ
ールミル、振動ミル、ジェットミル、ピンミル等の各種
粉砕装置、破砕装置を用いて行うことができる。この場
合、粉砕は、酸化を防止するために、真空または減圧状
態下(例えば1×10-1〜1×10-6Torr)、あるいは
窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス
中のような、非酸化性雰囲気中で行うこともできる。
【0150】磁石粉末の平均粒径は、特に限定されない
が、後述するボンド磁石(希土類ボンド磁石)を製造す
るためのものの場合、磁石粉末の酸化防止と、粉砕によ
る磁気特性劣化の防止とを考慮して、1〜300μmで
あるのが好ましく、5〜150μmであるのがより好ま
しい。
【0151】また、ボンド磁石の成形時のより良好な成
形性を得るために、磁石粉末の粒径分布は、ある程度分
散されている(バラツキがある)のが好ましい。これに
より、得られたボンド磁石の空孔率を低減することがで
き、その結果、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を同じ
としたときに、ボンド磁石の密度や機械的強度をより高
めることができ、磁気特性をさらに向上することができ
る。
【0152】なお、得られた磁石粉末に対しては、例え
ば、粉砕により導入されたひずみの影響の除去、結晶粒
径の制御を目的として、熱処理を施すこともできる。こ
の熱処理の条件としては、例えば、350〜850℃
で、0.5〜300分程度とすることができる。
【0153】また、この熱処理は、酸化を防止するため
に、真空または減圧状態下(例えば1×10-1〜1×1
-6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウ
ムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で
行うのが好ましい。
【0154】このような磁石粉末を用いてボンド磁石を
製造した場合、該磁石粉末は、結合樹脂との結合性(結
合樹脂の濡れ性)が良く、そのため、このボンド磁石
は、機械的強度が高く、熱安定性(耐熱性)、耐食性が
優れたものとなる。従って、当該磁石粉末は、ボンド磁
石の製造に適しており、製造されたボンド磁石は、信頼
性の高いものとなる。
【0155】以上のような磁石粉末は、平均結晶粒径が
500nm以下であるのが好ましく、200nm以下で
あるのがより好ましく、10〜120nm程度がさらに
好ましい。平均結晶粒径が500nmを超えると、磁気
特性、特に保磁力および角型性の向上が十分に図れない
場合がある。
【0156】特に、磁石材料が前記[4]のような複合
組織を有するものである場合、平均結晶粒径は、1〜1
00nmであるのが好ましく、5〜50nmであるのが
より好ましい。平均結晶粒径がこのような範囲の大きさ
であると、ソフト磁性相10とハード磁性相11との間
で、より効果的に磁気的な交換相互作用を生じることと
なり、顕著な磁気特性の向上が認められる。
【0157】[ボンド磁石およびその製造]次に、本発
明のボンド磁石について説明する。
【0158】本発明のボンド磁石は、好ましくは、前述
の磁石粉末を結合樹脂で結合してなるものである。
【0159】結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑
性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
【0160】熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミ
ド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナ
イロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロ
ン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可
塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマ
ー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファ
イド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸
ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィ
ン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポ
リエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレー
ト等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエー
テルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等、
またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマ
ーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種
以上を混合して用いることができる。
【0161】これらのうちでも、成形性が特に優れてお
り、機械的強度が高いことから、ポリアミド、耐熱性向
上の点から、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイ
ドを主とするものが好ましい。また、これらの熱可塑性
樹脂は、磁石粉末との混練性にも優れている。
【0162】このような熱可塑性樹脂は、その種類、共
重合化等により、例えば成形性を重視したものや、耐熱
性、機械的強度を重視したものというように、広範囲の
選択が可能となるという利点がある。
【0163】一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、ビ
スフェノール型、ノボラック型、ナフタレン系等の各種
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン
樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリ
イミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙
げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して
用いることができる。
【0164】これらのうちでも、成形性が特に優れてお
り、機械的強度が高く、耐熱性に優れるという点から、
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリ
コーン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。
また、これらの熱硬化性樹脂は、磁石粉末との混練性、
混練の均一性にも優れている。
【0165】なお、使用される熱硬化性樹脂(未硬化)
は、室温で液状のものでも、固形(粉末状)のものでも
よい。
【0166】このような本発明のボンド磁石は、例えば
次のようにして製造される。磁石粉末と、結合樹脂と、
必要に応じ添加剤(酸化防止剤、潤滑剤等)とを混合、
混練(例えば、温間混練)してボンド磁石用組成物(コ
ンパウンド)を製造し、このボンド磁石用組成物を用い
て、圧縮成形(プレス成形)、押出成形、射出成形等の
成形方法により、無磁場中で所望の磁石形状に成形す
る。結合樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、成形後、加熱
等によりそれを硬化する。
【0167】ここで、前記3種の成形方法のうち、押出
成形および射出成形(特に、射出成形)は、形状選択の
自由度が広く、生産性が高い等の利点があるが、これら
の成形方法では、良好な成形性を得るために、成形機内
におけるコンパウンドの十分な流動性を確保しなければ
ならないため、圧縮成形に比べて、磁石粉末の含有量を
多くすること、すなわちボンド磁石を高密度化すること
ができない。しかしながら、本発明では、後述するよう
に、高い磁束密度が得られ、そのため、ボンド磁石を高
密度化しなくても優れた磁気特性が得られるので、押出
成形、射出成形により製造されるボンド磁石にもその利
点を享受することができる。
【0168】ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有
率)は、特に限定されず、通常は、成形方法や、成形性
と高磁気特性との両立を考慮して決定される。具体的に
は、75〜99.5wt%程度であるのが好ましく、8
5〜97.5wt%程度であるのがより好ましい。
【0169】特に、ボンド磁石が圧縮成形により製造さ
れたものの場合には、磁石粉末の含有量は、90〜9
9.5wt%程度であるのが好ましく、93〜98.5
wt%程度であるのがより好ましい。
【0170】また、ボンド磁石が押出成形または射出成
形により製造されたものの場合には、磁石粉末の含有量
は、75〜98wt%程度であるのが好ましく、85〜
97wt%程度であるのがより好ましい。
【0171】ボンド磁石の密度ρは、それに含まれる磁
石粉末の比重、磁石粉末の含有量、空孔率等の要因によ
り決定される。本発明のボンド磁石において、その密度
ρは特に限定されないが、4.5〜6.6Mg/m3
度であるのが好ましく、5.5〜6.4Mg/m3程度
であるのがより好ましい。
【0172】本発明では、磁石粉末の磁束密度、保磁力
が大きいので、ボンド磁石に成形した場合に、磁石粉末
の含有量が多い場合はもちろんのこと、含有量が比較的
少ない場合でも、優れた磁気特性(特に、高い最大磁気
エネルギー積(BH)max)が得られる。
【0173】本発明のボンド磁石の形状、寸法等は特に
限定されず、例えば、形状に関しては、例えば、円柱
状、角柱状、円筒状(リング状)、円弧状、平板状、湾
曲板状等のあらゆる形状のものが可能であり、その大き
さも、大型のものから超小型のものまであらゆる大きさ
のものが可能である。特に、小型化、超小型化された磁
石に有利であることは、本明細書中で度々述べている通
りである。
【0174】本発明のボンド磁石は、保磁力(室温での
固有保磁力)HcJが320〜1200kA/mであるの
が好ましく、400〜800kA/mがより好ましい。
保磁力が前記下限値未満では、逆磁場がかかったときの
減磁が顕著になり、また、高温における耐熱性が劣る。
また、保磁力が前記上限値を超えると、着磁性が低下す
る。従って、保磁力HcJを上記範囲とすることにより、
ボンド磁石(特に、円筒状磁石)に多極着磁等をするよ
うな場合に、十分な着磁磁場が得られないときでも、良
好な着磁が可能となり、十分な磁束密度が得られ、高性
能なボンド磁石を提供することができる。
【0175】本発明のボンド磁石は、最大磁気エネルギ
ー積(BH)maxが40kJ/m3以上であるのが好まし
く、50kJ/m3以上であるのがより好ましく、70
〜130kJ/m3であるのがさらに好ましい。最大磁
気エネルギー積(BH)maxが40kJ/m3未満である
と、モータ用に用いた場合、その種類、構造によって
は、十分なトルクが得られない。
【0176】以上説明したように、本実施形態の冷却ロ
ール5は、ガス抜き手段として溝55が設けられている
ため、周面54とパドル7との間に侵入したガスを排出
することができる。これにより、パドル7の浮き上がり
が防止され、周面54とパドル7との密着性が向上す
る。また、冷却ロール5は、比較的高い熱伝導率を有す
る材料(熱伝導率:C[W・m−1・K−1])で構
成されたロール基材51と、比較的低い熱伝導率を有す
る材料(熱伝導率:C[W・m−1・K−1])で構
成された表面層53とを有し、かつ、ロール基材51と
表面層53との間には、C>C>Cなる関係を満
足するような熱伝導率C[W・m−1・K−1]の材
料で構成された伝熱調整層52が介在しているため、ロ
ール面81付近とフリー面82付近とでの冷却速度の差
も小さくなる。これらの相乗効果により、各部位におけ
る結晶粒径のバラツキが小さく、高い磁気特性を有する
急冷薄帯8が得られる。
【0177】したがって、前記急冷薄帯8から得られる
ボンド磁石は、優れた磁気特性を有している。また、ボ
ンド磁石の製造に際し、高密度化を追求しなくても高い
磁気特性を得ることができるため、成形性、寸法精度、
機械的強度、耐食性、耐熱性等の向上を図ることができ
る。
【0178】次に、本発明の冷却ロール5の第2実施形
態について、説明する。図9は、本発明の冷却ロールの
第2実施形態を示す正面図、図10は、図9に示す冷却
ロールの拡大断面図である。以下、第2実施形態の冷却
ロールについて、前記第1実施形態との相違点を中心に
説明し、同様の事項の説明は省略する。
【0179】図9に示すように、溝55は、冷却ロール
5の回転軸50を中心とする螺旋状に形成されている。
溝55がこのような形状であると、比較的容易に、周面
54全体にわたり溝55を形成することができる。例え
ば、冷却ロール5を一定速度で回転させておき、旋盤等
の切削工具を回転軸50に対して平行に、一定速度で移
動させながら、冷却ロール5の外周部を切削することに
よりこのような溝55を形成することができる。
【0180】なお、螺旋状の溝55は、1条(1本)で
あっても、2条(2本)以上であってもよい。
【0181】溝55の長手方向と、冷却ロール5の回転
方向とのなす角θ(絶対値)は、30°以下であるのが
好ましく、20°以下であるのがより好ましい。θが3
0°以下であると、冷却ロール5のあらゆる周速度にお
いて、周面54とパドル7との間に侵入したガスを効率
よく排出することができる。
【0182】周面54上の各部位において、θの値は、
一定であっても、一定でなくてもよい。また、溝55を
2条以上有する場合、それぞれの溝55について、θ
は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0183】溝55は、周面54の縁部56において、
開口部57で開口している。これにより、周面54とパ
ドル7との間から溝55に排出されたガスがこの開口部
57から冷却ロール5の側方へ排出されるため、排出さ
れたガスが再び周面54とパドル7との間に侵入するの
を効果的に防止することができる。図示の構成では、溝
55は、両縁部に開口しているが、一方の縁部にのみ開
口していてもよい。
【0184】次に、本発明の冷却ロール5の第3実施形
態について、説明する。図11は、本発明の冷却ロール
の第3実施形態を示す正面図、図12は、図11に示す
冷却ロールの拡大断面図である。以下、第3実施形態の
冷却ロールについて、前記第1実施形態、第2実施形態
との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明は省略す
る。
【0185】図11に示すように、周面54上には、螺
旋の回転方向が互いに逆向きである少なくとも2本の溝
55が形成されている。これらの溝55は、多点で交差
している。
【0186】このように、螺旋の回転方向が逆向きであ
る溝55が形成されることにより、製造された急冷薄帯
8が右巻きの溝から受ける横方向の力と左巻きの溝から
受ける横方向の力とが相殺され、急冷薄帯8の図11中
の横方向の移動が抑制され、進行方向が安定する。
【0187】また、図11中、θ1、θ2で示すそれぞれ
の回転方向の溝55の長手方向と冷却ロール5の回転方
向とのなす角(絶対値)は、前述したθと同様な範囲の
値であるのが好ましい。
【0188】次に、本発明の冷却ロール5の第4実施形
態について、説明する。図13は、本発明の冷却ロール
の第4実施形態を示す正面図、図14は、図13に示す
冷却ロールの拡大断面図である。以下、第4実施形態の
冷却ロールについて、前記第1実施形態〜第3実施形態
との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明は省略す
る。
【0189】図13に示すように、複数の溝55が、冷
却ロール5の周面の幅方向のほぼ中央から両縁部56方
向に、ハの字状に形成されている。
【0190】このような溝55が形成された冷却ロール
5を用いた場合、その回転方向との組み合わせにより、
周面54とパドル7との間に侵入したガスをより一層高
い効率で排出することができる。
【0191】また、このようなパターンの溝が形成され
た場合、冷却ロール5の回転に伴って生じる、図13
中、左右の両溝55からの力がつりあうことにより、冷
却ロール5の幅方向のほぼ中央に急冷薄帯8がよせられ
るため、急冷薄帯8の進行方向が安定する。
【0192】なお、本発明では、ガス抜き手段の形状等
の諸条件は、前述した第1実施形態〜第4実施形態に限
定されるものではない。
【0193】例えば、溝55は、図15に示すように間
欠的に形成されたものであってもよい。また、溝55の
断面形状は、特に限定されず、例えば、図16、図17
に示すようなものであってもよい。
【0194】また、ガス抜き手段は、前述したような溝
に限らず、周面とパドルとの間に侵入したガスを排出す
る機能を有するものであればいかなるものでもよい。ガ
ス抜き手段としては、この他、例えば、図18、図19
に示すような空孔58等であってもよい。ガス抜き手段
が空孔である場合、これらは、それぞれが独立している
もの(独立孔)であっても、連続しているもの(連続
孔)であってもよいが、ガスの排出効率の点から、連続
孔であるのが好ましい。
【0195】これらの図に示す冷却ロール5でも、前述
した第1実施形態〜第4実施形態の冷却ロール5と同様
の効果が得られる。
【0196】
【実施例】以下、本発明の具体的実施例について説明す
る。
【0197】(実施例1) [冷却ロールの製造]まず、以下に示すような方法で冷
却ロールA、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K
の11種の冷却ロールを製造した。
【0198】<冷却ロールA>まず、銅製のロール基材
(直径:200mm、幅:30mm、20℃における熱
伝導率:395W・m-1・K-1)を用意し、その周面に
切削加工を施し、ほぼ鏡面(表面粗さRa:0.07μ
m)とした。
【0199】その後、さらに、切削加工を施し、ロール
基材の回転方向に対し、ほぼ平行な溝を形成した。
【0200】このロール基材の外周面に酸洗処理および
アルカリ洗浄処理(脱脂処理)を施した後、Ni(90
%)−P(10%)で構成された伝熱調整層(平均厚
さ:3μm)を形成した。
【0201】伝熱調整層の形成は、無電解メッキにより
形成した。この無電解メッキは、硫酸ニッケルを主成分
として含み、かつ次亜りん酸ナトリウムを還元剤として
含む酸性メッキ浴を用い、このメッキ浴中にロール基材
を浸漬することにより行った。
【0202】次に、この伝熱調整層の外周面にアルゴン
イオンボンバードメントによる清浄化処理を10分間施
した後、セラミックスであるTiNの表面層(20℃に
おける熱伝導率:29.4W・m-1・K-1)をイオンプ
レーティングにより形成し、図1〜図3に示すような冷
却ロールAを得た。
【0203】<冷却ロールB>溝の形状を図9、図10
に示すようなものとした以外は冷却ロールAと同様にし
て冷却ロールBを製造した。なお、溝の形成は、以下の
ようにして行った。すなわち、3本の切削工具を等間隔
に設置した旋盤を用いて、併設された溝のピッチが周面
上の各部位において、ほぼ一定となるように3条の溝を
形成した。
【0204】<冷却ロールC>溝の形状を図11、図1
2に示すようなものとした以外は冷却ロールBと同様に
して冷却ロールCを製造した。
【0205】<冷却ロールD>溝の形状を図13、図1
4に示すようなものとした以外は冷却ロールBと同様に
して冷却ロールDを製造した。
【0206】<冷却ロールE>表面層の構成材料をZr
N(20℃における熱伝導率:16.8W・m-1
-1)とした以外は冷却ロールBと同様にして冷却ロー
ルEを製造した。
【0207】<冷却ロールF>表面層の構成材料をTi
C(20℃における熱伝導率:25.2W・m-1
-1)とした以外は冷却ロールBと同様にして冷却ロー
ルFを製造した。
【0208】<冷却ロールG>表面層の構成材料をZr
C(20℃における熱伝導率:20.6W・m-1
-1)とした以外は冷却ロールBと同様にして冷却ロー
ルGを製造した。
【0209】<冷却ロールH>伝熱調整層の構成材料を
Co(99%)−B(1%)とした以外は冷却ロールB
と同様にして冷却ロールHを製造した。
【0210】伝熱調整層の形成は、無電解メッキにより
形成した。この無電解メッキは、ロッセル塩を主成分と
して含み、かつ水素化ほう素ナトリウムを還元剤として
含むメッキ浴を用い、このメッキ浴中にロール基材を浸
漬することにより行った。
【0211】<冷却ロールI>銅製のロール基材(直
径:200mm、幅:30mm、20℃における熱伝導
率:395W・m-1・K-1)を用意し、その周面に切削
加工を施し、ほぼ鏡面(表面粗さRa:0.07μm)
とした。
【0212】その後、さらに切削加工を施し、ロール基
材の回転方向に対し、ほぼ平行な溝を形成し、冷却ロー
ルIを得た。
【0213】<冷却ロールJ>まず、銅製のロール基材
(直径:200mm、幅:30mm、20℃における熱
伝導率:395W・m-1・K-1)を用意し、その周面に
切削加工を施し、ほぼ鏡面(表面粗さRa:0.07μ
m)とした。
【0214】その後、さらに、切削加工を施し、ロール
基材の回転方向に対し、ほぼ平行な溝を形成した。
【0215】次に、この伝熱調整層の外周面にアルゴン
イオンボンバードメントによる清浄化処理を10分間施
した後、セラミックスであるTiNの表面層(20℃に
おける熱伝導率:29.4W・m-1・K-1)をイオンプ
レーティングにより形成し、冷却ロールJを得た。
【0216】<冷却ロールK>銅製のロール基材(直
径:200mm、幅:30mm、20℃における熱伝導
率:395W・m-1・K-1)を用意し、その周面に切削
加工を施し、ほぼ鏡面(表面粗さRa:0.07μm)
とした。
【0217】その後、ロール基材の外周面に、溝を設け
ずに、そのままNi−Pで構成された伝熱調整層を無電
解メッキにより形成し、さらにその外周面にVNで構成
された表面層をイオンプレーティングにより形成し、冷
却ロールKを製造した。
【0218】各冷却ロールについて、伝熱調整層の平均
厚さ、表面層の平均厚さ、溝の幅L 1(平均値)、深さ
2(平均値)、並設された溝のピッチL3(平均値)、
溝の長手方向と冷却ロールの回転方向とのなす角θ、冷
却ロールの周面上における溝の占める投影面積の割合、
周面の溝を除く部分の表面粗さRaの測定値を表1に示
す。
【0219】
【表1】 [急冷薄帯の製造および評価]このようにして得られた
各冷却ロールを用いて、急冷薄帯を製造し、磁気特性等
の各種評価を行った。
【0220】まず、冷却ロールAを用いた急冷薄帯の製
造、および各種評価について説明する。
【0221】図1に示すような構成の急冷薄帯製造装置
1を用いて、以下に述べるような方法で合金組成が(N
0.75Pr0.20Dy0.058.6Febal.
Co 5.55.5Ti1.0で表される急冷薄帯を製
造した。
【0222】まず、Nd、Pr、Dy、Fe、Co、
B、Tiの各原料を秤量して母合金インゴットを鋳造し
た。
【0223】急冷薄帯製造装置1において、底部にノズ
ル(円孔オリフィス)3を設けた石英管内に前記母合金
インゴットを入れた。急冷薄帯製造装置1が収納されて
いるチャンバー内を脱気した後、不活性ガス(ヘリウム
ガス)を導入し、所望の温度および圧力の雰囲気とし
た。
【0224】その後、石英管内の母合金インゴットを高
周波誘導加熱により溶解し、さらに、冷却ロールの周速
度を所望の値とし、溶湯6の噴射圧(石英管の内圧と筒
体2内における液面の高さに比例してかかる圧力の和
と、雰囲気圧との差圧)を40kPa、雰囲気ガスの圧
力を60kPaとしたうえで、溶湯6を冷却ロール5の
回転軸50のほぼ真上から冷却ロール5の頂部の周面5
4に向けて噴射し、急冷薄帯8を連続的に作製した。こ
のとき、冷却ロール5の周速度を種々変化させて数ロッ
トの急冷薄帯を製造した。
【0225】得られた各急冷薄帯について、アルゴンガ
ス雰囲気中で、675℃×5分間の熱処理を施した。そ
の後、振動試料型磁力計(VSM)により、各急冷薄帯
の磁気特性を測定した。測定に際しては、急冷薄帯の長
軸方向を印加磁界方向とした。なお、反磁界補正は行わ
なかった。このような測定で最も高い磁気特性を有して
いた急冷薄帯について、以下の各種評価を行った。
【0226】まず、長さ約5cmの急冷薄帯をそれぞれ
取り出し、さらにそこから長さ約7mmのサンプルを5
サンプル連続して作製した。
【0227】次に、これらの5サンプルについて、振動
試料型磁力計(VSM)を用いた磁気特性(保磁力
cJ、最大磁気エネルギー積(BH)max)の測定を改
めて行った。測定に際しては、急冷薄帯の長軸方向を印
加磁界方向とした。なお、反磁界補正は行わなかった。
【0228】次に、これらの5サンプルの平均厚さtお
よび磁気特性を測定した。平均厚さtは、レーザー顕微
鏡により1サンプルにつき20箇所の測定点で測定し、
これを平均した値とした。
【0229】さらに、これらの5サンプルのロール面お
よびフリー面について、相構成を分析するため、Cu−
Kαを用い回折角(2θ)が20°〜60°にてX線回
折を行った。回折パターンからハード磁性相であるR2
(Fe・Co)14B型相と、ソフト磁性相であるα−
(Fe,Co)型相の回折ピークが確認でき、透過型電
子顕微鏡(TEM)による観察結果から、いずれのサン
プルも、複合組織(ナノコンポジット組織)を形成して
いることが確認された。また、ロール面およびフリー面
における各相の平均結晶粒径を測定した。
【0230】上記の熱処理を施した急冷薄帯を粉砕し、
平均粒径60μmの磁石粉末を得た。
【0231】次に、磁石粉末とエポキシ樹脂とを混合
し、ボンド磁石用組成物(コンパウンド)を作製した。
このとき、コンパウンド中の磁石粉末の含有量(含有
率)は、約97.5wt%であった。
【0232】次いで、このコンパウンドを粉砕して粒状
とし、この粒状物を秤量してプレス装置の金型内に充填
し、室温において、圧力700MPaで圧縮成形(無磁
場中)して、成形体を得た。離型後、175℃で加熱硬
化させて、直径10mm×高さ8mmの円柱状のボンド
磁石を得た。
【0233】このボンド磁石について、磁場強度3.2
MA/mのパルス着磁を施した後、直流自記磁束計(東
英工業(株)製、TRF−5BH)にて最大印加磁場
2.0MA/mで磁気特性(磁束密度Br、保磁力HcJ
および最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定し
た。測定時の温度は、23℃(室温)であった。
【0234】その後、冷却ロールAを冷却ロールB、
C、D、E、F、G、H、I、J、Kに順次交換し、同
様にして急冷薄帯の製造および各種評価を行った。
【0235】これらの評価の結果を表2、表3、表4、
表5に示す。ただし、冷却ロールIを用いて製造した急
冷薄帯のサンプルのロール面では、非晶質相が主相であ
り、結晶粒径の測定は行えなかった。
【0236】また、冷却ロールB〜Kを用いた急冷薄帯
の製造において、最も高い磁気特性を有する急冷薄帯が
得られたときの冷却ロールの周速度も表2〜表4に併せ
て示す。
【0237】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】 表2〜表4から明らかなように、冷却ロールA〜H(い
ずれも本発明)を用いて製造された急冷薄帯では、ロー
ル面とフリー面とでの各相の結晶粒径の差が小さい。ま
た、各急冷薄帯について、サンプル間での磁気特性のバ
ラツキが小さく、全体として磁気特性が高い。これは、
以下のような理由によるものであると推定される。
【0238】冷却ロールA〜Hは、その周面上に、ガス
抜き手段を有している。そのため、周面とパドルとの間
に侵入したガスが効率よく排出され、周面とパドルとの
密着性が向上し、急冷薄帯のロール面への巨大ディンプ
ルの発生が防止または抑制され、各部位における冷却速
度のバラツキが小さくなる。さらに、冷却ロールが、ロ
ール基材と、ロール基材の構成材料より熱伝導率の小さ
い材料で構成された伝熱調整層と、伝熱調整層の構成材
料より熱伝導率の小さい材料で構成された表面層とを有
するものであることにより、ロール面付近とフリー面付
近とでの冷却速度の差も小さくなる。これらの相乗効果
により、得られる急冷薄帯における結晶粒径のバラツキ
が小さくなり、その結果、磁気特性のバラツキも小さく
なるものであると考えられる。
【0239】これに対し、冷却ロールI、J(いずれも
比較例)を用いて製造された急冷薄帯は、サンプル間で
の磁気特性のバラツキは比較的小さいが、全体的にその
値が低くなっている。また、冷却ロールK(比較例)を
用いて製造された急冷薄帯は、ロール面とフリー面とで
の平均結晶粒径の差は比較的小さいが、サンプル間での
磁気特性のバラツキが大きい。これは、以下のような理
由によるものであると推定される。
【0240】冷却ロールIにはガス抜き手段が設けられ
ているため、この冷却ロールを用いて製造された急冷薄
帯は、冷却ロールの周面と、溶湯のパドルとの密着性に
は優れている。しかしながら、冷却ロールIは、伝熱調
整層および表面層を有しておらず、周面が銅で構成され
ているため、溶湯の冷却速度が大きすぎて、ロール面で
は非晶質相が主相となる。これに対し、フリー面ではロ
ール面に比べ冷却速度が小さいため、非晶質相が減少
し、多くの結晶粒が形成される。このように、ロール面
とフリー面とでの組織差が大きいため、全体としての磁
気特性が低下すると考えられる。
【0241】また、冷却ロールJにはガス抜き手段が設
けられているため、この冷却ロールを用いて製造された
急冷薄帯は、冷却ロールの周面と、溶湯のパドルとの密
着性には優れている。しかしながら、冷却ロールJは、
伝熱調整層を有していないため、本発明の冷却ロールの
ような伝熱調整効果が得られない。このため、ロール面
とフリー面とでの組織差が大きくなり、全体としての磁
気特性が低下すると考えられる。
【0242】冷却ロールKには、Ni−Pで構成された
伝熱調整層と、VN(窒化物系セラミックス)で構成さ
れた表面層とが設けられているため、ロール面付近とフ
リー面付近とでの冷却速度の差は比較的小さい。しかし
ながら、周面上にガス抜き手段が設けられていないた
め、周面と溶湯のパドルとの密着性が低下することによ
り、周面とパドルとの間にガスが侵入する。周面とパド
ルとの間に侵入したガスは、そのまま残留し、急冷薄帯
のロール面に巨大なディンプルが形成される。このた
め、周面に密着した部位に比べ、ディンプルが形成され
た部位では冷却速度は低下し、結晶粒径の粗大化が起こ
る。その結果、得られる急冷薄帯の磁気特性のバラツキ
は大きくなると考えられる。
【0243】また、表5から明らかなように、冷却ロー
ルA〜Hによるボンド磁石では、優れた磁気特性が得ら
れているのに対し、冷却ロールI〜Kによるボンド磁石
は、低い磁気特性しか有していない。
【0244】これは、冷却ロールA〜Hによるボンド磁
石が、磁気特性が高くかつ磁気特性のバラツキの小さい
急冷薄帯から得られる磁石粉末を用いて製造されたもの
であるのに対し、冷却ロールI〜Kによるボンド磁石
は、磁気特性の低い急冷薄帯から得られる磁石粉末を用
いて製造されたものであるため、ボンド磁石としての磁
気特性も低くなっていると考えられる。
【0245】(実施例2)溝の平均幅、平均深さ、並設
された溝の平均ピッチを種々変化させた以外は、冷却ロ
ールBと同様にして、6種の冷却ロール(冷却ロール
L、M、N、O、P、Q)を得た。
【0246】各冷却ロールについて、溝の幅L1(平均
値)、深さL2(平均値)、並設された溝のピッチL
3(平均値)の測定値を表6に示す。
【0247】
【表6】 まず、冷却ロールLを使用し、実施例1と同様にして、
それぞれ数ロットの急冷薄帯を製造した。これらの急冷
薄帯について、アルゴンガス雰囲気中で、660℃×7
分間の熱処理を施した後、振動試料型磁力計(VSM)
により、各急冷薄帯の磁気特性を測定した。測定に際し
ては、急冷薄帯の長軸方向を印加磁界方向とした。な
お、反磁界補正は行わなかった。
【0248】このような測定で最も高い磁気特性を有し
ていた急冷薄帯を、アルゴンガス雰囲気中で粉砕し、平
均粒径70μmの磁石粉末を得た。
【0249】その後、冷却ロールLを冷却ロールM、
N、O、P、Qに順次交換し、同様にして磁石粉末を製
造した。
【0250】このようにして得られた6種の磁石粉末に
ついて、その相構成を分析するため、Cu−Kαを用い
回折角20°〜60°にてX線回折を行った。回折パタ
ーンからハード磁性相であるR2(Fe・Co)14B型
相と、ソフト磁性相であるα−(Fe,Co)型相の回
折ピークが確認でき、透過型電子顕微鏡(TEM)によ
る観察結果から、いずれも、複合組織(ナノコンポジッ
ト組織)を形成していることが確認された。また、各磁
石粉末について、各相の平均結晶粒径を測定した。
【0251】次に、各磁石粉末とエポキシ樹脂とを混合
し、ボンド磁石用組成物(コンパウンド)を作製した。
このとき、磁石粉末とエポキシ樹脂との配合比率(重量
比)は、各サンプルについてほぼ等しい値とした。すな
わち、各サンプル中の磁石粉末の含有量(含有率)は、
約97.5wt%であった。
【0252】次いで、このコンパウンドを粉砕して粒状
とし、この粒状物を秤量してプレス装置の金型内に充填
し、室温において、圧力700MPaで圧縮成形(無磁
場中)して、成形体を得た。離型後、175℃で加熱硬
化させて、直径10mm×高さ8mmの円柱状のボンド
磁石を得た。
【0253】これらのボンド磁石について、磁場強度
3.2MA/mのパルス着磁を施した後、直流自記磁束
計(東英工業(株)製、TRF−5BH)にて最大印加
磁場2.0MA/mで磁気特性(磁束密度Br、保磁力
cJおよび最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定
した。測定時の温度は、23℃(室温)であった。これ
らの結果を表7に示す。
【0254】
【表7】 表7から明らかなように、溝の幅L1と溝の深さL2との
比L1/L2が最適の範囲の値である冷却ロールによる急
冷薄帯を用いて製造されたボンド磁石は、特に優れた磁
気特性を有している。
【0255】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、次
のような効果が得られる。
【0256】・冷却ロールの周面にガス抜き手段が設け
られているため、周面と溶湯のパドルとの密着性が向上
し、高い磁気特性が安定して得られる。
【0257】・冷却ロールが、ロール基材と、ロール基
材の構成材料より熱伝導率の小さい材料で構成された伝
熱調整層と、伝熱調整層の構成材料より熱伝導率の小さ
い材料で構成された表面層とを有するものであるため、
得られる急冷薄帯のロール面側とフリー面側の組織差、
特に冷却速度の違いによる結晶粒径の差を小さくするこ
とができ、その結果、優れた磁気特性を持つ磁石材料、
磁石粉末が得られる。また、それより製造されたボンド
磁石も優れた磁気特性を発揮する。
【0258】・特に、伝熱調整層や表面層の形成材料、
厚さ、ガス抜き手段の形状等を好適な範囲に設定するこ
とにより、さらに優れた磁気特性が得られる。
【0259】・磁石粉末がソフト磁性相とハード磁性相
とを有する複合組織で構成されることにより、磁化が高
く、優れた磁気特性を発揮する。特に本発明により、固
有保磁力と角型性が改善される。
【0260】・高い磁束密度が得られるので、等方性で
あっても、高磁気特性を持つボンド磁石が得られる。特
に、従来の等方性ボンド磁石に比べ、より小さい体積の
ボンド磁石で同等以上の磁気性能を発揮することができ
るので、より小型で高性能のモータを得ることが可能と
なる。
【0261】・また、高い磁束密度が得られることか
ら、ボンド磁石の製造に際し、高密度化を追求しなくて
も十分に高い磁気特性を得ることができ、その結果、成
形性の向上と共に、寸法精度、機械的強度、耐食性、耐
熱性(熱的安定性)等のさらなる向上が図れ、信頼性の
高いボンド磁石を容易に製造することが可能となる。
【0262】・着磁性が良好なので、より低い着磁磁場
で着磁することができ、特に多極着磁等を容易かつ確実
に行うことができ、かつ高い磁束密度を得ることができ
る。
【0263】・高密度化を要求されないことから、圧縮
成形法に比べて高密度の成形がしにくい押出成形法や射
出成形法によるボンド磁石の製造にも適し、このような
成形方法で成形されたボンド磁石でも、前述したような
効果が得られる。よって、ボンド磁石の成形方法の選択
の幅、さらには、それによる形状選択の自由度が広が
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の冷却ロールの第1実施形態と、その冷
却ロールを用いて薄帯状磁石材料を製造する装置(急冷
薄帯製造装置)の構成例とを模式的に示す斜視図であ
る。
【図2】図1に示す冷却ロールの正面図である。
【図3】図1に示す冷却ロールの周面付近の断面形状を
模式的に示す図である。
【図4】ガス抜き手段の形成方法を説明するための図で
ある。
【図5】ガス抜き手段の形成方法を説明するための図で
ある。
【図6】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコン
ポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図7】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコン
ポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図8】本発明の磁石粉末における複合組織(ナノコン
ポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図9】本発明の冷却ロールの第2実施形態を模式的に
示す正面図である。
【図10】図9に示す冷却ロールの周面付近の断面形状
を模式的に示す図である。
【図11】本発明の冷却ロールの第3実施形態を模式的
に示す正面図である。
【図12】図11に示す冷却ロールの周面付近の断面形
状を模式的に示す図である。
【図13】本発明の冷却ロールの第4実施形態を模式的
に示す正面図である。
【図14】図13に示す冷却ロールの周面付近の断面形
状を模式的に示す図である。
【図15】本発明の冷却ロールの他の実施形態を模式的
に示す正面図である。
【図16】本発明の冷却ロールの他の実施形態の周面付
近の断面形状を模式的に示す図である。
【図17】本発明の冷却ロールの他の実施形態の周面付
近の断面形状を模式的に示す図である。
【図18】本発明の冷却ロールの他の実施形態を模式的
に示す正面図である。
【図19】図18に示す冷却ロールの周面付近の断面形
状を模式的に示す図である。
【図20】従来の薄帯状磁石材料を単ロール法により製
造する装置(急冷薄帯製造装置)における溶湯の冷却ロ
ールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【符号の説明】
1 急冷薄帯製造装置 2 筒体 3 ノズル 4 コイル 5、500 冷却ロール 50 回転軸 51 ロール基材 52 伝熱調整層 53 表面層 54、540 周面 55 溝 56 縁部 57 開口部 58 空孔 6、60 溶湯 7、70 パドル 710 凝固界面 8、80 急冷薄帯 81、810 ロール面 82 フリー面 9 ディンプル 10 ソフト磁性相 11 ハード磁性相

Claims (35)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 磁石合金の溶湯をその周面に衝突させ、
    冷却固化して、薄帯状磁石材料を製造するための冷却ロ
    ールであって、 ロール基材と、該ロール基材の外周面に設けられた伝熱
    調整層と、該伝熱調整層の外周の全周に設けられた表面
    層とを有し、 前記周面上に、前記周面と前記溶湯のパドルとの間に侵
    入したガスを排出するガス抜き手段を有し、かつ、 前記ロール基材の構成材料の室温付近における熱伝導率
    をC[W・m−1・K−1]、 前記伝熱調整層の構成材料の室温付近における熱伝導率
    をC[W・m−1・K−1]、 前記表面層の構成材料の室温付近における熱伝導率をC
    [W・m−1・K ]としたとき、C>C>C
    の関係を満足することを特徴とする冷却ロール。
  2. 【請求項2】 前記伝熱調整層の平均厚さは、0.05
    〜20μmである請求項1に記載の冷却ロール。
  3. 【請求項3】 前記伝熱調整層は、金属メッキ層である
    請求項1または2に記載の冷却ロール。
  4. 【請求項4】 前記伝熱調整層は、無電解メッキにより
    形成されたものである請求項1ないし3のいずれかに記
    載の冷却ロール。
  5. 【請求項5】 前記伝熱調整層は、Niおよび/または
    Coを主とする材料で構成されたものである請求項1な
    いし4のいずれかに記載の冷却ロール。
  6. 【請求項6】 前記伝熱調整層は、Pおよび/またはB
    を含む材料で構成されたものである請求項5に記載の冷
    却ロール。
  7. 【請求項7】 前記表面層は、前記伝熱調整層の表面に
    対する清浄化処理を行った後に、形成されたものである
    請求項1ないし6のいずれかに記載の冷却ロール。
  8. 【請求項8】 前記表面層の構成材料の室温付近におけ
    る熱伝導率は、50W・m-1・K-1以下である請求項1
    ないし7のいずれかに記載の冷却ロール。
  9. 【請求項9】 前記表面層は、セラミックスで構成され
    る請求項1ないし8のいずれかに記載の冷却ロール。
  10. 【請求項10】 前記表面層の平均厚さは、0.5〜5
    0μmである請求項1ないし9のいずれかに記載の冷却
    ロール。
  11. 【請求項11】 前記表面層は、その表面に機械加工を
    行わないで形成されたものである請求項1ないし10の
    いずれかに記載の冷却ロール。
  12. 【請求項12】 前記ロール基材の構成材料の室温付近
    における熱伝導率は、110W・m-1・K-1以上である
    請求項1ないし11のいずれかに記載の冷却ロール。
  13. 【請求項13】 前記周面の前記ガス抜き手段を除く部
    分の表面粗さRaは、0.05〜5μmである請求項1
    ないし12のいずれかに記載の冷却ロール。
  14. 【請求項14】 前記ガス抜き手段は、少なくとも1本
    の溝である請求項1ないし13のいずれかに記載の冷却
    ロール。
  15. 【請求項15】 前記溝の平均幅は、0.5〜90μm
    である請求項14に記載の冷却ロール。
  16. 【請求項16】 前記溝の平均深さは、0.5〜20μ
    mである請求項14または15に記載の冷却ロール。
  17. 【請求項17】 前記溝の平均幅をL1、平均深さをL2
    としたとき、0.5≦L1/L2≦15の関係を満足する
    請求項14ないし16のいずれかに記載の冷却ロール。
  18. 【請求項18】 前記溝の長手方向と、冷却ロールの回
    転方向とのなす角は、30°以下である請求項14ない
    し17のいずれかに記載の冷却ロール。
  19. 【請求項19】 前記溝は、前記冷却ロールの回転軸を
    中心とする螺旋状に形成されたものである請求項14な
    いし18のいずれかに記載の冷却ロール。
  20. 【請求項20】 前記溝が並設されており、その平均ピ
    ッチは、3〜100μmである請求項14ないし19の
    いずれかに記載の冷却ロール。
  21. 【請求項21】 前記溝は、前記周面の縁部に開口して
    いるものである請求項14ないし20のいずれかに記載
    の冷却ロール。
  22. 【請求項22】 前記周面上における前記溝の占める投
    影面積の割合が10〜99.5%である請求項14ない
    し21のいずれかに記載の冷却ロール。
  23. 【請求項23】 請求項1ないし22のいずれかに記載
    の冷却ロールを用いて製造されたことを特徴とする薄帯
    状磁石材料。
  24. 【請求項24】 平均厚さが8〜50μmである請求項
    23に記載の薄帯状磁石材料。
  25. 【請求項25】 薄帯状磁石材料は、製造後少なくとも
    1回熱処理が施されたものである請求項23または24
    に記載の薄帯状磁石材料。
  26. 【請求項26】 薄帯状磁石材料は、ソフト磁性相とハ
    ード磁性相とを有する複合組織で構成されるものである
    請求項23ないし25のいずれかに記載の薄帯状磁石材
    料。
  27. 【請求項27】 前記ハード磁性相および前記ソフト磁
    性相の平均結晶粒径は、いずれも1〜100nmである
    請求項26に記載の薄帯状磁石材料。
  28. 【請求項28】 請求項23ないし27のいずれかに記
    載の薄帯状磁石材料を粉砕して得られたことを特徴とす
    る磁石粉末。
  29. 【請求項29】 磁石粉末は、その製造過程または製造
    後少なくとも1回熱処理が施されたものである請求項2
    8に記載の磁石粉末。
  30. 【請求項30】 平均粒径が1〜300μmである請求
    項28または29に記載の磁石粉末。
  31. 【請求項31】 磁石粉末は、ソフト磁性相とハード磁
    性相とを有する複合組織で構成されるものである請求項
    28ないし30のいずれかに記載の磁石粉末。
  32. 【請求項32】 前記ハード磁性相および前記ソフト磁
    性相の平均結晶粒径は、いずれも1〜100nmである
    請求項31に記載の磁石粉末。
  33. 【請求項33】 請求項28ないし32のいずれかに記
    載の磁石粉末を結合樹脂で結合してなることを特徴とす
    るボンド磁石。
  34. 【請求項34】 室温での固有保磁力HcJが320〜1
    200kA/mである請求項33に記載のボンド磁石。
  35. 【請求項35】 最大磁気エネルギー積(BH)max
    40kJ/m3以上である請求項33または34に記載
    のボンド磁石。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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