JP3860443B2 - ボンド磁石 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ボンド磁石に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ボンド磁石は、その形状自在性や高寸法精度などの利点があるため、従来から電気製品や自動車部品等の各種用途に広く使用されている。近年、電気製品や自動車部品の小型・軽量化に伴って、これに使用されるボンド磁石自身の小型化が強く要求されている。
このため、磁石の高性能化が強く要求されている。
【0003】
従来、ボンド磁石としては、マグネトプランバイト型フェライトを用いたボンド磁石(以下、フェライトボンド磁石という。)が広く使用されてきた。
【0004】
フェライトボンド磁石は、フェライト粉末が酸化物であるため、耐食性に優れ、高い安定性を有しており、また、バリウム、ストロンチウム等の酸化物や鉄酸化物等の安価な原料を用いて製造されるので、経済的であるという利点を有している。
【0005】
しかし、フェライトボンド磁石は、一般に磁気特性が低く、ボンド磁石の用途によっては満足な性能が得られなかった。
【0006】
そこで、近年、フェライトボンド磁石に代わり、希土類磁石粉末としてMQI社製のMQP−B粉末を用いた希土類ボンド磁石が広く使用されている。
【0007】
しかしながら、MQP−B粉末に代表される従来の希土類磁石粉末を用いて製造されるボンド磁石は、安定性に劣り、長期間にわたって安定した磁気特性を得るのが困難であった。
【0008】
また、前記希土類磁石粉末を用いた場合であっても、製造されるボンド磁石の用途によっては、十分な磁気特性が得られない場合があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、性能の安定性に優れ、磁気特性に優れたボンド磁石を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(5)の本発明により達成される。
【0011】
(1) 周面にガス抜き手段を有する冷却ロールを用いて製造された急冷薄帯を粉砕して得られ、ハード磁性相とソフト磁性相とを有する複合組織で構成され、かつ、その表面の少なくとも一部に、前記冷却ロールの周面の形状が転写されることにより形成された複数の凸条または溝を有する複数個の磁石粉末を、結合樹脂と混合し成形して得られたボンド磁石であって、
前記磁石粉末は、R(ただし、Rは、Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)と遷移金属とを含む合金組成を有するものであり、
前記磁石粉末の前記凸条間または前記溝内に、前記結合樹脂が埋入しており、
ボンド磁石の外表面にコーティング層を有さない状態で、60℃×95RH%の環境下に1000時間保持した場合において、
前記環境下に保持する前の重量をW1b[g]、
前記環境下に保持し、さらに乾燥した後の重量をW2b[g]、
前記環境下に保持する前後での重量増加量をΔWb=W2b−W1b[g]、
ボンド磁石の全外表面積をS[cm2]としたとき、
(ΔWb/W1b)×100/Sで表わされる単位表面積あたりの重量増加率が0.2[重量%/cm2]以下であり、
前記ハード磁性相およびソフト磁性相の平均結晶粒径は、いずれも1〜100nmであり、
前記磁石粉末の平均粒径をa[μm]としたとき、前記凸条または前記溝の平均長さが、a/40[μm]以上であり、
前記凸条の平均高さまたは前記溝の平均深さが、0.1〜10μmであり、
前記凸条または前記溝が並設されており、その平均ピッチが、0.5〜100μmであり、
前記磁石粉末の平均粒径が5〜300μmであり、
前記磁石粉末の全表面積に対し、前記凸条または前記溝の形成された部分の面積の占める割合が、15%以上であり、
前記磁石粉末の、前記急冷薄帯の製造時に前記冷却ロールと接触していた側の第1面付近におけるハード磁性相の平均結晶粒径をD1h[nm]、前記第1面付近におけるソフト磁性相の平均結晶粒径をD1s[nm]、前記第1面と反対側の第2面付近におけるハード磁性相の平均結晶粒径をD2h[nm]、前記第2面付近におけるソフト磁性相の平均結晶粒径をD2s[nm]としたとき、下記式( I )および下記式( II )を満足することを特徴とするボンド磁石。
1≦D2h/D1h≦10 ・・・( I )
1≦D2s/D1s≦10 ・・・( II )
【0012】
(2) ボンド磁石は、複数個の前記磁石粉末と、前記結合樹脂とを温間混練することにより得られた混練物を用いて製造されたものである上記(1)に記載のボンド磁石。
【0013】
(3) ボンド磁石は、温間成形により製造されたものである上記(1)または(2)に記載のボンド磁石。
【0014】
(4) 空孔率が5.0vol%以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のボンド磁石。
【0015】
(5) 前記磁石粉末の含有量が75〜99.5wt%である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のボンド磁石。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のボンド磁石の実施の形態について、詳細に説明する。
【0033】
[磁石粉末の構成組織]
本発明において、磁石粉末は、ハード磁性相とソフト磁性相とを有する複合組織で構成されたものである。
【0034】
前記複合組織(ナノコンポジット組織)は、ソフト磁性相10とハード磁性相11とが、例えば、図1、図2または図3に示すようなパターン(モデル)で存在しており、各相の厚さや粒径がナノメーターレベルで存在している。そして、ソフト磁性相10とハード磁性相11とが相隣接し(粒界相を介して隣接する場合も含む)、磁気的な交換相互作用を生じる。
【0035】
ソフト磁性相の磁化は、外部磁界の作用により容易にその向きを変えるので、ハード磁性相に混在すると、系全体の磁化曲線はB−H図(J−H図)の第二象現で段のある「へび型曲線」となる。しかし、ソフト磁性相のサイズが数10nm以下と十分小さい場合には、ソフト磁性体の磁化が周囲のハード磁性体の磁化との結合によって十分強く拘束され、系全体がハード磁性体として振舞うようになる。
【0036】
このような複合組織(ナノコンポジット組織)を持つ磁石は、主に、以下に挙げる特徴1)〜5)を有している。
【0037】
1)B−H図(J−H図)の第二象現で、磁化が可逆的にスプリングバックする(この意味で「スプリング磁石」とも言う)。
2)着磁性が良く、比較的低い磁場で着磁できる。
3)磁気特性の温度依存性がハード磁性相単独の場合に比べて小さい。
4)磁気特性の経時変化が小さい。
5)微粉砕しても磁気特性が劣化しない。
【0038】
このように、複合組織で構成される磁石は、磁気特性に優れ、性能の安定性に優れる。
【0039】
また、ソフト磁性相10およびハード磁性相11の平均結晶粒径は、いずれも、1〜100nmであるのが好ましく、5〜50nmであるのがより好ましい。平均結晶粒径がこのような範囲の大きさであると、ソフト磁性相10とハード磁性相11との間で、より効果的に磁気的な交換相互作用を生じることとなり、顕著な磁気特性の向上が認められる。また、このように、結晶粒径が十分に小さいものであると、酸化等の悪影響をさらに受けにくくなり、安定性がさらに向上する。
【0040】
また、磁石粉末は、各部位での結晶粒径のバラツキが小さいものであるのが好ましい。これにより、磁石粉末内に局部電池が形成されるのを効果的に防止することができる。その結果、磁石粉末は、安定性が特に優れたものとなる。
【0041】
なお、図1〜図3に示すパターンは、一例であって、これらに限られるものではない。
【0042】
本発明においては、磁石粉末の合金組成は、R(ただし、Rは、Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)とFe等の遷移金属とを基本成分とするものである。
【0043】
Rとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、ミッシュメタルが挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができる。また、前記遷移金属としては、Fe、Co、Ni等が挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができる。
遷移金属としては、Fe、Co、Ni等が挙げられる。
【0044】
また、保磁力、最大磁気エネルギー積等の磁気特性を向上させるため、あるいは、耐熱性、耐食性を向上させるために、合金組成中には、必要に応じ、B、N、Al、Cu、Ga、Si、Ti、V、Ta、Zr、Nb、Mo、Hf、Ag、Zn、P、Ge、Cr、W等を含有することもできる。
【0045】
[磁石粉末の形状]
また、磁石粉末12は、図4または図5に示すように、その表面の少なくとも一部に複数の凸条13または溝を有している。これにより、次のような効果が得られる。
【0046】
このような磁石粉末をボンド磁石の製造に用いた場合、磁石粉末と結合樹脂との混練時等における、両者の接触性(濡れ性)が向上する。このため、結合樹脂が磁石粉末の周囲を覆うような状態となり易くなる。このように、磁石粉末が結合樹脂で覆われた状態になると、磁石粉末と外気との接触が遮断されることとなり、磁石粉末の経時劣化等が効果的に防止される。その結果、得られるボンド磁石は、安定性が特に優れたものとなる。
【0047】
また、磁石粉末と結合樹脂との接触性(濡れ性)が向上することにより、結合樹脂量が比較的少なくても、良好な成形性が得られる。
【0048】
また、このような磁石粉末をボンド磁石の製造に用いた場合、結合樹脂が溝内(または凸条間)に埋入する。このため、磁石粉末と結合樹脂との結着力が向上し、結合樹脂量が比較的少なくても、高い機械的強度が得られる。したがって、磁石粉末の含有量(含有率)を多くすることが可能となり、結果として、高い磁気特性のボンド磁石が得られる。
【0049】
また、凸条または溝が後述するような方法により形成されたものであると、磁石粉末は、各部位での組織差(例えば、各構成相の存在比や結晶粒径等の差)が、特に小さいものとなる。これにより、磁石粉末内に局部電池が形成されるのをさらに効果的に防止することができる。その結果、磁石粉末の安定性が特に優れたものとなる。
【0050】
これらの効果により、安定性に優れ、高機械強度、高磁気特性のボンド磁石を良好な成形性で製造することが可能となる。
【0051】
磁石粉末の平均粒径をa[μm](aの好ましい値については後述する)としたとき、凸条または溝の長さは、a/40[μm]以上であり、特に、a/30[μm]以上であるのが好ましい。
【0052】
凸条または溝の長さが、a/40[μm]未満であると、磁石粉末の平均粒径aの値等によっては、前述した本発明の効果が十分に発揮されない場合がある。
【0053】
凸条の平均高さまたは溝の平均深さは、0.1〜10μmであり、特に、0.3〜5μmであるのが好ましい。
【0054】
凸条の平均高さまたは溝の平均深さがこのような範囲の値であると、磁石粉末をボンド磁石の製造に用いた場合、凸条間または溝内に結合樹脂が必要かつ十分に埋入することにより、磁石粉末と結合樹脂との結着力が一層向上し、得られるボンド磁石の安定性、機械的強度、磁気特性がさらに向上する。
【0055】
凸条または溝は、ランダムな方向に形成されたものであってもよいが、一定の方向性をもって、並設されたものであるのが好ましい。凸条または溝は、例えば、図4に示すように、複数の凸条または溝がほぼ平行に並設されたものであってもよいし、図5に示すように、2方向に延在し、これらが互いに交差するものであってもよい。また、凸条または溝は、しわ状に形成されたものであってもよい。また、例えば、凸条(または溝)がある程度の方向性を有して存在している場合、凸条(または溝)の長さ、高さ(または溝の深さ)、形状等は、個々の凸条(または溝)について、バラツキがあってもよい。
【0056】
並設された凸条または並設された溝の平均ピッチは、0.5〜100μmであり、特に、3〜50μmであるのが好ましい。
【0057】
並設された凸条または並設された溝の平均ピッチがこのような範囲の値であると、前述した本発明の効果が特に顕著となる。
【0058】
凸条または溝の形成された面積は、磁石粉末の全表面積の15%以上であり、特に、25%以上であるのが好ましい。
【0059】
凸条または溝の形成された面積が磁石粉末の全表面積の15%未満であると、前述した本発明の効果が十分に発揮されない場合がある。
【0060】
磁石粉末の平均粒径aは、5〜300μmであり、特に、10〜200μmであるのが好ましい。磁石粉末の平均粒径aが、下限値未満であると、酸化による磁気特性の劣化が顕著となる。また、発火のおそれがあるなど取り扱い上の問題も生じる。一方、磁石粉末の平均粒径aが、上限値を超えると、後述するボンド磁石を製造するためのものの場合、混練時、成形時等における組成物の流動性が十分に得られない可能性がある。
【0061】
また、ボンド磁石の成形時のより良好な成形性を得るために、磁石粉末の粒径分布は、ある程度分散されている(バラツキがある)のが好ましい。これにより、得られたボンド磁石の空孔率を低減することができ、その結果、ボンド磁石中の磁石粉末の含有量を同じとしたときに、ボンド磁石の密度や機械的強度をより高めることができ、磁気特性をさらに向上することができる。
【0062】
なお、平均粒径aは、例えば、F.S.S.S.(Fischer Sub-Sieve Sizer)法により測定することができる。
【0063】
[磁石粉末の安定性]
以上説明したような磁石粉末は、優れた安定性を有している。
【0064】
具体的には、磁石粉末は、60℃×95RH%の環境下に1000時間保持した場合において、前記環境下に保持する前の重量をW1p[g]、前記環境下に保持し、さらに乾燥した後の重量をW2p[g]、前記環境下に保持する前後での重量増加量をΔWp=W2p−W1p[g]としたとき、(ΔWp/W1p)×100で表わされる重量増加率が10[重量%]以下であるのが好ましく、8[重量%]以下であるのがより好ましい。前記重量増加率が10[重量%]を超えると、磁石粉末の使用形態、使用条件等によっては、十分な安定性、耐食性が得られない場合がある。
【0065】
[磁石粉末の製造方法]
以上説明したような磁石粉末は、冷却ロールを用いた急冷法で製造された薄帯状磁石材料(急冷薄帯)を粉砕して得られたものである。これにより、金属組織(結晶粒)を比較的容易に微細化することが可能であり、磁気特性、特に、保磁力等を向上させるのに有効である。
【0066】
以下、冷却ロールを用いた急冷薄帯の製造方法の一例について説明する。
まず、急冷薄帯の製造装置の構成の一例について説明する。
【0067】
図6は、急冷薄帯の製造に用いる冷却ロールと、その冷却ロールを備えた急冷薄帯製造装置の構成例とを模式的に示す斜視図、図7は、図6に示す冷却ロールの正面図、図8は、図6に示す冷却ロールの周面付近の断面形状を模式的に示す図、図9、図10は、ガス抜き手段の形成方法を説明するための図、図11は、図6に示す装置における溶湯の冷却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【0068】
図6に示すように、急冷薄帯製造装置1は、磁石材料を収納し得る筒体2と、該筒体2に対し図中矢印9A方向に回転する冷却ロール5とを備えている。筒体2の下端には、磁石材料の溶湯を射出するノズル(オリフィス)3が形成されている。
【0069】
また、筒体2のノズル3近傍の外周には、加熱用のコイル4が配置され、このコイル4に例えば高周波を印加することにより、筒体2内を加熱(誘導加熱)し、筒体2内の磁石材料を溶融状態にする。
【0070】
冷却ロール5は、ロール基材51と、冷却ロール5の周面53を形成する表面層52とで構成されている。
【0071】
表面層52は、ロール基材51と同じ材質で一体構成されていてもよいが、ロール基材51の構成材料より熱伝導率の小さい材質で構成されているのが好ましい。
【0072】
ロール基材51の構成材料は、特に限定されないが、表面層52の熱をより速く放散できるように、例えば銅または銅系合金のような熱伝導率の大きい金属材料で構成されているのが好ましい。
【0073】
表面層52の構成材料の室温付近における熱伝導率は、特に限定されないが、例えば、80W・m−1・K−1以下であるのが好ましく、3〜60W・m−1・K−1であるのがより好ましく、5〜40W・m−1・K−1であるのがさらに好ましい。
【0074】
冷却ロール5が、このような熱伝導率を有する表面層52とロール基材51とで構成されることにより、適度な冷却速度で溶湯6を急冷することが可能となる。また、冷却ロール5が、前述したような熱伝導率を有する表面層52とロール基材51とで構成されることにより、急冷薄帯8のロール面(冷却ロールと接触していた側の第1面)81付近とフリー面(第1面の反対側の第2面)82付近とでの冷却速度の差が小さくなる。このため、得られる急冷薄帯8は、ロール面81付近とフリー面82付近とでの組織差(例えば、各構成相の存在比や結晶粒径等の差)が小さいものとなる。その結果、急冷薄帯8の磁気特性は、優れたものとなる。
【0075】
このような熱伝導率を有する材料としては、例えば、Nb、Mo、Zr、W、Sb、Ti、Ta、Pd、Pt等、またはこれらを含む合金等の金属薄層や金属酸化物層、セラミックス等が挙げられる。セラミックスとしては、例えば、Al2O3、SiO2、TiO2、Ti2O3、ZrO2、Y2O3、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si3N4、SiN、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、TaN、NbN、CrN、Cr2N等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al4C3、CaC2、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC等の炭化物系のセラミックス、ZrB2、MoB、LaB6、CeB6、Ni2B、TiB2、V2B2等のホウ化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組合せた複合セラミックスが挙げられる。このようなセラミックスは、従来、冷却ロールの周面を構成する材料として用いられてきたもの(Cu、Crなど)に比べ、高い硬度を有し、耐久性(耐摩耗性)に優れている。このため、冷却ロール5を繰り返し使用しても、周面53の形状が維持され、後述するガス抜き手段の効果も劣化しにくい。
【0076】
ところで、前述したロール基材51の構成材料は、通常、比較的高い熱膨張率を有している。そのため、表面層52の構成材料の熱膨張率は、ロール基材51の熱膨張率に近い値であるのが好ましい。表面層52の構成材料の室温付近での熱膨張率(線膨張率α)は、例えば、3.5〜18[×10−6K−1]程度であるのが好ましく、6〜12[×10−6K−1]程度であるのがより好ましい。表面層52の構成材料の室温付近における熱膨張率(以下、単に「熱膨張率」とも言う)がこのような範囲の値であると、ロール基材51と表面層52との高い密着性を維持することができ、表面層52の剥離をより効果的に防止することができる。
【0077】
また、表面層52は、単層のみならず、例えば組成の異なる複数の層の積層体であってもよい。例えば、表面層52は、前述した金属材料、セラミックス等で構成された層が2層以上積層されたものであってもよい。このような表面層52としては、例えば、ロール基材51側から金属層(下地層)/セラミックス層が積層された2層積層体で構成されたものが挙げられる。このような積層体の場合、隣接する層同士は、密着性の高いものが好ましく、その例としては、隣接する層同士に同一の元素が含まれているものが挙げられる。
【0078】
また、表面層52が複数の層の積層体である場合、少なくとも、その最外層が前述した範囲の熱伝導率を有する材料で構成されたものであるのが好ましい。
【0079】
また、表面層52が単層で構成されている場合でも、その組成は、厚さ方向に均一なものに限らず、例えば、含有成分が厚さ方向に順次変化するもの(傾斜材料)であってもよい。
【0080】
表面層52の平均厚さ(前記積層体の場合はその合計厚さ)は、特に限定されないが、0.5〜50μmであるのが好ましく、1〜20μmであるのがより好ましい。
【0081】
表面層52の平均厚さが下限値未満であると、次のような問題を生じる場合がある。すなわち、表面層52の材質によっては、冷却能が大きすぎて、厚さがかなり大きい急冷薄帯8でもロール面81付近では冷却速度が大きく、非晶質になり易くなる。一方、フリー面82付近では急冷薄帯8の熱伝導率が比較的小さいので急冷薄帯8の厚さが大きいほど冷却速度が小さくなり、その結果、結晶粒径の粗大化が起こり易くなる。すなわち、フリー面82付近では粗大粒、ロール面81付近では非晶質といった急冷薄帯となり易くなり、満足な磁気特性が得られない場合がある。また、フリー面82付近での結晶粒径を小さくするために、例えば、冷却ロール5の周速度を大きくして、急冷薄帯8の厚さを小さくしたとしても、ロール面81付近での非晶質がよりランダムなものとなり、急冷薄帯8の作成後に、熱処理を施したとしても、十分な磁気特性が得られない場合がある。
【0082】
また、表面層52の平均厚さが上限値を超えると、急冷速度が遅く、結晶粒径の粗大化が起こり、結果として磁気特性が低下する場合がある。
【0083】
なお、図8は、冷却ロールの周面付近の断面形状を説明するための図であり、ロール基材と表面層との境界は、省略して示した。
【0084】
表面層52の形成方法は、特に限定されないが、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVDなどの化学蒸着法(CVD)または真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理蒸着法(PVD)が好ましい。これらの方法を用いた場合、比較的容易に、表面層の厚さを均一にすることができるため、表面層52の形成後、その表面に機械加工を行わなくてよい。なお、表面層52は、その他、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ、溶射等の方法で形成されてもよい。この中でも、溶射により表面層52を形成した場合、ロール基材51と表面層52との密着性(接着強度)は、特に優れたものとなる。
【0085】
また、表面層52をロール基材51の外周に形成するのに先立ち、ロール基材51の外表面に対して、アルカリ洗浄、酸洗浄、有機溶剤洗浄等の洗浄処理や、ブラスト処理、エッチング、メッキ層の形成等の下地処理を施してもよい。これにより、表面層52の形成後におけるロール基材51と表面層52との密着性が向上する。また、前述したような下地処理を施すことにより、均一かつ緻密な表面層52を形成することができるため、得られる冷却ロール5は、各部位における熱伝導率のバラツキが特に小さいものとなる。
【0086】
冷却ロール5の周面53には、周面53と溶湯6のパドル(湯溜り)7との間に侵入したガスを排出するガス抜き手段としての溝54が設けられている。
【0087】
ガス抜き手段としての溝54が設けられることにより、周面53とパドル7との間からガスが排出されると、周面53とパドル7との密着性が向上する(巨大ディンプルの発生が防止される)。このように、溝54が設けられた周面53と、溶融状態のパドル7との密着性が向上することにより、得られる急冷薄帯8は、少なくともロール面(冷却ロールとの接触していた側の面)81に、冷却ロール5の周面53の形状(溝54または溝54−溝54間の凸条)が転写され、凸条または溝が形成されたものとなる。
【0088】
また、周面53とパドル7との密着性が向上することにより、パドル7の各部位における冷却速度の差は小さくなる。このため、得られる急冷薄帯8の各部位での組織差(例えば、各構成相の存在比や結晶粒径等の差)が小さくなり、結果として、磁気特性のバラツキが小さい磁石粉末を得ることができる。また、急冷薄帯8の各部位での組織差が小さいものであると、急冷薄帯8を粉砕して得られる磁石粉末内における局部電池の形成が効果的に防止される。その結果、磁石粉末は、安定性が特に優れたものとなる。
【0089】
図示の構成では、溝54は、冷却ロールの回転方向に対し、ほぼ平行に形成されている。ガス抜き手段がこのような溝であると、周面53とパドル7との間から溝54に送り込まれたガスが溝54の長手方向に沿って移動するため、周面53とパドル7との間に侵入したガスの排出効率は、特に高く、周面53に対するパドル7の密着性が向上する。
【0090】
溝54の幅、深さ、ピッチは、特に限定されず、磁石粉末の表面に形成する凸条または溝の形状に応じて決定される。
【0091】
溝54の形成方法は、特に限定されないが、例えば、切削、転写(圧転)、研削、ブラスト処理等の各種機械加工、レーザー加工、放電加工、化学エッチング等が挙げられる。その中でも、溝の幅、深さ、並設された溝のピッチ等の精度を高くすることが比較的容易である点で、機械加工、特に、切削であるのが好ましい。
【0092】
周面53の溝54を除く部分の表面粗さRaは、特に限定されないが、0.05〜5μmであるのが好ましく、0.07〜2μmであるのがより好ましい。表面粗さRaが下限値未満であると、冷却ロール5とパドル7との密着性が低下し、巨大ディンプルの発生を十分に抑制できない可能性がある。一方、表面粗さRaが上限値を超えると、得られる急冷薄帯8の各部位における厚さのバラツキが顕著となり、各部位での組織差(例えば、各構成相の存在比や結晶粒径等の差)が大きくなる可能性がある。このため、十分な磁気特性の急冷薄帯8を得るのが困難となる可能性がある。
【0093】
ロール基材51の外周面上に表面層52が設けられる場合(表面層52がロール基材51と一体形成されていない場合)、溝54は、表面層に直接、前述した方法により形成されたものであっても、そうでなくてもよい。すなわち、図9に示すように、表面層52を設けた後、その表面層に前述した方法により溝54を形成してもよいが、図10に示すように、ロール基材51の外周面上に、前述した方法により溝を形成した後、表面層52を形成してもよい。この場合、表面層52の厚さをロール基材51に形成された溝の深さに比べて小さくすることにより、結果として、表面層52の表面に機械加工を施すことなく、周面53上にガス抜き手段である溝54が形成される。この場合、表面層52の表面に機械加工等が施されないため、その後、研磨等が施されなくても周面53の表面粗さRaを比較的小さくすることができる。
【0094】
上述したような構成の急冷薄帯製造装置1は、チャンバー(図示せず)内に設置され、該チャンバー内に、好ましくは不活性ガスやその他の雰囲気ガスが充填された状態で作動する。特に、急冷薄帯8の酸化を防止するために、雰囲気ガスは、例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスであるのが好ましい。また、雰囲気ガスとしては、窒素ガスを用いることもできる。これにより、得られる急冷薄帯8にN原子を導入することができる。
【0095】
急冷薄帯製造装置1では、筒体2内に磁石材料の原料を入れ、コイル4により加熱して溶融する。
【0096】
加熱により溶融した前記原料の溶湯6をノズル3から吐出すると、図11に示すように、溶湯6は、回転軸50を中心にして回転する冷却ロール5の周面53に衝突し、パドル(湯溜り)7を形成した後、回転する冷却ロール5の周面53に引きずられつつ急速に冷却されて凝固し、急冷薄帯8が連続的または断続的に形成される。このようにして形成された急冷薄帯8は、やがて、そのロール面81が周面53から離れ、図6中の矢印9B方向に進行する。
【0097】
冷却ロール5の周速度は、合金溶湯の組成、周面53の溶湯6に対する濡れ性等によりその好適な範囲が異なるが、磁気特性向上のために、通常、10〜100m/秒であるのが好ましく、30〜85m/秒であるのがより好ましい。冷却ロール5の周速度が遅すぎると、急冷薄帯8の体積流量(単位時間当たりに吐出される溶湯の体積)によっては、急冷薄帯8の厚さtが厚くなり、結晶粒径が増大する傾向を示すため、その後に熱処理を行ったとしても磁気特性の向上が望めなくなる。逆に冷却ロール5の周速度が速すぎると、急冷薄帯8の厚さが薄くなり過ぎて、表面酸化による特性劣化が無視できなくなり、またボンド磁石として成形した際に高密度が得られにくくなる等の課題が生じる。
【0098】
以上のようにして得られた急冷薄帯8の平均厚さtは、10〜40μmであるのが好ましく、12〜30μmであるのがより好ましい。平均厚さtが下限値未満であると、非晶質組織が占める割合が大きくなり、その後に、後述する熱処理を施したとしても磁気特性が十分に向上しない場合がある。また、単位時間当たりの生産性も低下する。一方、平均厚さtが上限値を超えると、フリー面82側の結晶粒径が粗大化する傾向を示し、ロール面81付近とフリー面82付近とでの組織差が大きくなる。そのため、十分な磁気特性が得られない場合がある。
【0099】
なお、得られた急冷薄帯8に対しては、例えば、非晶質組織の結晶化の促進、組織の均質化のために、少なくとも1回熱処理を施すこともできる。この熱処理の条件としては、例えば、400〜900℃で、0.5〜600分程度とすることができる。
【0100】
また、この熱処理は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10−1〜1×10−6Torr)、あるいはアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0101】
このようにして得られた急冷薄帯8を粉砕することにより本発明の磁石粉末が得られる。上述したように、急冷薄帯8は、少なくともロール面81に凸条または溝を有するものであるから、これを粉砕して得られる磁石粉末12もその表面の少なくとも一部に凸条13または溝を有するものとなる。
【0102】
急冷薄帯8の粉砕は、例えば、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、ピンミル等の各種粉砕装置、破砕装置を用いて行うことができる。この場合、粉砕は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10−1〜1×10−6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うこともできる。
【0103】
このような粉砕の後、例えば、粉砕により導入されたひずみの影響の除去、結晶粒径の制御を目的として、熱処理を施すこともできる。この熱処理の条件としては、例えば、350〜850℃で、0.2〜300分程度とすることができる。
【0104】
また、この熱処理は、酸化を防止するために、真空または減圧状態下(例えば1×10−1〜1×10−6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中のような、非酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0105】
以上のような方法により製造された磁石粉末は、ロール面(冷却ロールと接触していた側の第1面)81付近におけるハード磁性相の平均結晶粒径をD1h[nm]、ロール面81付近におけるソフト磁性相の平均結晶粒径をD1s[nm]、フリー面(ロール面と反対側の第2面)82付近におけるハード磁性相の平均結晶粒径をD2h[nm]、フリー面82付近におけるソフト磁性相の平均結晶粒径をD2s[nm]としたとき、下記式( I )、( II )を満足する。
【0106】
1≦D2h/D1h≦10 ・・・(I)
1≦D2s/D1s≦10 ・・・(II)
【0107】
前述した様に、フリー面82側では、ハード磁性相、ソフト磁性相共に、ロール面81側に比べて結晶粒径が大きくなる傾向を示すので、D2h/D1hの下限値およびD2s/D1sの下限値は、いずれも1とされる。
【0108】
また、D2h/D1hまたはD2s/D1sが10以下であると、ロール面81とフリー面82とで、ハード磁性相、ソフト磁性相の結晶粒径の差が少なく、その結果、磁気特性が均一となり、全体として優れた磁気特性が得られる。
【0109】
また、このように、磁石粉末のロール面とフリー面とでの結晶粒径のバラツキが十分小さいものであると、磁石粉末内に局部電池が形成されるのを効果的に防止することができ、結果として、磁石粉末の安定性が特に優れたものとなる。
また、下記式(III)および(IV)を満足するのが好ましい。
【0110】
D1s/D1h≦1 ・・・(III)
D2s/D2h≦0.9 ・・・(IV)
【0111】
D1s/D1h≦1であると、ロール面81側において、ハード磁性相との結晶粒間相互作用により、ソフト磁性相の低磁界での磁化反転が抑制され、優れた磁気特性が得られる。
【0112】
また、D2s/D2h≦0.9であると、フリー面82側において、ハード磁性相との結晶粒間相互作用により、ソフト磁性相の低磁界での磁化反転が抑制され、優れた磁気特性が得られる。
【0113】
そして、式(III)および(IV)の双方を満たすことにより、全体として均一で、優れた磁気特性の磁石粉末が得られる。
【0114】
ここで、D1s/D1hの上限値が1であるのに対し、D2s/D2hの上限値が0.9であり、これらは異なっている。この理由は、フリー面82側では、ハード磁性相、ソフト磁性相共に、ロール面81側に比べて結晶粒径が大きくなる傾向を示すが、この結晶の大型化の傾向は、ハード磁性相とソフト磁性相とで異なることを本発明者は見出し、その結果、高磁気特性を発揮し得る上限値を繰り返し実験により求めたものである。
【0115】
したがって、D1s/D1hの上限値としてより好ましい値は、0.7であり、D2s/D2hの上限値としてより好ましい値は、0.3である。これにより、さらに高い磁気特性が得られる。
【0116】
以上、本発明の磁石粉末の製造方法の一例について説明したが、本発明の磁石粉末は、上述の方法により製造されたものに限定されるものではない。例えば、冷却ロールの周面上に設けられたガス抜き手段の形状は、上述の実施形態では、冷却ロールを1個用いた単ロール法について説明したが、双ロール法を用いてもよい。双ロール法を用いた場合、得られる急冷薄帯の対向する一対の面のそれぞれ(両面)に、前述したような凸条または溝を形成することができる。
【0117】
また、冷却ロールの周面上に設けられたガス抜き手段の形状は、前記実施形態で説明したものに限定されない。例えば、ガス抜き手段は、多点で交差する複数の溝であってもよい。ガス抜き手段がこのような形状を有するものであると、図5に示すような表面形状を有する磁石粉末を容易に製造することができる。
【0118】
また、前述したような磁石粉末表面の凸条または溝は、前述したようなガス抜き手段を有する冷却ロールを用いることにより形成できるが、合金組成、溶湯の冷却条件等を適宜設定することにより形成することもできる。
【0119】
[ボンド磁石およびその製造]
次に、本発明のボンド磁石について説明する。
【0120】
本発明のボンド磁石は、好ましくは、前述の磁石粉末を結合樹脂で結合してなるものである。
【0121】
結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
【0122】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0123】
これらのうちでも、成形性が特に優れており、機械的強度が高いことから、ポリアミド、耐熱性向上の点から、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイドを主とするものが好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂は、磁石粉末との混練性にも優れている。
【0124】
このような熱可塑性樹脂は、その種類、共重合化等により、例えば成形性を重視したものや、耐熱性、機械的強度を重視したものというように、広範囲の選択が可能となるという利点がある。
【0125】
一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、ビスフェノール型、ノボラック型、ナフタレン系等の各種エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0126】
これらのうちでも、成形性が特に優れており、機械的強度が高く、耐熱性に優れるという点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。また、これらの熱硬化性樹脂は、磁石粉末との混練性、混練の均一性にも優れている。
【0127】
なお、使用される熱硬化性樹脂(未硬化)は、室温で液状のものでも、固形(粉末状)のものでもよい。
【0128】
このような本発明のボンド磁石は、例えば次のようにして製造される。
磁石粉末と、結合樹脂と、必要に応じ添加剤(酸化防止剤、潤滑剤等)とを混合、混練してボンド磁石用組成物(コンパウンド)を製造し、このボンド磁石用組成物を用いて、圧縮成形(プレス成形)、押出成形、射出成形等の成形方法により、無磁場中で所望の磁石形状に成形する。結合樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、成形後、加熱等によりそれを硬化する。
【0129】
このとき、混練は、常温下で行われてもよいが、用いられる結合樹脂が軟化を開始する温度またはそれ以上の温度で行われるのが好ましい。特に、結合樹脂が熱硬化性樹脂である場合、結合樹脂が軟化を開始する温度以上の温度で、かつ結合樹脂が硬化に至らない状態で混練されるのが好ましい。
【0130】
このような温度で混練(温間混練)を行うことにより、混練の効率が向上し、常温で混練する場合に比べて、より短時間で均一に混練することが可能となるとともに、結合樹脂の粘度が下がった状態で混練されるので、磁石粉末と結合樹脂との密着性が向上し、結合樹脂が磁石粉末の周囲を覆うような状態となり易くなる。このように、磁石粉末が結合樹脂で覆われた状態になると、磁石粉末と外気との接触が遮断されることとなり、磁石粉末の経時劣化等が効果的に防止される。その結果、最終的に得られるボンド磁石は、安定性が特に優れたものとなる。
【0131】
また、温間混練を行うことにより、磁石粉末の表面に設けられた凸条間または溝内にも、軟化または溶融した結合樹脂が効率よく埋入する。その結果、コンパウンド中の空孔率を小さくすることができる。また、コンパウンド中の結合樹脂の含有量(含有率)の低減にも寄与する。
【0132】
また、上記各種方法による成形は、前記結合樹脂が軟化または溶融状態となる温度で行われるのが好ましい(温間成形)。
【0133】
このような温度で成形を行うことにより、結合樹脂の流動性が向上し、結合樹脂量が少ない場合でも高い成形性を確保することができる。
【0134】
また、結合樹脂の流動性が向上することにより、磁石粉末と結合樹脂との密着性が向上し、結合樹脂が磁石粉末の周囲を覆うような状態となり易くなる。このように、磁石粉末が結合樹脂で覆われた状態になると、磁石粉末と外気との接触が遮断されることとなり、磁石粉末の経時劣化等が効果的に防止される。その結果、最終的に得られるボンド磁石は、安定性が特に優れたものとなる。
【0135】
また、結合樹脂の流動性が向上することにより、磁石粉末の表面に設けられた凸条間または溝内にも、軟化または溶融した結合樹脂が効率よく埋入する。このため、磁石粉末と結合樹脂との結着力が向上するとともに、得られるボンド磁石中の空孔率は低くなる。その結果、高密度で、磁気特性、機械的強度の高いボンド磁石が得られる。
【0136】
機械的強度を表す指標の一例として、日本電子材料工業会標準規格「ボンド磁石の小形試験片による打ち抜きせん断試験方法」(EMAS−7006)による打ち抜きせん断試験によって得られる機械的強度が挙げられるが、本発明のボンド磁石では、この機械的強度が50MPa以上であるのが好ましく、60MPa以上であるのがより好ましい。
【0137】
ボンド磁石中の磁石粉末の含有量(含有率)は、特に限定されず、通常は、成形方法や、成形性と高磁気特性との両立を考慮して決定される。具体的には、75〜99.5wt%程度であるのが好ましく、85〜97.5wt%程度であるのがより好ましい。
【0138】
特に、ボンド磁石が圧縮成形により製造されたものの場合には、磁石粉末の含有量は、90〜99.5wt%程度であるのが好ましく、93〜98.5wt%程度であるのがより好ましい。
【0139】
また、ボンド磁石が押出成形または射出成形により製造されたものの場合には、磁石粉末の含有量は、75〜98wt%程度であるのが好ましく、85〜97wt%程度であるのがより好ましい。
【0140】
本発明では、磁石粉末の表面の少なくとも一部に凸条または溝が設けられているため、磁石粉末と結合樹脂との結着力が大きい。このため、用いる結合樹脂量を少なくした場合においても、高い機械的強度が得られる。したがって、磁石粉末の含有量(含有率)を多くすることが可能となり、結果として、高い磁気特性のボンド磁石が得られる。
【0141】
ボンド磁石の密度ρは、それに含まれる磁石粉末の比重、磁石粉末の含有量、空孔率等の要因により決定される。本発明のボンド磁石において、その密度ρは特に限定されないが、5.3〜6.6Mg/m3程度であるのが好ましく、5.5〜6.4Mg/m3程度であるのがより好ましい。
【0142】
また、ボンド磁石の空孔率は、5.0vol%以下であるのが好ましく、3.5vol%以下であるのがより好ましい。ボンド磁石の空孔率が上限値を超えると、用途によっては、満足な安定性、磁気特性が得られない場合がある。
【0143】
本発明のボンド磁石の形状、寸法等は特に限定されず、例えば、形状に関しては、例えば、円柱状、角柱状、円筒状(リング状)、円弧状、平板状、湾曲板状等のあらゆる形状のものが可能であり、その大きさも、大型のものから超小型のものまであらゆる大きさのものが可能である。特に、小型化、超小型化された磁石に有利であることは、本明細書中で度々述べている通りである。
【0144】
前述したように、本発明のボンド磁石は、優れた安定性を有している。
具体的には、本発明のボンド磁石は、その外表面にコーティング層を有さない状態で、60℃×95RH%の環境下に1000時間保持した場合において、前記環境下に保持する前の重量をW1b[g]、前記環境下に保持し、さらに乾燥した後の重量をW2b[g]、前記環境下に保持する前後での重量増加量をΔWb=W2b−W1b[g]、ボンド磁石の全外表面積をS[cm2]としたとき、(ΔWb/W1b)×100/Sで表わされる単位表面積あたりの重量増加率が0.2[重量%/cm2]以下である。
【0145】
ここで、(ΔWb/W1b)×100/Sで表わされる単位表面積あたりの重量増加率を0.2[重量%/cm2]以下と定めた理由は、次の通りである。
【0146】
ボンド磁石は、その用途によっては、過酷な環境下で長期間にわたって使用されることがある。このような過酷な環境下で用いられた場合、ボンド磁石は、その磁気特性が著しく低下することが知られている。例えば、高温条件下においては、磁石粉末のスピンの秩序配列が破壊され、磁気特性が低下することが知られている。また、酸素存在下に長期間放置された場合等においては、酸化による磁気特性の低下を生じることが知られている。また、高湿条件下では、ボンド磁石中の空孔等に水分が吸収され、磁気特性の低下を招くことが知られている。
【0147】
このため、近年、前記のような過酷な条件下で用いても、長期間にわたって安定した磁気特性が得られるような、安定性に優れた磁石が求められている。
【0148】
そこで、本発明では、前記安定性を評価するための総合的な指標として、(ΔWb/W1b)×100/Sで表わされる単位表面積あたりの重量増加率を導入した。本発明者は、前記単位表面積あたりの重量増加率が0.2[重量%/cm2]以下であると、ボンド磁石を前記のような過酷な条件下で用いても、十分な安定性が得られることを見出した。
【0149】
これに対し、前記単位表面積あたりの重量増加率が0.2[重量%/cm2]を超えると、ボンド磁石の使用条件、使用形態等によっては、十分な安定性が得られない場合がある。
【0150】
また、前述のように、前記条件下での単位表面積あたりの重量増加率は、ボンド磁石の外表面にコーティング層を有さない状態で測定する。ボンド磁石の外表面にコーティング層が存在すると、前記単位表面積あたりの重量増加率は、コーティング層の特性に大きく依存することとなり、ボンド磁石そのものの安定性を適正に評価するのが困難となる。
【0151】
また、ボンド磁石の外表面に設けられるコーティング層は、外部からの衝撃等により剥離する場合等もあり、ボンド磁石そのものが、高い安定性を有することが求められている。
【0152】
なお、本発明では、ボンド磁石そのものの安定性を評価するために、コーティング層を有さない状態で、前記単位表面積あたりの重量増加率の測定を行うが、本発明のボンド磁石は、その外表面にコーティング層を有するものであってもよい。これにより、ボンド磁石の安定性のさらなる向上を図ることができる。
【0153】
本発明のボンド磁石は、保磁力(室温での固有保磁力)HcJが320〜1200kA/mであるのが好ましく、400〜800kA/mがより好ましい。保磁力が前記下限値未満では、逆磁場がかかったときの減磁が顕著になり、また、高温における耐熱性が劣る。また、保磁力が前記上限値を超えると、着磁性が低下する。従って、保磁力HcJを上記範囲とすることにより、ボンド磁石(特に、円筒状磁石)に多極着磁等をするような場合に、十分な着磁磁場が得られないときでも、良好な着磁が可能となり、十分な磁束密度が得られ、高性能なボンド磁石を提供することができる。
【0154】
本発明のボンド磁石は、最大磁気エネルギー積(BH)maxが40kJ/m3以上であるのが好ましく、50kJ/m3以上であるのがより好ましく、70〜120kJ/m3であるのがさらに好ましい。最大磁気エネルギー積(BH)maxが40kJ/m3未満であると、モータ用に用いた場合、その種類、構造によっては、十分なトルクが得られない。
【0155】
【実施例】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0156】
[磁石粉末の製造]
以下のようにして、9種類の磁石粉末(サンプルNo.1〜No.9)を製造した。
【0157】
<サンプルNo.1>
図6〜図8に示すような冷却ロールを備えた急冷薄帯製造装置を用いて、以下に述べるような方法で合金組成がNd9.5Fe76Co8.5B6で表される磁石粉末を得た。
【0158】
まず、以下に示すような方法で、冷却ロールを製造した。
銅製のロール基材(直径:200mm、幅:30mm、20℃における熱伝導率:395W・m-1・K-1、20℃における熱膨張率(線膨張率α):16.5×10-6K-1)を用意し、その周面に切削加工を施し、ほぼ鏡面(表面粗さRa:0.07μm)とした。
【0159】
その後、ロール基材の外周面に切削加工を施すことにより、ロール基材の回転方向に対し、ほぼ平行な溝を形成した。
【0160】
このロール基材の外周面に、酸洗処理およびアルカリ洗浄処理(脱脂処理)を施した後、ロール基材の外周面に、セラミックスであるWC(20℃における熱伝導率:29.4W・m−1・K−1、20℃における熱膨張率(線膨張率α):3.8K−1)の表面層(平均厚さ:5μm)をイオンプレーティングにより形成し、図6〜図8に示すような冷却ロールを得た。
【0161】
以上のようにして得られた冷却ロールを備えた急冷薄帯製造装置を用いて、以下のようにして急冷薄帯を製造した。
【0162】
まず、Nd、Fe、Co、Bの各原料を秤量して母合金インゴットを鋳造した。
【0163】
急冷薄帯製造装置が収納されているチャンバー内を脱気した後、不活性ガス(ヘリウムガス)を導入し、所望の温度および圧力の雰囲気とした。
【0164】
その後、母合金インゴットを溶解して溶湯とし、さらに、冷却ロールの周速度を28m/秒とした。雰囲気ガスの圧力を60kPa、溶湯の噴射圧を40kPaとしたうえで、溶湯を冷却ロールの周面に向けて噴射し、急冷薄帯を連続的に作製した。得られた急冷薄帯の厚さは、約17μmであった。
【0165】
このようにして得られた急冷薄帯を粉砕した後、アルゴンガス雰囲気中675℃×300秒の熱処理を施すことにより、磁石粉末(サンプルNo.1)を得た。
【0166】
<サンプルNo.2〜No.7>
冷却ロールの周面上の溝の平均深さ、平均長さ、および並設された溝の平均ピッチの条件を変更した以外は、サンプルNo.1と同様にして、6種の磁石粉末(サンプルNo.2〜No.7)を製造した。
【0167】
<サンプルNo.8>
冷却ロールとして、ほぼ鏡面(表面粗さRa:0.07μm)のロール基材の外周面に、切削加工を施すことなく、WCの表面層(平均厚さ:5μm)を設け、さらに、その周面に切削加工を施し、ほぼ鏡面(表面粗さRa:0.07μm)としたものを用いた以外は、サンプルNo.1と同様にして、磁石粉末(サンプルNo.8)を製造した。
【0168】
<サンプルNo.9>
冷却ロールとして、ロール基材上に表面層を設けなかったものを用いた以外は、サンプルNo.1と同様にして、磁石粉末(サンプルNo.9)を製造した。
【0169】
[磁石粉末の特性評価]
各磁石粉末(サンプルNo.1〜No.9)について、平均粒径aを、F.S.S.S.(Fischer Sub-Sieve Sizer)法により測定した。その結果を表1に示す。
【0170】
また、各磁石粉末について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、これらの表面形状を観察した。サンプルNo.1〜No.7およびサンプルNo.9の磁石粉末の表面には、各冷却ロールの周面に形成された溝に対応する凸条が形成されていることが確認された。一方、サンプルNo.8の磁石粉末の表面には、このような凸条または溝の存在は、認められなかった。
【0171】
各磁石粉末の表面に形成された凸条の高さ、長さ、および並設された凸条のピッチを測定した。また、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の結果から、各磁石粉末について、全表面積に対し、凸条または溝の形成された部分の面積が占める割合を求めた。これらの値を表1に示す。
【0172】
また、各磁石粉末について、その相構成を分析するため、Cu−Kαを用い回折角20°〜60°にてX線回折を行った。
【0173】
回折パターンから、サンプルNo.1〜No.7およびサンプルNo.8、No.9の磁石粉末では、ハード磁性相であるR2(Fe・Co)14B型相と、ソフト磁性相であるα−(Fe,Co)型相の回折ピークが確認でき、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果から、いずれも、複合組織(ナノコンポジット組織)を形成していることが確認された。
【0174】
一方、サンプルNo.9の磁石粉末では、ハード磁性相であるR2(Fe・Co)14B型相の回折ピークのみを確認することができ、ソフト磁性相であるα−(Fe,Co)型相のピークを確認することはできなかった。
【0175】
また、各磁石粉末について、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果から、ロール面におけるα−(Fe,Co)型相の平均結晶粒径(D1s)、ロール面におけるR2(Fe・Co)14B型相の平均結晶粒径(D1h)、フリー面におけるα−(Fe,Co)型相の平均結晶粒径(D2s)、フリー面におけるR2(Fe・Co)14B型相の平均結晶粒径(D2h)を求めた。これらの値を表1に示す。
【0176】
【表1】
【0177】
また、各磁石粉末について、振動試料型磁力計を用いて、磁気特性を測定した。残留磁束密度Br、最大磁気エネルギー積(BH)max、および保磁力HcJの測定値を表2に示す。
【0178】
さらに、サンプルNo.1〜No.9の各磁石粉末を所定量取り出し、これらを、60℃×95RH%の環境下に1000時間保持し、その後、乾燥させた。前記環境下に保持する前の重量をW1p[g]、前記環境下に保持し、さらに乾燥した後の重量をW2p[g]、前記環境下に保持する前後での重量増加量をΔWp=W2p−W1p[g]としたとき、(ΔWp/W1p)×100で表わされる重量増加率を、各磁石粉末について求めた。重量測定には、電子天秤(METTLER社製、型式:AE50)を用いた。これらの結果を表2に示す。
【0179】
【表2】
【0180】
表2から明らかなように、サンプルNo.1〜No.7の磁石粉末は、磁気特性に優れている。また、重量増加率が小さいことから、優れた安定性を有するものであることが分かる。
【0181】
これに対し、サンプルNo.8、No.9の磁石粉末は、磁気特性に劣っている。また、重量増加率が大きいことから、安定性にも劣っていることが分かる。
【0182】
[ボンド磁石の製造および特性評価]
各磁石粉末に、エポキシ樹脂と、少量のヒドラジン系酸化防止剤とを混合し、これらを100℃×10分間混練(温間混練)して、ボンド磁石用組成物(コンパウンド)を作製した。
【0183】
このとき、磁石粉末、エポキシ樹脂、ヒドラジン系酸化防止剤の配合比率(重量比率)は、それぞれ97.5wt%、1.3wt%、1.2wt%とした。
【0184】
次いで、このコンパウンドを粉砕して粒状とし、この粒状物を秤量してプレス装置の金型内に充填し、無磁場中にて、温度25℃、圧力1000MPaで圧縮成形(温間成形)してから冷却し、離型した後、150℃のアルゴンガス雰囲気中でエポキシ樹脂を加熱硬化させ、直径10mm×高さ7mmの円柱状のボンド磁石(磁気特性測定用)と、直径10mm×高さ2mmの円柱状のボンド磁石(安定性試験用)と、直径10mm×高さ8mmの円柱状のボンド磁石(リサイクル性試験用)と、10mm角×厚さ3mmの平板状のボンド磁石(機械的強度測定用)とを得た。なお、平板状ボンド磁石は各磁石粉末毎に5個づつ作製した。
【0185】
サンプルNo.1〜No.7(いずれも本発明)およびサンプルNo.9(比較例)によるボンド磁石は、良好な成形性で製造することができた。一方、サンプルNo.8(比較例)によるボンド磁石は、製造時における成形性に劣っていた。
【0186】
<1>磁気特性の測定
直径10mm×高さ7mmの円柱状の各ボンド磁石について、磁場強度3.2MA/mのパルス着磁を施した後、直流自記磁束計(東英工業(株)製、TRF−5BH)にて最大印加磁場2.0MA/mで磁気特性(保磁力HcJ、磁束密度Brおよび最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定した。測定時の温度は、23℃(室温)であった。
【0187】
<2>機械的強度の測定
平板状の各ボンド磁石について、打ち抜きせん断試験により機械的強度を測定した。試験機には、(株)島津製作所製オートグラフを用い、円形ポンチ(外径3mm)により、せん断速度1.0mm/分で行った。
【0188】
また、機械的強度の測定後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて各ボンド磁石の破断面の様子を観察した。その結果、サンプルNo.1〜No.7(本発明)によるボンド磁石では、並設された凸条間に結合樹脂が効率よく埋入している様子が確認された。
【0189】
<3>安定性試験
直径10mm×高さ2mmの円柱状の各ボンド磁石について、磁場強度3.2MA/mのパルス着磁を施した後、直流自記磁束計(東英工業(株)製、TRF−5BH)にて最大印加磁場2.0MA/mで磁気特性(保磁力HcJ、磁束密度Brおよび最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定した。測定時の温度は、23℃(室温)であった。
【0190】
次に、各ボンド磁石を、60℃×95RH%の環境下に、ボンド磁石同士が吸着しないように十分注意を払いながら1000時間保持した。
その後、各ボンド磁石を乾燥させ、重量W2b[g]の測定を行った。
【0191】
この結果を基に、前記環境下に保持する前の重量をW1b[g]、前記環境下に保持する前後での重量増加量をΔWb=W2b−W1b[g]、ボンド磁石の全外表面積をS[cm2]としたとき、(ΔWb/W1b)×100/Sで表わされる単位表面積あたりの重量増加率[重量%/cm2]を求めた。
【0192】
なお、前記環境下に保持する前後におけるボンド磁石の重量の測定には、電子天秤(METTLER社製、型式:AE50)を用いた。
【0193】
さらに、前記環境下に保持した各ボンド磁石について、前記と同様にして磁気特性(保磁力HcJ、磁束密度Brおよび最大磁気エネルギー積(BH)max)の測定を行った。これらの結果を用いて、前記環境下に保持することによる磁気特性の低下度[%]を求めた。
【0194】
<4>リサイクル性試験
直径10mm×高さ8mmの円柱状の各ボンド磁石について、磁場強度3.2MA/mのパルス着磁を施した後、直流自記磁束計(東英工業(株)製、TRF−5BH)にて最大印加磁場2.0MA/mで磁気特性(保磁力HcJ、磁束密度Brおよび最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定した。測定時の温度は、23℃(室温)であった。
【0195】
磁気特性の測定後、脱磁処理を施し、さらに、各ボンド磁石を平均粒径が約20μmとなるように粉砕した。その粉砕物を、2-ブタノン中に浸漬することにより、結合樹脂を溶解させ、磁石粉末のみを取り出した。
【0196】
取り出した磁石粉末を用いて、前記と同様にしてボンド磁石を作成し、これらの磁気特性(保磁力HcJ、磁束密度Brおよび最大磁気エネルギー積(BH)max)を測定した。これらの結果を用いて、リサイクルによる磁気特性の低下度を求めた。
上記<1>〜<4>の試験、測定の結果を表3に示す。
【0197】
【表3】
【0198】
表3から明らかなように、サンプルNo.1〜No.7(本発明)によるボンド磁石では、磁気特性および安定性に優れている。これは、磁気特性および安定性に優れた磁石粉末を用いて製造されたものであるためであると考えられる。また、本発明では、磁石粉末の表面の少なくとも一部に凸条または溝が設けられているため、結合樹脂との密着性に優れ、ボンド磁石としたときに、特に優れた安定性が得られるものと考えられる。
【0199】
これに対し、サンプルNo.8、No.9(いずれも比較例)によるボンド磁石は、磁気特性および安定性に劣っていた。
【0200】
また、サンプルNo.1〜No.7(本発明)によるボンド磁石は、機械的強度にも優れていた。これは、以下のような理由によるものであると考えられる。
【0201】
サンプルNo.1〜No.7(本発明)によるボンド磁石では、磁石粉末の表面に凸条が並設されているため、この凸条間に結合樹脂が効率よく埋入している。このため、磁石粉末と結合樹脂との結着力が増し、少ない結合樹脂量でも、高い機械的強度が得られる。
【0202】
これに対し、サンプルNo.8(比較例)によるボンド磁石は、機械的強度に劣っていた。
【0203】
また、サンプルNo.1〜No.7(本発明)によるボンド磁石は、磁石粉末のリサイクル性にも優れていた。これは、磁石粉末の安定性が優れており、ボンド磁石製造時(混練時、成形時等)における磁気特性の劣化が特に少ないためであると考えられる。
【0204】
これに対し、サンプルNo.8、No.9(いずれも比較例)によるボンド磁石は、磁石粉末のリサイクル性にも劣っていた。
【0205】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果が得られる。
【0206】
・磁石粉末が、複合組織で構成され、かつ、その表面の少なくとも一部に凸条または溝が設けられているため、優れた安定性(特に、ボンド磁石とした時の安定性)、優れた磁気特性が得られる。
【0207】
・磁石粉末の表面の少なくとも一部に凸条または溝が設けられているため、磁石粉末と結合樹脂との結着力が増し、高い機械的強度のボンド磁石が得られる。
【0208】
・少ない結合樹脂量でも、成形性が良く、高い機械的強度のボンド磁石が得られるため、磁石粉末の含有量(含有率)を多くすることが可能となり、また、空孔率も低減され、結果として、さらに高い磁気特性のボンド磁石が得られる。
【0209】
・高密度化が可能なので、従来の等方性ボンド磁石に比べ、より小さい体積のボンド磁石で同等以上の磁気特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のボンド磁石を構成する磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図2】 本発明のボンド磁石を構成する磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図3】 本発明のボンド磁石を構成する磁石粉末における複合組織(ナノコンポジット組織)の一例を模式的に示す図である。
【図4】 本発明のボンド磁石を構成する磁石粉末に形成された凸条または溝の形状の一例を模式的に示す図である。
【図5】 本発明のボンド磁石を構成する磁石粉末に形成された凸条または溝の形状の一例を模式的に示す図である。
【図6】 急冷薄帯の製造に用いる冷却ロールと、その冷却ロールを備えた薄帯状磁石材料の製造装置(急冷薄帯製造装置)の構成例とを模式的に示す斜視図である。
【図7】 図6に示す冷却ロールの正面図である。
【図8】 図6に示す冷却ロールの周面付近の断面形状を模式的に示す図である。
【図9】 ガス抜き手段の形成方法を説明するための図である。
【図10】 ガス抜き手段の形成方法を説明するための図である。
【図11】 図6に示す装置における溶湯の冷却ロールへの衝突部位付近の状態を示す断面側面図である。
【符号の説明】
1 急冷薄帯製造装置
2 筒体
3 ノズル
4 コイル
5 冷却ロール
50 回転軸
51 ロール基材
52 表面層
53 周面
54 溝
6 溶湯
7 パドル
8 急冷薄帯
81 ロール面
82 フリー面
9A 矢印
9B 矢印
10 ソフト磁性相
11 ハード磁性相
12 磁石粉末
13 凸条
Claims (5)
- 周面にガス抜き手段を有する冷却ロールを用いて製造された急冷薄帯を粉砕して得られ、ハード磁性相とソフト磁性相とを有する複合組織で構成され、かつ、その表面の少なくとも一部に、前記冷却ロールの周面の形状が転写されることにより形成された複数の凸条または溝を有する複数個の磁石粉末を、結合樹脂と混合し成形して得られたボンド磁石であって、
前記磁石粉末は、R(ただし、Rは、Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)と遷移金属とを含む合金組成を有するものであり、
前記磁石粉末の前記凸条間または前記溝内に、前記結合樹脂が埋入しており、
ボンド磁石の外表面にコーティング層を有さない状態で、60℃×95RH%の環境下に1000時間保持した場合において、
前記環境下に保持する前の重量をW1b[g]、
前記環境下に保持し、さらに乾燥した後の重量をW2b[g]、
前記環境下に保持する前後での重量増加量をΔWb=W2b−W1b[g]、
ボンド磁石の全外表面積をS[cm2]としたとき、
(ΔWb/W1b)×100/Sで表わされる単位表面積あたりの重量増加率が0.2[重量%/cm2]以下であり、
前記ハード磁性相およびソフト磁性相の平均結晶粒径は、いずれも1〜100nmであり、
前記磁石粉末の平均粒径をa[μm]としたとき、前記凸条または前記溝の平均長さが、a/40[μm]以上であり、
前記凸条の平均高さまたは前記溝の平均深さが、0.1〜10μmであり、
前記凸条または前記溝が並設されており、その平均ピッチが、0.5〜100μmであり、
前記磁石粉末の平均粒径が5〜300μmであり、
前記磁石粉末の全表面積に対し、前記凸条または前記溝の形成された部分の面積の占める割合が、15%以上であり、
前記磁石粉末の、前記急冷薄帯の製造時に前記冷却ロールと接触していた側の第1面付近におけるハード磁性相の平均結晶粒径をD1h[nm]、前記第1面付近におけるソフト磁性相の平均結晶粒径をD1s[nm]、前記第1面と反対側の第2面付近におけるハード磁性相の平均結晶粒径をD2h[nm]、前記第2面付近におけるソフト磁性相の平均結晶粒径をD2s[nm]としたとき、下記式( I )および下記式( II )を満足することを特徴とするボンド磁石。
1≦D2h/D1h≦10 ・・・( I )
1≦D2s/D1s≦10 ・・・( II ) - ボンド磁石は、複数個の前記磁石粉末と、前記結合樹脂とを温間混練することにより得られた混練物を用いて製造されたものである請求項1に記載のボンド磁石。
- ボンド磁石は、温間成形により製造されたものである請求項1または2に記載のボンド磁石。
- 空孔率が5.0vol%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載のボンド磁石。
- 前記磁石粉末の含有量が75〜99.5wt%である請求項1ないし4のいずれかに記載のボンド磁石。
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