JP3985463B2 - 耐焼付き性、防錆性、気密性に優れた鋼管用ねじ継手 - Google Patents
耐焼付き性、防錆性、気密性に優れた鋼管用ねじ継手 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、油井管の締結に使用される鋼管用ねじ継手に関し、より具体的には、従来は締結ごとに焼付き防止のため実施されてきた、重金属粉を含むコンパウンドグリスの塗布が不要となる、耐焼付き性、気密性、防錆性に優れた鋼管用ねじ継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
油井掘削に用いられる鋼管である油井管は、鋼管用ねじ継手で締結される。このねじ継手は、雄ねじを備えたピンと、雌ねじを備えたボックスとから構成される。
【0003】
図1に模式的に示すように、通常は鋼管Aの両端の外面に雄ねじ3Aを形成してピン1とし、別部材のスリーブ型の継手部材Bの内面に両側から雌ねじ3Bを形成してボックス2とする。図1に示す通り、鋼管Aは、その一方の端部に予め継手部材Bを締め付けた状態で出荷されるのが普通である。
【0004】
鋼管用ねじ継手には、鋼管と継手の重量に起因する軸方向引張力や地中での内外面圧力などの複合した圧力に加え、地中での熱が作用するので、このような環境下でも破損せずに気密性 (シール性) を保持することが要求される。また、油井管の降下作業時には、一度締め込んだ継手を緩め、再度締め直して締結することがある。そのため、API (米国石油協会) では、チュービング継手においては10回の、ケーシング継手では3回の締付け (メイクアップ) 、緩め (ブレークアウト) を行っても、ゴーリングと呼ばれる焼付きの発生が無く、気密性が保持されることを求めている。
【0005】
近年では、気密性向上の観点から、金属対金属接触によるメタルシールが可能な特殊ねじ継手が一般に使用されるようになっている。この種のねじ継手では、ピンとボックスのいずれも、雄ねじまたは雌ねじからなるねじ部に加えて、ねじ無し金属接触部を有しており、このねじ部とねじ無し金属接触部の両方が接触表面となる。ピンとボックスのねじ無し金属接触部同士が当接して、金属−金属間接触によるメタルシール部が形成され、気密性が向上する。
【0006】
このようなねじ継手では、接触表面、特にねじ無し金属接触部の焼付きを防止するため、コンパウンドグリスと呼ばれる高潤滑の液状潤滑剤が使用されてきた。このグリスを、締付け前にピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面に塗布する。しかし、このグリスには有害な重金属が多量に含まれており、締付けに伴って周囲にはみ出たグリスを洗浄液で洗浄するが、この作業でコンパウンドグリスやその洗浄液が海洋や土壌に流出して環境汚染を引き起こすことが問題視されるようになった。また、締付けを繰り返すたびに必要となる洗浄とグリス塗布が、リグ現場での作業効率を低下させるという問題もあった。
【0007】
そこで、コンパウンドグリスの塗布が不要な鋼管用ねじ継手として、特開平8−103724号、特開平8−233163号、特開平8−233164号、特開平9−72467 号各公報には、ピンとボックスの少なくとも一方のねじ部とねじ無し金属接触部 (即ち、接触表面) に、結合剤の樹脂と固体潤滑剤の二硫化モリブデンまたは二硫化タングステンとからなる固体潤滑被膜を形成したねじ継手が開示されている。
【0008】
また、これらの公報には、固体潤滑被膜と基材との密着性を高めるため、固体潤滑被膜の下地処理層として、燐酸マンガン系化成処理被膜層や、窒化層と燐酸マンガン系化成処理被膜層を形成するか、あるいは接触表面にRmax 5〜40μmの凹凸を設けることも開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このように接触表面に固体潤滑被膜を形成した鋼管用ねじ継手の開発により、コンパウンドグリスの塗布が不要となり、前述した環境問題や作業効率の問題は解決できる。
【0010】
しかし、上記公報に開示されている従来の固体潤滑被膜では、鋼管用ねじ継手に要求される耐焼付き性や気密性を十分に確保することができないでいた。特に、ねじ継手の工場出荷(即ち、固体潤滑被膜の形成)から実際にリグ現場での締付けに使用するまでのねじ継手の保管期間が長い(時には1〜2年にもなる)場合に、耐焼付き性と気密性の劣化が顕著であった。
【0011】
本発明者は、その原因が、従来の固体潤滑被膜は、防錆能力がコンパウンドグリスに比べて著しく劣り、保管中にねじ継手の接触表面の発錆を完全に防止することができないことにあることを究明した。ねじ継手の保管中にピンまたはボックスの接触表面に錆が発生すると、固体潤滑被膜はその密着性が極度に低下し、被膜の膨れや剥離を生ずる上、接触表面には錆による凹凸ができる。その結果、継手の締結時の締付けが不安定になり、締付け・緩めの際に焼付きが発生したり、継手の気密性が低下するという問題を引き起こすのである。
【0012】
出荷時に接触表面にコンパウンドグリスが塗布されていると、コンパウンドグリスは防錆力も高いため、錆の発生が効果的に抑制される。しかし、コンパウンドグリスを塗布してしまうと、前述したように環境への悪影響がある。一方、固体潤滑被膜を接触表面に形成した、コンパウンドグリス塗布が不要の従来のねじ継手には、繰り返しの締付け・緩めにおいて優れた耐焼付き性と気密性を発揮でき、かつ工場出荷時から搬送、現地使用までの期間における錆の発生を防止できる防錆性にも優れたものが実現できていないのが現状である。
【0013】
本発明の目的は、コンパウンドグリスなどの重金属粉を含む液状潤滑剤を用いることなく、固体潤滑被膜の施工時から現地使用までの期間において錆発生を効果的に防止でき、繰り返しの締付け・緩めの際の焼付き発生や気密性低下を抑制することのできる、防錆性、耐焼付き性、気密性に優れた鋼管用ねじ継手を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、接触表面に固体潤滑被膜が形成されている、コンパウンドグリス塗布が不要なねじ継手に見られる、保管中の発錆の原因を調査した結果、固体潤滑被膜に結合剤として使用されている樹脂が経時劣化、特に紫外線による劣化を起こし、被膜に割れを生じて、そこから水分が侵入することが主要な原因であることを究明した。
【0015】
そこで、樹脂と潤滑性粉末とからなる固体潤滑被膜の紫外線劣化を防止する手段について検討したところ、有機系の紫外線吸収剤ではなく、無機系の紫外線遮蔽性微粒子の添加が有効であり、紫外線遮蔽性微粒子を含有させた固体潤滑被膜を形成したねじ継手は長期保管中の発錆が著しく抑制されることを見出した。
【0016】
本発明は、ねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面をそれぞれ有するピンおよびボックスから構成される鋼管用ねじ継手であって、ピンおよびボックスの少なくとも一方の接触表面に、潤滑性粉末、紫外線遮蔽性微粒子、および有機樹脂結合剤とからなる固体潤滑被膜が形成されていることを特徴とする鋼管用ねじ継手である。
【0017】
本発明は下記の各種態様を包含する:
(1) 潤滑性粉末が、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれた1種または2種以上の粉末である。
【0018】
(2) 紫外線遮蔽性微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄から選ばれた1種または2種以上の微粒子である。
(3) 紫外線遮蔽性微粒子が、平均粒径0.01〜0.1 μmの超微粒子である。
【0019】
(4) 紫外線遮蔽性微粒子が、有機樹脂結合剤100 に対して 0.1〜50の質量比で固体潤滑被膜中に含まれる。
(5) 固体潤滑被膜が形成されている接触表面が、この被膜の下地処理層として多孔質被膜層を有する。
【0020】
【発明の実施の形態】
図2は、代表的な鋼管用ねじ継手の構成を模式的に示す概要図である。符号1はピン、2はボックス、3はねじ部、4はねじ無し金属接触部、5はショルダー部を示す。以下、ねじ無し金属接触部を単に金属接触部ともいう。
【0021】
図2に示したように、典型的なねじ継手は、鋼管端部の外面に形成された、ねじ部3(即ち、雄ねじ部)及びねじ無し金属接触部4を有するピン1と、ねじ継手部材の内面に形成された、ねじ部3(即ち、雌ねじ部)およびねじ無し金属接触部4を有するボックス2とで構成される。ただし、ピンとボックスは図示のものに制限されない。例えば、継手部材を使用せず、鋼管の一端をピン、他端をボックスとしたり、あるいは継手部材をピン (雄ねじ) として、鋼管の両端をボックスとすることも可能である。
【0022】
ピン1とボックス2のそれぞれに設けたねじ部3と (ねじ無し) 金属接触部4がねじ継手の接触表面である。この接触表面、中でも、より焼付きの起こりやすい金属接触部には、耐焼付き性が要求される。従来は、そのために、重金属粉を含有するコンパウンドグリスを接触表面に塗布していたが、前述したように、コンパウンドグリスの使用には環境面と作業効率の面で問題が多い。
【0023】
一方、ねじ継手の接触表面に、潤滑性粉末と樹脂結合剤とからなる従来の固体潤滑被膜を形成した場合、この被膜の防錆性が低く、現場で使用するまでの保管期間中にねじ継手の接触表面に錆が発生して、耐焼付き性や気密性が不十分となる。
【0024】
本発明によれば、この固体潤滑被膜に紫外線遮蔽性微粒子を添加し、潤滑性粉末と樹脂結合剤と紫外線遮蔽性微粒子とからなる組成を持つ固体潤滑被膜とすることにより、被膜の耐焼付き性や気密性を維持したまま、その防錆性を著しく改善すること可能となり、経時劣化による発錆と、それに伴う焼付き発生や気密性低下を防止することができる。即ち、固体潤滑被膜が形成されたねじ継手を屋外の長期保管しても、その性能に著しい劣化がなくなり、製品の信頼性が著しく改善される。
【0025】
塗料等では塗膜に耐候性を付与するため、有機系の紫外線吸収剤(例、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体)が使用されるが、本発明では、そのような有機系の紫外線吸収剤では有効ではない。
【0026】
本発明で用いる紫外線遮蔽性微粒子は、紫外領域(波長 300〜400 nm) における吸光度、屈折率が高い微粒子であれば特に限定されない。そのような微粒子の材料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、シリカ、ジルコニアとポリアミドとの複合粒子、鉄を配位させた合成マイカなどがある。
【0027】
耐焼付き性への悪影響が少ないという理由からは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、シリカが好ましい。さらに、被膜中での微粒子の均一分散性の観点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄がより一層好ましい。
【0028】
紫外線遮蔽性微粒子は、紫外線遮蔽性、つまり固体潤滑被膜の経時劣化性と、耐焼付き性とのバランスの観点から、平均粒径が0.01〜0.1 μmの範囲内の、いわゆる超微粒子のものを使用することが好ましいが、平均粒径が2μm程度までは使用可能である。紫外線遮蔽性微粒子の平均粒径が0.01μm未満では、微粒子同士の凝集がひどく、分布に偏りを生じて、固体潤滑被膜の経時劣化性が不足することがある。一方、平均粒径が0.1 μmより大きな紫外線遮蔽性微粒子は、潤滑性粉末の焼付き抑制効果を阻害し、耐焼付き性を低下させることがある。
【0029】
固体潤滑被膜中の紫外線遮蔽性微粒子の含有量は、質量比で結合剤100 に対し 0.1〜50の範囲とすることが望ましい。紫外線遮蔽性微粒子の量が、樹脂100 に対する質量比で0.1 より少ないと、紫外線遮蔽効果が少なく、固体潤滑被膜の経時劣化を抑制する作用が不足し、防錆性、気密性、繰り返し締付け・緩めの際の耐焼付き性を維持できないことがある。一方、紫外線遮蔽性微粒子の量がこの質量比で50を超える多量の紫外線遮蔽性微粒子の添加は、固体潤滑被膜の強度、密着性、耐焼付き性に実質的な悪影響を及ぼす恐れがある。
【0030】
固体潤滑被膜に使用する潤滑性粉末と樹脂結合剤は、従来よりこの種の固体潤滑被膜に使用されてきたものと同様でよい。
潤滑性粉末は、潤滑効果を有するものであれば特に限定されないが、耐焼付き性の観点から、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化硼素、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)から選ばれた1種または2種以上の材料の粉末を使用するのが好ましい。
【0031】
潤滑性粉末の平均粒径は、特に限定するものではないが、 0.5〜60μmの範囲内が好ましい。潤滑性粉末が0.5 μmより小さい平均粒径を有すると、粉末同士が凝集し易くなり、固体潤滑被膜中に均一に分散し難くなり、局所的に性能が不足することがある。一方、粉末の平均粒径が60μmを超えると、固体潤滑被膜の強度が低下するばかりではなく、下地との密着性も低下するため、焼付きの発生を抑制できないことがある。
【0032】
本発明は、結合剤が樹脂、特に有機系の樹脂である場合に顕著な効果を発揮する。
有機樹脂としては、耐熱性と適度な硬さと耐摩耗性とを有するものが好適である。そのような樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素(ウレア)樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにポリアミドイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂などの熱可塑性樹脂を例示できる。
【0033】
有機樹脂に対する溶媒は、炭化水素系(例、トルエン)、アルコール系(例、イソプロピルアルコール)をはじめとする、各種の低沸点溶媒を単独あるいは混合して用いることができる。
【0034】
有機樹脂の溶液に潤滑性粉末と紫外線遮蔽性微粒子とを添加し、均一に分散させて塗布液を調製する。この塗布液を、ねじ継手のピンとボックスの少なくとも一方の接触表面に塗布し、塗膜を乾燥させて、固体潤滑被膜を形成する。塗布液の塗布方法は、刷毛塗り、浸漬処理、エアースプレー法等の公知の適当な方法でよい。固体潤滑被膜の密着性と耐摩耗性の観点から、乾燥した固体潤滑被膜を加熱して、被膜を硬質化させることが好ましい。この加熱温度は、好ましくは120 ℃以上、より好ましくは 150〜380 ℃であり、加熱時間は、鋼管用ねじ継手のサイズにより設定されればよいが、好ましくは30分以上、より好ましくは30〜60分である。
【0035】
ねじ継手の接触表面に形成された、潤滑性粉末を含有する固体潤滑被膜は、ねじ継手の繰り返しの締付け・緩め時に高い摺動面圧を受けて、潤滑性粉末を含む摩耗粉を発生する。この潤滑性粉末を含む摩耗粉が、接触表面全体に拡がって、接触界面で金属間接触の防止と摩擦軽減に寄与し、焼付き防止効果を発揮するものと推定される。
【0036】
潤滑性粉末と樹脂結合剤の配合比は、特に限定されないが、耐焼付き性の観点から潤滑性粉末/結合剤の質量比が 0.3〜9.0 の範囲内となるような配合比とすることが好ましい。潤滑性粉末/結合剤の質量比が0.3 未満では、上記摩耗粉中における潤滑性粉末の量が不足し、耐焼付き性が不足することがある。一方、前記質量比が9.0 を超えると、固体潤滑被膜層の強度が不足し、高い面圧に耐えられなくなる上、被膜の密着性も低下するため、耐焼付き性、気密性が劣化することがある。潤滑性粉末/結合剤の質量比は、耐焼付き性の観点から好ましくは0.5 〜9.0 の範囲内であり、さらに密着性も考慮すると、より好ましくは 1.0〜8.5 の範囲内である。
【0037】
固体潤滑被膜の硬度は、JIS-K7202 で規定されるロックウェルMスケールで、70〜140 の範囲であることが望ましい。被膜の表面硬度がロックウェルMスケールで70未満では、繰り返しの締付け・緩めの際の摺動摩擦による被膜の摩耗が速く、耐焼付き性が不足することがある。一方、この硬度が140 を超えると、摩耗が少なすぎ、焼付きを防止に十分な潤滑性粉末を接触界面に供給ができなくなることがある。
【0038】
固体潤滑被膜の厚みは5μm以上、50μm以下とすることが望ましい。潤滑被膜の厚さが5μm未満では、締付け・緩めの繰り返しによる被膜の摩耗により被膜切れを起こして、焼付きを生ずることがある。固体潤滑被膜の膜厚が50μmより大きくなると、締付け量が不十分となり、気密性が低下したり、気密性を確保するために面圧を高めると、焼付きが発生し易くなったり、潤滑被膜が剥離し易くなると、いったことが起こりやすくなる。耐焼付き性の観点から、固体潤滑被膜の膜厚はより好ましくは15μm以上、40μm以下である。
【0039】
固体潤滑被膜には、防錆剤を始めとする各種添加剤を、耐焼付き性を損なわない範囲で添加することもできる。例えば、亜鉛粉、クロム顔料、シリカ、アルミナの1種もしくは2種以上の粉末を添加することができる。また、着色剤を含有させて、形成された固体潤滑被膜を着色してもよい。なお、塗布液には、分散剤、消泡剤、増粘剤等の1種または2種以上の添加剤を適宜含有させることもできる。
【0040】
本発明に従って固体潤滑被膜を形成する、ピンとボックスの少なくとも一方の接触表面は、固体潤滑被膜の密着性を確保するため、被膜形成前に、その表面粗さRmax が、機械切削後の表面粗さ (3〜5μm)より大きな5〜40μmの範囲となるよう予め粗面化しておくことが望ましい。固体潤滑被膜を形成する接触表面の表面粗さ (Rmax)が5μmより小さいと、固体潤滑被膜の密着性が低下する傾向がある。一方、この表面粗さが40μmを超えると、摩擦が高くなり、固体潤滑被膜の摩耗を早め、繰り返しの締付け・緩めに耐えられないことがある。
【0041】
粗面化の方法としては、サンドまたはグリッドを投射する方法、硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸などの強酸液に浸漬して肌を荒らす方法といった、鋼表面それ自体を粗面化する方法に加え、鋼表面より粗面となる下地処理層を形成して、塗布面を粗面化する方法も可能である。
【0042】
このような下地処理の例としては、リン酸塩、蓚酸塩、硼酸塩等の化成処理被膜(生成する結晶の成長に伴い、結晶表面の粗さが増す)を形成する方法、銅めっきまたは鉄めっきのような金属の電気めっき (凸部が優先してめっきされるため、僅かであるが表面が粗くなる)を施す方法、鉄芯に亜鉛または亜鉛−鉄合金等を被覆した粒子を遠心力またはエアー圧を利用して投射し、亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金の被膜を形成させる衝撃めっき法、窒化層を形成する軟窒化法(例えば、タフトライド)、金属中に固体微粒子を分散させた多孔質被膜を形成する複合金属被覆法などが挙げられる。
【0043】
固体潤滑被膜の密着性の観点からは、多孔質被膜、特にリン酸塩化成処理(リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸鉄マンガン、リン酸亜鉛カルシウム)や、衝撃めっきによる亜鉛または亜鉛−鉄合金の被膜が好ましい。密着性の観点からリン酸マンガン被膜が、防錆性の観点から亜鉛または亜鉛−鉄合金の被膜が、より好ましい。
【0044】
リン酸塩系化成処理被膜や、衝撃めっきによって形成された亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金の被膜は、いずれも多孔質な被膜であるため、その上に固体潤滑被膜を形成すると、固体潤滑被膜の密着性が高まる。その結果、締付け・緩めを繰り返しても固体潤滑被膜の剥離が起こらず、金属間接触が効果的に防止され、耐焼付き性、気密性、防錆性が一層向上する。
【0045】
下地処理層が多孔質であっても、その上に本発明に従って固体潤滑被膜を形成することにより、下地の多孔質被膜の空隙が封鎖されるので、防錆性や気密性の低下は生じない。また、多孔質被膜層が衝撃めっきによって形成された亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金被膜である場合、亜鉛は鉄より卑な金属であるため、鉄より優先的にイオン化して、鉄の腐食を防ぐ犠牲防食能を発揮し、一層優れた防錆性を実現することができる。
【0046】
多孔質の亜鉛または亜鉛−鉄合金層は、乾式の衝撃めっき法により形成することができる。衝撃めっき法としては、粒子と被めっき物を回転バレル内で衝突させるメカニカルプレーティングや、ブラスト装置を用いて粒子を被めっき物に衝突させる投射めっき法がある。
【0047】
ねじ継手の場合、接触表面にだけめっきを施せばよいので、局部的なめっきが可能な投射めっきが適している。投射めっきに使用する投射(ブラスティング)装置には、圧縮空気等の高圧流体を利用して粒子を吹き付ける高圧流体投射装置や、インペラ等の回転翼を利用する機械式投射装置があり、いずれを利用してもよい。
【0048】
投射めっき等の衝撃めっきに使用する粒子は、少なくとも表面に亜鉛または亜鉛−鉄合金を有する金属粒子である。全体が亜鉛または亜鉛−鉄合金からなる粒子でもよいが、好ましいのは、特公昭59−9312号公報に開示されている投射材料である。この投射材料は、鉄または鉄合金を核(コア)とし、その表面に、亜鉛−鉄合金層を介して、亜鉛または亜鉛−鉄合金層を被覆した粒子からなる。
【0049】
そのような粒子は、例えば、核の鉄または鉄合金粉末を、無電解および/または電解めっきにより亜鉛または亜鉛合金(例、Zn−Fe−Al)で被覆した後、熱処理してめっき界面に鉄−亜鉛合金層を形成する方法や、あるいはメカニカルアロイング法により製造することができる。このような粒子の市販品としては、同和鉄粉工業(株)製Zアイアンがあり、それを利用することもできる。粒子中の亜鉛または亜鉛合金の含有量は20〜60重量%の範囲であることが好ましく、粒子の粒径は0.2 〜1.5 μmの範囲が好ましい。
【0050】
この鉄系の核の周囲を亜鉛または亜鉛合金で被覆した粒子を基体に投射すると、粒子の被膜層である亜鉛または亜鉛合金のみが基体に付着し、亜鉛または亜鉛合金の被膜が基体上に形成される。この投射めっきは、鋼の材質に関係なく、鋼表面に密着性の良いめっき被膜を形成することができる。したがって、炭素鋼から高合金鋼まで、多様な材質のねじ継手の接触表面上に、密着性に優れた多孔質の亜鉛または亜鉛合金層を形成することができる。
【0051】
前述した各種の下地処理層を形成する場合、その厚みに特に制約はないが、防錆性と密着性の観点から5〜40μmであることが好ましい。5μm未満では、十分な防錆性が確保できないことがある。一方、40μmを超えると、固体潤滑被膜との密着性が低下することがある。
【0052】
固体潤滑被膜をピンとボックスの一方の部材の接触表面だけに形成しても本発明の目的は十分に達成できるので、コスト面からはそのようにすることが好ましい。その場合、ボックス (即ち、短い継手部材) の接触表面に固体潤滑被膜を形成する方が、被膜の形成作業が容易である。固体潤滑被膜を形成しない他方の部材(ボックスに固体潤滑被膜を形成する場合は、ピン)の接触表面は、未被覆のままでもよい。特に、図1のように、組立て時にピンとボックスが仮に締付けられる場合には、他方の部材、例えば、ピンの接触表面が裸(切削加工まま)でも、組立て時にボックスの接触表面に形成された被膜と密着するので、ピンの接触表面の錆も防止できる。
【0053】
しかし、組立て時に鋼管の一方の端部のピンだけにボックスが取り付けられ、他端のピンは露出している。そのため、特にこのような露出するピンに対して、防錆性、あるいは防錆性と潤滑性を付与するために、適当な表面処理を施して被膜を形成することができる。この被膜は、本発明に従った固体潤滑被膜でもよく、または潤滑性粉末を含有しない樹脂単独または樹脂と紫外線遮蔽性微粒子とからなる固体潤滑被膜であってもよい。もちろん、他方の接触表面が露出しない場合でも、この表面に適当な被膜を形成することも可能である。露出する接触表面を、被膜形成の代わりに塗油して、防錆性を付与してもよい。
【0054】
ピンとボックスの一方の部材の接触表面だけに固体潤滑被膜を形成した場合、他方の部材の接触表面は、表面粗さRmax が10μm以下となるようにすることが望ましい。他方の部材の表面粗さが10μmを超えると、固体潤滑被膜との摩擦係数が高くなり、粗さの増大に伴って加速度的に固体潤滑被膜の摩耗が増加し、繰り返しの締付け・緩めにおいて固体潤滑被膜を早期に消耗し、耐焼付き性、防錆性、気密性を維持できないことがある。ピンとボックスの両方の接触表面に、本発明にかかる固体潤滑被膜を形成した場合、両方の部材の固体潤滑被膜の表面粗さ (被膜形成後の粗さ) が10μm以下であることが好ましい。
【0055】
本発明に係る鋼管用ねじ継手は、コンパウンドグリスを塗布せずに締付けることができるが、所望により、固体潤滑被膜または相手部材の接触表面に油を塗布してもよい。その場合、塗布する油に特に制限はなく、鉱物油、合成エステル油、動植物油などのいずれも使用できる。この油には、防錆添加剤、極圧添加剤といった、潤滑油に慣用の各種添加剤を添加することができる。また、それらの添加剤が液体である場合、それらの添加剤を単独で油として使用し、塗布することもできる。
【0056】
防錆添加剤としては、塩基性金属スルホネート、塩基性金属フェネート、塩基性金属カルボキシレートなどが用いられる。極圧添加剤としては、硫黄系、リン系、塩素系、有機金属塩など公知のものが使用できる。その他、酸化防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤なども油に添加することができる。
【0057】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明する。なお、以下、ピンの接触表面 (即ち、ねじ部と金属接触部) をピン表面、ボックスの接触表面をボックス表面という。
【0058】
表1に示す炭素鋼A、Cr−Mo鋼B、13%Cr鋼Cまたは高合金鋼D (Dが最も焼付きを起こし易く、C、B、Aの順に焼付きが起こりにくくなる) からなるねじ継手(外径:7インチ、肉厚:0.408 インチ)のピン表面とボックス表面に、それぞれ表2に示す表面処理 (下地処理と固体潤滑被膜の形成) を施した。処理の詳細は各実施例および比較例に説明してある。
【0059】
後述するように、実施例および比較例では、ボックスの接触表面だけに固体潤滑被膜を形成し、ピンの接触表面は、研削仕上げのままか、下地処理だけとし、その上に防錆油を塗布した。固体潤滑被膜をピンの接触表面だけに形成した場合にも、結果は同様であることは当業者には理解されよう。
【0060】
表2には、ピンおよびボックスの下地処理の内容、即ち、基材の表面粗さRmax(R)と下地処理の厚み(t) 、固体潤滑被膜の構成、即ち、結合剤、潤滑性粉末、紫外線遮蔽性微粒子の種類、被膜中の結合剤1に対する潤滑性粉末の質量比(M) 、被膜中の結合剤100 に対する紫外線遮蔽性微粒子の質量比(U) 、紫外線遮蔽性微粒子の平均粒径(P) 、被膜の膜厚(t) を示す。
【0061】
使用した潤滑性粉末の平均粒径は次の通りであった:
二硫化モリブデン粉末(MoS2):15μm
二硫化タングステン粉末 (WS2):4μm
黒鉛粉末:1μm
窒化硼素粉末(BN):2μm
PTFE粉末: 0.8μm。
【0062】
ボックスに固体潤滑被膜を形成し、ピンには下地処理の後、塗油したねじ継手を用い、ピンとボックスを締付け力を加えずに締結した状態で、屋外暴露試験(平均温度28〜33℃、平均湿度60〜70%)を3カ月間行った。3 ケ月後にピンとボックスを緩め、ボックスに形成した固体潤滑被膜の割れやボックスの接触表面における錆の発生状況を調査した。
【0063】
また、上記屋外暴露試験を実施した後のねじ継手を用いて、常温にて最大20回の締付け・緩めの作業を行い、焼付き発生状況を調査した。この時の締付け速度は10 rpm、締付けトルクは10340 ft・lbs であった。表3に焼付き発生状況(6回目以降)ならびに被膜の割れおよび接触表面の錆発生状況を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【実施例1】
表1に示す組成Aの炭素鋼製ねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、80番のサンドを吹き付け、表面粗さを15μmとした後、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデン粉末と、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径0.03μmの酸化チタンとを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの固体潤滑被膜を形成した。この固体潤滑被膜は、結合剤1に対し潤滑性粉末を3.8 の質量比で含有し、結合剤100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を10.2の質量比で含有する。形成された固体潤滑被膜に260 ℃で30分の加熱処理を実施し、被膜の硬質化を図った。
【0068】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ2μm) のみとした。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0069】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に割れは観察されなかった。また、錆の発生も認められなかった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保持され、極めて良好であった。
【0070】
【実施例2】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、その表面に厚さ22μmのリン酸マンガン化成処理被膜を形成した。この多孔質の下地処理被膜の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンと、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径0.02μmの酸化亜鉛とを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ27μmの固体潤滑被膜を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂1に対し潤滑性粉末を3.8 の質量比で含有し、かつ樹脂100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を10.2の質量比で含有する。形成された固体潤滑被膜に260 ℃で30分の加熱処理を実施し、被膜の硬質化を図った。
【0071】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) の後、その上に厚さ15μmのリン酸亜鉛化成処理被膜を形成した。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない一般市販の防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0072】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に割れは観察されなかった。また、錆の発生も認められなかった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保持され、極めて良好であった。
【0073】
【実施例3】
表1に示す組成BのCr−Mo鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、その表面に厚さ24μmのリン酸マンガン化成処理被膜を形成した。この多孔質の下地処理被膜の上に、潤滑性粉末として二硫化タングステンと、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径0.05μmの酸化鉄とを含有するエポキシ樹脂からなる、厚さ22μmの固体潤滑被膜を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂1に対し潤滑性粉末を1の質量比で含有し、かつ樹脂100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を5.1 の質量比で含有する。この固体潤滑被膜に230 ℃で30分の加熱処理を実施し、被膜の硬質化を図った。
【0074】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ2μm) のみとした。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0075】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に割れは観察されなかった。また、錆の発生も認められなかった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保持され、極めて良好であった。
【0076】
【実施例4】
表1に示す組成Cの13%Cr鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、電気めっきにより厚さ6μmの銅めっき層を形成した。この下地処理の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンおよび黒鉛と、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径0.01μmの酸化チタンとを含有するフエノール樹脂からなる、厚さ28μmの固体潤滑被膜層を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂1に対し潤滑性粉末を合計4.0 の質量比で含有し、かつ樹脂100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を25.4の質量比で含有する。この固体潤滑被膜に170 ℃で30分の加熱処理を行い、被膜の硬質化を図った。
【0077】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) のみとした。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0078】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に割れは観察されなかった。また、錆の発生も認められなかった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保持され、極めて良好であった。
【0079】
【実施例5】
表1に示す成分組成Dの高合金鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、乾式衝撃めっきにより厚さ7μmの亜鉛−鉄合金層を形成した。この多孔質の下地処理被膜の上に、潤滑性粉末として窒化硼素と、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径0.005 μmの酸化亜鉛とを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの固体潤滑被膜層を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂1に対し潤滑性粉末を4.5 の質量比で含有し、かつ樹脂100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を47.5の質量比で含有する。この固体潤滑被膜に260 ℃で30分の加熱処理を実施して、被膜の硬質化を図った。
【0080】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、乾式衝撃めっきにより厚さ6μmの亜鉛−鉄合金層を形成した。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0081】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に割れは観察されなかった。また、錆の発生も認められなかった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保持され、極めて良好であった。
【0082】
【実施例6】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げにより表面粗さを3μmとした後、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンおよびPTFEと、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径0.03μmの酸化チタンとを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ25μmの固体潤滑被膜を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂1に対し潤滑性粉末を合計1.0 の質量比で含有し、かつ樹脂100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を60.9の質量比で含有する。この固体潤滑被膜に260 ℃で30分の加熱処理を実施し、被膜の硬質化を図った。
【0083】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) の後、その上に厚さ15μmのリン酸亜鉛化成処理被膜を形成した。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0084】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に割れは観察されなかった。また、錆の発生も認められなかった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、17回目までは焼付きの発生はなかった。18回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより20回まで締付け・緩めができた。これは、紫外線遮蔽性微粒子の含有量が高かったため、固体潤滑被膜の強度や密着性が低下し、耐焼付き性が若干低下したためと考えられる。気密性は保持されていた。
【0085】
【実施例7】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、その表面に厚さ21μmのリン酸マンガン化成処理被膜を形成した。この多孔質の下地処理被膜の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンと、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径0.03μmの酸化チタンおよび平均粒径0.015 μmの酸化亜鉛とを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの固体潤滑被膜層を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂1に対し潤滑性粉末を3.8 の質量比で含有し、かつ樹脂100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を合計0.08の質量比で含有する被膜である。この固体潤滑被膜に260 ℃で30分の加熱処理を実施し、被膜の硬質化を図った。
【0086】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) の後、その上に厚さ15μmのリン酸亜鉛化成処理被膜を形成した。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0087】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に僅かに割れが観察された。しかし、錆の発生は認められなかった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、17回目までは焼付きの発生はなかった。18回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより20回まで締付け・緩めができた。これは、紫外線遮蔽性微粒子の含有量が少なかったため、固体潤滑被膜が劣化し、被膜に割れを生じ、被膜の耐摩耗性が低下したことにより、繰り返しの締付け・緩めに対する耐焼付き性が若干低下したためと考えられる。気密性は保持されていた。
【0088】
【実施例8】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に以下の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、その表面に厚さ19μmのリン酸マンガン化成処理被膜を形成した。この多孔質下地処理被膜の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンと、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径1.0 μmの硫酸バリウムを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの固体潤滑被膜層を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂1に対し潤滑性粉末を3.8 の質量比で含有し、かつ樹脂100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を10.2の質量比で含有する。この固体潤滑被膜に260 ℃で30分の加熱処理を実施し、被膜の硬質化を図った。
【0089】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) の後、その上に厚さ15μmのリン酸亜鉛化成処理被膜を形成した。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0090】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に僅かに割れが観察された。しかし、錆の発生は認められなかった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、15回目までは焼付きの発生はなかった。16回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより18回まで締付け・緩めができた。しかし、19回目に激しい焼付きを生じたため試験を終了した。これは、紫外線遮蔽性微粒子として、紫外線遮蔽効果が酸化鉄などより低い硫酸バリウムを使用したことや、その平均粒径が1μmと粗大であったため、潤滑性粉末の焼付き防止効果を阻害したためと考えられる。しかし、後述する従来の比較例1と比べると、その優れた耐焼付き性が認められる。
【0091】
【比較例1】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、厚さ18μmのリン酸マンガン化成処理被膜を形成した。この多孔質の下地処理被膜の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ30μmの固体潤滑被膜を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂1に対し潤滑性粉末を4の質量比で含有するが、紫外線遮蔽性微粒子を含有していない。この固体潤滑被膜に260 ℃で30分の加熱処理を実施し、被膜の硬質化を図った。
【0092】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) のみとした。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0093】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に激しい割れが観察された。さらに、割れが基材まで到達したため、錆の発生も顕著であった。締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、6回目までは焼付きの発生はなかった。7回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより8回まで締付け・緩めができた。しかし、9回目に激しい焼付きを生じたため試験を終了した。
【0094】
【比較例2】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) 後、厚さ18μmのリン酸マンガン化成処理被膜を形成した。この多孔質の下地処理被膜の上に、紫外線遮蔽性微粒子として平均粒径0.03μmの酸化チタンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの固体潤滑被膜を形成した。固体潤滑被膜は、樹脂100 に対し紫外線遮蔽性微粒子を1.0 の質量比で含有するが、潤滑性粉末を含有していない。この固体潤滑被膜に260 ℃で30分の加熱処理を実施し、被膜の硬質化を図った。
【0095】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm) のみとした。さらに、錆防止のため重金属粉を含まない市販の一般的な防錆油を塗布した。締付け・緩め試験は、この防錆油を特に除去することなく実施した。
【0096】
表3に示すように、屋外暴露試験では、ボックスに形成された固体潤滑被膜表面に割れは観察されなかった。また、錆の発生も認められなかった。しかし、締付け・緩め試験では、20回の締付け・緩めにおいて、1回目に激しい焼付きを生じたため、試験を終了した。これは、潤滑性粉末を含有しなかったため、耐焼付き性が不足したものと考えられる。
【0097】
【発明の効果】
本発明に係る鋼管用ねじ継手は、コンパウンドグリスなどの重金属粉を含む液体潤滑剤を用いることなく、優れた防錆性、耐焼付き性および気密性を実現することができる。そのため、固体潤滑被膜の形成からリグ現場での使用までの間に、ねじ継手が戸外に長期間放置されても、ねじ継手の接触表面での錆の発生が効果的に防止され、この錆による耐焼付き性や気密性の低下が防止され、締付けと緩めを繰り返すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼管出荷時の鋼管とねじ継手部材の組立構成を模式的に示す概要図である。
【図2】本発明の鋼管用ねじ継手の締付け部を模式的に示す概要図である。
【符号の説明】
A:鋼管、B:ねじ継手部材
1:ピン、2:ボックス
3:ねじ部、4:ねじ無し金属接触部
5:ショルダー部
Claims (6)
- ねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面をそれぞれ有するピンおよびボックスから構成される鋼管用ねじ継手であって、
ピンおよびボックスの少なくとも一方の接触表面に、潤滑性粉末、紫外線遮蔽性微粒子、および有機樹脂結合剤とからなる固体潤滑被膜が形成されていることを特徴とする鋼管用ねじ継手。 - 潤滑性粉末が、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれた1種または2種以上の粉末である、請求項1記載の鋼管用ねじ継手。
- 紫外線遮蔽性微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄から選ばれた1種または2種以上の微粒子である請求項1または2記載の鋼管用ねじ継手。
- 紫外線遮蔽性微粒子が平均粒径0.01〜0.1 μmの超微粒子である、請求項1〜3のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
- 紫外線遮蔽性微粒子が有機樹脂結合剤100 に対して 0.1〜50の質量比で固体潤滑被膜中に含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
- 前記固体潤滑被膜が形成されている接触表面が、この被膜の下地処理層として多孔質被膜層を有する請求項1〜5のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
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