JP3738703B2 - 鋼管用ねじ継手 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油井管ねじ継手の締結時に焼付き防止用に従来より使用されてきた重金属粉を含むコンパウンドグリスの塗布が不要となる、耐焼付き性と気密性に優れた鋼管用ねじ継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
油井掘削に用いられる鋼管である油井管は、鋼管用ねじ継手で締結される。このねじ継手は、雄ねじを備えたピンと、雌ねじを備えたボックスとから構成される。図1に模式的に示すように、通常は鋼管Aの両端の外面に雄ねじ3Aを形成してピン1とし、別部材のスリーブ型の継手部材Bの内面に両側から雌ねじ3Bを形成してボックス2とする。図1に示す通り、鋼管Aは、その一方の端部に予め継手部材Bを締付けた状態で出荷されるのが普通である。
【0003】
鋼管管用ねじ継手には、鋼管と継手の重量に起因する軸方向引張力や地中での内外面圧力などの複合した圧力に加え、地中での熱が作用するので、このような環境下でも破損せずに気密性 (シール性) を保持することが要求される。また、油井管の降下作業時には、一度締め込んだ継手を緩め、再度締め直して締結することがある。そのため、API (米国石油協会) では、チュービング継手においては10回の、ケーシング継手においては3回の、締付け (メイクアップ) 、緩め (ブレークアウト) を行っても、ゴーリングと呼ばれる焼付きの発生が無く、気密性が保持されることを求めている。
【0004】
近年では、気密性向上の観点から、金属−金属の直接接触によるメタルシールが可能な特殊ねじ継手が一般に使用されるようになっている。この種のねじ継手では、ピンとボックスのいずれも、雄ねじまたは雌ねじからなるねじ部に加えて、ねじ無し金属接触部を有しており、この両部分が接触表面となる。ピンとボックスのねじ無し金属接触部同士が当接し、金属−金属間接触によるメタルシール部が形成され、気密性が向上する。
【0005】
このようなねじ無し金属接触部を有する鋼管用ねじ継手の構成を、図2に模式的に示す。符号1はピン、2はボックス、3はねじ部、4はねじ無し金属接触部、5はショルダー部を示す。以下、ねじ無し金属接触部を単に金属接触部ともいう。ピン1とボックス2のそれぞれに設けたねじ部3とねじ無し金属接触部4がねじ継手の接触表面である。この接触表面、中でも、より焼付きの起こりやすい金属接触部には、耐焼付き性が要求される。
【0006】
図2に示したように、この種の典型的なねじ継手は、鋼管端部の外面に形成された、ねじ部3(即ち、雄ねじ部)及びねじ無し金属接触部4を有するピン1と、ねじ継手部材の内面に形成された、ねじ部3(即ち、雌ねじ部)およびねじ無し金属接触部4を有するボックス2とで構成される。
【0007】
このようなねじ継手では、特に金属接触部の焼付きを防止するため、コンパウンドグリスと呼ばれる高潤滑の液体潤滑剤が使用されてきた。このグリスを、締付け前にピンとボックスの少なくとも一方の接触表面に塗布するのである。しかし、このグリスには有害な重金属が多量に含まれており、締付けに伴って周囲にはみ出たグリスを洗浄液で洗浄するが、この作業でコンパウンドグリスやその洗浄液が海洋や土壌に流出して環境汚染を引き起こすことが問題視されるようになった。また、締付けを繰り返すたびに必要となるグリス塗布と洗浄が、現場での作業効率を低下させるという問題もあった。
【0008】
そこで、コンパウンドグリスの塗布が不要な鋼管用ねじ継手として、特開平8−103724号、特開平8−233163号、特開平8−233164号、特開平9−72467 号各公報には、ねじ部やねじ無し金属接触部 (即ち、接触表面) に、表面処理によって、樹脂と固体潤滑剤である二硫化モリブデンまたは二硫化タングステンとからなる固体潤滑被膜を形成したねじ継手が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような固体潤滑被膜を形成した従来の鋼管用ねじ継手では、実際の油井管の締付け作業で避けることのできないミスアライメント(芯ずれ)が起こった時に固体潤滑被膜の剥離を生じ易く、特に締付け・緩めの初期に焼付きが起こり易いという問題がある。
【0010】
この油井管のミスアライメントの状況を図3に模式的に示す。ミスアライメントの程度は、掘削用リグの規模や油井管のサイズによって異なるが、芯ずれの角度θは最大で10°程度になることもある。このミスアライメントは締付けの初期、特に1回目の締付け時に起こり易く、それによってピンとボックスの接触表面が異常に強い剪断応力を受ける。この応力に耐えられず、接触表面に形成された固体潤滑被膜が剥離すると、ねじ継手の耐焼付き性が著しく低下する。
【0011】
ねじ継手の接触表面に液状のコンパウンドグリスを塗布して焼付きを防止する場合には、このグリスに流動性があるため、仮にミスアライメントによりグリスが部分的に削られても、そこに周囲からグリスが回り込むことができる。そのため、ミスアライメントが起きても、耐焼付き性が著しく低下することはなかった。しかし、固体潤滑被膜は流動性がないため、被膜がいったん剥離してしまうと、耐焼付き性の著しい低下を避けることができない。従来の固体潤滑被膜では、ミスアライメントによる衝撃で被膜が剥離し易いため、締付け・緩めの初期に焼付きが発生することがあった。
【0012】
本発明は、環境や作業面で問題の多い、コンパウンドグリス等の重金属粉を含む液状潤滑剤を用いることなく、ミスアライメントが起こるねじ継手の締付け・緩めを繰り返した場合にも耐焼付き性の著しい低下が見られない、耐焼付き性と気密性に優れた鋼管用ねじ継手を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、従来の固体潤滑被膜を形成したねじ継手を用いて、ミスアライメントを伴うねじ継手の締結における特異な焼付き発生の原因を調査した。その結果、
(1) 最初の締付け作業時の被膜の摩擦が極めて高い、つまり、接触開始時の被膜のすべり性 (なじみ性) が悪い、および
(2) 形成された固体潤滑被膜と基材との密着性が不十分、
という2つの因子が関係しているものと推測された。即ち、従来の固体潤滑被膜は、特に接触開始時の被膜の摩擦が高く、かつ被膜密着性が不十分であるため、被膜にかかるせん断力、圧縮力が高くなると、容易に剥離してしまうものと考えられる。
【0014】
本発明者は、上記(1) が基材とは反対側の被膜表面側の性質であり、上記(2) は逆に、基材に接する界面側の被膜の性質であること着目した。そして、固体潤滑被膜の構造を、従来のように厚み方向に均一な構造とするのではなく、表面側には低摩擦性を付与し、基材との界面側には高密着性を付与するように、厚み方向に傾斜機能を持たせた構造とすることによって、本発明の課題を解決できることを見出した。
【0015】
本発明は、最も広義には、ねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面をそれぞれ有するピンおよびボックスから構成される鋼管用ねじ継手であって、
ピンおよびボックスの少なくとも一方の部材の接触表面に、それぞれ潤滑性粉末を含有する2層以上の固体潤滑皮膜層が形成されていることを特徴とする鋼管用ねじ継手である。
【0016】
本発明は、下記の各種の態様を包含する。
(1) 前記潤滑性粉末を含有する2層以上の固体潤滑皮膜層の下層として、潤滑性粉末を含有しない固体潤滑皮膜層が形成されている。
【0017】
(2) 前記2層以上の固体潤滑皮膜層がピンとボックスの一方の部材の接触表面だけに形成されており、ピンとボックスの他方の部材の接触表面には、潤滑性粉末を含有し、または含有しない、1層の固体潤滑皮膜層が形成されている。
【0018】
(3) 前記2層以上の固体潤滑皮膜層がピンとボックスの一方の部材の接触表面に形成されており、ピンとボックスの他方の部材の接触表面は、表面粗さRmax が10μm以下である。
【0019】
(4) 前記2層以上の固体潤滑皮膜層および/または1層の固体潤滑皮膜層が、Rmax 5〜40μmの表面粗さの下地表面の上に形成されている。
(5) 前記2層以上の固体潤滑皮膜層が、いずれも樹脂および潤滑性粉末からなる内層と外層の2層の固体潤滑皮膜層から構成され、この2層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比 (M)が下記の関係を満たす、
1.0≦外層のM≦9.0
0.5≦内層のM≦4.5
内層のM<外層のM。
【0020】
M:皮膜層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比
(6) 前記2層以上の固体潤滑皮膜層が、樹脂および潤滑性粉末からなる内層と、無機高分子および潤滑性粉末からなる外層の2層から構成される。
【0021】
(7) 前記2層以上の固体潤滑皮膜層が、いずれも樹脂および潤滑性粉末からなる内層と中間層と外層の3層の固体潤滑皮膜層から構成され、この3層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比 (M) が下記の関係を満たす、
1.0≦外層のM≦9.0
0.5≦中間層のM≦4.5
内層のM<中間層のM<外層のM。
【0022】
M:皮膜層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比
(8) 前記2層以上の固体潤滑皮膜層が、いずれも樹脂および潤滑性粉末からなる内層および中間層と、無機高分子および潤滑性粉末からなる外層の3層から構成される。
【0023】
(9) 潤滑性粉末が二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレン (PTFE) から選ばれた1種または2種以上の材料からなる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の対象である鋼管用ねじ継手は、図2に示すように、ピン1とボックス2とから構成され、ピンとボックスはいずれもねじ部3と(ねじ無し)金属接触部4とを含む接触表面を有する。図1には、鋼管の管端がピン、継手部材がボックスである例を示したが、継手部材を使用せず、鋼管の一端をピン、他端をボックスとしたり、あるいは継手部材をピン (雄ねじ) として、鋼管の両端をボックスとすることも可能である。
【0025】
ピンとボックスの接触表面、中でも、焼付きがより起こりやすい金属接触部には、耐焼付き性が要求される。従来は、そのために、重金属粉を含有するコンパウンドグリスを接触表面に塗布していた。コンパウンドグリスの塗布は、前述したように、ミスアライメントに対しても有効であるが、環境面と作業効率の面で問題が多い。
【0026】
コンパウンドグリスの塗布を不要にするため、樹脂と潤滑性粉末とからなる固体潤滑被膜をねじ継手の接触表面に形成することも提案されているが、従来の固体潤滑被膜は、特にミスアライメントを伴うねじ継手の締結において、締付けの初期に被膜が摩擦に耐えきれずに剥離し易く、耐焼付き性が早期に低下する傾向があった。
【0027】
ねじ継手の接触表面に設けた固体潤滑被膜は、ねじ継手の締付けや緩めの際に高い摺動面圧を受け、潤滑性粉末を含む摩耗粉を発生する。この潤滑性粉末を含む摩耗粉がねじ継手の接触表面の全体に拡がり、接触界面で金属間の接触防止と摩擦軽減に寄与し、焼付き防止効果を発揮するものと推定される。
【0028】
従来の固体潤滑被膜は、被膜を加熱処理して硬質化させることにより耐摩耗性を高め、締付け・緩めを繰り返した時の被膜の磨滅による焼付き発生を防ぐようにしている。この被膜の硬質化は、ミスアライメントが皆無または軽微なねじ継手の締結においては、焼付き防止に有効である。しかし、接触開始時にすぐに摩擦緩和が求められるミスアライメントを伴うねじ継手の締結では、接触初期の潤滑性粉末の接触表面への供給が不足して摩擦係数が高くなり、さらに被膜の密着性が低いことも加わって、固体潤滑被膜の剥離を生じ、焼付き発生に至るのである。
【0029】
本発明に係るねじ継手は、そのピンおよびボックスの少なくとも一方の接触表面に、機能の異なる2層以上の固体潤滑皮膜層からなる積層構造の固体潤滑被膜が形成されている。
【0030】
各固体潤滑皮膜層は、潤滑性粉末と結合剤の樹脂または無機高分子とからなる皮膜層でも、あるいは樹脂単独からなる皮膜層でもよい。但し、本発明では、潤滑性粉末を含有する固体潤滑皮膜層が2層以上存在する。固体潤滑被膜の表面を構成する外層の固体潤滑皮膜層は、良好なすべり性を確保するために潤滑性粉末を含有する必要があり、そのすぐ内側にくる固体潤滑皮膜層も、耐焼付き性の確保のためにやはり潤滑性粉末が必要であるからである。それにより、外層がミスアライメントにより消耗しても、その後の締付け・緩めの繰り返し時には内層により耐焼付き性を確保することができる。従って、樹脂単独からなる皮膜層を設ける場合には、固体潤滑皮膜層は3層以上の多層構造となる。
【0031】
積層構造の固体潤滑被膜を構成する各固体潤滑皮膜層には、使用する潤滑性粉末や結合剤の種類および/または潤滑性粉末の配合量といった構成を変化させることにより、互いに異なる機能を持たせることができる。例えば、潤滑性粉末の配合量が多くなるほど、皮膜層の摩擦係数が小さくなり、表面側に適した性能を示すが、基材との密着性は低くなるので、基材と接触する側には適さなくなる傾向がある。結合剤の種類に関しては、潤滑性粉末の条件 (種類や配合量) が同一である場合、結合剤が無機高分子であると、皮膜層が比較的軟らかい (硬度が低い) ため、結合剤が樹脂である場合に比べて多量の潤滑性粉末を接触表面に供給することができ、摩擦係数の低減に非常に有効である。
【0032】
前述したように、ねじ継手の接触表面に形成した固体潤滑被膜において、ミスアライメントを伴う締付けの初期に起こり易い被膜の剥離を防ぐには、その基材との界面側では密着性が高く、反対側の表面側では摩擦係数が低いことが有利である。従って、固体潤滑被膜を構成する各皮膜層は、その厚み方向に望ましい特性を示すようにその構成を選択することができる。
【0033】
例えば、潤滑性粉末を含有しない樹脂単独からなる固体潤滑皮膜層は、基材との密着性が良好であるので、固体潤滑被膜の最下層に利用することができる。その場合、本発明では、その上に潤滑性粉末を含有する固体潤滑皮膜層をさらに2層以上形成する。潤滑性粉末を含有しない固体潤滑皮膜層は、基材との密着性に優れた皮膜を形成できる樹脂、例えば、鋼材の塗装においてプライマーとして利用されているような樹脂 (例、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等) が適している。
【0034】
潤滑性粉末を含有する固体潤滑皮膜層が2層である場合、基材と接する内層は、密着性が高く、かつ耐焼付き性を維持できる皮膜層、外層は締付け・緩めの初期にすべり性に優れた皮膜層、つまり、内層よりも摩擦係数が低い皮膜層とすることが有利である。
【0035】
ねじ継手のミスアライメントは、締付け・緩めの初期、特に1回目に起こり易く、2回目以降はほとんど起きない。また、2回目以降にミスアライメントが起きても、既に接触表面間のなじみ性(初回のすべり性)が確保されているため、ミスアライメントによる焼付きは起こりにくい。そのため、ミスアライメント対策として設ける外層は、低摩擦化に有効であれば、1〜2回目で消耗するような固体潤滑皮膜層であってもよく、そのように早めに外層が消耗する方が内層による耐焼付き性改善効果が阻害されない。
【0036】
2層の固体潤滑被膜において、2層とも結合剤が樹脂、特に同じ樹脂である場合、潤滑性粉末の含有量を内層より外層で多くすることにより、本発明の目的達成に望ましい多層皮膜構造となる。即ち、潤滑性粉末を多量に含有させた外層は、ピンとボックスを最初に締付ける際に生じる高摩擦化現象を緩和し、初期のすべり性 (なじみ性) を改善する効果が高い。また、ミスアライメント(芯ずれ)を生じたまま締結した場合でも接触表面のすべりを促進し、焼付き難くすることができる。
【0037】
この場合、2層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比 (M) が下記の関係を満たすことが好ましい。
1.0≦外層のM≦9.0
0.5≦内層のM≦4.5
内層のM<外層のM
M:皮膜層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比。
【0038】
外層のMが1.0未満では、固体潤滑被膜の表面のすべり性が不足し、ミスアライメントを伴う初期の締付け・緩めの際に焼付きを防止できないことがある。一方、外層のMが9.0を超えると、皮膜強度や内層との密着性が低下し、繰り返しの締付け・緩めに際して、十分な耐焼付き性が得られないことがある。
【0039】
内層のMが0.5未満では、皮膜の耐焼付き性が不足し、外層が消耗した後の繰り返しの締付け・緩めの際に焼付きを防止できないことがある。一方、内層のMが4.5を超えると、下地処理にもよるが、基材との密着性が低下し、十分な耐焼付き性が得られないことがある。
【0040】
Mの値を内層より外層で大きくして、外層に潤滑性粉末をより多量に含有させることにより、ミスアライメント時に外層の摩耗により多量の潤滑性粉末が供給されて、皮膜が低摩擦化すると共に、界面側の内層では十分な密着性が確保され、ミスアライメント時の剥離が防止される。また、外層が消耗しても、内層は高い耐焼付き性を維持する。
【0041】
結合剤として無機高分子を利用する場合には、潤滑性粉末を無機高分子で結合した皮膜は、樹脂で結合した皮膜に比べて耐摩耗性が低いため、締付け・緩めの初期のすべり性 (なじみ性) が改善され、高い低摩擦化効果を示す。従って、無機高分子と潤滑性粉末とからなる固体潤滑皮膜層を外層に使用し、内層には耐焼付き性に優れた樹脂と潤滑性粉末とからなる固体潤滑皮膜層を組合わせることが好ましい。
【0042】
この組合わせの場合、内層と外層の潤滑性粉末の配合量は特に制限されず、潤滑性粉末の割合は、外層より内層の方が多くなっても構わない。内層の樹脂と潤滑性粉末とからなる固体潤滑皮膜層のMの値は、上で内層について規定した好ましい範囲内にすることが好ましい。無機高分子と潤滑性粉末とからなる外層の潤滑性粉末の割合は、潤滑性粉末/無機高分子の質量比で、 0.5〜5.0 程度の範囲とすることが好ましい。
【0043】
外層の無機高分子と潤滑性粉末からなる固体潤滑被膜は、特にミスアライメントを受けると比較的早期、例えば、1回目の締付けで消耗することがある。2回目以降において、外層が残存していても、その後の耐焼付き性には何ら問題はない。また、外層が消耗しても、内層の樹脂と潤滑性粉末とからなる、高い耐摩耗性を示す固体潤滑皮膜層があるため、これが少しずつ摩耗して耐焼付き性が維持される。
【0044】
なお、外層と内層の結合剤をいずれも無機高分子とすることも可能である。その場合には、結合剤がいずれも樹脂である場合と同様に、潤滑性粉末の割合を、内層より外層で多くなるようにすることが好ましい。また、内層の被膜層を硬質化するため、塗布後に内層を高温に加熱して、部分的に内層の無機高分子を結晶化させてもよい。
【0045】
固体潤滑被膜が3層構造の場合、前述したように、最下層は潤滑性粉末を含まない樹脂単独からなる固体潤滑皮膜層としてもよい。その場合には、その上に、潤滑性粉末を含有する、上述した内層と外層を形成し、3層構造にすることができる。
【0046】
別の3層構造の固体潤滑被膜では、3層の全ての固体潤滑皮膜層が潤滑性粉末を含有する。その場合、3層とも結合剤が樹脂であるなら、内層、中間層、外層からなる3層のM (潤滑性粉末/樹脂の質量比) の値は、下記を満たすようにすることが好ましい。
【0047】
1.0≦外層のM≦9.0
0.5≦中間層のM≦4.5
内層のM<中間層のM<外層のM。
【0048】
外層のMが1.0未満では、初期すべり性 (なじみ性) が不足し、ミスアライメントを伴う初期の締付け・緩めの際に焼付きを防止できないことがあり、9.0 を超えると皮膜強度や中間層との密着性が低下し、繰り返しの締付け・緩めに際して、十分な耐焼付き性が得られないことがある。中間層のMが0.5未満では、耐焼付き性が不足し、外層が消耗した後の繰り返しの締付け・緩めの際に焼付きを防止できないことがあり、4.5を超えると繰り返しの締付け・緩めに耐えるだけの皮膜強度が得られないことがある。
【0049】
3層の場合の内層のMの値は、上では規定していないが、1.5 以下とすることが好ましい。内層のMがこれより大きいと、下地処理にもよるが、基材との密着性が低下し、十分な耐焼付き性が得られないことがある。
【0050】
Mの値は、内層<中間層<外層の順に増大させた傾斜配分とすることにより、外層の低摩擦化と中間層の繰り返しの締付け・緩めの際の焼付き防止、内層の基材との密着性を効率よく達成することができる。
【0051】
結合剤として無機高分子を利用する場合には、前述した理由により、無機高分子と潤滑性粉末とからなる固体潤滑皮膜層は外層に利用し、中間層と内層は、いずれも樹脂と潤滑性粉末とからなる固体潤滑皮膜層とすることが好ましい。その場合、中間層と内層のMの値は、上記と同じ理由で、内層より中間層のMを大きくすることが好ましい。また、中間層と内層のMの値は、それぞれ上記と同じ範囲とすることも好ましい。それにより、高い低摩擦化効果を示す外層が消耗した後の繰り返しの締付け・緩めの際に、中間層が少しずつ摩耗しながら、高い耐焼付き性を発揮する。内層は、中間層と基材との密着性を高める効果がある。
【0052】
本発明に係るねじ継手における固体潤滑被膜は4層以上の多層構造とすることも可能である。例えば、前述した、いずれも潤滑性粉末を含有する3層構造の固体潤滑被膜の下に、潤滑性粉末を含有しない樹脂単独の固体潤滑皮膜層を形成することも可能である。しかし、コストを考慮すると、通常は2層または3層で十分である。
【0053】
本発明によりねじ継手の接触表面に形成する、潤滑性粉末を含有する各固体潤滑皮膜層は、結合剤の溶液 (分散液でもよい) に潤滑性粉末を均一に分散させ、必要に応じて粘度を調整することにより調製した塗布液 (粉末分散液) を、ねじ継手のピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面に塗布し、塗膜を乾燥させることにより形成することができる。塗布液の塗布方法は、刷毛塗り、浸漬処理、エアースプレー法等の公知の適当な方法でよい。
【0054】
潤滑性粉末としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化硼素、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)から選ばれた1種または2種以上の粉末を使用することが好ましい。
【0055】
潤滑性粉末の平均粒径は、特に限定されないが、一般に 0.5〜60μmの範囲が好ましい。0.5 μm未満では粉末同士が凝集し易くなり、各皮膜層中での均一分散が困難となって、局所的に性能が不足することがある。一方、60μmを超えると、皮膜強度が低下するばかりか、下地との密着性も低下するため、焼付きの発生を抑制できないことがある。
【0056】
結合剤としては、有機樹脂と無機高分子(無機樹脂と称することもある)のいずれも使用できる。
有機樹脂としては、耐熱性と適度な硬さと耐摩耗性とを有するものが好適である。そのような樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素(ウレア)樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにポリアミドイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂などの熱可塑性樹脂を例示できる。
【0057】
有機樹脂に対する溶媒は、炭化水素系(例、トルエン)、アルコール系(例、イソプロピルアルコール)をはじめとする、各種の低沸点溶媒を単独あるいは混合して用いることができる。
【0058】
有機樹脂の溶液に所定量の潤滑性粉末とPTFE粉末を添加し、均一に分散させて塗布液を調製する。皮膜の密着性と耐摩耗性の観点から、ねじ継手の接触表面に塗布液を塗布した後、加熱して被膜を硬質化させることが好ましい。この加熱温度は、好ましくは120 ℃以上、より好ましくは 150〜380 ℃であり、加熱時間は、鋼管用ねじ継手のサイズにより設定されればよいが、好ましくは30分以上、より好ましくは30〜60分である。
【0059】
本発明において結合剤として用いる無機高分子とは、Ti−O 、Si−O 、Zr−O 、Mn−O 、Ce−O 、Ba−O といった、金属−酸素結合が三次元架橋した構造からなる被膜形成材料であり、ゾルゲル法と呼ばれる造膜法により形成される。このような無機高分子は、金属アルコキシドの加水分解と縮合により形成することができる。金属アルコキシドとしては、アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、プロポキシ、イソブトキシ、ブトキシ、tert−ブトキシなどの低級アルコキシ基である化合物が使用できる。好ましい金属アルコキシドは、チタンまたはケイ素のアルコキシドであり、特にチタンアルコキシドが好ましい。中でも、チタンイソプロポキシドが造膜性に優れていて好ましい。金属アルコキシド以外に、四塩化チタンといった金属塩化物や金属カルボン酸塩も使用できる。
【0060】
この無機高分子を形成する金属アルコキシドは、シランカップリング剤のように、アルコキシ基の一部が官能基を有していてもよいアルキル基で置換されている化合物であってもよい。
【0061】
結合剤が無機高分子である場合、溶媒としては、アルコール(例、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール)やケトン等の極性溶剤、炭化水素、ハロゲン化炭化水素等、各種の有機溶媒が使用できる。造膜を促進するため、溶液中の金属アルコキシドを塗布前に予め部分加水分解しておいてもよい。また、塗布後の加水分解を促進するため、金属アルコキシドの溶液に、水および/または加水分解触媒の酸を少量添加してもよい。
【0062】
このような金属アルコキシドまたは他の無機高分子形成材料の溶液に、潤滑性粉末とPTFE粉末を均一に分散させて塗布液を形成し、ピンおよび/またはボックスの接触表面に塗布し、塗膜を乾燥させる。塗布後の加水分解による皮膜形成を促進させるため、塗布後に加湿処理してもよい。これは、大気中に所定時間放置することでも行うことができるが、湿度70%以上の大気中であるとより望ましい。好ましくは、加湿処理後に加熱を行う。加熱により加水分解および加水分解物の縮合と、加水分解の副産物であるアルコールの排出が促進され、短時間で造膜でき、形成される皮膜の密着性が強固となり、耐焼付き性が向上する。この加熱は、溶媒が蒸発した後に行うことが好ましい。加熱温度は副生するアルコールの沸点に近い 100〜200 ℃の温度とするのがよく、熱風を当てるとより効果的である。
【0063】
各固体潤滑皮膜層の厚みは5μm以上、50μm以下とすることが望ましい。各固体潤滑皮膜層に含まれる潤滑性粉末は、高い摺動面圧を受けて摩耗粉として接触表面全体に拡がり、優れた耐焼付き性を発揮するが、皮膜層の厚さが5μm未満では潤滑性粉末の含有量が少なく、耐焼付き性が不足することがある。一方、各皮膜層の厚さが50μmより大きくなると、締付け量が不十分となり、気密性が低下したり、気密性を確保するために面圧を高めると、焼付きが発生し易くなったり、固体潤滑被膜が剥離し易くなることがある。
【0064】
主に繰り返しの締付け・緩めの際の耐焼付き性を発揮する皮膜層、即ち、2層被膜の場合の内層、または3層被膜の場合の中間層となる固体潤滑皮膜層については、その厚みが10〜40μmの範囲であることが好ましい。一方、2層および3層の外層となる固体潤滑皮膜層については、初回の締付け・緩め時のすべり性確保とその後の迅速な被膜消耗の観点から、厚さを5〜10μmとすることがより好ましい。
【0065】
各固体潤滑皮膜層には、防錆剤を始めとする各種添加剤を、耐焼付き性を損なわない範囲で添加することもできる。例えば、亜鉛粉、クロム顔料、シリカ、アルミナの1種もしくは2種以上の粉末を添加することができる。外層に着色剤を含有させて、形成された固体潤滑被膜を着色してもよい。なお、塗布液には、分散剤、消泡剤、増粘剤等の1種または2種以上の添加剤を適宜含有させることもできる。
【0066】
本発明に従って多層の固体潤滑被膜を形成するピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面は、固体潤滑被膜の密着性を確保するため、被膜形成前に、その表面粗さRmax が、機械切削後の鋼表面粗さ (3〜5μm)より大きな5〜40μmの範囲となるように予め粗面化しておくことが望ましい。固体潤滑被膜を形成する接触表面の表面粗さ (Rmax)が5μmより小さいと、固体潤滑被膜の密着性が低下する傾向がある。一方、この表面粗さが40μmを超えると、摩擦が高くなり、固体潤滑被膜の摩耗を早め、繰り返しの締付け・緩めに耐えられないことがある。
【0067】
粗面化の方法としては、サンドまたはグリッドを投射する方法、硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸などの強酸液に浸漬して肌を荒らす方法といった、鋼表面それ自体を粗面化する方法に加え、鋼表面より粗面となる下地処理層を形成して、塗布面を粗面化する方法も可能である。
【0068】
このような下地処理の例としては、リン酸塩、蓚酸塩、硼酸塩等の化成処理被膜(生成する結晶の成長に伴い、結晶表面の粗さが増す)を形成する方法、銅めっきまたは鉄めっきのような金属の電気めっき (凸部が優先してめっきされるため、僅かであるが表面が粗くなる)を施す方法、鉄芯に亜鉛または亜鉛−鉄合金等を被覆した粒子を遠心力またはエアー圧を利用して投射し、亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金を被膜を形成させる衝撃めっき法、窒化層を形成する軟窒化法(例えば、タフトライド)、金属中に固体微粒子を分散させた多孔質被膜を形成する複合金属被覆法などが挙げられる。
【0069】
固体潤滑被膜の密着性の観点からは、多孔質被膜、特にリン酸塩化成処理(リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸鉄マンガン、リン酸亜鉛カルシウム)や、衝撃めっきによる亜鉛または亜鉛−鉄合金の被膜が好ましい。密着性の観点からリン酸マンガン被膜が、防錆性の観点から亜鉛または亜鉛−鉄合金の被膜が、より好ましい。
【0070】
リン酸塩系化成処理被膜や、衝撃めっきによって形成された亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金の被膜は、いずれも多孔質な被膜であるため、その上に固体潤滑被膜を形成すると、固体潤滑被膜の密着性が高まる。その結果、締付け・緩めを繰り返しても固体潤滑被膜の剥離が起こらず、金属間接触が効果的に防止され、耐焼付き性、気密性、防錆性が一層向上する。
【0071】
下地処理層が多孔質であっても、その上に本発明に従って固体潤滑被膜を形成することにより、下地の多孔質被膜の空隙が封鎖されるので、防錆性や気密性の低下は生じない。また、多孔質被膜層が衝撃めっきによって形成された亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金被膜である場合、亜鉛は鉄より卑な金属であるため、鉄より優先的にイオン化して、鉄の腐食を防ぐ犠牲防食能を発揮し、一層優れた防錆性を実現することができる。
【0072】
多孔質の亜鉛または亜鉛−鉄合金層は、乾式の衝撃めっき法により形成することができる。衝撃めっき法としては、粒子と被めっき物を回転バレル内で衝突させるメカニカルプレーティングや、ブラスト装置を用いて粒子を被めっき物に衝突させる投射めっき法がある。
【0073】
ねじ継手の場合、接触表面にだけめっきを施せばよいので、局部的なめっきが可能な投射めっきが適している。投射めっきに使用する投射(ブラスティング)装置には、圧縮空気等の高圧流体を利用して粒子を吹き付ける高圧流体投射装置や、インペラ等の回転翼を利用する機械式投射装置があり、いずれを利用してもよい。
【0074】
投射めっき等の衝撃めっきに使用する粒子は、少なくとも表面に亜鉛または亜鉛−鉄合金を有する金属粒子である。全体が亜鉛または亜鉛−鉄合金からなる粒子でもよいが、好ましいのは、特公昭59−9312号公報に開示されている投射材料である。この投射材料は、鉄または鉄合金を核(コア)とし、その表面に、亜鉛−鉄合金層を介して、亜鉛または亜鉛−鉄合金層を被覆した粒子からなる。
【0075】
そのような粒子は、例えば、核の鉄または鉄合金粉末を、無電解および/または電解めっきにより亜鉛または亜鉛合金(例、Zn−Fe−Al)で被覆した後、熱処理してめっき界面に鉄−亜鉛合金層を形成する方法や、あるいはメカニカルアロイング法により製造することができる。このような粒子の市販品としては、同和鉄粉工業(株)製Zアイアンがあり、それを利用することもできる。粒子中の亜鉛または亜鉛合金の含有量は20〜60重量%の範囲であることが好ましく、粒子の粒径は0.2 〜1.5 μmの範囲が好ましい。
【0076】
この鉄系の核の周囲を亜鉛または亜鉛合金で被覆した粒子を基体に投射すると、粒子の被膜層である亜鉛または亜鉛合金のみが基体に付着し、亜鉛または亜鉛合金の被膜が基体上に形成される。この投射めっきは、鋼の材質に関係なく、鋼表面に密着性の良いめっき被膜を形成することができる。したがって、炭素鋼から高合金鋼まで、多様な材質のねじ継手の接触表面上に、密着性に優れた多孔質の亜鉛または亜鉛合金層を形成することができる。
【0077】
前述した各種の下地処理層を形成する場合、その厚みに特に制約はないが、防錆性と密着性の観点から5〜40μmであることが好ましい。5μm未満では、十分な防錆性が確保できないことがある。一方、40μmを超えると、固体潤滑被膜との密着性が低下することがある。
【0078】
本発明にかかる多層の固体潤滑被膜の形成方法は特に制限されない。各層ごとに用意した、結合剤と潤滑性粉末とを含有する、組成の異なる塗布液を用いて、2層以上の固体潤滑皮膜層を順に形成すればよい。最内層として、潤滑性粉末を含有しない樹脂液から、樹脂単独の固体潤滑被膜を形成してもよい。被膜を形成するねじ継手の接触表面は、密着性確保のために、前述したようないずれか1種以上の下地処理を施すことが好ましい。
【0079】
全ての層の結合剤が樹脂である場合、基材のねじ継手は、塗布前に200 ℃以下の温度に予熱しておくことが好ましい。その後、各固体潤滑皮膜層を形成するための塗布液を順に塗布する。前回の塗膜が完全に乾燥被膜化する前に、次回の塗布液を塗布して、各層を互いに溶着させるようにすることが望ましい。場合により、次回の塗布前に基材を再加熱してもよい。最後の塗布が済んだ後、被膜全体の硬質化のために加熱処理を施すことが望ましい。
【0080】
外層の結合剤が無機高分子である場合には、結合剤が樹脂である内層または内層と中間層を上記のようにして形成した後、硬質化のための加熱処理の前か後に、無機高分子を結合剤とする塗布液の塗布と加湿処理および加熱処理により、外層を形成することができる。最後の加熱処理は、内層や中間層の硬質化のための加熱処理と兼ねてもよい。
【0081】
結合剤が樹脂である固体潤滑皮膜層を2層以上形成する場合、結合剤の樹脂種を各層で同じにしておくと、皮膜層界面での高い密着性を確実に得ることができる。しかし、樹脂種を適切に選択すれば、異なる樹脂種を結合剤とする皮膜層界面で高い密着性を得ることも可能である。
【0082】
本発明に係る多層の固体潤滑被膜は、ピンとボックスの一方の部材の接触表面だけに形成しても本発明の目的は十分に達成できるので、コスト面からはそのようにすることが好ましい。その場合、ボックス (即ち、短い継手部材) の接触表面に固体潤滑被膜を形成する方が、被膜の形成作業が容易である。
【0083】
固体潤滑被膜を形成しない他方の部材(ボックスに固体潤滑被膜を形成する場合は、ピン)の接触表面は、未被覆のままでもよい。特に、図1のように、組立て時にピンとボックスが仮に締付けられる場合には、他方の部材、例えば、ピンの接触表面が裸(切削加工まま)でも、組立て時にボックスの接触表面に形成された被膜と密着するので、ピンの接触表面の錆も防止できる。
【0084】
しかし、組立て時に鋼管の一方の端部のピンだけにボックスが取り付けられ、他端のピンは露出している。そのため、特にこのような露出するピンに対して、防錆性、あるいは防錆性と潤滑性を付与するために、適当な表面処理を施して被膜を形成することができる。もちろん、他方の接触表面が露出しない場合でも、この表面に適当な被膜を形成することも可能である。露出する接触表面を、表面処理の代わりに塗油して、防錆性を付与してもよい。
【0085】
ピンとボックスの一方の部材の接触表面だけに固体潤滑被膜を形成した場合、他方の部材の接触表面は、表面粗さRmax が10μm以下となるようにすることが望ましい。他方の部材の表面粗さが10μmを超えると、固体潤滑被膜との摩擦係数が高くなり、粗さの増大に伴って加速度的に固体潤滑被膜の摩耗が増加し、繰り返しの締付け・緩めにおいて固体潤滑被膜を早期に消耗し、耐焼付き性、防錆性、気密性を維持できないことがある。ピンとボックスの両方の接触表面に、本発明にかかる固体潤滑被膜を形成した場合、両方の部材の固体潤滑被膜の表面粗さ (被膜形成後の粗さ) が10μm以下であることが好ましい。
【0086】
また、この他方の部材の接触表面に、従来技術の単層の固体潤滑被膜、即ち、潤滑性粉末を含有し、または含有しない1層の固体潤滑被膜を形成してもよい。その場合、この固体潤滑被膜を形成する前に、上記の各種の下地処理から選んだ1種もしくは2種以上を実施して、下地表面の粗さがRmax で5〜40μmにしておくと、被膜の密着性や防錆性が改善される。また、固体潤滑被膜形成後の表面粗さは、すぐ上に述べたように、Rmax で10μm以下であるのがよい。
【0087】
本発明に係る鋼管用ねじ継手は、コンパウンドグリスを塗布せずに締付けることができるが、所望により、固体潤滑被膜または相手部材の接触表面に油を塗布してもよい。その場合、塗布する油に特に制限はなく、鉱物油、合成エステル油、動植物油などのいずれも使用できる。この油には、防錆添加剤、極圧添加剤といった、潤滑油に慣用の各種添加剤を添加することができる。また、それらの添加剤が液体である場合、それらの添加剤を単独で油として使用し、塗布することもできる。
【0088】
防錆添加剤としては、塩基性金属スルホネート、塩基性金属フェネート、塩基性金属カルボキシレートなどが用いられる。極圧添加剤としては、硫黄系、リン系、塩素系、有機金属塩など公知のものが使用できる。その他、酸化防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤なども油に添加することができる。
【0089】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明する。なお、以下、ピンのねじ部と金属接触部の双方の表面をピン表面、ボックスのねじ部と金属接触部の双方の表面をボックス表面という。
【0090】
表1に示す炭素鋼A、Cr−Mo鋼B、13%Cr鋼Cまたは高合金鋼D (Dが最も焼付きを起こし易く、C、B、Aの順に焼付きが起こりにくくなる) からなるねじ継手(外径:7インチ、肉厚:0.408 インチ)のピン表面とボックス表面に、それぞれ表2、3に示す表面処理 (下地処理と固体潤滑被膜の形成) を施した。処理の詳細は各実施例および比較例にも説明してある。
【0091】
表2、3には、下地処理の内容および表面粗さと、固体潤滑被膜の各固体潤滑皮膜層(以下、単に皮膜層という)の構成、即ち、結合剤の種類、被膜中の粉末の種類、潤滑性粉末/結合剤の質量比(M) および皮膜層の厚み(t) を示す。なお、多層の固体潤滑皮膜層は、基材に近い方から、第1層、第2層、第3層と表示する。
【0092】
使用した粉末の平均粒径は次の通りであった:
二硫化モリブデン粉末(MoS2):15μm
二硫化タングステン粉末 (WS2):4μm
黒鉛粉末:1μm
窒化硼素粉末(BN):2μm
PTFE粉末: 0.8μm。
【0093】
上記のように表面処理を施したねじ継手を用い、各回ミスアライメント(θ=6°)を設けて、常温で最大10回までの締付け・緩めを作業を行い、焼付き発生状況を調査した。この時の締付け速度は10 rpm、締付けトルクは10340 ft・lbs であった。表4に焼付き発生状況を示す。
【0094】
【表1】
Figure 0003738703
【0095】
【表2】
Figure 0003738703
【0096】
【表3】
Figure 0003738703
【0097】
【表4】
Figure 0003738703
【0098】
【実施例1】
表1に示す組成Aの炭素鋼製ねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、#80番のサンドを吹き付け、表面粗さを15μmとした後、ボックスを雰囲気炉内で130 ℃に予熱してから、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ30μmの第1層(内層)の皮膜層を形成した。さらに、第1層が完全に乾燥被膜化する前の半溶融状態の時に、第1層の上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ10μmの第2層(外層)の皮膜層を形成した。第1層は樹脂1に対し潤滑性粉末4の質量比の皮膜層であり、第2層は樹脂1に対し潤滑性粉末を5.7 の質量比の皮膜層である。第1層と第2層の形成後、皮膜の硬質化のため260 ℃で30分の加熱処理を実施した。
【0099】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保たれ、極めて良好であった。
【0100】
【実施例2】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、その表面に厚さ15μmのリン酸マンガン化成処理被膜(表面粗さ20μm)を形成し、ボックスを雰囲気炉内で130 ℃に予熱してから、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの第1層(内層)の皮膜層を形成した。さらに、第1層が完全に乾燥被膜化する前の半溶融状態の時に、第1層の上に潤滑性粉末として二硫化タングステンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ10μmの第2層(外層)の皮膜層を形成した。第1層は樹脂1に対し潤滑性粉末2.3 の質量比の皮膜層であり、第2層は樹脂1に対し潤滑性粉末4.0 の質量比の皮膜層である。第1層と第2層の形成後、皮膜の硬質化のため260 ℃で30分の加熱処理を実施した。
【0101】
ピン表面は機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保たれ、極めて良好であった。
【0102】
【実施例3】
表1に示す組成BのCr−Mo鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、その表面に厚さ15μmのリン酸マンガン化成処理被膜(表面粗さ20μm)を形成し、ボックスを雰囲気炉内で130 ℃に予熱してから、その上に潤滑性粉末として窒化硼素を含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ35μmの第1層(内層)の皮膜層を形成し、230 ℃で30分の加熱処理を実施して第1層の硬質化を図った。さらに、第1層の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ10μmの第2層(外層)の皮膜層を形成した。第2層形成時に、大気中で3時間放置後に、150 ℃の熱風を10分間吹き付けた。第1層は樹脂1に対し潤滑性粉末1の質量比の皮膜層であり、第2層は無機高分子1に対し潤滑性粉末1.5 の質量比の皮膜層である。
【0103】
ピン表面は機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)の後、その表面に厚さ20μmのリン酸亜鉛化成処理被膜(表面粗さ15μm)を形成した。
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保たれ、極めて良好であった。
【0104】
【実施例4】
表1に示す組成Cの13%Cr鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、乾式衝撃めっきにより厚さ7μmの亜鉛−鉄合金層(表面粗さ18μm)を形成し、ボックスを雰囲気炉内で60℃に予熱してから、その上にエポキシ樹脂からなる、厚さ28μmの第一層(内層)の皮膜層を形成した。さらに、第1層が完全に乾燥被膜化する前の半溶融状態の時に、第1層の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するエポキシ樹脂からなる、厚さ25μmの第2層(中間層)の皮膜層を形成した。第1層と第2層の形成後、皮膜の硬質化のため、260 ℃で30分の加熱処理を実施した。次に、第2層の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンと黒鉛を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ10μmの第3層(外層)の皮膜層を形成し、3層構造の固体潤滑被膜にした。第3層形成時に、大気中で3時間放置後に150 ℃の熱風を10分間吹き付けを行った。
【0105】
第1層は、樹脂のみで潤滑性粉末を含有せず、第2層は樹脂1に対し潤滑性粉末4の質量比の皮膜層であり、第3層は無機高分子1に対し潤滑性粉末が合計1の質量比の皮膜層である。
【0106】
ピン表面は機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)のみとした。
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保たれ、極めて良好であった。
【0107】
【実施例5】
表1に示す成分組成Dの高合金鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、乾式衝撃めっきにより厚さ6μmの亜鉛−鉄合金層(表面粗さ15μm)を形成し、ボックスを雰囲気炉内で130 ℃に予熱してから、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ10μmの第1層(内層)の皮膜層を形成した。次に、第1層が完全に乾燥被膜化する前の半溶融状態の時に、第1層の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの第2層(中間層)の皮膜層を形成した。さらに、第2層が完全に乾燥被膜化する前の半溶融状態の時に、第2層の上に、潤滑性粉末として二硫化モリブデンとPTFEを含有するフェノール樹脂からなる、厚さ10μmの第3層(外層)の皮膜層を形成した。
【0108】
第1層は、樹脂1に対し潤滑性粉末1の質量比の皮膜層であり、第2層は樹脂1に対し潤滑性粉末1.5 の質量比の皮膜層であり、第3層は樹脂1に対し潤滑性粉末が合計9の質量比の皮膜層である。第1層、第2層、第3層の3層の形成後、皮膜の硬質化のため260 ℃で30分の加熱処理を実施した。
【0109】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、乾式衝撃めっきにより厚さ7μmの亜鉛−鉄合金層(表面粗さ18μm)を形成し、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンと黒鉛を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ10μmの皮膜層を形成した。被膜形成後、大気中で3時間放置後に150 ℃の熱風を10分間吹き付けた。この皮膜層は、無機高分子1に対し潤滑性粉末が合計2.3 の質量比の皮膜層である。
【0110】
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保たれ、極めて良好であった。
【0111】
【実施例6】
表1に示す組成Cの13%Cr鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、乾式衝撃めっきにより厚さ7μmの亜鉛−鉄合金層(表面粗さ18μm)を形成し、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ15μmの第1層(内層)の皮膜層を形成した。さらに、第1層の上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンと黒鉛を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ5μmの第2層(外層)の皮膜層を形成した。
【0112】
第1層は無機高分子1に対し潤滑性粉末1.3 の質量比の皮膜層であり、第2層は無機高分子1に対し潤滑性粉末が合計4.0 の質量比の皮膜層である。第2層の塗布後に、2層構造の被膜を大気中で3時間放置し、150 ℃の熱風を10分間吹き付けた。
【0113】
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、電気めっきにより厚さ5μmの銅めっき層(表面粗さ10μm)を形成した。
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、7 回目までは焼付きの発生は無い。8回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより10回まで締付け・緩めができた。本例では、多層の固体潤滑被膜の内層の結合剤が比較的軟らかい無機高分子であるため、被膜の耐磨耗性が樹脂に比べて低いことが、上記の軽度の焼付き発生の原因と考えられる。気密性は問題なかった。
【0114】
【実施例7】
表1に示す組成Dの高合金鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、電気めっきにより厚さ6μmの鉄めっきを形成し、その表面に厚さ15μmのリン酸マンガン化成処理被膜(表面粗さ15μm)を形成した。その後、ボックスを雰囲気炉内で80℃に予熱してから、その表面に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するエポキシ樹脂からなる、厚さ10μmの第1層(内層)の皮膜層を形成した。さらに、第1層が完全に乾燥被膜化する前の半溶融状態の時に第1層の上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンと黒鉛を含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ15μmの第2層(中間層)の皮膜層を形成した。第1層と第2層の形成後、皮膜の硬質化のため260 ℃で30分の加熱処理を実施した。次に、第2層の上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンとPTFEを含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ5μmの第3層(外層)の皮膜層を形成した。第3層形成時に大気中で3時間放置後に150 ℃の熱風を10分間吹き付けを行った。
【0115】
ボックス表面に形成した3層構造の固体潤滑被膜の第1層は樹脂1に対し潤滑性粉末0.5 の質量比の皮膜層であり、第2層は樹脂1に対し潤滑性粉末が合計1の質量比の皮膜層であり、第3層は無機高分子1に対し潤滑性粉末が合計1の質量比の皮膜層である。
【0116】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、乾式衝撃めっきにより厚さ7μmの亜鉛−鉄合金層(表面粗さ18μm)を形成し、ピンを雰囲気炉内で60℃に予熱してから、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するエポキシ樹脂からなる、厚さ15μmの第一層(内層)の皮膜層を形成した。皮膜の硬質化のため 260℃で30分の加熱処理を実施した。次に、第1層の上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンとPTFEを含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ5μmの第2層(外層)の皮膜層を形成した。第2層形成時に大気中で3時間放置後に150 ℃の熱風を10分間吹き付けを行った。
【0117】
ピン表面に形成した2層構造の固体潤滑被膜の第1層は樹脂1に対し潤滑性粉末0.5 の質量比の皮膜層であり、第2層は無機高分子1に対し潤滑性粉末が合計1の質量比の皮膜層である。
【0118】
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、焼付きの発生は無く、気密性も保たれ、極めて良好であった。
【0119】
【実施例8】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、その表面に厚さ15μmのリン酸マンガン化成処理被膜(表面粗さ16μm)を形成し、ボックスを雰囲気炉内で130 ℃に予熱してから、その上に潤滑性粉末として窒化硼素を含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ23μmの第1層(内層)の皮膜層を形成した。さらに、第1層が完全に乾燥被膜化する前の半溶融状態の時に、第1層の上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ6μmの第2層(外層)の皮膜層を形成した。
【0120】
第1層は、樹脂1に対し潤滑性粉末5の質量比の皮膜層である。第2層は、樹脂1に対し潤滑性粉末8.0 の質量比の皮膜層である。第1層と第2層の形成後、皮膜の硬質化のため 260℃で30分の加熱処理を実施した。
【0121】
ピン表面は機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表4に示すように締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、8回目までは焼付きの発生は無かった。9回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより10回まで締付け・緩めができた。本例では、多層固体潤滑被膜の第1層(内層)の皮膜層の潤滑性粉末/樹脂の質量比が4.5 を超えたため、この皮膜層の強度が低下し、消耗が速まって、耐焼付き性がやや低くなったと考えられる。気密性は問題なかった。
【0122】
【実施例9】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、その表面に厚さ15μmのリン酸マンガン化成処理被膜(表面粗さ20μm)を形成し、ボックスを雰囲気炉内で130 ℃に予熱してから、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ27μmの第1層(内層)の皮膜層を形成した。さらに、230 ℃で30分の加熱処理を実施した。次に、第1層の上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンと黒鉛を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ10μmの第2層(外層)の皮膜層を形成した。第2層形成時に、大気中で3時間放置後に150 ℃の熱風を10分間吹き付けを行った。
【0123】
第1層は樹脂1に対し潤滑性粉末4.0 の質量比の皮膜層であり、第2層は無機高分子1に対し潤滑性粉末の合計が1.5 の質量比の皮膜層である。
ピン表面は、#80番のサンドを吹き付け、表面粗さを15μmとした。
【0124】
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、9回目までは焼付きの発生は無かった。10回目に軽度の焼付きが発生したものの、10回まで締付け・緩めができた。本例では、ピン側の表面粗さが10μmを超えたため、ボックス側の皮膜層の消耗が速まり、耐焼付き性が不足したものと考えられる。気密性は問題なかった。
【0125】
【実施例10】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、ボックスを雰囲気炉内で130 ℃に予熱してから、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの第1層(内層)の皮膜層を形成した。この皮膜層には硬質化のため230 ℃で30分の加熱処理を実施した。次に、第1層の上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンと黒鉛を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ11μmの第2層(外層)の皮膜層を形成した。第2層形成時に大気中で3時間放置後に150 ℃の熱風を10分間吹き付けを行った。
【0126】
第1層は樹脂1に対し潤滑性粉末4.0 の質量比の皮膜層であり、第2層は無機高分子1に対し潤滑性粉末の合計がを1.5 の質量比の皮膜層である。
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)のみとした。
【0127】
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、7回目までは焼付きの発生は無かった。8回以降は軽度の焼付きが発生したが、手入れにより10回まで締付け・緩めができた。本例では、ボックス側の基材の表面粗さが4μmと小さかったため、皮膜層、特に第1層と基材との密着性が不足し、皮膜層の一部剥離に伴う耐焼付き性不足を生じたものと考えられる。気密性は問題かった。
【0128】
【比較例1】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、厚さ15μmのリン酸マンガン化成処理被膜(表面粗さ20μm)を形成し、その上に潤滑性粉末として二硫化モリブデンを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの皮膜層を形成した。この皮膜層は、樹脂1に対し潤滑性粉末の質量比である。この皮膜層に硬質化のため230 ℃で30分の加熱処理を実施した。
【0129】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、1回目の締付けを行ったところ緩めができないはどの激しい焼付きを発生したため、試験を終了した。
【0130】
従来技術のように、潤滑性粉末を含有する固体潤滑被膜が単層の皮膜層である場合、樹脂に対する潤滑性粉末の質量比が少なすぎると、ミスアライメントを伴う締付けのように初期の接触が厳しく、高いすべり性が要求される状況下では、それを緩和するためのすべり性が不足し、急激に激しい焼付きを発生してしまうことが確認された。
【0131】
【比較例2】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、厚さ15μmのリン酸マンガン化成処理被膜(表面粗さ20μm)を形成し、その上に二硫化モリブデンとPTFEを含有するポリアミドイミド樹脂からなる、厚さ28μmの皮膜層を形成した。この皮膜層は、樹脂1に対し潤滑性粉末の合計が9の質量比である。皮膜の硬質化のため 260℃で30分の加熱処理を実施した。
【0132】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)のみとした。
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、2回目までは焼付きの発生は無かった。しかし、3回目には軽度の焼付きが発生したため、手入れを続けたが、4回目に激しい焼付きを発生したため試験を終了した。
【0133】
従来技術のように、潤滑性粉末を含有する固体潤滑被膜が単層の皮膜層である場合、樹脂に対する潤滑性粉末の質量比を例えば9以上と多くすれば、ミスアライメントを伴う締付けのように初期の接触が厳しく、高いすべり性が要求されるなる状況下において、最初はそれを緩和することができるが、密着性の低下や被膜消耗の速さにより、締付け・緩めの繰り返しに耐えられず、焼付きを発生するようになる。
【0134】
【比較例3】
表1に示す組成Aの炭素鋼製のねじ継手に下記の表面処理を施した。
ボックス表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ4μm)後、厚さ16μmのリン酸マンガン化成処理被膜(表面粗さ18μm)を形成し、その上に二硫化モリブデンと黒鉛を含有するTi−O を骨格とする無機高分子からなる、厚さ18μmの皮膜層を形成した。該被膜形成時に大気中で3時間放置後に150 ℃の熱風を10分間吹き付けを行った。この皮膜層は、無機高分子1に対し潤滑性粉末の合計が1.5 の質量比である。
【0135】
ピン表面は、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)後、厚さ20μmのリン酸亜鉛化成処理被膜(表面粗さ22μm)を形成した。
表4に示すように、締付け・緩め試験では、10回のミスアライメントを伴う締付け・緩めにおいて、1回目までは焼付きの発生は無かった。しかし、2回目には軽度の焼付きが発生したため、手入れを続けたが、3回目で激しい焼付きを生じたため試験を終了した。
【0136】
無機高分子の結合剤に潤滑性粉末を分散させた含有させた固体潤滑皮膜層の単層からなる固体潤滑被膜は、ミスアライメントを伴う締付けのように初期の接触が厳しく、高いすべり性が要求されるなる状況下においてもそれを緩和する性能は高いが、被膜としての耐摩耗性が低いため、繰り返しの締付け・緩めにおける十分な耐焼付き性を得ることができない。
【0137】
【発明の効果】
本発明にかかる鋼管用ねじ継手は、コンパウンドグリスなどの重金属粉を含む液体潤滑剤を用いることなく、実井戸でのミスアライメントを伴う、ねじ継手による鋼管締結において、繰返しの締付け・緩めの際の焼付き発生を顕著に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼管出荷時の鋼管とねじ継手部材の組立構成を模式的に示す概要図である。
【図2】本発明の鋼管用ねじ継手の締付け部を模式的に示す概要図である。
【図3】ミスアライメントを伴うねじ継手による鋼管締結時の様子を模式的に示す概要図である。
【符号の説明】
A:鋼管、 B:ねじ継手部材
1:ピン、 2:ボックス
3:ねじ部、4:ねじ無し金属接触部
5:ショルダー部、
θ:ミスアライメントの角度(°)

Claims (10)

  1. ねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面をそれぞれ有するピンおよびボックスから構成される鋼管用ねじ継手であって、
    ピンおよびボックスの少なくとも一方の部材の接触表面に、それぞれ潤滑性粉末を含有する2層以上の固体潤滑皮膜層が形成されていることを特徴とする鋼管用ねじ継手。
  2. 前記潤滑性粉末を含有する2層以上の固体潤滑皮膜層の下層として、潤滑性粉末を含有しない固体潤滑皮膜層が形成されている、請求項1記載の鋼管用ねじ継手。
  3. 前記2層以上の固体潤滑皮膜層がピンとボックスの一方の部材の接触表面だけに形成されており、ピンとボックスの他方の部材の接触表面には、潤滑性粉末を含有し、または含有しない、1層の固体潤滑皮膜層が形成されている、請求項1または2記載の鋼管用ねじ継手。
  4. 前記2層以上の固体潤滑皮膜層がピンとボックスの一方の部材の接触表面に形成されており、ピンとボックスの他方の部材の接触表面は、表面粗さRmax が10μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  5. 前記2層以上の固体潤滑皮膜層および/または1層の固体潤滑皮膜層が、Rmax 5〜40μmの表面粗さの下地表面の上に形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  6. 前記2層以上の固体潤滑皮膜層が、いずれも樹脂および潤滑性粉末からなる内層と外層の2層の固体潤滑皮膜層から構成され、この2層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比 (M) が下記の関係を満たす、請求項1〜5のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
    1.0≦外層のM≦9.0
    0.5≦内層のM≦4.5
    内層のM<外層のM
    M:皮膜層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比
  7. 前記2層以上の固体潤滑皮膜層が、樹脂および潤滑性粉末からなる内層と、無機高分子および潤滑性粉末からなる外層の2層から構成される、請求項1〜5のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  8. 前記2層以上の固体潤滑皮膜層が、いずれも樹脂および潤滑性粉末からなる内層と中間層と外層の3層の固体潤滑皮膜層から構成され、この3層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比 (M) が下記の関係を満たす、請求項1〜5のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
    1.0≦外層のM≦9.0
    0.5≦中間層のM≦4.5
    内層のM<中間層のM<外層のM
    M:皮膜層中の潤滑性粉末/樹脂の質量比
  9. 前記2層以上の固体潤滑皮膜層が、いずれも樹脂および潤滑性粉末からなる内層および中間層と、無機高分子および潤滑性粉末からなる外層の3層から構成される、請求項1〜5のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  10. 潤滑性粉末が二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれた1種または2種以上の材料からなる、請求項1〜9のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
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