JP3921962B2 - 鋼管用ねじ継手 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油井管の締結等に使用される鋼管用ねじ継手に関し、より具体的には、従来は締結ごとに焼付き防止のため実施されてきた、重金属粉を含むコンパウンドグリスの塗布が不要となる、耐焼付き性、気密性、防錆性に優れた鋼管用ねじ継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
油井掘削に用いられる鋼管である油井管は、鋼管用ねじ継手で締結される。このねじ継手は、雄ねじを備えたピンと、雌ねじを備えたボックスとから構成される。
【0003】
図1に模式的に示すように、通常は鋼管Aの両端の外面に雄ねじ3Aを形成してピン1とし、別部材のスリーブ型の継手部材Bの内面に両側から雌ねじ3Bを形成してボックス2とする。図1に示す通り、鋼管Aは、その一方の端部に予め継手部材Bを締め付けた状態で出荷されるのが普通である。
【0004】
鋼管用ねじ継手には、鋼管と継手の重量に起因する軸方向引張力や地中での内外面圧力などの複合した圧力に加え、地中での熱が作用するので、このような環境下でも破損せずに気密性 (シール性) を保持することが要求される。また、油井管の降下作業時には、一度締め込んだ継手を緩め、再度締め直して締結することがある。そのため、API (米国石油協会) では、チュービング継手においては10回の、ケーシング継手においては3回の締付け (メイクアップ) 、緩め (ブレークアウト) を行っても、ゴーリングと呼ばれる焼付きの発生が無く、気密性が保持されることを求めている。
【0005】
近年では、気密性向上の観点から、金属対金属接触によるメタルシールが可能な特殊ねじ継手が一般に使用されるようになっている。この種のねじ継手では、ピンとボックスのいずれも、雄ねじまたは雌ねじからなるねじ部に加えて、ねじ無し金属接触部を有しており、このねじ部とねじ無し金属接触部の両方が接触表面となる。ピンとボックスのねじ無し金属接触部同士が当接して、金属−金属間接触によるメタルシール部が形成され、気密性が向上する。
【0006】
このようなねじ継手では、接触表面、特にねじ無し金属接触部の焼付きを防止するため、コンパウンドグリスと呼ばれる高潤滑の液状潤滑剤が使用されてきた。このグリスを、締付け前にピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面に塗布する。しかし、このグリスには有害な重金属が多量に含まれており、締付けに伴って周囲にはみ出たグリスを洗浄液で洗浄するが、この作業でコンパウンドグリスやその洗浄液が海洋や土壌に流出して環境汚染を引き起こすことが問題視されるようになった。また、締付けを繰り返すたびに必要となる洗浄とグリス塗布が、リグ現場での作業効率を低下させるという問題もあった。
【0007】
そこで、コンパウンドグリスの塗布が不要な鋼管用ねじ継手として、ピンとボックスの少なくとも一方のねじ部とねじ無し金属接触部 (即ち、接触表面) に、二硫化モリブデンで代表される潤滑性粉末とバインダーとからなる固体潤滑被膜を形成したねじ継手が開発された (特許第3,056,6464号、特開平8−233163号、特開平8−233164号各公報) 。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように接触表面に固体潤滑被膜を形成した鋼管用ねじ継手の開発により、コンパウンドグリスの塗布が不要となり、前述した環境問題や作業効率の問題は解決できる。
【0009】
しかし、上記公報に開示されているような従来の固体潤滑被膜を形成したねじ継手では、コンパウンドグリスを塗布した場合に得られるような高い焼付き防止効果が得られず、耐焼付き性に問題が残っている。即ち、材質が高合金鋼製である継手、ケーシングなど内径の大きな油井管の継手、或いはシール性の高いねじ部での干渉量の大きい継手といった、焼付きが起こり易い種類のねじ継手では、依然として締付け・緩めの繰り返しを数回繰り返すだけでゴーリングと呼ばれる焼付き疵を生じることがあった。コンパウンドグリスを塗布すれば、この種のねじ継手でも、焼付きを防止することができるので、そのような場合はグリス塗布を行うことになり、上記の問題が避けられない。従って、この種のねじ継手では、耐焼付き性を確実に改善することができる固体潤滑被膜を開発することが求められていた。
【0010】
本発明は、固体潤滑被膜を形成した鋼管用ねじ継手であって、前述した焼付き易い種類のねじ継手においても締付け・緩め時の焼付きを防止することができる、耐焼付き性に優れた鋼管用ねじ継手を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋼管用ねじ継手の接触表面に形成する、潤滑性粉末とバインダーとからなる固体潤滑被膜の耐焼付き性をさまざまな摩擦試験で調査していくうち、試験結果が摩擦試験方式に左右されることに気付いた。即ち、供試材が一方向に摺動する摩擦試験と往復摺動する摩擦試験とでは、固体潤滑被膜の耐焼付き性の評価試験で得られる結果が異なるのである。
【0012】
具体的には、図2に示す要領で、表1に示す条件下に、同じ固体潤滑被膜について、一方向と往復方向の両方の摺動条件での摩擦試験を実施した。図2(a) に示す一方向摺動試験は、ピンオンディスク方式と呼ばれる、球を回転円板に一定荷重で接触させる試験であり、球が平面の円軌道上を一方向に移動する。一方、図2(b) に示す往復摺動試験では、摩擦形態は同じく平面−球間の接触であるが、球は平面の直線軌道上を往復する。
【0013】
【表1】
Figure 0003921962
【0014】
両方式とも平面側だけに固体潤滑被膜が形成され、平面と球の材質は表1に示すように両試験で同一であり、平面の表面粗さも同一であった。被膜から見ると、一方向摺動では、被膜は常に一方向からのせん断を受けるが、往復摺動では被膜は両方向からのせん断を受ける点で、差異がある。
【0015】
固体潤滑被膜の形成に用いたバインダーはポリアミドイミド樹脂であり、バインダーと潤滑性粉末の割合は後述する実施例と同様であった。固体潤滑被膜の膜厚は30μmであった。試験結果 (焼付き発生までの摺動回数、往復摺動の場合は往復で1回とする) の一部を図3に示す。
【0016】
図3(a) に示すように、一方向摺動の摩擦試験では、前掲の各公開公報に開示された固体潤滑被膜でも使用されている、二硫化モリブデン (図中、MoS2) と二硫化タングステン (図中、WS2)の1種または2種の粉末を潤滑性粉末とする固体潤滑被膜が、最も良好な耐焼付き性を示し、他の潤滑性粉末 (図示例では黒鉛) を添加すると、添加量に従って耐焼付き性が低下する。なお、他の潤滑性粉末が黒鉛以外 (例、窒化硼素やポリテトラフルオロエチレンの粉末) でも同様の傾向を示した。
【0017】
しかし、図3(b) に示すように、往復摺動の摩擦試験では、潤滑性粉末が二硫化モリブデンおよび/または二硫化タングステンの粉末だけである固体潤滑被膜は耐焼付き性が非常に低く、この粉末にさらに少量の黒鉛粉末を添加すると、固体潤滑被膜の耐焼付き性が飛躍的に向上することが判明した。
【0018】
即ち、二硫化モリブデンと二硫化タングステンの1種または2種の粉末に対する少量の黒鉛粉末の添加は、一方向摺動する摩擦試験では耐焼付き性を著しく低下させる一方で、往復摺動する摩擦試験では耐焼付き性を著しく向上させる、という全く相反する、予想外の結果を生ずる。
【0019】
鋼管用ねじ継手の締付けと緩めは、当然のことながら往復摺動である。従って、往復摺動の摩擦試験で優れた耐焼付き性を示す、二硫化モリブデンと二硫化タングステンの少なくとも一方の粉末に少量の黒鉛粉末を添加した潤滑性粉末を用いた固体潤滑被膜を、鋼管用ねじ継手の接触表面に形成することによって、鋼管用ねじ継手の耐焼付き性を大幅に改善することが可能となるはずである。実際に、このような固体潤滑被膜をねじ継手の接触表面に形成して耐焼付き性を調べたところ、その通りであることが確かめられた。
【0020】
従来より鋼管用ねじ継手の焼付き防止に用いられてきたコンパウンドグリスは流動性で、自己補修機能を有しているため、一方向摺動と往復摺動とで耐焼付き性に差異が現れない。そのため、グリス塗布の代わりに固体潤滑被膜を形成する場合でも、より一般的なピンオンディスク型試験装置やファレックス試験機等を用いて、一方向摺動の摩擦試験で耐焼付き性を評価するのが普通であった。因みに、固体潤滑被膜を有する鋼管用ねじ継手を開示している前掲公報においても、いずれも一方向摺動の摩擦試験で耐焼付き性を評価しており、そのため、一方向摺動での耐焼付き性に優れた二硫化モリブデンや二硫化タングステンが潤滑性粉末として選ばれたものと推測される。
【0021】
鋼管用ねじ継手の接触表面が往復摺動を受けることに着目し、往復摺動における耐焼付き性に優れた固体潤滑被膜を鋼管用ねじ継手の接触表面に形成するという発想はこれまでになかった。本発明は、往復摺動の摩擦試験において著しく優れた耐焼付き性を示す潤滑性粉末を用いて固体潤滑被膜を形成することにより、グリス塗布不要の鋼管用ねじ継手の耐焼付き性を著しく改善することに成功したものである。
【0022】
ここに、本発明は、ねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面をそれぞれ有するピンとボックスとから構成される鋼管用ねじ継手であって、
ピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面に、潤滑性粉末と有機樹脂バインダーとからなる固体潤滑被膜が形成されており、前記潤滑性粉末は、二硫化モリブデン粉末および二硫化タングステン粉末から選んだ1種または2種と黒鉛粉末とからなり、黒鉛粉末が潤滑性粉末の4〜15質量%を占めることを特徴とする、鋼管用ねじ継手である。
【0023】
【発明の実施の形態】
図4は、代表的な鋼管用ねじ継手(以下、ねじ継手ともいう)の構成を模式的に示す概要図である。符号1はピン、2はボックス、3はねじ部、4はねじ無し金属接触部、5はショルダー部を示す。以下、ねじ無し金属接触部を単に金属接触部ともいう。
【0024】
図4に示したように、典型的なねじ継手は、鋼管端部の外面に形成された、ねじ部3(即ち、雄ねじ部)及びねじ無し金属接触部4を有するピン1と、ねじ継手部材の内面に形成された、ねじ部3(即ち、雌ねじ部)及びねじ無し金属接触部4を有するボックス2とで構成される。ただし、ピンとボックスは図示のものに制限されない。例えば、継手部材を使用せず、鋼管の一端をピン、他端をボックスとしたり、あるいは継手部材をピン (雄ねじ) として、鋼管の両端をボックスとすることも可能である。
【0025】
ピン1とボックス2のそれぞれに設けたねじ部3と (ねじ無し) 金属接触部4がねじ継手の接触表面である。この接触表面、中でも、より焼付きの起こりやすい金属接触部には、耐焼付き性が要求される。従来は、そのために、重金属粉を含有するコンパウンドグリスを接触表面に塗布していたが、前述したように、コンパウンドグリスの使用には環境面と作業効率の面で問題が多い。
【0026】
一方、二硫化モリブデンおよび/または二硫化タングステンの粉末とバインダーとからなる固体潤滑被膜では、高合金鋼製の継手、内径の大きな継手、ねじ部での干渉量の大きい継手といった、焼付きが起こり易い種類のねじ継手での焼付き発生を十分に防止することができず、耐焼付き性が不十分であった。
【0027】
本発明では、図2に関して説明したように、往復摺動での耐焼付き性に著しく優れた、二硫化モリブデンおよび/または二硫化タングステンの粉末と少量の黒鉛粉末とからなる潤滑性粉末を用いて固体潤滑被膜を形成することにより、上記のような焼付きが起こり易い種類のねじ継手に対しても、少なくとも10回程度まで締付け・緩めを繰り返しても焼付きが発生しない、優れた耐焼付き性を付与することが可能となる。
【0028】
この効果を十分に得るため、潤滑性粉末における黒鉛粉末の割合を4〜15質量%とする。黒鉛粉末がこの範囲より少なくても多くても、ねじ継手の耐焼付き性が低下するようになる。好ましい黒鉛粉末の割合は5〜10%である。潤滑性粉末の残部は、実質的に二硫化モリブデンと二硫化タングステンの1種または2種の粉末からなる。ただし、他の潤滑性粉末、例えば、窒化硼素、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)も、潤滑性粉末の10%以下程度の少量であれば、存在させうる。
【0029】
本発明で用いる潤滑性粉末の平均粒径は、特に限定するものではないが、いずれも 0.5〜60μmの範囲内が好ましい。潤滑性粉末が0.5 μmより小さい平均粒径を有すると、粉末同士が凝集し易くなり、固体潤滑被膜中に均一に分散し難くなり、局所的に性能が不足することがある。一方、粉末の平均粒径が60μmを超えると、固体潤滑被膜の強度が低下するばかりではなく、下地との密着性も低下するため、焼付きの発生を抑制できないことがある。
【0030】
本発明に係る鋼管用ねじ継手の固体潤滑被膜は、バインダーの溶液 (分散液でもよい) に、前述した潤滑性粉末を添加して均一に分散させ、必要に応じて粘度を調整することにより調製した塗布液 (粉末分散液) を、ねじ継手のピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面に塗布し、塗膜を乾燥させることにより形成することができる。塗布液の塗布方法は、刷毛塗り、浸漬処理、エアースプレー法等の公知の適当な方法でよい。
【0031】
バインダーとしては、有機樹脂を使用することができる。
有機樹脂としては、耐熱性と適度な硬さと耐摩耗性とを有するものが好適である。そのような樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素(ウレア)樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにポリアミドイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂などの熱可塑性樹脂を例示できる。
【0032】
有機樹脂を適当な溶媒に溶解ないし分散させた樹脂液に所定量の潤滑性粉末を添加し、均一に分散させて塗布液を調製する。固体潤滑被膜の密着性と耐摩耗性の観点から、ねじ継手の接触表面に塗布液を塗布した後、加熱して被膜を硬質化させることが好ましい。この加熱温度は、好ましくは120 ℃以上、より好ましくは 150〜380 ℃であり、加熱時間は、鋼管用ねじ継手のサイズにより設定されればよいが、好ましくは30分以上、より好ましくは30〜60分である。
【0036】
固体潤滑被膜の厚みは5μm以上、45μm以下とすることが望ましい。潤滑被膜の厚さが5μm未満では、締付け・緩めの繰り返しによる被膜の摩耗により被膜切れを起こして、焼付きを生ずることがある。固体潤滑被膜の膜厚が45μmより大きくなると、締付け量が不十分となり、気密性が低下したり、気密性を確保するために面圧を高めると、焼付きが発生し易くなったり、潤滑被膜が剥離し易くなると、いったことが起こりやすくなる。耐焼付き性の観点から、固体潤滑被膜の膜厚はより好ましくは15μm以上、40μm以下である。
【0037】
固体潤滑被膜には、防錆剤を始めとする各種添加剤を、耐焼付き性を損なわない範囲で添加することもできる。例えば、亜鉛粉、クロム顔料、シリカ、アルミナの1種もしくは2種以上の粉末を添加することができる。また、着色剤を含有させて、形成された固体潤滑被膜を着色してもよい。なお、塗布液には、分散剤、消泡剤、増粘剤等の1種または2種以上の添加剤を適宜含有させることもできる。
【0038】
本発明に従って固体潤滑被膜を形成するピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面は、固体潤滑被膜の密着性を確保するため、被膜形成前に、その表面粗さRmax が、機械切削後の鋼表面粗さ(0.1〜5μm)より大きな5〜40μmの範囲となるように予め粗面化しておくことが望ましい。固体潤滑被膜を形成する接触表面の表面粗さ (Rmax)が5μmより小さいと、固体潤滑被膜の密着性が低下する傾向がある。一方、この表面粗さが40μmを超えると、摩擦が高くなり、固体潤滑被膜の摩耗を早め、繰り返しの締付け・緩めに耐えられないことがある。
【0039】
粗面化の方法としては、サンドブラスト、グラスピーニング、強酸溶液に浸漬して肌を荒らすといった、鋼表面それ自体を粗面化する方法に加え、鋼表面より粗面となる下地処理層を形成して、塗布面を粗面化する方法も可能である。
【0040】
このような下地処理の例としては、リン酸塩、蓚酸塩、硼酸塩等の化成処理被膜(生成する結晶の成長に伴い、結晶表面の粗さが増す)を形成する方法、銅めっきまたは鉄めっきのような金属の電気めっき (凸部が優先してめっきされるため、僅かであるが表面が粗くなる)を施す方法、鉄芯に亜鉛または亜鉛−鉄合金等を被覆した粒子を遠心力またはエアー圧を利用して投射し、亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金をの膜を形成させる衝撃めっき法、窒化層を形成する軟窒化法(例えば、タフトライド)、金属中に固体微粒子を分散させた多孔質被膜を形成する複合金属被覆法、TiC、TiN、TiCNなどが挙げられる。
【0041】
固体潤滑被膜の密着性の観点からは、多孔質被膜、特にリン酸塩系化成処理(リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸鉄マンガン、リン酸亜鉛カルシウム)や、衝撃めっきによる亜鉛または亜鉛−鉄合金の被膜が好ましい。密着性の観点からリン酸マンガン被膜が、防錆性の観点から亜鉛または亜鉛−鉄合金の被膜が、より好ましい。
【0042】
リン酸塩系化成処理被膜や、衝撃めっきによって形成された亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金の被膜は、いずれも多孔質な被膜であるため、その上に固体潤滑被膜を形成すると、固体潤滑被膜の密着性が高まる。その結果、締付け・緩めを繰り返しても固体潤滑被膜の剥離が起こらず、金属間接触が効果的に防止され、耐焼付き性、気密性、防錆性が一層向上する。
【0043】
下地処理層が多孔質であっても、その上に本発明に従って固体潤滑被膜を形成することにより、下地の多孔質被膜の空隙が封鎖されるので、防錆性や気密性の低下は生じない。また、多孔質被膜層が衝撃めっきによって形成された亜鉛もしくは亜鉛−鉄合金被膜である場合、亜鉛は鉄より卑な金属であるため、鉄より優先的にイオン化して、鉄の腐食を防ぐ犠牲防食能を発揮し、一層優れた防錆性を実現することができる。
【0044】
多孔質の亜鉛または亜鉛−鉄合金層は、乾式の衝撃めっき法により形成することができる。衝撃めっき法としては、局部的なめっきが可能な投射めっきが適している。投射めっき等の衝撃めっきに使用する粒子は、少なくとも表面に亜鉛または亜鉛−鉄合金を有する金属粒子である。全体が亜鉛または亜鉛−鉄合金からなる粒子でもよいが、好ましいのは、特公昭59−9312号公報に開示されている投射材料である。この投射材料は、鉄または鉄合金を核(コア)とし、その表面に亜鉛または亜鉛−鉄合金層を被覆した粒子からなる。この鉄系の核の周囲を亜鉛または亜鉛−鉄合金で被覆した粒子を基体に投射すると、粒子の被膜層である亜鉛または亜鉛−鉄合金のみが基体に付着し、亜鉛または亜鉛−鉄合金の被膜が基体上に形成される。この投射めっきは、鋼の材質に関係なく、鋼表面に密着性の良いめっき被膜を形成することができる。
【0045】
前述した各種の下地処理層を形成する場合、その厚みに特に制約はないが、防錆性と密着性の観点から5〜40μmであることが好ましい。5μm未満では、十分な防錆性が確保できないことがある。一方、40μmを超えると、固体潤滑被膜との密着性が低下することがある。
【0046】
このような下地処理を実施した場合、下地処理を行った後すぐに固体潤滑被膜の形成を行うと、固体潤滑被膜の密着性が向上する。この効果は、下地処理から被膜形成処理までの時間が短いほど高くなるが、1時間以内なら十分な効果が認められる。これは、下地処理によって、活性な表面が露出したり、活性な下地被膜が形成されることで、固体潤滑被膜との物理・化学吸着性が高まるからと考えられる。
【0047】
固体潤滑被膜をピンとボックスの一方の部材の接触表面だけに形成しても本発明の目的は十分に達成できるので、コスト面からはそのようにすることが好ましい。その場合、ボックス (即ち、短い継手部材) の接触表面に固体潤滑被膜を形成する方が、被膜の形成作業が容易である。固体潤滑被膜を形成しない相手部材(ボックスに固体潤滑被膜を形成する場合は、ピン)の接触表面は、未被覆のままでもよい。特に、図1のように、組立て時にピンとボックスが仮に締付けられる場合には、相手部材の接触表面が裸(切削加工まま)でも、組立て時にボックスの接触表面に形成された被膜と密着するので、相手部材の接触表面の錆も防止できる。
【0048】
ピンとボックスの一方の部材の接触表面だけに固体潤滑被膜を形成した場合、相手部材の接触表面は、その粗さの山の突起部分で固体潤滑被膜がかき削られることがないように、表面粗さRmax が40μm以下となるようにすることが望ましい。相手部材の表面粗さは、より好ましくは10μm以下である。
【0049】
また、相手部材の接触表面に油を塗布すると、固体潤滑被膜との摩擦が低減され、被膜の摩耗が抑制される。油は、さらに固体潤滑被膜にも塗布することができる。その場合、両方の油は同じものが好ましいが、異なるものでも差し支えない。
【0050】
使用する油に特に制限はなく、鉱物油、合成エステル油、動植物油などのいずれも使用できる。この油には、防錆添加剤、極圧添加剤といった、潤滑油に慣用の各種添加剤を添加することができる。また、それらの添加剤が液体である場合、それらの添加剤を単独で油として使用し、塗布することもできる。
【0051】
防錆添加剤としては、塩基性金属スルホネート、塩基性金属フェネート、塩基性金属カルボキシレートなどが用いられる。極圧添加剤としては、硫黄系、リン系、塩素系、有機金属塩など公知のものが使用できる。その他、酸化防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤なども油に添加することができる。
【0052】
【実施例】
ねじ部とねじ無し金属接触部とを有するピン (鋼管端部) とボックス (継手部材) からなる7インチサイズのねじ継手を用いて、締付け・緩めの試験を行った。使用したねじ継手は、ピンとボックスのいずれも、焼付きの起こり易い高合金鋼である13Cr鋼製であった。
【0053】
ピンとボックスの少なくとも一方の接触表面 (ねじ部と金属接触部の表面) に、下地処理として硫酸酸洗を施した後、30分以内に、表2に示す潤滑性粉末とバインダーとからなる固体潤滑被膜を形成した。表2には、使用した潤滑性粉末の平均粒径と固体潤滑被膜の膜厚も表示する。固体潤滑被膜中の潤滑性粉末とバインダーの割合は体積比率で3:7の一定とした。
【0054】
バインダーが有機樹脂である場合は、塗布液の塗布と加熱により固体潤滑被膜を形成した。加熱温度は230〜260℃であった。
【0055】
固体潤滑被膜を形成しなかった部材の接触表面は、機械研削仕上げにり、表面粗さがRmax 約3μmになるように調整し、場合によりその表面油を塗布した。一部の例では、固体潤滑被膜にも油を塗布した。使用した油はいずれも精製鉱物油 (40℃の粘度が50 cSt) であった。
【0056】
表2に示すように処理したピンとボックスを用いて、回転速度20 rpm、締付けトルク20000 ft・lbs で室温での締付け・緩めを繰り返した。焼付きが発生するまでの締付け・緩め回数を表2に併記する。前述したAPIがチュービングに対して要求する締付け・緩め回数を考慮して、焼付き発生までに10回以上の締付け・緩めが可能である場合を合格と判定した。
【0057】
【表2】
Figure 0003921962
【0058】
表2に示すように、本発明に従って、潤滑性粉末が二硫化モリブデンおよび/または二硫化タングステンの粉末に加え、4〜15質量%の黒鉛粉末を含有していると、焼付きが起こり易い高合金鋼製のねじ継手でも、焼付きを起こさずに10回以上の締付け・緩めが可能であり、耐焼付き性に優れていた。但し、潤滑性粉末中の黒鉛粉末の割合が15質量%を超えると、耐焼付き性が低下した。
【0059】
これに対し、潤滑性粉末が二硫化モリブデンだけであると、6回の締付け・緩めで焼付きが発生し、耐焼付き性が不十分であった。潤滑性粉末が二硫化モリブデンだけである固体潤滑被膜は、図3(a) に示すように、一方向摺動の摩擦試験では、本発明に従った固体潤滑被膜より著しく優れた耐焼付き性を示すが、図3(b) に示すように、往復摺動の摩擦試験では耐焼付き性が著しく低い。本実施例の結果から、ねじ継手に形成する固体潤滑被膜の耐焼付き性は、一方向摺動ではなく、往復摺動の摩擦試験でないと、適切に評価できないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼管出荷時の鋼管とねじ継手部材の組立構成を模式的に示す概要図である。
【図2】図2(a) は一方向摺動方式の摩擦試験の概要を、図2(b) は往復摺動方式の摩擦試験の概要を示す。
【図3】図3(a) は一方向摺動方式の摩擦試験の結果を、図2(b) は往復摺動方式の摩擦試験の結果を示す。
【図4】本発明の鋼管用ねじ継手の締付け部を模式的に示す概要図である。
【符号の説明】
A:鋼管、B:ねじ継手部材
1:ピン、2:ボックス
3:ねじ部、4:ねじ無し金属接触部
5:ショルダー部

Claims (1)

  1. ねじ部とねじ無し金属接触部とを含む接触表面をそれぞれ有するピンとボックスとから構成される鋼管用ねじ継手であって、
    ピンとボックスの少なくとも一方の部材の接触表面に、潤滑性粉末と有機樹脂バインダーとからなる固体潤滑被膜が形成されており、前記潤滑性粉末は、二硫化モリブデン粉末および二硫化タングステン粉末から選んだ1種または2種と黒鉛粉末とからなり、黒鉛粉末が潤滑性粉末の4〜15質量%を占めることを特徴とする、鋼管用ねじ継手。
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