JP3985410B2 - 耐摩耗性のすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、すぐれた耐摩耗性を有し、したがって例えば鋼の連続切削や断続切削で長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬切削工具と云う)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般に、例えば図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置を用い、ヒーターで装置内を例えば700℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成を有するTi−Al合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間にアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガス、または窒素ガスとメタンガスを導入し、一方炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットからなる工具基体(以下、これらを総称して超硬工具基体と云う)には、例えば−120Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記超硬工具基体の表面に、例えば特開昭62−56565号公報に記載されるように、TiとAlの複合窒化物[以下、(Ti,Al)Nで示す]層および複合炭窒化物[以下、(Ti,Al)CNで示す]層のうちの1種の単層または2種の複層からなる強靭性硬質被覆層を0.5〜15μmの平均層厚で物理蒸着することにより製造された被覆超硬切削工具が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年の切削加工のFA化および高速化はめざましく、かつ切削加工の省力化および省エネ化に対する要求もつよく、これに伴い、切削工具には使用寿命の延命化が強く望まれているが、上記の従来被覆超硬切削工具の場合、これを構成する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層からなる強靭性硬質被覆層はすぐれた強度および靭性を有し、良好な耐チッピング性(工具切刃に微小欠けが発生しにくい性質)を示すものの、耐摩耗性が十分でないために、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の従来被覆超硬切削工具の耐摩耗性向上を図るべく、特にこれを構成する硬質被覆層に着目し、研究を行なった結果、
(a)物理蒸着法により硬質被覆層としての酸化アルミニウム層を形成する試みがなされ ており、この結果形成された酸化アルミニウム層は、耐熱性にすぐれ、かつ高硬度を有することから、耐摩耗性向上を図る上で望ましいものであるが、前記酸化アルミニウム層は上記の従来被覆超硬切削工具を構成する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層との密着性に劣るものであることから、前記従来被覆超硬切削工具の表面に前記酸化アルミニウム層を形成してなる被覆超硬切削工具においては、特に工具切刃に高い負荷のかかる断続切削を高切込みや高送りなどの重切削条件で行った場合に前記酸化アルミニウム層に剥離が発生し易く、実用に供することができないこと。
【0005】
(b)上記の従来被覆超硬切削工具を構成する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層の表面に、上記の酸化アルミニウム層を物理蒸着法により形成するに際して、これを物理蒸着法の1種であるアークイオンプレーティング法に特定すると共に、Alよりイオン半径の著しく大きいTi、Zr、およびHf、すなわちイオン半径が0.57オングストロームのAlに対して、それぞれイオン半径が0.76オングストロームのTi、同0.87オングストロームのZr、および同0.84オングストロームのHfのうちの1種または2種以上を、Al2 3 の結晶構造におけるAl原子の一部をAlとの合量に占める割合で0.01〜10原子%、望ましくは0.02〜5原子%の割合で置換した形で固溶含有してなるAl2 3 主体層を形成すると、この結果のAl2 3のもつ結晶構造を保持したままのAl2 3 主体層は、同じくアークイオンプレーティング装置にて形成されたAl 2 3 層、すなわち、前記Ti、Zr、およびHfを一部置換含有しないが、Al 2 3 のもつ結晶構造を有するAl2 3 層が、層厚にも影響されるが0.2〜0.8GPaの圧縮残留応力をもつのに対して、大きなイオン半径差による格子内歪みの著しい増大によって、1.2〜3GPaの圧縮残留応力をもつようになり、このように圧縮残留応力のきわめて高いAl2 3 主体層は上記(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層に著しく強固に密着し、かつAl2 3の具備する特性をそのまま保持することから、前記(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層の表面にさらに前記Al2 3 主体層をアークイオンプレーティング装置にて形成してなる被覆超硬切削工具は、例えば鋼の断続切削を、特に工具切刃に高い負荷のかかる高切込みや高送りなどの重切削条件で行っても前記Al2 3 主体層に剥離の発生なく、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
【0006】
この発明は、上記の研究結果にもとづいてなされたものであって、
(a)アークイオンプレーティング装置にて、超硬工具基体の表面に、カソード電極(蒸発源)としてTi−Al合金を用い、反応ガスとして窒素ガス、または窒素ガスとメタンガスを導入して形成された(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層のうちの1種の単層または2種の複層からなり、かつ、0.5〜15μmの平均層厚を有する強靭性硬質被覆層を蒸着し、
(b)同じくアークイオンプレーティング装置にて、上記強靭性硬質被覆層の表面に、カソード電極(蒸発源)としてTi、Zr、およびHfのうちの1種または2種以上を含有したAl−(Ti,Zr,Hf)合金を用い、反応ガスとして酸素ガスを導入して形成された、Al2 3のもつ結晶構造を保持したままで、Alの一部をAlとの合量に占める割合で0.02〜5原子%のTi、Zr、およびHfのうちの1種または2種以上で置換固溶含有してなる、高い圧縮残留応力を有するAl2 3主体層からなり、かつ、0.5〜15μmの平均層厚を有する耐摩耗性硬質被覆層を蒸着してなる、耐摩耗性のすぐれた被覆超硬切削工具に特徴を有するものである。
【0007】
なお、この発明の被覆超硬切削工具において、強靭性硬質被覆層の平均層厚を0.5〜15μmとしたのは、その層厚が0.5μm未満では硬質被覆層に所望の強靭性を確保することができず、この結果切刃に欠けやチッピング(微小欠け)が発生し易くなり、一方その層厚が15μmを越えると切削時に発生する高熱によって熱塑性変形を起し、切刃に偏摩耗が発生し、これが原因で摩耗進行が急激に促進されるようになるという理由にもとづくものであり、また耐摩耗性硬質被覆層(Al2 3 主体層)の平均層厚を0.5〜15μmとしたのは、その層厚が0.5μm未満では所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その層厚が15μmを越えると切刃に欠けやチッピングが発生し易くなるという理由によるものである。
【0008】
また、上記耐摩耗性硬質被覆層におけるAlのTi、Zr、およびHfによる置換含有割合を0.02〜5原子%としたのは、その含有割合が0.02原子%未満では前記耐摩耗性硬質被覆層に上記強靭性硬質被覆層との間に十分な密着性を確保することのできる圧縮残留応力を形成することができない場合が生じ、一方その含有割合が原子%を越えると圧縮残留応力が大きくなりすぎ、切削条件によっては自己破壊を起こす場合が生じるようになるという理由にもとづくものである。
さらに、上記耐摩耗性硬質被覆層の上に、必要に応じてTiN層を0.1〜2μmの平均層厚で形成してもよく、これはTiN層が黄金色の色調を有し、この色調によって切削工具の使用前と使用後の識別が容易になるという理由からで、この場合その層厚が0.1μm未満では前記色調の付与が不十分であり、一方前記色調の付与は2μmまでの平均層厚で十分である。
【0009】
【発明の実施の形態】
ついで、この発明の被覆超硬切削工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、1.5×108Paの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.05のホーニング加工を施してISO規格・SPGA120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の超硬工具基体A−1,A−2,A−4,A−5,A−7,およびA−8を形成した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、9.8×107Paの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3×103Paの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120406のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の超硬工具基体B−2〜B−5を形成した。
【0010】
ついで、これらの超硬工具基体を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、一方カソード電極(蒸発源)として種々の成分組成をもったTi−Al合金を装着し、装置内を排気して1.3×10-3Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを装置内に導入して2.5PaのAr雰囲気とし、この状態で超硬工具基体に−800vのパルスバイアス電圧を印加して超硬工具基体表面をArガスボンバート洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガス、または窒素ガスとメタンガスを導入して2.5Paの反応雰囲気とすると共に、前記超硬工具基体に印加するパルスバイアス電圧を−200vに下げて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記超硬工具基体A1〜A8およびB1〜B6のそれぞれの表面に、表3に示される目標組成および目標層厚の強靭性硬質被覆層を形成することにより従来被覆超硬切削工具1〜13をそれぞれ製造した。
【0011】
ついで、これら従来被覆超硬切削工具1〜13のそれぞれの表面に、同じく図1のアークイオンプレーティング装置にて、カソード電極(蒸発源)として、Ti、Zr、およびHfのうちの1種または2種以上を所定量含有したAl−(Ti,Zr,Hf)合金を装着し、装置内を排気して1.3×10-3Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を620〜720℃の範囲内の所定の温度に加熱した状態で、超硬工具基体に印加するパルスバイアス電圧を−700Vとし、ついで装置内に反応ガスとして酸素ガスを導入しながら、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって表4の目標組成および目標層厚のAl2 3 主体層からなる耐摩耗性硬質被覆層を形成することにより本発明被覆超硬切削工具1〜13をそれぞれ製造した。
上記本発明被覆超硬切削工具1〜13の耐摩耗性硬質被覆層を構成するAl2 3 主体層におけるTi、Zr、およびHfの含有量を、エネルギー分散型X線測定装置を用いて定量分析したところ、表4の目標含有量と実質的に同じ含有量を示し、また前記Al2 3 主体層の圧縮残留応力をX線応力測定法を用いて測定したところ、表4に示される結果を示した。さらに各種被覆層の組成および層厚についてもオージェ分光分析法および光学顕微鏡にて測定したところ、表3,4の目標組成および目標層厚と実質的に同じ組成および平均層厚(任意5ヶ所測定の平均値)を示した。
【0012】
ついで、この結果得られた各種の被覆超硬切削工具のうち、本発明被覆超硬切削工具1〜9および従来被覆超硬切削工具1〜9について、
被削材:JIS・S50Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:280m/min.、
送り:0.3mm/rev.、
切込み:2.8mm、
切削時間:10分、
の条件での炭素鋼の乾式断続高切込み切削試験、および、
被削材:JIS・SNCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:280m/min.、
送り:0.4mm/rev.、
切込み:1.5mm、
切削時間:10分、
の条件での合金鋼の乾式断続高送り切削試験を行ない、また本発明被覆超硬切削工具10〜13および従来被覆超硬切削工具10〜13については、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min.、
送り:0.3mm/rev.、
切込み:2.8mm、
切削時間:10分、
の条件でのステンレス鋼の乾式断続高切込み送り切削試験、および、
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min.、
送り:0.45mm/rev.、
切込み:1.5mm、
切削時間:10分、
の条件での合金鋼の乾式断続高送り切削試験を行ない、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5に示した。
【0013】
【表1】
Figure 0003985410
【0014】
【表2】
Figure 0003985410
【0015】
【表3】
Figure 0003985410
【0016】
【表4】
Figure 0003985410
【0017】
【表5】
Figure 0003985410
【0018】
【発明の効果】
表3〜5に示される結果から、本発明被覆超硬切削工具1〜13は、いずれも耐摩耗性硬質被覆層を構成するAl2 3 主体層がAlに比してイオン半径の著しく大きいTi、Zr、およびHfのうちの1種以上を置換含有し、これによって著しく高い圧縮残留応力を保持するようになって、強靭性硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層および(Ti,Al)CN層に対して強固に密着するようになるので、鋼の断続切削を高切込みおよび高送りの重切削条件で行っても前記Al2 3 主体層に剥離の発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、従来被覆超硬切削工具1〜13は、いずれもこれの強靭性硬質被覆層の耐摩耗性不足が原因で、上記のような苛酷な条件下では摩耗進行が速いことが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬切削工具は、耐摩耗性硬質被覆層を構成するAl2 3 主体層のもつすぐれた耐摩耗性および密着性によって、通常の条件での各種鋼の連続切削および断続切削は勿論のこと、きわめて苛酷な切削条件である断続切削を高切り込みおよび高送りの重切削条件で行っても前記Al2 3 主体層に剥離の発生なく、かつ切刃に欠けやチッピングの発生もなく、すぐれた耐摩耗性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであり、切削加工の省エネ化および省力化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 アークイオンプレーティング装置の概略説明図である。

Claims (1)

  1. (a)アークイオンプレーティング装置にて、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、カソード電極(蒸発源)としてTi−Al合金を用い、反応ガスとして窒素ガス、または窒素ガスとメタンガスを導入して形成されたTiとAlの複合窒化物層および複合炭窒化物層のうちの1種の単層または2種の複層からなり、かつ、0.5〜15μmの平均層厚を有する強靭性硬質被覆層を蒸着し、
    (b)同じくアークイオンプレーティング装置にて、上記強靭性硬質被覆層の表面に、カソード電極(蒸発源)としてTi、Zr、およびHfのうちの1種または2種以上を含有したAl−(Ti,Zr,Hf)合金を用い、反応ガスとして酸素ガスを導入して形成された、Al 2 3 のもつ結晶構造を保持したままで、Alの一部をAlとの合量に占める割合で0.02〜5原子%のTi、Zr、およびHfのうちの1種または2種以上で置換固溶含有してなる、高い圧縮残留応力を有するAl 2 3 主体層からなり、かつ、0.5〜15μmの平均層厚を有する耐摩耗性硬質被覆層を蒸着してなる、耐摩耗性のすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具。
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