JP3983875B2 - 小型滑走艇 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水面上を滑るように滑走する小型滑走艇に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、乗員がシートに跨って着座し、操向ハンドルを把持して航走する小型滑走艇は、デッキとハルとによって形成されたエンジン室にエンジンを搭載し、このエンジンの動力を直接(変速機などを介すことなく)推進機に伝達する構造を採っている。この種の小型滑走艇においては、エンジン回転数の上昇に伴って、艇体が水をかき分けて航走する非滑走状態から、いわゆるハンプ(造波抵抗の山)を乗越えて艇体が水面上を滑るように航走する滑走状態に移行する。非滑走状態からエンジン回転数を上昇させて艇体が前記ハンプを乗越えるときには、艇体の推進力の増加に対して艇体抵抗の増加の方が大きいために、船首が持ち上がった状態で航走する。この状態でエンジン回転数が更に上昇することによって、艇体が滑走状態へ移行するようになる。
【0003】
また、従来の小型滑走艇は、艇体が滑走状態にあるときに運動性が高くなるように、エンジンとして高回転、高出力型のものを搭載している。なお、このエンジンに装備する排気装置は、排気を艇体の後部から水中に排出する構造を採っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、高回転、高出力型のエンジンは、エンジン回転域が低中速域にあるときに出力が低くなってしまうため、前記ハンプを円滑に乗越えることができず、非滑走状態から滑走状態へ移行するのに時間がかかるという問題があった。
【0005】
本発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、高回転、高出力型のエンジンを使用しながら、艇体が非滑走状態から滑走状態へ円滑に移行できるようにすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明に係る小型滑走艇は、吸気弁を吸気カム軸で駆動するとともに排気弁を排気カム軸で駆動する4サイクルエンジンを搭載し、このエンジンに吸気弁の開閉時期を変化させるバルブタイミング制御装置を設け、このバルブタイミング制御装置を、非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数よりエンジン回転数が低い状態であって、かつエンジン始動時とアイドリング時とを除く状態において、エンジン回転数が前記滑走移行回転数より高いときより吸気弁の閉じる時期が早くなるように設定し、前記エンジンを、デッキとハルとによって形成したエンジン室内に搭載するとともに、前記エンジン室内に空気を導入する吸気パイプを設け、艇体の前後方向において前記吸気パイプのエンジン室側の開口と、エンジンの吸気装置の吸気入口との間となる部位であって、前記エンジン室側の開口より上方に、前記バルブタイミング制御装置を配置したものである。
【0007】
本発明によれば、吸気弁の閉じる時期が早くなると吸気行程の終期に吸気が吹き返す現象がなくなるから、滑走移行回転数よりエンジン回転数が低い状態、すなわち艇体が非滑走状態にあるときにエンジン出力が増大する。
また、本発明によれば、エンジン運転時にエンジンの吸気入口にエンジン室内の空気が吸込まれ、吸気パイプのエンジン室側の開口からエンジン室内に船外の空気が流入する。このとき、エンジン室内を吸気パイプのエンジン室側開口からエンジンの吸気入口に向けて流れる空気はエンジンのバルブタイミング制御装置の近傍を流れるから、この空気によってバルブタイミング制御装置が冷却される。
【0008】
他の発明に係る小型滑走艇は、吸気弁を吸気カム軸で駆動するとともに排気弁を排気カム軸で駆動する4サイクルエンジンを搭載するとともに、排気を艇体の後部から船外に排出する排気装置を備え、前記エンジンに吸気弁と排気弁のオーバーラップ期間を変化させるバルブタイミング制御装置を設け、このバルブタイミング制御装置を、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数よりエンジン回転数が低い状態であって、かつエンジン始動時とアイドリング時とを除く状態において、エンジン回転数が前記滑走移行回転数より高いときよりオーバーラップ期間が長くなるように設定し、前記エンジンを、デッキとハルとによって形成したエンジン室内に搭載するとともに、前記エンジン室内に空気を導入する吸気パイプを設け、艇体の前後方向において前記吸気パイプのエンジン室側の開口と、エンジンの吸気装置の吸気入口との間となる部位であって、前記エンジン室側の開口より上方に、前記バルブタイミング制御装置を配置したものである。
【0009】
小型滑走艇は、非滑走状態では排気出口が水中に没し易く、排気装置内の排気圧力が高くなる。このため、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い状態でオーバーラップ期間を長くすることによって、排気圧力が高くなることと相俟って内部EGR量を増大させることができる。
したがって、この発明によれば、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い状態でピストン下降時のポンピングロスが低下してエンジン出力が増大する。
また、この発明によれば、エンジン運転時にエンジンの吸気入口にエンジン室内の空気が吸込まれ、吸気パイプのエンジン室側の開口からエンジン室内に船外の空気が流入する。このとき、エンジン室内を吸気パイプのエンジン室側開口からエンジンの吸気入口に向けて流れる空気はエンジンのバルブタイミング制御装置の近傍を流れるから、この空気によってバルブタイミング制御装置が冷却される。
【0012】
他の発明に係る小型滑走艇は、エンジンの吸気通路を低速用吸気通路と、この低速用吸気通路より通路長が短い高速用吸気通路とから構成し、この高速用吸気通路に、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数よりエンジン回転数が高くかつ予め定めた回転数よりエンジン回転数が低い状態で閉じ、前記予め定めた回転数よりエンジン回転数が高い状態で開く吸気制御弁を介装したものである。
【0013】
この発明によれば、エンジン回転数が高回転域にあるときには相対的に短い高速用吸気通路での吸気慣性効果によってエンジン出力が増大し、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い回転域にあるときには、相対的に長い吸気通路の吸気慣性効果によってエンジン出力が増大する。
【0014】
他の発明に係る小型滑走艇は、エンジンの排気通路に、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数よりエンジン回転数が高くかつ予め定めた回転数よりエンジン回転数が低い状態で閉じ、前記予め定めた回転数よりエンジン回転数が高い状態で開く排気制御弁を介装したものである。
【0015】
この発明によれば、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い状態で排気通路の開口面積が小さくなってエンジン出力が増大する。
【0016】
【発明の実施の形態】
第1の実施の形態
以下、本発明に係る小型滑走艇の一実施の形態を図1ないし図7によって詳細に説明する。
図1は本発明に係る小型滑走艇の側面図で、同図は艇体を破断してエンジン室内が見える状態で描いてある。図2は図1における艇体のII−II線断面図、図3はエンジンのシリンダヘッドの平面図で、同図は吸気カム軸の艇体前側の端部を破断した状態で描いてある。図4は図3の破断部を拡大して示す断面図、図5はバルブタイミング制御装置の油圧制御装置を示す断面図である。図6はバルブリフト量とクランク角との関係を示すグラフ、図7はエンジン回転数とエンジン出力および艇体抵抗の関係を示すグラフである。
【0017】
これらの図において、符号1はこの実施の形態による小型滑走艇を示す。この小型滑走艇1は、乗員がシート2に跨って着座し、シート2の前方の操向ハンドル3を把持して航走するものであり、デッキ4とハル5とから構成した艇体6の内部におけるバルクヘッド7より艇体前側にエンジン室8を形成している。
【0018】
このエンジン室8内における艇体6の前後方向の中央部に、エンジン9をクランク軸10の軸線方向が艇体6の前後方向を指向する状態で搭載し、このエンジン9より艇体の前方に燃料タンク11を搭載するとともに、エンジン9より艇体の後方に従来周知のウォータージェット式推進機12を搭載している。
【0019】
また、前記デッキ4におけるエンジン9の前方と後方には、エンジン室8内に艇外の空気を導くための吸気パイプ13,14を設けている。これらの吸気パイプ13,14は、艇外の空気を上端の開口から吸込み、下端の開口からエンジン室内に排出する構造を採り、図2に示すように艇体の左右方向の中央部に配設している。
【0020】
前記推進機12は、プロペラ(図示せず)が前記クランク軸10と同じ回転数をもって回転するように構成し、前記操向ハンドル3の操舵によって左右方向に回動する水噴出部12aを後端部に備えている。
【0021】
前記エンジン9は、水冷式2気筒DOHC型エンジンで、図3に示すように、1気筒当たり2本の吸気弁(図示せず)を駆動する吸気カム軸15と、吸気弁と同数の排気弁(図示せず)を駆動する排気カム軸16とをシリンダヘッド17に装着している。このシリンダヘッド17は、艇体左側に吸気カム軸15を設けるとともに図2に示すように吸気装置18を接続し、艇体右側に排気カム軸16を設けるとともに排気装置19を接続している。
【0022】
前記吸気装置18は、シリンダヘッド17に吸気管20を介して接続した気化器21と、この気化器21の上流側に接続した吸気サイレンサー22とから構成している。この吸気サイレンサー22は、エンジン室8内の空気を吸込むための吸気入口23を艇体左側の下端部に形成している。
【0023】
前記排気装置19は、シリンダヘッド17に排気管24を介して艇体後側のウォーターロック25(図1参照)を接続し、このウォーターロック25から排気を推進機12のポンプ室内に排出する構造を採っている。ポンプ室内に排気を排出するための排気出口を図1中に符号19aで示す。この小型滑走艇1においては、艇体6が非滑走状態にあるときには、前記排気出口19aは水中に没するため、このときには排気は水中に排出される。また、艇体6が滑走状態にあるときには、推進機12の後端の水噴出部12aが水面より上に位置するため、このときには排気は空中に排出される。
【0024】
このエンジン9の前記吸気カム軸15および排気カム軸16は、エンジン9における艇体前側の端部に設けたベルト式伝動装置26によってクランク軸10の回転が伝達されるようにしている。すなわち、両カム軸の艇体前側の端部にプーリ27,28をそれぞれ軸装し、これらのプーリ27,28とクランク軸10のプーリ29にベルト30を巻き掛け、クランク軸10とともに両カム軸のプーリ27,28が回転する構造を採っている。前記吸気カム軸15に、本発明に係るバルブタイミング制御装置31を設けている。なお、図1および図2においてクランク軸10の艇体前側の端部に設けた符号32で示すものはフライホイールマグネトウである。
【0025】
前記バルブタイミング制御装置31は、油圧によって吸気カム軸15の位相を変える従来周知のもので、吸気カム軸15の艇体前側の端部と前記吸気カム軸側のプーリ27との間に介装した制御装置本体33と、吸気カム軸15の他端部に設けた油圧制御装置34とから構成している。
【0026】
前記制御装置本体33は、図4に示すように、吸気カム軸15の軸端部に固定用ボルト35によって固定したインナーシャフト36と、このインナーシャフト36の外周部に円筒状のスライドピストン37を介して連結したシリンダ38などから構成している。このシリンダ38は、前記吸気カム軸側のプーリ27に一体に形成している。
【0027】
前記固定用ボルト35は、軸心部にオイル通路39を穿設し、インナーシャフト36を貫通している。前記オイル通路39は、吸気カム軸15の軸心部を一端から他端へ貫通するように形成したオイル通路40に一端を接続するとともに、他端を、前記シリンダ38の艇体前側に形成したオイル室41に接続している。このオイル室41は、前記スライドピストン37の艇体前側(図4において左側)の軸端部に油圧が作用するように形成している。
【0028】
前記スライドピストン37は、主ピストン37aに副ピストン37bをボルト37cと付勢用ばね37dとによって接続した構造を採り、圧縮コイルばね42によって艇体の前方へ向けて付勢されている。また、このスライドピストン37の内周面および外周面には、ヘリカルスプライン43,44をねじれ方向が逆になるように形成している。内周側のヘリカルスプライン43は、インナーシャフト36の外周面に形成したヘリカルスプライン45に嵌合し、外周側のヘリカルスプライン44は、シリンダ38の内周面に形成したヘリカルスプライン46に嵌合している。
【0029】
この構造を採ることによって、スライドピストン37を艇体の前後方向に移動させることによって吸気カム軸15がプーリ27に対して相対的に回動するようになる。この実施の形態では、スライドピストン37が油圧により艇体後側に移動することによって、吸気カム軸15が予め定めた角度だけプーリ27に対して進角側に回るようにしている。
【0030】
スライドピストン37に作用する油圧は、吸気カム軸15内の前記オイル通路40から固定用ボルト35内のオイル通路39を介して伝達される。吸気カム軸15内のオイル通路40は、吸気カム軸15におけるプーリ27側の一端部に形成した油圧導入通路47(図3参照)を介してエンジン9の油圧系に接続するとともに、吸気カム軸15の他端部に設けた前記油圧制御装置34に接続している。
【0031】
前記油圧制御装置34は、前記スライドピストン37の作動・開放を切換えるためのもので、図5に示すように、吸気カム軸15内のオイル通路40を開閉するコントロールバルブ48と、このコントロールバルブ48を駆動するソレノイド49とから構成している。前記コントロールバルブ48は、吸気カム軸15の軸端部に固定したハウジング50と、このハウジング50の内部に軸線方向に移動自在かつ圧縮コイルばね51で艇体の後方(図5において右方)に付勢された状態で嵌挿したプランジャ52とを備え、図5に示す開放状態からプランジャ52を同図の左側に移動させることによって、ハウジング50とプランジャ52に形成したオイル孔50a,52aが閉塞されて前記オイル通路40の端部を閉塞する構造を採っている。
【0032】
また、ソレノイド49は、ハウジング49a内にコイル49bを配設し、このコイル49bの内側にアーマチュアロッド49cを挿入した構造を採っており、図示していないコントローラが前記コイル49bに通電することによって、アーマチュアロッド49cが同図の左方に移動するようになっている。
【0033】
すなわち、ソレノイド49をON状態にすることによって、吸気カム軸15内のオイル通路40が閉塞されて前記スライドピストン37に油圧が作用し、吸気カム軸15がプーリ27に対して予め定めた角度だけ進角側に回る。このときには、プーリ27と同期して回転する排気カム軸16に対して吸気カム軸15の位相が進むため、吸気弁の閉弁時期が早くなるとともに、吸・排気弁のバルブオーバーラップ期間が長くなる。また、ソレノイド49をOFFにすることによって、オイル通路40内のオイルがコントロールバルブ48のオイル孔50a,52aを通ってシリンダヘッド17の動弁室側へ流出するようになり、スライドピストン37に油圧が作用しなくなって吸気カム軸15の位相は元に戻る。
【0034】
前記ソレノイド49のON,OFFを切換えるコントローラは、クランク軸10あるいはカム軸や、点火系などからエンジン回転数を検出し、エンジン回転数が後述する切替回転数より低いときにはソレノイドをON状態とし、エンジン回転数が切替回転数を上回っているときにソレノイドをOFF状態とするように構成している。
【0035】
この実施の形態を採るときのエンジン9は、従来のものと同様に高回転・高出力型の特性をもつように吸・排気弁のバルブリフト量および吸・排気弁の開閉時期を設定し、艇体6が非滑走状態にあるときに、前記バルブタイミング制御装置31によって吸気弁の閉じる時期が早くなって吸・排気弁のオーバーラップ期間が長くなるようにしている。前記オーバーラップは、図6に示すように、エンジン回転域が高速回転域にあるときには相対的に短くなり、エンジン回転域が低速運転域にあるときには相対的に長くなるように設定している。図6においては、高速時の吸気弁のバルブリフト量を実線で示し、低中速時の吸気弁のバルブリフト量を二点鎖線で示している。
【0036】
このエンジン9(高回転・高出力型のエンジン)は、バルブタイミング制御装置31で吸気弁の閉弁時期を早くしていない状態では、図7中に一点鎖線で示す高速型エンジン特性をもってエンジン出力が変化し、吸気弁の閉弁時期を早くした状態では、図7中に破線で示す低速型エンジン特性をもってエンジン出力が変化する。なお、この小型滑走艇1が航走するときの艇体抵抗はエンジン回転数に応じて図7中に実線で示すように変化する。
【0037】
エンジン回転数が図7において符号Aで示す回転数以下のときには、艇体6は水をかき分けて進む、いわゆる排水量型艇と同様の航走形態を採る。エンジン回転数が符号Bで示す回転数(この回転数を以下において滑走移行回転数という)のときには、艇体6は水面上を滑るように滑走して滑走状態になる。なお、回転数Aと回転数Bとの間のエンジン回転域、すなわち図7において遷移領域(ハンプ乗越え領域)として示す回転域にエンジン回転数があるときには、艇体6の推進力の増加に対して艇体抵抗の増加の方が大きいために、船首が持ち上がった状態で航走する。この遷移領域でエンジン出力が充分でないと、ハンプを乗越えることができず、滑走状態へ移行することはできない。
【0038】
この実施の形態による小型滑走艇1においては、航走開始後にエンジン回転数が前記遷移領域を越えて艇体6が滑走状態になり、この滑走状態が安定するエンジン回転数に達するまでは、バルブタイミング制御装置31によって吸気弁の閉弁時期を早くしてエンジン9の出力特性が図7において破線で示す低速型エンジン特性になるようにし、高回転・高出力型のエンジンでも低中速回転域でエンジン出力が増大するようにしている。すなわち、図7中に符号Cで示すエンジン回転数を前記コントローラでの切替回転数とし、エンジン回転数がこの切替回転数Cに達したときに、前記コントローラが前記ソレノイド49をON状態にする。なお、吸気弁の閉弁時期を早くする切替回転数Cは、艇体6が非滑走状態から滑走状態へ移行するときの回転数、すなわち滑走移行回転数Bと同じ回転数でもよい。
【0039】
エンジン回転域が低中速回転域にあるときに上述したように吸気弁の閉弁時期を早くすることによってエンジン出力が高くなるのは、以下の二つの理由が考えられる。
第1に、高回転、高出力型のエンジンにおいては吸気行程の終期に吸気が燃焼室から吸気系へ吹き返す現象がなくなるからである。
第2に、この小型滑走艇1は非滑走状態では排気出口19aが水中に没し易く、排気装置19内の排気圧力が高くなる。このため、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い状態で吸気弁の閉弁時期を早くしてオーバーラップ期間を長くすることによって、排気圧力が高くなることと相俟って内部EGR量を増大させることができ、ピストン下降時のポンピングロスが低下するからである。
【0040】
したがって、上述したように構成した小型滑走艇においては、滑走移行回転数よりエンジン回転数が低い状態、すなわち艇体が非滑走状態にあるときにエンジン出力が増大するから、ハンプを円滑に乗越えることができ、航走開始後に速く滑走状態に移行することができる。
【0041】
なお、バルブタイミング制御装置31によって吸気弁の閉弁時期を早くするエンジン回転域は、エンジン始動時やアイドリング時を除くように設定することができる。すなわち、エンジン始動時やアイドリング時などでは吸気弁の閉弁時期を遅らせてオーバーラップ期間を短くし、吸気系への吹き返しが少なくなるようにする。この制御を実施することによって、始動性やアイドル回転の安定性を高くすることができる。
【0042】
また、この小型滑走艇1は、エンジン運転時に、前記吸気サイレンサー22の吸気入口23にエンジン室8内の空気が吸込まれるとともに吸気パイプ13,14のエンジン室側の開口からエンジン室8内に船外の空気が流入するため、エンジン室8内に空気流が生じる。このとき、2本の吸気パイプ13,14のうち艇体前側の吸気パイプ13の下端開口からエンジン室8内に流入した空気は、艇体6の前後方向において前記下端開口と吸気サイレンサー22の吸気入口23との間に配設したバルブタイミング制御装置31の装置本体33の近傍を通る。また、艇体後側の吸気パイプ14の下端開口からエンジン室8内に流入した空気は、艇体6の前後方向において吸気パイプ14の下端開口と吸気サイレンサー22の吸気入口23との間に配設した前記油圧制御装置34の近傍を通る。
したがって、エンジン室8内を流れる空気によってバルブタイミング制御装置31を冷却することができる。
【0043】
第2の実施形態
本発明に係る小型滑走艇は、図8に示すように構成することができる。
図8は他の実施の形態を示す艇体の断面図で、同図において前記図1〜図7で説明したものと同一もしくは同等の部材は、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0044】
図8に示す小型滑走艇1は、バルブタイミング制御装置31をエンジン9の艇体後側の端部に配設している。このバルブタイミング制御装置31および吸気カム軸は、シリンダヘッド17への取付位置が艇体の前後方向に異なる他は、前記第1の実施の形態を採るときと同じ構成を採っている。この実施の形態を採る場合には、エンジン運転時に艇体後側の吸気パイプ14からエンジン室8内に流入した空気によってバルブタイミング制御装置31の装置本体33が冷却される。なお、図8において艇体6のバルクヘッド7に沿わせて設けた符号51で示すものは、船底に溜まった水を排出するためのビルジ排出装置である。
このように構成しても第1の実施の形態を採るときと同等の作用効果を奏する。
【0045】
第3の実施の形態
他の発明に係る小型滑走艇を図9によって詳細に説明する。
図9は他の発明に係る小型滑走艇の横断面図で、同図において前記図1〜図8で説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0046】
図9に示すエンジン9のシリンダヘッド17には、吸気マニホールド61と、この吸気マニホールド61の上流側の端部に接続した吸気サイレンサー22とを有する吸気装置62を接続している。
【0047】
前記吸気マニホールド61は、シリンダヘッド17と吸気サイレンサー22とを直線的に接続するように形成した高速用吸気通路62と、シリンダヘッド17と吸気サイレンサー22との間でS字状に湾曲するように形成した低速用吸気通路63とを気筒毎に有し、シリンダヘッド17側の端部にインジェクタ64を取付けている。すなわち、この吸気マニホールド61は、通路長が相対的に短い高速用吸気通路62と、通路長が相対的に長い低速用吸気通路63とを気筒毎に設けている。また、前記両通路62,63は、図9中に符号65で示す連通穴を介して下流側端部が互いに連通している。この連通部分にインジェクタ64によって燃料を噴射するようにしている。
【0048】
前記低速用吸気通路63は、前記連通穴65による連通部分より上流側にスロットル弁66を介装し、前記高速用吸気通路62は、低速用吸気通路63と同様にスロットル弁66を介装するとともに、上流側端部に吸気制御弁67を介装している。スロットル弁66は操向ハンドル3(図1参照)に設けたスロットルグリップに連動して開閉し、吸気制御弁67は、図示していない吸気制御弁用コントローラが開閉する構造を採っている。
【0049】
吸気制御弁用コントローラは、クランク軸10やカム軸あるいは点火系から検出したエンジン回転数が前記図7において符号Cで示す切替回転数より低いときに吸気制御弁67が閉じ、エンジン回転数が切替回転数Cを上回っているときに吸気制御弁67が開くように構成している。すなわち、吸気制御弁67は、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数Bよりエンジン回転数が高くかつ予め定めた回転数(切替回転数C)よりエンジン回転数が低い状態で閉じ、前記切替回転数Cを含めてこれよりエンジン回転数が高い状態で開く。
【0050】
したがって、上述した吸気制御弁67を備えた小型滑走艇1においては、エンジン回転数が高回転域にあって艇体6が滑走状態になるときには、相対的に短い高速用吸気通路62で生じる吸気慣性によってエンジン出力を増大させることができ、エンジン回転数が滑走移行回転数Bより低い回転域にあって艇体6が非滑走状態になるときには、相対的に長い吸気通路で生じる吸気慣性によってエンジン出力を増大させ、ハンプを円滑に乗越えることができるようになる。
【0051】
第4の実施の形態
他の発明に係る小型滑走艇を図10によって詳細に説明する。
図10は他の発明に係る小型滑走艇の排気系を示す断面図である。
図10中に符号71で示すエンジンは、水冷式4サイクル3気筒型のもので、シリンダヘッド72の艇体左側に排気マニホールド73を接続している。なお、吸気系はシリンダヘッド72の艇体右側に接続している。図10においては、シリンダボアを符号74で示し、点火プラグを符号75で示す。
【0052】
前記排気マニホールド73は、3個の気筒の排気通路が下流側で集合するように形成し、下流側端部に排気管76を接続している。この排気管76は、シリンダの前方を通るようにして艇体右側に延び、シリンダの側方で前後方向に沿って延びた後、シリンダの後方を通って艇体左側の図示していないウォーターロックに接続している。
【0053】
前記排気マニホールド73と、排気管76の上流部は、内部に冷却水通路Wが形成されるように、それぞれ二重管になるように形成している。この冷却水通路Wは、一端がエンジン71の冷却水出口に接続し、他端が排気管76の途中の二重管終了部76aにおいて排気通路Gに接続しており、排気マニホールド73および排気管76を冷却した冷却水が排気通路G中に排出されるように形成している。なお、排気管76の二重管部分の途中には、冷却水の一部を艇外へ排出するために排水用ホース77を接続している。
【0054】
前記排気管76の二重管部分には、触媒78と排気制御弁79とを介装している。排気制御弁79は、プーリ79aおよびベルト79bを有する伝動機構を介して図示していない排気制御弁用コントローラに連結している。なお、排気制御弁79を装着する位置は、排気制御弁79が閉じている状態で、排気通路G中を伝播する圧力波が排気制御弁79で負の圧力波として反射してバルブオーバーラップ期間に燃焼室に伝播するような位置に設定している。
【0055】
前記排気制御弁用コントローラは、クランク軸やカム軸あるいは点火系から検出したエンジン回転数が前記図7において符号Cで示す切替回転数より低いときに排気制御弁79が閉じ、エンジン回転数が切替回転数Cを含めてこれより高いときに排気制御弁79が開くように構成している。すなわち、排気制御弁79は、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数Bよりエンジン回転数が高くかつ予め定めた回転数(切替回転数C)よりエンジン回転数が低い状態で閉じ、エンジン回転数が前記切替回転数C以上である状態で開く。なお、排気制御弁79が閉じるときには、排気管76と排気制御弁79との間に排気が流れる隙間が形成されるようにする。また、排気制御弁79が開くときには、必ずしもこれが全開状態にならなくてもよい。
【0056】
したがって、上述した排気制御弁79を備えた小型滑走艇においては、エンジン回転数が高回転域にあって艇体が滑走状態になるときには、排気制御弁79が開いて排気抵抗が小さくなって高出力が得られ、エンジン回転数が滑走移行回転数Bより低い回転域にあって艇体が非滑走状態になるときには、排気通路Gの開口面積が小さくなって排気の圧力波を利用してエンジン出力を増大させることができ、ハンプを円滑に乗越えることができるようになる。
【0057】
なお、前記排気制御弁79は、排気管76に介装する他に、図10中に二点鎖線で示すように、排気マニホールド73の気筒毎の排気通路に介装することもできる。
【0058】
また、上述した各実施の形態では推進機としてウォータージェット式のものを使用する例を示したが、本発明に係る小型滑走艇に搭載する推進機は船外機でもよい。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、吸気弁の閉じる時期が早くなると吸気行程の終期に吸気が吹き返す現象がなくなるから、滑走移行回転数よりエンジン回転数が低い状態、すなわち艇体が非滑走状態にあるときにエンジン出力が増大する。
したがって、ハンプを円滑に乗越えることができるようになり、艇体が非滑走状態から滑走状態に速く移行する。
また、本発明によれば、エンジン運転時にエンジンの吸気入口にエンジン室内の空気が吸込まれ、吸気パイプのエンジン室側の開口からエンジン室内に船外の空気が流入する。このとき、エンジン室内を吸気パイプのエンジン室側開口からエンジンの吸気入口に向けて流れる空気は、エンジンのバルブタイミング制御装置の近傍を流れるから、この空気によってバルブタイミング制御装置が冷却される。
したがって、エンジン室内に収容したエンジンにバルブタイミング制御装置を設ける構造でも、バルブタイミング制御装置の耐久性を高くすることができる。
【0060】
排気を船外に排出する排気装置を備え、エンジン回転数が滑走移行回転数より低いときに吸・排気弁のオーバーラップ期間を長くする他の発明によれば、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い状態では排気装置内の排気圧力が高くなることと相俟って内部EGR量を増大させることができる。
したがって、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い状態でピストン下降時のポンピングロスが低下してエンジン出力が増大するから、ハンプを円滑に乗越えることができるようになり、艇体が非滑走状態から滑走状態に速く移行する。
また、本発明によれば、エンジン運転時にエンジンの吸気入口にエンジン室内の空気が吸込まれ、吸気パイプのエンジン室側の開口からエンジン室内に船外の空気が流入する。このとき、エンジン室内を吸気パイプのエンジン室側開口からエンジンの吸気入口に向けて流れる空気は、エンジンのバルブタイミング制御装置の近傍を流れるから、この空気によってバルブタイミング制御装置が冷却される。
したがって、エンジン室内に収容したエンジンにバルブタイミング制御装置を設ける構造でも、バルブタイミング制御装置の耐久性を高くすることができる。
【0062】
エンジンの吸気通路を低速用吸気通路と、この低速用吸気通路より通路長が短い高速用吸気通路とから構成し、高速用吸気通路に吸気制御弁を介装する他の発明によれば、
エンジン回転数が高回転域にあるときには相対的に短い高速用吸気通路での吸気慣性効果によってエンジン出力が増大し、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い回転域にあるとき、すなわち艇体が非滑走状態にあるときには、相対的に長い吸気通路の吸気慣性効果によってエンジン出力が増大する。
したがって、ハンプを円滑に乗越えることができるようになり、艇体が非滑走状態から滑走状態に速く移行する。
【0063】
エンジンの排気通路に排気制御弁を介装する他の発明によれば、エンジン回転数が滑走移行回転数より低い状態で排気通路の開口面積が小さくなってエンジン出力が増大するから、ハンプを円滑に乗越えることができるようになり、艇体が非滑走状態から滑走状態に速く移行する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る小型滑走艇の側面図である。
【図2】 図1における艇体のII−II線断面図である。
【図3】 エンジンのシリンダヘッドの平面図である。
【図4】 図3の破断部を拡大して示す断面図である。
【図5】 バルブタイミング制御装置の油圧制御装置を示す断面図である。
【図6】 バルブリフト量とクランク角との関係を示すグラフである。
【図7】 エンジン回転数とエンジン出力および艇体抵抗の関係を示すグラフである。
【図8】 他の実施の形態を示す艇体の断面図である。
【図9】 他の発明に係る小型滑走艇の横断面図である。
【図10】 他の発明に係る小型滑走艇の排気系を示す断面図である。
【符号の説明】
1…小型滑走艇、4…デッキ、5…ハル、6…艇体、8…エンジン室、9…エンジン、12…推進機、13,14…吸気パイプ、15…吸気カム軸、16…排気カム軸、22…吸気サイレンサー、23…吸気入口、31…バルブタイミング制御装置、61…吸気マニホールド、62…高速用吸気通路、63…低速用吸気通路、67…吸気制御弁、79…排気制御弁。
Claims (4)
- 吸気弁を駆動する吸気カム軸と、排気弁を駆動する排気カム軸とを有する4サイクルエンジンを搭載し、エンジン回転数の上昇に伴って非滑走状態から滑走状態に移行する小型滑走艇であって、前記エンジンに吸気弁の開閉時期を変化させるバルブタイミング制御装置を設けてなり、このバルブタイミング制御装置を、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数よりエンジン回転数が低い状態であって、かつエンジン始動時とアイドリング時とを除く状態において、エンジン回転数が前記滑走移行回転数より高いときより吸気弁の閉じる時期が早くなるように設定し、
前記エンジンを、デッキとハルとによって形成したエンジン室内に搭載するとともに、前記エンジン室内に空気を導入する吸気パイプを設け、艇体の前後方向において前記吸気パイプのエンジン室側の開口と、エンジンの吸気装置の吸気入口との間となる部位であって、前記エンジン室側の開口より上方に、前記バルブタイミング制御装置を配置したことを特徴とする小型滑走艇。 - 吸気弁を駆動する吸気カム軸と、排気弁を駆動する排気カム軸とを有する4サイクルエンジンを搭載するとともに、排気を艇体の後部から船外に排出する排気装置を備え、エンジン回転数の上昇に伴って非滑走状態から滑走状態に移行する小型滑走艇であって、前記エンジンに吸気弁と排気弁のオーバーラップ期間を変化させるバルブタイミング制御装置を設けてなり、このバルブタイミング制御装置を、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数よりエンジン回転数が低い状態であって、かつエンジン始動時とアイドリング時とを除く状態において、エンジン回転数が前記滑走移行回転数より高いときよりオーバーラップ期間が長くなるように設定し、前記エンジンを、デッキとハルとによって形成したエンジン室内に搭載するとともに、前記エンジン室内に空気を導入する吸気パイプを設け、艇体の前後方向において前記吸気パイプのエンジン室側の開口と、エンジンの吸気装置の吸気入口との間となる部位であって、前記エンジン室側の開口より上方に、前記バルブタイミング制御装置を配置したことを特徴とする小型滑走艇。
- エンジン回転数の上昇に伴って非滑走状態から滑走状態に移行する小型滑走艇であって、前記エンジンの吸気ポートに連通する吸気通路を低速用吸気通路と、この低速用吸気通路より通路長が短い高速用吸気通路とから構成し、前記高速用吸気通路に、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数よりエンジン回転数が高くかつ予め定めた回転数よりエンジン回転数が低い状態で閉じ、前記予め定めた回転数よりエンジン回転数が高い状態で開く吸気制御弁を介装したことを特徴とする小型滑走艇。
- エンジン回転数の上昇に伴って非滑走状態から滑走状態に移行する小型滑走艇であって、前記エンジンの排気ポートの下流側にある排気通路に、艇体が非滑走状態から滑走状態に移行するときの滑走移行回転数よりエンジン回転数が高くかつ予め定めた回転数よりエンジン回転数が低い状態で閉じ、前記予め定めた回転数よりエンジン回転数が高い状態で開く排気制御弁を介装したことを特徴とする小型滑走艇。
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