JP3980398B2 - 於血の診断方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、於血診断を行うためのマーカーの特定、および於血の診断方法に関するものである。なお、「於血」は以下の漢字で表記される場合もあるが、本明細書では全て「於血」と略記する。
【0002】
【化1】
【0003】
【従来の技術】
「於血」とは、東洋医学における最も重要な病態認識のひとつであり「脈管中をすらすらと流通すべき血(けつ)が何らかの原因により、つかえて順調に流通しなくなった病態」(柴崎保三,漢方の臨床,16(7),1969)と定義され、血液の流通障害を内含する一つの症候群として認識されるものである。於血は、様々な疾患に深くかかわる病態であると考えられており、於血症状を治療することにより症状を軽減したり、発病を未然に防ぐことなどが期待される。現在までの研究により、於血における血管内赤血球集合(IEA)の増加、血管内赤血球集合最大管径(DEA)の上昇、血液粘度の上昇、赤血球集合能影響因子であるフィブリノゲンの上昇などが報告されている(寺澤捷年,日本東洋医学雑誌,48(4),1998)。
【0004】
於血時に観察される血液粘度の上昇は、生活習慣病と深く関わると思われる脳血管障害などの重篤な疾患や、いわゆるエコノミークラス症候群発症のリスクファクターとして知られており、血液粘度を正常化することは、予防医学的にも重要であると考えられている。
【0005】
現在、於血病態は、科学技術庁研究班による於血診断基準(寺澤捷年ら,日本東洋医学雑誌,34(1),1983)に従って算出したスコアにより評価し、治療効果の判定もそのスコアの変化によりなされているが、診断マーカーの発見・報告はなされていない。そのため、於血診断の医師間でのばらつきが認められたり、診断を行うためにある程度の熟練が要求されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、於血病態にヒト生体内に認められるマーカータンパク質を提供し、於血診断の簡便化を図ることを解決すべき課題とした。さらに本発明は、於血治療の前後で発現が変動するマーカータンパク質を提供し、経過観察の容易化を図ることを解決すべき課題とした。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、先ず、科学技術省研究班による於血診断基準に従って於血スコアを算出し、於血と診断された患者血漿と健常人血漿中に含まれるタンパク質について、プロテインチップシステムを用いて網羅的に解析した。またこれと同時に、於血治療前後での血漿中タンパク質の変化についても同様に解析した。さらに、於血スコア算出と同時に血液流動力学的計測も実施して、関連付けを行った。その結果、於血の診断に有用なマーカータンパク質を同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、銅イオン固定化チップ、陰イオン交換チップ及び/または陽イオン交換チップとヒト体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析で分析し、患者と健常人との分析結果を比較することを含む、於血または血液粘度異常の診断方法が提供される。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、(1)銅イオン固定化チップとヒト体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、m/zで3865(3861-3865)、3904、3929、4411、4547(4542-4547)、8086、9251(9251-9277)、9910(9902-9910)、14929(14919-14929)、15087(15079-15087)、15288(15288-15294)、15827(15824-15827)、16992、17183、18293、19835(19815-19839)、20016、28177(28094-28194)、28900(28856-28909)、30514、33368(33274-33395)、60191、又は66606(66507-66620)を有する何れか1以上のタンパク質の存在又は量を検出するか、
(2)陰イオン交換チップとヒト体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、m/zで3906(3905-3906)、3918(3917-3921)、4124(4119-4124)、28092(28084-28178)、4062(4059-4062)、5445(5444-5445)、5601、8414(8404-8414)、8520(8508-8520)、8641(8632-8650)、9136(9131-9142)、9299(9288-9299)、13687(13681-13707)、15065(15039-15068)、15857(15856-15881)、又は16015(16015-16049)を有する何れか1以上のタンパク質の存在または量を検出するか、又は、
(3)陽イオン交換チップとヒト体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、m/zで4063、4568(4564-4568)、9154(9146-9154)、9310(9302-9311)、13713(13699-13713)、15065(15054-15075)、15815、15889(15879-15894)、16033、16086、16221、3901、4278、4410(4409-4410)、4619、6156(6155-6156)、6242(6242-6245)、7531(7521-7533)、7737(7725-7746)、7898(7898-7900)、7940(7940-7942)、8111(8107-8111)、8573(8567-8573)、8782(8776-8782)、8903(8902-8904)、9257(9242-9263)、9466(9465-9466)、10231(10224-10231)、12819(12801-12819)、14917、15083(15062-15084)、15279、15814(15814-15827)、15885又は16042を有する何れか1以上のタンパク質の存在または量を検出する、於血または血液粘度異常の診断方法が提供される。
本発明の診断方法の一態様によれば、於血または血液粘度異常の治療効果の観察のために行うことができる。
本発明の診断方法の別の態様によれば、於血または血液粘度異常を特徴とする疾患の診断および/または治療効果の観察のために行うことができる。
好ましくは、於血または血液粘度異常を特徴とする疾患は、脳血管障害、冠動脈疾患、慢性肝炎、慢性関節リウマチ、ベーチェット病、月経障害・不妊症、更年期障害、腎硬化症、または末梢血管障害である。
また、本明細書において、m/zとは質量分析法で検出したピーク値であり、同一のピークであるがサンプル間でズレが生じた場合には、代表値を示し、括弧内にその幅を示した。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の於血または血液粘度異常の診断方法は、銅イオン固定化チップ、陰イオン交換チップ及び/または陽イオン交換チップとヒト体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析で分析し、患者と健常人との分析結果を比較することを特徴とするものである。
【0011】
於血病態の診断に有用なマーカータンパク質は従来報告がなかった。本発明者らは、タンパク質の相互作用を分析するための銅イオン固定化チップ、陰イオン交換チップ及び/または陽イオン交換チップを用いて於血患者と健常人のタンパク質を分析した結果、於血患者と健常人の体液中においてはタンパク質の発現状態が異なることを初めて見出したものである。なお、本明細書で言う体液とは、血液、血漿、血清、唾液、汗、尿などを含む任意の体液を意味する。
また、現在までに知られている於血または血液粘度異常を危険因子として含む疾患としては、脳血管障害、狭心症・心筋梗塞などの冠動脈疾患、慢性肝炎、慢性関節リウマチ、ベーチェット病、月経障害・不妊症、更年期障害、腎硬化症、および慢性閉塞性動脈硬化症・血栓性静脈炎などの末梢血管障害が挙げられる。すなわち以上の疾患を診断・治療する上においても、於血または血液粘度異常を検出することは重要である。
【0012】
本発明の於血または血液粘度異常の診断方法では、銅イオン固定化チップ、陰イオン交換チップ及び/または陽イオン交換チップを用いる。銅イオン固定化チップとは、銅イオンを表面に有する固相担体である。陰イオン交換チップとは、陰イオン交換作用を有する官能基を表面に有する固相担体である。陽イオン交換チップとは、陽イオン交換作用を有する官能基を表面に有する固相担体である。
【0013】
本発明で用いることができる上記チップの具体例としては、以下の実施例でも使用したCIPHERGEN社製のプロテインチップシステムが挙げられる。このプロテインチップシステムを用いた解析方法を以下に示す。
(1)サンプルの添加
1〜数百μLのサンプル(血漿)を直径約2mmのスポットに添加する。
(2)洗浄
インキュベート後、水または緩衝液で表面を洗浄し、チップ表面にアフィニティーの無い物質を除去する。これにより、チップ表面に結合していないタンパク質とともに、目的タンパク質の測定を妨げる塩や界面活性剤を除去することができる。
(3)エネルギー吸収分子(EAM)の添加
目的タンパク質の測定に必要なエネルギー吸収分子(EAM)を加えて乾燥させる。
【0014】
(4)測定
プロテインチップ上のサンプルは、飛行時間型質量分析計により測定する。プロテインチップにUVパルスレーザーを照射することにより、エネルギーを受けてイオン化したタンパク質は一定の電圧で加速され、真空管の対局にあるイオン検知器へ向かって飛行する。この時、イオン検知管に到達するまでの時間は軽い分子ほど早く、重い分子ほど遅いので、飛行時間を計測することによって、物質の質量数を求めることができる。
(5)タンパク質発現解析
本方法によれば、プロテインチップ上に捕捉された多数のタンパク質を同時に測定することが可能であり、これにより試料中のタンパク質の発現解析を行うことができる。また、異なるサンプルの間(例えば、健常人と患者)でタンパク質の発現解析を直接比較することが可能である。
【0015】
以下、これらの3種類のチップを用いた於血または血液粘度異常の診断について詳細に説明する。
【0016】
(1)銅イオン固定化チップの利用
本発明の第一の態様によれば、銅イオン固定化チップとヒト体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、以下のタンパク質の存在又は量を検出する。
【0017】
即ち、健常人に認められるm/zで8086(ピーク6)、9251(ピーク7)、14929(ピーク9)、15087(ピーク10)、15288(ピーク11)、15827(ピーク12)、28177(ピーク18)、28900(ピーク19)、30514(ピーク20)、33368(ピーク21)、60191(ピーク22)又は66606(ピーク23)を有するピークが消失または減少している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。
【0018】
また、m/zで3865(ピーク1)、3904(ピーク2)、3929(ピーク3)、4411(ピーク4)、4547(ピーク5)、9910(ピーク8)、16992(ピーク13)、17183(ピーク14)、18293(ピーク15)、19835(ピーク16)又は20016(ピーク17)を有するピークが出現または健常人よりも増加している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。
【0019】
さらに、m/zで3904(ピーク2)、3929(ピーク3)、4411(ピーク4)、19835(ピーク16)、又は28900(ピーク19)については、薬物投与等による治療効果を観察するためのマーカーとしても有用である。
【0020】
(2)陰イオン交換チップの利用
本発明の第二の態様によれば、陰イオン交換チップとヒト体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、以下のタンパク質の存在又は量を検出する。
【0021】
洗浄バッファーを50 mmol/L Sodium acetate (pH4)とした場合、健常人に認められるm/zで3906(ピーク25)、3918(ピーク26)又は28092(ピーク28)を有するピークが消失または減少している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。
【0022】
洗浄バッファーを50 mmol/L Tris-HCl (pH8)とした場合、健常人に認められるm/zで3906(ピーク29)、4062(ピーク30)、5445(ピーク31)、5601(ピーク32)、8520(ピーク34)又は8641(ピーク35) を有するピークが消失または減少している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。また、m/zで 8414(ピーク33)、9136(ピーク36)、9299(ピーク37)、13687(ピーク38)、15065(ピーク39)、15857(ピーク40)または16015(ピーク41)を有するピークが出現または健常人よりも増加している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。
【0023】
さらに、4124(ピーク27)、28092(ピーク28)、8520(ピーク34)または8641(ピーク35) を有するピークについては、薬物投与等による治療効果を観察するためのマーカーとしても有用である。
【0024】
(3)陽イオン交換チップの利用
本発明の第三の態様によれば、陽イオン交換チップとヒト体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、以下のタンパク質の存在又は量を検出する。
【0025】
洗浄バッファーを50 mmol/L Sodium acetate (pH4) とした場合、健常人に認められるm/zで4063(ピーク42)を有するピークが消失または減少している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。また、m/zで4568(ピーク43)、9154(ピーク44)、9310(ピーク45)、13713(ピーク46)、15065(ピーク47)、15815(ピーク48)、15889(ピーク49)、16033(ピーク50)、16086(ピーク51)または16221(ピーク52)を有するピークが出現または健常人よりも増加している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。
【0026】
洗浄バッファーを50 mmol/L Ammonium acetate (pH6)とした場合、健常人に認められるm/zで4278(ピーク54)、4619(ピーク56)、6156(ピーク57)、6242(ピーク58)、7737(ピーク60)、8111(ピーク63)、8573(ピーク64)、8782(ピーク65)、8903(ピーク66)、9257(ピーク67)、9466(ピーク68)、10231(ピーク69)又は14917(ピーク71)を有するピークが消失または減少している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。また、m/zで3901(ピーク53)、4410(ピーク55)、7531(ピーク59)、7898(ピーク61)、7940(ピーク62)、12819(ピーク70)、15083(ピーク72)、15279(ピーク73)、15814(ピーク74)、15885(ピーク75)又は16042(ピーク76)を有するピークが出現または健常人よりも増加している場合には、於血またはその可能性を予測することができる。
【0027】
さらに、15889(ピーク49)、16086(ピーク51)、16221(ピーク52)、3901(ピーク53)、4410(ピーク55)、7898(ピーク61)、7940(ピーク62)、8782(ピーク65)、15814(ピーク74)又は16042(ピーク76)を有するピークについては、薬物投与等による治療効果を観察するためのマーカーとしても有用である。
【0028】
本発明では、銅イオン固定化チップ、陰イオン交換チップ及び/または陽イオン交換チップを用いることにより、於血または血液粘度異常の診断に有用なマーカータンパク質(以下、本発明のマーカータンパク質とも称する)を初めて特定することに成功した。
これらのマーカータンパク質は、さらに精製および同定することができる。以下、精製と同定の方法について説明する。
【0029】
(1)精製
タンパク質の精製は何種類かのプロテインチップとスピンカラム、電気泳動などを組み合わせて行うことができる。
(a)分子量による分画:
例えば、3K、30K、70Kのスピンカラムなどを利用して分子量による違いを利用したタンパク質の粗精製を行う。
(b)イオン交換カラムによる精製:
イオン交換樹脂が充填されたスピンカラムを用いて精製を行う。サンプルを載せた後、溶出バッファーのpH段階を変えることにより、タンパク質のpI値の違いを利用してタンパク質の精製を行う。
【0030】
(c)プロテインチップを利用した精製:
スピンカラムを用いて精製されたサンプルを銅イオン固定化チップやイオン交換チップを使用してさらに精製する。洗浄の際にイオン交換チップではpHを変えて検討する。
(d)電気泳動:
必要に応じて、さらに電気泳動による精製を行う。
【0031】
(2)同定
上記(1)で精製したタンパク質は、タンパク質分解酵素により消化し、消化断片を順相のプロテインチップ上で捕捉して分子量を測定する(ペプチドマッピング)。さらに、タンパク質同定用のソフトウエアに測定された断片の分子量を入力してデータベース解析を行うことによりタンパク質を同定する。
【0032】
(a)ペプチドマッピング:
精製されたタンパク質は、プロテインチップ上またはチューブ内でトリプシンなどのタンパク質分解酵素を用いて分解する。最終的に電気泳動により精製を行った場合には、ゲルから目的とするタンパク質のバンドを切り出し、ゲル内でタンパク質分解酵素によりタンパク質を分解する。そこからペプチド断片を抽出し、プロテインチップを用いてペプチドマッピングを行う。
【0033】
(b)データ解析:
トリプシン由来のピークを除き、検出したペプチド断片の質量数をタンパク質同定用ソフトウエアに入力する。
【0034】
本発明のマーカータンパク質が同定された場合、当該マーカータンパク質の検出は、タンパク質の検出のための常法により行うこともできる。例えば、抗原抗体反応を利用した分析法により本発明のマーカータンパク質を検出することができる。
【0035】
抗原抗体反応を行うためには、本発明のマーカータンパク質またはその部分アミノ酸配列を有するペプチドを入手し、これを免疫原として用いることにより本発明のマーカータンパク質を認識する抗体を作製する。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0036】
例えば、ポリクローナル抗体は、マーカータンパク質を抗原として哺乳動物を免疫感作し、該哺乳動物から血液を採取し、採取した血液から抗体を分離・精製することにより得ることができる。抗原は、所望により適当なアジュバントを含有する緩衝液に溶解して免疫感作に用いることができる。免疫感作した哺乳動物を一定期間飼育した後、該哺乳動物の血液を少量サンプリングし、抗体価を測定し、抗体価が上昇してきたら、状況に応じて抗原の投与を適当回数実施する。最後の投与から1〜2ケ月後に免疫感作した哺乳動物から通常の方法により血液を採取して、該血液を、例えば遠心分離、硫酸アンモニウムまたはポリエチレングリコールを用いた沈澱、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー等の通常の方法によって分離・精製することにより、本発明のマーカータンパク質を認識するポリクローナル抗体を得ることができる。
【0037】
また、モノクローナル抗体は、抗体産生細胞とミエローマ細胞株との細胞融合によりハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマを培養することにより得ることができる。ハイブリドーマの作製は、公知の方法(G.Kohler et al .,Nature,256 495(1975))により行うことができる。細胞融合により得られたハイブリドーマは限界希釈法等によりクローニングし、更に、本発明のマーカータンパク質を用いた酵素免疫測定法によりスクリーニングを行なうことにより、該マーカータンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生する細胞株を得ることができる。このようにして得られたハイブリドーマから目的とするモノクローナル抗体を製造するには、通常の細胞培養法や腹水形成法により該ハイブリドーマを培養し、培養上清あるいは腹水から該モノクローナル抗体を精製すればよい。培養上清もしくは腹水からのモノクローナル抗体の精製は、常法により行なうことができる。例えば、硫安分画、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて使用できる。
【0038】
上記のようにして得られた抗体を用いてヒトの血液中に存在するマーカータンパク質を検出又は定量する方法は当業者に公知である。具体的には、RIA、EIA、ELISA、免疫競合アッセイなどを用いることができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0039】
【実施例】
(方法)
1.実施例で用いた試料
以下に示す診断基準を用いて於血と判定された患者の治療前および桂枝茯苓丸投与後の血漿を用いた。桂枝茯苓丸は於血患者に用いられる代表的な薬剤である。血漿は採取直後に−80℃にて凍結し、試験直前まで凍結状態で保存した。コントロールは、健常成人男子2名より採取した血漿を用いた。
【0040】
2.於血患者の診断方法
於血患者の選抜は、以下に示す科学技術庁研究班による於血診断基準に従って算出したスコアにより実施した。投薬後の治療効果の判定もそのスコアの変化により行った。また、同時に血液流動力学的パラメータ(Hemorheological parameter)についても測定を行った。
【0041】
【0042】
判定基準
20点以下:非於血病態、
21点以上 於血病態
40点以上 重症於血病態
【0043】
スコアはいずれも明らかに認められるものに当該のスコアを与え、軽度なものには1/2を与えた。
注1) 皮膚の荒れ,ザラツキ,皸裂。
注2) 毛細血管の拡張,くも状血管腫など。
【0044】
3.血液流動力学的パラメータとして以下の項目を測定した。
・Whole blood viscosity
・Plasma viscosity
・Erythrocyte deformability
・DEA
・ヘマトクリット値
【0045】
4.プロテインチップを用いた於血診断マーカ−検出方法
CIPHERGEN社製のプロテインチップシステムを用いた。以下、プロテインチップ上に固相化された官能基の存在する部分をスポットと記載する。
【0046】
(方法1)IMAC3プロテインチップを用いた血漿中於血特異的ピークの検出方法 1スポットあたり、5 μLの50 mmol/L CuSO4を添加し、室温で5分間振とうした。超純水を用いてスポットを洗浄し、未結合のCu2+を除去した。1スポットあたり、5 μLのバッファー(100 mmol/L Sodium acetate (pH4))を添加し、室温で5分間振とうした。超純水を用いてスポットを洗浄した。
【0047】
1スポットあたり、200 μLのバッファーを添加して5分間振とうを2回繰り返し、固相された官能基を平衡化した。血漿1 μLをバッファーを用いて100 μLに希釈し、スポット上にアプライした。室温で約30分間振とうした後、希釈液を除去した。1スポットあたり200 μLのPBSを添加し5分間振とうを3回繰り返し、非特異的結合を除去した。1スポットあたり約400 μLの超純水を添加、除去を2回繰り返してバッファーを除去した。
【0048】
スポットを充分乾燥させた後、1スポットあたり0.5 μLのEAMを塗布し、残留分子を結晶化させた。スポットが乾燥した後、再度0.5 μLのEAMを塗布した。
プロテインチップをTOF-MS測定装置であるプロテインチップリーダー(PBS-II)に挿入し、スポット中に残存するタンパク質の分子量スペクトルを解析した。
【0049】
(方法2)SAX2プロテインチップを用いた血漿中於血特異的ピークの検出方法
1スポットあたり、200 μLバッファー(50 mmol/L Sodium acetate (pH 4.0)または50 mmol/L Tris-HCl (pH 8.0))を添加して5分間振とうを2回繰り返し、固相された官能基を平衡化した。血漿1 μLをバッファーを用いて100 μLに希釈し、スポット上にアプライした。室温で約30分間振とうした後、希釈液を除去した。1スポットあたり200 μLのバッファーを添加し5分間振とうを3回繰り返し、非特異的結合を除去した。1スポットあたり約400 μLの超純水を添加、除去を2回繰り返してバッファーを除去した。
【0050】
スポットを充分乾燥させた後、1スポットあたり0.5 μLのEAMを塗布し、残留分子を結晶化させた。スポットが乾燥した後、再度0.5 μLのEAMを塗布した。
プロテインチップをTOF-MS測定装置であるプロテインチップリーダー(PBS-II)に挿入し、スポット中に残存するタンパク質の分子量スペクトルを解析した。
【0051】
(方法3)WCX2プロテインチップを用いた血漿中於血特異的ピークの検出方法
1スポットあたり、200 μLバッファー(50 mmol/L Sodium acetate (pH 4.0)または50 mmol/L Ammonium acetate (pH 6.0))を添加して5分間振とうを2回繰り返し、固相された官能基を平衡化した。血漿1 μLをバッファーを用いて100 μLに希釈し、スポット上にアプライした。室温で約30分間振とうした後、希釈液を除去した。1スポットあたり200 μLのバッファーを添加し5分間振とうを3回繰り返し、非特異的結合を除去した。1スポットあたり約400 μLの超純水を添加、除去を2回繰り返してバッファーを除去した。
【0052】
スポットを充分乾燥させた後、1スポットあたり0.5 μLのEAMを塗布し、残留分子を結晶化させた。スポットが乾燥した後、再度0.5 μLのEAMを塗布した。
プロテインチップをTOF-MS測定装置であるプロテインチップリーダー(PBS-II)に挿入し、スポット中に残存するタンパク質の分子量スペクトルを解析した。
【0053】
(結果)
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
(結果1)IMAC3-Cuチップを用いた血漿中於血特異的ピークの検出
結果を図1〜3および表1に示した。健常人2例の間では、大きな出現ピークパターンの変化は認められなかったが、健常人と於血患者を比較したところ、明らかに異なるピークを検出した。健常人と薬物投与前の於血患者Sample Tとを比較したところ、m/z 8086(ピーク6)、9251(ピーク7)、14929(ピーク9)、15087(ピーク10)、15288(ピーク11)、15827(ピーク12)、28177(ピーク18)、28900(ピーク19)、30514(ピーク20)、33368(ピーク21)、60191(ピーク22)および66606(ピーク23)に認められるピークが健常人に存在するのに対し、Sample Tにおいては消失ないしは明らかに減少することが確認された。また、m/z 3865(ピーク1)、4547(ピーク5)、9910(ピーク8)、16992(ピーク13)、17183(ピーク14)、18293(ピーク15)、19835(ピーク16)および20016(ピーク17)においてSample Tにのみ出現する、または健常人に比べて明らかに増加の認められるピークを確認した。またそのうちピーク16および19については、桂枝茯苓丸による於血治療後のSample Tにおいて健常人レベルへ向かうピーク変動が認められた。これらについては、薬物投与による治療効果の結果、ピークが変動したものと思われる。Sample Tにおいて認められたピーク変動を基に、Sample Mを測定したところ、ピーク1、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、21、および23において、Sample Tと同様の変動を確認した。さらに、健常人と比較してSample Mでのみ出現または増加するm/z 3904(ピーク2)、3929(ピーク3)、及び4411(ピーク4)の3ピークを確認した。またSample Mにおいて、桂枝茯苓丸投与による於血治療によりピーク2、3、4および16において健常人レベルへ向かう変動が認められた。そのうちピーク16はSample TおよびMの両方で変動が認められた。以上よりIMAC3-Cuチップを用いて於血状態を診断するための23種のピークを検出した。
【0057】
(結果2)SAX2プロテインチップ(陰イオン交換チップ)を用いた血漿中於血特異的ピークの検出
結果を図4〜7および表1に示した。健常人2例の間では、大きな出現ピークパターンの変化は認められなかったが、健常人と於血患者を比較したところ、明らかに異なるピークを検出した。また、同じSAX2プロテインチップを用いたとしても、洗浄条件を変動することによって、異なるピークパターン、すなわち異なるペプチドの生体内での変動を確認することが出来た。洗浄バッファーを50 mmol/L Sodium acetate (pH4)として、健常人と薬物投与前のSample Tを比較したところ、m/z 3906(ピーク25)、3918(ピーク26)、4124(ピーク27)および28092(ピーク28)に認められるピークが健常人において確認されるのに対し、Sample Tでは消失ないしは明らかな減少が認められた。Sample Tにおいて認められたピーク変動を基に、Sample Mを測定したところ、ピーク25、26および28においてSample Tと同様の変動を確認した。ピーク27については健常人よりも高いピークを示したが、桂枝茯苓丸による於血治療の結果、減少した。また、ピーク28に関しても、Sample Mにのみ治療後の健常人レベルへ向かう変動が確認された。洗浄バッファーを50 mmol/L Tris-HCl (pH8)として、健常人と薬物投与前のSample Tを比較したところ、m/z 3906(ピーク29)、4062(ピーク30)、5445(ピーク31)、5601(ピーク32)、8520(ピーク34)および8641(ピーク35) に認められるピークが健常人において確認されるのに対し、Sample Tでは消失ないしは明らかな減少が認められた。また、m/z 9136(ピーク36)、9299(ピーク37)、13687(ピーク38)、15065(ピーク39)、15857(ピーク40)および16015(ピーク41)においてSample Tにのみ出現する、または健常人に比べて明らかに増加の認められるピークを確認した。またそのうちピーク34および35については、桂枝茯苓丸による於血治療後のSample Tにおいて健常人レベルへ向かうピーク変動が認められた。Sample Tにおいて認められたピーク変動を基に、Sample Mを測定したところ、ピーク29、30、31、32、36、37、38、39、40、および41において、Sample Tと同様の変動を確認した。さらに、健常人と比較してSample Mでのみ増加するm/z 8414(ピーク33)の1ピークを確認した。以上よりSAX2チップを用いて於血状態を診断するための17種のピークを検出した。
【0058】
(結果3)WCX2プロテインチップ(陽イオン交換チップ)を用いた血漿中於血特異的ピークの検出
結果を図8〜11および表2に示した。健常人2例の間では、大きな出現ピークパターンの変化は認められなかったが、健常人と於血患者を比較したところ、明らかに異なるピークを検出した。また、同じWCX2プロテインチップを用いたとしても、洗浄条件を変動することによって、異なるピークパターン、すなわち異なるペプチドの生体内での変動を確認することが出来た。洗浄バッファーを50 mmol/L Sodium acetate (pH4) として、健常人と薬物投与前のSample Tを比較したところ、m/z 4063(ピーク42)に認められるピークが健常人において確認されるのに対し、Sample Tでは消失ないしは明らかな減少が認められた。また、m/z 13713(ピーク46)、15065(ピーク47)、15815(ピーク48)、15889(ピーク49)、16033(ピーク50)、16086(ピーク51)および16221(ピーク52)においてSample Tにのみ出現する、または健常人に比べて明らかに増加の認められるピークを確認した。またそのうちピーク49、51および52については、桂枝茯苓丸による於血治療後のSample Tにおいて健常人レベルへ向かうピーク変動が認められた。Sample Tにおいて認められたピーク変動を基に、Sample Mを測定したところ、ピーク42、47、48、49、50、51および52において、Sample Tと同様の変動を確認した。さらに、健常人と比較してSample Mでのみ増加するm/z 4568(ピーク43)、9154(ピーク44)および9310(ピーク45)の3ピークを確認した。洗浄バッファーを50 mmol/L Ammonium acetate (pH6)として、健常人と薬物投与前のSample Tを比較したところ、m/z 4278(ピーク54)、4619(ピーク56)、6156(ピーク57)、6242(ピーク58)、7737(ピーク60)、8111(ピーク63)、8573(ピーク64)、8782(ピーク65)、8903(ピーク66)、9257(ピーク67)、9466(ピーク68)、10231(ピーク69)および14917(ピーク71)に認められるピークが健常人において確認されるのに対し、Sample Tでは消失ないしは明らかな減少が認められた。また、m/z 7531(ピーク59)、7898(ピーク61)、7940(ピーク62)、12819(ピーク70)、15083(ピーク72)、15279(ピーク73)、15814(ピーク74)、15885(ピーク75)および16042(ピーク76)においてSample Tにのみ出現する、または健常人に比べて明らかに増加の認められるピークを確認した。またそのうちピーク62、65および76については、桂枝茯苓丸による於血治療後のSample Tにおいて健常人レベルへ向かうピーク変動が認められた。Sample Tにおいて認められたピーク変動を基に、Sample Mを測定したところ、ピーク54、56、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75および76において、Sample Tと同様の変動を確認した。さらに、健常人と比較してSample Mでのみ増加するm/z 3901(ピーク53)および4410(ピーク55)の2ピークを確認した。Sample MにおいてもSample Tと同様に、桂枝茯苓丸投与による於血治療によりピーク62、65、75および76において健常人レベルへ向かう変動が認められた。また、ピーク53、55、61および74に関しては、Sample Mでのみ健常人レベルへ向かう変動が確認された。以上よりWCX2チップを用いて於血状態を診断するための35種のピークを検出した。
【0059】
(考察)
プロテインチップシステムを用いた於血患者の血漿中タンパク質の網羅的測定を実施したところ、明らかに健常人とは異なる複数のピークパターンを示した。今回サンプルとして用いたTおよびMの於血治療前および於血治療後の血液流動力学的パラメータを表3に示した。
【0060】
【表3】
【0061】
サンプルTおよびMともに於血の改善に伴って、血液粘度の改善が認められており、今回の結果は於血マーカーであると同時に、血液粘度異常を検出するためのマーカーであると考えられる。分析の結果、サンプルTおよびMにおけるピークパターンは非常に類似したものであった。健常人と異なる変動を示すピークのうち75 %以上が共通な挙動を示した。これら検出されたピークは、於血症状の患者を検出するためにきわめて重要なマーカーであると思われる。
【0062】
於血症状の多くは急激に発生するものではなく、個人の遺伝的要因と生活習慣などの環境要因が複雑に絡み合って、発生するものと思われる。すなわち本症状の発生はひとつの原因に起因するものではなく、複数存在する要因の組み合わせによって発生していると考えられる。今回用いた健常人の血漿における分析パターンが非常に近似していることからも、サンプルTおよびMで認められたピークの違いは、正常範囲での個体差というよりも於血症状を発症した原因の違いに起因する可能性が高いと思われる。今回認められた、サンプルTおよびM間で異なる挙動を示すピークは、他の於血患者からも検出されることが予想され、今後患者背景を類推する上での判断材料として利用できる可能性が高い。
【0063】
【発明の効果】
本発明により於血の診断に有用な、マーカータンパク質が同定され、このマーカータンパク質を利用することにより、於血の診断を簡便に行うことが可能になった。さらに、本発明により於血治療の前後で発現が変動するマーカータンパク質が同定され、このマーカータンパク質を利用することにより、於血治療の経過観察の容易化を図ることが可能になった。また、本マーカーは血液粘度異常を示す患者に対しても利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、IMAC3-Cuチップを用いた解析結果を示す。
【図2】図2は、IMAC3-Cuチップを用いた解析結果を示す。
【図3】図3は、IMAC3-Cuチップを用いた解析結果を示す。
【図4】図4は、SAX2プロテインチップ(陰イオン交換チップ/pH4)を用いた解析結果を示す。
【図5】図5は、SAX2プロテインチップ(陰イオン交換チップ/pH4)を用いた解析結果を示す。
【図6】図6は、SAX2プロテインチップ(陰イオン交換チップ/pH8)を用いた解析結果を示す。
【図7】図7は、SAX2プロテインチップ(陰イオン交換チップ/pH8)を用いた解析結果を示す。
【図8】図8は、WCX2プロテインチップ(陽イオン交換チップ/pH4)を用いた解析結果を示す。
【図9】図9は、WCX2プロテインチップ(陽イオン交換チップ/pH4)を用いた解析結果を示す。
【図10】図10は、WCX2プロテインチップ(陽イオン交換チップ/pH6)を用いた解析結果を示す。
【図11】図11は、WCX2プロテインチップ(陽イオン交換チップ/pH6)を用いた解析結果を示す。
Claims (4)
- (1)銅イオン固定化チップとヒトより採取した体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、m/zで3865、3904、3929、4411、4547、8086、9251、9910、14929、15087、15288、15827、16992、17183、18293、19835、20016、28177、28900、30514、33368、60191、又は66606を有する何れか1以上のタンパク質の存在又は量を検出するか、(2)陰イオン交換チップとヒトより採取した体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、m/zで3906、3918、4124、28092、4062、5445、5601、8414、8520、8641、9136、9299、13687、15065、15857、又は16015を有する何れか1以上のタンパク質の存在または量を検出するか、又は、(3)陽イオン交換チップとヒトより採取した体液とを反応させ、該チップと相互作用したタンパク質を質量分析法で分析し、m/zで4063、4568、9154、9310、13713、15065、15815、15889、16033、16086、16221、3901、4278、4410、4619、6156、6242、7531、7737、7898、7940、8111、8573、8782、8903、9257、9466、10231、12819、14917、15083、15279、15814、15885又は16042を有する何れか1以上のタンパク質の存在または量を検出する、於血または血液粘度異常の検出方法。
- 於血または血液粘度異常の治療効果の観察のために行う、請求項1に記載の方法。
- 於血または血液粘度異常を特徴とする疾患の検出および/または治療効果の観察のために行う、請求項1に記載の方法。
- 於血または血液粘度異常を特徴とする疾患が、脳血管障害、冠動脈疾患、慢性肝炎、慢性関節リウマチ、ベーチェット病、月経障害・不妊症、更年期障害、腎硬化症、または末梢血管障害である、請求項3に記載の方法。
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