JP3979013B2 - 尿失禁治療用コイル装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、パルス電流を供給されると、患者体内に渦電流を誘起させる磁束を発生して尿失禁の治療を行うコイル装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
刺激用電極を患者に装着し、電気的パルスを与えて尿失禁を治療する周知の電気刺激装置に代えて、本願出願人は、コイルから発生する磁束を患者に与えて骨盤底筋群、陰部神経等に渦電流を生じさせることによりこれらを刺激し、尿失禁を治療する装置を提案してきた(特開平9−276418、特開平10−234870)。
【0003】
これにより、着衣のままで、苦痛を伴わずに無侵襲で尿失禁治療を行うことができ、更に電力消費を少なくすることが可能となった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
尿失禁には主に腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁がある。腹圧性尿失禁の治療のためには骨盤底筋群を刺激し、弱った骨盤底筋群あるいは尿道括約筋群等の筋群を増強して尿道を締付ける力を強くする必要がある。また切迫性尿失禁の治療のためには、第2〜第4仙骨神経から派生する陰部神経あるいはその枝を刺激し、反射的に不随意に起こる膀胱収縮を抑制する必要がある。
【0005】
したがって磁力によりこのような治療を行なうためには、骨盤底筋群や陰部神経およびその枝に磁束が効率よく及ぶようにすることが重要である。
【0006】
磁束を発生させるコイル装置としては、空芯コイルとコア付コイルの2種類がある。空芯コイルの特長には、次の2点がある。
(1)電流の大きさに比例して磁場の強さを大きくできるので、強い磁場を発生させることが容易である。
(2)磁力線はコイルの中央から発散し、広い範囲に磁束が及ぶようになる。
【0007】
したがって刺激すべき部位が広範囲に及ぶ場合には有利である。しかし、ある限られた領域を刺激する場合には不適当で、消費電力が大きく、所望の部位以外の箇所も刺激するという欠点がある。
【0008】
一方、コア付コイルの特長は、磁力線をコアに集中させることにより、少ない磁束で特定の部位に有効な刺激を与えることである。したがって、刺激すべき部位が限られた範囲であれば空芯コイルよりも極めて電力消費が少ないという利点がある。そこで、従来は、コア付コイルを用いながらもある程度広範囲に刺激することができるように、2つのU字状のコア要素から構成されるW字状のコアが用いられてきた。この構成を図12に示す。ここで2つのU字状のコア要素20、21はそれぞれの一方の端部を固着され、その固着部分にコイル22が巻かれている。このコイル装置は、コア要素20、21を患者の前後方向に向けて使用される。
【0009】
しかし、このようなコイル装置では、患者の刺激すべき部位を磁力線は前後方向(水平方向)に平板状となって通過し、刺激するので、骨盤底筋群や陰部神経の全体を刺激していないという欠点があった。
すなわち、図13(a)に示すように骨髄下口に位置する骨盤底筋群(pelvic floor muscle group )は、膀胱、腟、子宮、直腸などを支えるもので、尾骨筋、腸骨尾骨筋、恥骨尾骨筋からなる挙筋、直腸下部をとりまく恥骨直腸係締などからなり、横方向にも幅のあるものである。また、尿道を収縮させる外尿道括約筋を支配する陰部神経の派生もととなる第2〜第4仙骨神経(sacral nerves )は、図13(a)に示すように膀胱近傍に位置しており、図13(b)に示すように、臀部の下方から見ると、第2〜第4仙骨神経は左右方向にも分布している(図13(b)は右方向のみを表し、左方向は図示省略)。さらに、第2〜第4仙骨神経からは、排尿時に膀胱括約筋を収縮させる骨盤神経をも派生している。このように、磁力線は、前後方向だけでなく骨盤底筋群の横幅、第2〜第4仙骨神経、およびその仙骨神経から派生した陰部神経が広がる左右方向をも考慮して十分に磁力線を及ぼす必要があることをつきとめた。
【0010】
本発明はこのような従来の欠点に鑑みなされたもので、その目的は、電力消費が少なく、かつ刺激すべき部位全体を刺激することができ、不必要な箇所を刺激することが少ない尿失禁治療用コイル装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のコイル装置は、それぞれの形状がU字状またはJ字状である少なくとも4個のコア要素が、それぞれの一方の端部をほぼ同じ方向に向けられて互いに固着され、それぞれの他方の端部を、前記一方の端部が固着されて成る部分を中心にして各方向に配置された磁性材からなるコアと、前記少なくとも4個のコア要素が互いに固着された部分に捲回されたコイルと、前記コアを取付けられ、患者に密着または近接されるコア支持部と、を備え、前記コアは、治療に際して患者が前記コア支持部に着座したとき、前記コア要素の固着された部分が患者の陰部神経のほぼ中程に位置し、前記各方向に配置されたコア要素のうち患者の前部と後部とに位置するそれぞれのコア要素の外側端部間に前記陰部神経が位置し、左右のコア要素が患者の左右方向に広がる陰部神経に合わせて左右方向に磁力線を発するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
これにより、コア要素が固着されて成る部分と、コア要素の各他端部との間で磁束が発生し、その磁束は患者体内の特定領域全体に及び、他の領域に及ぶことが少ない。そしてその特定領域に渦電流が生じ尿失禁治療が行なわれる。
【0013】
上記の構成におけるコアの代わりに、その全体形状とほぼ同じ形状のコアを型により一体に成型したものでも良い。
【0014】
また、本発明のコイル装置は、磁性材からなり、椀状または有底筒状の基盤部とこの基盤部内側中央から突出した軸状部とを備えたコアと、前記軸状部に捲回されたコイルと、前記コアを取付けられ、患者に密着または近接されるコア支持部と、を備え、前記コアは、治療に際して患者が前記コア支持部に着座したとき、前記軸状部が患者の陰部神経のほぼ中程に位置し、前記基盤部の内側に前記陰部神経が位置するように構成されていることを特徴とする。
【0015】
これにより、コアの軸状部と、コアの基盤部の縁部との間で磁束が発生し、その磁束は患者体内の特定領域全体に及び、他の領域に及ぶことが少ない。そしてその特定領域に渦電流が生じ尿失禁治療が行なわれる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施の形態を図1、図2及び図3を参照して説明する。図1は、本実施の形態のコイル装置の要部を示す斜視図である。図2、図3は同じくコイル装置の側面図、背面図である。なお、図2及び図3は使用の状態も示している。
【0017】
図1に示すように、本コイル装置は、コア5を有している。コア5は、J字状の前コア部1及び後コア部2と、U字状の左コア部3及び右コア部4とから成り、これらは、それぞれの一方の端部をほぼ同じ方向に向けられて固着されている。この例では左コア部3と右コア部4それぞれの一方の端部の外面が互いに固着され、その固着箇所の両側面に前コア部1及び後コア部2それぞれの一端の外面が固着されている。これらの端部が固着されて中央部6が構成される。そして、各コア部1〜4の他方の端部は、中央部6の中央を通る前記方向の線を中心として、ほぼ90度の間隔で配置された状態となっている。中央部6には、コイル7が捲回されている。
【0018】
図2、図3に示すように、コア5は、患者に密着するコア支持部8に取付けられている。この例では、コア支持部8は椅子であり、その座板部に取付けられている。図2に示すように、前コア部1及び後コア部2の外側端部は内側端部よりも長く構成されている。すなわち、その外側端部の先端は、中央部6よりも高い位置にある。左コア部3及び右コア部4それぞれの両端部は図3に示すように、長さが等しくなっており、それらの外側の端部の先端は、中央部6よりも高い位置にある。コア材料として珪素鋼板のラミネートを使うときは、方向性珪素鋼板を使うほうが、より刺激効率が良い。なぜならば、方向性を有しているために、コアの側面から磁力線が漏れることが少ないために、発生した磁力線のほとんどを中央部6に集めて、肛門付近から上方を効率良く刺激できるからである。
【0019】
なお、コイル7にはパルス状の磁束を発生させるための電力供給装置(図示せず)が接続されている。
【0020】
本コイル装置の使用に際しては、患者は着衣のまま図2および図3に示す体勢でコア支持部8に着座する。このとき、コア5の中央部6が、骨盤底筋群11の下方に存在する陰部神経10のほぼ中程にあり、この陰部神経10が前コア部1と後コア部2の各外側端部の間に位置する状態となる。骨盤底筋群11は、この陰部神経10の上面で中央よりやや前方にあるが、前コア部1の磁束が十分に及ぶ範囲内にある。この例では患者は女性である。ちなみに、肛門12、子宮13、膣口14及び膀胱15の配置を示しておく。
【0021】
そして、コイル7にパルス電流を供給すると、陰部神経10、骨盤底筋群11にパルス状の磁束が発生し、渦電流が発生する。これによって、陰部神経10、骨盤底筋群11は刺激され、失禁の治療が行われる。このように、中央部6が低く形成されているならば、生体内の奥深くまで磁束が至り、その結果生体内の奥深くを刺激することできる。
本装置は、コア5の発する磁力線が、少なくとも、前記患者の骨盤底筋群が分布する前後方向に発せられ、かつ左右方向に広がる第2〜第4仙骨神経またはその仙骨神経から派生した陰部神経に合わせて左右方向に発せられるように構成されている。
【0022】
この装置において、発生する磁束密度は0.01テスラから1テスラ程度とし、パルス磁場の周波数は1〜100Hzの範囲とする。腹圧性尿失禁の治療の場合、その周波数は数十Hz〜50Hzが好適であり、切迫性尿失禁の治療の場合、その周波数は数Hz〜10Hzが好適である。
【0023】
また、各コア部1〜4の互いに固着された側の端部の他方端部は、その内側間の距離(L2,L2′:図1)は90〜230mm、その外側間の距離(L1,L1′:図1)は150〜260mmが好適である。また各コアの厚み(L3′:図1)、幅(L3:図1)は約25〜100mmが好適である。各コア部1〜4の互いに固着された側の端部の総面積は、磁束を集中させるためには、この面積は小さいほど良いが、小さくし過ぎると磁気回路が飽和してしまうので、飽和しない程度の断面積に設計するのがよい。また、中央部6に巻回されるコイル7の巻数は6〜50ターンが好適である。
【0024】
本実施の形態では、コア5は、前コア部1および後コア部2の外側端部の高さH2が中央部6の高さH1よりも高く、左コア部3および右コア部4の外側端部の高さが中央部6の高さH1よりも高くなっている。これに対し、図4に示すように、コア部1〜4の外側端部と中央部6とを同じ高さH1にした構成でも良く、また、図5に示すように、前コア部1および後コア部2の外側端部の高さH3を中央部6および左コア部3および右コア部4の外側端部の高さH1よりも低くしても良い。このように患者のサイズや刺激部位に応じてコア5を最適な形態のコアを用いるなら効率の良い治療を行うことができる。
【0026】
なお、コイルの材料としては、単線(電線)、中空の銅製パイプあるいはリッツ線が用いられる。コイルに印加する電流が小さい場合は、コイルの発熱は単線でも少なく、安全である。しかし、刺激強度を大きくするためにコイル電流を大きくした場合は、発熱は大きくなり、火傷の危険性が生じる。このため、従来、銅製パイプのコイルに冷媒を循環させる方法が採られた。コイルの発熱を抑えるもう一つの方法としてリッツ線で作られたコイルの採用がある。コイル電流の周波数が大きい場合に電流特性を良くする効果があり、この結果、交流抵抗が下がり損失が減り、発熱が抑えられる。
【0027】
また、本実施の形態では、コア5を構成する各コア部1〜4は、断面が長方形であるが、図6に示すように前コア部1a,後コア部2a,左コア部3a及び右コア部4aの各断面が正方形のものを用いるなら、中央部6aを正方形とすることができ、偏りの少ない磁束を発生させることができる。
【0028】
本実施の形態における各コア部は、珪素鋼板、方向性珪素鋼板、パーマロイ、センダストあるいはパーメンジュール板を積層して形成しても良いし、また、フェライトのような圧粉磁芯で一体に形成しても良い。これら各コア部相互の固着は、ねじによっても良いし、他の手段によっても良い。
【0029】
また、本実施の形態では、コア要素である4個のコア部を固着してコアを形成したが、このようなコアと同様の外形のものを、型により一体成型したものでも良い。例えばフェライトのような圧粉磁芯でも良い。さらに、本実施例では、コア部を4個としているが、4個以上であっても良い。
【0030】
次に第2の実施の形態を説明する。このコイル装置は、図7の外観斜視図および図8の断面図に示すように、コア25が、椀状の基盤部16と、この基盤部16の内側中央から突出した軸状部17とから成っている。椀状の基盤部16の縁部はそれぞれ対向する2箇所で高い部分と低い部分を有するように波状に形成されている。これら高い部分と低い部分は軸状部17を中心にしてほぼ90度の間隔で配置されている。
【0031】
軸状部17にはコイル18が捲回されている。コア25はコア支持部19に取付けられている。この例においても、第1の実施の形態と同様に、コア支持部19は椅子であり、その座板部に取付けられており、更にコイル18には図示せぬ電力供給装置が接続されている。
【0032】
本コイル装置の使用に際しては、患者は着衣のまま図8に示す体勢でコア支持部19に着座する。このとき、コア25の軸状部17が、骨盤底筋群11の下方にある陰部神経10のほぼ中程にあり、この陰部神経10が基盤部16の内側および上方に収まる状態となる。骨盤底筋群11は、この陰部神経10の中央よりやや前方にあるが、コア25の磁力が十分に及ぶ範囲内にある。この例でも患者は女性であり、他の各器官の位置は図2と同様である。
【0033】
そして、コイル18にパルス電流を供給すると、陰部神経10、骨盤底筋群11にパルス状の磁束が発生し、渦電流が発生する。これによって、陰部神経10、骨盤底筋群11は刺激され、失禁の治療が行われる。
【0034】
本実施の形態において、軸状部17の直径を約30〜80mmとし、基盤部16の内径を約90〜230mm、外径を約150〜260mmとしたものが好適である。また、コイル18の巻数やコイルの材質および構造、コイルから発生させる磁束の大きさや周波数は第1の実施の形態で説明したものと同様のものが好適である。
【0035】
本実施の形態におけるコア25は、珪素鋼板、方向性珪素鋼板、パーマロイ、センダストあるいはパーメンジュール板を積層して形成しても良いし、また、フェライトのような圧粉磁芯でも良い。
【0036】
本実施の形態は、基盤部16の前後の縁部が高く、左右の縁部と軸状部17が低い例であるが、図9に示すように基盤部16の前後の縁部が低く、左右の縁部と軸状部17が高くても良いし、また図10に示すように基盤部16縁部の全部と軸状部17が同じ高さでも良い。このように患者のサイズや刺激部位に応じてコア25を最適な寸法および形態のコアとするならば効率の良い治療を行うことができる。
【0037】
また本実施の形態では、基盤部16は椀状であるが、図11に示すように有底筒状のものでも良い。
【0039】
【発明の効果】
請求項1および請求項2の発明によれば、必要な刺激部位(陰部神経、骨盤底筋群)を刺激することができ、かつ他の器官に磁束が及ばないように磁束を集中させることができるので、電力消費を少なくすることができるとともに不必要な箇所を刺激することを低減させて、治療時の安全性を高めることができる。
【0040】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を有するが、更に、刺激部位全体を均一に刺激することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態のコイル装置のコイルの外観を示す斜視図。
【図2】図1に示した装置の側面図。
【図3】図1に示した装置の背面図。
【図4】第1の実施の形態の変形例を示す図。
【図5】第1の実施の形態の他の変形例を示す図。
【図6】第1の実施の形態の更に他の変形例を示す図。
【図7】第2の実施の形態のコイル装置のコイルの外観を示す斜視図。
【図8】図7に示した装置の側面の断面図。
【図9】第2の実施の形態の変形例を示す図。
【図10】第2の実施の形態の他の変形例を示す図。
【図11】第2の実施の形態の更に他の変形例を示す図。
【図12】従来のコイル装置のコイルの外観を示す斜視図。
【図13】生体の器官・組織の分布を示す図。
【符号の説明】
5、25 コア
6 中央部
7、18コイル
16 基盤部
17 軸状部
8、19 コア支持部
Claims (3)
- それぞれの形状がU字状またはJ字状である少なくとも4個のコア要素が、それぞれの一方の端部をほぼ同じ方向に向けられて互いに固着され、それぞれの他方の端部を、前記一方の端部が固着されて成る部分を中心にして各方向に配置された磁性材からなるコアと、
前記少なくとも4個のコア要素が互いに固着された部分に捲回されたコイルと、
前記コアを取付けられ、患者に密着または近接されるコア支持部と、を備え、
前記コアは、治療に際して患者が前記コア支持部に着座したとき、前記コア要素の固着された部分が患者の陰部神経のほぼ中程に位置し、前記各方向に配置されたコア要素のうち患者の前部と後部とに位置するそれぞれのコア要素の外側端部間に前記陰部神経が位置し、左右のコア要素が患者の左右方向に広がる陰部神経に合わせて左右方向に磁力線を発するように構成されていることを特徴とする尿失禁治療用コイル装置。 - 前記少なくとも4個のコア要素は一体に成型されて前記コアを構成していることを特徴とする請求項1に記載の尿失禁治療用コイル装置。
- 磁性材からなり、椀状または有底筒状の基盤部とこの基盤部内側中央から突出した軸状部とを備えたコアと、
前記軸状部に捲回されたコイルと、
前記コアを取付けられ、患者に密着または近接されるコア支持部と、を備え、
前記コアは、治療に際して患者が前記コア支持部に着座したとき、前記軸状部が患者の陰部神経のほぼ中程に位置し、前記基盤部の内側に前記陰部神経が位置するように構成されていることを特徴とする尿失禁治療用コイル装置。
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