JP3977460B2 - ディーゼルエンジンの制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、排気ガスを吸気系に還流する排気ガス再循環装置(以下、EGR装置という)を備えたディーゼルエンジンの制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種のディーゼルエンジンの制御装置では、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の低減を図るべくEGR装置を適用したものがある。ところが、排気ガスの再循環を行うディーゼルエンジンにおいて、アクセルの踏み込み操作に伴う車両加速時にはアクセル開度に応じた量だけ燃料が供給されるのに対し、新気吸入量はEGR装置の作動遅れや、ターボ過給機等の過給機を備えたディーゼルエンジンにおいてはその過給機の過給遅れに起因して定常時に比べて減少する。この場合、燃料供給量に対してエンジンの筒内に吸入される酸素量が過少となり、許容レベルを超えるスモークが発生するという問題がある。
【0003】
この問題に対し、特開昭60−156951号公報においては、運転状態に応じて可変となり、且つスモークの発生しない最小空燃比を算出し、この算出値と新気吸入量に応じて燃料噴射量のガード値となる最大噴射量を決定するようにしている。この場合、燃料噴射量は、前記最大噴射量を超えない範囲内で制御される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記公報の従来技術では、以下に示す問題を招来する。つまり、上記従来技術では新気吸入量をパラメータとして最大噴射量を決定しているが、EGR装置を備えたシステムでは、実際上、EGR装置を介して吸気系に還流される排気ガス中には幾分かの酸素が残存しているため、スモークの抑制を前提として新気吸入量と最大噴射量とを一義的に関係付けることはできない。そのため、上記従来技術では、ディーゼルエンジンの理想燃焼を実現することができず、例えばEGR装置を介して吸気系に還流される排気ガス中の酸素量を予め所定量見越して最大噴射量を決定したとしても、機関の運転状態によっては期待に反してスモークが発生したり、過度に燃料噴射量を抑えられることにより加速性能が低下し過ぎたりするという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、EGR装置を備えたディーゼルエンジンにおいて、当該エンジンを理想燃焼状態で運転させ、スモーク発生量を低減することができるディーゼルエンジンの制御装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
要するに、例えばアクセルペダルを踏み込み操作して車両を加速する際には、ディーゼルエンジンへの燃料供給量が増加する。そのため、燃料供給量と筒内吸入酸素量とのバランスを良好に保って理想燃焼を実現するには、筒内吸入酸素量を燃料噴射量に応じて増加させる、或いは筒内吸入酸素量に応じて燃料供給量の最大ガード値を設定する、といった対策が考えられる。
【0010】
そこで、本発明では、請求項1に記載したように、排気ガス再循環装置により還流された排気ガス還流量、ディーゼルエンジンの筒内に吸入される総吸入空気量、及びディーゼルエンジンに吸入される新気量のうちの少なくとも2つと、ディーゼルエンジンに供給される燃料量を基に算出される筒内吸入酸素量と、筒内吸入ガスと燃料とが燃焼して生じる燃焼ガスの熱容量と、を制御要素とし、燃焼ガスの熱容量がエンジン運転状態に応じた目標値になるよう、EGR装置により還流される排気ガス量を制御する。ここで、燃焼ガスの熱容量とは、筒内に吸入される全ガス量を筒内吸入酸素量で除算した値で概算できるため、上記筒内吸入酸素量と同様に、当該熱容量を制御要素の一つとみなすことができる。
【0011】
この場合、燃焼ガスの熱容量はNOxの発生に直接的に結びつく要因であるため、この熱容量を制御要素としてそれを目標値に一致させるよう制御することにより、NOxの発生をより精密に制御することができ、ひいてはエンジンを理想燃焼状態で運転させると共に、スモーク発生量を低減することができることとなる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、燃焼ガスの熱容量をより正確に推定することができる。なお、本請求項で言う理論空燃比とは、燃焼を局所的に見たときの理論空燃比を意味するものである(以下、本明細書で用いる「理論空燃比」、又は「ストイキ燃焼」も局所的な燃焼を見るという点で同意である)。更に請求項3に記載の発明では、排気ガス中の酸素濃度を随時記憶し、EGR装置のEGR通路の長さに応じた還流遅れ時間だけ前に記憶された前記排気ガス中の酸素濃度を用いてエンジン制御を実施する。つまり、EGR装置を備えたディーゼルエンジンでは、EGRガス中の酸素濃度を知ることが必要となるが、新気とEGRガスとが混合される際において、EGRガス中の酸素濃度は還流遅れ時間前の排気ガス中の酸素濃度に合致する。そのため、上記したように還流遅れ時間前の酸素濃度を制御に用いることで、より一層正確なエンジン制御を実現することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、この発明を具体化した第1の実施の形態を図面に従って説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態における車両用多気筒ディーゼルエンジンの電子制御システムの概要を示す構成図である。図1の電子制御システムでは、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(以下、ECUという)10を有し、このECU10の制御指令信号により電磁駆動式の分配型燃料噴射ポンプ11が駆動されてディーゼルエンジン20に高圧の燃料が供給されるようになっている。つまり、分配型燃料噴射ポンプ11により圧縮された高圧燃料は燃料分配通路12を介して燃料噴射ノズル13に供給され、燃料噴射ノズル13はディーゼルエンジン20の副燃焼室21に燃料を噴射する。
【0019】
また、ディーゼルエンジン20は吸気管22及び排気管23を有し、これら吸気管22及び排気管23は吸気バルブ24及び排気バルブ25を介して主燃焼室26に連通している。この主燃焼室26は連通路27を介して前記副燃焼室21に連通されている。従って、ピストン28の上動に伴う筒内吸入空気の圧縮時において、燃料噴射ノズル13から副燃焼室21内に燃料が噴射供給されると、当該燃料が圧縮点火され燃焼に供される。
【0020】
また、ディーゼルエンジン20は過給機を構成するターボチャージャ14を備えており、前記吸気管22にはターボチャージャ14のコンプレッサ14aが設けられ、前記排気管23にはターボチャージャ14の排気タービン14bが設けられている。周知のように、ターボチャージャ14は排気ガスのエネルギーを利用して排気タービン14bを回転させ、その同軸上にあるコンプレッサ14aを回転させて吸入空気を昇圧させる。そして、吸入空気が昇圧されることにより、高密度の空気が主燃焼室26へと送り込まれてディーゼルエンジン20の出力が増幅される。
【0021】
コンプレッサ14aの下流側には、アクセルペダル15に連動する吸気絞り弁16が設けられている。該吸気絞り弁16の開閉位置はアクセル開度としてアクセル開度センサ17により検出され、該検出されたアクセル開度信号はECU10に入力される。
【0022】
また、上記コンプレッサ14aの上流側には吸気管22に吸入される新気吸入量を検出するための新気吸入量センサ30が設けられており、この新気吸入量センサ30により検出された新気吸入量信号はECU10に入力される。新気吸入量センサ30は、吸気管22内に熱線を配置して構成される熱線式エアフローメータからなり、加熱された熱線からの熱の放散に応じて吸入新気の質量流量を検出する。
【0023】
また、吸気管22には新気の温度を検出するための新気温度センサ31と、吸気管圧力を検出するための吸気管圧力センサ32とが設けられ、各センサ31,32の検出信号はECU10に入力される。さらに、前記分配型燃料噴射ポンプ11の図示しないドライブシャフトには、エンジン回転数を検出するための回転数センサ33が配設されている。
【0024】
次いで、本エンジンシステムに設けられたEGR装置の概要を説明する。
排気管23の排気タービン14b上流側にはEGR通路35が分岐して設けられており、同EGR通路35はその途中のEGR弁36を経て吸気管22に接続されている。そして、このEGR通路35により、排気管23内の排気の一部が吸気管22の吸気ポート近くに再循環される。このとき、排気再循環量(EGRガス量)はEGR弁36の開度により調節される。
【0025】
EGR弁36はEGR通路35を開閉する弁体37を有し、該弁体37はダイヤフラム38により作動せしめられる。この弁体37のリフト量により前記EGRガス量が決定される。ダイヤフラム38の背後には圧縮コイルばね39を設置した圧力室40が形成されており、この圧力室40には圧力導入管41を介して負圧制御弁42が接続されている。負圧制御弁42には大気に通じる大気導入ポート42aと真空ポンプ43に通じる負圧導入ポート42bが設けられており、負圧制御弁42により大気と負圧とが切替え制御されて圧力室40の負圧力が変更される。
【0026】
そして、この負圧力に応じて圧縮コイルばね39に抗してダイヤフラム38が変位し、弁体37がリフト駆動せしめられる。このように弁体37がリフト駆動されることにより、EGR通路35を通じて排気管23から吸気管22へ導かれるEGR量が調節される。こうした弁体37のリフト動作は、後で詳述するようにECU10から負圧制御弁42へ出力されるリフト指令信号により制御されるようになっている。
【0027】
また、EGR通路35途中にはEGRガスの温度を検出するためのEGRガス温度センサ44が設けられており、同センサ44の検出信号はECU10に入力される。
【0028】
そして、ECU10は、上記した各種センサの検出信号に基いてエンジン運転状態を検知する。具体的には、前記アクセル開度センサ17の検出信号に基いてアクセル開度VAを、前記新気吸入量センサ30の検出信号に基いて新気吸入量GAを、前記新気温度センサ31の検出信号に基づいて新気温度TAを、吸気管圧力センサ32の検出信号に基いて吸気管圧力PMを、回転数センサ33の検出信号に基いてエンジン回転数NEを、前記EGRガス温度センサ44の検出信号に基いてEGRガス温度TEを、それぞれ算出する。
【0029】
また、ECU10は、上記の如く算出されたエンジン運転状態に応じて分配型燃料噴射ポンプ11による燃料噴射量QFを算出し、その算出値に基づく指令信号を前記燃料噴射ポンプ11に出力して燃料噴射ノズル13からディーゼルエンジン20に燃料を供給させる。さらに、ECU10は、上記エンジン運転状態に応じてEGR弁36の開度(弁体37のリフト指令値)を決定し、その指令値に基づいて上記負圧制御弁42を駆動させる。
【0030】
次に、本実施の形態における電子制御システムの作用を説明する。
先ずは、図2のタイムチャートを用いて本実施の形態の制御動作の概要を説明する。なお、図2において、時間t1以前は定常運転状態の期間を示し、時間t1〜t2はドライバによるアクセル操作に伴う加速期間を示す。
【0031】
さて、時間t1以前(時間t2以降も同様)においては、アクセル開度VAが略一定に保持されているため、エンジン回転数NEも略一定値に保持され、アクセル開度VA及びエンジン回転数NEにより決定される燃料噴射量QFも一定値のまま保持される。また、EGR弁36の開度(EGR開度),吸気管圧力PM,筒内吸入酸素量GTO2 ,スモーク発生量も所定値で安定した状態となっている。
【0032】
そして、時間t1でアクセルペダル15が踏み込み操作されて加速が開始されると、それに伴って燃料噴射量QFが増大すると共にエンジン回転数NEが上昇する。なお、アクセル操作に応じてエンジン回転数NEが変動する期間は、実際にはアクセル操作期間よりも幾分遅れるものであるが、便宜上、図2ではアクセル操作期間(時間t1〜t2)とエンジン回転数NEの変動期間とを同一にして示す。
【0033】
また、時間t1〜t2では、アクセル操作に伴いEGR開度が減少し始めると共に、吸気管圧力PMが上昇し始める。このとき、従来装置であれば、EGR弁36の作動遅れによりEGR開度の減少動作が緩慢になる。また、ターボチャージャ14の過給遅れ(ターボラグ)により、吸気管圧力PMが所定の過給圧に達するまでには加速期間後において幾分かの時間を要する。その結果、筒内吸入酸素量GTO2 が目標値(実線)に対して不足し、スモーク発生量が許容レベル(25%)を超えてしまう(図の破線)。
【0034】
これに対して、本実施の形態の構成では、筒内吸入酸素量GTO2 が随時推測され、この推測された筒内吸入酸素量GTO2 と目標筒内吸入酸素量との偏差をなくすべくEGR開度のフィードバック制御が実施される。この場合、EGR弁36が従来よりも早期に閉側にリフト駆動されることとなる。従って、新気吸入量の増量が促され、結果として実際の筒内吸入酸素量GTO2 が増量されて目標値に一致し、スモークの発生量も定常時とほぼ同じ程度(5%程度)に維持される。また、筒内に吸入される酸素量が不足することがないため、良好なる燃焼状態が維持できる。
【0035】
図3,図4のフローチャートは、上記動作を実現するためにECU10により実行されるEGR弁制御ルーチンを示す。なお、同フローは各気筒の燃料噴射毎(4気筒であれば、180°CA毎)に実行される。同フローチャートによれば、筒内吸入酸素量を制御すべく、EGR弁36のリフト指令値が算出され、該リフト指令値によってEGR弁36の開度が制御される。
【0036】
図3の処理がスタートすると、ECU10は、先ずステップ110でアクセル開度VA,エンジン回転数NE,新気吸入量GA,吸気管圧力PM,新気温度TA,EGRガス温度TEを読み込む。また、ECU10は、続くステップ120で周知の方法により燃料噴射量QFを算出する。一般に、燃料噴射量QFは、予め記憶されたアクセル開度VAとエンジン回転数NEとの2次元マップを用い、その時のVA,NEに応じて算出される。
【0037】
その後、ECU10は、ステップ130で予め記憶された燃料噴射量QFとエンジン回転数NEとの2次元マップを用い、その時のQF,NEからEGR弁36をリフト動作させるための基本リフト量(以下、基本リフト指令値SBSという)を算出する。また、ECU10は、ステップ140で予め記憶された燃料噴射量QFとエンジン回転数NEとからなる別の2次元マップを用い、その時のQF,NEから目標筒内吸入酸素量GTTを算出する。ここで、目標筒内吸入酸素量GTTは、加速要求としてのアクセル開度VAをも反映したマップ値として与えられる。
【0038】
次に、ECU10は、ステップ150で当該ECU10内のEGRガス酸素濃度メモリよりEGRガス酸素濃度を読み出す(以下、メモリから読み出された酸素濃度を酸素濃度メモリ値ΨEO2 Mという)。かかる場合、EGRガス酸素濃度メモリには、後述する手順で算出された各燃焼毎の排気ガス中の酸素濃度ΨEO2 が時系列に複数個記憶されている。
【0039】
つまり、EGRガスはEGR通路35を通り、エンジン20の排気管23から吸気管22へ還流するが、その還流にはある程度の時間(還流遅れ時間)を要し、ある時点でのEGRガス中の酸素濃度は、還流遅れ時間前の時点での排気管23から排出された排気ガス中の酸素濃度と等しい値を示す。従って、ステップ150の処理では、還流遅れ時間を考慮して、所定の還流遅れ時間前にEGRガス酸素濃度メモリに書き込んだEGRガス酸素濃度ΨEO2 (その時点の排出ガス中の酸素濃度に等しい)を現時点の酸素濃度メモリ値ΨEO2 Mとして読み出す操作を行う。
【0040】
なお、還流遅れ時間を厳密に計算してその還流遅れ時間に相当するEGRガス酸素濃度ΨEO2 を酸素濃度メモリ値ΨEO2 Mとして読み出すことも可能であるが、本実施の形態では、より簡便な手法として各気筒について一燃焼サイクル前の値を酸素濃度メモリ値ΨEO2 Mとして読み出すようにしている。例えば4気筒のエンジンであれば、EGRガス酸素濃度メモリを4個用意し、#1気筒に対応するメモリに一燃焼サイクル前に書込んだ値を現時点の#1気筒の燃焼計算に使用する。発明者らの実験によれば、この程度の方法でも充分な精度が得られることが分かった。
【0041】
その後、ECU10は、ステップ160で前記ステップ150の酸素濃度メモリ値ΨEO2 Mや、その他エンジン回転数NE、新気吸入量GA,吸気管圧力PM,新気温度TA,EGRガス温度TEを用いて筒内吸入酸素量GTO2 を算出する。なお、その詳細な算出手順については後述する。
【0042】
次に、ECU10は、ステップ170で前記ステップ160の筒内吸入酸素量GTO2 と、前記ステップ140の目標筒内吸入酸素量GTTとを用い、両者の差の絶対値(|GTO2 −GTT|)が所定の許容範囲内であるか否かを判別する。そして、|GTO2 −GTT|が許容範囲内を超えるのであれば、ECU10はステップ170を否定判別してステップ180,190の処理を実施し、その処理後に図4のステップ200に進む。また、|GTO2 −GTT|が許容範囲内であれば、ECU10はステップ170を肯定判別し、ステップ180,190をバイパスして直接図4のステップ200に進む。
【0043】
即ち、|GTO2 −GTT|が許容範囲を超える場合、ECU10はステップ180で筒内吸入酸素量の偏差ΔGT(=GTO2 −GTT)を算出する。また、ECU10は、続くステップ190で上記筒内吸入酸素量の偏差ΔGTを用い例えば周知のPID制御手法に従ってEGR弁36のリフト指令補正値SKを算出する。
【0044】
その後、図4のステップ200に進むと、ECU10は、EGR弁36の最終リフト指令値SEDを算出する。詳細には、前記ステップ170が肯定判別された場合には、リフト指令補正値SKが算出されていないため、前記ステップ130で算出した基本リフト指令値SBSを最終リフト指令値SEDとする。また、ステップ170が否定判別された場合には、ECU10は前記ステップ190のリフト指令補正値SKを前記ステップ130で算出した基本リフト指令値SBSに付加して、最終リフト指令値SEDを算出する。
【0045】
これにより、EGR弁36は最終リフト指令値SEDに応じて制御されることとなる。より具体的には、負圧制御弁42により制御される負圧が最終リフト指令値SEDを実現するための値に制御され、該制御された負圧がEGR弁36の圧力室40に導入される。そして、該圧力室40に導入された負圧に応じた量だけEGR弁36が開閉し、EGRガス量を増減させる。
【0046】
最終リフト指令値SEDの算出後、ECU10は、ステップ210で上記ステップ120で算出した燃料噴射量QFを用いて、燃焼後に排出される排気ガス中の酸素濃度を予測し、EGRガス酸素濃度ΨEO2 として算出する。なお、このEGRガス酸素濃度ΨEO2 の算出手順は後述する。
【0047】
最後に、ECU10は、ステップ220で前記ステップ210で算出したEGRガス酸素濃度ΨEO2 をEGRガス酸素濃度メモリへ書き込む。このとき、時系列的なメモリ使用をしている場合には、メモリ中の最も古い値を消去し、新しい値を含めメモリ位置を1つずつ移動させて記憶する。また、気筒列にメモリを使用している場合には、該当する気筒のメモリの値を新しい値に変更すればよい。このようにして新しい値になったEGRガス酸素濃度メモリの記憶値は、次の気筒の燃焼に際してステップ150で読み出される。
【0048】
上記図3,図4の処理によれば、筒内吸入酸素量GTO2 が常に目標筒内吸入酸素量GTTに一致するよう制御されることとなり、EGR弁36の応答遅れやターボチャージャ14の過給遅れが存在する過渡時のEGR精度が向上すると共に、過渡時の燃焼状態が良好になる。またかかる場合には、過渡時のNOx排出量が定常運転時と同等になると共に、スモークが低減される。つまり、前記ステップ170が肯定判別されるエンジンの定常運転時、並びに同ステップ170が否定判別されるエンジンの過渡運転時のいずれの場合においても、負圧制御弁42に送られる制御信号によりEGR弁36による最適EGR制御が維持できる。
【0049】
図5のフローチャートは、前記図3におけるステップ160の詳細な手順を示す筒内吸入酸素量GTO2 の算出サブルーチンである。
ECU10は、先ずステップ161で新気吸入量GAの単位を〔g/cyl〕から以降の演算に都合のよい〔モル/cyl〕に変換することとし、〔モル/cyl〕単位の新気吸入量GA’を算出する。また、ECU10は、続くステップ162で予め記憶されたエンジン回転数NEと吸気管圧力PMとの2次元マップを用い、その時のNE,PMに応じて筒内吸入ガス温度が300〔k〕の際の筒内吸入ガス量(筒内に吸入される全ガス量)GT300’〔モル/cyl〕を算出する。
【0050】
その後、ECU10は、ステップ163で筒内吸入ガス量が筒内吸入ガス温度に反比例する関係式と、筒内吸入ガス温度が新気温度とEGRガス温度のそれぞれのガス量の比から求まる関係式とから導かれる次の式(1)に従い、筒内吸入ガス量GT300’〔モル/cyl〕と、新気吸入量GA’〔モル/cyl〕と、新気温度TAと、EGRガス温度TEとを用いて筒内吸入ガス量GT’〔モル/cyl〕を算出する。
【0051】
【数1】
さらに、ECU10は、ステップ164で筒内吸入酸素量が新気中の酸素量とEGRガス中の酸素量との和から求まる関係より導かれた次の式(2)に従い、新気吸入量GA’〔モル/cyl〕と、筒内吸入ガス量GT’〔モル/cyl〕と、酸素濃度メモリ値ΨEO2 Mとを用いて筒内吸入酸素量GTO2 ’〔モル/cyl〕を算出する。
【0052】
【数2】
最後に、ECU10は、ステップ165で前記ステップ164で算出した筒内吸入酸素量GTO2 ’の単位を、〔モル/cyl〕から〔g/cyl〕へ変換して〔g/cyl〕単位の筒内吸入酸素量GTO2 を算出する。そして、本サブルーチンを終了する。こうして算出された筒内吸入酸素量GTO2 は、前述したとおり、筒内吸入酸素量のフィードバック制御に用いられる。
【0053】
図6のフローチャートは、前記図4におけるステップ210の詳細な手順を示すEGRガス酸素濃度ΨEO2 の算出サブルーチンである。
図6において、ECU10は、先ずステップ211で燃料噴射量QFの単位を〔g/cyl〕からCH2 換算での〔モル/cyl〕単位へ変換し、CH2 換算での燃料噴射量QCH2 ’〔モル/cyl〕を算出する。ここで、CH2 換算とは、「CHn 」で表される燃料(軽油)の組成を「CH2 」で置き換え、燃料燃焼時の反応を簡便化して演算するためのものでる。
【0054】
また、ECU10は、続くステップ212で筒内吸入ガスと筒内に噴射される燃料とが完全燃焼すると仮定して求めた次の式(3)に従い、筒内吸入酸素量GTO2 ’〔モル/cyl〕と、筒内吸入ガス量GT’〔モル/cyl〕と、燃料噴射量QCH2 ’〔モル/cyl〕とを用いてEGRガス酸素濃度ΨEO2 (燃焼後に排出されると予測される排気ガス中の酸素濃度に等しい)を算出する。
【0055】
【数3】
つまり、燃料CH2 1モルが完全燃焼すると想定した場合、1モルのCH2 と3/2モルのO2 とが燃焼し、結果として1モルのCO2 と1モルのH2 Oとが生成される(CH2 →CO2 +H2 O−3/2O2 )。かかる場合、前記の式(3)において、右辺の分母は燃料が完全燃焼した際に排出される全ガス量に相当し、分子は燃料が完全燃焼した際に排出される全酸素量に相当する。従って、排気ガス中の全酸素量を全ガス量で除算することにより、EGRガス酸素濃度ΨEO2 が算出できる。このEGRガス酸素濃度ΨEO2 は、前述したとおり、筒内吸入酸素量GTO2 の算出等に用いられる。
【0056】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(a)本実施の形態では、筒内吸入酸素量GTO2 を制御要素とし、当該筒内吸入酸素量GTO2 がエンジン運転状態に応じた目標筒内吸入酸素量GTTになるよう、EGR装置により還流される排気ガス量(EGR弁36の開度)を制御するようにした。この場合、アクセルペダル15の踏み込み操作に伴う車両加速時には、筒内吸入酸素量GTO2 を増加させるべくEGRガス量が抑えられ(EGR弁36が閉じられ)、新気吸入量の増量が促される。その結果、筒内への吸入酸素量が不足するといった不具合が解消され、理想燃焼が実現できると共に、スモークの発生量を許容範囲内に抑制することができる。また、かかる場合には加速性能が損なわれることもない。
【0057】
(b)本実施の形態のディーゼルエンジン20はターボチャージャ14を備えるため、車両加速時には同ターボチャージャ14による過給遅れが生じ、これに起因して新気吸入量が減少する傾向を呈するが、その際にも過給遅れに対応させて新気吸入量を増量させることが可能となり、常に最適燃焼を実現することができる。
【0058】
(c)また、本実施の形態では、少なくともアクセル開度VA(燃料噴射量QF)に基づく加速要求から制御目標値としての目標筒内吸入酸素量GTTを決定するようにしたため、車両加速時に許容レベルを超えるスモークが発生するという不具合を確実に解消することができる。
【0059】
(d)さらに、本実施の形態では、EGRガス酸素濃度ΨEO2 を随時算出すると共にEGRガス酸素濃度メモリに記憶し、EGR通路35の長さに応じた還流遅れ時間だけ前に記憶されたEGRガス酸素濃度ΨEO2 (酸素濃度メモリ値ΨEO2 M)を用いてEGR制御を実施するようにした。この場合、EGRガスの還流遅れを考慮したEGR制御が可能となり、より一層正確なエンジン制御を実現することができる。
【0060】
(e)さらに、本実施の形態では、新気中の酸素量とEGRガス中の酸素量との加算により筒内吸入酸素量GTO2 を算出することとし、この際、新気吸入量GAと当該新気中の酸素濃度(約21%)との積から新気中の酸素量を算出すると共に、EGRガス量(GT−GA)と当該EGRガス中の酸素濃度ΨEO2 との積からEGRガス中の酸素量を算出するようにした(図5のステップ164,式(2))。従って、エンジン運転状態の過渡時においても、筒内吸入酸素量GTO2 を正確且つ容易に算出することができる。
【0061】
(f)また、上記筒内吸入酸素量GTO2 及びEGRガス酸素濃度ΨEO2 の算出時には、モル換算を行って演算を行うようにした。そのため、上記筒内吸入酸素量GTO2 及びEGRガス酸素濃度ΨEO2 をより一層正確に算出することができる。
【0062】
(g)本実施の形態では、新気温度センサ31及びEGRガス温度センサ44を設け、筒内吸入ガス量GT’の算出に際しては(図5のステップ163)、前記両センサ31,44による検出値(新気温度TA,EGRガス温度TE)を用いる構成とした。この場合、新気温度TA,EGRガス温度TE自体は急激な時間変化をしないため、前記両センサ31,44には高感度な性能が要求されることはない。従って、システムを構築するにあたって高コスト化を回避することができる。
【0063】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態を図7〜図11に従って説明する。但し、本実施の形態の構成において、上述した第1の実施の形態と同等であるものについては図面に同一の記号を付すと共にその説明を簡略化する。そして、以下には第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0064】
つまり、第2の実施の形態では制御要素となる物理量を、第1の実施の形態における「筒内吸入酸素量GTO2 」から、より直接的にNOx発生に結びつく「燃焼ガス熱容量CT」に変更し、制御精度向上を図る。なお、燃焼ガス熱容量CTとは、筒内吸入ガスが燃焼して生じる燃焼ガスの熱容量であって、一般には筒内吸入ガス量を筒内吸入酸素量で除算することにより概算できる。
【0065】
図7,図8のフローチャートは、本実施の形態におけるEGR制御ルーチンを示す。さて、図7,8のルーチンがスタートすると、ECU10は、ステップ310でエンジン運転情報(VA,NE,GA,PM,TA,TE)を読み込み、ステップ320で燃料噴射量QFを算出し、さらにステップ330で基本リフト指令値SBSを算出する(第1の実施の形態と同様)。
【0066】
また、ECU10は、ステップ340で予め記憶された燃料噴射量QFとエンジン回転数NEとの2次元マップを用い、その時のQF,NEから目標燃焼ガス熱容量CTTを算出する。ここで、目標燃焼ガス熱容量CTTは、加速要求としてのアクセル開度VAをも反映したマップ値として与えられる。
【0067】
次に、ECU10は、ステップ350で当該ECU10内のEGRガス濃度メモリよりEGRガス酸素濃度(酸素濃度メモリ値ΨEO2 M)とEGRガス二酸化炭素濃度(二酸化炭素濃度メモリ値ΨECO2 M)とを読み出す。かかる場合、EGRガス濃度メモリには、後述する手順で算出された各燃焼毎の排気ガス中の酸素濃度ΨEO2 及び二酸化炭素濃度ΨECO2 が時系列に複数個記憶されている。
【0068】
さらに、ECU10は、続くステップ360で燃料のストイキ燃焼を想定した燃焼モデルから燃焼ガス熱容量CTを算出する。なお、燃焼ガス熱容量CTの算出手順の詳細については、後述する。
【0069】
次に、ECU10は、ステップ370で前記ステップ360の燃焼ガス熱容量CTと、前記ステップ340の目標燃焼ガス熱容量CTTとを用い、両者の差の絶対値(|CT−CTT|)が所定の許容範囲内であるか否かを判別する。そして、|CT−CTT|が許容範囲を超えるのであれば、ECU10はステップ370を否定判別してステップ380,390の処理を実施し、その処理後に図8のステップ400に進む。また、|CT−CTT|が許容範囲内であれば、ECU10はステップ370を肯定判別し、ステップ380,390をバイパスして直接図8のステップ400に進む。
【0070】
即ち、|CT−CTT|が許容範囲を超える場合、ECU10はステップ380で燃焼ガス熱容量の偏差ΔCT(=CT−CTT)を算出する。また、ECU10は、続くステップ390で上記燃焼ガス熱容量の偏差ΔCTに応じて例えばPID制御手法に従ってEGR弁36のリフト指令補正値SKを算出する。
【0071】
その後、図8のステップ400に進むと、ECU10は、EGR弁36の最終リフト指令値SEDを算出する。詳細には、前記ステップ370が肯定判別された場合には、リフト指令補正値SKが算出されていないため、前記ステップ330で算出した基本リフト指令値SBSを最終リフト指令値SEDとする。また、ステップ370が否定判別された場合には、ECU10は前記ステップ390のリフト指令補正値SKを前記ステップ330で算出した基本リフト指令値SBSに付加して、最終リフト指令値SEDを算出する。
【0072】
上記処理により、EGR弁36は最終リフト指令値SEDに応じて制御されることとなり、この場合、燃焼ガス熱容量CTは常に目標燃焼ガス熱容量CTTに一致するよう制御される。
【0073】
最終リフト指令値SEDの算出後、ECU10は、ステップ410で燃焼後に排出される排気ガス中の酸素濃度及び二酸化炭素濃度を予測し、EGRガス酸素濃度ΨEO2 及びEGRガス二酸化炭素濃度ΨECO2 として算出する。なお、このEGRガス酸素濃度ΨEO2 及びEGRガス二酸化炭素濃度ΨECO2 の算出手順は後述する。
【0074】
最後に、ECU10は、ステップ420で前記ステップ410で算出したEGRガス酸素濃度ΨEO2 及びEGRガス二酸化炭素濃度ΨECO2 をEGRガス濃度メモリへ書き込む。このとき、時系列的なメモリ使用をしている場合には、メモリ中最も古い値を消去し、新しい値を含めメモリ位置を1つずつ移動記憶する。また、気筒列にメモリを使用している場合には、該当する気筒のメモリの値を新しい値に変更される。
【0075】
一方、図9,図10のフローチャートは、前記図7におけるステップ360の詳細な手順を示す燃焼ガス熱容量CTの算出サブルーチンである。但し、ステップ361〜364は前記第1の実施の形態の図5のステップ161〜164と同様であり、ここではその詳細な説明を省略する。つまり、ステップ361〜364では、新気吸入量GA’〔モル/cyl〕,筒内吸入ガス量GT300’〔モル/cyl〕,筒内吸入ガス量GT’〔モル/cyl〕,筒内吸入酸素量GTO’〔モル/cyl〕が算出される。なお、本処理過程においても、各データの単位を〔g/cyl〕から以降の演算に都合のよい〔モル/cyl〕に変換し、〔モル/cyl〕の演算結果を用いて燃焼ガス熱容量CTを算出するようにしている。
【0076】
その後、ECU10は、ステップ365で筒内吸入二酸化炭素量がEGRガス中の二酸化炭素量から求まる関係より導かれた次の式(4)に従い、新気吸入量GA’〔モル/cyl〕と、筒内吸入ガス量GT’〔モル/cyl〕と、EGRガスの二酸化炭素濃度メモリ値ΨECO2 Mとを用いて筒内吸入二酸化炭素量GTCO2 ’〔モル/cyl〕を算出する。
【0077】
【数4】
また、ECU10は、ステップ366で筒内吸入窒素量が新気中の窒素量とEGRガス中の窒素量との和から求まる関係より導かれた次の式(5)に従い、新気吸入量GA’〔モル/cyl〕と、筒内吸入ガス量GT’〔モル/cyl〕と、EGRガス中の窒素濃度(1−ΨEO2 M−2・ΨECO2 M)を用い、筒内吸入窒素量GTN2 ’〔モル/cyl〕を算出する。
【0078】
【数5】
引き続いて、ECU10は、図10のステップ367でCH2 1モルと完全燃焼する酸素3/2モル当たりの筒内吸入ガスに着目し、完全燃焼後の燃焼ガスの組成が、窒素(3/2)・(GTN2 /GTO2 )モル、二酸化炭素及び水が各々、(3/2)・(GTCO2 /GTO2 )+1モルである関係より導かれた次の式(6)に従い、CH2 1モルとストイキ燃焼した燃焼ガスの熱容量C1を算出する。
【0079】
【数6】
さらに、ECU10は、ステップ368で酸素3/2モル当たりの筒内吸入ガスの組成が、酸素3/2モル、窒素(3/2)・(GTN2 /GTO2 )モル、二酸化炭素及び水が各々、(3/2)・(GTCO2 /GTO2 )モルである関係より導かれた次の式(7)に従い、酸素3/2モル当たりの未燃焼ガスの熱容量C2を算出する。
【0080】
【数7】
最後に、ECU10は、ステップ369で筒内の燃焼が酸素の増加と共に燃焼速度を増し、その結果単位燃料が燃焼中に加熱するガスの量、つまり燃焼ガスの熱容量が減少する現象を考慮して求めた次の式(8)に従い、前記熱容量C1,C2を用いて燃焼ガス熱容量CTを算出する。かかる式(8)によれば、CH2 1モルが燃焼した際に加熱する燃焼ガス熱容量CTが導かれる。なお、a,bは、正の演算定数である。
【0081】
【数8】
上記の式(8)によれば、筒内吸入酸素量GTO2 が少なくなるほど、燃焼ガス熱容量CTは増加することとなる。従って、アクセルの踏み込み操作に伴う車両加速時には、燃焼ガス熱容量CTは定常時よりも増加する傾向を呈することが分かる。しかし、本実施の形態の構成では、燃焼ガス熱容量CTが目標燃焼ガス熱容量CTTに一致するようEGR弁36の開度が制御されるため、過度に燃焼ガス熱容量CTが増加することはない。
【0082】
さらに、図11のフローチャートは、前記図8におけるステップ410の詳細な手順を示すEGRガス濃度の算出サブルーチンであり、同ルーチンによれば、EGRガス酸素濃度ΨEO2 及びEGRガス二酸化炭素濃度ΨEO2 が算出される。なお、ステップ411,412では前記図6のステップ211,212で既述した通り、CH2 換算での燃料噴射量QCH2 ’〔モル/cyl〕が算出されると共に、EGRガス酸素濃度ΨEO2 が算出される。
【0083】
そして、ECU10は、ステップ413で筒内吸入ガスと筒内に噴射される燃料とが完全燃焼すると仮定し求めた次の式(9)に従い、筒内吸入二酸化炭素量GTCO2 と、筒内吸入ガス量GT’〔モル/cyl〕と、燃料噴射量QCH2 ’〔モル/cyl〕とを用いてEGRガス二酸化炭素濃度ΨECO2 (燃焼後に排出されると予測される排気ガス中の二酸化炭素に等しい)を算出する。
【0084】
【数9】
つまり、上記の式(9)において、右辺の分母は燃料が完全燃焼した際に排出される全ガス量に相当し、分子は燃料が完全燃焼した際に排出される全二酸化炭素量に相当する。従って、排気ガス中の全二酸化炭素量を全ガス量で除算することにより、EGRガス二酸化炭素濃度ΨECO2 が算出できる。このEGRガス二酸化炭素濃度ΨECO2 は、既述したとおりEGRガス酸素濃度ΨEO2 と共に燃焼ガス熱容量CTの算出等に用いられる。
【0085】
以上本実施の形態によれば上記第1の実施の形態と同様に、ディーゼルエンジン20を理想燃焼状態で運転させると共にスモーク発生量を低減することができ、本発明の目的を達成することができる。また、本実施の形態では、第1の実施の形態で既述した効果に加えて以下の効果を得ることができる。
【0086】
(a)本実施の形態では、筒内吸入ガスが燃焼して生じる燃焼ガスの熱容量(燃焼ガス熱容量CT)を筒内吸入酸素量GTO2 に相関する制御要素とし、燃焼ガス熱容量CTがエンジン運転状態に応じた目標燃焼ガス熱容量CTTになるよう、EGR装置により還流される排気ガス量(EGR開度)を制御するようにした。この場合、燃焼ガス熱容量CTはNOxの発生に直接的に結びつく要因であるため、この熱容量CTを制御要素としてそれを目標値に一致させるよう制御することにより、NOxの発生をより精密に制御することができ、ひいてはエンジンを理想燃焼状態で運転させると共に、スモーク発生量を低減することができることとなる。
【0087】
特に、本実施の形態のエンジンはターボチャージャ14を備えるため、車両加速時には過給遅れにより吸気管圧力が定常時よりも低下してEGR率が上昇し、燃焼温度が低下する。これは、NOxを過度に減少させると共に、スモークの増大の原因となる。しかし、本実施の形態のように、NOxの生成に直接的に関連する燃焼ガス熱容量CTを制御要素とすることにより、NOx及びスモークを共に低減させることのできる”適合点”近傍での制御が可能となり、NOxの低減並びにスモークの低減を両立できる。
【0088】
(b)また、本実施の形態では、単位質量の燃料がストイキ燃焼した結果生じる燃焼ガスの熱容量(図10、ステップ367の熱容量C1)と、単位質量の燃料がストイキ燃焼する前の未燃ガス状態での熱容量(図10、ステップ368の熱容量C2)に筒内吸入酸素量GTO2 が増加するほど減少する傾向を有する係数(図10、ステップ369の係数a,b)を乗じて得られる熱容量とを加算して、燃焼ガス熱容量CTを算出するようにした(前記式(8))。その結果、燃焼速度を考慮した燃焼ガス熱容量CTを算出することができ、当該熱容量CTを正確に推定して高精度なEGR制御を実施することができる。
【0089】
(第3の実施の形態)
次に、本発明における第3の実施の形態を図12及び図13を用いて説明する。本実施の形態の電子制御システムでは、ディーゼルエンジン20に供給される燃料量を制御要素とし、当該燃料量を目標値に制御することを要旨とする。
【0090】
図12は本実施の形態の制御動作を示すタイムチャートであり、先ずは同タイムチャートを用いて本実施の形態の概要を説明する。図12において、時間t11以前は定常運転状態の期間を示し、時間t11〜t12はドライバによるアクセル操作に伴う加速期間を示す。
【0091】
さて、時間t11でアクセルペダル15が踏み込み操作されて加速が開始されると、それに伴って燃料噴射量QFが増大すると共にエンジン回転数NEが上昇する。なお、アクセル操作に応じてエンジン回転数NEが変動する期間は、実際にはアクセル操作期間よりも幾分遅れるものであるが、便宜上、図12ではアクセル操作期間(時間t11〜t12)とエンジン回転数NEの変動期間とを同一にして示す。
【0092】
また、時間t11〜t12の加速期間では、アクセル操作に伴い吸気管圧力PMが上昇し始める。このとき、EGR弁36の作動遅れやターボチャージャ14の過給遅れ(ターボラグ)により吸気管圧力PMの上昇が緩慢になり、それにより筒内吸入酸素量GTO2 が目標値に対して不足するという事態を招く。その結果、図中に破線で示すようにスモーク発生量が許容レベル(25%)を超えてしまう(図の斜線部分)。
【0093】
これに対して、本実施の形態では、アクセル操作に伴う燃料噴射量QFの増加時において、筒内吸入酸素量GTO2 に応じた最大燃料噴射量QMAXFが設定され、筒内吸入酸素量GTO2 が不足した場合において燃料噴射量QFの上限が制限される。具体的には、図の時間ta〜tbの期間において、燃料噴射量QFの増量が最大燃料噴射量QMAXFにて制限されている。このとき、スモークの発生量が許容範囲(例えば25%以下)に維持される。
【0094】
図13のフローチャートは、上記動作を実現するためにECU10により実行される燃料噴射量制御ルーチンを示す。なお、同フローは各気筒の燃料噴射毎(4気筒であれば、180°CA毎)に実行される。
【0095】
さて、図13のルーチンがスタートすると、ECU10は、ステップ510でアクセル開度VA,エンジン回転数NE,新気吸入量GA,吸気管圧力PM,新気温度TA,EGRガス温度TEを読み込む。また、ECU10は、続くステップ520で予め記憶されているアクセル開度VAとエンジン回転数NEとの2次元マップを用い、その時のVA,NEから基本燃料噴射量QBFを算出する。
【0096】
次に、ECU10は、ステップ530でEGRガス酸素濃度メモリより酸素濃度メモリ値ΨEO2 Mを読み出す。このとき、EGRガス酸素濃度メモリには、各燃焼毎の排気ガス中の酸素濃度が時系列に複数個記憶されており、EGRガスがEGR通路35を還流する際の還流遅れ時間を考慮して、還流遅れ時間前に該EGRガス酸素濃度メモリに書き込んだEGRガス酸素濃度ΨEO2 が現時点の酸素濃度メモリ値ΨEO2 Mとして読み出される(第1の実施の形態と同様)。
【0097】
その後、ECU10は、ステップ540で筒内吸入酸素量GTO2 を算出する。ここで、筒内吸入酸素量GTO2 の算出には、前記第1の実施の形態で既述した図5のサブルーチンを用いればよい。
【0098】
次に、ECU10は、ステップ550で予め記憶されたエンジン回転数NEと筒内吸入酸素量GTO2 との2次元マップを用い、その時のNE,GTO2 から最大燃料噴射量QMAXFを算出する。この場合、最大燃料噴射量QMAXF(マップ値)は、スモーク発生量が許容範囲(25%)を超えないよう筒内吸入酸素量GTO2 に応じて設定される。
【0099】
さらに、ECU10は、ステップ560で上記ステップ520,550で算出した基本燃料噴射量QBF,最大燃料噴射量QMAXFの大小を比較し、そのうち小さい方の値を最終燃料噴射量QFとして決定する。こうして前記図12の時間ta〜tbの期間においては、最大燃料噴射量QMAXFがその時の最終燃料噴射量QFとして使用されることとなる。
【0100】
その後、ECU10は、ステップ570,580でEGRガス酸素濃度ΨEO2 を算出すると共に、該算出したEGRガス酸素濃度ΨEO2 を時系列的にEGRガス酸素濃度メモリに記憶する。なお、ステップ570,580の処理は、第1の実施の形態における図4のステップ210,220の処理(並びに図6のサブルーチン)に準ずるものである。
【0101】
以上本実施の形態によれば上記第1,第2の実施の形態と同様に、ディーゼルエンジン20を理想燃焼状態で運転させると共にスモーク発生量を低減することができ、本発明の目的を達成することができる。また、本実施の形態では、第1,第2の実施の形態で既述した効果に加えて以下の効果を得ることができる。
【0102】
つまり、本実施の形態では、ディーゼルエンジン20に供給される燃料量を制御要素とし、該エンジン20への筒内吸入酸素量GTO2 に基づいて最大燃料供給量QMAXFを算出するようにした。そして、最大燃料供給量QMAXFを超えない範囲でエンジン20に供給される燃料量を制御するようにした。かかる場合、スモークを発生させないための最大燃料供給量QMAXF(ガード値)が筒内吸入酸素量GTO2 に基づいて設定されるため、燃料供給量の過不足を招くことはなく、スモークを低レベルに保つと共に加速性能を維持することができる。
【0103】
なお、本発明は、上記各実施の形態の他に次の形態にて実現できる。
(1)上記各実施の形態では、新気温度センサ31及びEGRガス温度センサ44を設け、各センサ31,44により検出された新気温度TA,EGRガス温度TEを用いて筒内吸入ガス量GT’を算出していたが(図5のステップ163,図9のステップ363)、これを変更してもよい。例えば前記新気温度センサ31及びEGRガス温度センサ44に代えて、筒内吸入ガス温度を直接検出するための筒内吸入ガス温度センサを設ける。この場合、筒内吸入ガス温度センサは吸気管22のEGR通路35取付け部よりも下流側に設けられ、ECU10は同センサの検出信号に基づいて筒内吸入ガス温度TTを算出する。かかる構成では、筒内吸入ガス温度TTが直接検出できるため、前記筒内吸入ガス量GT’を算出するための前記式(1)が次の式(10)のように変更される。
【0104】
【数10】
つまり、前記図5のステップ163,図9のステップ363においては、上記の式(10)を用いて筒内吸入ガス量GT’が算出されることとなる。なお、EGR弁36の開度が急激に変化すると筒内吸入ガス温度も急激に変化するため、上記筒内吸入ガス温度センサには前記新気温度センサ31及びEGRガス温度センサ44よりも高い応答性が要求される。
【0105】
(2)上記第1,第2実施の形態では、EGR弁36の開度を調整することにより筒内吸入酸素量GTO2 或いは燃焼ガス熱容量CTを目標値に制御していたが、これを変更してもよい。例えば、吸気絞り弁16の開度を調整することにより筒内吸入酸素量GTO2 或いは燃焼ガス熱容量CTを目標値に制御するようにしてもよい。かかる場合、アクセルの踏み込み操作に伴う車両加速時には、吸気絞り弁16が開側に制御され、新気吸入量の増量が促される。その結果、筒内吸入酸素量が増加する。従って、本構成においても、理想燃焼を実現して本発明の目的を達成することができる。
【0106】
(3)上記各実施の形態では、筒内吸入酸素量GTO2 ,EGRガス酸素濃度ΨEO2 ,EGRガス二酸化炭素濃度ΨECO2 ,燃焼ガス熱容量CTを上述した図5,図6,図9〜図11の手順により算出する旨を記載したが、これらの算出手順は既述したものに限定されず他に変更してもよい。例えば上記算出手順で行ったモル換算を簡略化したり、上記要素を直接的に計測可能なセンサ類をエンジン制御システムに設けるようにしてもよい。
【0107】
(4)上記第3の実施の形態を次のように変更して具体化してもよい。即ち、車両の走行状態に対応させてスモーク発生量の許容レベルを可変に設定すると共に、当該許容レベルに応じて燃料噴射量QFの目標値を設定する。なお、スモーク発生量は筒内吸入酸素量GTO2 に相関している。
【0108】
このとき、例えば通常走行時であれば、スモークの許容レベルを5〜10%程度とし、その許容レベルに相応する目標燃料噴射量を設定する。また、車両加速時であれば、スモークの許容レベルを25%とし、その許容レベルに相応する目標燃料噴射量を設定する。そして、その時々の燃料噴射量QFが目標燃料噴射量になるように制御を実施する。かかる場合、筒内吸入酸素量GTO2 に基づいた燃料噴射量制御が実現でき、結果として、スモーク発生量をその時の許容レベルに抑えることができる。
【0109】
(5)上記実施の形態では、過給機(ターボチャージャ)を備えたエンジン制御システムに本発明を具体化したが、過給機を備えない本発明を適用することもできる。この場合、過給遅れ(ターボラグ)に起因して筒内吸入酸素量GTO2 が不足することはないが、EGR装置の応答遅れやEGR通路のEGRガス還流遅れに起因して筒内吸入酸素量GTO2 が不足するおそれがあるため、本構成においてもエンジンを理想燃焼状態で運転させ、且つスモーク発生量を低減するという効果を得ることができる。
【0110】
(6)EGR装置の構成を変更してもよい。例えばスロットルボディ負圧により排気ガスを還流させるEGR通路を設けると共に、当該EGR通路の途中に電磁式EGR弁を設ける。そして、電磁式EGR弁をエンジン運転状態に応じて制御するようにしてもよい。要は、筒内吸入酸素量GTO2 がフィードバック制御できる構成であればよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態におけるエンジン制御システムの概要を示す構成図。
【図2】第1の実施の形態の作用を説明するためのタイムチャート。
【図3】第1の実施の形態におけるEGR弁制御ルーチンを示すフローチャート。
【図4】図3に続き、EGR弁制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】筒内吸入酸素量算出サブルーチンを示すフローチャート。
【図6】EGRガス酸素濃度算出サブルーチンを示すフローチャート。
【図7】第2の実施の形態におけるEGR弁制御ルーチンを示すフローチャート。
【図8】図7に続き、EGR弁制御ルーチンを示すフローチャート。
【図9】燃焼ガス熱容量算出サブルーチンを示すフローチャート。
【図10】図9に続き、燃焼ガス熱容量算出サブルーチンを示すフローチャート。
【図11】EGRガス濃度算出サブルーチンを示すフローチャート。
【図12】第3の実施の形態における作用を説明するためのタイムチャート。
【図13】第3の実施の形態における燃料噴射量制御ルーチンを示すフローチャート。
【符号の説明】
10…ECU、14…ターボチャージャ、15…アクセルペダル、16…吸気絞り弁、20…ディーゼルエンジン、35…EGR装置(排気ガス再循環装置)を構成するEGR通路、36…EGR装置を構成するEGR弁、42…EGR装置を構成する負圧制御弁。
Claims (3)
- 排気ガスを吸気系に還流する排気ガス再循環装置を備えたディーゼルエンジンの制御装置において、
前記排気ガス再循環装置により還流された排気ガス還流量、前記ディーゼルエンジンの筒内に吸入される総吸入空気量、及び前記ディーゼルエンジンに吸入される新気量のうちの少なくとも2つと、前記ディーゼルエンジンに供給される燃料量を基に算出される筒内吸入酸素量と、筒内吸入ガスと燃料とが燃焼して生じる燃焼ガスの熱容量と、を少なくとも制御要素とし、
前記燃焼ガスの熱容量がエンジン運転状態に応じた目標値になるよう、前記排気ガス再循環装置により還流される排気ガス量を制御することを特徴とするディーゼルエンジンの制御装置。 - 請求項1に記載のディーゼルエンジンの制御装置において、
前記燃焼ガスの熱容量は、単位質量の燃料と理論空燃比で燃焼する吸入ガスが燃焼した結果生じる燃焼ガスの熱容量と、単位質量の燃料と理論空燃比で燃焼する吸入ガスが燃焼する前の未燃ガス状態での熱容量に吸入酸素量が増加するほど減少する傾向を有する係数を乗じて得られる付加的な熱容量とを加算して求められるものであるディーゼルエンジンの制御装置。 - 排気ガス中の酸素濃度を随時記憶し、
前記排気ガス再還流装置の排気ガス通路の長さに応じた還流遅れ時間だけ前に記憶された前記排気ガス中の酸素濃度を用いてエンジン制御を実施する請求項1または2に記載のディーゼルエンジンの制御装置。
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