JP3965804B2 - 発酵法によるキサントシンの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プリンヌクレオシドの一つであるキサントシンの製造法、および、その製造に用いられる新規微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
発酵法によるキサントシンの生産に関しては、アデニン要求株、またはグアニン要求株、またはそれにプリンアナログをはじめとする各種の薬剤耐性を付与したバチルス属の微生物(特公昭44-17994、特公昭44-20395、特公昭47-50396、特開昭50−126887、J.Gen.Appl.Microbiol.,18,19-27(1972)、Agric.Biol.Chem.,37,287(1973)、Appl.Environ.Microbiol.,34,337(1977))、ブレビバクテリウム属の微生物(特公昭44-20390、特公昭47-38198、特公昭49-39839)、セラチア属の微生物(特公昭44-20394)、およびシュードモナスやエシェリヒア属等の微生物(特公昭48-32349)等を用いる方法が知られている。
【0003】
このような変異株を取得するには、従来、紫外線照射やニトロソグアニジン(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理などの変異誘起処理を行い、適当な選択培地を用いて、目的とする変異株を取得するという方法が行われてきた。一方で、遺伝子工学技術を用いたプリンヌクレオシド生産株の育種もバチルス属の微生物(特開昭58−158197、特開昭58−175493、特開昭59−28470、特開昭60−156388、特開平1−27477、特開平1−174385、特開平3−58787、特開平3−164185、特開平5−84067、特開平5−192164)、およびブレビバクテリウム属の微生物(特開昭63−248394)で行われているが、キサントシンの生産性を高めた例はない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
発酵法によってキサントシンを製造するために好適な微生物を創製することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、特定の酵素の遺伝子を欠失させることにより、エシェリヒア属細菌にキサントシン生産能を付与することに成功し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、キサントシン・フォスフォリラーゼおよびグアノシンモノリン酸シンセターゼの活性が欠失し、キサントシン生産能を有する、エシェリヒア属に属する微生物(以下、本発明微生物ともいう)を提供する。
【0007】
本発明微生物においては、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の細胞内での活性が上昇し、および/またはプリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応が遮断されていることが好ましい。また、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の遺伝子の発現量が上昇することによって、および/またはプリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の調節が解除されることによって、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の細胞内での活性が上昇していることが好ましい。
【0008】
上記プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の調節が解除される手段は、好ましくはプリン・リプレッサーの機能の欠失である。
【0009】
上記プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素は、好ましくはホスホリボシルピロリン酸(PRPP)アミドトランスフェラーゼである。
【0010】
上記プリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応は、好ましくはサクシニル−アデノシンモノリン酸(AMP)シンターゼ、プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ、アデノシン・デアミナーゼ、6-フォスフォグルコン酸デヒドラーゼ、フォスフォグルコース・イソメラーゼ、アデニン・デアミナーゼ、キサントシン・フォスフォリラーゼ、グアノシンモノリン酸(GMP)シンセターゼから選ばれる酵素に触媒される反応である。
【0011】
また本発明は、本発明微生物を培地に培養し、キサントシンを生成蓄積せしめ、生成蓄積したキサントシンを回収することを特徴とする発酵法によるキサントシンの製造法を提供する。
【0012】
【発明の実施の形態】
(1)本発明微生物
本発明微生物は、キサントシン・フォスフォリラーゼおよびグアノシンモノリン酸シンセターゼの活性が欠失し、かつ、キサントシン生産能を有することを特徴とするエシェリヒア属に属する微生物である。
【0013】
本発明にいうエシェリヒア属に属する微生物の例としては、エシェリヒア・コリ(E.coli)等があげられる。E.coliを遺伝子工学的手法を用いて育種する場合には、E.coli K12株及びその誘導体を用いることができる。
【0014】
本発明にいうキサントシン生産能とは、キサントシンを培地中に生産蓄積する能力を意味する。また、キサントシン生産能を有するとは、そのエシェリヒア属に属する微生物が、E.coliの野生株例えばW3110株よりも多量にキサントシンを培地中に生産蓄積することを意味し、好ましくは、後記実施例1に記載した条件で培養して10mg/L以上、さらに好ましくは100mg/L以上のキサントシンを培地中に生産蓄積することを意味する。
【0015】
本発明にいうキサントシン・フォスフォリラーゼおよびグアノシンモノリン酸シンセターゼの活性の欠失とは、これらの酵素の活性が無いことだけでなく、キサントシン生産能を獲得ないし向上させるのに有効な程度にこれらの酵素の活性が低下していることも包含する。
【0016】
キサントシン・フォスフォリラーゼおよびグアノシンモノリン酸シンセターゼの活性を欠失させる方法としては、特に限定はなく、例えば、これらの酵素をコードする遺伝子に、これらの酵素の活性を欠失させる変異を生じさせる方法が挙げられる。
【0017】
遺伝子に変異を生じさせるには、部位特異的変異法(Kramer,W. and Frits,H.J., Methods in Enzymology, 154, 350(1987))、リコンビナントPCR法(PCR Technology, Stockton Press(1989))、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法がある。また、適当な制限酵素サイトにDNAの付加や欠失を入れる方法がある。また、相同組換え法(Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Habor Lab.(1972))を用いて染色体上の特定の遺伝子を破壊する方法もある。
【0018】
具体的には、これらの酵素の遺伝子の公知の塩基配列に基づいて、これらの酵素をコードするDNAを取得し、取得されたDNAにこれらの酵素の活性が欠失するような変異を導入し、変異を導入したDNAを相同組換えにより染色体DNAに組み込むことにより、これらの酵素の活性が欠失した微生物を得ることができる。
【0019】
キサントシンをキサンチンに分解するキサントシンフォスフォリラーゼおよびGMPシンセターゼの活性を欠失させることにより、キサントシン生産能を獲得ないし向上させることができる。
【0020】
なお、GMPシンセターゼの活性を欠失させるとグアニン要求株となるので、本発明微生物の生育には、培地中へのグアニンの添加が必要である。
【0021】
本発明微生物においては、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の細胞内での活性が上昇し、および/または、プリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応が遮断されていることが好ましい。プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の細胞内での活性を上昇させるには、例として、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の遺伝子の発現量を上昇させること、または、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の調節を解除すること、または、これらの組合せが挙げられる。
以下、これらの好ましい態様について説明する。
【0022】
(2)プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の細胞内での活性が上昇した微生物
エシェリヒア属に属する微生物におけるプリンヌクレオシド生合成に関与する全酵素と、同酵素が触媒する全反応はすでに明らかにされている(Escherichia coli and Salmonella CELLULAR AND MOLECULAR BIOLOGY second Edition vol. 1 and vol. 2 ASM PRESS WASHINGTON D.C.)。これら酵素のうち、律速段階となっている反応を触媒する酵素の酵素活性を上昇させることによって、キサントシン生産能を向上させることができる。そのような律速段階となっている反応を触媒する酵素は、たとえばPRPPアミドトランスフェラーゼ(PRPP amidotransferase)である。
【0023】
プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の酵素活性を上昇させる手段としては、酵素の遺伝子の発現量を上昇させることが挙げられる。遺伝子の発現量を上昇させる手段としては、遺伝子の調節領域の改良、遺伝子のコピー数の上昇などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
調節領域の改良とは、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることをいう。たとえばプロモーターに変異を導入することによってプロモーター強化をおこない下流にある遺伝子の転写量を増加させることができる。プロモーターに変異を導入する以外にも、lac,trp,tac,trc,PLその他の微生物内で機能するプロモーターを新たに導入してもよい。またはエンハンサーを新たに導入することによって遺伝子の転写量を増加させることができる。染色体DNAへのプロモーター等の遺伝子の導入については、例えば特開平1−215280号公報に記載されている。
【0024】
また、遺伝子のコピー数の上昇は、具体的には、遺伝子を多コピー型のベクターに接続して組換えDNAを作製し、同組換えDNAを微生物に保持させることによって得られる。ここでベクターとは、プラスミドやファージ等広く用いられているものを含むが、これら以外にも、トランスポゾン(Berg,D.E. and Berg,C.M., Bio/Technol., 1, 417(1983))やMuファージ(特開平2-109985)も含む。遺伝子を相同組換え用プラスミド等を用いた方法で染色体に組込んでコピー数を上昇させることも可能である。
【0025】
エシェリヒア属に属し、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の遺伝子の発現量を上昇した微生物の誘導に当たっては、主としてE.coliの既知の遺伝子情報に基づき、PCR(polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝子領域を増幅取得し育種に用いることができる。
【0026】
たとえばE.coli K12のW3110株(ATCC27325)の染色体DNAよりPCR法を用いてPRPPアミドトランスフェラーゼをコードする遺伝子であるpurFをクローニングする。この際使用する染色体DNAはE.coli由来であればどの菌株でもよい。purFはアデノシンモノリン酸(AMP)やグアノシンモノリン酸(GMP)でフィードバック阻害を受けるPRPPアミドトランスフェラーゼをコードする遺伝子を言い、遺伝的多形性などによる変異型も含む。なお、遺伝的多形性とは、遺伝子上の自然突然変異によりタンパク質のアミノ酸配列が一部変化している現象をいう。
【0027】
プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の細胞内での活性を上昇させる手段としては、酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、酵素そのものの活性を上昇させることも挙げられる。
【0028】
プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の酵素活性を上昇させる手段としては、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の調節を解除することも挙げられる。
【0029】
プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の調節とは、同酵素の活性を負に制御する仕組みをいい、たとえば生合成経路中間体または最終産物によるフィードバック阻害、アテニュエーション、転写抑制などをさす。微生物が製造したプリンヌクレオシドは、同調節を通じてプリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の活性を阻害し、または、同酵素をコードする遺伝子の発現を抑制する。したがって、微生物にキサントシンを生産させるためには同調節を解除することが望ましい。
【0030】
上記調節を受けるプリンヌクレオシド生合成に関与する酵素としては、AMPやGMPでフィードバック阻害を受けるPRPPアミドトランスフェラーゼがあげられる。そのほか、アデノシンジリン酸(ADP)によるフィードバック阻害を受けるPRPPシンセターゼ(PRPP synthetase)がある。またGMPによるフィードバック阻害をイノシンモノリン酸(IMP)デヒドロゲナーゼ(IMP dehydrogenase, GuaB)とGMPシンセターゼ(GuaA)が受けている。また、プリン・オペロン、guaBAは抑制を受けている。
【0031】
調節を解除する方法としては、酵素をコードする遺伝子またはその調節領域に変異を導入する方法がある。同変異としては、フィードバック阻害を解除する変異があり、これは、通常には、構造遺伝子内の変異である。また、同変異としては、アテニュエーションを解除する変異があり、これは、通常には、アテニュエーター内の変異である。さらに、同変異としては、抑制を解除する変異があり、これは、通常には、リプレッサーと呼ばれる調節タンパク質をコードする遺伝子の変異、またはオペレーター領域内の変異である。
【0032】
抑制を解除する変異としては、プリン・リプレッサーの機能を欠失させる、すなわちプリン・リプレッサーを不活化させる変異がある。同リプレッサーは、プリンヌクレオチドが多量に存在する条件下でプリンオペロンのオペレーター領域に結合し、結果として同オペロンの転写が抑制される。同リプレッサーの不活化は、抑制の解除につながる。
【0033】
遺伝子に変異を生じさせるには、部位特異的変異法(Kramer,W. and Frits,H.J., Methods in Enzymology, 154, 350(1987))、リコンビナントPCR法(PCR Technology, Stockton Press(1989))、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法がある。また遺伝子の機能を完全に不活化する目的の場合には適当な制限酵素サイトにDNAの付加や欠失を入れる方法がある。
【0034】
プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の調節が解除されたものを選択する場合、酵素の発現量を酵素活性を測定することによって調べるか、抗体を用いて調べることができる。また、酵素の調節が解除された変異株を取得する一つの方法として、8−アザアデニンや8−アザグアニンなどのプリンアナログを含む最小培地で生育する菌株を選択し、酵素の発現量や活性の変化を確認する方法がある。
【0035】
(3)プリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応を遮断した微生物
エシェリヒア属に属する微生物のプリンヌクレオシド生合成経路は明らかになっており、プリンヌクレオシド生合成に関与する全酵素と、同酵素が触媒する全反応はすでに明らかにされている(Escherichia coli and Salmonella CELLULAR AND MOLECULAR BIOLOGY second Edition vol. 1 and vol. 2 ASM PRESS WASHINGTON D.C.)。これらに加え、他の代謝産物にいたる反応のいくつかは明らかになっている。
【0036】
他の代謝産物にいたる反応が遮断された微生物は、同代謝産物を要求するようになる可能性がある。同代謝産物を要求するようになった微生物を培養するためには、培地に栄養物質として同代謝産物あるいはその中間体(前駆体)を添加する必要がある。したがって、遮断されるべき反応を決定する際には、培地に新たな同代謝産物を添加する必要が生じない反応を選択することが望ましい。
【0037】
また、他の代謝産物にいたる反応のうち、いかなるものを遮断してもつねにプリンヌクレオシドの生産能が向上するとはかぎらない。微生物がプリンヌクレオシドを生産する時期に、プリンヌクレオシド中間体あるいはプリンヌクレオシドを他の代謝産物に変換する方向の反応が進行している場合に、同反応を遮断することがプリンヌクレオシド生産性向上につながる可能性がある。
【0038】
プリンヌクレオシド生合成経路から分岐して他の代謝産物にいたる反応のうち、それを遮断することによって実際にプリンヌクレオシド生産性向上につながるものは、プリンヌクレオシド生合成経路図がすでに明らかになっているので、これに基づき予測される。
【0039】
プリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応を遮断する方法としては、その反応を触媒する酵素の活性を欠失させる方法があげられる。酵素の活性を欠失させるには、その酵素をコードする遺伝子を欠失させる方法や酵素を不活化させる方法があげられる。酵素を不活化させるには、その酵素をコードする遺伝子に変異を導入するか、あるいはその酵素を特異的に不活化する薬剤を添加する方法などがある。
【0040】
プリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応のうち、それを遮断することによって実際にキサントシン生産性向上につながるものとしては、サクシニル−AMPシンターゼ、プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ、アデノシン・デアミナーゼ、6-フォスフォグルコン酸デヒドラーゼ、フォスフォグルコース・イソメラーゼ、アデニン・デアミナーゼ、キサントシン・フォスフォリラーゼ、GMPシンセターゼから選ばれる酵素に触媒される反応があげられる。
【0041】
例えば、イノシンモノリン酸(IMP)からサクシニル-AMP(sAMP)への分岐およびキサントシンモノリン酸(XMP)からグアノシンモノリン酸(GMP)への分岐を遮断し、キサントシンからキサンチンへの転換を遮断すると、同遮断の結果、IMPはsAMPへ、XMPはGMPへ転換されることがなくなり、キサントシンからキサンチンへ転換されることがなくなる。そして、キサントシンが蓄積されることが予想される。これらの有効性を確認するためには目的に応じて取得した変異株を培養してキサントシンの生産性を見ればよい。
【0042】
後述の実施例では、E. coliにおいてサクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)を破壊してアデニン要求性を付与したとき、E. coliのアデニン要求株を生育させるのにアデニンないしはアデノシン等のAMP系物質の培地への添加が必要となった。しかし、これらの添加物質は、E. coliにおいてはただちにイノシンあるいはヒポキサンチンに転換され、AMP系物質の消失により、一定のところで生育が停止してしまう性質が見いだされた。そこでその生育を維持させる手段として、E.coliの代謝経路から判断してアデノシンからイノシンへの転換に関与するアデノシン・デアミナーゼあるいはアデニンからヒポキサンチンへの転換に関与するアデニン・デアミナーゼを不活化する必要性が予測された。このようにして、アデノシン・デアミナーゼあるいはアデニン・デアミナーゼの不活化による効果は確認され、イノシンの蓄積向上効果が観察され、従ってキサントシン生産における有効性が予測される。
【0043】
またプリンヌクレオシドを生産するのにグルコース等の炭素原料が使用されるが、使用する炭素原料や培養条件により、プリンヌクレオシド生合成にいたる糖代謝系に差違が生じることが知られている。それゆえ、プリンヌクレオシド生合成へと代謝系を有利に導くために、ペントースリン酸経路を優先させるように他への分岐を遮断することが考えられる。その手段として、6-フォスフォグルコン酸デヒドラーゼやフォスフォグルコース・イソメラーゼを不活化することを行ったところ、そのイノシン生産における有効性が確認され、従ってキサントシン生産における有効性が予測される。
【0044】
(4)キサントシンの製造法
キサントシン生産能を有する微生物を用いて発酵法によってキサントシンを製造する方法を以下説明する。
【0045】
使用するキサントシン生産用培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地でよい。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、ビタミンB1等のビタミン類、アデニンやRNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0046】
培養は好気的条件下で16〜72時間程度実施するのがよく、培養温度は30℃〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御する。なお、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0047】
発酵液からのキサントシンの採取は、通常、イオン交換樹脂法、沈殿法その他の公知の方法を組合せることにより実施できる。
【0048】
(5)キサントシン生産菌の具体例
まずエシェリヒア・コリ(E.coli) K12のW3110株(ATCC27325)の染色体DNAよりPCR法を用いてPRPPアミドトランスフェラーゼ(PRPP amidotransferase)をコードする遺伝子であるpurF、プリン・リプレッサー(purine repressor)をコードする遺伝子であるpurR、プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ(purine nucleoside phosphorylase)をコードする遺伝子であるdeoD、サクシニル−AMPシンターゼ(succinyl-AMP synthase)をコードする遺伝子であるpurA、アデノシン・デアミナーゼ(adenosine deaminase)をコードする遺伝子であるadd、6-フォスフォグルコン酸デヒドラーゼ(6-phosphogluconate grhydrase)をコードする遺伝子であるedd、フォスフォグルコース・イソメラーゼ(phophoglucose isomerase)をコードする遺伝子であるpgi、アデニン・デアミナーゼ(adenine deaminase)をコードする遺伝子であるyicP、キサントシン・フォスフォリラーゼ(xanthosine phosphorylase)をコードする遺伝子であるxapAおよびGMPシンセターゼ(GMP synthetase)をコードする遺伝子であるguaAをクローニングし、これらの遺伝子をそれぞれの目的に応じて変異させる。この際使用する染色体DNAはE.coli由来であればどの菌株由来でもよい。
【0049】
purFに導入する変異とは、purFを破壊するための変異と、PRPPアミドトランスフェラーゼのフィードバック阻害を解除するための変異である。purRに導入する変異とは、purRを破壊するための変異である。deoDに導入する変異とは、deoDを破壊するための変異である。purAに導入する変異とは、purAを破壊するための変異である。addに導入する変異とは、addを破壊するための変異である。eddに導入する変異とは、eddを破壊するための変異である。pgiに導入する変異とは、pgiを破壊するための変異である。yicPに導入する変異とは、yicPを破壊するための変異である。xapAに導入する変異とは、xapAを破壊するための変異である。guaAに導入する変異とは、guaAを破壊するための変異である。
【0050】
遺伝子に変異を生じさせるには、部位特異的変異法(Kramer,W. and Frits,H.J., Methods in Enzymology, 154, 350(1987))、リコンビナントPCR法(PCR Technology, Stockton Press(1989))、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法がある。また遺伝子の機能を完全に不活化する目的の場合には適当な制限酵素サイトにDNAの付加や欠失を入れる方法がある。
【0051】
次に、PRPPアミドトランスフェラーゼのフィードバック阻害を解除するための変異が導入されたpurFを組換えDNAとして適当な微生物に導入し、発現させることにより、フィードバック阻害が実質的に解除されたPRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)を保有する微生物を取得する。以上の方法で取得される組換えDNAとは、フィードバック阻害を解除したPRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)等の有用遺伝子をパッセンジャーとして、プラスミドやファージDNAのベクターに組込んだものをいう。その際、該有用遺伝子の発現を効率的に実施するために、lac,trp,tac,trc,PLその他の微生物内で機能するプロモーターを用いてもよい。
【0052】
なお、ここでいう組換えDNAには、該有用遺伝子をトランスポゾン(Berg,D.E. and Berg,C.M., Bio/Technol., 1, 417(1983))、Muファージ(特開平2-109985)または相同組換え用プラスミド等を用いた方法で染色体に組込んだものも含まれる。
【0053】
相同組換え用プラスミドとしては、温度感受性複製起点を有するプラスミドが使用される。温度感受性複製起点を有するプラスミドは、許容温度(permissive temperature)、例えば30℃付近では複製できるが、非許容温度(non-permissive temperature)、例えば37℃〜42℃では複製できない。温度感受性複製起点を有するプラスミドを用いた相同組換え法では、必要に応じて、許容温度でプラスミドを複製させたり、非許容温度でプラスミドを宿主から脱落させたりすることができる。後述の実施例では、相同組換え用プラスミドとして、pMAN997を使用したが、pMAN997はpMAN031(J.Bacteriol., 162, 1196(1985))とpUC19(宝酒造社製)のそれぞれVspI-HindIII断片を繋ぎ換えたものである(図1)。
【0054】
また相同組換え法(Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Habor Lab.(1972))を用いて染色体上の特定の遺伝子機能を不活化し、プリンヌクレオシドの生産能を向上させる。不活化される遺伝子とは、その不活化によってプリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の遺伝子の発現量が上昇するものである。具体的には、染色体上のプリン・リプレッサー遺伝子(purR)を破壊してPRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)を始めとするプリンヌクレオチド生合成遺伝子の発現抑制機構の解除を行う。
【0055】
さらに、プリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応を触媒する酵素をコードする遺伝子を破壊する。具体的には、プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ遺伝子(deoD)を破壊して、イノシン、キサントシンおよびグアノシンのヒポキサンチン、キサンチンおよびグアニンへの分解を抑制する。また、サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)を破壊して、アデニン要求性を付与する。さらに、アデノシン・デアミナーゼ遺伝子(add)を破壊してアデノシンからイノシンへの転換を抑制する。6-フォスフォグルコン酸デヒドラーゼ遺伝子(edd)を破壊して、糖がエントナー・ドゥドロフ(Entner-Doudoroff)経路で代謝されるのを抑制する。フォスフォグルコース・イソメラーゼ遺伝子(pgi)を破壊して、糖が解糖経路で代謝されるのを抑制し、ペントースリン酸経路への流入を計る。アデニン・デアミナーゼ遺伝子(yicP)を破壊し、アデニンからヒポキサンチンへの転換を抑制する。キサントシン・フォスフォリラーゼ遺伝子(xapA)を破壊して、キサントシンからキサンチンへの誘導分解を抑制するとともにイノシンやグアノシンのヒポキサンチンやグアニンへの分解を抑制する。GMPシンセターゼ遺伝子(guaA)を破壊してXMPからGMPへの転換を抑制する。もちろん、当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理して、目的の遺伝子の機能を不活化することも行われる。
【0056】
組換えDNAを有する微生物としては、該PRPPアミドトランスフェラーゼ等の目的の酵素をコードする遺伝子が発現するエシェリヒア属に属する微生物を用いる。
【0057】
また該PRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)の効率的活用のために他の有用遺伝子、例えばPRPPからIMP生合成に関わるpurF以外の遺伝子(purD,purT,purL,purM,purK,purE,purC,purB,purH)、IMPデヒドロゲナーゼ遺伝子(guaB)やPRPPシンセターゼ遺伝子(prs)等と組合せて利用するとよい。その際、これらの有用遺伝子は該PRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)と同じく、宿主の染色体上に存在しても、プラスミドやファージ上に存在してもよい。
【0058】
以上の方法で取得されるpurA(サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子)欠失、および/あるいはdeoD(プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ遺伝子)欠失、および/あるいはpurR(プリン・リプレッサー遺伝子)欠失、および/あるいはadd(アデノシン・デアミナーゼ遺伝子)欠失、および/あるいはedd(6-フォスフォグルコン酸デヒドラーゼ遺伝子)欠失、および/あるいはpgi(フォスフォグルコース・イソメラーゼ遺伝子)欠失、および/あるいはyicP(アデニン・デアミナーゼ遺伝子)欠失、および/あるいはxapA(キサントシン・フォスフォリラーゼ遺伝子)欠失、および/あるいはguaA(GMPシンセターゼ遺伝子)欠失を有する微生物、あるいは脱感作型PRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)を含む組換えDNAで形質転換された本微生物を培養し、培養液に目的のキサントシンを生成蓄積せしめ、これを採取する。
【0059】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0060】
【実施例1】
1)PRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)欠失株の取得
E.coli K12のW3110株(ATCC27325)の染色体DNAを鋳型として用い、遺伝子データバンク(GenBank Accession No.M26893)の情報に基づき作製された、CTCCTGCAGAACGAGGAAAAAGACGTATG(配列番号1)とCTCAAGCTTTCATCCTTCGTTATGCATTTCG(配列番号2)の塩基配列を有する29merと31merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、SD-ATGと翻訳終止コドンをカバーするpurF構造遺伝子領域の約1530bpの増幅断片をpCRTMIIベクター(Invitrogen社製)にクローン化した。本ベクターはPCR産物増幅断片をそのままクローニングすることができ、また、クローニングサイトの両近傍に制限酵素サイトとしてEcoRIサイトが存在する。またPCR用プライマーにはPstIサイトとHindIIIサイトがそれぞれデザインされている。
【0061】
クローン化された1530bpのpurF断片の5'側から約880bpの位置にBglIIサイトが1ヶ所あるが、pCRTMIIベクターそのものにもBglIIサイトが1ヶ所あるので、プラスミドをBglIIで部分消化し、T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化した後に、T4 DNAリガーゼで連結した。このライゲイション液でE.coli HB101のコンピテント細胞(competent cell)を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB(トリプトン 1%,イーストエキストラクト 0.5%,NaCl 0.1%,グルコース 0.1%,pH7)寒天プレートに生育する形質転換体を得た。18クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からEcoRI消化で約1550bpの断片が得られ、かつBglIIで本断片が切断されないプラスミドDNA(pCRTMIIpurF'#14)を選択した。本プラスミドDNAが有するpurFはBglIIサイトでフレームシフトが生じることになり、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0062】
次に、pCRTMIIpurF'#14をEcoRI消化し、purFを含む約1.6Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(図1に示されるように、pMAN031(J.Bacteriol., 162, 1196(1985))とpUC10(宝酒造社製)のそれぞれのVspI-HindIII断片を繋ぎ換えたもの)のEcoRIサイトに挿入し、プラスミドpMAN997purF'#14を得た。プラスミドpMAN997purF'#14でE.coli W3110(野生株)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。さらにアンピシリン感受性のクローンの中から最小培地(1L当たりNa2HPO4 6.8g, KH2PO4 3g, NaCl 0.5g, NH4Cl 1g, MgSO4・7H2O 0.5g, CaCl2・2H2O 15mg, チアミンHCl 2mg,グルコース 0.2g)に生育せず、ヒポキサンチン 50mg/L添加最小培地には生育するクローンを選択した。さらにはこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRによりpurFを含む約1.5kb断片を増幅させ、BglIIで切断されないことを確認した。以上を満足するクローンをpurF欠失株とし、ここではF-2-51株とした。
【0063】
2)サクシニル−AMPシンターゼ遺伝子(purA)欠失株の取得
W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、遺伝子データバンク(GenBank Accession No.J04199)の情報に基づき作製された、CTCGAGCTCATGGGTAACAACGTCGTCGTAC(配列番号3)とCTCGTCGACTTACGCGTCGAACGGGTCGCGC(配列番号4)の塩基配列を有する31merと31merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))で行い、ATGと翻訳終止コドンをカバーするpurA構造遺伝子領域の約1300bpの増幅断片をpUC18ベクター(宝酒造社製)のSacIサイトとSalIサイトの間にクローン化した。なお、PCR用プライマーにはSacIサイトとSalIサイトがそれぞれデザインされている。クローン化されたpurA断片の約1300bpの5'側から約520bpと710bpの位置にそれぞれHpaIサイトおよびSnaBIサイトが1ヶ所あるのでプラスミドをHpaIおよびSnaBIで消化し、約190bp断片を除去したものを得る目的でT4 DNAリガーゼで連結した。このライゲイション液でE.coli JM109のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。18クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からFspIでは切断せず、SacIおよびSalIでの切断で約1100bpの断片が得られるプラスミドDNA(pUC18purA'#1)を選択した。本プラスミドDNAが有するpurAはHpaIサイトおよびSnaBIサイトの間で欠失が生じることになり、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0064】
次に、pUC18purA'#1をSacIとSalIとで消化し、purAを含む約1.1Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)のSacIサイトとSalIサイトの間に挿入し、プラスミドpMAN997purA'#1を得た。プラスミドpMAN997purA'#1でF-2-51株(purF-)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。さらにアンピシリン感受性のクローンの中からヒポキサンチン 50mg/L添加最小培地に生育せず、アデニン 50mg/L添加最小培地には生育するクローンを選択した。さらにはこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRによりpurA約1.1kb断片を増幅させ、野生型(約1.3kb)よりサイズが小さいこと、およびFspIで切断されないことを確認した。以上を満足するクローンをpurA欠失株とし、ここではFA-31株とした。
【0065】
3)プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ遺伝子(deoD)欠失株の取得
W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、遺伝子データバンク(E.coli Gene Bank)において「deoD」をキーワードにして検索される情報に基づいて作製された、CTCGTCGACGCGGGTCTGGAACTGTTCGAC(配列番号5)とCTCGCATGCCCGTGCTTTACCAAAGCGAATC(配列番号6)の塩基配列を有する30merと31merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、SD-ATGと翻訳終止コドンをカバーするdeoD構造遺伝子領域を含む約1350bpの増幅断片をpCRTMIIベクター(Invitrogen社製)にクローン化した。本ベクターにはクローニングサイトの両近傍に制限酵素サイトとしてEcoRIサイトが存在する。またPCR用プライマーにはSalIサイトとSphIサイトがそれぞれデザインされている。クローン化されたdeoD断片の約1350bpの5’側から約680bpの位置にHpaIサイトが1ヶ所あるのでプラスミドをHpaIで消化し、消化されたプラスミドと10merのClaIリンカーとを混合してT4 DNAリガーゼ反応を行った。この結果、HpaIサイトにClaIサイトが挿入された。このライゲイション液でE.coli HB101のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。16クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からHpaIでは切断されず、ClaIで切断されるプラスミドDNA(pCRTMIIdeoD'#16)を選択した。本プラスミドDNAが有するdeoDはHpaIサイトでフレームシフトが生じることになり、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0066】
次に、pCRTMIIdeoD'#16をEcoRI消化し、deoDを含む約1.35Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)のEcoRIサイトに挿入し、プラスミドpMAN997deoD'#16を得た。プラスミドpMAN997deoD'#16でFA-31株(purF-,purA-)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。さらにアンピシリン感受性のクローンをイノシン 1g/L添加LB培地に生育させ、これらの培養液を薄層クロマトグラムにより分析して、イノシンがヒポキサンチンに分解していないクローンを選択した。さらにはこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRによりdeoDを含む約1.35kb断片を増幅させ、ClaIで切断されるがHpaIで切断されないことを確認した。以上を満足するクローンをdeoD欠失株とし、FA-31株(purF-,purA-)由来のものをFAD-25株とした。
【0067】
4)プリン・リプレッサー遺伝子(purR)欠失株の取得
W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、遺伝子データバンク(E.coli Gene Bank)において「purR」をキーワードにして検索される情報に基づいて作製された、CTCGTCGACGAAAGTAGAAGCGTCATCAG(配列番号7)とCTCGCATGCTTAACGACGATAGTCGCGG(配列番号8)の29merと28merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、ATGと翻訳終止コドンをカバーするpurR構造遺伝子領域およびATGの5'上流域約800bpを含む約1.8kbの増幅断片をpUC19ベクター(宝酒造社製)のSalIサイトとSphIサイトの間にクローニングした。PCR用プライマーにはSalIサイトとSphIサイトがそれぞれデザインされており、このサイトがクローニングに利用された。クローン化されたpurR断片の約1.8kbの5’側から約810bpの位置にPmaCIサイト(purR構造遺伝子領域でのN末端近傍)が1ヶ所あるのでプラスミドをPmaCIで消化した。消化されたプラスミドと8merのBglIIリンカーを混合してT4 DNAリガーゼ反応を行った。この結果、PmaCIサイトにBglIIサイトが挿入された。このライゲイション液でE.coli JM109のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。10クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からPmaCIでは切断されず、BglIIで切断されるプラスミドDNA(pUC19purR'#2)を選択した。本プラスミドDNAが有するpurRはPmaCIサイトでフレームシフトが生じることになり、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0068】
次に、pUC19purR'#2をSacIとSphIで消化し、purRを含む約1.8Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)のSacIサイトとSphIサイトの間に挿入し、プラスミドpMAN997purR'#2を得た。プラスミドpMAN997purR'#2でFAD-25株(purF-,purA-,deoD-)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。さらにアンピシリン感受性のクローンの中から10クローンを適当に選び、これらの染色体DNAからPCRによりpurRを含む約1.8kb断片を増幅させ、BglIIで切断されるがPmaCIで切断されないクローンを選択した。これらのクローンをpurR欠失株とし、FAD-25株(purF-,purA-,deoD-)由来のものをFADR-8株とした。なお、purRが破壊された株では、PRPPアミドトランスフェラーゼ活性がpurR非破壊株に比べて増大していることが、deoDおよびpurRが欠失したpurF+株や、purA、deoDおよびpurRが欠失したpurF+株を用いて確認された。PRPPアミドトランスフェラーゼ活性の測定はL.J.Messengerら(J.Biol.Chem., 254, 3382(1979))の方法に従って行った。
【0069】
5)アデノシン・デアミナーゼ遺伝子(add)欠失株の取得
W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、遺伝子データバンク(E.coli Gene Bank)において「add」をキーワードにして検索される情報に基づいて作製された、CTCGTCGACGGCTGGATGCCTTACGCATC(配列番号9)とCTCGCATGCAGTCAGCACGGTATATCGTG(配列番号10)の塩基配列を有する29merと29merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、ATGと翻訳終止コドンをカバーするadd構造遺伝子領域およびATGの5'上流域約420bpおよび翻訳終止コドンの下流域約370bpを含む約1.8kbの増幅断片をpUC19ベクター(宝酒造社製)のSalIサイトとSphIサイトの間にクローニングした。PCR用プライマーにはSalIサイトとSphIサイトがそれぞれデザインされており、このサイトをクローニングに利用した。クローン化されたadd断片の約1.8kbの5'側から約880bpの位置にStuIサイトが1ヶ所あるのでプラスミドをStuIで消化した。消化されたプラスミドと8merのBglIIリンカーとを混合し、T4 DNAリガーゼ反応を行った。この結果、StuIサイトにBglIIサイトが挿入された。このライゲイション液でE.coli JM109のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。10クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からStuIでは切断されず、BglIIで切断されるプラスミドDNA(pUC19add'#1)を選択した。本プラスミドDNAが有するaddはStuIサイトでフレームシフトが生じることになり、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0070】
次に、pUC19add'#1をSacIとSphIで消化し、addを含む約1.8Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)のSacIサイトとSphIサイトの間に挿入し、プラスミドpMAN997add'#1を得た。プラスミドpMAN997add'#1でFADR-8株(purF-,purA-,deoD-,purR-)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。さらにアンピシリン感受性のクローンをアデノシン1.5g/L添加LB培地に生育させ、これらの培養液を薄層クロマトグラムにより分析して、アデノシンがイノシンに転換していないクローンを選択した。さらにこれらの目的クローンの染色体DNAからPCRによりaddを含む約1.8kb断片を増幅させ、BglIIで切断されるがStuIで切断されないことを確認した。これらのクローンをadd欠失株とし、FADR-8株(purF-,purA-,deoD-,purR-)由来のものをFADRadd-8-3株とした。
【0071】
6)GMPシンセターゼ遺伝子(guaA)欠失株の取得
W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、遺伝子データバンク(E.coli Gene Bank)において「guaA」をキーワードにして検索される情報に基づいて作製された、CTCGCATGCAGGATATTGCCCATGCTACGTATCG(配列番号11)とCTCAAGCTTCAGGGTCAAATCATTCCCAC(配列番号12)の塩基配列を有する34merと29merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、guaBAを含む約3.2kbをpUC18にクローン化した。PCR用プライマーにはSphIサイトとHindIIIサイトがそれぞれデザインされている。次に本クローンをPstI処理し、クローン化guaBA断片の5'側から約850bpの位置にあるPstIサイトとpUC18上のPstIサイトによって切り出される約850bp断片を除去したプラスミドを調製した。本プラスミド上に搭載されているguaBA領域はATGと翻訳終止コドンをカバーするguaA構造遺伝子領域およびATGの5'上流域約700bpおよび翻訳終止コドンの下流域約10bpを含む約2.3 kbである。このguaA断片の約2.3kbの5'側から約950bpと1250bpの位置にSphIサイトが2ヶ所あるのでプラスミドをSphIで消化した。約300bp断片を除去したプラスミドDNA断片のセルフライゲイションをT4 DNAリガーゼで行った。このライゲイション液でE.coli JM109のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。10クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からSphI消化で300bpの切断断片が生じず、PstIとHindIIIでの消化で約2.0kb断片が生じるプラスミドDNA(pUC18guaA'#1)を選択した。本プラスミドDNAが有するguaAはSphIサイトでフレームシフトが生じることになり、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0072】
次に、pUC18guaA'#1をPstIとHindIIIで消化し、guaAを含む約2.0Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)のPstIサイトとHindIIIサイトの間に挿入し、プラスミドpMAN997guaA'#1を得た。プラスミドpMAN997guaA'#1でFADRadd-8-3株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。これらのクローンの染色体DNAから、先に示したPCRプライマーを用いたPCRによりguaBA断片を増幅させ、約2.9kb断片が生じるクローンをguaA欠失株とし、FADRadd-8-3株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-)由来のものをFADRaddguaA株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,guaA-)とした。
【0073】
7)脱感作型PRPPアミドトランスフェラーゼ遺伝子(purF)の作製
1)でpCRTMIIベクター(Invitrogen社製)にクローン化した約1530bpのpurFを搭載したプラスミドよりPstIとHindIIIでの消化によりpurF断片を切り出し、変異導入用プラスミドpKF18(宝酒造社製)のマルチクローニングサイトのPstIサイトとHindIIIサイトの間に挿入し直し、目的のクローンを得た(pKFpurF)。G.Zhouら(J.Biol.Chem., 269, 6784(1994))により、PRPPアミドトランスフェラーゼ(PurF)の326番目のLys(K)をGln(Q)に、さらに410番目のPro(P)をTrp(W)に変異したものがいずれもGMPおよびAMPのフィードバック阻害に対して脱感作されていることが示されている。そこで、PRPPアミドトランスフェラーゼ(PurF)の326番目のLys(K)をGln(Q)に、410番目のPro(P)をTrp(W)に変異できるような遺伝子置換を行うために以下の合成DNAプライマーを作製し、Site-directed Mutagenesis System Mutan-Super Express Km(宝酒造社製)のプロトコールに従って、pKFpurFに部位特異的変異を導入した。
【0074】
【0075】
変異導入操作後、得られた形質転換体のそれぞれ6クローンずつを無作為にピックアップし、プラスミドを調製し、変異導入個所周辺の塩基配列を解析した結果、目的のものが得られたことが確認された。得られたプラスミドはそれぞれpKFpurFKQおよびPKFpurFPWとした。さらにpKFpurFKQにP410W(410Pro→Trp)の変異を同じ方法で導入し、二つの変異を同時に持つ変異型プラスミドpKFpurFKQPWも作製した。また本pKFpurFKQ、pKFpurFPW、およびpKFpurFKQPWはpKF18由来のlacp/o(ラクトースオペロンのプロモーター)の下流に変異型(脱感作型)のpurFが挿入されており、本プロモーターの支配下にpurFが発現する。
【0076】
またこれらのプラスミドでE.coli JM109を形質転換した組換え体をLB液体培地で8時間培養した後に菌体を集め、粗酵素抽出液を調製した。これらのPRPPアミドトランスフェラーゼ活性およびAMPやGMPによる阻害度の測定をL.J.Messengerら(J.Biol.Chem., 254, 3382(1979))の方法に従って行った。その結果を表1に示した。
【0077】
【表1】
【0078】
8)変異型purFプラスミド導入株のプリンヌクレオシド生産評価
4)、5)および6)で作製したFADR-8株(purF-,purA-,deoD-,purR-)、FADRadd-8-3株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-)およびFADRaddguaA株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,guaA-)にpKFpurFKQを導入した形質転換体を作製し、これらの株のプリンヌクレオシド生産能を評価した。
【0079】
以下に、プリンヌクレオシド生産能の評価のための、プリンヌクレオシド生産用の基本培地および培養方法ならびに分析方法を示す。
【0080】
1.基本培地:MS培地
最終濃度
グルコース 40g/L(別殺菌)
(NH4)2SO4 16g/L
KH2PO4 1g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
FeSO4・7H2O 0.01g/L
MnSO4・4H2O 0.01g/L
イーストエキストラクト(YE) 2g/L
CaCO3 30g/L(別殺菌)
【0081】
2.培養方法 (坂口フラスコ)
リフレッシュ(refresh)培養;
保存状態の菌を接種
LB寒天培地(必要に応じて薬剤添加)
37℃、一晩培養
種(seed)培養;
リフレッシュ培養した菌を接種
LB液体培地(必要に応じて薬剤添加)
37℃、一晩培養
主(main)培養;
種培養液体培地から2%接種
MS培地(必要に応じてアデニン、グアニン、薬剤添加)
37℃、20ml/500ml容坂口フラスコ
【0082】
3.分析方法
培養液500μlを経時的にサンプリングし、15,000rpm、5min間遠心し、その上清液をH2Oにて4倍希釈後、HPLC分析する。特記しない限り、培養3日後の培地当たりのプリンヌクレオシド蓄積量として評価する。
【0083】
分析条件:
カラム: Asahipak GS-220 (7.6mmID×500mmL)
緩衝液: 0.2M NaH2PO4(pH3.98)リン酸にてpH調整
温度: 55℃
流速: 1.5ml/min
検出: UV254nm
保持時間 (min)
イノシン 16.35
ヒポキサンチン 19.22
キサントシン 20.04
キサンチン 24.03
グアノシン 20.82
グアニン 23.50
アデニン 24.90
アデノシン 26.04
【0084】
プリンヌクレオシド生産能の評価結果を表2に示す。MS培地に表2に示した量でアデニンとグアニンが添加されている。guaA欠失によってキサントシンの生成は見られず、わずかなキサンチンの生成が認められた。deoD欠失にもかかわらず、キサントシンがキサンチンに分解されるものと考えられる。
【0085】
【表2】
【0086】
【実施例2】
1)6-フォスフォグルコン酸デヒドラーゼ遺伝子(edd)欠失株の取得
W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、遺伝子データバンク(E.coli Gene Bank)において「edd」をキーワードにして検索される情報に基づいて作製された、CTCGAATTCGGATATCTGGAAGAAGAGGG(配列番号15)とCTCAAGCTTGGAATAGTCCCTTCGGTAGC(配列番号16)の塩基配列を有する29merと29merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、ATGと翻訳終止コドンをカバーするedd構造遺伝子領域およびATGの5'上流域約810bpおよび翻訳終止コドンの下流域約360bpを含む約3.0kbの増幅断片をそのままpCRTMIIベクター(Invitrogen社製)にクローン化した。本ベクターはPCR産物増幅断片をそのままクローニングすることができ、またクローニングサイトの両近傍に制限酵素サイトとしてEcoRIサイトが存在する。またPCR用プライマーにはBamHIサイトとHindIIIサイトがそれぞれデザインされている。クローン化されたedd断片の約3.0kbの5'側から約660bpと1900bpの位置にStuIサイトが2ヶ所あるのでプラスミドをStuIで消化した。約1.25kbのStuI断片を除去したベクター側のセルフライゲイションをT4 DNAリガーゼで行った。このライゲイション液でE.coli HB101のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。10クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からStuIでは1.25kbの断片が切りだされないプラスミドDNA(pCRTMIIedd'#1)を選択した。本プラスミドDNAが有するeddはプロモーター領域を含むタンパク質コード領域が除去されており、酵素が生成しなくなると予測される(図2)。
【0087】
次に、pCRTMIIedd'#1をEcoRI消化し、eddの一部とその近傍を含む約1.75Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)のEcoRIサイトに挿入し、プラスミドpMAN997edd'#1を得た。プラスミドpMAN997edd'#1でFADRadd-8-3株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。これらのクローンの染色体DNAから、先に示したPCRプライマーを用いたPCRによりedd領域を増幅させ、増幅断片サイズが野生型の約3.0kbではなく、欠失型の約1.75kbであるクローンを選択した。これらのクローンをedd欠失株とし、FADRaddedd株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-)とした。
【0088】
2)アデニン・デアミナーゼ遺伝子(yicP)欠失株の取得
遺伝子データバンク(E.coli Gene Bank)において、Bacillus subtilis由来のアデニン・デアミナーゼと相同性の高いORF(open reading frame,構造遺伝子)として、yicPが登録されている。そこで、W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、「yicP」をキーワードにして検索される情報に基づいて作製された、CTCCTGCAGCGACGTTTTCTTTTATGACA(配列番号17)とCTCAAGCTTCGTAACTGGTGACTTTTGCC(配列番号18)の塩基配列を有する29merと29merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、ATGと翻訳終止コドンをカバーするyicP構造遺伝子領域およびATGの5'上流域約50bpおよび翻訳終止コドンの下流域約40bpを含む約1.9kb断片を増幅した。またPCR用プライマーにはPstIサイトとHindIIIサイトがそれぞれデザインされている。このPCR産物をPstIとHindIIIで切断後、pUC18ベクター(宝酒造社製)のPstIサイトとHindIIIサイトの間にクローン化した。クローン化されたyicP断片の約1.9kbの5’側から約540bpと590bpの位置にHapIサイトとEcoRVサイトがそれぞれ1ヶ所あるのでプラスミドをHapIとEcoRVで消化した後、HapI-EcoRV切断断片の47bpを除去したDNAのセルフライゲイションをT4 DNAリガーゼで行った。このライゲイション液でE.coli JM109のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。10クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からHapIあるいはEcoRV消化で切断されないプラスミドDNA(pUC18yicP'#1)を選択した。本プラスミドDNAが有するyicPはHapI-EcoRVサイト間の47bpを欠失することでフレームシフトが生じることになり、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0089】
次に、pUC18yicP'#1をPstIとHindIIIで消化し、yicP構造遺伝子を含む約1.9Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)のPstIサイトとHindIIIサイトの間に挿入し、プラスミドpMAN997yicP'#1を得た。プラスミドpMAN997yicP'#1でFADRaddedd株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。これらのクローンの染色体DNAから先に示したPCRプライマーを用いたPCRによりyicP領域を増幅させ、増幅断片がHapIあるいはEcoRVで切断されないクローンを選択した。またこれらクローンではアデニン・デアミナーゼ活性が検出されないことを確認した。アデニン・デアミナーゼ活性はPER NYGAARDら(J.Bacteriol.,178,846-853(1996))の方法に従って測定した。これらのクローンをyicP欠失株とし、FADRaddeddyicP株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-)とした。
【0090】
3)フォスフォグルコース・イソメラーゼ遺伝子(pgi)欠失株の取得
W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、遺伝子データバンク(E.coli Gene Bank)において「pgi」をキーワードにして検索される情報に基づいて作製された、CTCGTCGACTCCATTTTCAGCCTTGGCAC(配列番号19)とCTCGCATGCGTCGCATCAGGCATCGGTTG(配列番号20)の塩基配列を有する29merと29merの両端プライマーによるPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、ATGと翻訳終止コドンをカバーするpgi構造遺伝子領域を含む約2.2kbの増幅断片をpUC18ベクター(宝酒造社製)のSalIサイトとSphIサイトの間にクローン化した。またPCR用プライマーにはSalIサイトとSphIサイトがそれぞれデザインされている。クローン化されたpgi断片の約2.2kbの5'側から約1170bpと1660bpの位置にBssHIIサイトとMluIサイトがそれぞれ1ヶ所あるのでプラスミドをBssHIIとMluIで消化した後、T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化した。BssHIIとMluI間の約500bpの断片を除去したベクター側のセルフライゲイションをT4 DNAリガーゼで行った。このライゲイション液でE.coli JM109のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。10クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からSalI-SphI処理で約1.7kbの断片が切りだされるプラスミドDNA(pUC18pgi'#1)を選択した。本プラスミドDNAが有するpgiはBssHIIサイトとMluIサイトの間で欠失が生じることになり、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0091】
次に、pUC18pgi'#1をSalIとSphIで消化し、pgiを含む約1.7Kbの断片を調製した。この断片を温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)のSalIサイトとSphIサイトの間に挿入し、プラスミドpMAN997pgi'#1を得た。プラスミドpMAN997pgi'#1でFADRaddeddyicP株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-)を30℃で形質転換し、それぞれ得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。これらのクローンの染色体DNAから先に示したPCRプライマーを用いたPCRによりpgi領域を増幅させ、増幅断片サイズが野生型の約2.2kbではなく、欠失型の約1.7kbであるクローンを選択した。これらのクローンをpgi欠失株とし、FADRaddeddyicPpgi株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-,pgi-)とした。
【0092】
4)キサントシン・フォスフォリラーゼ遺伝子(xapA)欠失株の取得
遺伝子データバンク(E.coli Gene Bank)において「xapA」をキーワードにして検索される情報に基づいて作製された、4種類のプライマーによるCross-over PCR法により、一段階操作にて変異不活化遺伝子を構築した。使用したプライマーを以下に示す。
【0093】
【0094】
まず、W3110株の染色体DNAを鋳型として用い、N-out(29mer)とN-in(39mer)およびC-in(39mer)とC-out(29mer)の両端プライマーにより、それぞれPCR法(94℃,30sec; 55℃,1min; 72℃,2min; 30サイクル; Gene Amp PCR System Model9600(パーキンエルマー社製))を行い、2つのPCR産物(ともに約850bp断片)を得、次に2つのPCR産物を混合して、再度N-outとC-outを両端プライマーとしてPCRを行い、xapA構造遺伝子領域を含む遺伝子領域が約2.4kb断片(野生型のサイズ)から約1.7kb断片に短縮した遺伝子断片を増幅した。またN-outとC-outのPCR用プライマーにはBamHIサイトとHindIIIサイトがそれぞれデザインされている。このPCR産物をBamHIとHindIIIで切断後、この断片と温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用ベクターであるpMAN997(上述)をBamHIとHindIIIで切断したプラスミドとのライゲイションをT4 DNAリガーゼで行った。このライゲイション液でE.coli JM109のコンピテント細胞を形質転換し、アンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。10クローンの形質転換体からプラスミドDNAを調製し、この中からBamHIとHindIIIでの消化で約1.7kbの切断断片が生じるプラスミドDNA(pMAN997xapA'#1)を選択した。本プラスミドDNAが有するxapAは、構造遺伝子の約700bpを欠失することで、コードされる酵素は機能を持たなくなると予測される(図2)。
【0095】
このプラスミドpMAN997xapA'#1でFADRaddeddyicPpgi株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-,pgi-)を30℃で形質転換し、それぞれ得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。これらのクローンの染色体DNAから先に示したN-outとC-outのPCRプライマーを用いたPCRによりxapA領域を増幅させ、増幅断片サイズが約1.7kbのクローンを選択した。これらのクローンをxapA欠失株とし、FADRaddeddyicPpgixapA株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-,pgi-,xapA-)とした。このxapA欠失株はキサントシンの添加培養によって、培地中にキサンチンの生成が認められず、またキサントシン・フォスフォリラーゼが誘導されていないことも確認できた。キサントシン・フォスフォリラーゼ活性はK.Hammer-Jespersenら(Molec.Gen.Genet.,179,341-348(1980))の方法に従って測定した。
【0096】
5)GMPシンセターゼ遺伝子(guaA)欠失株の取得
実施例1の6)で調製した温度感受性複製起点(tsori)を有する相同組換え用プラスミドpMAN997guaA'#1でFADRaddeddyicPpgixapA株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-,pgi-,xapA-)を30℃で形質転換し、得られたコロニーの複数個をアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した。次にこれらの培養菌体をシングルコロニーが得られるようにアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに塗布し、42℃で生育するコロニーを得た。さらにもう一度、42℃で生育するシングルコロニーを得る操作を繰り返し、相同組換えによりプラスミド全体が染色体に組込まれたクローンを選択した。本クローンがプラスミドを細胞質液中に持たないことを確認した。次にこのクローンの複数個をLB寒天プレートに塗布し、30℃で一晩培養した後に、LB液体培地(3ml/試験管)に接種し、42℃で3〜4時間、振とう培養した。これをシングルコロニーが得られるように適当に希釈(10-5〜10-6程度)し、LB寒天プレートに塗布し、42℃で一晩培養し、コロニーを得た。出現したコロニーの中から無作為に100コロニーをピックアップしてそれぞれをLB寒天プレートとアンピシリン25μg/mlを含むLB寒天プレートに生育させ、LB寒天プレートにのみ生育するアンピシリン感受性のクローンを選んだ。これらのクローンの染色体DNAから、先に示したPCRプライマーを用いたPCRによりguaBA断片を増幅させ、約2.9kb断片が生じるクローンをguaA欠失株とし、FADRaddeddyicPpgixapA株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-,pgi-,xapA-)由来のものをFADRaddeddyicPpgixapAguaA株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-,pgi-,xapA-,guaA-)とした。
【0097】
6)脱感作型purFプラスミド導入によるプリンヌクレオシド生産評価
4)および5)で作製したFADRaddeddyicPpgixapA株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-,pgi-,xapA-)およびFADRaddeddyicPpgixapAguaA株(purF-,purA-,deoD-,purR-,add-,edd-,yicP-,pgi-,xapA-,guaA-)にそれぞれpKFpurFKQを導入した形質転換体を作製し、これらの株のプリンヌクレオシド生産能を評価した。プリンヌクレオシド生産用の基本培地および培養方法ならびに分析方法は実施例1と同じであるが、MS培地中のイーストエキストラクト量(基本は0.2%)を0.8%と増量した培地も使用した。イーストエキストラクト(YE)量と添加したアデニンとグアニン量は表3に示してある。1)〜3)で作製した宿主株も対照区として評価した。
【0098】
プリンヌクレオシド生産能の評価結果を表3に示す。xapAとguaAを欠失することにより、イノシン生産は減少するもののキサントシンの顕著な蓄積が認められた。またキサンチンの生成はほとんど認められなかった。キサントシン・フォスフォリラーゼはキサントシンの存在下で誘導されるキサントシン分解酵素であるので、guaAを欠失しても生成したキサントシンがキサンチンに速やかに分解される。従って、xapA欠失でない場合はキサントシンとして蓄積せずにキサンチンとして蓄積すると考えられる(表2)。
【0099】
以上の結果からpurA欠失、deoD欠失、purR欠失、add欠失、edd欠失、yicP欠失、pgi欠失、xapA欠失およびpurFの脱感作はイノシン等のプリンヌクレオシドの生産性を増大する因子であり、キサントシンそのものの生産性を付与し、増大する因子としてはxapA欠失が必要条件であり、またguaA欠失も有効な要件と考えられる。
【0100】
【表3】
【0101】
【発明の効果】
本発明によれば、キサントシンを発酵法により生産するために好適なキサントシン生産菌を創成することができる。
【0102】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 pMAN997の構築を示す。
【図2】相同組換え用遺伝子の構造を示す。図中の数字は、取得された断片の長さ(bp)および5'側からの位置を示す。
Claims (1)
- キサントシン生産能を有する、エシェリヒア属に属する微生物を培地に培養し、キサントシンを生成蓄積せしめ、生成蓄積したキサントシンを回収することを特徴とする発酵法によるキサントシンの製造法であって、前記微生物は、キサントシン・フォスフォリラーゼおよびグアノシンモノリン酸シンセターゼの活性が欠失し、かつ、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の遺伝子の発現量が上昇することによって、および、プリン・リプレッサーの機能の欠失により、プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の調節が解除されることによって、前記プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素の細胞内での活性が上昇し、かつ、プリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応が遮断されている微生物であり、前記プリンヌクレオシド生合成に関与する酵素はホスホリボシルピロリン酸アミドトランスフェラーゼを含み、前記プリンヌクレオシド生合成から分岐して他の代謝産物にいたる反応は、サクシニル−アデノシンモノリン酸シンターゼ、プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ、アデノシン・デアミナーゼ、6 - フォスフォグルコン酸デヒドラーゼ、アデニン・デアミナーゼ及びフォスフォグルコース・イソメラーゼに触媒される反応を含む前記製造法。
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