JP3963040B2 - 脱酸素剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は脱酸素剤に関し、詳しくは、水中の溶存酸素を効率よく除去することができ、特にボイラ給水中の溶存酸素を除去することによりボイラシステムの腐食防止に有効な脱酸素剤に関する。
【0002】
【従来の技術及び先行技術】
ボイラ給水に含まれている溶存酸素は、ボイラ本体、ボイラ本体の前段に配置される熱交換器やエコノマイザ、ボイラ本体の後段に配置される蒸気・復水系配管などのボイラシステムの腐食の原因となる。従って、これらボイラシステムの腐食を防止するためには、ボイラ給水を脱酸素処理して、ボイラ給水中の溶存酸素を除去する必要がある。
【0003】
従来、この脱酸素処理としては、化学的処理或いは物理的処理が実施されており、そのうち、化学的処理法としては例えばヒドラジン(N2H4)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)又はヒドロキシルアミン類といった脱酸素剤をボイラ給水に添加する方法が広く採用されてきた。
【0004】
しかしながら、上記従来の脱酸素剤のうち、ヒドラジンは安全性への疑いがあり、その取り扱いが問題視されている。
【0005】
亜硫酸ナトリウムは酸素との反応が速すぎるため、ボイラ給水に添加する前に、これを溶解タンク内で水に溶解して貯蔵している間に、空気中の酸素と反応して有機成分濃度が低下し、このため十分な溶存酸素の除去効果を得られない場合がある。しかも、亜硫酸ナトリウムで処理したボイラ給水には、亜硫酸ナトリウムと酸素の反応生成物の硫酸イオンが存在するため、ボイラシステムの腐食やスケール付着が起こりやすくなるという問題もある。
【0006】
ヒドロキシルアミン類は、これをボイラ給水に添加すると、ボイラ内で酸素と反応したときに、硝酸等の酸性物質が生成して、ボイラ本体の防食効果が低下するという問題がある。
【0007】
これらの脱酸素剤に替わる脱酸素剤として、本発明者は先に1−アミノピロリジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン等のN−置換アミノ基を有する複素環式化合物を提案した(特願平8−318140号)。これらのN−置換アミノ基を有する複素環式化合物は、ボイラ給水に添加されると、ボイラ給水中の溶存酸素と反応して優れた脱酸素効果を発揮し、ボイラシステムの防食に優れた効果を示す。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記脱酸素剤としてのN−置換アミノ基を有する複素環式化合物は、水温が例えば80℃以下という比較的低い給水ラインにおいては、反応速度が小さく、ある程度の脱酸素力を発揮するものの、脱酸素効果が十分ではない場合があった。
【0009】
N−置換アミノ基を有する複素環式化合物とヒドロキシベンゼン誘導体とを併用することにより、脱酸素速度を向上させ、低温域での防食効果を向上させることができるが(特願平9−138468号)、この場合においては、ヒドロキシベンゼン誘導体には、水溶性のものが少なく、また、水に溶解するものであってもその溶解量が少なく、十分な添加効果を得るだけの量を溶解させることができないという不具合があった。
【0010】
本発明はこの問題点を解決し、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物を有効成分とする脱酸素剤であって、水温が高い給水ラインやボイラ本体や蒸気・復水配管だけでなく、水温が低い給水ラインにおいても十分な脱酸素効果を発揮する脱酸素剤を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の脱酸素剤は、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩と、ヒドロキシベンゼン誘導体及びナフトキノン誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の芳香族化合物(これらを「触媒化合物」と称す)と、シクロヘキシルアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン、モノイソプロパノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエチルプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、及びジメチルプロピルアミンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和性アミンとを含有し、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩と触媒化合物と中和性アミンとの比率が、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩:触媒化合物=1:0.001〜0.1(重量比)で、触媒化合物:中和性アミン=1:10〜1000(重量比)であることを特徴とする。
【0012】
本発明の脱酸素剤では、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩は、中和性アミンの存在下で共存するヒドロキシベンゼン誘導体及び/又はナフトキノン誘導体の触媒作用により、水温が低い給水ラインにおいても、優れた脱酸素効果を発揮する。しかも、中和性アミンを含有することによって、給水系統からボイラ本体、更には蒸気・復水配管に到るまで良好な防食効果を発揮する薬剤を一液で提供することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明で用いられるN−置換アミノ基を有する複素環式化合物としては、好ましくは、1−アミノピロリジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、1−アミノピペリジン、1−アミノホモピペリジン、1,4−ジアミノピペラジン、N−アミノモルホリン、モルホリノビグアニド等が挙げられ、これらの複素環式化合物の塩としては、例えば、これらの複素環式化合物と、コハク酸、グルコン酸などのカルボン酸、ポリアクリル酸などのポリカルボン酸などの有機酸との水溶性塩などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらの複素環式化合物又はその塩は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を適宜に混合して用いても良い。
【0015】
本発明で用いられるヒドロキシベンゼン誘導体としては、ハイドロキノン、2,3−ジメチル−1,4−ハイドロキノン、2−tert−ブチルハイドロキノン、カテコール、4−tert−ブチルカテコール、ピロガロール、1,2,4−ヒドロキシベンゼン、没食子酸、2−アミノフェノール、2,4−ジアミノフェノールなどを挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0016】
ナフトキノン誘導体としては、1,4−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン、1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸ソーダ、1,4−ナフトヒドロキノン、1,2−ナフトヒドロキノン、2,6−ナフトキノン、3−クロル−1,2−ナフトキノン、ナフトプルプリン、5,8−ジヒドロ−1,4−ナフトキノン、5,6,7,8−テトラヒドロ−1,4−ナフトキノン、3,4−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、4−アミノ−1,2−ナフトキノン、2−アミノ−1,4−ナフトキノンなどを挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0017】
これらのヒドロキシベンゼン誘導体及びナフトキノン誘導体は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を適宜に混合して用いても良い。
【0018】
本発明で用いられる中和性アミンは、シクロヘキシルアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン、モノイソプロパノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエチルプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロピルアミンである。これらの中和性アミンについても、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を適宜に混合して用いても良い。
【0019】
本発明の脱酸素剤は、上記したN−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩と、ヒドロキシベンゼン誘導体及び/又はナフトキノン誘導体の1種又は2種以上(以下において、これらを「触媒化合物」と称す場合がある。)と、中和性アミンとを混合することによって調製することができるが、これらを別々に注入するようにしても良い。
【0020】
本発明の脱酸素剤の添加濃度は、処理対象とするボイラシステムのボイラ給水中の溶存酸素濃度や他の水質条件によって適宜変化させることができるが、通常、ボイラ給水1Lに対し、各々次のような添加量となるようにするのが好ましい。
【0021】
N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩:0.001〜1000mg、好ましくは0.01〜200mg
触媒化合物:0.0001〜100mg、好ましくは0.001〜20mg
中和性アミン:0.01〜1000mg、好ましくは0.1〜200mg
本発明の脱酸素剤のN−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩と触媒化合物と中和性アミンとの比率は、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩:触媒化合物=1:0.001〜0.1(重量比)とし、触媒化合物:中和性アミン=1:10〜1000(重量比)とする。この割合よりも触媒化合物が少ないと、触媒化合物を併用することによる本発明の改善効果、即ち、低温での脱酸素力の向上効果が十分に得られず、この割合よりも触媒化合物が多いと効果の増大よりもコスト高となる。また、この割合よりも中和性アミンが少ないと中和性アミンを併用することによる溶解性の安定化効果が十分に得られず、逆に多いと蒸気、復水系における銅材質の配管に対する防食効果が低下する。
【0022】
本発明の脱酸素剤は、上記N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩と触媒化合物と中和性アミンとを含むことを特徴とするものであるが、これらの他に必要に応じてリン酸ナトリウムや水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ剤、水溶性高分子等の分散剤、コハク酸、グルコン酸等の他の腐食抑制剤、更には、キレート剤、スケール抑制剤、或いはこれらの混合物を配合することができる。
【0023】
本発明の脱酸素剤は、低圧、中圧又は高圧の各種ボイラシステムに有効に使用することができ、ボイラ圧力やボイラ形式、給水種等によって何ら制約を受けることはない。
【0024】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0025】
実施例1〜3、比較例1〜5
表1に示す配合の薬剤を調製し、溶解性、保存安定性を調べ(保存安定性は表1の温度で表1に示す期間保存した後の状況を目視にて確認した。)、結果を表1に示した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1より次のことが明らかである。即ち、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物である1−アミノピロリジンのみを配合した比較例1及び1−アミノピロリジンと中和性アミンであるモノエタノールアミンを配合した比較例4では、溶解性、保存安定性に問題はない。しかし、1−アミノピロリジンと触媒化合物である4−tert−ブチルカテコールとを配合した比較例2,3のうち、触媒化合物の配合量の多い比較例2では、触媒化合物を溶解させることができなかった。比較例3では、触媒化合物の配合量が少ないため、溶解はするが、長期保存で析出がおこり、この程度の触媒化合物の配合量が上限値であることがわかる。また、1−アミノピロリジンと触媒化合物である1,4−ナフトキノンを配合した比較例5は触媒化合物を溶解させることができなかった。
【0028】
これに対して、1−アミノピロリジンと触媒化合物と中和性アミンとを配合した実施例1,2では、溶解性、保存安定性に優れる。
【0029】
次に、実施例1,2及び比較例1〜5のうち、薬剤が溶解した実施例1,2及び比較例1,3,4について、下記の方法で脱酸素速度の測定を行い、結果を図1に示した。
【0030】
純水500mLを三角フラスコに入れ、40℃に保持された恒温水槽中にて2時間撹拌し、空気中の酸素により飽和させた。このときの溶存酸素濃度を溶存酸素計(オービスフェア製「MOCA3600」)を用いて測定したところ6.5mg/Lであった。
【0031】
次に、この三角フラスコ内の水に各薬剤を各々0.5gずつ添加して十分に撹拌した後、NaOHでpHを11.0〜11.1に調製した。この溶液を200mLのフランビンに注ぎ、空隙のないように密栓をして、40℃の恒温水槽中に戻して反応させた。所定の時間経過するごとに、溶液中の溶存酸素濃度を溶存酸素計を用いて測定した。薬剤を添加する直前の溶存酸素濃度に対する薬剤添加後の溶存酸素濃度の割合から、各試験液中の溶存酸素残留率を算出した。これらの操作は窒素雰囲気中で、手早く行った。
【0032】
図1の結果より、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物である1−アミノピロリジンと各触媒化合物と中和性アミンのモノエタノールアミンとを併用したものは、脱酸素反応が著しく速いことが明らかである。
【0033】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の脱酸素剤は長期に安定に保存でき、1液で低温の給水ラインにおける脱酸素力を向上させ、給水ライン配管の防食効果を従来よりも格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1,2及び比較例1,3,4の結果を示すグラフである。
Claims (1)
- N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩と、ヒドロキシベンゼン誘導体及びナフトキノン誘導体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の芳香族化合物(これらを「触媒化合物」と称す)と、シクロヘキシルアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン、モノイソプロパノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエチルプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、及びジメチルプロピルアミンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和性アミンとを含有し、
N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩と触媒化合物と中和性アミンとの比率が、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物又はその塩:触媒化合物=1:0.001〜0.1(重量比)で、触媒化合物:中和性アミン=1:10〜1000(重量比)であることを特徴とする脱酸素剤。
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