JP3958149B2 - 磁界型エネルギーフィルタ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の磁界領域を有し、所定のエネルギーを有する電子ビームを透過する磁界型エネルギーフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電子顕微鏡と接続して、微小部分のエネルギー分析をする電子線エネルギー損失分光装置(EELS)が用いられている。現状では、EELSにおけるエネルギー分解能は、電子ビームのエネルギー幅で決められている。電界放射電子銃(FEG)を用いた場合、電子ビームのエネルギー幅は、0.3〜0.7eV程度である。このため、さらに高いエネルギー分解能を得たい場合、エネルギー幅を狭くするためのモノクロメータが用いられる。
【0003】
このモノクロメータとしては、従来はウィーンフィルタを用いたものが多かった。最近では静電型のオメガフィルタが提案されている。古くは、これらのモノクロメータは、エネルギー分散を大きく取るために、高電圧段に挿入して、電子ビームの電子を減速して用いられた。例えば、60kVの加速電圧を100V〜20V程度に減速して用いられていた。しかし、このような大きな減速比を用いることは、100kV以下の加速電圧では可能であっても200kVあるいはそれ以上の多段加速が必要な加速電圧で使用する装置では、装置の巨大化が不可避で、実用性が小さくなる欠点があり、用いられたことはなかった。
【0004】
そこで、電子を加速する前段へのモノクロメータの設置が提案されている。これは、電子銃の直後にモノクロメータを設定し、モノクロメータを透過した電子を加速するものである。
【0005】
いずれの場合においても、モノクロメータは高電圧下に設置しなければならず、このため、モノクロメータに供給する電流・電圧及びそれらの制御回路も、高電圧下に設置しなければならず、装置は高価で巨大なものになる。モノクロメータに使用するエネルギーフィルタのエネルギー分散が十分大きければ、これをアース電位上において使用することができ、モノクロメータは、その全体の構造が簡素化される。エネルギー分散が大きなフィルターとしては、マンドリンフィルタが知られている。マンドリンフィルタは、200kVにおいて6μm/eVというエネルギー分散を持ち、モノクロメータとして一応は使用可能なレベルである。例えば、電子銃内に静電オメガフィルタをモノクロメータとして設置し、マンドリンフィルタをエネルギーアナライザとして使用することができる。
【0006】
このようなマンドリンフィルタ又はオメガフィルタは、入射電子ビームの光軸と出射電子ビームの光軸が一直線上にあり、鏡筒の中間に挿入されるのでインコラム型のエネルギーフィルタと称される。
【0007】
同じくインコラム型のエネルギーフィルタとして、磁界領域によって電子ビームをS字状の軌道に偏向するS型エネルギーフィルタがある。S型エネルギーフィルタは、300kVにおいて6〜10μm/eVのエネルギー分散を有する。これは、マンドリンフィルタの倍程度のエネルギー分散である。
【0008】
図4は、S型エネルギーフィルタを説明する図である。
【0009】
S型エネルギーフィルタは、図示しない磁極によって生成された第1乃至第4の磁界領域F1〜F4を有している。第1乃至第4の磁界領域F1〜F4は、第2の磁界領域F2と第3の磁界領域F3の中間点Mに対して反対称に分布している。また、電子ビームの軌跡も、中間点Mに対し反対称である。
【0010】
加速電圧300kVで使用する場合の一例を示すと、第1及び第4の磁界領域F1,F4を生成する磁極に磁束を供給するヨークには、極性は逆であるがそれぞれ385ATのアンペアターンを用いる。また、第2の及び第3の磁界領域F2,F3を生成する磁極に磁束を供給するヨークには、極性は逆であるがそれぞれ134ATのアンペアターンを用いる。なお、磁極の間隙はすべて10mmとした。この構成では300kVにおいて10μm/eVのエネルギー分散が得られる。このような大きいエネルギー分散は、第1及び第4の磁場F1,F4の半径に対し、第2及び第3の磁場F2,F3の半径が大きいことにも由来している。
【0011】
S型エネルギーフィルタでは、第1乃至第4の磁界領域F1〜F4を生成する第1乃至第4の磁極は、電子ビームの光軸に対して両側に配置され、しかもこれらの配置は中間点Mについて180度の回転対称となっている。したがって、オメガフィルタ等の従来のエネルギーフィルタが光軸の片側だけに磁極を有していたことと比べると、入口(入射窓)と出口(出射窓)との距離を長くすることなく、電子ビームの経路を長くすることができる。
【0012】
また、S型エネルギーフィルタにおいては、電子ビームの偏向角は、第1の磁界領域F1において略−110度、第2の磁界領域F2において略250度、第3の磁界領域F3において略−250度、第4の磁界領域F4において略110度であるので、偏向角の合計は略720度である。オメガフィルタにおける電子ビームの偏向角の合計は例えば500度であるので、これに比べると偏向角の合計は1.4倍に達している。
【0013】
さらに、S型エネルギーフィルタにおいては、エネルギーフィルタにおいて重要な対称性を崩すことなく、入射光軸と出射光軸をずらすことができる。すなわち、入射光軸と出射光軸を所定距離だけ離すことができる。このように入射光軸と出射光軸を離すことにより、電子顕微鏡の設計上の自由度が増すという利益がある。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来、S型エネルギーフィルタは、実際に製造することは難しかった。S型エネルギーフィルタにおいて、第1乃至第4の磁界領域F1〜F4を実現するヨークやアンペアターン等の構成の製作が困難であった。すなわち、第1乃至第4の磁界領域F1〜F4は近接しているので、各磁界領域F1〜F4を生成する磁極に磁束を供給する各ヨークについてアンペアターンを巻くために必要な空間を確保することが困難であった。また、第1乃至第4の磁場F1〜F4は、交互に逆極性となるため、第1及び第4の磁場F1,F4、又は第2及び第3の磁場F2,F3に磁束を供給するヨークを共通にまとめることもできなかった。
【0015】
本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、製造が容易なS型エネルギーフィルタを提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するために、本発明に係る磁界型エネルギーフィルタは、4以上の偶数の磁界領域を有し、所定点に対して磁界の分布が反対称となるものであって、各磁界領域を生成する磁極の内、同極性の磁極については、共通のアンペアターンを用いる。
【0017】
好ましくは、前記同極性の磁極又はこれらの磁極に磁束を供給するヨークに、共通のアンペアターンを巻く。
【0018】
好ましくは、前記アンペアターンは、コイルを巻く回数とこのコイルに流す電流の積である。
【0019】
好ましくは、前記各磁極は、生成する磁界の強さに応じた間隙、すなわちギャップを有する。
【0020】
好ましくは、前記磁界領域は、前記間隙に生成され、前記電子ビームの軌道はこの中にある。
【0021】
好ましくは、第1乃至第4の磁界領域を有し、第2及び第3の磁界領域の中間点に対して、磁界の分布が反対称となるものであって、前記1及び第3の磁界領域をそれぞれ生成する第1及び第3の磁極と、前記第2及び第4の磁界領域をそれぞれ生成する第2及び第4の磁極とについては、それぞれ共通のアンペアターンを用いる。
【0022】
好ましくは、前記第1及び第3の磁極、前記第2及び第4の磁極、又はこれらの磁極に磁束を供給するヨークに、それぞれ共通のアンペアターンを巻く。
【0023】
好ましくは、前記第1及び第3の磁極と、前記第2及び第4の磁極とは、それぞれ異なった磁極の間隙を有する。
【0024】
好ましくは、電子ビームの光軸に対して、左右両側に電子ビームを偏向する磁極を有する。
【0025】
好ましくは、電子ビームの偏向角の絶対値の合計は、720度近傍である。
【0026】
好ましくは、電子ビームの軌道の接線が入射ビーム又は出射光軸に平行になる位置は4箇所ある。
【0027】
好ましくは、電子ビームの軌道の接線が入射ビーム又は出射光軸に直交する位置は4箇所ある。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る磁界型エネルギーフィルタの実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
本実施の形態の磁界型エネルギーフィルタは、第1乃至第4の磁界領域を有し、第2及び第3の磁界領域の中間点に対して磁界領域及び電子ビームの軌跡が反対称となるS型フィルターである。
【0030】
また、本実施の形態のS型エネルギーフィルタは、入射電子ビームの光軸L1と出射電子ビームの光軸L2がずれた構成となっている。すなわち、これらの光軸L1,L2は、所定距離だけ離れている。
【0031】
図1は、本実施の形態のS型エネルギーフィルタの磁極の構成を示す断面図である。
【0032】
S型エネルギーフィルタは、第1の磁界領域F1を生成する磁極M1と、第2の磁界領域F2を生成する磁極M2〜M2と、第3の磁界領域F3を生成する磁極M3,M3,M3と、第4の磁界領域を生成する磁極M4と、を有している。
【0033】
光軸L1に沿ってS型エネルギーフィルタに入射した電子ビームは、磁極M1の生成する第1の磁界領域F1によって略−110度偏向され、さらに磁極M2,M2,M2の生成する第2の磁界領域F2によって略250度偏向される。中間点Mを通過した電子ビームは、磁極M3,M3,M3の生成する第3の磁界領域F3によって略−250度偏向され、さらに磁極M4の生成する第4の磁界領域F4によって110度偏向され、光軸L2に沿って出射される。
【0034】
図2は、本実施の形態のS型エネルギーフィルタの磁極に磁束を供給するヨーク及びヨークに巻かれたアンペアターンの構成を示す断面図である。
【0035】
本実施の形態のS型エネルギーフィルタは、第1の磁界領域F1を生成する磁極M1に磁束を供給する第1のヨークY1と、第2の磁界領域F2を生成する磁極M2,M2,M2に磁束を供給する第2のヨークY2と、第3の磁界領域を生成する磁極M3,M3,M3に磁束を供給する第3のヨークY3と、第4の磁界領域F4を生成する磁極M4に磁束を供給する第4のヨークY4と、を有している。
【0036】
また、本実施の形態のS型エネルギーフィルタは、第1のヨークY1及び第3のヨークに共通に巻かれたアンペアターンC1と、第2のヨークY2及び第4のヨークY4に共通に巻かれたアンペアターンC2とを有している。
【0037】
このように、本実施の形態においては、同極性のヨークである第1及び第3のヨークY1,Y3、第2及び第4のヨークY2,Y4において、それぞれアンペアターンC1,C2を共通に巻くことにより、構成の簡易化を図っている。
【0038】
これによって、各ヨークY1〜Y4にそれぞれアンペアターンを巻く場合と比較すると、アンペアターンを巻く空間が節約される。したがって、本実施の形態によると、アンペアターンを巻く空間に余裕ができるので製造が容易になる。
【0039】
図3は、本実施の形態のS型フィルタにおける磁極の間隙を示す断面図である。この断面図は、図1に示した磁極の配置において、切断線Lに沿って縦に切断したものである。
【0040】
図には、第1の磁界領域F1を生成する磁極M1、第2の磁界領域F2を生成する磁極F2、第3の磁界領域F3を生成する磁極M3,M3のそれぞれ一部が示されている。なお、実際には、各磁極の干渉を防ぐため、各磁界領域F1〜F3は、図示しないシールドによってそれぞれ遮蔽されている。
【0041】
ここで、第1の磁界領域F1を生成する磁極M1の間隙d1=6mmと、第3の磁界領域F3を生成する磁極M3の間隙d3=14mmとは、それぞれ異なっている。磁極間の距離は、電子ビームが通過する位置で測定した。
【0042】
このように、本実施の形態では、共通にアンペアターンを巻いた第1及び第3のヨークY1,Y3からそれぞれ磁束を供給される磁極M1及びM3において、磁極の間隙を適宜に設定することにより、第1及び第3の磁界領域F1,F3の強さをそれぞれ所望の強さに設定している。アンペアターンC2を共通に巻いた第2及び第4のヨークY2,Y4によって磁束を供給される第2及び第4の磁界領域F2,F4についても同様である。
【0043】
磁極の間隙は、例えば所望の磁界領域の強さが大きくなるほど小さくなるように設定する。ただし、磁界領域の強さは、間隙の大きさのみならず、磁極の形状にも依存する。
【0044】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限られず、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて種々の形態で実現することができる。例えば、上述の実施の形態においては、第1乃至第4の4個の磁界領域を有するS型エネルギーフィルタを示したが、本発明はこれに限られず、例えば6個、8個など、4以上の偶数の磁界領域を有するS型エネルギーフィルタに適用することができる。
【0045】
【発明の効果】
上述のように、本発明によると、製造が容易なS型エネルギーフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】S型エネルギーフィルタの磁極の配置を示す図である。
【図2】S型エネルギーフィルタのヨーク及びコイルの配置を示す図である。
【図3】磁極の間隙を説明する図である。
【図4】S型フィルタの概略的な構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
F1〜F4 第1乃至第4の磁界領域
L1 電子ビームの入射光軸
L2 電子ビームの出射光軸
M 中間点
M1,M2〜M2,M3〜M3,M4 磁極
Y1〜Y4 第1乃至第4のヨーク

Claims (3)

  1. 4以上の偶数の磁界領域を有し、所定点に対して磁界の分布が反対称となる磁界型エネルギーフィルタにおいて、
    各磁界領域を生成する磁極の内、同極性の磁極については、共通のコイルを巻いて共通のアンペアターンを用いると共に、前記共通のコイルが巻かれた前記各磁極の間隙をそれぞれ異ならせたこと
    を特徴とする磁界型エネルギーフィルタ。
  2. 前記各磁極は、生成する磁界の強さに応じた間隙を有することを特徴とする請求項1記載の磁界型エネルギーフィルタ。
  3. 第1乃至第4の磁界領域を有し、第2及び第3の磁界領域の中間点に対して、磁界の分布が反対称となる磁界型エネルギーフィルタにおいて、
    前記1及び第3の磁界領域をそれぞれ生成する第1及び第3の磁極と、前記第2及び第4の磁界領域をそれぞれ生成する第2及び第4の磁極とについては、それぞれ共通のコイルを巻いてそれぞれ共通のアンペアターンを用いると共に、前記第1及び第3の磁極と、前記第2及び第4の磁極とは、それぞれ異なった磁極の間隙を有することを特徴とする磁界型エネルギーフィルタ。
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