JP3957446B2 - 走査型プローブ顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は走査型プローブ顕微鏡に関し、特に、半導体製造分野でのCMP(化学機械研磨)工程で研磨評価のための観察視野の拡大、さらに高アスペクト比の対象物の測定を可能にする探針の接近・退避の構成を備えた走査型プローブ顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
走査型プローブ顕微鏡は、例えば原子間力顕微鏡に代表されるように、半導体基板(ウェハ)の表面凹凸のごとく、探針と試料表面との間に作用する原子間力を利用して微細な凹凸形状を測定・観察するのに利用されている。試料表面における走査範囲は、走査用アクチュエータとして圧電素子が一般的に使用され、圧電素子によって得られる変位量は例えばμm(マイクロメートル)級のストローク、大きくても100μm程度であり、極めて微細なものである。他方、近年では、走査型プローブ顕微鏡において広域に走査して広い領域を観察できることが望まれている。具体的に述べると、半導体製造工程での製造対象物の微細化に伴って、半導体基板の表面の平坦性、あるいは各種半導体デバイスの製造工程により基板表面上に堆積された膜の表面の平坦性の評価に対する必要性が高くなっている。特にCPMによる平坦化工程の評価では、数mm(ミリメートル)から数十mmの広い範囲の凹凸形状をnm(ナノメートル)の分解能で測定することが求められる。
【0003】
上記のごとき微細測定であって大視野の観察が可能な装置として、従来では、走査型プローブ顕微鏡の代わりに、例えば特開平10−62158号公報に開示される装置が提案されていた。この公開公報に開示される装置は表面粗さ計であり、その従来技術の欄では触針式と光学式の表面粗さ計について記述されている。触針式の表面粗さ計は、試料の表面に針部材を接触させ、試料表面を針部材で走査して試料表面の凹凸形状を測定する。針部材の動きは差動トランス式の検出器により検出される。他方、光学式の表面粗さ計は、試料表面の凹凸形状が光学的変位検出系で検出される。表面粗さ計は試料をXY方向に移動させるためのモータ駆動型のXYステージを備えており、本来的に機械的な構造で試料表面を広域的に観察できるように構成されたものである。針部材は試料表面に接触し、機械的な構造によって試料表面が変形・破壊されること、分解能が低いことの理由から、上記公開公報では針部材として原子間力顕微鏡で使用されるカンチレバーを使用することを提案し、表面粗さ計に原子間力顕微鏡の特徴を利用することを提案している。
【0004】
また特開平2−5340号公報に開示された走査型トンネル顕微鏡によれば、その公報の第1図に示されるように、試料表面の凹凸を測定するときに、測定点(サンプリング位置)のみで探針を試料表面に接近させてデータを取得し、移動するときには探針を退避させて移動を行うように構成されている。これによって、広い観察領域の測定を可能にし、測定の際に、探針摩耗や試料表面との衝突を生じることなく、短時間で測定を行うことが可能となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前述の通り、近年、試料の微細凹凸を大視野で観察できる走査型プローブ顕微鏡が求められている。本来的にマイクロメートル級の凹凸の測定を行う従来の走査型プローブ顕微鏡の測定・観察において、その走査範囲をミリメートルの範囲に拡大した場合、試料表面における探針の移動距離は長くなる。従来の通常の測定方法によれば、その移動の間、探針はその先端が試料表面に極めて接近した状態で表面をなぞるように移動することになり、探針先端が試料表面に接触する場合もあるので、探針の先端の摩耗が顕著になる。その結果、測定精度が低下するという問題が提起される。また探針が摩耗すると、探針の全体の長さが短くなり、その分、探針で得られる高さ情報に誤差が含まれることになり、測定対象である表面領域内の分解能が低下する。さらに、探針の摩耗量が増すことによって、探針の交換が頻繁になるために、測定のスループットが低下するという問題も提起される。前述の特開平10−62158号公報に開示される装置では、表面粗さ計において原子間力顕微鏡のカンチレバーの探針を利用することにより、従来の表面粗さ計に比較して、試料表面に加えられる接触圧力を低減できたことを効果として主張しているが、この装置であっても単に原子間力顕微鏡のカンチレバーを使用するだけでは上記問題の解決は困難である。
【0006】
また、広い範囲を原子間力顕微鏡等に準じたnmレベルの高い分解能で測定する場合には、前述のごとく、従来では走査用アクチュエータとして圧電素子を用い、探針走査速度は10μm/秒程度であるので、非常に時間がかかるものであった。例えば10mm×10mmの範囲を走査して256×256点で測定を行う場合、測定時間はおよそ142時間(512000秒)となる。さらに上記のごとく10mm×10mmの広範囲を256×256点の測定点で測定を行う場合には、40μmごとに1回表面データを取得すればよいにも拘らず、従来の測定方法によれば、測定点の間においても試料表面の凹凸を倣うように探針を移動させなければならず、非常に測定効率が悪いものとなる。
【0007】
上記の問題を避けるためには、一般的に、測定データを得るための測定点すなわちサンプリング位置のみで探針を試料表面に接近させ、サーボ制御系に基づいて試料表面に対する探針の高さ位置を設定された基準位置に保持し、サンプリング位置の間は移動のための区間とし、この区間中は探針を試料表面から退避させ、離した状態で移動を行うようにするという構成が容易に考えられる。この構成は、前述の通り、特開平2−5340号公報に開示される。この構成に基づく移動状態の一例を図6に示す。この図で、101は探針、102は探針101の移動の軌跡、103はサンプリング位置、102aは接近動作、102bは退避動作、102cは試料表面104から離れた状態での移動を示している。このような構成では、探針101を圧電素子を利用して上記移動軌跡102のように移動させることになるから、接近動作102aと退避動作102bの各々の動作速度と、位置に関する精度が問題となる。
【0008】
さらに特開平2−5340号公報に開示される走査型プローブ顕微鏡の構成では次のような重要な問題も提起される。前述の通り、この公報に開示される走査型プローブ顕微鏡は走査型トンネル顕微鏡である。走査型プローブ顕微鏡では、探針が試料表面に接近し、探針・試料間に流れるトンネル電流を所定の一定量に保つことにより、探針・試料間の距離を所定の一定距離に保持するためのサーボ制御系が形成される。そしてサンプリング位置以外で探針の退避動作を行わせるため、退避時には上記サーボ制御を中断する必要がある。何故なら、探針の高さを制御するためのアクチュエータに退避信号を与えても、上記サーボ制御が継続されていれば、探針・試料間の距離は一定に保たれるため、退避動作が行えないからである。従って、次のサンプリング位置に移動して、探針を試料表面に再度接近させるときには、その第5図や第9図の動作説明用タイムチャートに示すごとく、断続的に生成される三角波形状の駆動信号を作って探針の高さ方向の位置制御を行いながら、ゆっくりと慎重に接近動作を行わなければならず、接近に時間がかかるという問題を有している。さらに、このような接近動作を行わなければならないので、動作の制御が複雑となる。
【0009】
さらに近年の半導体製造のプロセスにおいては、基板の表面上に作られる対象物の微細化に伴って、高いアスペクト比の凹凸形状を観察できる走査型プローブ顕微鏡が求められている。例えばコンタクトホールと呼ばれる層間配線のために形成される穴は、開口が0.2μmであるのに対して深さは1μmである。このような高いアスペクト比の穴の形状計測ができる走査型プローブ顕微鏡が求められる。当該走査型プローブ顕微鏡での探針は、必然的に、細く長い形状となる。例えば直径0.1μm、長さ1μm、先端部の半径が0.01μmといった高いアスペクト比の探針が用いられる。このような高いアスペクト比の探針を用いた測定においては測定時間が長くなる。またこのような探針を用いて測定を行うときに、試料表面に対する探針の接近・退避動作でサーボ制御が中断されると、探針の折れ等が生じる可能性が高くなる。
【0010】
本発明の目的は、走査型プローブ顕微鏡においてサーボ制御が継続されたままの状態に基づく接近・退避動作を行う構成を備え、狭域または広域の測定、あるいは高アスペクト比の試料の測定を、高い精度で、迅速に行うことができる走査型プローブ顕微鏡とその測定方法を提供することにある。
【0011】
また本発明の他の目的は、微細測定を行うための従来の通常の走査型プローブ顕微鏡に対して探針の接近・退避動作を行うための構成を組み込み、狭域または広域の測定で精度の高い迅速な微細測定を可能とする走査型プローブ顕微鏡とその測定方法を提供することにある。
【0012】
さらに本発明の他の目的は、基板表面における高いアスペクト比のコンタクトホールやトレンチを含む凹凸形状を測定するのに使用される高アスペクト比の探針の折れ、破損、先端摩耗を防止することを企図した走査型プローブ顕微鏡とその測定方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡およびその測定方法は、上記目的を達成するために、次のように構成される。
【0014】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡は、前提構成として、試料の表面に臨む探針と、試料の表面に対する探針の高さ方向の変位を検出する変位検出機構(光てこ式光学検出系等)と、この変位検出機構が出力する検出信号に基づいて試料と探針の間の距離が探針・試料間に作用する物理量に基づき予め設定された基準距離に保持されるように制御する制御手段(サーボ制御装置)とを備え、測定の際には探針と試料の間を基準距離(例えば押付け状態)に保持しながら試料表面を探針で走査し、例えば探針と試料の間を基準距離に保持するための制御用電圧信号を利用して試料表面の凹凸形状等を測定するように構成されている。本発明に係る第1の走査型プローブ顕微鏡は、さらに、試料の表面に対して、探針を探針・試料間に作用する物理量が生じる距離まで接近させ、その後、探針・試料間に作用する物理量が生じない距離まで退避させる接近・退避駆動装置を設け、上記制御手段によるサーボ制御系に基づき試料と探針の間の距離に関する制御を継続したまま、複数のサンプリング位置の各々で上記接近・退避駆動装置によって探針の接近・退避の動作を行い、サンプリング位置でデータを取得するように構成されている。以上の測定のための構成および作用は、従来通りの通常の狭域測定、広域測定、あるいは高アスペクト比を有する試料の凹凸形状の測定等に適用される。
【0015】
上記の走査型プローブ顕微鏡において、好ましくは、探針による試料の表面の走査を広域的に行わせる移動機構を備えている。さらに好ましくは、移動機構は、試料を搭載し、試料を試料表面に平行な方向にmmの長さ単位で移動させる試料ステージである。かかる構成は、広域測定に適している。
【0016】
上記の本発明に係る走査型プローブ顕微鏡では、特に試料表面においてmm級の広域走査によって広域測定を行う場合には、測定箇所として複数のサンプリング位置を設定し、サンプリング位置の間の探針の移動では、試料表面から退避した状態で移動を行い、サンプリング位置では探針を接近させて測定を行うようにし、かつその測定動作中においてサーボ制御系に基づく試料・探針間距離に関する制御を継続したままとすることによって、広域測定を実用的なものにする。このようにサーボ制御系によるサーボ制御を継続させておくことにより、サンプリング位置での探針の接近・退避動作をパルス駆動を利用して短時間で行うことが可能となる。
【0017】
上記の構成を有する走査型プローブ顕微鏡において、好ましくは、探針は高アスペクト比を有する探針であり、この探針はアスクペクト比の高い試料の表面を測定することを特徴とする。高アスペクト比の探針を用いて、広域に限らず、探針の接近・退避駆動に基づきアスペクト比の高い試料表面を良好に測定することができる。高いアスペクト比の探針としては、例えば直径0.1μm、長さ1μm、先端部の半径が0.01μmといった細長い探針である。
【0018】
本発明に係る第2の走査型プローブ顕微鏡は、前述の前提構成を備え、さらに、探針による試料の表面の走査を行わせる移動機構と、探針を試料の表面に対する高さ方向に変位させる圧電素子と、上記の基準距離を決める電圧信号を与える基準距離設定手段と、絶対値が上記基準距離を決める電圧信号より大きく極性が逆の退避時の電圧値を持ち、サンプリング位置で探針を前記試料の表面に対して、探針・試料間に作用する物理量が生じる距離まで接近させ、その後、探針・試料間に作用する物理量が生じない距離まで退避させるための電圧信号を与える接近・退避信号供給手段と、基準距離を決める電圧信号と接近・退避の電圧信号を合成する合成手段(加算器)と、合成手段の出力する電圧信号と検出信号との差を算出し、偏差信号を出力する減算手段(減算器)とを備える。上記の制御手段は、偏差信号に基づいて制御用電圧信号を生成し、この電圧信号を圧電素子に印加してその伸縮動作を制御する。この走査型プローブ顕微鏡でも、前述の第1の走査型プローブ顕微鏡と同様に、従来通りの通常の狭域測定は勿論のこと、広域測定、あるいはアスペクト比の高い探針を用いることにより高アスペクト比を有する試料の凹凸形状の測定等に適用される。
【0019】
上記の第2の走査型プローブ顕微鏡において、移動機構に広域用XYステージを用いれば、例えば試料をmm級の大きな移動ストロークで移動させ、かつ探針をサンプリング位置のみで試料表面に接近させて測定動作を行い、サンプリング位置の間で移動するときには探針を試料表面から退避させて移動を行うようにする。これにより広域の範囲を高速で移動させ、短時間での測定を可能にし、かつ試料表面との接触をなくして探針の摩耗を低減する。特に、試料表面に対する探針の高さ方向の変位、すなわち、接近・退避の移動、および測定の際の探針・試料間の基準距離の保持を、サーボ制御ループにおける基準距離を設定する信号に対して接近・退避用信号を重畳することにより、単一の圧電素子で行うことを可能した。
【0020】
上記構成において、好ましくは、上記制御手段は、測定のための高さ方向のサーボ制御を継続したまま、測定を行うサンプリング位置で探針を試料の表面に対して接近・退避させ、或るサンプリング位置から次のサンプリング位置へ移動するとき退避状態に保持するように制御を行う。
【0021】
上記構成において、接近・退避信号供給手段が出力する接近・退避の電圧信号は周期的に発生するパルス信号である。
【0022】
上記構成において、上記移動機構は、試料を搭載し、試料を、試料表面に平行な方向、例えば水平方向にmmの長さ単位で移動させる試料ステージである。
【0023】
上記の構成において、好ましくは、圧電素子の伸縮による変位を検出する変位計を設け、この変位計の出力する信号に基づいて試料の表面凹凸を測定する。
【0024】
本発明に係る第3の走査型プローブ顕微鏡は、前述の前提構成を備え、さらに、探針による前記試料の表面の走査を広域的に行わせる移動機構と、測定を行うサンプリング位置でサーボ制御系に基づき試料の表面に対する探針の高さ方向の位置を基準距離に一致させる圧電素子と、サンプリング位置で探針を前記試料の表面に探針・試料間に作用する物理量が生じる距離まで接近させ、サンプリング位置の間の移動では探針を試料の表面から探針・試料間に作用する物理量が生じない距離まで退避させる、上記圧電素子と異なる接近・退避駆動装置とを備え、サーボ制御系に基づき試料と探針の間の距離に関する制御を継続したまま、複数のサンプリング位置の各々で接近・退避駆動装置によって探針の接近・退避を行い、サンプリング位置でデータを取得するように構成される。この走査型プローブ顕微鏡でも、前述の第1の走査型プローブ顕微鏡と同様に、従来通りの通常の狭域測定は勿論のこと、広域測定、あるいはアスペクト比の高い探針を用いることにより高アスペクト比を有する試料の凹凸形状の測定等に適用される。
【0025】
上記の構成において、好ましくは、接近・退避駆動装置は圧電素子である。また上記移動機構は、広域測定を行う場合には、試料を搭載し、試料を試料表面に平行な方向にmmの長さ単位で移動させる試料ステージであることが好ましい。さらに、圧電素子の伸縮による変位を検出する変位計を設け、この変位計の出力する信号に基づいて試料の表面凹凸を測定するようにすることもできる。
【0026】
上記の第3の走査型プローブ顕微鏡では、探針が試料表面に接近して基準となる所定距離に保持されるときにおいて試料表面に探針を追従させるサーボ用圧電素子に対して、別に接近・退避動作用の駆動装置を設けるようにした。この駆動装置によってサンプリング位置では接近・退避が行われ、接近状態で測定が行われ、退避状態でサンプリング位置間の移動が行われる。このとき、常に、サーボ用圧電素子に対してはサーボ制御系によるサーボ制御が継続されている。接近・退避用駆動装置として圧電素子を用いると、サーボ用圧電素子と共に、2段構成で簡素に構成できる。この走査型プローブ顕微鏡でも、前述の第1の走査型プローブ顕微鏡と同様に、従来通りの通常の狭域測定は勿論のこと、広域測定、あるいはアスペクト比の高い探針を用いることにより高アスペクト比を有する試料の凹凸形状の測定等に適用される。
【0027】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の測定方法は、試料の表面に臨む探針を表面に対する高さ方向に変位させる圧電素子と、探針の高さ方向の変位を検出する変位検出機構と、この変位検出機構が出力する検出信号に基づいて試料と探針の間の距離が探針・試料間に作用する物理量に基づき基準距離に保持されるように制御する制御手段とを備え、探針と試料の間を基準距離に保持しながら表面を探針で走査して表面を測定する走査型プローブ顕微鏡に適用される測定方法であり、上記の制御手段によるサーボ制御系に基づき試料と探針の間の距離に関する制御を継続したまま、複数のサンプリング位置の各々で、探針を探針・試料間に作用する物理量が生じる距離まで接近させ、その後、探針・試料間に作用する物理量が生じない距離まで退避させる接近・退避動作を行い、サンプリング位置でデータを取得する測定方法である。
【0028】
上記の測定方法において、好ましくは、圧電素子の伸縮動作について測定状態を維持するサーボ制御系のループで、基準距離を決める電圧信号に対して、探針を試料の表面に対して接近・退避させる電圧信号を重畳するように構成することができる。また好ましくは、探針の接近・退避の動作を行う駆動および制御の機構を、サーボ制御系には含まれない別の独立機構として備えることにより本発明に係る測定方法を達成することができる。
【0029】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の測定方法は、上述の各構成を有する走査型プローブ顕微鏡の測定動作を実現するための方法であり、サンプリング位置で接近・退避を行いながら広域測定を行うときに、サーボ制御系に基づき試料と探針の間の距離に関する制御を継続した状態に保持することにより、探針の接近・退避動作を単純な制御で瞬時に行うことが可能となる。この走査型プローブ顕微鏡の測定方法によれば、従来通りの通常の狭域測定は勿論のこと、広域測定、あるいはアスペクト比の高い探針を用いることにより高アスペクト比を有する試料の凹凸形状の測定等を行うことができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0031】
図1は本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の第1実施形態を示し、全体的なシステムの構成を示している。この実施形態では、走査型プローブ顕微鏡として原子間力顕微鏡の例を示し、かつ広域測定の例を説明する。また図2は、図1に示した原子間力顕微鏡において、試料の表面を探針で走査しながら観察する場合に、広域走査に基づいて広い範囲を測定するときの探針の位置変化に関連するタイミングチャートを示している。図2では、接近・退避に関する探針の位置変化の制御に関連するXとZの各方向の探針移動の際の各部の電圧信号の波形が示される。探針の位置の変化(変位)は、試料表面に沿うその実質的に平行な方向(XY方向)の探針の走査動作と、試料・探針間の距離を調整する試料表面に対する高さ方向(Z方向)の移動動作とに基づいて生じる。なおX方向、Y方向、Z方向は、図1に示されるごとく直交する3つの軸X,Y,Zの各方向である。
【0032】
図1に示すごとく、図中水平に保持されたテーブル11の上にXYスキャナ12が配置され、その上に観察対象である試料13が配置されている。図1においてテーブル11の表面に平行な面は水平面であり、ここでは直交の2軸X,YによりXY平面と定義される。試料13は例えば半導体ウェハのごとき薄板の基板状部材であり、観察しようとする面を上面にして配置されている。XYスキャナ12は試料13をX方向あるいはY方向へ相対的に大きな距離で移動させる移動機構であり、例えばパルスモータ等を利用して構成される移動用試料ステージである。XYスキャナ12によるXY方向の移動ストロークはmm(ミリメートル)の長さ単位で行われ、例えば数十mmのストロークが設定される。またXYスキャナ12の上に搭載された試料13に対しては、その上面を観察すべく、その上側に、先端に探針14が形成されたカンチレバー15が配置される。探針14の先端は試料13の表面に臨んでいる。図1に示された例では、探針14は例えば試料表面に押し付けられている。探針14と試料13の表面との間は、接触状態、あるいは任意の距離に設定することができる。上記の構成によれば、試料13をXYスキャナ12で移動させることにより、試料13に臨む探針14が相対的な位置関係の変化として試料表面を広い範囲で走査し、広域領域の測定を行うことが可能となる。
【0033】
上記カンチレバー15はその基端が固定され、探針14が設けられた先端は自由端となっている。カンチレバー15は小さいバネ定数を有する弾性レバー部材であり、先部の探針14と試料13との間で原子間力が生じると、探針が試料表面に対する高さ方向に変位し、探針が受ける力に応じてたわみ変形が生じる。16は、その下端に上記カンチレバー15を取付け、カンチレバー15を水平面に垂直な方向(Z方向)に移動させるZ方向駆動装置である。このZ方向駆動装置は、この実施形態では、例えば単体の圧電素子で形成されている。圧電素子16は、通常の測定・観察を行う際にZ方向のサーボ制御に基づき試料表面に対する探針14の高さ位置を予め設定された基準の一定位置に保持するためのサーボ用圧電素子であると共に、探針14すなわちカンチレバー15を試料13の表面に接近させたり当該表面から退避させたりするための接近・退避用圧電素子である。このように単体の圧電素子16はサーボ用および接近・退避用として使用されている。圧電素子16は顕微鏡フレーム10に固定されている。
【0034】
上記の構成によれば、XYスキャナ12上に搭載された試料13の表面に対して探針14を間隔をあけて臨ませた状態において、XYスキャナ12で試料13をXY方向へ相対的に大きなストロークで移動させつつ、カンチレバー15すなわち探針14の試料表面に対する高さ位置を圧電素子16の伸縮動作で調整することにより、試料表面においてミリメートル級の走査範囲に基づく広域観察を行うことが可能となる。探針14の試料表面に対する高さ位置を調整する圧電素子16は、その接近・退避動作によって試料表面の測定領域で一定間隔で設定された多数のサンプリング位置(測定点)の各々で探針14(カンチレバー15)を試料表面に所定間隔(例えば押し付けられた接触状態)で接近させ、または試料表面から退避させ、さらに、各サンプリング位置での接近状態で通常の測定・観察のためのサーボ制御に基づき試料表面の凹凸形状に沿うように動作する。これによって各サンプリング位置で試料表面の測定データが得られる。サンプリング位置での測定データの取得は、接近状態での移動区間内の1点で行われる。好ましくはデータ取得後にすぐに退避するようにすれば、接触時間を短くすることができる。従って、試料13の表面を広域走査で測定するときに、探針14は、単体の圧電素子16によって、サンプリング位置のみにおいて接近させられ、表面追従を行って試料表面の凹凸形状に関する測定データを取得し、或るサンプリング位置から次の他のサンプリング位置への探針14の移動は、退避動作により探針は試料表面から離れた状態で行われる。
【0035】
試料13の上方に配置されるカンチレバー15に対して、試料表面に対する探針14の高さ位置(Z方向の変位)を検出するための検出系が設けられる。この検出系は、本実施形態の場合、一例として、カンチレバー15のたわみ変形とレーザ光とを利用して構成される光てこ式光学検出系が利用されている。光てこ式光学検出系は、カンチレバーの背面に形成された反射面に対してレーザ光21を照射するレーザ光源22と、当該背面で反射されたレーザ光21を受ける少なくとも2分割光検出器23から構成される。レーザ光源22と光検出器23は、圧電素子16の移動と共に移動するように、圧電素子16の下端部に設けられている。カンチレバー15の背面で反射されたレーザ光21による反射スポットが光検出器23の2分割された受光面に入射される。探針14が試料表面から原子間力を受けた状態で探針・試料間の距離が変化すると探針が受ける原子間力が変化し、探針14の高さ位置が変位し、カンチレバー15のたわみ変形量が変化する。カンチレバー15のたわみ変形量の変化量に応じて光検出器23の受光面におけるレーザ光21の反射スポットはその中心位置から変位するので、探針・試料間の距離が、設定された基準の一定距離に保持されるように、後述するサーボ制御系によって、試料表面に対する探針14(カンチレバー15)の高さ位置が調整される。これにより、光検出器23の受光面におけるレーザ光21の反射スポットの位置も、探針・試料間の設定された一定間隔に応じた中心位置に保持される。
【0036】
次に制御系について説明する。30はサーボ用圧電素子16のZ方向の伸縮動作を制御するサーボ制御装置である。サーボ制御装置30は、上記の光検出器23から出力される探針・試料間距離(探針の変位)を表す検出信号s1を入力する。サーボ制御装置30は、基準となる一定距離が設定されかつこの一定距離を表す電圧信号s0を出力する基準距離設定器31と、信号s0と接近・退避用の電圧信号s01とを加算(合成)する加算器32と、入力された上記の検出信号s1と加算器32から出力される電圧信号s02との差を求めて出力する減算器33と、この減算器33から出力された差信号Δsが0となるように圧電素子16を動作させる制御用の電圧信号Vzを発生させて出力する制御回路34とから構成されている。上記の接近・退避用の電圧信号s01は、サーボ制御装置30に付設された接近・退避信号供給器35から与えられるものであり、その信号内容は周期的に出力されるパルス信号である。加算器32から出力される電圧信号s02は、基準距離用の上記電圧信号s0と接近・退避動作を行わせるための電圧信号s01とを加えたものである。制御回路34から出力された制御用電圧信号Vzは圧電素子16に印加される。上記の光てこ式光学検出系、減算器33、制御回路34、圧電素子16によってサーボ制御のフィードバックループが形成される。サーボ制御に基づいて圧電素子16を伸縮動作させることによって、試料表面で広域走査範囲で決まる測定領域での各サンプリング位置において、試料13に対して探針・試料間で原子間力が作用する程度に探針が接近するようにカンチレバー15を移動させ、カンチレバー15のたわみ変形量が一定になるように探針・試料間の距離が基準距離に保持され、サンプリング位置の間ではカンチレバー15を退避させて移動させる。上記の構成によれば、測定が開始されると、サーボ制御系は常に能動状態に維持され、サンプリング位置の間の移動時およびサンプリング位置での測定時のそれぞれで圧電素子16の伸縮動作に関してサーボ制御が継続される。
【0037】
40は上位の制御装置であり、例えばパーソナルコンピュータで構成されている。制御装置40は、信号処理装置41、表示装置42、XY走査回路43、入力部などで構成される。信号処理装置41は記憶部を含む。制御装置40の信号処理装置41は、サーボ制御装置30の制御回路34から圧電素子16に与えられる制御用電圧信号Vzを入力するように構成されている。また制御装置40内のXY走査回路43から、試料13を搭載しこれをXY方向に走査移動させるためのXYスキャナ12に対して、その動作を制御する走査制御信号s2が与えられる。試料13を移動させるための走査制御信号s2は、XYスキャナ12に対して出力されると共に信号処理装置41に与えられ、その記憶部に保存される。信号処理装置41の記憶部には、試料13の表面上の測定領域が走査範囲の位置データとして記憶され、各サンプリング位置に対応する測定データ(Vz)が記憶されている。本実施形態の場合、上記XYスキャナ12を動作させることによりmm(ミリメートル)級の広域走査による広域測定が行える。制御装置40の信号処理装置41は、測定領域に関する上記の走査データ(サンプリング位置に関する位置データ)と、各サンプリング位置での圧電素子16に印加される電圧信号Vz(試料13の表面に対する高さデータ)とを組み合わせることにより、試料13の観察表面についての凹凸形状に関する画像データが作成され、表示装置42の画面に観察画像が表示される。
【0038】
上記の構成において、サーボ制御装置30から圧電素子16に電圧信号Vzを与えかつ制御装置40からXYスキャナ12に信号s2を与えることに基づき測定が開始されると、サーボ制御系は常に能動状態に維持され、サンプリング位置の間の移動時およびサンプリング位置での測定時のそれぞれで圧電素子61の伸縮動作に関してサーボ制御が継続される。ここで「サーボ制御が継続される」とは、少なくとも測定が実行される間、サーボ制御装置30が能動状態に維持され、カンチレバー15のたわみ変形量(あるいは探針の変位量)を、レーザ光源22と光検出器23からなる前述の光てこ式光学検出系で検出し、探針14と試料13の表面との間の距離が、測定時に設定された特定距離(基準距離設定器31で設定される基準距離)に保持されるという制御が行われる状態をいう。接近・退避信号供給器35が接近信号を出力しているときには圧電素子16に対してフィードバック電圧信号(Vz)が与えられ、探針14と試料13の表面との距離は上記特定距離に保持される。接近・退避信号供給器35が退避信号を出力しているときには、基本的に光てこ式光学検出系およびサーボ制御装置30の作用に基づいて探針・試料間距離を特定距離に保持しようとするが、退避信号が加わっているので、この退避信号に基づいて圧電素子16は定められた退避状態を実現する収縮した状態に保持される。
【0039】
図2を参照して上記構成を有する原子間力顕微鏡に基づく広域での測定動作を説明する。図2は、(A)で試料13に対する圧電素子16の接近・退避の動作を示し、(B)でタイミングチャートを示している。なお、ステージの移動方向とカンチレバーの向きは本図に制約されるものではなく、どのように配置されても本発明は有効である。
【0040】
この原子間力顕微鏡によれば、前述の通り、試料13の表面で広域測定を行うことができる。広域測定のために広域走査を行う必要があるが、XYスキャナ12によって試料13を移動することにより広域走査が可能になる。また試料13の表面に対する探針14の高さ位置は圧電素子16の伸縮動作で調整される。図2の上側の(A)に示されるように、前述のごとく、圧電素子16は印加電圧Vzで伸縮動作を行い、サンプリング位置では、接近・退避信号s01によって圧電素子16は破線で示すごとく大きく伸び、探針14(カンチレバー15)を試料13の表面に接近させて押し付ける(状態a)と共に、この状態でサーボ制御系に基づき試料表面を追従して表面の凹凸を測定し、その後、接近・退避信号s01によって圧電素子16は実線で示すごとく大きく縮み、探針14を試料13の表面から退避させ(状態b)、次のサンプリング位置への移動を行う。図2の(A)では、接近・退避信号に基づく圧電素子16の伸縮動作により生じる範囲(離接範囲)Lが示されている。
【0041】
さらに図2のタイミングチャート(B)では、一例として或るサンプリング位置P1で測定を行い、その後、次のサンプリング位置P2へ移動して測定を行う動作例が示されている。タイミングチャート(B)では、上段から、XYスキャナ12に含まれるXスキャナによるX方向の速度、基準距離を設定する信号s0、接近・退避用の信号s01、信号s0と信号s01の和、電圧Vzの変化状態のそれぞれを示している。またタイミングチャートで横軸は時間の経過を示すが、図2では移動方向であるX方向に対応させている。XYスキャナ12のXスキャナによる速度は一定速度に維持されている。従って、探針14に対して試料13は常に移動状態になっている。
【0042】
探針14が試料13の表面に接近させられる場合において探針・試料間の距離を設定する信号s0は、常に、予め設定された値(電圧値V0 >0)に常に保たれている。原子間力顕微鏡による測定という意味で、本実施形態による測定の構成によれば、サーボ制御が常にかかった状態に保持され、サーボ制御が継続されている。信号s0は正の一定電圧に設定されているので、実際に探針が試料表面に接近させられると、探針は試料表面に押し付けられる。探針を試料表面に押し付ける押付け力は、信号s0の電圧値V0 によって決められる。基準となる一定距離(本実施形態では押付け状態)を設定する上記信号s0は前述の通り基準距離設定器31で与えられる。
【0043】
測定を行うサンプリング位置P1,P2では、接近・退避信号供給器35から出力される接近・退避用の電圧信号s01は0になっており、加算器32から出力される電圧信号s02はs0である。従って、各サンプリング位置では、従来の原子間力顕微鏡における場合と同様に、試料表面の追従に基づく表面測定が行われる。ただし、実際に試料表面の凹凸情報に関するデータが取得されるのは、接近した状態の区間内の1点である。サンプリング位置P1で測定が終了した後、次のサンプリング位置P2に移動するが、このときには接近・退避信号供給器35から−V1 が出力される。この電圧値はその絶対値が上記電圧V0 よりも大きく、負の電圧である。従って、加算器32から出力される電圧信号s02(=s0+s01)は−V2 (=V0 −V1 )となる。その結果、試料表面に対する探針の押付け力は、負の押付け力すなわち引力に設定される。サーボ制御系は前述の通り常に効いているので、押付け力が負になると、探針14は試料表面から退避させられる。実際には、表面張力を越える負の力には制御できないので、探針は完全に退避し、この状態においてサーボ制御系は保持される。従って、探針は試料表面から離れた状態で、サンプリング位置P1から次のサンプリング位置P2へ移動する。
【0044】
サンプリング位置P2に来ると、接近・退避信号供給器35の出力が一定期間0になり、その間、加算器32から出力される電圧信号s02がV0 になり、圧電素子16は大きく伸びて探針14が試料13の表面に押し付けられ、表面追従に基づく測定が行われる。
【0045】
以上のごとく、サーボ制御系のループにおいて探針14の位置に決める電圧信号s02を、基準距離を表す信号s0に対して、接近・退避用電圧信号s01として周期的パルス信号を生成してこれを重畳するようにして作ったために、サーボ制御を継続したままで、多数のサンプリング位置の各々で接近・退避を行いながら、広域測定を行うことが可能となる。すなわち、試料13の表面の特定の測定領域で表面観察を行う場合に、測定を行うための複数のサンプリング位置を設定し、各サンプリング位置で試料表面に対する探針の接近・退避動作を行って測定すると共に、サーボ制御を継続したままで、探針の接近と退避の動作を行わせることを可能にした。かかる構成によって前述の広域測定が行われる。上記の構成は、特に広域測定を、迅速に行い、かつ探針や試料を損傷または破損することなく行うことを可能にする。
【0046】
なお圧電素子16に印加される制御用の電圧Vzは、探針14が試料13の表面に接近した状態では、前述した通りサーボ制御系の継続的な働きにより試料表面に追従するように圧電素子16の伸縮動作を制御するので、図2(B)に示されるように、パルス状の電圧44の上に試料表面の凹凸分の信号45が重畳されているという特性を有する。またXスキャナによる速度が一定の場合について説明したが、例えば各サンプリング位置間の移動において加減速制御を行うような場合や各サンプリング位置ごとにステップアンドリピートによる移動を行う場合等を含め、本発明の範疇である。
【0047】
前述の第1実施形態の説明では、原子間力顕微鏡による広域測定の例を説明した。しかし、測定領域のサンプリング位置(測定点)で試料表面に対して探針(カンチレバー)を接近・退避させて測定を行い、試料表面から離れた退避状態で次のサンプリング位置へ移動し、その間においてサーボ制御装置30によるサーボ制御の状態を継続したままにする測定方法は、広域測定に限定されない。例えば従来通りの狭域測定にも適用することができる。このような狭域測定の場合には、上記のXYスキャナ12としては、狭域移動機構が使用される。狭域移動機構の場合には例えば圧電素子を利用して構成される。
【0048】
また上記の測定方法は、アスペクト比の高い測定対象物を高アスペクト比の探針を用いて測定するときに好都合である。すなわち、近年の半導体製造プロセスにおける基板上に形成されるデバイスや素子の微細化に伴い、高いアスペクト比(5〜10)の穴(コンタクトホール等)や溝(素子分離のためのトレンチ等)を測定しなければならないことから、原子間力顕微鏡においても長くかつ細いアスペクト比の高い探針を用いて基板表面の凹凸形状を測定する必要が生じた。このようなアスペクト比の高い探針を利用する測定の場合に、従来の原子間力顕微鏡の測定方法によれば、探針の折れ、破損、先端の摩耗という問題が起きやすい。これに対して上記の第1実施形態による測定方法を用いれば、アスペクト比の高い探針を用いたとしても、探針の折れ、破損、先端の摩耗を防止することができる。
【0049】
上記の意味において、前述の実施形態で説明された原子間力顕微鏡に関する構成および測定方法は、広域走査による広域測定に限定されるものではなく、測定範囲が通常である測定にも適用できる。
【0050】
次に、図3に従って本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の第2実施形態を説明する。図3において、図1で示された要素と実質的に同一の要素には同一の符号を付すこととし、その詳細な説明を省略し、その説明には第1実施形態での説明を援用することとする。
【0051】
この第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、試料13の表面の測定領域における各サンプリング位置での測定で、サーボ制御装置30に基づくサーボ制御を継続したままで探針の接近・退避動作を行わせる構成を示している。また、広域測定と共に、狭域測定、および高アスペクト比の対象物の測定を行うことができるものである。
【0052】
この実施形態の特徴的な構成は、信号処理装置41に入力される試料表面の凹凸に関する測定データとして、制御回路34から出力される制御用の電圧信号Vzを用いるのではなく、圧電素子16にその変位を検出する変位計50を別途に付設し、変位計50が出力する変位信号を用いるように構成している点である。変位計50としては、各種の装置を用いることができる。変位計50から出力される変位信号は信号処理装置41に入力される。また第1実施形態の構成では、電圧Vzを利用したため、電圧Vzから試料表面の凹凸分の信号45を取り出すことが必要であったが、本実施形態の場合には変位計50を利用することによって、試料表面の凹凸分の信号を直接的に取り込むことが可能となる。その他の構成、すなわち、広域走査におけるサンプリング位置での接近・退避動作、および測定動作、信号処理、画像の作成・表示は第1実施形態で説明したものと実質的に同じである。
【0053】
次に図4を参照して本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の第3実施形態を説明する。この実施形態では、第1の圧電素子51に対して第2の圧電素子52を付設し、2段の圧電素子構造でZ方向駆動装置を構成している点に特徴がある。圧電素子51は、前述したサーボ用の圧電素子16に相当するものである。ただし本実施形態の場合には、圧電素子51は測定の際における表面追従用のサーボ用圧電素子としてのみ使用され、上記実施形態のごとく接近・退避用の圧電素子としては使用されない。圧電素子52は接近・退避動作専用の圧電素子として使用される。このように本実施形態では、Z方向駆動装置を2段構造の圧電素子で構成しかつ測定用の表面追従動作とサンプリング位置での接近・退避動作を別々の圧電素子で行うようにしている。圧電素子51,52の設け方としては、別々に用意することもできるし、単体の圧電素子に対して電極の配列を工夫して測定動作用の圧電素子部と接近・退避用の圧電素子部を組み込むようにすることも可能である。なお図4において、前述の実施形態で説明された要素と実質的に同一の要素には同一の符号を付している。
【0054】
測定動作の表面追従用の圧電素子51に対して接近・退避用の圧電素子52を別途に用意したため、サーボ制御装置30において、図1で示された接近・退避信号供給器35、加算器32は不要となり、図4においてそれらは除かれている。サーボ制御装置30からなるサーボ制御系に基づくサーボ制御は、サーボ用圧電素子51のZ方向の伸縮動作に関して継続して行われる。また前述したようなサンプリング位置における探針の接近・退避の動作は、圧電素子52の伸縮動作によって行われる。圧電素子52の接近・退避のための伸縮動作は接近・退避用信号s3によって行われる。この接近・退避用信号s3は前述した接近・退避用の電圧信号s01と実質的に同じものである。接近・退避用信号s3は、別途に設けた前述の接近・退避信号供給器35から与えられるように構成することができるし、あるいは上位の制御装置40の信号処理装置41から与えられるように構成することもできる。
【0055】
図5は、前述の図2に対応する図であり、第3実施形態による原子間力顕微鏡に基づく広域等での測定動作を説明する。図5で、(A)で試料13に対する圧電素子52の接近・退避の動作状態(a,b)を示し、(B)でタイミングチャートを示す。このタイミングチャート(B)では前述の実施形態と同様なサンプリング位置P1,P2での測定動作例が示されている。図5のタイミングチャート(B)では、上段から、XYスキャナ12に含まれるXスキャナによるX方向の速度、基準距離を設定する信号s0、接近・退避用の信号s3、探針・試料間距離、電圧Vzの変化状態のそれぞれを示している。またタイミングチャートで横軸は移動方向であるX方向に対応させている。X方向の速度、信号s0は図2で説明したものと同じである。接近・退避用信号s3は、サンプリング位置P1,P2に対応して周期的に発生するパルス信号(正パルス電圧)53である。探針・試料間距離は、信号s3で正パルス電圧53が発生するときには0になり(区間▲1▼)、正パルス電圧53が発生していないときには退避状態の一定距離で離れた状態にある(区間▲2▼)。またサーボ用圧電素子51に印加される電圧Vzに関しては、サンプリング位置(P1,P2)に対応する区間▲1▼では探針が試料表面に接近して試料表面に追従するので、Vzのサーボ値となり、移動のための区間▲2▼では探針は試料表面から退避し離れた状態で移動しているので、探針・試料間距離を基準距離にすべく圧電素子51は最大ストロークで伸び、Vzの最大値となっている。サンプリング位置P1,P2の区間▲1▼内の1点のVzのサーボ値を測定データとして取得する。接近・退避動作のための圧電素子52の伸縮動作について、圧電素子52の駆動範囲における最大位置と最小位置の両端で行うこともできるし、あるいは、駆動範囲における一定位置と他の一定位置の間の2点間で行うこともできる。
【0056】
上記の第3実施形態の構成によれば、測定動作用のサーボ用圧電素子51に対して独立させて別個に設けた接近・退避用の圧電素子52によって、サンプリング位置で探針14を試料13の表面に対して接近・退避させることが可能となる。この構成によって、前述の実施形態で説明した効果を発揮しつつ広域走査によって広域測定を行うことができる。第3の実施形態においても、測定のための制御動作では、サーボ制御系が常に能動状態に保持され、圧電素子51の動作に関してサーボ制御が継続される。さらに、前述の実施形態と同様に、狭域測定を行うことができ、またアスペクト比の高い探針を用いて高アスペクト比の対象物の測定を迅速に行うことができる。
【0057】
上記の実施形態では、接近・退避用アクチュエータとして圧電素子を利用したが、その代わりに、パルスモータ等を利用するアクチュエータ、油圧を利用したアクチュエータ、空圧を利用したアクチュエータ等を用いることもできる。また第3の実施形態においても変位計を利用した構成を採用することができる。
【0058】
上記の各実施形態では、走査を行うための移動機構として試料側を移動させるXYスキャナを設けたが、探針側に移動機構を設けることもできる。また走査型プローブ顕微鏡の例として原子間力顕微鏡について説明したが、トンネル顕微鏡等の他の方式の走査型プローブ顕微鏡に対しても本発明を適用できるのは勿論である。さらに前述の各実施形態では、装置的な構成の観点から本発明の走査型プローブ顕微鏡を説明したが、その動作方法に着目することによって測定方法として本発明を把握することができるのは勿論である。
【0059】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように本発明によれば、次の効果を奏する。
【0060】
試料表面において凹凸形状等の測定で、測定箇所として複数のサンプリング位置を設定し、サンプリング位置の間の探針の移動では、試料表面から退避した状態で移動を行い、サンプリング位置では探針を接近させて測定を行うようにし、かつその測定動作中においてサーボ制御系に基づく試料・探針間距離に関する制御を継続したままとしたため、従来通りの通常の狭域測定、広域測定、アスペクト比の高い探針を用いた高アスペクト比の試料表面の測定等を、各サンプリング位置で探針の接近・退避の駆動を良好な状態を保って行うことにより、探針を損傷させることなく、円滑かつ迅速に行うことができる。
【0061】
また広域測定を実用的なものとし、サンプリング位置での探針の接近・退避動作を、パルス駆動を利用して、簡単な動作制御で瞬時に行うことができ、接近動作に要する時間を短縮できるので、全体の測定時間を短くできる。またかかる構成によって、mm級の広い走査範囲に対する試料表面の凹凸情報をnm以下の分解能で測定し、かつ測定時間を短縮し、探針の摩耗を低減し、探針の摩耗に起因する測定精度の低下を防止することができる。
【0062】
半導体基板のごとく試料の表面に形成される凹凸形状がアスペクト比の高い穴や溝等である場合には、アスペクト比の高い細長い探針が用いられるが、このような場合にもサーボ制御を継続したまま探針の接近・退避の動作を行うことができるので、探針を損傷することなく、迅速に探針の接近・退避を行うことができ、円滑に測定を行うことができる。
【0063】
また試料表面を探針で広域走査できる移動機構を設け、試料表面に対する探針の高さ位置を変化させる圧電素子を単体で構成し、サーボ制御ループで基準距離を設定する信号に接近・退避動作用の信号を重畳することによって、単体の圧電素子で各サンプリング位置での接近・退避動作および測定動作を行えるようにしたため、mm級の広い走査範囲に対する試料表面の凹凸情報をnm以下の分解能で測定することができ、広域測定において測定時間を短縮し、かつ探針の摩耗を低減することができ、さらに探針の摩耗に起因する測定精度の低下を防止することができる。
【0064】
さらに、上記の移動機構と、測定を行うサンプリング位置でサーボ制御系に基づき試料の表面に対する探針の高さ方向の位置を基準距離に一致させる圧電素子と、サンプリング位置で探針を試料の表面に接近させ、サンプリング位置の間の移動では探針を試料の表面から退避させる圧電素子等の接近・退避駆動装置とを備え、サーボ制御系に基づき試料と探針の間の距離に関する制御を継続したまま、複数のサンプリング位置の各々で接近・退避駆動装置によって探針の接近・退避を行い、サンプリング位置でデータを取得したため、前述した効果と同等な効果で広域測定を行えると共に、従来の走査型プローブ顕微鏡に対して接近・退避動作を行うための構成を付加するだけで広域測定や高アスペクト比の測定等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の第1実施形態の全体システムを示す構成図である。
【図2】第1実施形態による走査型プローブ顕微鏡の動作(測定方法)を説明する図である。
【図3】本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の第2実施形態の全体システムを示す構成図である。
【図4】本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の第3実施形態の全体システムを示す構成図である。
【図5】第3実施形態による走査型プローブ顕微鏡の動作(測定方法)を説明する図である。
【図6】接近・退避動作で広域測定を行う探針の動きを説明する図である。
【符号の説明】
12 XYスキャナ
13 試料
14 探針
15 カンチレバー
16 圧電素子
30 サーボ制御装置
31 基準距離設定器
32 加算器
33 減算器
34 制御回路
35 接近・退避信号供給器
40 制御装置
51 サーボ用圧電素子
52 接近・退避用圧電素子
Claims (7)
- 試料の表面に臨む探針と、前記試料の表面に対する前記探針の高さ方向の変位を検出する変位検出機構と、この変位検出機構が出力する検出信号に基づいて前記試料と前記探針の間の距離が探針・試料間に作用する物理量に基づき基準距離に保持されるように制御する制御手段とを備え、複数のサンプリング位置の各々で前記探針と前記試料の間を前記基準距離に保持しながら前記表面を前記探針で走査して前記表面を測定する走査型プローブ顕微鏡において、
前記探針による前記試料の表面の走査を行わせる移動機構と、
前記探針を前記試料の表面に対する高さ方向に変位させる圧電素子と、
前記基準距離を決める電圧信号を与える基準距離設定手段と、
絶対値が前記基準距離を決める電圧信号より大きく極性が逆の退避時の電圧値を持ち、前記サンプリング位置で前記探針を前記試料の表面に対して、探針・試料間に作用する物理量が生じる距離まで接近させ、その後、探針・試料間に作用する物理量が生じない距離まで退避させるための電圧信号を与える接近・退避信号供給手段と、
前記基準距離を決める電圧信号と前記接近・退避の電圧信号を合成する合成手段と、
前記合成手段の出力する電圧信号と前記検出信号との差を算出し、偏差信号を出力する減算手段とを備え、
前記制御手段は、前記偏差信号に基づいて制御用電圧信号を生成し、この電圧信号を前記圧電素子に印加してその伸縮動作を制御するようにしたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。 - 前記移動機構は、前記探針による試料表面走査を広域的に行わせる機構であることを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡。
- 前記探針は高アスペクト比を有する探針であり、前記探針はアスクペクト比の高い前記試料の表面を測定することを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡。
- 前記制御手段は、測定のための前記高さ方向のサーボ制御を継続したまま、測定を行うサンプリング位置で前記探針を前記試料の表面に対して接近・退避させ、或るサンプリング位置から次のサンプリング位置へ移動するとき退避状態に保持することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
- 前記接近・退避信号供給手段が出力する前記接近・退避の電圧信号は周期的に発生するパルス信号であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
- 前記移動機構は、前記試料を搭載し、前記試料を試料表面に平行な方向にmmの長さ単位で移動させる試料ステージであることを特徴とする請求項2記載の走査型プローブ顕微鏡。
- 前記圧電素子の伸縮による変位を検出する変位計を設け、この変位計の出力する信号に基づいて前記試料の表面凹凸を測定することを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
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