JP3957163B2 - 温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤 - Google Patents

温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤に関し、更に詳しくは、型と被加工物との間に供給され、両者間の摩擦を軽減する潤滑性や接触時間を短くするための離型性に優れると共に、作業環境及び作業効率の悪化を抑制し、使用後の排水処理性に優れる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤に関する。
本発明は、温間又は熱間領域における金属の鍛造、押出し、プレス及び伸線等の塑性加工に利用できる。
【0002】
【従来の技術】
従来から金属の塑性加工において、金属材料と工具あるいは金型間の摩擦を低減し、金属の塑性変形を一層円滑に行うと共に、工具あるいは金型の冷却、保護及び工具や金型からの金属材料の離型を容易にする目的で潤滑剤が使用されている。このような潤滑剤としては、例えば、黒鉛粉末を油又は水に分散した黒鉛系潤滑剤が挙げられる。黒鉛系潤滑剤は、潤滑性及び離型性に優れていることから、塑性加工分野では広く利用されている。
【0003】
しかし、黒鉛系潤滑剤では、塗布する際に黒鉛粉末が飛散したり、機械に付着したりして作業環境を悪化させるおそれがあるという問題がある。また、黒鉛系潤滑剤では、使用回数を重なるにしたがって、黒鉛粉末が潤滑剤を塗布するパイプやノズルに詰まり、作業に支障をきたすと共に、これらを清掃するために余分な作業を必要とする。その結果、塑性加工の作業効率を大きく悪化させるという問題もある。また、黒鉛系潤滑剤は黒鉛粉末を含有しているため排水処理をすることが技術的に困難であり、一般的には焼却あるいは埋め立て処理している。そこで、このような黒鉛系潤滑剤の問題点を解決するために、黒鉛粉末を含有しない無黒鉛型の潤滑剤が求められている。
【0004】
かかる観点から、無黒鉛型の潤滑剤としてガラス系潤滑剤及びカルボン酸系潤滑剤が開発されている。上記ガラス系潤滑剤としては、例えば、リン酸、リン酸塩、ケイ酸及び硼酸のアルカリ金属塩からなるガラス系潤滑剤(特開昭59−64698号公報)が知られている。また、上記カルボン酸系潤滑剤としては、アジピン酸塩と有機増粘剤(特開昭55−139498号公報)、フタル酸アルカリ金属塩と有機増粘剤(特開昭58−84898号公報)、芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩(特開昭60−1293号公報)、マレイン酸アルカリ金属塩と有機増粘剤(特開昭61−103996号公報)、フマル酸アルカリ金属塩と有機増粘剤(特公昭62−12960号公報)、カルボキシル基を有する芳香族多カルボン酸のアルカリ塩(特開昭62−50396号公報)、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(特開昭62−81493号公報)、及びトリメリット酸とアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物とのポリカルボン酸反応生成物(特公平4−60519号公報)などが知られている。
【0005】
しかし、上記のガラス系潤滑剤では、加工数の増加に伴って、金型の凹部あるいはコーナー部に潤滑剤の不揮発成分や、潤滑剤の不揮発成分と金属摩耗粉との混合固着物が堆積し易く、その結果、塑性加工後の製品に欠肉が生じ易いという問題がある。また、上記カルボン酸塩と有機増粘剤からなる潤滑剤は、作業環境や作業効率の悪化及び金型への堆積は解消される反面、上記黒鉛系潤滑剤と比較して潤滑性及び離型性がやや劣っている。しかも、上記カルボン酸塩と有機増粘剤からなる潤滑剤では、増粘剤を併用しているため、潤滑剤の粘度が高くなり、その結果、冷却性が低下して金型温度の上昇(即ち、連続加工における定常状態での金型温度が高くなること。)により、金型寿命を低下させるという問題がある。
【0006】
更に、潤滑剤の凝集処理性が悪いと、排水処理後のCOD値が高くなるために、河川に放水できないといった問題がある。今後は、環境保護に関する法規制は厳しさを増すことが考えられ、排水処理性に優れる潤滑剤が切望されているのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記課題を解決するものであり、型と被加工物との間に供給され、両者間の摩擦を軽減する潤滑性や接触時間を短くするための離型性に優れると共に、作業環境及び作業効率の悪化を抑制し、且つ、排水処理性に優れる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の水溶性高分子化合物を適用することによって、課題を解決出来ることを見いだした。即ち、分子内にイミド基を有し、且つ、重量平均分子量が特定範囲内である高分子化合物を使用することにより、潤滑性及び離型性に優れると共に、作業環境及び作業効率の悪化を抑制し、且つ排水処理性に優れる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤を完成するに至った。
【0009】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤は、分子内にイミド基を有し、且つ、重量平均分子量が1000〜100万である高分子化合物を含み、該高分子化合物は、(A)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸と無水マレイン酸との共重合体の一部をイミド化したイミド化物、又は(B)α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合体の一部をアンモニアによりイミド化したイミド化物であることを特徴とする。
上記高分子化合物は、アクリル酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化したイミド化物とすることができる。
上記α−オレフィンは、イソブチレンとすることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について更に詳細に説明する。
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤を構成する上記高分子化合物は、分子内にイミド基を有する。この「イミド基」とは、イミノ基(=NH)をもつアミドをいい、通常、酸無水物とアンモニアの作用で生成する。また、加熱しただけで酸無水物を生成する酸の場合は,そのアンモニウム塩を加熱してもイミドを生ずる。例えばマレイン酸無水物をアンモニアガスでイミド化することができる。本発明において、上記高分子化合物の分子内にイミド基を形成する方法については特に限定はない。例えば、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸をイミド化して得られるイミド化誘導体の単独重合、又はこれと他の単量体との共重合によって得ることができる。あるいは、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸等の単独重合体、又はこれと他の単量体との共重合体をイミド化することによっても得ることができる。
【0011】
上記高分子化合物の重量平均分子量は1000〜100万、好ましくは1万〜80万、更に好ましくは1万〜50万、より好ましくは2万〜30万、特に好ましくは3万〜20万、最も好ましくは4万〜15万である。この重量平均分子量が1000未満では、従来の白色系潤滑剤に使用されているイソフタル酸ナトリウムと同等以下の潤滑性及び離型性しか示さないため好ましくない。一方、この重量平均分子量が100万を超えると、潤滑性は良好になる反面、増粘のためスプレー塗布が困難になり、また、金型汚れなどの問題が発生し、使用が困難になるため好ましくない。
【0012】
上記高分子化合物の含有量については特に限定はないが、上記温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤100質量%中、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは5〜60質量%、更に好ましくは10〜50質量%である。特に好ましくは10〜40質量%である。1質量%以上とすると、潤滑性の低下による製品形状の悪化をきたすことを抑制できるので好ましい。また、70質量%以下とすると、潤滑剤の液安定性の悪化による液粘度の上昇を抑制し、使用液のスプレー塗布を円滑に行うことができるので好ましい。
【0013】
上記高分子化合物は、分子内にイミド基を有していれば、その構造、性質等については特に限定はない。例えば、上記高分子化合物として、(A)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸及びその誘導体のうちの少なくとも1種の(共)重合体の一部をイミド化した高分子化合物の1種又は2種以上を用いることができる。
【0014】
上記「炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸」としては、例えば、炭素−炭素二重結合を有する脂肪族カルボン酸、炭素−炭素二重結合を有する脂環式カルボン酸、炭素−炭素二重結合を有する芳香族カルボン酸等が挙げられる。また、上記「炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸」は、モノカルボン酸でもよく、ジカルボン酸、トリカルボン酸等でもよい。上記「炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸」として具体的には、例えば、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸及びウンデシレン酸等が挙げられる。このうち、特にマレイン酸が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0015】
また、上記炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸の「誘導体」の例としては、エステル、酸塩化物、アミド、無水物等が挙げられる。具体的には、エステルとして、2−メチルマレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル及びマレイン酸モノフェニルエステル等が挙げられる。また、無水物としては、無水フタル酸、無水マレイン酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0016】
上記(A)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸及びその誘導体のうちの少なくとも1種の(共)重合体の一部をイミド化した上記高分子化合物の具体例としては、アクリル酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、マレイン酸の重合体あるいはアクリル酸の重合体をイミド化した化合物、及びアクリルアミドと無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0017】
また、上記高分子化合物として、(B)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸若しくはその誘導体及び上記高分子化合物を構成する単量体と重合可能な他の単量体のうちの少なくとも1種との共重合体、の一部をイミド化した高分子化合物の1種又は2種以上を用いることができる。ここで、上記「炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸又はその誘導体のうちの少なくとも1種」は、既に詳述した通りである。
【0018】
また、上記「炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸」としては、炭素−炭素二重結合を有する脂肪族スルホン酸、炭素−炭素二重結合を有する脂環式スルホン酸、炭素−炭素二重結合を有する芳香族スルホン酸等が挙げられる。上記「炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸」として具体的には、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルシクロヘキシルスルホン酸等が挙げられる。また、上記炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸の「誘導体」としては、エステル、アミド、無水物等が挙げられる。
【0019】
上記「他の単量体」とは、上記高分子化合物を構成することができる単量体であって、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸又はその誘導体、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸又はその誘導体と重合可能であり、且つ、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸又はその誘導体、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸又はその誘導体以外の単量体をいう。上記「他の単量体」としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1―ペンテン、1−ドデセン及び1−テトラデセン等のα−オレフィン、スチレン等の芳香族ビニル化合物、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物、ブタジエン、イソプロピレン等のジエン系化合物、及びビニル基やアリル基等のアルケニル基を有するフェノール系化合物並びにその誘導体(エステル等)等が挙げられる。この中で、特にα−オレフィンが好ましく用いられる。特にイソブチレンを用いると、造膜性、皮膜強度、皮膜密着性に優れ、また、加工時の皮膜追従性も良好であることから好ましい。また、上記「他の単量体」は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記(B)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸若しくはその誘導体及び上記高分子化合物を構成する単量体と重合可能な他の単量体のうちの少なくとも1種との共重合体、の一部をイミド化した高分子化合物としては、例えば、▲1▼炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸若しくはその誘導体の少なくとも1種との共重合体、▲2▼炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、上記高分子化合物を構成する単量体と重合可能な他の単量体のうちの少なくとも1種との共重合体、及び▲3▼炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、上記高分子化合物を構成する単量体と重合可能な他の単量体のうちの少なくとも1種との共重合体等が挙げられる。その具体例としては、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、スチレンスルホン酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、アクリル酸若しくはメタクリル酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、イソブチレンとアクリル酸若しくはメタクリル酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物等が挙げられる。
【0021】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤中、上記高分子化合物は、通常は、ナトリウム塩又はカリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩の形で添加されるので、上記高分子化合物には、このような塩も含まれる。また、上記高分子化合物は、水系において、イオンの状態で存在するが、本発明における高分子化合物には、このイオン状態のものも含まれる。尚、本発明の上記高分子化合物は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の高分子化合物の分子内におけるイミド基の存在割合については特に限定はない。本発明において、分子内のイミド基の存在割合の指標となるイミド化率は、通常1〜80モル%、好ましくは5〜75モル%、より好ましくは10〜70モル%である。上記イミド化率を1モル%以上とすると、イミド化していない化合物と比べ潤滑性及び離型性の向上が認められるので好ましい。一方、イミド化率が80モル%を越えるまでイミド化するのは技術的に困難を要することから、上記イミド化率は80モル%以下とするのが好ましい。また、イミド化率が75モル%を越えるまでイミド化を行う場合は長時間を有することから、上記イミド化率は75モル%以下とするのがより好ましい。
【0023】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤には、通常、水が配合される。この水の配合量については特に限定はないが、通常は、本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤100質量%中、10〜99.5質量%、好ましくは40〜95質量%、更に好ましくは60〜89質量%である。この水の含有量を10質量%以上とすることにより、潤滑剤の粘度を低くして作業性の悪化を抑制することができるので好ましい。また、この水の含有量が99.5重量%以下とすることにより、潤滑成分の不足による潤滑性の低下を抑制し、塑性加工後の製品形状の悪化を防ぐことができるので好ましい。尚、本発明では、上記のように最初から水を配合した潤滑剤とするだけでなく、使用時に水を加えて所定の水系潤滑剤として使用することもできる。また、必要に応じて、使用の際に更に水で稀釈して使用することもできる。
【0024】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤は、上記高分子化合物の含有を必須とするが、その他に、通常、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤としての基本性能を維持するために、本発明の目的を阻害しない範囲で、種々の添加剤を必要に応じて適宜添加することができる。このような添加剤としては、例えば、防菌防黴剤、消泡剤、金属の防錆・防食剤、界面活性剤等が挙げられる。また、その他に、一層過酷な加工条件で使用された場合の焼付き防止等の性能を向上する目的で、カルボン酸塩、極圧添加剤、ステアリン酸カルシウム等の金属セッケン、ポリエチレンワックスエマルション、ポリエチレンワックス粉体、ポリアミド粉末、ポリイミド粉末、ポリエチレンテレフタレート粉末等の有機粉体を添加することもできる。
【0025】
【実施例】
以下に実施例を示して、本発明の効果を説明する。尚、本発明はこれらに限定されるものでない。
(1)温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤の調製
表1に示す各成分を表2に示す質量%の割合で常法により配合することにより、実施例1〜6及び比較例1〜7の各温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤を調製した。また、表1に示す高分子化合物のイミド化率(モル比%)は、高分子化合物中に含まれる窒素分の含有率を全窒素測定機(三菱化成製TOX−100型)にて測定し、イミド化率に換算して示した。更に、重量平均分子量は、GPC(Gel permeation chromatograph)により測定(測定機器、東ソー(株)製HPLCシステム)した。
【0026】
【表1】
Figure 0003957163
【0027】
【表2】
Figure 0003957163
【0028】
(2)潤滑性能評価
上記(1)で調製した実施例1〜6及び比較例1〜7の各温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤を水で10倍に希釈して稀釈液を調製した。そして、以下の表3に記載の試験条件及び塗布条件で上記稀釈液を金型に塗布し、前方押出し試験を行うことにより、潤滑性を評価した。その結果を上記表2に併記する。尚、表2の最大押出し荷重(t)は3回の試験の平均値であり、押出し長さ(mm)はフランジの厚みを引いた長さ(図1のL)であり、3回の試験の平均値である。また、潤滑性の評価にあたって、押出し長さと最大押出し荷重は相関し、押出し長さが長い場合は、通常、最大押出し荷重が小さくなることを考慮した。このため、潤滑性の指標としては、最大押出し荷重が小さく、押出し長さが長いほど潤滑性は優れるものとして、以下の基準により潤滑性評価を行った。
▲1▼「◎」:黒鉛系潤滑剤である比較例7よりも優れる
▲2▼「○」:比較例7と同等
▲3▼「△」:比較例7よりやや劣るが、カルボン酸塩系潤滑剤である比較例6よりも優れる
▲4▼「×」:比較例6と同等以下
【0029】
【表3】
Figure 0003957163
【0030】
(3)作業環境評価
作業環境評価は、塗布する際に飛散したり、機械に付着したり、機械周りの汚れの程度を目視にて判断し、以下の基準により評価を行った。その結果を上記表2に併記する。
▲1▼「◎」:カルボン酸塩系潤滑剤である比較例6と同等以上
▲2▼「○」:比較例6より劣るが、黒鉛系潤滑剤である比較例7と同等以上
▲3▼「×」:比較例7と同等かそれより劣る
【0031】
(4)排水処理性評価
以下の方法により凝集処理を行って、排水処理性を評価した。
即ち、上記(1)で調製した実施例1〜3及び比較例1〜9の各温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤を水で10倍に希釈した稀釈液を撹拌しながら(120〜150rpm)、硫酸を加えて酸性(pH3〜4)にした。次いで、硫酸バンド(Al換算で8%)を加え、更にpHが6〜8になるように中和剤(水酸化ナトリウム水溶液)を加えた。その後、撹拌速度を30〜60rpmにして、アニオン性高分子凝集剤(栗田工業(株)社製、商品名「EDPフロック353」)25ppmを加え、30分間静置させた後、上澄み液をNO,5A濾紙で濾過した。そして、この濾液のCOD値を過マンガン酸カリ滴定法(JIS K0102)により測定した。排水処理性の評価は、凝集処理後のCOD値が1000ppm未満の場合を「◎」、1000ppm以上5000ppm未満を「○」、5000ppm以上10000ppm未満を「△」、10000ppm以上を「×」として表2に示した。
【0032】
(4)実施例の効果
表2より、従来から多用されている黒鉛系潤滑剤である比較例7は、潤滑性についてはやや良好なものの、廃水処理後のCOD値が良好でなく、また、作業環境が悪いことが判る。更に、無黒鉛系潤滑剤である比較例6は作業環境がよいものの、潤滑性及び廃水処理後のCOD値が悪いことが判る。
また、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤中の高分子化合物のイミド化率が0%(即ち、分子内にイミド基を有しない。)である比較例1、2及び4は、廃水処理後のCOD値が実施例に比べて良くないことが判る。更に、比較例2及び4は潤滑性もあまり良好でないことが判る。また、高分子化合物の重量平均分子量が本発明の上限を超える比較例3は、廃水処理後のCOD値があまり良好ではなく、高分子化合物の重量平均分子量が本発明の下限を下回る比較例5は、廃水処理後のCOD値は良好である反面、潤滑性が良好でないことが判る。
【0033】
これに対し、本発明の範囲内である実施例1〜6の各温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤は、いずれも押出し荷重が70〜72トンと小さく、また、押出し長さも24mm以上と長いことから、優れた潤滑性を示していることが判る。また、実施例1〜6はいずれの試料も作業環境及び廃水処理後のCOD値に優れることが判る。
以上より、分子内にイミド基を有し、且つ、適切な重量平均分子量の高分子化合物を用いるという本発明の構成を整えることにより、種々の性質に優れた潤滑剤とすることができることが判る。
【0034】
【発明の効果】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤は、分子内にイミド基を有し、且つ、重量平均分子量が1000〜100万である特定の高分子化合物を含有する。このため、従来の黒鉛系潤滑剤と同等以上の潤滑性及び離型性を示すと共に、かかる黒鉛系潤滑剤と異なり、機械周りの汚れも少なく、作業環境の悪化や作業効率の低下を抑制することができる。特に、凝集処理性が向上し、凝集処理後の廃水処理後のCOD値を低下させることができる。
従って、本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤は、潤滑性及び離型性に優れ、排水処理が可能なことが求められる温間又は熱間領域を対象とする金属の鍛造、押出し、プレス及び伸線等の塑性加工に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】前方押出し試験における加工後のワークを表す図である。

Claims (3)

  1. 分子内にイミド基を有し、且つ、重量平均分子量が1000〜100万である高分子化合物を含み、該高分子化合物は、
    (A)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸と無水マレイン酸との共重合体の一部をイミド化したイミド化物、又は
    (B)α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合体の一部をアンモニアによりイミド化したイミド化物、
    であることを特徴とする温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤。
  2. 上記高分子化合物は、アクリル酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化したイミド化物である請求項記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤。
  3. 上記α−オレフィンは、イソブチレンである請求項記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤。
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