JP3951545B2 - キシロオリゴ糖の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リグノセルロース材料を原料とするパルプ製造工程におけるパルプのヘミセルラーゼ処理反応液よりキシロオリゴ糖を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
キシロオリゴ糖は、腸内細菌の選択的な増殖促進効果を通しておなかの調子を良好に保つ機能を有する特定保健用食品として認定された乳酸菌飲料、チョコレートなどに利用される有用な糖類であり、医薬、サニタリー製品の分野おいても乳化剤、皮膚の保湿成分として利用されている。また、ヒトの食品用途だけではなく家畜の飼料の添加剤としても利用されている。
【0003】
一般に、特定保健食品用に用いられるオリゴ糖類は、その殆どが整腸作用、即ち「腸内悪玉菌」である大腸菌や腸内腐敗発酵菌であるクロストリジウム属の菌の数を減らし、相対的に「腸内善玉菌」といわれるビフィズス菌を増加させる作用を持っている。たとえば、小麦フスマはキシランを主鎖とするヘミセルロースからなる多糖であり、難分解性の植物繊維として整腸作用を持つ食品として食品に添加されている。
【0004】
小麦フスマの整腸作用は、小麦フスマが腸内において腸内細菌により分解されたキシロオリゴ糖に由来するといわれている。小麦フスマ由来のキシロオリゴ糖が腸内善玉菌のビフィズス菌の選択的増殖を促し、一方で腸内悪玉菌である大腸菌の数を相対的に低下させるとも言われている。大腸菌や腸内腐敗発酵菌は、腸内で増殖しながら発ガン性物質を生産する事が知られており、大腸菌や腸内腐敗発酵菌の数を腸内で減らす事は長期にわたる健康を考えた場合に重要である。
【0005】
キシロオリゴ糖を摂取する事により得られる選択的増殖促進効果は、鎖長が長いほど優れていると言われている。特に3量体以上のキシロオリゴ糖が選択的増殖性に有効である。
現在上市されているキシロオリゴ糖は、小麦フスマやコーンコブといった草本類を原料として作られているが、これらの草本植物中のキシラン主鎖にはグルクロン酸など他の糖が側鎖に分枝している。側鎖が多いキシランからはキシロースのみを構成糖とするオリゴ糖は、重合度が比較的小さいものしか生成する事ができない。現状では、上市されているキシロオリゴ糖を構成するオリゴ糖は2量体を主成分とするものがほとんどであり、2量体より重合度の大きなキシロオリゴ糖の開発が望まれている。
【0006】
キシロオリゴ糖は、植物の主要構成成分の一つであるキシランから製造されている。キシランはキシロースのみからなる直鎖状のキシランとしてエスパルト、タバコの茎が知られているが、産業上利用可能な形態のキシランとしては、穀類製造の副産物として得られるコムギフスマ、コーンコブなどに含まれるアラビノキシラン、主に針葉樹に含まれるグルクロノアラビノキシラン、広葉樹のグルクロノキシランなどが知られている。これら、産業上利用可能な形態のキシランは構成糖中にキシロース以外のアラビノース、グルクロン酸、4−O−メチルグルクロン酸、グルコース、ガラクトースなどが含まれており、植物の種類によりキシロースと他の糖類との構成糖組成が異なっている。
【0007】
キシランの製造方法としては、特許第146374号公報に記載のように、ペントザンを多く含むバガス他、禾本科、豆科、亜麻科植物を酢酸のような有機酸溶液の存在下で高圧下で蒸煮し、原料中に存在する難溶性ペントザンを可溶性とし、維管束以外の組織を脆弱化し、これを粉砕洗浄して得た繊維束に公知のソーダ法、アルカリ性亜硫酸法、硫酸塩法などのパルプ化法を施し、ペントザンを分取できることが示されている。
キシロースは木材中にも多量に含まれており、全重量中のキシラン含量は針葉樹の場合約6ないし10%、広葉樹においては約20%を占める主要構成成分である〔「木材化学」右田伸彦他編、共立出版p.73(1968)〕。これら木材中のキシランを抽出し、キシロオリゴ糖やキシロース、キシリトールを製造することも行われている。
【0008】
パルプは、現在、主として木材チップから化学的な処理又は機械的な処理により製造している。リグノセルロース材料、特に木材チップからセルロース分であるパルプを採取した残りの構成成分はリグニンやヘミセルロースが主なものであるが、これらはパルプ排液中に遊離される。
パルプ排液から特定の成分を単離して、食品又は食品添加物に利用する技術はこれまでに多く実用化されている。古くはバニリンが亜硫酸パルプの排液を160℃付近でアルカリ性で空気又は酸素で酸化して製造されていた。
【0009】
また、クラフトパルプ製造時における前加水分解法によるパルプ化工程の排液中に遊離されたヘミセルロースからキシロースが製造されていた(特公昭43−731号公報参照)。
また、亜硫酸パルプの排液中に含まれる多量の糖を培養基として酵母を製造し、酵母自体もしくはその組成物として含まれる核酸などの調味成分を製造することが行われてきた。他にも、亜硫酸パルプ排液から蛋白質を製造する方法(特開昭51−101193号公報)、アルコールを製造する方法(特開昭56−144742号公報)などの技術が開発されている。
【0010】
パルプをキシラナーゼで処理することは、Viikari ら〔L. Viikari et al., Biotechnol. Pulp Paper Ind.(Stockholm) pp.67-69(1986)〕が報告し、パルプの漂白性が改善されることを述べている。またMoraらは、パルプをキシラナーゼで処理するとパルプの強度の改善に効果があるとして報告し、この中で、カバクラフトパルプをキシラナーゼ処理した反応ろ液中にキシロースならびに8量体までのキシロオリゴ糖が含まれていることを述べている〔F. Mora et al., J. Wood Chem. Technol., vol. 6, pp.147-165(1986)〕。またSeniorらも、アスペン材のクラフトパルプをキシラナーゼ処理した反応ろ液中にキシロース及びキシロオリゴ糖が含まれることを述べている〔D. J. Senior et al, Biotechnol. Lett., vol. 10, pp.907-912(1988)〕。しかしながら、これらのいずれの報告もパルプの酵素処理反応ろ液からキシロオリゴ糖を回収することは述べていない。
【0011】
一方、キシロオリゴ糖を製造する方法としては、特開昭53−35005号公報(米国特許明細書第4181796 号に相当)に、植物性原料を酢酸を加えて160から230℃の温度で加圧飽和蒸気で処理し、水で抽出されるキシラン及びキシランフラグメントを単糖や他の不純物から分離する方法が述べられている。この方法によれば、キシラン及びキシランフラグメントはOH型の強塩基性イオン交換樹脂ならびに限外ろ過により効率良く精製することができる。
また、特開昭61−242592号公報によれば、バチルス属の微生物の生産するキシラナーゼでキシランを処理し、反応ろ液よりキシロオリゴ糖を製造する方法として、キシラナーゼを加熱失活後ろ過して透明な反応ろ液を得、これを濃縮することによってシロップを、また、凍結乾燥することによって粉末製品を得ることができることが記述されている。
【0012】
同様に、特開昭63−112979号公報によれば、広葉樹キシランをトリコデルマ由来のキシラナーゼで処理した反応ろ液よりキシロオリゴ糖を回収する方法として、活性炭で脱色、フィルタープレスで活性炭を除去し、15%エタノールで活性炭に吸着した糖を回収し、アンバーライトIR−120B及びアンバーライトIR−410のイオン交換樹脂で処理、脱塩した後、逆浸透膜を用いた膜濃縮によりキシロビオースに富むキシロオリゴ糖が得られることが示されている。
【0013】
しかしながら、これらのいずれの報告も、化学パルプにヘミセルラーゼを作用させた反応ろ液からキシロオリゴ糖を回収、精製する安価な方法を述べていない。
パルプにヘミセルラーゼを作用させた反応ろ液中に見いだされるキシロオリゴ糖は、上述の特開昭63−112979号公報に示された方法に従って回収精製することはコストがかかり、実用的ではない。その理由は、パルプの酵素処理排液は容量が大きく、しかも糖の含量が低いこと、パルプの酵素処理反応排液中にはリグニンやセルロース、ヘミセルロースから蒸解や酸素晒の工程中に生じる種々の有機酸などの不純物が大量に存在することが主な理由である。すなわち分取精製に必要な活性炭やイオン交換樹脂の量が多大であり、また、逆浸透膜による濃縮も排液量が多く、リグニンなどの不溶成分が大量に含まれるために通常より大きな設備を必要とするという問題点があった。
【0014】
また、キシロオリゴ糖の一般的な製造原料には、産業上利用可能な形態のキシランとして、穀類製造の副産物として得られるコムギフスマ、コーンコブなどに含まれるアラビノキシラン、広葉樹のグルクロノキシランなどがある。これらの原料を上述の方法に従って抽出し、キシラナーゼなどのヘミセルラーゼで処理することにより単量体から10量体程度、主として単量体から5量体程度のキシロオリゴ糖を構成成分とするキシロオリゴ糖を製造している。これら、産業上利用可能な形態のキシランには、構成糖中にキシロース以外のアラビノース、グルクロン酸、4−o−メチルグルクロン酸、グルコース、ガラクトースなどが含まれており、また単糖も多く含むまれている(例えば特開平4−53801号公報参照)。純粋なキシロースのみからなるキシロオリゴ糖を得るには、さらに精密な精製を行う必要があり、この糖の安価な製造方法が望まれていた。
【0015】
クラフトパルプに対するキシラナーゼ処理は、化学薬品を用いる漂白シーケンスに於いて漂白薬品の減添を可能にする事は知られている。
キシラナーゼ処理では、パルプ中のキシランをキシラナーゼで加水分解するため、漂白工程の系内の排水中には多量のキシロース、キシロオリゴ糖が遊離してくる。製紙工業においては、工程水の使用量を低減するために、漂白シーケンス中の1つの工程に用いた処理水をその前の漂白工程に利用している。したがって、酵素段より前の工程中に使用する水は、キシラナーゼによって遊離したキシロースやキシロオリゴ糖などのキシラン分解物を含むものである。
【0016】
これらのキシロース、キシロオリゴ糖は、還元基を末端にもつため酸素漂白などの酸化漂白工程でアルデヒド基が酸化され、カルボン酸や更に酸化されたフラン誘導体及び着色したフラン縮合物となり、漂白薬品を消費する。したがって、これらの糖類によって消費される分の漂白薬品を追加する必要がある。また高アルカリ条件下で行う酸素漂白では、アルデヒド基が酸化されて生じるカルボン酸により低下するpHを補償するためアルカリの添加率を高める必要がある。
【0017】
キシラナーゼ処理で生じるキシロースやキシロオリゴ糖類を前段の漂白工程に戻さない方法の一つとしては、これら還元性の糖類を除去し、還元糖類を含まない処理水を前段に戻すことが考えられる。しかしながら、パルプ排液は前述のように大量に発生するため、通常の逆浸透膜法などでは多大な設備が必要であると考えられ、安価な処理方法は報告されていなかった。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、パルプ排液中のキシロオリゴ糖に着目し、鋭意研究を重ねた結果、キシロオリゴ糖がパルプ排液中に何らかの物質と結合して存在すること(以下、「キシロオリゴ糖複合体」という)を見いだし、逆浸透膜や逆浸透膜よりも分画分子量の大きい膜による濃縮ならびに酸処理により安価にキシロオリゴ糖を製造する方法を見いだすことができた。
従って、本発明は、製紙用パルプのヘミセルラーゼ処理後の排液中に含まれるキシロオリゴ糖の安価な回収精製方法を提供することを目的とする。
また、ヘミセルラーゼ処理によって漂白排液中に遊離されるキシロオリゴ糖が主因となる酸素漂白工程の漂白性の悪化を防止することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明は、次の各発明を包含する。
(1) リグノセルロース材料を原料とするパルプのヘミセルラーゼ処理工程から得られる反応ろ液から、膜ろ過法により分子量1500以上のキシロオリゴ糖複合体を含む濃縮液を得る工程、ついで、該濃縮液からキシロオリゴ糖を分離、回収する工程を含むことを特徴とする、キシロオリゴ糖の製造方法。
【0020】
(2) リグノセルロース材料を原料とするパルプのヘミセルラーゼ処理工程から得られる反応ろ液に無機系凝集剤及び高分子系凝集剤から選ばれる凝集剤を添加し、生成する凝集フロックをろ過除去する工程、該ろ過除去工程より得られるろ液から、膜ろ過法によりキシロオリゴ糖複合体を含む濃縮液を得る工程、ついで、該濃縮液からキシロオリゴ糖を分離、回収する工程を含むことを特徴とする、キシロオリゴ糖の製造方法。
【0021】
(3) ヘミセルラーゼがキシラナーゼである、(1) 項又は(2) 項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
(4) リグノセルロース材料を原料とするパルプが化学パルプである、(1) 項〜(3) 項のいずれか1項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【0022】
(5) 化学パルプが広葉樹クラフトパルプである、(1) 〜(4) 項のいずれか1項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
(6) 化学パルプが酸素漂白後のパルプであることを特徴とする(1) 〜(5) 項のいずれか1項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【0023】
(7) 前記分子量1500以上のキシロオリゴ糖複合体を含む濃縮液からキシロオリゴ糖を分離、回収する工程は、該キシロオリゴ糖複合体を含む濃縮液をpH2〜4の間に調整し、100〜200℃、好ましくは105〜170℃、より好ましくは110〜125℃で、1分〜120分間加熱処理してキシロースの2量体〜10量体を含む混合物を得る工程である、(1) 〜(6) 項のいずれか1項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【0024】
(8) 前記加熱処理してキシロースの2量体〜10量体を含む混合物を得る工程は、加熱処理に引き続いて、処理液から膜処理によりキシロースの2量体〜10量体を含むキシロオリゴ糖の混合物を分離取得する工程である、(7) 項記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
(9) 前記膜処理により分離、回収したキシロオリゴ糖を、さらにイオン交換樹脂により脱色、精製することを特徴とする、(8) 項記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明が処理対象とする反応ろ液は、ヘミセルラーゼ処理工程においてリグノセルロース物質であるパルプとして化学パルプ、機械パルプのいずれをヘミセルラーゼ処理して得られる反応ろ液であってもよい。化学パルプの中では、クラフトパルプ、ソーダパルプ、特に広葉樹クラフトパルプのヘミセルラーゼ処理工程から得られる反応ろ液が好ましい。さらに、広葉樹クラフトパルプの蒸解後のパルプ、またさらには蒸解後のパルプを酸素漂白したパルプのヘミセルラーゼ処理工程からの反応ろ液が望ましい。
【0026】
本発明に使用する反応ろ液を生成するヘミセルラーゼ処理工程では、ヘミセルラーゼはキシラナーゼ活性を含むものであればいずれも用いることができる。たとえばカルタザイム、パルプザイム、エコパルプ、スミチームなどの市販の酵素製剤や、トリコデルマ属、テルモミセス属、オウレオバシヂウム属、ストレプトミセス属、アスペルギルス属、クロストリジウム属、バチルス属、テルモトガ属、テルモアスクス属、カルドセラム属、テルモモノスポラ属などの微生物により生産されるキシラナーゼを使用することができる。
【0027】
本発明により、パルプをヘミセルラーゼで処理した処理反応ろ液中に生じるキシロース及びキシロオリゴ糖の構成比は、用いる酵素の種類によって変わり、キシロースが多く含まれるもの、キシロビオースが多く含まれるもの、キシロトリオースが多く含まれるものなど様々であるが、例えば、バチルス・エスピーS-2113株のキシラナーゼ(特開平8−224081号公報参照)を利用する場合、処理反応ろ液中に生じるキシロース及びキシロオリゴ糖の構成比は4量体が最も多く、単量体が少ない組成比のオリゴ糖を製造する。
特に広葉樹クラフトパルプを用いた場合、グルコース、アラビノースなどの構成糖がほとんどなく、キシロースがほぼ100%近いという特徴がある。
【0028】
パルプのヘミセルラーゼ処理反応ろ液中に遊離されたキシロオリゴ糖を、5μmのフィルターで不溶成分を除去した後、逆浸透膜を通すと、透過液中にキシロース、グルコース、アラビノースとともにキシロオリゴ糖が検出され、含まれる全糖は元の反応ろ液中の全糖量の約30%であった。
一方、逆浸透膜濃縮液中にはこれらのオリゴ糖や単糖が若干検出されるが、殆どがキシロオリゴ糖複合体として約70%が回収されていた。単なる逆浸透膜以外にも膜自体を荷電させたいわゆるルーズROと呼ばれるナノフィルトレーション用の膜も使用可能である。これは食塩の膜阻止率が50%程度の膜であるが、逆浸透膜と全く同様に用いることができ、そのときの全糖回収率は逆浸透膜を使用した時と同程度の約70%であった。また限外ろ過も使用できるが、全糖の回収率は約30%である。
【0029】
パルプの酵素反応処理液中に含まれるキシロオリゴ糖複合体は、例えばエバポレーションや凝集沈殿、溶媒抽出などの物理的、化学的処理により濃縮することができる。しかし、本来のキシロオリゴ糖は透過し、キシロオリゴ糖複合体は膜内に残り濃縮されるような膜により濃縮する方法が工業的に有利である。その理由の1つは、運転コストが比較的安価で、溶媒などの特殊な化学物質を使用しないで済む点であり、また、キシロオリゴ糖と同時に酵素反応処理液中に含まれる種々の無機物、例えば、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等、ブドウ糖、キシロース、アラビノースなどの単糖ないしは少糖類、有機酸、リグニンなどに由来する低分子の有機物がこの方法により分離除去できるからである。
【0030】
一般に、逆浸透膜、限外ろ過膜等の膜エレメントを運転すると、原水中に存在するコロイド性物質や懸濁物質等が膜面上に付着、蓄積し、時間の経過とともにろ過比抵抗が増大して透過流束が低下する。このような膜やモジュールの性能劣化を最小限にとどめ、長時問にわたり安定して運転することが実用上重要であるため、凝集沈殿、フィルターろ過等による除濁処理が前処理として行われている。パルプのヘミセルラーゼ処理反応ろ液中には、フィルターろ過処理だけでは除去困難なリグニン、消泡剤および微細な不溶成分が懸濁しており、膜濃縮を行う際の透過流束低下の原因となる。そこで、膜濃縮前の前処理として、該反応ろ液に凝集剤を添加し、これにより形成された凝集フロックを除去、清澄なろ液を得ることによって、膜濃縮の際の透過流束低下を防止することができる。
【0031】
添加する凝集剤としては、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム等の無機系凝集剤や、高分子系凝集剤、例えば、ポリアクリルアミド系、ポリアミジン系等の高分子凝集剤あるいはキトサン等の天然高分子凝集剤を使用することができる。凝集剤の添加量は、該反応ろ液に対して、硫酸バンドの場合500〜1000ppm( 硫酸バンド添加後、苛性ソーダでpH7.5に調製) 、カチオン性合成高分子凝集剤の場合5〜30ppm、キトサンの場合30〜60ppm程度で凝集フロックを得られるが、該反応ろ液の水質に応じて添加量を決定することが好ましい。得られた凝集フロックは、遠心分離あるいはプレコートフィルター、バッグフィルター、フィルタープレス等のろ過操作で除去することができる。凝集剤処理及びろ過操作等で除濁された該反応ろ液は、凝集剤処理を加えないろ過操作のみの該反応ろ液と比較して清澄度が高く、膜濃縮における透過流束の低下が防止される。
【0032】
キシロオリゴ糖は、2量体以上のオリゴマーである。また、キシロースの分子量は150であり2量体は282であり、3量体は414、以下、キシロース残基が1つ増えるごとに分子量は132ずつ増加し、10量体は1338である。濃縮されたキシロオリゴ糖複合体はパルプの酵素反応処理液中でキシロオリゴ糖が何らかの物質、おそらくはリグニン又はリグノセルロース物質、或いはヘミセルロース由来のフラン誘導体等の蒸解の過程で生じた高分子物質と複合体を形成しているものと考えられている。
【0033】
この膜濃縮物中に含まれる全糖は、ほぼキシロースのみからなり、膜濃縮物に酸を添加してpHを5より低く調整し、高温で加熱することによりキシロオリゴ糖を遊離させることができる。この場合の酸は、特に限定されるものでなく、いずれの酸を用いることができ、たとえば硫酸、塩酸などの鉱酸のほか、シュウ酸、酢酸などの有機酸が例示される。
濃縮液の酸処理時のpHは2から4が好ましく、さらに好ましくはpHが3.5から4.0の範囲であるである。pHが1.5以下になるとキシロースへの加水分解が促進され、キシロオリゴ糖の回収率は低下する。またpHが5以上では150℃程度までの温度ではキシロオリゴ糖の遊離が促進されない。
【0034】
キシロオリゴ糖の遊離に必要な加熱温度は、キシロオリゴ糖が遊離する温度であれば、特に限定されるものではないが、100から200℃までの温度、特に105から170℃が好ましく、さらに好ましい温度は110℃から125℃である。
100℃未満の処理温度では、キシロオリゴ糖複合体からキシロオリゴ糖は遊離しない。また、170℃を越えると、単糖であるキシロースへの分解反応が促進されキシロオリゴ糖の収率が低下する。また、反応中の圧力は大気圧から5kg/cm2 の間であることが好ましい。
【0035】
キシロオリゴ糖の遊離に必要な処理時間は、添加する酸の量、pH、温度によって異なるが、たとえば硫酸でpHを3.5に調整した場合は、120℃、15分が好ましい。実用上は、これらのpH、温度、時間の条件を勘案し、適切な条件を設定することにより目的とするキシロオリゴ糖の組成比をもった組成物を得ることができる。
また、さらに適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させてキシロース又はキシロビオースの比率を高めることも可能である。
【0036】
酸処理後のキシロオリゴ糖組成物には、まだリグニンなどの不溶物や着色物質が含まれている。不溶物は遠心分離、フィルターろ過、ろ布によるろ過等の処理で取り除くことができる。溶解している着色物質などの不純物を除去する方法は、特に限定されるものではなく、これまで知られた活性炭を用いる方法、アンバーライトなどの強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂を用いる方法、膜ろ過法をそれぞれ繰り返すか、又はこれらの組み合わせにより行うことができる。例示すれば、加熱処理後のキシロオリゴ糖複合体をろ布でろ過して不溶物を除去後、限外ろ過膜による処理を行って透過画分を弱塩基性及び強塩基性イオン交換樹脂により処理し、非吸着画分を少量の活性炭で処理して脱色後、脱塩用両性イオン交換樹脂で脱塩することにより精製オリゴ糖を得ることができる。
これらの一連の処理により、酸処理後の1000Lの原材料液から約70キログラムのキシロオリゴ糖を得ることが可能である。
【0037】
また、パルプの酵素処理反応ろ液中に含まれるキシロース、グルコース、アラビノースなどの単糖は、大部分がはじめに膜ろ過を行うことにより除去されるので、膜濃縮液を加熱処理した後の試料にはこれらの単糖の含有比率が少ないという特徴がある。この特徴は、大腸菌の選択的な増殖抑制効果の発現に有利なものである。
【0038】
本発明は、また、酵素処理反応ろ液を限外ろ過膜でろ過することにより、ろ液中のリグニン、糖などの有機物を除去することができる。一般に、パルプの漂白シーケンスでは、水は向流洗浄で繰り返し利用することが基本である。従って、ろ液を用いる前段の工程中で、本来含まれていたリグニンや有機物を除去することにより、前段の処理、例えば酸素漂白段、蒸解などの処理の効率が上がり、パルプの白色度の向上、使用する薬品やエネルギーの削減が可能である。
また、ろ液中のリグニン、糖などの有機物を膜により除去することにより、パルプと共に後段の漂白シーケンスに送られる事になる漂白排水中の有機物の減量が可能となる。このことにより、最終的な漂白シーケンスより排出される排水中のCOD 量を低減させることが可能である。
【0039】
【作用】
本発明はパルプにキシラナーゼ又はこれを含むヘミセルラーゼ処理反応を行い、その反応ろ液からキシロオリゴ糖画分を製造する方法を提供するものである。本発明によって、キシロオリゴ糖の構成糖がキシロースのみであり、しかも単糖であるキシロースの含量が少なく、また、2量体よりも3量体以上、特に4量体以上のオリゴ糖が多い組成を持つキシロオリゴ糖組成物を製造することも容易である。
【0040】
【実施例】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下に示す%は、特に断りがない限りすべて重量によるものであり、対パルプの添加率はパルプの絶乾重量に対する容量の比率である。
【0041】
実施例1:濃縮糖液の調製
国内産広葉樹チップ70%、ユーカリ材30%からなる混合広葉樹チップを原料として、クラフト蒸解によりカッパー価20.1、パルプ粘度41cpsの工場製の未晒パルプを得た。次いで、酸素脱リグニンを行い、カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cpsの酸素脱リグニンパルプを得た。
このパルプを100メッシュのろ布にてろ別、洗浄後、パルプ濃度を10%に調整し、希硫酸を加えてpH8に調整し、ついでバチルス・エスピーS−2113株(通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所 寄託菌株FERM BP-5264)の生産するキシラナーゼを対パルプ1単位/gとなるように添加した後、60℃で120分処理した。処理後、100メッシュのろ布でろ過してパルプ残渣などを分離し、全糖濃度3700mg/Lを含む1050L(全糖量として3900g)の処理液を得た。
【0042】
続いて、逆浸透膜(日東電工製:RO NTR- 7410 、膜質:スルホン化ポリエーテルスルホン系、食塩阻止率10%:通常、分画分子量1000以上である。)を用いて容量比で40倍に濃縮した。この濃縮液は、全糖量で2700gを有しており、全糖回収率は70%であった。試料中のキシロオリゴ糖及びキシロオリゴ糖複合体をダイオネクス社製イオンクロマトグラフィー(イオンクロマト用カラム:PA-10 )で分析した。結果は表1及び図1に示す。
図1(a)において、縦軸は、電気量(ナノクーロン:nC)を示し、横軸は溶出時間(分)を示す。また、各ピークは、左からキシロース、単糖(6分)、2量体(9.2分)、3量体(10.3分)、4量体(11.4分)、5量体(12.5分)、(以下、6量体、7量体・・・と続く、)、及びキシロオリゴ糖複合体(23.8分)である。図1(a)及び表1から明らかなように、濃縮物中のキシロオリゴ糖の含量は少なかった。
【0043】
参考例1
実施例1で得られた濃縮糖液に対し、シュウ酸及び酢酸を用いて各々pHを5.0に調整後、121℃にて1時間反応させて実施例1と同様に分析した結果、いずれの酸を用いた処理反応においても、キシロオリゴ糖はコントロールに比べて新規に生成していない事が判明した。表1にはシュウ酸の結果を示すが、酢酸についても同様の結果であった。
【0044】
参考例2
実施例1で得られた濃縮糖液に対し、硫酸を用いてpHを5.0に調整後、100℃にて1時間反応させて実施例1と同様に分析した。この処理反応においても、キシロオリゴ糖は新規に生成していない事が判明した。
【0045】
実施例2
実施例1で得られた濃縮糖液1,000mlに対して硫酸を適宜添加し、pHを3.5に調製した。その後、この濃縮糖液を121℃にて1時間反応させた。反応生成物をイオンクロマト用カラム(ダイオネクス社:PA-10 )を用いたイオンクロマトグラフィーで分析した結果、コントロール(未処理の糖溶液)に比べ高濃度のキシロオリゴ糖(2量体〜10量体)が生成していることが判明した(表1)。結果を図1 (b) に示す。図1(b)は、pH3.5で121℃、1時間加熱処理した試料の1/100希釈物のイオンクロマトグラフィーによるクロマトグラムを示している。縦軸は、電気量(nC)を示し、横軸は溶出時間(分)を示す。また、各ピークは、左からキシロース、単糖(6分)、2量体(9.2分)、3量体(10.3分)、4量体(11.4分)、5量体(12.5分)、(以下、6量体、7量体・・・と続く、)、及びキシロオリゴ糖複合体(23.8分)である。図1(b)及び表1から明らかなように、図1(a)のコントロール(未処理の糖溶液)に比べて高濃度のキシロオリゴ糖(2量体〜10量体)が生成していることが判明した。
【0046】
実施例3〜5
実施例1で得られた濃縮糖液のpHを3.5にまで変化させる酸として、硫酸に代えてシュウ酸、酢酸及び塩酸を用いて実施例2と同様の反応を行い、キシロオリゴ糖の糖液の作製を試みた。その結果、硫酸による調整時と同様にキシロオリゴ糖の糖液(2量体〜10量体の溶液)を得ることができた(表1)。
【0047】
参考例3〜5
実施例1で得られた濃縮糖液に対し、硫酸(参考例3)、シュウ酸(参考例4)及び塩酸(参考例5)を用いて各々pHを1.5に調整後、121℃にて1時間反応させ、実施例1と同様に分析した結果、いずれの酸を用いた処理反応においても、キシロオリゴ糖は酸により分解し、キシロースにまでに低分子化していることが判明した(表1)。
【0048】
実施例6
実施例1で得られた濃縮糖液に対し、硫酸を用いて各々pHを3.5に調整後、155℃にて1時間反応させ、実施例1と同様に分析した。キシロース、キシロビオースなどの短鎖のオリゴ糖が増加した。表1には硫酸の結果を示す。なお、硫酸に代えてシュウ酸を使用した場合についても同様の結果であった。
【0049】
実施例7〜10
実施例1で得られた濃縮糖液に対し、硫酸及びシュウ酸を用いて各々pHを3.5に調整後、121℃にて反応させる際に反応時間を30分、15分とした。その後、実施例2と同様に新たに生成したキシロオリゴ糖を分析した結果、30分、もしくは15分の両反応時間においても60分、121℃で処理した場合と同程度のキシロオリゴ糖が生成している事が判明した(表1)。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例11:酸処理により生成したキシロオリゴ糖の精製(1)
実施例1で得られた糖溶液に対してシュウ酸を適宜添加し、溶液のpHを3.5に調整した。その後、121℃、60分加熱処理してキシロオリゴ糖の糖溶液(全糖濃度140mg/ml)を作製した。作製した糖溶液中に含まれる不溶物はフィルターろ過で取り除いた。その後、この糖溶液10mlを分画分子量8000の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行い、通過画分4mlを得た。この通過画分の全糖量は280mgであった。次に通過画分4mlを30mgの強塩基性イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製:アンバーライトGC-400type2 )でバッチ法により処理した、処理後の全糖量は260mgであった。最後に,活性炭(和光純薬製)と脱塩用両性イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製:アンバーライトMB3 )を各々30mgずつ用いて脱色、及び脱塩をバッチ法にて逐次行い、最終の精製キシロオリゴ糖溶液を得た。その1/300希釈物のイオンクロマトグラフィーによるクロマトグラムを図2に示す。この時の全糖量は113mgであった。最終的な回収率は、限外ろ過膜処理後の透過液を100%としたときに約40%であった(表2)。精製キシロオリゴ糖中の不純物濃度は0.9%であった。なお、図2中、各ピークの内容、縦軸、横軸の定義は図1の場合と同じである。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例12:酸処理後のキシロオリゴ糖の精製(2)
実施例11と同様の方法で調整したキシロオリゴ糖複合体の糖溶液(106mg/ml)250ml、全糖量として26.5gを活性炭(和光純薬製:品番037−02115)を用いて作製したカラム(内径50mm、長さ200mm)に負荷した。その後、溶出溶媒として純水及び25%エタノールを用いてキシロオリゴ糖の回収を試みた。はじめに、溶出液として純水を用いた場合キシロオリゴ糖は全く回収されなかった。よって、次に25%のエタノールを用いて活性炭に吸着したキシロオリゴ糖を溶出した。溶出後に回収されたキシロオリゴ糖は、両性イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製:MB3)を用いてバッチ法により脱塩し、精製キシロオリゴ糖とした。この時の回収したキシロオリゴ糖は5.5gであった(表3)。
【0054】
【表3】
【0055】
実施例13:酸処理後のキシロオリゴ糖の精製(3)
実施例11と同様の方法で調整したキシロオリゴ糖複合体の糖溶液(117mg/ml)10ml、全糖量として1.2gを強酸性イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製:アンバーライト200C)を充填したカラム(内径36mm、長さ150mm)に負荷した。カラムを通過したキシロオリゴ糖を回収した後に、弱塩基性イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製:IRA67 )を充填した同様のカラムに負荷した。カラムを通過して得られたキシロオリゴ糖は、濃縮後、80mgの活性炭(和光純薬製:品番037−02115)をキシロオリゴ糖溶液に添加し、60℃にて1時間攪拌し、脱色を行った。攪拌後は0.22μmのメンブレンフィルターで活性炭をろ過し、精製したキシロオリゴ糖溶液を得た。精製したキシロオリゴ糖溶液には280及び250nmの波長の吸収は認められず、酸処理後のキシロオリゴ糖溶液に含まれる紫外吸収物質は除去されていた。灰分の残存率も出発原料である酸処理後のキシロオリゴ糖溶液に対して0.1%以下であった。また、この時のキシロオリゴ糖の回収率は70.8%であった(表4)。
【0056】
【表4】
【0057】
実施例14
国内産広葉樹チップ70%、ユーカリ材30%からなる混合広葉樹チップを原料として、クラフト蒸解によりカッパー価20.1、パルプ粘度41cpsの工場製の未晒パルプを得た。次いで、酸素脱リグニンを行い、カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cpsの酸素脱リグニンパルプを得た。このパルプを洗浄して、パルプ濃度を10%に調整した後、希硫酸を加えてpH8に調整し、ついでバチルス・エスピーS−2113株( 通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所寄託菌株FERM BP−5264) の生産するキシラナーゼを対パルプ1単位/gとなる様に添加した後、60℃で60分処理した。
処理後、ディスプレイスメントプレス洗浄機で洗浄し、洗浄ろ液を得た。得られた洗浄ろ液の全糖濃度は1700mg/Lであった。
【0058】
得られた該洗浄ろ液2000Lをミクロンレート10μmのバックフィルター(ISP FILTERS Pte Ltd)でろ過して不溶成分を除去した。このとき、該洗浄ろ液のSS:350ppmに対して、バックフィルターろ過したろ液中には79ppmの不溶成分が残留していた。ろ液中の不溶成分量は、ろ液のSS濃度を測定することにより確認した。各ろ液、それぞれ200mlを、グラスフィルター(ADVANTEC GA100 フイルター径:47mm)でろ過して、フィルターに捕捉された不溶成分を105℃、1時間の乾燥の後、乾燥重量を測定した。
【0059】
次に、同様にして得られた、2000Lの該洗浄ろ液に、カチオン性高分子凝集剤としてアクリルアミド系凝集剤(アコフロックC492UH:三井サイテック) を該洗浄ろ液に対して15ppm添加、撹拌して凝集フロックを形成させた。凝集フロック形成後、ミクロンレート10μmのバッグフィルターでろ過して、清澄なろ液を得た。バッグフィルターろ過後のろ液中には、11ppmの不溶成分が残留していた。同様に、2000Lの該洗浄ろ液に、天然高分子凝集剤としてキトサン(キミツキトサンL: 君津化学工業)を該洗浄ろ液に対して50ppm添加、撹拌して凝集フロックを形成させた。凝集フロック形成後、ミクロンレート10μmのバッグフィルターでろ過して清澄なろ液を得た。このとき、13ppmの不溶成分がろ液中に残留していた。凝集フロックのフィルターろ過による糖の損失は認められなかった。また、アニオン性及びノニオン性高分子凝集剤を該洗浄ろ液に対して50ppm添加しても凝集フロックを形成させることはできなかった(表5)。
【0060】
このように、該洗浄ろ液に対して3通りの前処理を施したろ液を得た後、続いて、これらの処理ろ液をそれぞれ、逆浸透膜( 日東電工製:RONTR−7450、膜質: スルホン化ポリエーテルスルホン系、食塩阻止率50%、膜面積:6.5m2 −2本) を用いて、液温50℃、入口操作圧力10〜20kgf/cm2 、流量1400〜1800L/hrの運転条件で、容積比20倍に濃縮した。入口操作圧力は毎時2kgf/cm2 で昇圧させた。10μバッグフィルターによるろ過操作のみで不溶成分を除去した処理ろ液では、逆浸透膜による濃縮開始時の透過流束:39L/(hr.m2 )に対して、20倍濃縮終了時の透過流束は7L/(hr.m2 )となり、透過流束は80%以上低下した。
【0061】
一方、カチオン性高分子凝集剤(アコフロック492UH:三井サイテック)を添加し、凝集フロックを10μバッグフィルターで除去した処理ろ液では、逆浸透膜による濃縮開始時の透過流束:38L/(hr.m2 )に対して、20倍濃縮終了時の透過流束は30L/(hr.m2 )となり、透過流束は21%しか低下しなかった。同様に、天然高分子凝集剤(キミツキトサンL:君津化学工業)を添加し、凝集フロックを10μバッグフイルターで除去した処理ろ液では、逆浸透膜による濃縮開始時の透過流束:36L/(hr.m2 )に対して、20倍濃縮終了時の透過流束は28L/(hr.m2 )、透過流束の低下率は22%であった(図3)。
このとき、該洗浄ろ液2000L中に含まれる全糖量3400gに対して、20倍に濃縮した濃縮液100L中に含まれる全糖量は、いずれも約2700gであり、全糖回収率は80%であった。
【0062】
次に、得られた該濃縮液に硫酸を適宜添加してpHを3.5に調製し、121℃にて1時間反応させた。反応生成物をイオンクロマトグラフで分析した結果、高濃度のキシロオリゴ糖(2量体〜10量体) が生成していることが確認された(図4)。
膜による濃縮操作の前処理として、凝集剤添加により形成された凝集フロックを除去しても、得られるキシロオリゴ糖の組成が変化することはない。
【0063】
【表5】
【0064】
【発明の効果】
本発明により、安価にキシロースの2量体から10量体を含むキシロオリゴ糖を供給できる。また3量体以上のキシロオリゴ糖の構成比率の高いキシロオリゴ糖を供給することができる。さらに、パルプの酵素処理排液を膜ろ過することにより、排液中に含まれるリグニンや有機物が除去されるため、パルプ製造工程中のパルプの漂白性の改善が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】広葉樹クラフトパルプのキシラナーゼ処理反応ろ液を濃縮液後、加熱処理した液中の成分のクロマトグラム。
【図2】精製キシロオリゴ糖成分のクロマトグラム。
【図3】膜濃縮における処理ろ液の透過液Flux経時変化を示す図。
【図4】凝集処理したろ液を濃縮・酸処理した後精製したキシロオリゴ糖のクロマトグラムを示す図。
Claims (6)
- リグノセルロース材料を原料とするパルプのヘミセルラーゼ処理工程から得られる反応ろ液から、膜ろ過法によりキシロオリゴ糖複合体を含む濃縮液を得る工程、ついで、該濃縮液からキシロオリゴ糖を分離、回収する工程を含むことを特徴とする、キシロオリゴ糖の製造方法。
- リグノセルロース材料を原料とするパルプのヘミセルラーゼ処理工程から得られる反応ろ液に無機系凝集剤及び高分子系凝集剤から選ばれる凝集剤を添加し、生成する凝集フロックをろ過除去する工程、該ろ過除去工程より得られるろ液から、膜ろ過法によりキシロオリゴ糖複合体を含む濃縮液を得る工程、ついで、該濃縮液からキシロオリゴ糖を分離、回収する工程を含むことを特徴とする、キシロオリゴ糖の製造方法。
- 前記ヘミセルラーゼがキシラナーゼである、請求項1又は請求項2に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
- 前記リグノセルロース材料を原料とするパルプが化学パルプである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
- 化学パルプが広葉樹クラフトパルプである、請求項4記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
- 前記キシロオリゴ糖複合体を含む濃縮液からキシロオリゴ糖を分離、回収する工程は、キシロオリゴ糖複合体を含む濃縮液をpH2〜4の間に調整し、100〜170℃で1分〜120分加熱してキシロースの2量体〜10量体を含む混合物を得る工程である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
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