本発明に係るX線分析装置及びその分析方法の実施形態について添付図面を参照して説明する。
なお、添付図面中、同一の構成要素には同一符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、本発明に係るX線分析装置の第1の実施形態を示す概略図である。
図1は、BG(バックグラウンド)放射線が存在する環境に置かれ、分析試料10の元素分析及び解析するためのX線分析装置11を示す。BG放射線には、宇宙線、地中や建材中の放射性物質のような外部線源からの放射線、又は空気や食物中に放射性物質が存在することによる内部線源からの放射線がある。
X線分析装置11には、照射X線aを発生させるX線源14と、分析試料10から放出される蛍光X線bを含む放射線を検出する放射線検出器、例えばCdTe半導体検出器16とが備えられる。
X線源14は、照射X線aの発生方向を十分に絞ることが可能なものが用いられる。また、照射X線aを集光するために、X線源14の出射側に、例えば図示しないコリメータ、スリット、マイクロキャピラリーレンズ又はゾーンプレート等が設置される。また、照射X線aのエネルギーを単色化するために、X線源14の出射側に回析格子等が設置されてもよい。さらに、X線源14からの特性X線を強調する場合若しくは除去する場合又はエネルギー分布を平坦にする場合、特定のエネルギーのX線を吸収するような適用なフィルタを設置することもある。
CdTe半導体検出器16は、X線源14から直接放射される照射X線aと、分析試料10から放出される散乱X線cとによる影響が少ない位置に設置される。分析試料10におけるコンプトン散乱(トムソン散乱を含む)は、照射X線aの入射方向に対して、放出角の方向依存性がある。一方、分析試料10から放出される蛍光X線bはほぼ等方に放出される。例えば、エネルギーが約100keVの照射X線aがX線源14から照射される場合、照射X線aの入射方向に対して、約90度〜120度の位置にCdTe半導体検出器16が設置される。一方、例えば、エネルギーが約100keVより低い照射X線aがX線源14から照射される場合、約90度以下の位置にCdTe半導体検出器16が設置される。
なお、放射線検出器として常温半導体検出器であるCdTe半導体検出器16を用いたが、CdTe半導体検出器16に限定されるものではない。放射線検出器は、例えば液体窒素冷却型のGe検出器、シリコンドリフト検出器又はCZT等のエネルギー分析可能なX線検出用の検出器でもよい。また、エネルギー分解能を改善するために放射線検出器に冷却装置を具備させ、液体窒素又はペルチェ素子等で冷却できるようにしてもよい。
また、分析試料10とCdTe半導体検出器16の間に、コリメータ、スリット、マイクロキャピラリーレンズ又はゾーンプレート等が挿入される場合もある。
図2は、X線分析装置11に備えられるCdTe半導体検出器16を示す拡大図である。
図2に示されたCdTe半導体検出器16は、図1に示されたX線分析装置11に備えられるCdTe半導体検出器16を示す。このCdTe半導体検出器16には、支持基板25と、陽極27及び陰極28によって狭持されるCdTe単結晶29とが設けられる。このCdTe単結晶29は、支持基板25によって支持される。
また、CdTe単結晶29は、陰極28側の入射側エリア29pと、陽極27側の支持基板側エリア29qからなる。入射側エリア29pは、約30keV以下の低エネルギーである蛍光X線bを吸収して消滅させるのに十分な厚さ、例えば約300μm厚を有している。そして、入射側エリア29pと支持基板側エリア29qとが一体となったCdTe単結晶29は、約30keV以上の高エネルギーであって約100keV以下のエネルギーをもつBG放射線d、例えばBG放射線d1,d2を消滅させるのに十分な厚さ、例えば約1mm厚を有している。なお、約100keV以上の高エネルギーのBG放射線d、例えばBG放射線d3,d4をCdTe単結晶29にて消滅させるためには、CdTe単結晶29の厚さを約1mm厚以上とするものとする。
分析試料(図示しない)から放出される蛍光X線bと、種々の入射エネルギー及び入射角度をもつBG放射線dは、電圧印加されたCdTe単結晶29の入射側エリア29p側から入射されるようになっている。
さらに、図1に示されたX線分析装置11には、CdTe半導体検出器16から出力される出力パルス101をパルス量に比例する電圧パルス102に変換・増幅する電荷有感型の増幅器、例えばプリアンプ18と、電圧パルス102をデジタルデータに変換して未処理パルス103を得るA/D変換器19と、未処理パルス103からCdTe単結晶29における反応深さを演算してこの反応深さの違いによって未処理パルス103から誤パルスを除去して一次処理パルス104を得る反応深さ演算手段20と、パルス波高の違いによって一次処理パルス104から誤パルスを除去して二次処理パルス105を得る波高弁別器21と、二次処理パルス105からエネルギー毎の計数を行ない、波高分布データ106を得るマルチチャンネルアナライザ(以下、「MCA」という。)22と、波高分布データ106から分析試料10の元素分析、応力解析及び構造解析等を行なう元素分析器23とが備えられる。
次いで、X線分析装置11の処理動作について説明する。
図1に示されたX線分析装置11に備えられるX線源14にて発生したX線は、任意に集光された後、照射X線aとして分析試料10に照射される。分析試料10に照射X線aが照射されると、分析試料10から蛍光X線bと、コンプトン散乱(トムソン散乱を含む)した散乱X線cとが放出される。蛍光X線bは、CdTe半導体検出器16に入射し、CdTe半導体検出器16によって検出される。
そして、図2に示されたCdTe半導体検出器16のように、陽極27及び陰極28によって電圧印加されたCdTe単結晶29に、分析試料10から放出された蛍光X線bと、蛍光X線bより高いエネルギーをもつBG放射線dとが入射する。
分析試料10から放出された蛍光X線bは、エネルギーが低くCdTe単結晶29内部の入射側エリア29pにて反応して消滅する。よって、CdTe半導体検出器16に蛍光X線bが入射すると、蛍光X線bの反応によって蛍光X線bの全てのエネルギーがCdTe単結晶29に付与される。
一方、約100keV以下のエネルギーをもつBG放射線d、例えばBG放射線d1,d2は、CdTe単結晶29内部にて多重散乱し、CdTe単結晶29に全てのエネルギーを付与して消滅する。また、約100keV以上のエネルギーをもつBG放射線d、例えばBG放射線d3,d4は、CdTe単結晶29内部にてエネルギーの一部を付与してCdTe単結晶29の外部に放出される。なお、BG放射線d1,d2は、図14に示された薄型のSi半導体検出器71を用いた場合、エネルギーの一部をSi半導体検出器71に付与することになる。また、BG放射線d3,d4は、図14に示された薄型のSi半導体検出器71を用いた場合、Si半導体検出器71にエネルギーを全く付与しないことになる。
蛍光X線b及びBG放射線d1,d2,d3,d4が付与したエネルギーに相当する波高を有する出力パルス101は、CdTe半導体検出器16の電極から出力される。
図1に示されたCdTe半導体検出器16の電極にて検出された出力パルス101は、プリアンプ18にて、パルス量に比例する電圧パルス102に変換・増幅される。変換・増幅された電圧パルス102は、A/D変換器19にてデジタルデータである未処理パルス103に変換される。この未処理パルス103は、反応深さ演算手段20に入力される。
ここで、未処理パルス103には、BG放射線d3,d4の反応に起因する誤パルスが含まれるが、この誤パルスは、BG放射線d3,d4のもつエネルギーの一部に相当する波高を有する。よって、未処理パルス103のうち、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d3,d4の反応に起因する誤パルスとを波高弁別器21によって弁別することは困難である。
例えば100keV以上のエネルギーをもつBG放射線d3,d4は、CdTe半導体検出器16に入射してCdTe単結晶29内部にて1次散乱し、CdTe単結晶29内部にエネルギーの一部、例えば20keVを付与してCdTe単結晶29から放出される。BG放射線d3,d4の反応に起因する誤パルスの波高は20keVのエネルギーに相当する高さとなるので、誤パルスの波高と、約20keV以下のエネルギーである蛍光X線bの反応に起因する波高とからパルスを弁別することは困難である。
よって、反応深さ演算手段20によって、CdTe単結晶29における反応深さ(陰極28から反応点までの距離)の演算を行ない、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d3,d4の反応に起因する誤パルスとの弁別を行なう。
反応深さ演算手段20の反応深さ演算について説明する。
まず、図3に、CdTe半導体検出器16のCdTe単結晶29内部にて、蛍光X線bが反応した場合のキャリアの移動を示す概略図を示す。
図3に示されたCdTe半導体検出器16では、CdTe単結晶29の入射側エリア29pにて、蛍光X線bが反応して消滅する。蛍光X線bが入射側エリア29pにて反応して消滅すると、その反応点Oにてキャリア(電子・正孔)が発生する。発生した電子は反応点Oから陽極27へ、正孔は陰極28へそれぞれ移動(ドリフト)して電極にそれぞれ収集される。収集過程では、誘導電流が流れパルスとして出力される。
反応点Oから等しい電荷が移動した場合、積算電荷量は、電子及び正孔の収集時の移動距離に比例する。低エネルギーである蛍光X線bは、陰極28側の入射側エリア29pで反応し、電子の移動距離が長くなるので、積算電荷量は、電子の移動による誘導電荷が主成分となる(厳密には、CdTe単結晶29内部に発生した正孔は移動に従って消滅するが、この消滅については説明を省くものとする。)。
CdTe半導体検出器16のCdTe単結晶29内部にて、蛍光X線bが反応して消滅した場合のパルスの波形(積算電荷量I1の時系列変化)を示すグラフを図4に示す。
図4に示されたグラフは、図3に示されたCdTe単結晶29の入射側エリア29pにて、約30keV以下の低エネルギーをもつ蛍光X線bが反応した時を時間0として、電子成分(−)に係る誘導電荷量、正孔成分(+)に係る誘導電荷量及び積算電荷量I1の時系列変化をそれぞれ示す。一般に、電荷積分型のプリアンプ18を増幅器として用いた場合、プリアンプ18は、電子成分に係る誘導電荷量及び正孔成分に係る誘導電荷量の積分値を出力する。積算電荷量I1は、電子成分に係る誘導電荷量と正孔成分に係る誘導電荷量との積算の誘導電荷量となる。
CdTe単結晶29内部における反応直後の積算電荷量I1は、移動距離が長く移動速度の速い電子成分に係る誘導電荷量の増加に従って波高L1まで急激に増加する。一方、電子の移動が尽きると、積算電荷量I1は、移動距離が短く移動速度の遅い正孔成分に係る誘導電荷量の増加に従って波高M1まで緩やかに増加する。特に、電子の移動速度に比べ正孔の移動速度が遅いCdTe半導体検出器16を用いた場合、全ての電荷を収集するのに必要な時間は電子に比べ正孔が長くなる。電子に比べ正孔の移動速度は約1/10以下である。
蛍光X線bの反応深さが浅く(陰極28に近く)なる程、電子の移動距離が長くなり、積算電荷量I1が増加し、波高L1が高くなる。一方、蛍光X線bの反応深さが深く(支持基板側エリア29qに近く)なる程、正孔の移動距離が長くなり、積算電荷量I1が増加し、波高L1が低くなる。
続いて、図5に、CdTe半導体検出器16のCdTe単結晶29内部にて、BG放射線d3が反応してCdTe単結晶29から放出された場合のパルスの波形(積算電荷量I2の時系列変化)を示すグラフを示す。
図5に示されたグラフは、図2に示されたCdTe単結晶29の支持基板側エリア29qにて、高エネルギーであるBG放射線dのうち約100keV以上のエネルギーをもつBG放射線d3が1次散乱した時を時間0として、電子成分に係る誘導電荷量、正孔成分に係る誘導電荷量及び積算電荷量I2の時系列変化をそれぞれ示す。
積算電荷量I2は、移動距離の短い電子成分に係る誘導電荷量の増加に従って波高L2まで急激に増加する。一方、電子成分の移動が尽きると、積算電荷量I2は、移動距離の長い正孔成分に係る誘導電荷量の増加に従って波高M2まで緩やかに増加する。電子の移動速度は正孔の移動速度の約10倍であるから、積算電荷量I2は波高L2まですぐに到達し、波高L2到達後、正孔成分に係る誘導電荷量の増加に従って緩やかに増加する。
よって、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d3の反応に起因する誤パルスとを、波高によって弁別することが困難な場合であっても、図4に示されたグラフの波形と、図5に示されたグラフの波形との違いによって、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d3の反応に起因する誤パルスとを弁別できる。
続いて、図6に、CdTe半導体検出器16のCdTe単結晶29内部にて、BG放射線d4が数回、例えば2回反応してCdTe単結晶29から放出された場合のパルスの波形(積算電荷量I3の時系列変化)を示すグラフを示す。
図6に示されたグラフは、図2に示されたCdTe単結晶29の入射側エリア29pと支持基板側エリア29qにて、高エネルギーであるBG放射線dのうち約100keV以上のエネルギーをもつBG放射線d4が1回目に反応した時を時間0として、誘導電荷量I3の時系列変化を示す。
BG放射線d4が2回反応してCdTe単結晶29から放出された場合の積算電荷量I3の時系列変化は、積算電荷量I1と、積算電荷量I2との時系列変化を合成したものとなる。そして、電子と正孔の移動距離が等しい位置、つまり、BG放射線d4が2回反応してCdTe単結晶29から放出された場合の時系列変化は、CdTe単結晶29の重心位置で反応して消滅したときの時系列変化とほぼ同じ変化となる。
また、図1に示された反応深さ演算手段20による反応深さの演算は、分解能を改善するために、2次微分により立ちあがりの変極点を求める手法も適用できる。また、立ち上がりの早い成分つまり電子成分を微分回路で選別し、第1の波高弁別回路で弁別すると共に、正孔成分も含めた信号の波高を第2の波高弁別回路で弁別し、両者の波高を用いて、反応深さを演算することも可能である。
図1に示された反応深さ演算手段20にて、パルスの波形の違いによって、未処理パルス103からBG放射線d3,d4の反応に起因する誤パルスを除去し、除去して得られた一次処理パルス104が波高弁別器21に出力される。一次処理パルス104には、高エネルギーであり約100keV以下のBG放射線d1,d2に起因する誤パルスが含まれるが、この誤パルスは、BG放射線d1,d2のもつ全てのエネルギーに相当する波高を有する。よって、波高弁別器21では、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d1,d2の反応に起因する誤パルスとをパルス波高の違いから弁別できる。
例えば100keVのエネルギーをもつBG放射線dのうちBG放射線d1がCdTe単結晶29の支持基板エリア29q内部にて1回散乱して20keVのエネルギーを支持基板エリア29qに付与したとすると、入射側エリア29pにて残りの80keVのエネルギーを付与して消滅する。また、BG放射線dのうちBG放射線d2が入射側エリア29p内部にて1回散乱して20keVのエネルギーを入射側エリア29pに付与したとすると、支持基板エリア29qにて残りの80keVのエネルギーを付与して消滅する。よって、厚膜のCdTe単結晶29を有する厚型のCdTe半導体検出器16にBG放射線d1,d2が入射すると、BG放射線d1,d2の反応によって合計100keVのエネルギーがCdTe単結晶29に付与される。
BG放射線d1,d2の反応によってBG放射線d1,d2のもつ全てのエネルギーを積極的に検出することで、蛍光X線bの反応に起因するパルスの波高と、BG放射線d1,d2の反応に起因する誤パルスの波高との違いから、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d1,d2の反応に起因する誤パルスとを弁別できる。また、波高弁別器21では、一次処理パルス104から、所要の波高値(閾値)に満たない波高をもつ回路ノイズを除去することもできる。
図1に示された波高弁別器21にて弁別され、BG放射線d1,d2の反応に起因する誤パルスが除去されることで二次処理パルス105となり、この二次処理パルス105がMCA22に出力される。
MCA22では、二次処理パルス105からエネルギー毎の計数が行なわれ、波高分布データ106が取得される。MCA22では、BG放射線dの反応に起因する誤パルスの影響を除外でき、測定対象である蛍光X線bのみの波高分布データ106を取得できる。
MCA22から元素分析器23に、所要の時間幅の波高分布データ106が出力される。元素分析器23では、分析試料10を構成する元素の含有量比を時系列に連続的に表示する。つまり、各元素に相当するエネルギー幅での計数値を時系列にフィルタ処理を行ない、元素の連続的な含有率の変化を表示する。このフィルタの時定数は、必要精度に応じて可変とする。
X線分析装置11のように、厚型のCdTe半導体検出器16を用いると、蛍光X線bの反応に起因するパルスと共に、BG放射線d1〜d4の反応に起因する誤パルスを取得することができる。さらに、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d3,d4の反応に起因する誤パルスとは、パルスの波形の違いによって弁別することができる。また、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d1,d2の反応に起因する誤パルスとは、パルスの波高の違いによって弁別できる。したがって、パルス信号処理によって誤パルスを除去できるので、分析装置周囲のBG放射線dの入射を遮蔽する必要がなく、BG放射線dが存在する環境でも、高いS/N比で分析試料10の元素分析及び解析を実施することができる。
なお、X線源14からCdTe半導体検出器16にX線が直接照射されると、CdTe半導体検出器16の構成材から特性X線が放出される。この特性X線の影響を補正するために、予め分析試料10を設置していない条件にてブランク測定を実施する。そして、分析試料10を設置して元素分析する際に、ブランク測定で得られたブランク成分を差し引きながら分析試料10の分析を実施する。
例えば、CdTe半導体検出器16を用いる場合、CdTe単結晶29のCdから放出される特性X線のエネルギーは、Kα1:23.2keV、Kβ1:26.1keV、Lα1:3.1keV、Lβ1:3.3keVである。また、Te自体から放出される蛍光X線bは、Kα1:27.4keV、Kβ1:31.0keV、Lα1:3.8keV、Lβ1:4.0keVである。
よって、測定対象範囲である約30keV以下のエネルギーに、CdTe単結晶29から放出される特性X線が重なることになる。よって、X線源14からX線が直接にCdTe半導体検出器16に到達しないように、X線源14の放出角の選定と、遮蔽を実施するとよい。
また、分析試料10が原子炉の構造材であり構造材の応力を測定する場合、分析試料10の構造材が放射化している。よって、構造材から約30keV以上のエネルギーをもつγ線が放出されているので、蛍光X線bの測定には、γ線が測定のBG放射線dとなる。BG放射線dの影響を低減するためには、予めX線分析装置11にて、X線源14からの照射X線aを発生しない条件で測定したデータを取得する。そして、図1に示されたX線分析装置11によって、X線源14から照射X線aを発生したときのデータを測定し、予め取得したデータ分を補正する。
図7は、本発明に係るX線分析装置の第2の実施形態を示す概略図である。
図7は、BG放射線が存在する環境に置かれ、分析試料10を分析するためのX線分析装置11Aを示す。
図7に示されたX線分析装置11Aには、分析試料10から放出される約30keV以上のエネルギーをもつK−X線を含む放射線を検出する第1放射線検出器(図1に示す放射線検出器)、例えばCdTe半導体検出器16と、約30keV以下のエネルギーをもつL−X線を含む放射線を検出する第2放射線検出器、例えばCdTe半導体検出器16aとが備えられる。なお、第2放射線検出器は、L−X線を検出するものなので、図14に示された薄型のSi半導体検出器71でもよい。
また、X線分析装置11Aには、CdTe半導体検出器16aから出力される出力パルス101aをパルス量に比例する電圧パルス102aに変換・増幅する電荷有感型の増幅器、例えばプリアンプ18aと、電圧パルス102aをデジタルデータに変換して未処理パルス103aを得るA/D変換器19aと、未処理パルス103aの波形によって反応深さを演算しこの反応深さの違いによって未処理パルス103aから誤パルスを除去して一次処理パルス104aを得る反応深さ演算手段20aと、パルス波高の違いによって一次処理パルス104aから誤パルスを除去して二次処理パルス105aを得る波高弁別器21aと、二次処理パルス105aからエネルギー毎の計数を行ない、波高分布データ106aを得るMCA22aとが備えられる。このMCA22aの波高分布データ106aは、分析試料10の元素分析、応力解析及び構造解析等を行なう元素分析器23に出力できるようになっている。
また、X線源14から分析試料10に照射される照射X線aのうち低エネルギー成分のX線をカットする遮蔽フィルタ51が設置される。特に、蛍光X線bが約30keV以上のエネルギーをもつ場合、X線源14からの直接のX線がBG放射線dの主成分となるため、遮蔽フィルタ51によるX線の遮蔽を行なう。
図8は、K−X線及びL−X線のエネルギースペクトルを示すグラフである。
図8に示されたグラフは、分析試料10、例えば鉛(Pb)を分析処理したときのエネルギースペクトルである。K−X線として75,85keVにエネルギーピークが観測される一方、L−X線として10−12keVにエネルギーピークが観測される。K−X線及びL−X線のエネルギーピークを共に測定することで、分析試料10の元素分析精度、BG放射線dの低減を図る。
続いて、X線分析装置11Aの処理動作について説明する。
X線源14から分析試料10に照射X線aを照射する。分析試料10から放出される蛍光X線bは、原子が励起状態から基底状態に戻る際に、電子のエネルギー順位に差によって発生する。ここで、電子が原子のK殻及びL殻のエネルギー順位に戻る際、K−X線及びL−X線がそれぞれ発生する。
K−X線を含む放射線はCdTe半導体検出器16にて検出され、このCdTe半導体検出器16から出力される。出力パルス101はプリアンプ18にて変換・増幅され、A/D変換器19にてデジタルデータに変換される。デジタル変換された未処理パルス103は反応深さ演算手段20に入力され、この反応深さ演算手段20にて、反応深さの違いによって未処理パルス103からBG放射線dの反応に起因する誤パルスを除去して一次処理パルス104を得る。
一次処理パルス104は、波高弁別器21に入力され、パルス波高の違いによって一次処理パルス104からL−X線の反応に起因する誤パルスを除去してK−X線の反応に起因する二次処理パルス105を得る。この二次処理パルス105はMCA22に入力され、MCA22では、二次処理パルス105からエネルギー毎の計数が行なわれ、波高分布データ106が取得される。元素分析器23では、波高分布データ106から、約30keV以上であり約100keV以下のK−X線のK−X線計数値DKが求められる。
一方、L−X線を含む放射線はCdTe半導体検出器16aにて検出され、このCdTe半導体検出器16aから出力される。出力パルス101aはプリアンプ18aにて変換・増幅され、A/D変換器19aにてデジタルデータに変換される。デジタル変換された未処理パルス103aは、反応深さ演算手段20aに入力され、この反応深さ演算手段20aにて、反応深さの違いによって未処理パルス103aからBG放射線dに起因する誤パルスを除去して一次処理パルス104aを得る。
一次処理パルス104aは、波高弁別器21aに入力され、パルス波高の違いによって一次処理パルス104aからK−Xの反応に起因する誤パルスを除去してL−X線の反応に起因する二次処理パルス105aを得る。この二次処理パルス105aはMCA22に入力され、MCA22では、二次処理パルス105aからエネルギー毎の計数が行なわれ、波高分布データ106aが取得される。元素分析器23では、波高分布データ106aから、約30keV以下のエネルギーをもつL−X線のL−X線計数値DLが求められる。
また、元素分析器23では、波高分布データ106,106aから、K−X線及びL−X線のKL同時計数値DKLが求められる。
ここで、分析試料10の元素濃度をNとすると、X線分析装置11AにてBD放射線dが十分に低減された条件では、
[数2]
DK=SK・N …(1)
DL=SL・N …(2)
DKL=SK・SL・N …(3)
と表すことができる。さらに、式(1)、(2)、(3)から、分析試料10の元素濃度Nが、
[数3]
N=DK・DL/DKL …(4)
によって演算できる。
X線分析装置11Aのように、厚型のCdTe半導体検出器16,16aを用いると、K−X線の反応に起因するパルスと、L−X線の反応に起因するパルスとをそれぞれ取得できる。さらに、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d3,d4の反応に起因する誤パルスとは、パルスの波形の違いによって弁別することができる。また、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d1,d2の反応に起因する誤パルスとは、パルスの波高の違いによって弁別できる。したがって、パルス信号処理によって誤パルスを除去できるので、周囲のBG放射線dの入射を遮蔽する必要がなく、BG放射線dが存在する環境でも、高いS/N比で分析試料10の元素分析及び解析を実施することができる。
また、X線分析装置11Aを用いると、予め濃度既知の標準試料を用いて、複数元素に関する感度を測定する必要がなく、元素濃度Nの元素分析及び解析の煩雑さを低減できる。
なお、予め、濃度既知の標準試料にて、X線源14又は遮蔽フィルタ51毎にK−X線を計数するK−X線検出感度SKと、L−X線を計数するL−X線検出感度SLと、K−X線及びL−X線を同時計数するKL同時検出感度SKLをそれぞれ測定して、分析試料10の元素濃度Nを推定もよい。
図9は、本発明に係るX線分析装置の第3の実施形態を示す概略図である。
図9は、BG放射線が存在する環境に置かれ、分析試料10を分析するためのX線分析装置11Bを示し、図1に示されたX線分析装置11に備えられるCdTe半導体検出器16周辺から入射するBG放射線dを低減させるものである。
X線分析装置11には、CdTe半導体検出器16への蛍光X線bの入射側であって蛍光X線bの入射を遮らない位置に、BG放射線を検出するタイミング検出器としてのBG放射線検出器、例えばシンチレーション検出器36が備えられる。
BG放射線検出器は、シンチレーション検出器36の他に、図1に示された放射線検出器と同じものを用いても構わない。また、BG放射線検出器はエネルギー情報の検出を必要としないため、比例計数管又はGM計数管等の一般的な放射線検出器が使用できる。
図10は、X線分析装置11Bに備えられるCdTe半導体検出器16とシンチレーション検出器36の位置関係を示す拡大図である。
図10に示されたCdTe半導体検出器16は、図9に示されたCdTe半導体検出器16を示し、このCdTe半導体検出器16の周囲から、約30keV以上の高エネルギーをもつBG放射線d、例えば図2に示されたBD放射線d1〜d4が直接入射するのを低減するように、2個のシンチレーション検出器36が備えられる。よって、CdTe半導体検出器16には、蛍光X線bと、CdTe半導体検出器16に直接入射する微小量のBG放射線d1〜d4と、シンチレーション検出器36にて散乱したBG放射線d、例えばBG放射線d5とがそれぞれ入射する。なお、シンチレーション検出器36は2個に限定されない。
さらに、図9に示されたX線分析装置11Bには、シンチレーション検出器36からの出力パルス111をパルス量に比例する電圧パルス112に変換・増幅する電荷有感型の増幅器、例えばプリアンプ38と、電圧パルス112の波形をデジタルデータに変換して未処理パルス113を得るA/D変換器39と、未処理パルス113から所要の波高値に満たない波高をもつ回路ノイズを除去して計数禁止信号118を発する波高弁別器41とが備えられる。計数禁止信号118は、MCA22に出力できるようになっている。
次いで、X線分析装置11Bの処理動作について説明する。
図9に示されたX線分析装置11Bに備えられるX線源14から分析試料10に照射X線aが入射される。分析試料10からは、蛍光X線bとコンプトン散乱した散乱X線cとが放出される。
そして、図10に示されたCdTe半導体検出器16のように、電圧印加されたCdTe半導体検出器16に、分析試料10からの蛍光X線bと、BG放射線d1〜d4と、BG放射線d5とがそれぞれ入射する。蛍光X線b、BG放射線d1〜d4及びBG放射線d5は、CdTe半導体検出器16に入射し、CdTe半導体検出器16によってそれぞれ検出される。
つまり、CdTe半導体検出器16から出力される出力パルス101には、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d1〜d4の反応に起因する誤パルスと、シンチレーション検出器36にて散乱したBG放射線d5の反応に起因する誤パルスとが含まれている。
出力パルス101は、反応深さ演算手段20にてBG放射線d3,d4が除去され一次処理パルス104に変換され、この一次処理パルス104は、波高弁別器21にてBG放射線d1,d2が除去され二次処理パルス105に変換される。
一方、シンチレーション検出器36は、BG放射線d5を検出する。シンチレーション検出器36の電極(図示しない)にて検出された出力パルス111は、プリアンプ38にて、パルス量に比例する電圧パルス112に変換・増幅される。変換・増幅された電圧パルス112の波形は、A/D変換器39にて未処理パルス113に波形変換される。未処理パルス113は、波高弁別器41に入力される。この波高弁別器41にて、所要の波高値に満たない波高をもつ回路ノイズが除去される。回路ノイズが除去されたパルス波高によって、計数禁止信号118がMCA22に出力される。
ここで、二次処理パルス105には、BG放射線d5の反応に起因する誤パルスが含まれている。BG放射線d5は、CdTe半導体検出器16にて検出されるとほぼ同時にシンチレーション検出器36にて検出されている。よって、波高弁別器41から計数禁止信号118が出力されていない時に、波高弁別器21から入力される二次処理パルス105は、蛍光X線bに起因するパルス信号であると判断され、MCA22に出力される。
MCA22では、二次処理パルス105からエネルギー毎の計数が行なわれ、波高分布データ106が取得される。MCA22では、BG放射線dの反応に起因する誤パルスの影響を除外でき、測定対象である蛍光X線bのみの波高分布データ106を取得できる。
MCA22から元素分析器23に、所要の時間幅の波高分布データ106が出力される。元素分析器23では、分析試料10を構成する元素の含有量比を時系列に連続的に表示する。つまり、各元素に相当するエネルギー幅での計数値を時系列にフィルタ処理を行ない、元素の連続的な含有率の変化を表示する。このフィルタの時定数は、必要精度に応じて可変とする。
X線分析装置11Bのように、厚型のCdTe半導体検出器16を用いると、蛍光X線bの反応に起因するパルスと共に、BG放射線d1〜d4の反応に起因する誤パルスを取得することができる。さらに、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d3,d4の反応に起因する誤パルスとは、パルスの波形の違いによって弁別することができる。また、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線d1,d2の反応に起因する誤パルスとは、パルスの波高の違いによって弁別できる。したがって、パルス信号処理によって誤パルスを除去できるので、分析装置周囲のBG放射線dの入射を遮蔽する必要がなく、BG放射線dが存在する環境でも、高いS/N比で分析試料10の元素分析及び解析を実施することができる。
また、X線分析装置11Bのように、シンチレーション検出器36を用いると、BG放射線d1〜d4の反応に起因する誤パルスを低減できる。さらに、BG放射線d5の反応に起因する未処理パルス113に基づいて計数禁止信号118を発することで、BG放射線dが存在する環境でも、高いS/N比で分析試料10の元素分析及び解析を実施することができる。
さらに、図9に示されたX線分析装置11Bでは、BG放射線検出器としてシンチレーション検出器36を用いたが、BG放射線検出器として、例えば図14に示された薄膜のSi半導体検出器71を用いる。Si半導体検出器71を用いると、Si半導体検出器71にて散乱してCdTe半導体検出器16に入射するBG放射線d5を低減できるので、計数禁止信号118を低減できる。
図11は、本発明に係るX線分析装置の第4の実施形態を示す概略図である。
図11は、BG放射線として自然放射線が存在する放射線環境にて、分析試料10を分析するX線分析装置11Cを示す。
X線分析装置11Cには、CdTe半導体検出器16の蛍光X線bの入射側に、蛍光X線bを有効に集光できる蛍光X線集光手段、例えばマルチキャピラリーレンズ45と、このマルチキャピラリーレンズ45にて発光するシンチレーション光eを検出するタイミング検出器としての光検出器46とが備えられる。なお、マルチキャピラリーレンズ45の蛍光X線bの出口側端面を監視する場合と、シリカガラス等の透明なマルチキャピラリーレンズ45を使用する場合とは、マルチキャピラリーレンズ45の外部に光検出器46を備えるが、外部光を光検出器46にて検出することを防止するために、外部光を遮光する手段を設けてもよい。
また、X線分析装置11CのCdTe半導体検出器16から出力される出力パルス101は、図9に示されたX線分析装置11Bのプリアンプ18に入力される。また、X線分析装置11Cの光検出器46から出力される出力パルス111は、図9に示されたX線分析装置11Bのプリアンプ38に入力される。
続いて、X線分析装置11Cの処理動作について説明する。
マルチキャピラリーレンズ45内部に蛍光X線bが入射すると、蛍光X線bは、マルチキャピラリーレンズ45内壁面にて全反射を繰り返しCdTe半導体検出器16に導かれる。
また、BG放射線dは、マルチキャピラリーレンズ45内部に進入し、マルチキャピラリーレンズ45内部でコンプトン散乱又は光電吸収する。そして、所定の角度でマルチキャピラリーレンズ45内面に入射したBG放射線dは、マルチキャピラリーレンズ45内壁面にて全反射を繰り返しCdTe半導体検出器16にて検出される。
ここで、BG放射線dが、マルチキャピラリーレンズ45内壁面にてコンプトン散乱又は光電吸収すると、コンプトン散乱又は光電吸収が生じた地点にて、コンプトン散乱又は光電吸収が生じると同時に光、例えばシンチレーション光eを発光する。このシンチレーション光eは光検出器46にて検出される。
ここで、二次処理パルス105には、BG放射線dの反応に起因する誤パルスが含まれている。BG放射線dは、CdTe半導体検出器16にて検出されるとほぼ同時に光検出器46にて光が検出されている。よって、図9に示された波高弁別器41から計数禁止信号118が出力されていない時に、波高弁別器21から入力される二次処理パルス105は、蛍光X線bに起因するパルス信号であると判断され、MCA22に出力される。
MCA22では、二次処理パルス105からエネルギー毎の計数が行なわれ、波高分布データ106が取得される。MCA22では、BG放射線dの反応に起因する誤パルスの影響を除外でき、測定対象である蛍光X線bのみの波高分布データ106を取得できる。
MCA22から元素分析器23に、所要の時間幅の波高分布データ106が出力される。元素分析器23では、分析試料10を構成する元素の含有量比を時系列に連続的に表示する。つまり、各元素に相当するエネルギー幅での計数値を時系列にフィルタ処理を行ない、元素の連続的な含有率の変化を表示する。このフィルタの時定数は、必要精度に応じて可変とする。
X線分析装置11Cのように、厚型のCdTe半導体検出器16を用いると、蛍光X線bの反応に起因するパルスと共に、BG放射線dの反応に起因する誤パルスを取得することができる。さらに、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線dを弁別できる。したがって、パルス信号処理によって誤パルスを除去できるので、分析装置周囲のBG放射線dの入射を遮蔽する必要がなく、BG放射線dが存在する環境でも、高いS/N比で分析試料10の元素分析及び解析を実施することができる。
また、X線分析装置11Cのように、光検出器46を用いると、BG放射線dの反応に起因する未処理パルス113に基づいて計数禁止信号118を発することで、BG放射線dが存在する環境でも、高いS/N比で分析試料10の元素分析及び解析を実施することができる。
図12は、本発明に係るX線分析装置の第5の実施形態を示す概略図である。
図12は、BG放射線として自然放射線が存在する放射線環境にて、分析試料10を分析するX線分析装置11Dを示す。
X線分析装置11Dには、複数の分析試料10を運搬する分析試料運搬手段、例えばベルトコンベア55と、複数の分析試料10から放出される蛍光X線bを集光及び増幅して増強する蛍光X線増強手段、例えばコリメータ56と、複数の検出素子を有する放射線検出器、例えばCdTe半導体群検出器57とが備えられる。
CdTe半導体群検出器57は、支持基板25と、支持基板25上に設けられるCdTe単結晶群58とから構成される。CdTe単結晶群58は、アレイ化された複数のCdTe単結晶、例えば8個のCdTe単結晶29a〜29hを有する。なお、CdTe単結晶29a〜29hは一対の電極(図示しない)に挟持されているものとする。
また、X線分析装置11Dには、CdTe半導体群検出器57からの出力パルス101をパルス量に比例する電圧パルス102に変換・増幅するプリアンプ群59と、電圧パルス102の波形をデジタルデータに変換して未処理パルス103を得るA/D変換器群60とが備えられる。A/D変換器群60群からの信号である未処理パルス103は、反応深さ演算手段20に入力できるようになっている。
プリアンプ群59には、CdTe単結晶29a〜29hに対応するように、プリアンプ18a〜18hがそれぞれ設けられ、さらに、A/D変換器群60には、プリアンプ18a〜18hに対応するように、A/D変換器19a〜19hがそれぞれ設けられる。
元素分析器23は、一定の判定基準との比較を順次実施し、ある規定値濃度以上の元素が検出された場合、検出位置と濃度を出力する機能を有する。
続いて、X線分析装置11Dの処理動作について説明する。
図12に示されたX線分析装置11Dに備えられるX線源14から分析試料10に照射X線aが入射される。分析試料10からは、蛍光X線bとコンプトン散乱した散乱X線cとが放出される。
そして、電圧印加されたCdTe半導体群検出器57に、分析試料10からの蛍光X線b及びBG放射線dがそれぞれ入射する。蛍光X線b及びBG放射線dは、CdTe半導体群検出器57に入射し、CdTe単結晶29a〜29hによってそれぞれ検出される。
つまり、CdTe半導体群検出器57から出力される出力パルス101には、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線dの反応に起因する誤パルスとが含まれている。
出力パルス101は、反応深さ演算手段20及び波高弁別器21にてBG放射線dが除去され二次処理パルス105に変換される。
ここで、CdTe単結晶29a〜29hにて蛍光X線b及びBG放射線dを検出する際、例えばCdTe単結晶29aは、蛍光X線bの検出を行なうと共に、隣り合うCdTe単結晶29bのBG放射線検出器としての役割をもたせることもできる。すなわち、図9に示されたX線分析装置11Bにて説明したように、CdTe単結晶29aにて検出して得られる未処理パルス103は、隣り合うCdTe単結晶29bの計数禁止信号118としての役割も果たす。よって、A/D変換器19aから計数禁止信号118が出力されていない時に、A/D変換器19bから入力される未処理パルス103は、蛍光X線bに起因するパルス信号であると判断され、反応深さ演算手段20に出力される。なお、CdTe単結晶29aにて検出して得られる未処理パルス103は、一定の距離の範囲内にあるCdTe単結晶29c〜29hの計数禁止信号118としての役割も果たす。
さらに、元素分析器23において、順次運搬される分析試料10の元素濃度と所要の判定基準値との比較を実施する。分析試料10において基準値以上の濃度の元素が検出された場合、分析試料10のうち、基準値以上の濃度の元素の位置を認識・表示し、分析試料10中に含まれる管理すべき元素と位置とを迅速に弁別することができる。
X線分析装置11Dのように、複数のCdTe単結晶29を有するCdTe半導体群検出器57を用いると、蛍光X線bの反応に起因するパルスと共に、BG放射線dの反応に起因する誤パルスを取得することができる。さらに、蛍光X線bの反応に起因するパルスと、BG放射線dとを弁別できる。したがって、パルス信号処理によって誤パルスを除去できるので、分析装置周囲のBG放射線dの入射を遮蔽する必要がなく、BG放射線dが存在する環境でも、高いS/N比で分析試料10の元素分析及び解析を実施することができる。
また、X線分析装置11Dのように、隣り合うCdTe単結晶をBG放射線検出器として用いると、BG放射線dの反応に起因する未処理パルス113に基づいて計数禁止信号118を発することで、BG放射線dが存在する環境でも、高いS/N比で分析試料10の元素分析及び解析を実施することができる。
図13は、本発明に係るX線分析装置の第6の実施形態を示す概略図である。
図13は、BG放射線として自然放射線が存在する放射線環境にて、分析試料10、例えば放射化物試料10aを分析するX線分析装置11Eを示す。X線分析装置11Eは、水中において放射化物試料10aの応力を解析する装置である。
X線分析装置11Eには、X線出射信号120を出力するタイミング調整装置60と、X線出射信号120を受けて単色のX線を照射するX線源14と、このX線源14から出射された照射X線aを案内するX線案内管61aと、放射化物試料10aからコンプトン散乱された散乱X線cを案内するX線案内管61bと、散乱X線cを検出するCdTe半導体検出器16と、CdTe半導体検出器16からの出力パルス101によって強度分析を行ない出力パルス101からエネルギー及びBG放射線dの除去を行なう強度分析装置62と、この強度分析装置62からのX線強度情報122によって応力値を算出する応力評価装置63とが備えられる。
また、X線出射信号120を受けてガスを供給できるガス注入器65と、このガス注入器65からガスを案内するガス案内手段66とが設けられ、このガス案内手段66のガス供給側からX線案内管61a,61bの内部にそれぞれガスが供給できるようになっている。X線案内管61a,61bの内部に照射X線aが照射されるときのみX線案内管61a,61bの内部にガスを注入し、照射X線a,散乱X線cの透過ラインを設けるものである。ガスの種類としては、例えば、空気を用いるが、ヘリウム等の不活性・軽元素のガスを用いた方が、低エネルギーX線の減衰を低減できるため有効である。
また、X線分析装置11Eには、照射X線aの照射角と散乱X線cの入射角とを調整するために、X線源14とCdTe半導体検出器16との位置を誘導する位置調整装置68が備えられる。
さらに、タイミング調整装置60からのX線出射信号120は、応力評価装置63に出力できるようになっている。
続いて、X線分析装置11Eの処理動作について説明する。
位置調整装置68によって、X線源14とCdTe半導体検出器16との位置を所要の位置に設定する。
タイミング調整装置60からX線出射信号120をX線源14、ガス注入器65及び応力評価装置63に出力する。X線出射信号120によって、ガス注入器65からガス案内手段66を介してX線案内管61a,61bの内部にガスが注入され、X線源14から放射化物試料10aにX線案内管61aを介して照射X線aが照射される。そして、放射化物試料10aからコンプトン散乱される散乱X線cがX線案内管61bを介してCdTe半導体検出器16にて検出される。
CdTe半導体検出器16から出力される出力パルス101は、強度分析装置62によって、エネルギー及びBG放射線dの除去が行われる。また、CdTe半導体検出器16は、図12に示されたCdTe半導体群検出器57であってもよい。その際、例えばCdTe半導体群検出器57のCdTe単結晶29aは、散乱X線cの検出を行なうと共に、隣り合ったCdTe単結晶29bのBG放射線検出器としての役割も果たす。
そして、強度分析装置62にて、出力パルス101を波形処理することによってBG放射線dを低減して、X線強度分布を算出する。
強度分析装置62からのX線強度情報122が応力評価装置63に入力される。この応力評価装置63では、X線出射信号120を受けて、X線源14及びCdTe半導体検出器16の位置関係と、強度情報122とから放射化物試料10aの応力を評価する。
X線分析装置11Eのように、厚型CdTe半導体検出器16を用いると、散乱X線cの反応に起因するパルスと共に、BG放射線dの反応に起因する誤パルスを取得することができる。さらに、散乱X線cの反応に起因するパルスと、BG放射線dの反応に起因する誤パルスとを弁別できる。したがって、パルス信号処理によって誤パルスを除去できるので、BG放射線dの環境に影響されることなく高いS/N比で放射化物試料10aの応力解析を実施することができる。
また、水中に設置される放射化物試料10aの応力解析を実施することができる。