JP3948236B2 - 半導体発光素子及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体発光素子に関し、例えば窒化物半導体からなる結晶層を利用して発光領域を構成する半導体発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体発光素子として、これまでサファイア基板上に全面に低温バッファ層、SiをドープしたGaNからなるn側コンタクト層を形成し、その上にSiをドープしたGaNからなるn側クラッド層,SiをドープしたInGaNからなる活性層、 MgをドープしたAlGaNからなるp側クラッド層と、MgをドープしたGaNよりなるp側コンタクト層などを積層した素子が知られている。このような構造を有し市販されている製品として、450nmから530nmを含む青色、緑色LED(Light Emitting Diode)が量産されている。
【0003】
ところで、窒化ガリウムを成長させようとする場合、サファイヤ基板が使用されることが多く行われている。サファイア基板から窒化ガリウムを結晶成長させる場合、通常はC面を主面とするサファイア基板が使用され、主面上に形成される窒化ガリウム層の表面もC面を有し、必然的に基板主面と平行な面に形成される活性層やそれを挟むクラッド層もC面に平行な面に延在される。このように基板主面を基準に各結晶層を積層した構造の半導体発光素子では、基板主面の平滑性を生かして電極形成などに必要な平滑性が得られている。
【0004】
しかしながら、サファイヤ基板と成長させる窒化ガリウムの間の格子不整合から、結晶内に高密度の転位が内在することがある。このため基板上に低温バッファ層を形成する技術は、成長させる結晶に発生する欠陥を抑制するための1つの手段であり、また、結晶欠陥を低減する目的で、特開平10−312971号公報では、横方向への選択結晶成長(ELO: epitaxial lateral overgrowth)を組合わせている。
【0005】
また、特開平10−321910号公報は、基板主面上に垂直な(10−10)m面からなる側面を有する六角柱状構造が形成され、その六角柱状構造部分に基板主面に対して垂直に延在する発光領域が形成された半導体発光素子を開示する。基板主面上に垂直に延在する活性層などを形成することで、基板との格子不整合による欠陥や転位を抑制でき、熱膨張係数の違いによる歪みの悪影響も少なくできる。
【0006】
ここで、特開平10−321910号公報のように基板主面上に垂直に延在する六角柱状構造を形成する技術では、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)で成膜した後、(10−10)m面からなる側面が得られるようにドライエッチングを施している。このようにドライエッチングを施す場合には、一般的に結晶面に対する損傷を避けることができず、従って基板側からの貫通転位などを抑制しつつも逆にドライエッチングにより結晶の特性が劣化する。また、ドライエッチングを施す場合では、その分だけ工程も増加してしまう。
【0007】
一方、基板主面に平行な面を形成する素子は、結晶性を良好に維持するために平坦な面の作成が重要となり、結果として電極などが平面的に広がった素子構造と有する傾向がある。したがって各素子の間を分離する場合には、たとえばチップをダイサーなどを用いて切り出さなければならないため、多大な労力がかかるとともに平面的に広がった電極などを避けながら微小に切り出すことは極端に難しくなっている。また、サファイア基板およびGaNなどの窒化物は硬度が高く切り出しが難しいことから、ダイシングの際に少なくとも20μm程度の切りしろが必要になり、微小なチップの切り出しがさらに困難となっている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中、本願出願人は、選択成長によりS面で囲まれた多角錐形状、例えば六角錐形状の結晶層を選択成長させ、このS面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層を形成してなる半導体発光素子を既に提案している。サファイヤ基板のC面上に選択成長させた場合には、(1−101)面すなわちS面で囲まれた先端の尖った形状の結晶層が形成される(例えば、特許公報第2830814号の明細書段落0009参照)が、電極形成に必要な平坦面が得られていないものとされ、積極的に電子デバイスや発光デバイスとして利用されている例はなく、さらなる選択成長から結晶構造の下地層として利用されているに過ぎない。本願出願人は、S面上に形成したInGaN発光素子は発光効率が高く、長波長化に有利であり、製造上の利点も有することに着目し、これを利用した半導体発光素子を開発するに至った。
【0009】
ただし、上記S面で囲まれた先端の尖った形状の結晶層を利用した半導体発光素子においては、実用化に際していくつかの課題を残しており、その改善が待たれるところである。例えば、マスク層に円形、あるいは六角形の開口部を形成し、この開口部に結晶層を選択成長した場合、結晶層はS面を持つ六角錐形状などに成長するが、その高さは10μm以上になる場合があり、半導体プロセスによる作製が困難になる虞れがある。また、選択成長により貫通転位は減少するものの、必ずしも十分ではなく、特に、結晶層の頂部において結晶性が低下し易いという問題もある。
【0010】
本発明は、これらの課題を解消することを目的に提案されたものであり、半導体プロセスによる作製が容易で、優れた結晶性に起因して良好な性能を発揮する半導体発光素子を提供することを目的とし、その製造方法を提供することを目的とする。さらには、かかる半導体発光素子を応用することで、表示特性や発光特性に優れ、生産性においても有利な画像表示装置、照明装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明の半導体発光素子は、マスク層に形成された環状の開口部に選択成長され、マスク層形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を備え、上記S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層が前記結晶層に形成されていることを特徴とするものである。また、本発明の半導体発光素子の製造方法は、基板上に環状の開口部を有するマスク層を形成し、該マスク層の開口部にS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を選択的に形成し、当該S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層を前記結晶層に形成することを特徴とするものである。さらに、本発明の画像表示装置は、マスク層に形成された環状の開口部に選択成長され、マスク層形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を備え、上記S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層が前記結晶層に形成されてなる半導体発光素子を並べ、信号に応じて各素子が発光するように構成されてなることを特徴とするものであり、本発明の照明装置は、マスク層に形成された環状の開口部に選択成長され、マスク層形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を備え、上記S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層が前記結晶層に形成されてなる半導体発光素子を複数個配列したことを特徴とするものである。
【0012】
電極形成などの観点から、選択的な結晶成長の未熟な段階として把握されているS面を、発想を変え、そのままS面を利用し第1導電型層、活性層、及び第2導電型層がS面またはS面と実質的に等価な面に平行に延在される形状で素子を形成する。S面等は基板に対して傾斜していることから、横方向成長により基板からの貫通転位を押さえることも可能であり、S面は選択成長によって現れ易い面であることから、エッチングなどの工程増加を招かず良好な結晶を得ることができる。
【0013】
また、S面上では例えば結晶層が窒化ガリウム(GaN)で構成される場合、その窒素原子からガリウム原子へのボンドの数がC+面上に比べて増大することになり、実効的なV/III比を高くすることが可能であって、形成される半導体発光素子の高性能化を図ることもできる。
【0014】
さらに、上記において、結晶層を環状に選択成長させ、環状の開口部に沿って環状の頂部を有し、その両側がマスク形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面となった状態で結晶成長を終えることにより、例えば結晶層を六角錐形状まで成長させる場合と比べて、高さが半分以下に抑えられ、製造プロセスが容易なものとなる。このとき、S面の面積は六角錐形状まで成長させる場合とほとんど変わらず、したがって発光領域も十分に確保される。
【0015】
一方、上記において、上記結晶層を上記環状の開口部で囲まれた領域を埋める形となるまで結晶成長させ、全体の形状が六角錐形状となるまで結晶成長させることも可能であり、この場合には、いわゆるラテラル成長のために貫通転位が上まで延びず、低転位となって頂部の結晶性も十分に良好な状態に保たれる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した半導体発光素子、さらにはその製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、第1導電型層、活性層、第2導電型層を積層させたダブルヘテロ構造のものを中心に説明しているが、これに限らず、例えばシングルヘテロ構造などであってもよい。
【0017】
本発明の半導体発光素子は、マスク層に形成された環状の開口部に選択成長され、マスク層形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を備え、上記S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層が前記結晶層に形成されていることを特徴とするものである。通常は、基板上に上記環状の開口部を形成したマスク層を形成し、当該開口部を介して結晶層を選択成長させる。
【0018】
ここで用いられる基板は、後述のS面またはそのS面に等価な面を有する結晶層を形成し得るものであれば特に限定されず、種々のものを使用できる。例示すると、基板として用いることができるのは、サファイア(Al2O3、A面、R面、C面を含む。)SiC(6H、4H、3Cを含む。)GaN、Si、ZnS、ZnO、AlN、LiMgO、GaAs、MgAl2O4、InAlGaNなどからなる基板であり、好ましくはこれらの材料からなる六方晶系基板または立方晶系基板であり、より好ましくは六方晶系基板である。例えば、サファイヤ基板を用いる場合では、窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体の材料を成長させる場合に多く利用されているC面を主面としたサファイヤ基板を用いることができる。この場合の基板主面としてのC面は、5乃至6度の範囲で傾いた面方位を含むものである。
【0019】
この基板上に形成される結晶層は基板の主面に対して傾斜したS面または該S面に実質的に等価な面を有している。この結晶層は後述のS面または該S面に実質的に等価な面に平行な面に第1導電型層、活性層、及び第2導電型層からなる発光領域を形成可能な材料層であれば良く、特に限定されるものではないが、その中でもウルツ鉱型の結晶構造を有することが好ましい。このような結晶層としては、例えばIII族系化合物半導体やBeMgZnCdS系化合物半導体を用いることができ、更には窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体、窒化アルミニウム(AlN)系化合物半導体、窒化インジウム(InN)系化合物半導体、窒化インジウムガリウム(InGaN)系化合物半導体、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系化合物半導体を好ましくは形成することができ、特に窒化ガリウム系化合物半導体が好ましい。なお、本発明において、InGaN、AlGaN、GaNなどは必ずしも、3元混晶のみ、2元混晶のみの窒化物半導体を指すのではなく、例えばInGaNでは、InGaNの作用を変化させない範囲での微量のAl、その他の不純物を含んでいても本発明の範囲であることはいうまでもない。また、S面に実質的に等価な面とは、S面に対して5乃至6度の範囲で傾いた面方位を含むものである。
【0020】
この結晶層の成長方法としては、種々の気相成長法を挙げることができ、例えば有機金属化合物気相成長法(MOCVD(MOVPE)法)や分子線エピタキシー法(MBE法)などの気相成長法や、ハイドライド気相成長法(HVPE法)などを用いることができる。その中でもMOVPE法によると、迅速に結晶性の良いものが得られる。MOVPE法では、GaソースとしてTMG(トリメチルガリウム)、TEG(トリエチルガリウム)、AlソースとしてはTMA(トリメチルアルミニウム)、TEA(トリエチルアルミニウム)、Inソースとしては、TMI(トリメチルインジウム)、TEI(トリエチルインジウム)などのアルキル金属化合物が多く使用され、窒素源としてはアンモニア、ヒドラジンなどのガスが使用される。また、不純物ソースとしてはSiであればシランガス、Geであればゲルマンガス、MgであればCp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)、ZnであればDEZ(ジエチルジンク)などのガスが使用される。MOCVD法では、これらのガスを例えば600℃以上に加熱された基板の表面に供給して、ガスを分解することにより、InAlGaN系化合物半導体をエピタキシャル成長させることができる。
【0021】
結晶層を形成する前に、下地成長層を基板上に形成することが好ましい。この下地成長層は例えば窒化ガリウム層や窒化アルミ二ウム層からなり、下地成長層は低温バッファ層と高温バッファ層との組合せ或いはバッファ層と結晶種として機能する結晶種層との組合せからなる構造であっても良い。この下地成長層も結晶層と同様に、種々の気相成長法で形成することができ、例えば有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)、ハイドライド気相成長法(HVPE法)などの気相成長法を用いることができる。結晶層の成長を低温バッファ層から始めるとマスク上にポリ結晶が析出しやすくなって、それが問題となる。そこで、結晶種層を含んでからその上に基板と異なる面を成長することで、さらに結晶性のよい結晶が成長できる。また、選択成長を用いて結晶成長を行うには結晶種層がないとバッファ層から形成する必要があるが、もしバッファ層から選択成長を行うと成長の阻害された成長しなくても良い部分に成長が起こりやすくなる。従って、結晶種層を用いることで、成長が必要な領域に選択性良く結晶を成長させることができることになる。バッファ層は基板と窒化物半導体の格子不整合を緩和するという目的もある。したがって、窒化物半導体と格子定数の近い基板、格子定数が一致した基板を用いる場合にはバッファ層が形成されない場合もある。たとえば、SiC上にはAlNを低温にしないでバッファ層をつけることもあり、Si基板上にはAlN、GaNをやはり低温にしないでバッファ層として成長することもあり、それでも良質のGaNを形成できる。また、バッファ層を特に設けない構造であっても良く、GaN基板を使用しても良い。
【0022】
そして、本発明においては、S面またはS面に実質的に等価な面を形成するために、選択成長法を用いる。S面はC+面の上に選択成長した際に見られる安定面であり、比較的得やすい面であって六方晶系の面指数では(1−101)である。C面にC+面とC−面が存在するのと同様に、S面についてはS+面とS−面が存在するが、本明細書においては、特に断らない場合は、C+面GaN上にS+面を成長しており、これをS面として説明している。なお、S面についてはS+面が安定面である。またC+面の面指数は(0001)である。このS面については、前述のように窒化ガリウム系化合物半導体で結晶層を構成した場合には、S面上、GaからNへのボンド数が2または3とC−面の次に多くなる。ここでC−面はC+面の上には事実上得ることができないので、S面でのボンド数は最も多いものとなる。例えば、C面を主面に有するサファイア基板に窒化物を成長した場合、一般にウルツ鉱型の窒化物の表面はC+面になるが、選択成長を利用することでS面を形成することができ、C面に平行な面では脱離しやすい傾向をもつNのボンドがGaから一本のボンドで結合しているのに対し、傾いたS面では少なくとも一本以上のボンドで結合することになる。従って、実効的にV/III 比が上昇することになり、積層構造の結晶性の向上に有利である。また、基板と異なる方位に成長すると基板から上に伸びた転位が曲がることもあり、欠陥の低減にも有利となる。
【0023】
本発明の半導体発光素子においては、結晶層は少なくともS面又はS面に実質的に等価な面を有する構造を有しているが、特に、結晶層はS面または該S面に実質的に等価な面が略六角形状に連なる稜線に沿った斜面をそれぞれ構成する構造であっても良く、或いは、S面または該S面に実質的に等価な面が略六角錐の斜面をそれぞれ構成する構造であっても良い。さらには、S面または該S面に実質的に等価な面が略六角錐台形状の斜面をそれぞれ構成する共にC面または該C面に実質的に等価な面が前記略六角錐台形状の上平面部を構成する構造、所謂略六角錐台形状であっても良い。ここで、例えば略六角錐形状や略六角錐台形状は、正確に六角錐であることを必要とせず、その中の幾つかの面が消失したようなものも含む。また、結晶層の結晶面間の稜線は必ずしも直線でなくとも良い。
【0024】
具体的な選択成長法としては、選択的に前記下地成長層上にまたは前記下地成長層形成前に形成されたマスク層の開口された部分を利用して行われる。ここで、本発明においては、上記マスク層に形成される開口部を環状の開口部とすることが大きな特徴である。この環状の開口部は、多角形、例えば六角形の環状開口部であってもよいし、円環状の開口部であってもよい。これら環状の開口部が形成されることにより、マスクは、環状開口部の周囲のマスク領域と内部のマスク領域との2重構造となり、環状開口部の内部にマスク層が残存する形となる。マスク層は例えば酸化シリコン層或いは窒化シリコン層によって構成することができる。
【0025】
本発明者らの行った実験において、カソードルミネッセンスを用いて成長した六角錐台形状を観測してみると、S面の結晶は良質でありC+面に比較して発光効率が高くなっていることが示されている。特にInGaN活性層の成長温度は700〜800℃であるため、アンモニアの分解効率が低く、よりN種が必要とされる。またAFMで表面を見たところステップが揃ってInGaN取り込みに適した面が観測された。さらにその上、Mgドープ層の成長表面は一般にAFMレベルでの表面状態が悪いが、S面の成長によりこのMgドープ層も良い表面状態で成長し、しかもドーピング条件がかなり異なることがわかっている。また、顕微フォトルミネッセンスマッピングを行うと、0. 5〜1μm程度の分解能で測定することができるが、C+面の上に成長した通常の方法では、1μmピッチ程度のむらが存在し、選択成長でS面を得た試料については均一な結果が得られた。また、SEMで見た斜面の平坦性もC+面より滑らかに成っている。
【0026】
また、選択成長マスクを用いて選択成長する場合であって、選択マスク開口部の上だけに成長する際には横方向成長が存在しないため、マイクロチャネルエピタキシーを用いて横方向成長させ窓領域より拡大した形状にすることが可能である。このようなマイクロチャネルエピタキシーを用いて横方向成長をした方が貫通転位を避けやすくなり、転位が減ることがわかっている。またこのような横方向成長により発光領域も増大し、さらに電流の均一化、電流集中の回避、および電流密度の低減を図ることができる。
【0027】
本発明の半導体発光素子は、S面または該S面に実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層を結晶層に形成する。第1導電型はp型又はn型のクラッド層であり、第2導電型はその反対の導電型である。例えばS面を構成する結晶層をシリコンドープの窒化ガリウム系化合物半導体層によって構成した場合では、n型クラッド層をシリコンドープの窒化ガリウム系化合物半導体層によって構成し、その上にInGaN層を活性層として形成し、さらにその上にp型クラッド層としてマグネシウムドープの窒化ガリウム系化合物半導体層を形成してダブルヘテロ構造をとることができる。活性層であるInGaN層をAlGaN層で挟む構造とすることも可能である。
【0028】
また、活性層は単一のバルク活性層で構成することも可能であるが、単一量子井戸(SQW)構造、二重量子井戸(DQW)構造、多重量子井戸(MQW)構造などの量子井戸構造を形成したものであっても良い。量子井戸構造には必要に応じて量子井戸の分離のために障壁層が併用される。活性層をInGaN層とした場合には、特に製造工程上も製造し易い構造となり、素子の発光特性を良くすることができる。さらにこのInGaN層は、窒素原子の脱離しにくい構造であるS面の上での成長では特に結晶化しやすくしかも結晶性も良くなり、発光効率を上げることが出来る。なお、窒化物半導体はノンドープでも結晶中にできる窒素空孔のためにn型となる性質があるが、通常Si、Ge、Seなどのドナー不純物を結晶成長中にドープすることで、キャリア濃度の好ましいn型とすることができる。また、窒化物半導体をp型とするには、結晶中にMg、Zn、C、Be、Ca、Baなどのアクセプター不純物をドープすることによって得られるが、高キャリア濃度のp層を得るためには、アクセプター不純物のドープ後、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で400℃以上でアニーリングを行うことが好ましく、電子線照射などにより活性化する方法もあり、マイクロ波照射、光照射などで活性化する方法もある。
【0029】
これら第1導電型層、活性層、及び第2導電型層はS面または該S面に実質的に等価な面に平行な面内に延在されるが、このような面内への延在はS面等が形成されているところで続けて結晶成長させれば容易に行うことができる。結晶層が、断面略三角形の結晶層が平面で見たときに六角形に連なった形状や、略六角錐形状、略六角錐台形状となり、各傾斜面がS面等とされる場合では、第1導電型層、活性層、及び第2導電型層からなる発光領域を全部又は一部のS面上に形成することができる。略六角錐台形状の場合には、基板主面に平行な上面上にも第1導電型層、活性層、及び第2導電型層を形成できる。傾斜したS面を利用して発光させることで、平行平板では多重反射により光が減衰していくが、傾いた面があると光は多重反射の影響を免れて半導体の外に出ることができるという利点がある。第1導電型層すなわちクラッド層はS面を構成する結晶層と同じ材料で同じ導電型とすることができ、S面を構成する結晶層を形成した後、連続的に濃度を調整しながら形成することもでき、また他の例として、S面の構成する結晶層の一部が第1導電型層として機能する構造であっても良い。
【0030】
本発明の半導体発光素子では、傾斜したS面の結晶性の良さを利用して、発光効率を高めることができる。特に、結晶性が良いS面にのみ電流を注入すると、S面はInの取り込みもよく結晶性も良いので発光効率を高くすることができる。また、活性層の実質的なS面に平行な面内に延在する面積は該活性層を基板又は前記下地成長層の主面に投影した場合の面積より大きいものとすることができる。このように活性層の面積を大きなものとすることで、素子の発光する面積が大きくなり、それだけで電流密度を低減することが出来る。また、活性層の面積を大きくとることで、輝度飽和の低減に役立ち、これにより発光効率を上げることが出来る。
【0031】
結晶層と第2導電型層には、それぞれ電極が形成される。接触抵抗を下げるために、コンタクト層を形成し、その後で電極をコンタクト層上に形成しても良い。これらの電極を蒸着法により形成する場合、p電極、n電極が結晶層とマスクの下に形成された結晶種層との双方についてしまうと短絡してしまうことがあり、それぞれ精度よく蒸着することが必要となる。
【0032】
本発明の半導体発光素子は複数個を並べて画像表示装置や照明装置を構成することが可能である。各素子を3原色分揃え、走査可能に配列することで、S面を利用して電極面積を抑えることができるため、少ない面積でディスプレーとして利用できる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を各実施例を参照しながら更に詳細に説明する。各実施例はそれぞれ製造方法に対応しており、その製造方法によって完成した素子が本発明の構造を有する半導体発光素子である。従って、各実施例では初めに製造工程について説明を行い、次いで製造された素子自体について説明する。なお、本発明の半導体発光素子は、その要旨を逸脱しない範囲で変形、変更などが可能であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
本実施例は、サファイア基板上にS面を有する結晶層を高さを抑えた状態で形成した半導体発光素子の例であり、図1乃至図5を参照しながら、その製造工程と共に素子構造を説明する。
【0035】
本例の半導体発光素子を作製するには、先ず、C+面を基板主面10aとするサファイア基板10上(C+面)に結晶成長を行う。これは低温500°Cで薄い(20〜30nm)のGaN層(低温バッファ層)を成長し、その後成長温度を1000℃程度に上昇させてシリコンドープのGaN層11を形成する。このGaN層11は、下地成長層に相当するものである。
【0036】
次いで、その上にマスク層12を形成し、さらにフォトリソグラフィーとエッチングで環状の開口部13を設け(図1)、この開口部13において成長を続けシリコンドープのGaNからなる結晶層14を成長させる(図2)。ここで形成する開口部13は、六角形の環状の開口部であり、したがって、マスク層12は、この開口部13の外側の領域12aと内側の六角形の領域12bからなる二重構造となる。
【0037】
上記開口部13に成長される結晶層14は、図2に示すように、開口部13の形状に倣った形で成長する。具体的には、断面三角形状の凸部が六角形に連なった形状であり、したがって、稜線が六角環状に連なり、その両側が傾斜面となっている。ここで、稜線の両側の傾斜面は、外周側の傾斜面14a、内周側の傾斜面14bのいずれもがS(1−101)面である。
【0038】
本例では、この段階で結晶層14の成長を止め、結晶層14の高さを抑制するようにする。例えば、六角錐形状となるまで結晶層14の成長を続けると、通常、発光素子の高さは10μm以上になる。これに対し、図2に示す形状で成長を止めた場合、発光素子の高さはその半分以下となり、その後の製造プロセスを考えた場合、非常に有利である。また、上記外周側の傾斜面14a、内周側の傾斜面14bのいずれもがS(1−101)面であることから、発光領域の面積は六角錐形状とした場合とほとんど変わらず、この点でも非常に有利である。
【0039】
続いて、成長温度を低減してInGaN層15を成長する。その後、成長温度を上昇し、マグネシウムドープのGaN層16を成長する。その際のInGaN層15の厚さは0.5nmから3nm程度である。さらに(Al)GaN/InGaNの量子井戸層や多重量子井戸層などにすることもあり、ガイド層として機能するGaNまたはInGaNを用いて多重構造とすることもある。その際、InGaNのすぐ上の層にはAlGaN層を成長することが望ましい。
【0040】
その後、これらエピタキシャル層の一部をシリコンドープのGaN層11が露出するまでエッチングし、さらにその除去した部分11aにTi/Al/Pt/Au電極を蒸着する。これがn電極17となる。図3は、このn電極17を形成した状態を示すものである。さらに成長した結晶層の最表層にNi/Pt/AuまたはNi(Pd)/Pt/Auを蒸着する。この蒸着によりp電極18が形成される(図4)。最後に、発光素子をRIE(反応性イオンエッチング)またはダイサーなどで分離し本例の発光素子を完成する。
【0041】
このような製造工程で製造された本実施例の発光素子は、図5に示す素子構造を有している。その主な構成はC+面を基板主面とするサファイヤ基板10上に結晶種層となるシリコンドープのGaN層11を介して成長したシリコンドープのGaN層を結晶層14として有している。この結晶層14は、基板主面とは傾斜してなるS面を有しており、このS面に平行に延在してなる形状で活性層であるInGaN層15が形成され、さらにそのInGaN層15上にクラッド層としてマグネシウムドープのGaN層16が形成されている。p電極18はマグネシウムドープのGaN層16の上面に形成されている。n電極17は、選択成長された結晶層からやや離れた位置に形成されており、シリコンドープのGaN層11を介して結晶層14に接続されている。
【0042】
このような構造を有する本実施例の半導体発光素子は、基板主面に対して傾斜したS面を利用することから、その窒素原子からガリウム原子へのボンドの数が増大することになり、実効的なV/III比を高くすることが可能であり、形成される半導体発光素子の高性能化を図ることができる。また、結晶層を六角錐形状まで成長させる場合に比べて高さを低くすることができるので、製造上も有利である。しかもS面の面積(発光領域の面積)を六角錐形状まで成長させた場合と同等とすることができるので、発光領域の面積も十分に確保することが可能である。
【0043】
実施例2
本実施例は、環状の開口部に囲まれた領域も結晶層で塞ぎ、六角錐形状まで成長させた半導体発光素子の例であり、図6乃至図9を参照しながら、その製造工程と共に素子構造を説明する。
【0044】
本例においても、環状の開口部を形成し、結晶層を成長させることは、実施例1と同様である。したがって、先に図1及び図2に示す工程により、先ず、結晶層14を開口部13の形状に倣った形で成長させるが、本例では、この状態からさらに結晶層14を六角錐形状になるまで成長させる。
【0045】
図2に示す工程により、開口部13の形状に倣った形で結晶層14を成長させると、図6に模式的に示すように、環状に連なる結晶層14の屈曲部分14cには、(11−22)と等価な面が存在する。この(11−22)と等価な面は、成長速度が速く、この状態から結晶成長を進めると、図7に示すように、開口部13で囲まれた領域を塞ぐように結晶層14の成長が進み、六角錐台形状になる。このとき、図7の(B)に示すように、いわゆるラテラル成長のため貫通転位が上に延びず、低転位となり、結晶層14の結晶性が良好なものとなる。
【0046】
さらに結晶層14の成長を続けると、図8に示すように、遂には六角錐形状になる。ただし、例えば単なる円形あるいは六角形の開口部に結晶層を選択成長させた場合に比べて、結晶性は良好なものとなっている。その後、活性層であるInGaN層15、クラッド層であるマグネシウムドープのGaN層16を形成し、さらにはn電極17、p電極18を形成する。得られる半導体発光素子の構造を図9に示す。
【0047】
このような製造工程で製造された本実施例の発光素子においても、C+面を基板主面とするサファイヤ基板10上に結晶種層となるシリコンドープのGaN層11を介して成長したシリコンドープのGaN層が結晶層14として形成されている。この結晶層14は、六角錐形状であり、基板主面とは傾斜してなるS面を有しており、このS面に平行に延在してなる形状で活性層であるInGaN層15が形成され、さらにそのInGaN層15上にクラッド層としてマグネシウムドープのGaN層16が形成されている。p電極18はマグネシウムドープのGaN層16の上面に形成されている。n電極17は、選択成長された結晶層からやや離れた位置に形成されており、シリコンドープのGaN層11を介して結晶層14に接続されている。
【0048】
上記構造を有する半導体発光素子は、基板主面に対して傾斜したS面を利用することから、その窒素原子からガリウム原子へのボンドの数が増大することになり、実効的なV/III比を高くすることが可能であり、形成される半導体発光素子の高性能化を図ることができる。また、六角錐形状まで結晶成長させた場合にも良好な結晶性が保たれ、この点も高性能化に寄与する。
【0049】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明によれば、S面上に発光領域を形成することのメリットはそのままに、様々な利点を得ることができる。例えば結晶層を環状に選択成長させた段階で結晶成長を終えることにより、結晶層を六角錐形状まで成長させる場合と比べて、高さを抑えることができ、製造プロセスを容易なものとすることができる。このとき、S面の面積は六角錐形状まで成長させる場合とほとんど変わらず、したがって発光領域も十分に確保することができる。
【0050】
あるいは、結晶層を六角錐形状となるまで結晶成長させることも可能であり、この場合には、いわゆるラテラル成長のために貫通転位が上まで延びず、低転位となって頂部の結晶性も十分に良好な状態に保つことができる。また、これら半導体発光素子を応用することで、表示特性や発光特性に優れ、生産性においても有利な画像表示装置、照明装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1の半導体発光素子の製造工程における結晶成長用の開口部形成工程を示す図であって、製造工程断面図(A)と製造工程斜視図(B)である。
【図2】本発明の実施例1の半導体発光素子の製造工程におけるシリコンドープのGaN層の結晶成長工程を示す図であって、製造工程断面図(A)と製造工程斜視図(B)である。
【図3】本発明の実施例1の半導体発光素子の製造工程における活性層等の形成工程を示す図であって、製造工程断面図(A)と製造工程斜視図(B)である。
【図4】本発明の実施例1の半導体発光素子の製造工程におけるp電極形成工程を示す図であって、製造工程断面図(A)と製造工程斜視図(B)である。
【図5】本発明の実施例1の半導体発光素子の構造を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例2の半導体発光素子の製造工程における結晶層の結晶成長状態を模式的に示す図であって、結晶層が環状に成長した状態を示す模式図である。
【図7】本発明の実施例2の半導体発光素子の製造工程における結晶層の結晶成長状態を模式的に示す図であって、開口部で囲まれた領域が結晶層の結晶成長により塞がれた状態を示す製造工程断面図(A)と製造工程斜視図(B)である。
【図8】本発明の実施例2の半導体発光素子の製造工程における結晶層の結晶成長状態を模式的に示す図であって、結晶層が六角錐形状に成長した状態を示す製造工程断面図(A)と製造工程斜視図(B)である。
【図9】本発明の実施例2の半導体発光素子の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
10 サファイア基板、11 下地成長層、12 マスク層、13 開口部、14 結晶層、15 InGaN層、16 マグネシウムドープのGaN層、17n電極、18 p電極
Claims (15)
- マスク層に形成された環状の開口部に選択成長され、マスク層形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を備え、上記S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層が前記結晶層に形成されていることを特徴とする半導体発光素子。
- 上記環状の開口部は、六角環状または円環状の開口部であることを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
- 上記結晶層は、環状の開口部に沿って環状の頂部を有し、その両側がマスク形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面とされていることを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
- 上記結晶層は、上記環状の開口部で囲まれた領域を埋める形で結晶成長され、多角錐形とされていることを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
- 上記結晶層はウルツ鉱型の結晶構造を有することを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
- 上記結晶層は窒化物半導体からなることを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
- 上記結晶層はマスク層に形成された環状の開口部を介して下地成長層上に成長されていることを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
- マスク層に形成された環状の開口部に選択成長され、マスク層形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を備え、上記S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層が前記結晶層に形成されてなる半導体発光素子を並べ、信号に応じて各素子が発光するように構成されてなることを特徴とする画像表示装置。
- マスク層に形成された環状の開口部に選択成長され、マスク層形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を備え、上記S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層が前記結晶層に形成されてなる半導体発光素子を複数個配列したことを特徴とする照明装置。
- 基板上に環状の開口部を有するマスク層を形成し、該マスク層の開口部にS面またはS面と実質的に等価な面を有する結晶層を選択的に形成し、当該S面またはS面と実質的に等価な面に平行な面内に延在する第1導電型層、活性層、及び第2導電型層を前記結晶層に形成することを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
- 上記結晶層が、環状の開口部に沿って環状の頂部を有し、その両側がマスク形成面に対して傾斜したS面またはS面と実質的に等価な面となるまで結晶成長させることを特徴とする請求項10記載の半導体発光素子の製造方法。
- 上記結晶層が、上記環状の開口部で囲まれた領域を埋め、多角錐形となるまで結晶成長させることを特徴とする請求項10記載の半導体発光素子の製造方法。
- 上記基板の主面をC+面とすることを特徴とする請求項10記載の半導体発光素子の製造方法。
- 上記基板上に複数の半導体発光素子を形成した後、各半導体発光素子毎に分離することを特徴とする請求項10記載の半導体発光素子の製造方法。
- 分離した各半導体発光素子の裏面に電極を形成することを特徴とする請求項14記載の半導体発光素子の製造方法。
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