JP3947680B2 - センタバルブ型車両用液圧マスタシリンダのピストン - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の液圧式ブレーキや液圧式クラッチの液圧発生源として用いられる液圧マスタシリンダであって、詳しくは、センタバルブ型液圧マスタシリンダに用いられるピストンに関する。
【0002】
【従来の技術】
四輪自動車等の液圧式ブレーキや液圧式クラッチに用いられるセンタバルブ型液圧マスタシリンダのピストンとして、例えば特開2000−159088号公報に示されるものがある。
【0003】
図7は、上記ピストンの斜視図を、また図8はこのピストンを装着したセンタバルブ型液圧マスタシリンダの断面図をそれぞれ示しており、ピストン1は、液圧マスタシリンダ2に穿設された有底のシリンダ孔3に、ピストンシール4a,4bを介して液密且つ移動可能に内挿されている。ピストン1の中間部には、長円形のガイド孔5が半径方向に貫通して設けられ、その前後部外側に摺動フランジ1a,1bとシール溝6a,6bとが周設されるとともに、前記ガイド孔5とピストン1の先端側面との間の中心軸上に、弁室7aとステム孔7bとからなるバルブ収容部8が設けられている。
【0004】
このピストン1をシリンダ孔3に内挿する際には、シール溝6a,6bに前記ピストンシール4a,4bが装着され、ガイド孔5にはシリンダ孔3を交差して架設されるガイドピン10が挿通され、バルブ収容部8にはセンタバルブ11が収容される。ピストン1とシリンダ孔3の底壁との間には液圧室12が、またガイド孔5外周の摺動フランジ1a,1b間には補給油室13がそれぞれ画成される。
【0005】
ガイド孔5に挿通されたガイドピン10は、シリンダ孔3を往復動するピストン1の周方向の回動を阻止するほか、ピストン1がシリンダ孔開口部側の後退限に位置した液圧マスタシリンダ2の非作動状態(図8の状態)にあっては、センタバルブ11のバルブステム11bの先端を支承し、センタバルブ11頭部のバルブシール11aを弁室7a底壁の弁座14から離間させて、液圧室12と補給油室13とをバルブ収容部8を介して連通させ、また、ピストン1が液圧室側に前進する液圧マスタシリンダ2の作動状態にあっては、センタバルブ11のバルブシール11aを弁座14に着座させて、液圧室12と補給油室13との連通を遮断し、液圧室12内部の作動液を昇圧して、液圧式ブレーキまたはクラッチへ供給するようになっている。
【0006】
上記ピストン1は、図9に示す成形型20を用いてその全体が剛性樹脂によって一体成形される。この成形型20は、左右型21,22と注湯ノズル23,下型24及び中子25とからなり、これら型21,22,24と注湯ノズル23とを突き合わせて、その内部にキャビティ26を縦方向に画成し、該キャビティ26の略中央に、前記ガイド孔5を形成するための中子25を配置したのち、注湯ノズル23のゲート27よりキャビティ26へ溶湯樹脂を注入することにより、図7に示すごとき、前記ガイド孔5や摺動フランジ1a,1b,シール溝6a,6b,弁室7aやステム孔7bを一体に有するピストン1が成形される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のようにしてピストン1を成形する場合に、注湯ノズル23のゲート27とキャビティ26内部の中子25とは上下関係に位置するため、ゲート27からキャビティ26内部に注入された溶湯樹脂は、図9の矢印に示すように中子25の左右に一旦分岐し、該中子25の両側を流下したのち、中子25の下端で合流する。この結果、ガイド孔5の一端となる合流面に、図7に示すような湯境28の発生を招く。特に、このような湯境28が、センタバルブからの応力が集中して作用するステム孔7b回りに発生すると、ピストン1の圧縮強度が低下する原因となるため、好ましくない。
【0008】
本発明は、このような実情を背景にしてなされたもので、その目的とするところは、成形による湯境の発生を極力抑えて、軸方向の剛性を充分に確保することのできるセンタバルブ型車両用液圧マスタシリンダのピストンを提供することある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述の目的にしたがって、液圧マスタシリンダのシリンダ孔に移動可能に内挿される合成樹脂製のピストンであって、中間部に、前記シリンダ孔を交差して架設されるガイドピンを挿通するガイド孔を半径方向に貫通形成した車両用液圧マスタシリンダのピストンにおいて、第1の発明は、該ピストンは、前記ガイド孔の一端の形状を有するインサート部品が一体にモールドされ、該インサート部品が、センターバルブを収容するバルブ収容部を有していることを特徴としている。
【0010】
さらに第2発明は、前記ピストンを前記ガイド孔の一端で切断して、前記ガイド孔の一端の形状を有するインサート部品と、ピストンの残り形状を有するピストン本体とに分割し、該ピストン本体と前記インサート部品とを、複数の凹凸部をピストンの軸方向に連続させた結着用突部を用いて一体にモールドしたことを特徴としている。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の形態例を図1〜図4に基づいて説明する。
【0012】
図中、図1〜図5は第1形態例を示し、図1はピストンの成形状態を示す断面正面図、図2はピストンの断面側面図、図3は図2のIII−III断面図、図4はインサート部品の斜視図、図5はピストンの斜視図、図6は第2形態例を示すピストンの成形状態を示す断面正面図である。
【0013】
図1〜図5の第1形態例に示すピストン30は、合成樹脂製のピストン本体31と、同じく合成樹脂製のインサート部品32とからなり、ピストン本体31を成形する際に、予め成形しておいたインサート部品32を一体にモールドして成形される。
【0014】
上記ピストン30は、外側に、中間軸部30aと摺動フランジ30b,30cと小径軸部30d,30eとシール溝33a,33bとを備え、内部中心軸上に、ガイド孔34とバルブ収容部35と肉盗み凹部36とを備えている。ガイド孔34は、中心軸方向に中間軸部30aと略同一長さを持ち、且つ中間軸部30aを半径方向に貫通して、両側部を中間軸部30aの外周面に開口させている。
【0015】
シリンダ孔底部側に位置するガイド孔34の一端34aは、ピストン本体31にモールドされるインサート部品32によって平板状に形成され、また、シリンダ孔開口部側に位置する他端34bは、ピストン本体31の成形時にガイド孔34を成形する中子40によって半円形に形成されている。
【0016】
バルブ収容部35は、小径軸部30d内の弁室37a及びステム孔37bと、後述するインサート部品32の小円孔38とからなり、弁室37aとステム孔37bとは、ピストン本体31の成形時に下型41によって形成される。
【0017】
インサート部品32は、ピストン30の中間軸部30aよりも小径な円板32aの一側面に、一対のL字状脚片32b,32bを突設して形成されている。円板32aは、ガイド孔34の一端34aとなる平板状を呈している。円板32aの中央には、前述の小円孔38が穿設されており、またL字状脚片32b,32bは、外側へ突出する先端32c,32cを、ピストン30の中間軸部30aと摺動フランジ30b,30cとの間の長さに形成して、成形時の位置決め用突起としている。
【0018】
ピストン本体31に先立って成形されたインサート部品32は、L字状脚片32b,32bの先端32c,32cを左右型42,43で保持して、縦方向に設定されたキャビティ44の所定位置、すなわち本形態例の場合には、ガイド孔34の一端の直下に配設される。キャビティ44の略中央には、前述の中子40が下面をインサート部品32の円板32aの上面に密着させて配設され、キャビティ44の上部に注湯ノズル45が差し込まれるとともに、インサート部品32の小円孔38に下型41が差し込まれる。
【0019】
注湯ノズル45のゲート46からキャビティ44の内部に注入された溶湯樹脂は、従来と同様に、中子40の上部で左右に分岐し、該中子40の両側を流下してインサート部品32を包んだのち、インサート部品32の外側で合流し、キャビティ44の最下部へと到達する。このようにして、キャビティ44の全体に溶湯樹脂を充填することにより、ピストン本体31が成形され、同時にピストン本体31内部にインサート部品32を一体にモールドして、ピストン30が完成する。成形型から取り出されたピストン30は、インサート部品32の円板32aがガイド孔34の一端中央部分に露出し、該円板32aがガイド孔34の一端34aの内側部分を構成する。
【0020】
このように、本形態例のピストン30は、ピストン本体31の成形時に、インサート部品32をガイド孔34の一端34aに相当する位置に一体にモールドして、インサート部品32の円板32aが、ガイド孔34の一端34aの内側の大部分を構成するので、ガイド孔34の一端34aでは、ステム孔37b回りに溶湯樹脂の合流部分が発生せず、湯境47の発生は、ガイド孔34の一端34aの僅かな外側部分と下側の摺動フランジ30bに連続するのみに抑えられる。したがって、センタバルブからの応力が大きく作用するステム孔37b回りには、溶湯樹脂の合流による湯境が発生しないので、ピストン30の軸方向に所要の圧縮強度を極力確保することができる。
【0021】
また、ピストン本体31の成形時には、バルブ収容部35の一部であるインサート部品32の小円孔38に下型41が差し込まれるため、キャビティ44に対するインサート部品32の位置決めが容易に行えるばかりか、ピストン本体31とインサート部品32とを正確に芯合わせできるので、精度のよいピストン30が得られる。
【0022】
さらに、成形されたピストン30の中間軸部30aには、位置決めに用いたL字状脚片32b,32bの先端32c,32cが突出するが、この先端32c,32cは、摺動フランジ30b,30cよりも短く設定されているため、ピストン30をこのまま液圧マスタシリンダのシリンダ孔に収容しても何ら差し障りとならない。したがって、L字状脚片32b,32bの先端32c,32cを中間軸部30aに露出させたままでも機能上差し支えないが、この露出部分を切除してもかまわない。
【0023】
図6に示す第2形態例のピストン50は、合成樹脂製のピストン本体51と、同じく合成樹脂製のインサート部品52とからなり、予め成形されたインサート部品52は、ピストン本体51の成形時に一体にモールドされる。
【0024】
ピストン本体51とインサート部品52とは、成形時に下側位置するガイド孔53の一端53aで分断されており、ピストン本体51には、中間軸部50aと摺動フランジ50b,50c,小径軸部50d,シール溝54a,ガイド孔53,肉盗み凹部55とが設けられ、またインサート部品52には、小径軸部50e,シール溝54b,バルブ収容部56が設けられている。
【0025】
バルブ収容部56は、弁室57aとステム孔57bとからなっており、またインサート部品52の小径軸部50eは、ピストン本体51内にモールドされる分だけ軸長が延長されている。小径軸部50eのこの延長部分50fは、ピストン50の中間軸部50aよりも小径な円筒状に形成され、該延長部分50fに、凹凸部をピストン軸方向へ連ねた結着用突部50gが突設されており、該結着用突部50gにてピストン本体51との結着力とピストン軸方向の圧縮強度とを高めるようにしている。なお、インサート部品52の結着用突部50gの端面は、ガイド孔53の一端53aを構成する。
【0026】
ピストン本体51の成形には、左右型60,61と下型62,注湯ノズル63とが用いられ、これらの型60〜63の内部にキャビティ64が画成される。インサート部品52は、バルブ収容部56に下型62を差し込んで、小径軸部50eの延長部分50fと結着用突部50gとがキャビティ64下部の所定位置に位置決めされる。キャビティ64の略中間部には、中子65がインサート部品52の延長部分50f上面に密着して配設され、またキャビティ64の上部に注湯ノズル63が差し込まれる。
【0027】
注湯ノズル63のゲート66からキャビティ64へ注入された溶湯樹脂は、中子65の上部から左右に分岐して中子65の両側を流下し、インサート部品52の結着用突部50gと延長部分50fとを包んだのち、摺動フランジ50eの成形部分であるキャビティ64の最下部へと到達する。これにより、ピストン本体51の成形と同時に、インサート部品52の延長部分50fと結着用突部50gとがピストン本体51にモールドされ、一体のピストン50が完成する。ピストン本体51にモールドされたインサート部品52の延長部分50fの端面は、ガイド孔53の一端53aの中央部分に露出し、一端53aの内側部分を構成する。
【0028】
溶湯樹脂の合流は、インサート部品52の延長部分50fよりも外側で行われるため、合流による湯境は、この外側部分と摺動フランジ50bに若干発生するが、インサート部品52の延長部分50fを用いたガイド孔53の一端53a内側部分には湯境の発生がない。このように、本形態例は、インサート部品52の延長部分50fが、ガイド孔53の一端53aの内側部分を構成するので、ステム孔57bの周囲に湯境が発生せず、ピストン50に軸方向の圧縮強度を極力確保することができる。
【0029】
しかも本形態例は、ピストン本体51にモールドされるインサート部品52の結着用突部50gを、ピストン軸方向へ凹凸部を連ねた形状としたため、ピストン本体51とインサート部品52との結着力と、ピストン50に作用する軸方向の圧縮強度をより一層高めることができる。
【0030】
さらに、ピストン本体51の成形時には、インサート部品52のバルブ収容部56に下型62が差し込まれるため、キャビティ64に対するインサート部品52の位置決めが容易に行えるばかりか、ピストン本体51とインサート部品52とを正確に芯合わせできるので、精度のよいピストン50が得られる。
【0031】
なお、ピストン本体とインサート部品を、形態例で示した以外の形状とすることができる。インサート部品には、剛性樹脂以外の材料を用いてもよく、例えばインサート部品を金属製とした場合には、ピストン全体の剛性力を高めることができる。さらに、第2形態例でピストン本体とインサート部品の連結に用いた結着用突部は、ピストン本体側に設けることもできる。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のセンタバルブ型車両用液圧マスタシリンダのピストンによれば、ピストン内部に形成されるガイド孔の一端内側をインサート部品が担うため、溶湯樹脂の合流による湯境の発生が従来よりも小さく抑えられるので、ピストンに軸方向の剛性力を確保することができる。
【0033】
また、インサート部品に、センターバルブを収容するバルブ収容部を設けることにより、ピストン本体を成形する際には、インサート部品のバルブ収容部に成形型を差し込んで、キャビティに対するインサート部品の位置決めが容易に行うことができるばかりか、ピストン本体とインサート部品とを正確に芯合わせできるので、精度のよいピストンが得られる。
【0034】
さらに、ピストン本体とインサート部品とを、ピストンの軸方向に連続する凹凸部を用いて一体にモールドすることにより、ピストン本体とインサート部品との結着力と、ピストンの軸方向の剛性力をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1形態例を示すピストンの成形状態の断面正面図
【図2】 本発明の第1形態例を示すピストンの断面側面図
【図3】 図2のIII−III断面図
【図4】 本発明の第1形態例を示すインサート部品の斜視図
【図5】 本発明の第1形態例を示すピストンの斜視図
【図6】 本発明の第2形態例を示すピストンの成形状態の断面正面図
【図7】 従来のピストンの斜視図
【図8】 ピストンを装着したセンタバルブ型液圧マスタシリンダの断面図
【図9】 従来のピストンの成形状態を示す断面正面図
【符号の説明】
30,50…ピストン、30a,50a…中間軸部、30b,30c,50b,50c…摺動フランジ、30d,30e,50d,50e…小径軸部、31,51…ピストン本体、50f…小径軸部50eの延長部分、50g…結着用突部、32,52…インサート部品、32a…円板、32b…L字状脚片、32c…L字状脚片32bの先端、33a,33b,54a,54b…シール溝、34,53…ガイド孔、34a,53a…ガイド孔34,53の一端、35,56…バルブ収容部、37a,57a…弁室、37b,57b…ステム孔、38…小円孔、40,65…中子、41,62…下型、44,64…キャビティ、45,63…注湯ノズル、46,66…ゲート

Claims (2)

  1. 液圧マスタシリンダのシリンダ孔に移動可能に内挿される合成樹脂製のピストンであって、中間部に、前記シリンダ孔を交差して架設されるガイドピンを挿通するガイド孔を半径方向に貫通形成した車両用液圧マスタシリンダのピストンにおいて、該ピストンは、前記ガイド孔の一端の形状を有するインサート部品が一体にモールドされ、該インサート部品は、センターバルブを収容するバルブ収容部を有していることを特徴とするセンタバルブ型車両用液圧マスタシリンダのピストン。
  2. 液圧マスタシリンダのシリンダ孔に移動可能に内挿される合成樹脂製のピストンであって、中間部に、前記シリンダ孔を交差して架設されるガイドピンを挿通するガイド孔を半径方向に貫通形成した車両用液圧マスタシリンダのピストンにおいて、前記ピストンを前記ガイド孔の一端で切断して、前記ガイド孔の一端の形状を有するインサート部品と、ピストンの残り形状を有するピストン本体とに分割し、該ピストン本体と前記インサート部品とを、複数の凹凸部をピストンの軸方向に連続させた結着用突部を用いて一体にモールドしたことを特徴とするセンタバルブ型車両用液圧マスタシリンダのピストン。
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