JP3944576B2 - マイクロアレイを用いたアプタマーの取得方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生物工学の分野、より詳しくは生体高分子の取得方法に属する。
【0002】
【従来の技術】
DNA、RNAは生物においては、主に遺伝情報を担う分子である。しかし、一本鎖DNA及びRNAには標的分子と特異的に結合する塩基配列を持つものがある。これをアプタマーという。アプタマーは主にSELEX法(非特許文献1および非特許文献2参照)によって取得されている。これは特定の長さの塩基配列をもつDNAもしくはRNAをランダムに生成し、標的分子と結合するDNAもしくはRNAのふるいわけを行うことにより、アプタマーとしての機能を持つDNAもしくはRNAを探索する方法である。この方法においては、すべての配列集団が同じ溶液中に溶解しているため、最終的にはシーケンサーによって配列を特定しなければならない。これとは別に、配列別に測定を行うことにより、機能的ポリヌクレイチド(またはポリペプチド)を検索する方法が考えられた。これらの方法においては、アミノ酸配列を個別に測定し、相対的に高い活性を持つ配列から遺伝的アルゴリズムもしくはエクソンシャフリングによって新しい配列を作り、それらをさらに個別に測定し、これを何度も繰り返すことによって高い活性を持つ配列を検索する方法を考えた(特許文献1および非特許文献3参照)。
【0003】
SELEXによる方法は、非常に大きな配列集団を扱うことができるが、全ての配列が同一の溶液に溶解しているので、配列を決定するのに時間とエネルギー及びコストが必要である。それに対し横林らの方法は個別に測定するので初めから配列が決定しているが、配列集団を大きくすると、配列の合成や測定に時間とエネルギー及びコストが必要である。
【0004】
これまでに、ディファレンシャル・ディスプレイ法のためのプライマー選択方法(特許文献2参照)、あるいは、アプタマーを備えたバイオセンサー(特許文献3参照)等については、既に知られているものの、短時間・低コストかつ効率的にアプタマーを選択可能な方法は、これまでのところ知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】
国際公開第99/11818パンフレット
【0006】
【特許文献2】
特開2000−308487号公報
【0007】
【特許文献3】
特開2002−207026号公報
【0008】
【非特許文献1】
Ellington, A.D.,およびSzostak, J.W.著、Nature、Vol.346、p.818-822、1990年
【0009】
【非特許文献2】
Tuer K..C. およびGold, L.著、Science、Vol.249、p.505-510、1990年
【0010】
【非特許文献3】
Yokobayashi, Y.著、J. Chem. Soc.、Perkin Trans. Vol.1、p.2435-2437、1996年
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は従来の方法よりも効率的にアプタマーを取得する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。従来の横林らの方法は、配列の数が多くなればなるほど、配列の作成および測定に要する時間が増えるため、多くの配列を処理することができない。そこで本発明者らはマイクロアレイを利用することにより、その手間を短縮することに成功した。マイクロアレイにおいては指定した配列を自動的に指定したチップ上の位置に合成することが可能であり、大きなもので数千配列を配置することができる。これらDNAマイクロアレイには大きく分けて2種類が存在する。ひとつはPCRを行った増幅産物本体をチップ上にのせるものであり、もうひとつはチップ上にオリゴヌクレオチドを順次合成しておおよそ30塩基をチップ上にのせることができる。本来は細胞内に存在するRNAの発現解析のために開発されたが、後者のマイクロアレイを用いることにより、一塩基あるいは二塩基置換のオリゴヌクレオチドを簡単にチップ上にのせることができるため、このシステムをアプタマ−の検索にも利用できることに着目した。そして、同時に多くのアプタマーの性能を、蛍光標識と専用のスキャナーを利用することにより、瞬時に測定することが可能である。本発明者らは、マイクロアレイを用いることにより標的分子と結合するアプタマーを迅速かつ効率的に取得できることを初めて見出した。
【0013】
すなわち本発明は、マイクロアレイを用いたアプタマーの取得方法に関し、より具体的には、
〔1〕 アプタマーの取得方法であって、以下の工程(a)〜(e)を含み、工程(b)〜(e)を任意の回数繰り返すことを特徴とする方法、
(a)互いに異なる塩基配列からなる複数のポリヌクレオチドであって、その5’末端側と3’末端側とでステムを持つようにしたステムループ構造をとるものをマイクロアレイ用基板上へ固定する工程、
(b)ポリヌクレオチドが結合したマイクロアレイ用基板と標識された標識分子とを接触させる工程、
(c)前記標的分子の前記ポリヌクレオチドとの結合強度を測定する工程、
(d)結合強度の高いポリヌクレオチドを1つもしくは複数個選択する工程、
(e)工程(d)によって選択された各々のポリヌクレオチドの塩基配列において、変異が導入された塩基配列からなるポリヌクレオチドを、それぞれマイクロアレイ用基板上へ固定する工程、
〔2〕 工程(e)の変異が、1または2塩基の置換変異である、〔1〕に記載の方法、
〔3〕 標識が蛍光標識である、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕 標的分子を溶解した溶液にマイクロアレイ用基板を浸すことによって、工程(b)の接触を行う、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法、
〔5〕 工程(a)のポリヌクレオチドが、コンピュータによって作成されるランダムな配列であることを特徴とする、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法、を提供するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明は、マイクロアレイを用いることを特徴とするアプタマーの取得方法に関する。
【0015】
本方法の好ましい態様においては、標的分子と結合し得るアプタマーを、マイクロアレイ上の既定の位置におけるシグナル強度を指標として取得する方法である。即ち本発明は、マイクロアレイ用基板(本明細書においては、単に「基板」と記載する場合あり)に固定されたアプタマ−の候補となる被検ポリヌクレオチドと、標的分子との結合活性を指標として、標的分子と結合し得るアプタマーを取得する方法である。
【0016】
本発明においてアプタマーとは、標的分子と結合し得る核酸分子(例えば、ポリヌクレオチド)を言う。例えば、図1のようにアプタマーを模式的に示すことができる。通常、塩基配列の種類や、長さを変えることにより、種々な標的分子を結合させることができる。また、本発明における「ポリヌクレオチド」には、所謂「オリゴヌクレオチド」も含まれる。
【0017】
マイクロアレイとは、一般的に、基板上にポリヌクレオチド等を整列(アレイ)固定化させたデバイスを言い、通常、ガラス、シリコン等の基板表面にヌクレオチドを載せたものを指す。基板上へ一度に複数種のポリヌクレオチドを合成させることで作製された高密度アレイは、DNAチップとも呼ばれるが、本発明のマイクロアレイは、所謂「貼り付け型」マイクロアレイに限定されず、基板上でオリゴヌクレオチドが合成される所謂「チップ」もまた本発明のマイクロアレイに含まれる。
【0018】
本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。本発明の基板は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、一般にマイクロアレイ技術で使用される基板(例えば、ガラス、シリコン製)を好適に用いることができる。
【0019】
一般にマイクロアレイは、高密度に基板上へスポット(基板へのポリヌクレオチドの固定の工程は、「プリント」とも呼ばれる。)された何千ものポリヌクレオチドで構成されている。通常これらのヌクレオチドは非透過性(non- porous)の基板の表層にスポット(プリント)される。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することも可能である。ポリヌクレオチドのアレイにおいて、ポリヌクレオチドはインサイチュ(in situ)で合成することができる。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。本発明における基板上への「固定」とは、所謂「合成」の意味も含まれる。当業者においては、通常、高密度スポット(プリント)を可能にした市販の装置を用いて、例えば、スライドグラス上の1万種類以上のスポット(プリント)を含むマイクロアレイを実験室において適宜作製することができる。
【0020】
本発明においては、ポリヌクレオチドを人工的に合成した後、基板上へ固定することも可能であり、その際、ポリヌクレオチドの合成も、当技術分野においては既知の標準的な方法によって、例えば、市販の自動DNA合成機を使用して実施することが可能である。
【0021】
本発明のアプタマー取得方法の好ましい態様においては、下記の工程(a)〜(e)を含む方法である。
(a)互いに異なる塩基配列からなる複数のポリヌクレオチドであって、その5’末端側と3’末端側とでステムを持つようにしたステムループ構造をとるものをマイクロアレイ用基板上へ固定する工程
(b)ポリヌクレオチドが結合したマイクロアレイ用基板と標識された標識分子とを接触させる工程
(c)前記標的分子の前記ポリヌクレオチドとの結合強度を測定する工程
(d)結合強度の高いポリヌクレオチドを1つもしくは複数個選択する工程
(e)工程(d)によって選択された各々のポリヌクレオチドの塩基配列において、変異が導入された塩基配列からなるポリヌクレオチドを、それぞれマイクロアレイ用基板上へ固定する工程
【0022】
本発明における標的分子としては、特に制限はないが、例えば、天然化合物、合成化合物、ペプチド、非ペプチド性化合物等を挙げることができる。また、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製蛋白質、もしくはこれらから単離精製される分子を標的分子とすることができる。より具体的には、標的分子として、例えばセンサーの素子として応用できる物質、あるいは、疾患のバイオマーカー等を挙げることができる。センサーの素子としては、水質汚染物質であるシアノバクテリア等が放出する肝臓毒ミクロシスチンや、癌の指標物質であるaフェトプロテイン等を例示することができる。
【0023】
本発明の標的分子は蛍光標識されている、もしくは標的分子自体が蛍光標識されたものであることが好ましい。
【0024】
標的分子の蛍光標識は、当業者においては、標的分子の種類を考慮して公知の方法によって、適宜実施することができる。例えば、標的分子がタンパク質である場合には、例えば、アミノ基を標識する方法と、スルフヒドリル基(-SH)を標識する方法等によって、標的分子を好適に蛍光標識することができる。これらの方法においては、通常、タンパク質・ペプチド・免疫抗体の配列中やN末端に、リジン残基のアミノ基、またはシステイン残基のスルフヒドリル基を有することから、これらを介して蛍光物質を標的分子に結合させることができる。
【0025】
通常、標的分子の蛍光標識には、分離識別が可能な波長の光を吸収、放出する蛍光標識物質が用いられる。異なる色の複数の蛍光色素を本発明のマイクロアレイにおいて使用することにより、1回のアッセイで2つ以上の標的分子についてのアプタマーの検索を行うことも可能である。
【0026】
また本発明における標識は、蛍光物質以外の物質、例えば、発光(chemiluminescence)物質あるいは電気活性物質等を用いて行うことも可能である。
【0027】
本発明において基板に固定するポリヌクレオチドは、その配列の種類は特に制限されず、通常、ランダムな配列からなる。「ランダムな配列」は、当業者においては、適宜、コンピュータ(計算機)を利用することにより得ることができる。多くのアプタマーは、ステム構造を有することから、本発明の上記ポリヌクレオチドの一つの態様として、両末端のそれぞれの数塩基が互いに相補的な配列となるよう(ステムを形成し得るように)に設計することもできるが、必ずしもこのように設計する必要はない。
【0028】
基板に固定されるポリヌクレオチドの長さは、特に制限されるものではないが、通常10〜100ベースであり、好ましくは20〜80ベースであり、さらに好ましくは50〜80ベースである。アプタマーにおける標的分子を認識する部位は通常30ベース程度である、との報告が多いことから、本発明のポリヌクレオチドは、30ベース以上であることが好ましい。
【0029】
また本発明において基板に固定されるポリヌクレオチドは、通常、複数であり、その配列は互いに異なることが好ましい。しかし、上記ランダムな配列を複数得た結果、偶然、同一の配列を取得することも考えられるため、本発明において基板に固定されるポリヌクレオチドは、その配列が必ずしも、互いに異なる場合に限定されない。基板へ固定されるポリヌクレオチドの種類数には特に制限はないが、通常、数百〜数万種類である。本発明においては、基板上へ固定される被検ポリヌクレオチドの種類数を増加させることにより、効率的に所望のアプタマーの取得を行うことができる。
【0030】
本発明のマイクロアレイ基板には、対照として、予め、標的分子に対してアプタマーであることが判明している(陽性対照)、またはアプタマーでないことが判明している(陰性対照)ポリヌクレオチドを固定しておくことも可能である。これらの対照は、標的分子に対して結合強度の高いポリヌクレオチドの選択の際、あるいは、被検ポリヌクレオチドがアプタマーであるか否かの判定の際に有用である。
【0031】
本発明において当業者は、マイクロアレイ装置として、市販の装置を使用することができる。例えば、コンビマトリクスコーポレーション(CombiMatrix Corporation)によって開発され、ロシュディアグノスティックス社(Roche Diagnostics)によって販売されている。
【0032】
本発明の上記工程(b)における「接触」は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の条件にて行うことができる。
【0033】
・レゾルフィン(resorufin) (Ex=571 nm, Em=585 nm) を含む3 x SSPE (20 x SSPE: 0.2 M リン酸(phosphate), pH 7.4(±0.1, 25℃), 2.98 M 塩化ナトリウム(sodium chloride), 0.02 M EDTA)に本発明の基板を浸し、常温25℃で16時間インキュベートする。
【0034】
本発明においては、次いで、上記「接触」の際に使用した反応溶媒と同一の溶媒で洗浄を行うことが好ましい。この洗浄の際に使用する溶媒は、好ましくは、(蛍光)標識物質を含まない。また、この洗浄の工程は、通常、2〜3回程度行うことが好ましい。洗浄することにより、ポリヌクレオチドと結合しない標的分子を除去することができる。さらに、本発明の好ましい態様においては、次いで、基板を乾燥させる。この乾燥は、例えば、洗浄後遮光した乾燥機に入れて1時間程度乾燥させることにより行うことができる。
【0035】
本発明の好ましい態様においては、標識された標的分子と、基板に固定されたポリペプチドとの結合強度を測定する。標的分子と結合しないポリヌクレオチドは、マイクロアレイ基板上のその位置において蛍光等のシグナルは産生されない。標識が蛍光標識である場合、通常、結合強度が大きいものほど、蛍光強度(蛍光の明るさ)も大きくなる。マイクロアレイ上での蛍光シグナルは、一般的に、蛍光検出器を用いて検出する。この検出には、通常、公知の機材、例えば、共焦点スキャンニング装置またはCCD(Charge Coupled Device)カメラを用いて行うことができる。共焦点スキャナーでは、通常、基板あるいは共焦点レンズを二次元的に動かしながら、基板上の微小領域にレーザー光を照射し、蛍光分子を励起する。基板上の各位置の蛍光サンプルから放出された光は、光電子増倍管(Photo Multiplier Tube)等の検出器によって電気信号データに変換され、共焦点スキャナーによってデータが収集される。CCDカメラを用いた場合も、共焦点スキャナーと同様の原理によって検出が行われる。蛍光検出器としては、例えば、以下のような市販の機器を示すことができる。
【0036】
・スキャン型: Scan Array 4000, 5000 (General Scanning社)、GMS418 Array Scanner(宝酒造)等
・CCDカメラ型: Gene Tac 2000(Genomic Solutions社)等
【0037】
一般に、上記のようにしてマイクロアレイから得られるデータは、膨大なものとなるため、該データと基板へ固定されたポリヌクレオチドの位置との対応の管理や、データ解析は、データ解析用ソフトウェアがインストールされたコンピュータを利用して行われる。
【0038】
また、蛍光標識以外の方法によって標識された場合には、標識方法を適宜考慮して、例えば、発光(chemiluminescence)や電気化学的(electrochemistry)に結合強度を測定することができる。
【0039】
本発明の上記工程(d)においては、好ましくは、最大の結合強度を示す一つのオリゴヌクレオチドを選択するが、必ずしも、選択されるオリゴヌクレオチドの数は、一つに限定されず、高い結合強度を示す複数のオリゴヌクレオチドを選択してもよい(選択されたオリゴヌクレオチドの配列を「親配列」と記載する場合あり)。一例を示せば、被検オリゴヌクレオチドについて結合強度の高い上位10個、もしくは上位1%を選択して親配列とすることができる。
【0040】
本発明においては、次いで、上記工程(d)によって選択されたオリゴヌクレオチドを親配列として、該配列に変異を導入した配列(子孫配列)を作成する。
【0041】
上記の変異は、その種類、数について特に制限されるものではないが、好ましくは、1〜10塩基の置換変異であり、より好ましくは、1もしくは2塩基の置換変異である。一つのポリヌクレオチドの複数の塩基に対して置換変異を導入する場合には、特に限定されるものではないが、好ましくは、連続する複数の塩基に対する置換変異であり、より好ましくは、隣合う2塩基を置換する変異である。また、本発明における上記変異の種類は、特に「置換変異」に限定されるものではなく、その他の変異、例えば、「挿入変異」、「欠失変異」であってもよい。また、親配列が複数の場合には、これら配列の一部を交叉させることにより、子孫配列を取得することも可能である。
【0042】
上記の「子孫配列」は、適宜コンピュータを利用して作成することができる。作成する子孫配列の種類は、特に制限されない。一般的に、作成する子孫配列の種類は、できるだけ多いことが好ましい。
【0043】
本発明においては、次いで、上記工程(d)によって変異が導入された配列からなるポリヌクレオチド(子孫配列)を、マイクロアレイ用基板上へ固定する。
【0044】
上記変異が導入されたポリヌクレオチドを基板上へ固定する方法は、上述の方法によって行うことができる。
【0045】
本発明の好ましい態様においては、上記工程(e)に次いで、上記工程(b)〜(e)を任意の回数繰り返すことを特徴とする方法である。
【0046】
上記工程を繰り返すことにより、標的分子との結合強度がより高いオリゴヌクレオチドを取得することができる。最終的に取得されるオリゴヌクレオチドは、標的分子との結合活性が高く、即ち、アプタマーであるものと考えられる。
【0047】
上記の「繰り返す」回数は、通常、5〜6回程度であるが、アプタマーを取得可能な回数であれば特に制限されない。一般的に、繰り返しの回数はできるだけ多いほうが良い。アプタマーであることが判明しているポリヌクレオチドを対照として本発明の基板上へ固定する場合には、例えば、該ポリヌクレオチドと標的分子との結合強度と同等の結合強度になるまで、繰り返すことが好ましい。
【0048】
また、本発明においては、被検ポリヌクレオチドに代えて、ポリペプチドを用いることも可能である。当業者においては、ポリペプチドを基板上へ固定することは可能である。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0050】
〔実施例〕蛍光色素レゾルフィンに対するアプタマーの検索
蛍光色素レゾルフィン(Resorufin)に結合するポリヌクレオチド(アプタマー)の検索を行った。まず、塩基数 20 のポリヌクレオチド配列をランダムに生成した。但し、5'末端側の5塩基をすべてCとし、3'末端側の5塩基をすべてGとして、C-G結合によるステム(stem; 茎)を持つようにした。残りの10塩基はランダムに選択し、異なる300配列をコンピュータ(計算機)によって生成した。この配列をCOMBIMATRIX社製のDNAシンセサイザーに専用のチップをセットし、チップ上の各スポットに指定した塩基配列を合成させた。合成終了後、チップを、レゾルフィンを溶解させた溶液に一定時間浸し、その後取り出して、レゾルフィンを含まない溶媒で2度洗浄して乾燥させた。このチップをArrayWoRx社製のスキャナーにて蛍光を撮影し、その強度を測定した。最大の強度を持つ配列を決定した。それを親配列とし、以下の方法で子孫配列をコンピュータ(計算機)内に作成した。
(a) 一塩基置換。20塩基のうち、1塩基だけ違う塩基に置換する。
(b) 二塩基置換。20塩基のうち、2塩基を置換する。ただし、隣合う2塩基のみを置換する。
【0051】
(a),(b) の方法で作成した子孫配列データを再びDNAシンセサイザーに供し、DNAチップを作成してスキャナーにかけて、最大の強度を持つ配列を決定した。この過程を数回繰り返した後、強い強度をもつポリヌクレオチド、即ちアプタマーを取得した。
【0052】
【発明の効果】
本発明により、マイクロアレイを用いたアプタマーの取得方法が提供された。本発明は、(1)PCRを使う必要がない、(2)オンチップでの結合試験でアフィ二ティーの高さを調べることができるので簡単である、(3)SELEX法よりも数学的に絞り込むことができる、(4)DNAシークエンサーで読み取る必要がない、等の利点を有する。また、本発明の方法によって、専門的知識がなくても、DNAシンセサイザーとスキャナーがあれば、アプタマーの取得が可能である。将来ブランクチップの値段が低下すれば、非常に低いコストでアプタマ−を検索することができる。
【0053】
本発明の方法により取得されるアプタマーは種々の用途に利用することができる。例えば、霞ヶ浦の汚染物質を測定する検査試薬としてアプタマーを活用したり、ウイルスタンパク質を阻害するアプタマ−を開発することにより、治療薬として利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 標的分子と結合するアプタマーを模式的に示す図である。中央の黒い円が標的分子を表す。
【図2】 本発明の一つの態様におけるルーチンワークを示す図である。
【図3】 DNAチップの蛍光を示す写真である。各スポットに指定したDNA配列を合成したチップ。Aは第0世代のチップでランダムな配列が配置されている。最も明るいスポットマザー(Mother)から、子孫配列を作り、Bの第1世代のチップを作った。第0世代より、多くのスポットが蛍光している。さらにこの中で最も明るい配列チャイルド(Child)からCの第2世代のチップを作った。チャイルドより明るい配列はこのチップ上にはなかったが、第1世代のチップより多くのスポットが蛍光していることがわかった。
【図4】 最終的に得られた配列の二次構造をmfoldにて予測した結果を示す図である。
Claims (5)
- アプタマーの取得方法であって、以下の工程(a)〜(e)を含み、工程(b)〜(e)を任意の回数繰り返すことを特徴とする方法。
(a)互いに異なる塩基配列からなる複数のポリヌクレオチドであって、その5’末端側と3’末端側とでステムを持つようにしたステムループ構造をとるものをマイクロアレイ用基板上へ固定する工程、
(b)ポリヌクレオチドが結合したマイクロアレイ用基板と標識された標識分子とを接触させる工程、
(c)前記標的分子の前記ポリヌクレオチドとの結合強度を測定する工程、
(d)結合強度の高いポリヌクレオチドを1つもしくは複数個選択する工程、
(e)工程(d)によって選択された各々のポリヌクレオチドの塩基配列において、変異が導入された塩基配列からなるポリヌクレオチドを、それぞれマイクロアレイ用基板上へ固定する工程。 - 工程(e)の変異が、1または2塩基の置換変異である、請求項1に記載の方法。
- 標識が蛍光標識である、請求項1または2に記載の方法。
- 標的分子を溶解した溶液にマイクロアレイ用基板を浸すことによって、工程(b)の接触を行う、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 工程(a)のポリヌクレオチドが、コンピュータによって作成されるランダムな配列であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
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