JP3942009B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電動パワーステアリング装置は、ハウジングに支持されたボールねじを有するラック軸と、ボールねじに螺合するナットと、ナットに操舵アシスト力を付与する電動モータとを有する。
【0003】
このような電動パワーステアリング装置では、操舵中にタイヤが縁石に乗り上げる等により、ラック軸のストロークが急停止せしめられると、電動モータはたとえ給電を停止されても、ボールねじのリードの比率で高速回転していたモータの慣性力がボールねじのねじ溝に大きな衝撃力を及ぼし、ねじ溝の損傷等、ボールねじの機能低下、操舵フィーリングの悪化を招く。
【0004】
そこで、従来技術では、ボールねじに作用する衝撃を低減するため、特開平2-254057号公報に記載の如く、ボールねじに螺合するナットをハウジングに軸受を介して支持し、ナットと軸受を一体でラック軸の軸方向に移動可能とし、軸受とハウジングの間にラック軸の推力を吸収する弾性体を介装することとしている。尚、この従来技術では、電動モータのトルクが歯車列を介してナットに伝えられており、ナットは歯車列の歯筋方向、換言すればラック軸の軸方向に滑り移動できる状態で歯車列と回転方向に係合している。弾性体の弾発力を越えるリミットトルクに対して、ナットをラック軸の軸方向に滑り移動させ、弾性体を圧縮して衝撃力を吸収する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術には以下の問題点がある。
▲1▼ナットがラック軸の軸方向に移動するに際し、歯車列の歯筋方向に沿う滑り抵抗がナットに作用し、このナットの滑り方向に作用する滑り抵抗が伝達トルクの大きさに比例して増加し、ナットをラック軸の軸方向にスムースに移動できない。
【0006】
▲2▼上述▲1▼により、常用域において、弾性体の弾発力により、ナットをラック軸の軸方向にスムースに移動できないから、ナットとラック軸のボールねじとのバックラッシュガタを安定して吸収できず、又はステアリングホイール側のピニオンとラック軸のラックとの噛合いガタを安定して吸収できない。
【0007】
▲3▼上述▲1▼により、衝撃力の吸収時に、ナットの滑り方向に作用する滑り抵抗が伝達トルクの大きさの影響を受け、リミットトルクの安定した設定ができない。
【0008】
本発明の課題は、電動パワーステアリング装置において、伝達トルクに影響されない安定したバックラッシュガタの吸収とラックとピニオンの噛合いガタの吸収を行ない、かつ伝達トルクに影響されない安定したリミットトルクの設定を行なうことにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、ハウジングに支持されたボールねじを有するラック軸と、ボールねじに螺合するナットと、ナットに操舵アシスト力を付与する電動モータとを有する電動パワーステアリング装置において、電動モータのロータ側部材を軸方向に延長した延長部を、ナットに同軸に、かつナットの外周に延在するように設け、ロータ側部材の延長部とナットの外周面との間に転動体を嵌合し、ナットをロータ側部材に対し軸方向には移動できる状態で回転方向に係合し、ロータ側部材の延長部とナットの端面との間に弾性体を介装したものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記ロータ側部材の延長部の自由端側に、該延長部に螺合するロックナットを配置したものである。
【0011】
【作用】
▲1▼ナットをロータ側部材に対し、転動体を介して回転方向に係合してトルクを伝達可能とするとともに、転動体の回転により低摩擦で軸方向に移動可能とした。従って、伝達トルクの影響を殆ど受けることなく、ナットをラック軸の軸方向に安定的に移動できる。
【0012】
▲2▼常用域において、ナットとラック軸のボールねじとのバックラッシュガタを安定して吸収でき、又はステアリングホイール側のピニオンとラック軸のラックとの噛合いガタを安定して吸収できる。
【0013】
▲3▼衝撃力の吸収時に、安定したリミットトルクの設定ができる。
▲4▼ロータ側部材の延長部の自由端側に、該延長部に螺合するロックナットを配置することにより、弾性体の初期弾発力を容易に調整でき、ひいては初期組付時又は使用経過後におけるリミットトルクの設定を容易に調整できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1は電動パワーステアリング装置を一部破断して示す正面図、図2は図1の要部断面図、図3は図2の拡大断面図、図4は図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【0015】
電動パワーステアリング装置10は、図1に示す如く、ハウジング11にステアリング入力軸12を支持し、入力軸12にトーションバー13を介して出力軸14(不図示)を連結し、この出力軸14にピニオンを設け、このピニオンに噛み合うラックを備えたラック軸15をハウジング11に左右動可能に支持している。入力軸12と出力軸14の間には操舵トルクセンサ16(不図示)を設けている。操舵トルクセンサ16は、ステアリングホィールに加えた操舵トルクが出力軸14に付与され、トーションバー13の弾性ねじり変形により、入力軸12と出力軸14の間に生ずる相対回転変位に基づき、操舵トルクを検出する。
【0016】
電動パワーステアリング装置10は、ラック軸15の両端部をハウジング11の両側に突出し、それらの端部にタイロッド17A、17Bを連結し、ラック軸15の左右動によりタイロッド17A、17Bを介して左右の車輪を転蛇可能とする。尚、ラック軸15の一端はラックガイド(不図示)により、他端は後述する軸受25によりハウジング11に支持される。
【0017】
電動パワーステアリング装置10は、ハウジング11内で、ラック軸15の周囲に電動モータ20を設けている。電動モータ20は、ハウジング11の内周に固定されるステータ21と、ラック軸15の外周に間隙をおいて配置され、後述するナット32に回転力を伝えるロータ22とを有する。ロータ22の内周に一体化されたスリーブ23は、ラック軸15の外周に間隙をおいてラック軸15と同軸配置され、ロータ22の一方に突出する一端延長部を軸受24により、他方に突出する他端延長部を軸受25により支持されている。
【0018】
尚、電動モータ20にあっては、ハウジング11の内部にブラシ26を保持し、このブラシ26をロータ22の端部のコンミテータ27に接触している。電動モータ20は、ブラシ26、コンミテータ27を通じてロータ22に給電されると、ロータ22の磁力線がステータ21の磁界を切ることにより、ロータ22を回転駆動する。
【0019】
電動パワーステアリング装置10は、ラック軸15にボールねじ30を設けており、ボールねじ30にボール31を介して噛み合うナット32を有している。電動モータ20のスリーブ23の前述した軸受25に支持される延長部は、拡径延長部23Aとされており、ナット32に同軸に、かつナット32の外周に隙間嵌めされて延在され、トルクリミッタ40を介してナット32と結合されている。
【0020】
スリーブ23の延長部23Aの内周面とナット32の外周面には、それらの周方向の複数位置(本実施形態では4位置)のそれぞれにおいて、互いに対応するガイド溝33、34を軸方向に延在し、それらのガイド溝33、34の間に1個又は2個以上(本実施形態では3個)のボールからなる転動体35を嵌合している。これにより、ナット32は、転動体35を介して、スリーブ23に対し軸方向には移動できる状態で回転方向には係合する。尚、ガイド溝33はスリーブ23の延長部23Aの内周面においてスリーブ23の中心軸に平行な直線状であっても、中心軸まわりの螺旋状であっても良い。また、ガイド溝34はナット32の外周面においてナット32の中心軸に平行な直線状であっても、中心軸まわりの螺旋状であっても良い。また、ガイド溝33とガイド溝34は互いに交差していても良い。
【0021】
スリーブ23の延長部23Aにおいて、ナット32を挟む軸方向の基部側には第1支持部としての内径段差部51が設けられ、自由端側には第2支持部としてのロックナット52が螺合するように設けられる。そして、内径段差部51とナット32の一端面との間には円板状の皿バネ等からなる板バネ41が一定の圧縮状態で介装され、ロックナット52とナット32の他端面との間には円板状の皿バネ等からなる板バネ42が一定の圧縮状態で介装され、これらの板バネ41、42によって前述のトルクリミッタ40を構成している。尚、板バネ41、42は必ずしもナット32を挟む両側に設ける必要はなく、片側だけでも良いし、ナット32にゴム樹脂等で一体形成しても良い。
【0022】
電動パワーステアリング装置10の通常使用される常用域のトルク(リミットトルクより小なるトルク)では、板バネ41、42の弾発力によりナット32をスリーブ23内で軸方向に押圧し、ナット32とラック軸15のボールねじ30のバックラッシュガタと、ステアリングホイール側のピニオンとラック軸15のラックとの噛合いガタを吸収する位置に該ナット32を位置付ける状態で、スリーブ23とナット32を滑りなく結合し続け、電動モータ20の発生トルクをスリーブ23から転動体35を介してナット32に伝える。他方、タイヤが操舵中に縁石に乗り上げる等により、ラック軸15のストロークが急停止せしめられ、ボールねじ30のリードの比率で高速回転していた電動モータ20の慣性力がボールねじ30のねじ溝に大きな衝撃力を及ぼすことの起因となる、その板バネ41、42の弾発力を越える衝撃トルク(リミットトルク)に対しては、板バネ41、42を変位させてナット32をスリーブ23内で転動体35の回転を介して軸方向に滑らせ、電動モータ20の発生トルクをナット32に伝えないようにし、ボールねじ30のねじ溝の損傷等を防止する。
【0023】
尚、トルクリミッタ40のリミットトルクの設定は、ロックナット52の螺合量の調整による板バネ41、42の締め代(初期弾発力)の調整による。
【0024】
以下、電動パワーステアリング装置10の動作について説明する。
(1)操舵トルクセンサ16が検出した操舵トルクが所定値より低いとき、操舵アシスト力は不要であり、電動モータ20は駆動されない。
【0025】
(2)操舵トルクセンサ16が検出した操舵トルクが所定値を越えるとき、操舵アシスト力を必要とするから、電動モータ20が駆動される。電動モータ20の発生トルクがロータ22からスリーブ23、転動体35を介してナット32に操舵アシスト力として伝えられ、ナット32の回転をボールねじ30によりラック軸15の直線運動とし、ラック軸15に連動する車輪に操舵アシスト力として付与する。
【0026】
本実施形態によれば以下の作用がある。
▲1▼ナット32をスリーブ23に対し、転動体35を介して回転方向に係合してトルクを伝達可能とするとともに、転動体35の回転により低摩擦で軸方向に移動可能とした。従って、ナット32がラック軸15の軸方向に移動するに際し、伝達トルクの影響を殆ど受けることなく、ナット32をラック軸15の軸方向にスムースに移動できる。
【0027】
▲2▼常用域において、板バネ41、42の弾発力によって上述▲1▼によりナット32をラック軸15の軸方向にスムースに移動できるから、ナット32とラック軸15のボールねじ30とのバックラッシュガタを安定して吸収でき、又はステアリングホイール側のピニオンとラック軸15のラックとの噛合いガタを安定して吸収できる。
【0028】
▲3▼衝撃力の吸収時に、スリーブ23に対するナット32の滑り方向に作用する滑り抵抗が上述▲1▼により伝達トルクの影響を殆ど受けず、安定したリミットトルクの設定ができる。
【0029】
▲4▼スリーブ23の延長部23Aの自由端側に、該延長部23Aに螺合するロックナット52を配置することにより、板バネ41、42の初期弾発力を容易に調整でき、ひいては初期組付時又は使用経過後におけるリミットトルクの設定を容易に調整できる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態を図面により記述したが、本発明の具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0031】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、電動パワーステアリング装置において、伝達トルクに影響されない安定したバックラッシュガタの吸収とラックとピニオンの噛合いガタの吸収を行ない、かつ伝達トルクに影響されない安定したリミットトルクの設定を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は電動パワーステアリング装置を一部破断して示す正面図である。
【図2】図2は図1の要部断面図である。
【図3】図3は図2の拡大断面図である。
【図4】図4は図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【符号の説明】
10 電動パワーステアリング装置
11 ハウジング
15 ラック軸
20 電動モータ
23 スリーブ(ロータ側部材)
23A 延長部
30 ボールねじ
32 ナット
35 転動体
41、42 板バネ(弾性体)

Claims (2)

  1. ハウジングに支持されたボールねじを有するラック軸と、ボールねじに螺合するナットと、ナットに操舵アシスト力を付与する電動モータとを有する電動パワーステアリング装置において、
    電動モータのロータ側部材を軸方向に延長した延長部を、ナットに同軸に、かつナットの外周に延在するように設け、
    ロータ側部材の延長部とナットの外周面との間に転動体を嵌合し、ナットをロータ側部材に対し軸方向には移動できる状態で回転方向に係合し、
    ロータ側部材の延長部とナットの端面との間に弾性体を介装したことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 前記ロータ側部材の延長部の自由端側に、該延長部に螺合するロックナットを配置した請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
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