JP3941097B2 - 循環水系のスケール防止方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、循環水系のスケール防止方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ビル空調、一般工場、石油化学コンビナートなどの熱交換器の冷却水系における炭酸カルシウム系のスケールを、薬剤を使用することなく効果的に防止することができる循環水系のスケール防止方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
冷却水系、ボイラ水系などの水と接触する伝熱面や配管内では、スケール障害が発生する。特に、省資源、省エネルギーの立場から、冷却水の系外への排棄(ブロー)を少なくして高濃縮運転を行う場合、溶解している塩類が濃縮されて、伝熱面が腐食しやすくなるとともに、難溶性の塩となってスケール化する。生成したスケールは、熱効率の低下、配管の閉塞など、ボイラーや熱交換器の運転に重大な障害を引き起こす。
生成するスケール種としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸亜鉛、水酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛などがある。これらの中でも、特に炭酸カルシウムは広く一般的であるために、問題になっている。
カルシウム系スケールに対しては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有するポリマーが有効であり、必要に応じて、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有するビニルモノマーや、アクリルアミドなどのノニオン性ビニルモノマーを対象水質に応じて組み合わせたコポリマーがスケール防止剤として使用されている。また、ヘキサメタリン酸ソーダやトリポリリン酸ソーダなどの無機ポリリン酸類、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸やホスホノブタントリカルボン酸などのホスホン酸類も一般的に使用されている。
近年、節水や省エネルギーを目的として、可能な限り水を有効利用するという動きが顕著になってきており、熱交換器についても、冷却水の高濃縮運転への期待が高まってきている。これに対して、上述した現状のスケール防止剤は、冷却水中に溶解するスケール種(イオン)をスケールとして析出しないように水中に押さえ込む、すなわち溶解させたままにしておく機能を有するものであり、さらなる高濃縮運転の場合には、スケールの析出を抑制するには限界がある。今後さらに冷却水の高濃縮運転が広まる中で、現状のスケール防止剤に代わる高性能なスケール防止技術の開発が望まれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ビル空調、一般工場、石油化学コンビナートなどの熱交換器の冷却水系における炭酸カルシウム系のスケールを、薬剤を使用することなく効率的に防止することができる循環水系のスケール防止方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲又はTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲に調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御することにより、スケールの付着を効果的に防止し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲で調整し、かつ、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御することを特徴とする循環水系のスケール防止方法、
(2)スケール成分析出手段が、磁気処理手段、金属溶出手段、セラミックボール接触手段、スケール成分と同一又は類似化合物の粒子との接触手段、電気分解手段及び超音波照射手段からなる群から選ばれる少なくとも1つの手段である第1項記載の循環水系のスケール防止方法、及び、
(3)循環水系の濃縮により、TOC濃度を調整する第1項又は第2項記載の循環水系のスケール防止方法、
を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明方法の第一の態様においては、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲で調整し、かつ、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御する。本発明方法の第二の態様においては、循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲で調整し、かつ、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御する。本発明方法によれば、ビル空調、一般工場、石油化学コンビナートなどの熱交換器の循環水系などに適用し、熱交換器本体、循環水のピット、冷却塔などの装置や、配管内などへの炭酸カルシウム系のスケールの付着を効果的に防止することができる。
シリカは自然由来の成分であるために、広く上水、工業用水、河川水、地下水などに含まれている。その含有濃度は地域によって様々であり、1mgSiO2/L程度から多いところでは50mgSiO2/L以上含有されていることもある。特に火山地帯ではシリカ濃度が高いと言われており、九州地方では70mgSiO2/Lを超えるような地域もある。
シリカを含む水を循環水系の補給水として用いると、濃縮に伴いシリカの濃度は増加するが、一般的な循環水系のpHはおよそ中性〜9程度であり、シリカは250mgSiO2/L程度になるまで溶存体として存在し得ることが多い。したがって、濃縮管理を行う場合、シリカがおよそ250mgSiO2/L以下の範囲では、塩化物イオンなどの濃度から求める理論的な濃縮倍数とシリカの濃縮倍数が一致するために、濃縮倍数を管理することによりシリカの濃度を制御することは容易である。なお、ここで言うシリカとは、水中に存在するシリカを意味し、イオン状シリカ(イオン状ケイ酸)、溶存シリカ及びコロイド状シリカを含む全シリカを指し、JIS K 0101 44.3に規定される分析方法により測定することができる。
【0006】
TOCは、有機体炭素(Total Organic Carbon)であり、循環水中に存在する有機物中の炭素を言い、JIS K 0101 20.にしたがって、燃焼酸化−赤外線式TOC分析法又は燃焼酸化−赤外線式TOC自動計測法により測定することができる。TOCは自然由来の成分に含まれ、落ち葉や泥から抽出されるフミン酸などもTOCとして検出される。そのために、広く上水、工業用水、河川水、地下水などに含まれている。上水に関しては、水質基準でCODの上限値が決められているために被酸化性物質が少なく、TOCも1mgC/L以下の微量である場合が多いが、工業用水や、河川水、地下水などでは5mgC/L以上のTOCが検出される場合もある。これらの水においては、TOCを構成する成分は消費されにくい物質であることが多いために、TOCを含む水を循環水系の補給水として用いると、濃縮に伴ってTOCの濃度は増加する。したがって、濃縮管理を行う場合、塩化物イオンなどの濃度から求める理論的な濃縮倍数と、TOCの濃縮倍数が一致するために、濃縮倍数を管理することによりTOCの濃度を制御することは容易である。
【0007】
ランゲリア指数は、炭酸カルシウムの飽和度を示す指標としてW.F.Langelierにより示された指数である(J.American Water Works、第28巻、1500頁、1936年)。炭酸カルシウムの飽和溶液については、式[1]で示される関係がある。
[Ca2+][CO3 2-]= Ks …[1]
ただし、Ksは溶解度積である。炭酸水素イオンの解離平衡は、次式のとおりである。
HCO3 - = H+ + CO3 2- …[2]
[H+][CO3 2-]/[HCO3 -]= K2 …[3]
ただし、K2は炭酸の第2解離定数である。式[1]と式[2]より、炭酸カルシウムの溶解度積は、式[4]により表される。
K2[Ca2+][HCO3 -]/[H+]= Ks …[4]
HCO3 -の濃度は、Mアルカリ度(MA)にほぼ等しいので、式[4]は次式のように表すことができる。
log[Ca2+]+ log[MA]+ pHs = log(Ks/K2) …[5]
式[5]は、炭酸カルシウムの飽和条件であり、この関係を満足するpHsは、飽和pHと呼ばれる。ランゲリア指数は、循環水のpHから炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)を減じた差pH−pHsであり、
ランゲリア指数 = pH−pHs > 0
の場合は炭酸カルシウムが過飽和の状態にあり、
ランゲリア指数 = pH−pHs < 0
の場合は炭酸カルシウムが未飽和の状態にある。
本発明方法にしたがって、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲で調整し、あるいは、TOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲で調整し、かつ、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御することにより、循環水系におけるスケールの付着を効果的に防止することができる。
【0008】
本発明方法において、スケール成分析出手段に特に制限はないが、磁気処理手段、金属溶出手段、セラミックボール接触手段、スケール成分と同一又は類似化合物の粒子との接触手段、電気分解手段及び超音波照射手段からなる群から選ばれる少なくとも1つの手段であることが好ましい。
本発明方法に用いる磁気処理手段に特に制限はなく、例えば、永久磁石、ソレノイドコイル磁石などを挙げることができる。永久磁石としては、例えば、アルニコ、バリウム−フェライト、鉄−ネオジム−ホウ素、サマリウム−コバルトなどを挙げることができる。永久磁石は、循環水が磁場を直角に横切って流れるように、配管内に設置する。循環水の流速は、1.5m/秒以上になるように、永久磁石設置部分の配管径を適宜選択することが好ましい。永久磁石によって水中に磁場を形成し、循環水の流れによって磁束を切断すると、数mA程度のイオン電流が発生し、水のクラスターが微細化して、水中のスケール成分を析出することができる。ソレノイドコイル型磁石は、循環水系の配管の外側にコイルを巻いて使用するので、既存の循環水系に改造工事を行うことなく設置することができる。配管の材質に特に制限はなく、例えば、銅、ステンレス鋼、青銅、プラスチックの配管などを挙げることができる。ソレノイドコイルには、交流を印加し、コンピューター制御により、周波数を2,000〜7,000Hzの範囲で変調するとともに、振幅も変調することが好ましい。ソレノイドコイル型磁石によって水中に磁場が形成されることにより、循環水中に存在するスケール成分の微粒子の表面の電荷が高められ、互いに反発しあうので、凝集して大きい粒子になることがなく析出する。微粒子を帯電させる磁場の条件は、微粒子の大きさによって異なるが、ソレノイドコイルに印加する電流の周波数と振幅を変調することにより、すべての微粒子の表面電荷を高めることができる。
【0009】
本発明方法に用いる金属溶出手段に特に制限はなく、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛などの金属電極を循環水中で外部電源により電解することによって金属イオンを溶出させる手段や、金属電極の対極に炭素電極を配置して、それらを可変抵抗を介して短絡させて金属イオンを溶出させる手段などを挙げることができる。
本発明方法に用いるセラミックボール接触手段としては、例えば、正磁性化合物と反磁性化合物を含むセラミックを焼結し磁気化した複合多孔質セラミックボールなどに接触させる手段を挙げることができる。セラミックボールの設置位置に特に制限はなく、例えば、冷却塔のピットに浸漬することができる。セラミックボールは、電磁波動機能を有するために、酸素イオンや負の金属イオンを発生するとともに、水のクラスターを微細化し、カルシウム、マグネシウムなどのスケール成分を析出させる。
本発明方法において、スケール成分と同一又は類似化合物の粒子との接触手段としては、例えば、炭酸カルシウムの粒子や、シリカゲルの粒子を充填した充填塔に通水する手段を挙げることができる。スケール成分が炭酸カルシウムである場合、スケール成分と同一又は類似化合物の粒子として、例えば、六方晶系のカルサイト、六方晶系のバテライト、斜方晶系のアラゴナイトなどを用いることができる。スケール成分がシリカである場合、スケール成分と同一又は類似化合物の粒子として、例えば、シリカゲル、フォルステライト、メタケイ酸マグネシウム、タルク、三ケイ酸マグネシウム、クリソタイル、セピオライトなどを用いることができる。炭酸カルシウムの粒子やシリカゲルの粒子を充填した充填塔に通水することにより、炭酸カルシウムの粒子やシリカゲルの粒子が種晶となって、それらの表面にスケール成分が析出する。
【0010】
本発明方法に用いる電気分解手段に特に制限はなく、例えば、陽極と陰極を備えた水電解槽を設けることができ、循環水の配管中に陽極と陰極を設けることもでき、あるいは、陽イオン交換膜の片面に多孔性陽極、他の面に多孔性陰極を備えた固体高分子電解質膜セルを用いることもできる。電極の材料に特に制限はなく、陽極としては、例えば、ニッケル又はその合金、鉄又はその合金、黒鉛、炭素、酸化ルテニウム、マグネタイト、鉛又はその合金、白金、白金をめっきしたチタンなどを挙げることができる。陰極としては、例えば、ニッケル、鉄又はその合金、ステンレス鋼、鉛、亜鉛などを挙げることができる。これらの電極材料は、10-6mol・dm-3の金属イオンと平衡する電位以下で用いることが好ましい。これらの中で、黒鉛、炭素、白金及び白金をめっきしたチタンは、通電により電極材料が水中に溶出するおそれがないので、好適に用いることができる。電気分解における電圧は、1V以上であることが好ましく、2〜25Vであることがより好ましい。
本発明方法に用いる超音波照射手段に特に制限はなく、例えば、水晶などの圧電形振動子、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛などの電歪形振動子、フェライト、ニッケルなどの磁歪形振動子などに高周波電圧を加えて超音波を発生する装置などを用いることができる。超音波発生器の形状に特に制限はなく、例えば、板状、棒状などの超音波発生器などを挙げることができる。本発明方法に用いる超音波発生装置の周波数に特に制限はないが、10kHz〜10MHzであることが好ましく、15kHz〜3MHzであることがより好ましい。周波数が10kHz未満であっても、10MHzを超えても、スケール成分の析出促進効果が弱くなるおそれがある。本発明方法に用いる超音波発生装置の出力に特に制限はないが、1.5kW以下であることが好ましく、50〜200Wであることがより好ましい。循環水への超音波の照射方式に特に制限はなく、例えば、連続して冷却水に超音波を照射することができ、あるいは、1時間に10〜20分程度を目安にして断続的に照射することもできる。
【0011】
本発明方法においては、循環水系の濃縮により、又は、循環水系へのシリカ成分の添加によりシリカ濃度を110〜250mgSiO2/L調整することができる。例えば、補給水のシリカ濃度が11〜25mgSiO2/Lであれば、濃縮倍数10倍で運転することにより、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲に調整することができる。補給水のシリカ濃度が低い場合には、循環水系へシリカ成分を添加することにより、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lに調整することができる。循環水系へ添加するシリカ成分としては、例えば、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウムなどを挙げることができる。
本発明方法においては、循環水系の濃縮により、循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lに調整することができる。例えば、補給水のTOC濃度が0.4〜2mgC/Lであれば、濃縮倍数10倍で運転することにより、循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲に調整することができる。
本発明の循環水系のスケール防止方法によれば、循環水中のシリカ濃度又はTOC濃度を調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御することにより、薬剤を使用することなく、スケールの付着を効果的に防止することができる。
【0012】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例においては、伝熱面積が0.25m2の熱交換器を有する保有水量0.45m3の開放楯環冷却水系を用いた。熱交換器チューブの材質は銅で、外径は19mmである。加熱側の温水温度は80℃、冷却水入口温度は30℃、出口温度は40℃、冷却水の流速は1.0m/sで、30日間運転した。また、水中の塩素イオン濃度を測定することにより、濃縮倍数を制御した。
30日間の運転終了後に、熱交換器チューブに付着したスケールを採取し、付着量を測定するとともに、比較例においては、スケールの成分分析を行った。成分分析では、採取したスケールを600℃で焼成し、焼成残渣の酸溶液についてフレーム原子吸光法によりカルシウム濃度を測定し、スケール中のカルシウムをCaO量として求めた。
実施例1
循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲で調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御して運転を行った。
図1に示す炭酸カルシウム充填カラム1に、冷却塔ピット2の循環水を通水した。カラムは、内径40mm、高さ1,500mmのアクリル樹脂製であり、平均粒径270μmの重質炭酸カルシウム200gを充填した。ポンプにより通水量0.02m3/hで通水し、カラムより流出する水を冷却塔ピットに返送した。通水により、カラム中の重質炭酸カルシウムは、展開率約200%に展開した。
補給水として使用した厚木市水の水質は、pH7.75、電気伝導率175μS/cm、カルシウム硬度46mgCaCO3/L、Mアルカリ度51mgCaCO3/L、塩化物イオン12mgCl-/L、シリカ24mgSiO2/Lであった。濃縮倍数を10倍に保つことにより、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲に保った。
運転開始2日後、4日後、6日後、8日後、10日後、20日後及び30日後に循環水をサンプリングし、pH計によりpHを測定した。また、JIS K 0101に従って、カルシウム硬度、Mアルカリ度、シリカ濃度を測定し、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は10.1倍、シリカ濃度229mgSiO2/L、ランゲリア指数1.6であった。スケール付着速度は、0.1mg/cm2/30日であった。
実施例2
循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲で調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御して運転を行った。
図2に示す超音波発振装置3に、冷却塔ピット2の循環水を通水した。超音波端装置は、内径100mm、長さ500mmのアクリル樹脂製パイプの2か所に先端直径3mmの超音波発振チップ4を取り付け、投入電力50Wで周波数20kHzの超音波を発振した。この装置にポンプにより通水速度0.01m3/hで通水し、装置より流出する水を冷却塔ピットに返送した。また、実施例1と同じ水質の補給水を用い、濃縮倍数を10倍に保つことにより、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲に保った。実施例1と同様にして循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は9.9倍、シリカ濃度243mgSiO2/L、ランゲリア指数1.7であった。スケール付着速度は、0.1mg/cm2/30日であった。
比較例1
炭酸カルシウム析出手段を用いることなく、循環水中のヒドロキシエチリデンジホスホン酸の濃度が20mg/Lになるようにヒドロキシエチリデンジホスホン酸を添加し、実施例1と同じ水質の補給水を用いて、濃縮倍数10倍で運転を行い、実施例1と同様にして循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は9.9倍、ランゲリア指数は3.5であった。スケール付着速度は73mg/cm2/30日であり、スケール成分は、CaO51.6重量%、CaCO392.1重量%であった。
比較例2
炭酸カルシウム析出手段を用いることなく、循環水中のポリアクリル酸ソーダの濃度が20mg/Lになるようにポリアクリル酸ソーダを添加し、実施例1と同じ水質の補給水を用いて、濃縮倍数10倍で運転を行い、実施例1と同様にして循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は10.0倍、ランゲリア指数は2.6であった。スケール付着速度は108mg/cm2/30日であり、スケール成分は、CaO54.0重量%、CaCO396.4重量%であった。
実施例1〜2の結果を第1表に、比較例1〜2の結果を第2表に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
【表2】
【0015】
第1表に見られるように、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲に調整し、スケール成分析出手段としての炭酸カルシウム充填カラム又は超音波発振装置によりランゲリア指数を0〜2に制御した実施例1〜2では、スケール付着速度が小さく、スケールがほとんど付着していない。これに対して、第2表に見られるように、従来のスケール防止剤であるヒドロキシエチリデンジホスホン酸又はポリアクリル酸ソーダを添加した比較例1〜2では、30日間で70〜100mg/cm2のスケールが付着し、スケール成分の90重量%以上は炭酸カルシウムである。
実施例3
循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲で調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御して運転を行った。
実施例1と同じ炭酸カルシウム充填カラムを用い、実施例1と同じ条件で通水した。補給水として使用した厚木市水の水質は、pH7.87、電気伝導率184μS/cm、カルシウム硬度42mgCaCO3/L、Mアルカリ度54mgCaCO3/L、塩化物イオン10mgCl-/L、シリカ26mgSiO2/L、TOC1.1mgC/Lであった。濃縮倍数を18倍に保つことにより、循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲に保った。
運転開始2日後、4日後、6日後、8日後、10日後、20日後及び30日後に冷却水をサンプリングし、pH計によりpHを測定した。また、JIS K 0101に従って、カルシウム硬度、Mアルカリ度、TOC濃度を測定し、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は18倍、TOC濃度は20mgC/L、ランゲリア指数は1.7であった。スケール付着速度は、0.1mg/cm2/30日であった。
実施例4
循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲で調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御して運転を行った。
実施例2と同じ超音波発振装置を用い、実施例2と同じ条件で通水した。また、実施例3と同じ水質の補給水を用い、濃縮倍数を18倍に保つことにより、循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲に保った。実施例3と同様にして循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は18倍、TOC濃度は18mgC/L、ランゲリア指数は1.8であった。スケール付着速度は、0.1mg/cm2/30日であった。
比較例3
炭酸カルシウム析出手段を用いることなく、循環水中のヒドロキシエチリデンジホスホン酸の濃度が20mg/Lになるようにヒドロキシエチリデンジホスホン酸を添加し、実施例3と同じ水質の補給水を用いて、濃縮倍数18倍で運転を行い、実施例3と同様にして循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は18倍、ランゲリア指数は3.4であった。スケール付着速度は89mg/cm2/30日であり、スケール成分は、CaO52.1重量%、CaCO393.0重量%であった。
比較例4
炭酸カルシウム析出手段を用いることなく、循環水中のポリアクリル酸ソーダの濃度が20mg/Lになるようにポリアクリル酸ソーダを添加し、実施例3と同じ水質の補給水を用いて、濃縮倍数18倍で運転を行い、実施例3と同様にして循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は18倍、ランゲリア指数は2.5であった。スケール付着速度は124mg/cm2/30日であり、スケール成分は、CaO50.8重量%、CaCO390.7重量%であった。
実施例3〜4の結果を第3表に、比較例3〜4の結果を第4表に示す。
【0016】
【表3】
【0017】
【表4】
【0018】
第3表に見られるように、循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲に調整し、スケール成分析出手段としての炭酸カルシウム充填カラム又は超音波発振装置によりランゲリア指数を0〜2に制御した実施例3〜4では、スケール付着速度が小さく、スケールがほとんど付着していない。これに対して、第4表に見られるように、従来のスケール防止剤であるヒドロキシエチリデンジホスホン酸又はポリアクリル酸ソーダを添加した比較例3〜4では、30日間で90〜120mg/cm2のスケールが付着し、スケール成分の90重量%以上は炭酸カルシウムである。
実施例5
循環水系へシリカ成分を添加して循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lに調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に調整して運転を行った。
実施例1と同じ炭酸カルシウム充填カラムを用い、実施例1と同じ条件で通水した。メタケイ酸ナトリウム1級をSiO2として5重量%になるように超純水に溶解した溶液を、冷却塔ピットに添加して、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lに調整した。使用した補給水は、純水に塩化カルシウムと炭酸水素ナトリウムを溶解して調製した合成水であり、その水質は、pH7.72、電気伝導率178μS/cm、カルシウム硬度45mgCaCO3/L、Mアルカリ度52mgCaCO3/L、塩化物イオン30mgCl-/Lであった。また、水中の塩化物イオン濃度を測定することにより、濃縮倍数を12倍に制御して運転した。
運転開始2日後、4日後、6日後、8日後、10日後、20日後及び30日後に循環水をサンプリングし、pH計によりpHを測定した。また、JIS K 0101に従って、カルシウム硬度、Mアルカリ度、シリカ濃度を測定し、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃度倍数は12.2倍、シリカ濃度は239mgSiO2/L、ランゲリア指数は1.7であった。スケール付着速度は、0.1mg/cm2/30日であった。
実施例6
循環水系へシリカ成分を添加して循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lに調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に調整して運転を行った。
実施例2と同じ超音波発振装置を用い、実施例2と同じ条件で通水した。また、実施例5と同様にして、冷却塔ピットにメタケイ酸ソーダ水溶液を添加し、実施例5と同じ水質の補給水を用い、濃縮倍数を12倍に保って運転した。実施例5と同様にして循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は11.9倍、シリカ濃度は229mgSiO2/L、ランゲリア指数は2.0であった。スケール付着速度は、0.1mg/cm2/30日であった。
比較例5
シリカ濃度を調整することなく、炭酸カルシウム析出手段を用いることなく、循環水中のヒドロキシエチリデンジホスホン酸の濃度が20mg/Lになるようにヒドロキシエチリデンジホスホン酸を添加し、実施例5と同じ水質の補給水を用いて、濃縮倍数12倍で運転を行い、実施例5と同様に、循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は12.1倍、ランゲリア指数は3.4であった。スケール付着速度は92mg/cm2/30日であり、スケール成分は、CaO52.3重量%、CaCO393.4重量%であった。
比較例6
シリカ濃度を調整することなく、炭酸カルシウム析出手段を用いることなく、循環水中のポリアクリル酸ソーダの濃度が20mg/Lになるようにポリアクリル酸ソーダを添加し、実施例5と同じ水質の補給水を用いて、濃縮倍数12倍で運転を行い、実施例5と同様にして循環水をサンプリングし、ランゲリア指数を求めた。
30日後、濃縮倍数は12.2倍、ランゲリア指数は2.5であった。スケール付着速度は122mg/cm2/30日であり、スケール成分は、CaO50.7重量%、CaCO390.5重量%であった。
実施例5〜6の結果を第5表に、比較例5〜6の結果を第6表に示す。
【0019】
【表5】
【0020】
【表6】
【0021】
第5表に見られるように、冷却塔ピットにメタケイ酸ソーダ水溶液を添加して、循環水中のシリカ濃度を110〜250mgSiO2/Lの範囲に調整し、スケール成分析出手段としての炭酸カルシウム充填カラム又は超音波発振装置によりランゲリア指数を0〜2に制御した実施例5〜6では、スケール付着速度が小さく、スケールがほとんど付着していない。これに対して、第6表に見られるように、従来のスケール防止剤であるヒドロキシエチリデンジホスホン酸又はポリアクリル酸ソーダを添加した比較例5〜6では、30日間で90〜120mg/cm2のスケールが付着し、スケール成分の90重量%以上は炭酸カルシウムである。
【0022】
【発明の効果】
本発明の循環水系のスケール防止方法によれば、循環水中のシリカ濃度又はTOC濃度を調整し、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御することにより、薬剤を使用することなく、炭酸カルシウムのスケールの付着を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例で用いた装置の系統図である。
【図2】図2は、実施例で用いた装置の系統図である。
【符号の説明】
1 炭酸カルシウム充填カラム
2 冷却塔ピット
3 超音波発振装置
4 超音波発振チップ
Claims (3)
- 循環水中のTOC濃度を4〜20mgC/Lの範囲で調整し、かつ、スケール成分析出手段によりランゲリア指数を0〜2に制御することを特徴とする循環水系のスケール防止方法。
- スケール成分析出手段が、磁気処理手段、金属溶出手段、セラミックボール接触手段、スケール成分と同一又は類似化合物の粒子との接触手段、電気分解手段及び超音波照射手段からなる群から選ばれる少なくとも1つの手段である請求項1記載の循環水系のスケール防止方法。
- 循環水系の濃縮により、TOC濃度を調整する請求項1又は請求項2記載の循環水系のスケール防止方法。
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