JP3938032B2 - 電気泳動方法および電気泳動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、バイオ分野などで使用される電気泳動方法および電気泳動装置に関し、特に電気泳動のコンパクト化および高速化のための改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電気泳動法は、安価で簡単な装置を使って遺伝子構造解析やアミノ酸などの蛋白質の構造分析ができる方法としてよく知られ、バイオ分野で多用されている。
【0003】
電気泳動法には、ポリアクリルアミドを使ったディスク電気泳動法をはじめとして、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、等電点電気泳動法、核酸のゲル電気泳動法、他分子との相互作用の影響を利用した電気泳動法、2次元電気泳動法、キャピラリー電気泳動法などがある。
【0004】
図4は従来の泳動計測装置の一例を示す構成図である(特許文献1参照)。その装置は大別して電気泳動装置部10と信号処理装置部20から構成されている。
【0005】
電気泳動装置部10は、電気泳動を行う泳動部11と、泳動部11に電圧を印加するための第1電極12および第2電極13と、泳動部11および各電極12,13を保持する支持板14と、前記電極に電圧を加える電気泳動用電源装置15と、蛍光物質を励起するための光を発生する光源16と、光源16からの光を導く光ファイバ17と、蛍光物質から発生した蛍光を集光し、光学フィルタにより特定波長の光を選択的に通した後、これを電気信号に変換する光検出器18から構成されている。
【0006】
信号処理装置部20では、光検出器18からの電気信号を受けて、適宜の処理、例えば、デジタルデータへのデータ変換、加算平均処理等の前処理などを施すことができるようになっている。この信号処理装置部20の出力は図示しないデータ処理装置に送られ、解析処理により試料の分析が行われる。
【0007】
このような装置において、泳動部11にゲルを注入し、このゲルの上部から蛍光物質で標識したDNA断片の試料を注入し、続いて電源装置15により第1電極12および第2電極13に電圧を印加すると、電気泳動が始まる。試料の各レーンには試料に含まれる分子が分子量ごとに集まり、それぞれバンドを作る。分子量の軽い分子ほど泳動速度が速いため同一時間内に泳動される距離は大きい。
【0008】
これらのバンドの検出は、光源16からの光(例えば、レーザ光)でゲルを照射してゲル中でバンドに集まっている標識の蛍光物質に蛍光を発生させ、この蛍光を光検出器18で検出する。
【0009】
すなわち、レーザ光が照射されると、図5に示すように光路31上に存在するゲルの蛍光物質が励起されて、蛍光を発する。この蛍光を、レーンごとに所定の検出位置で電気泳動方向に時間の経過と共に検出する。これにより、各レーンのバンド32が光路31上の位置を通過する時に蛍光が検出されることになり、1つのレーンにおける蛍光強度のパターン信号が得られる。図示しないデータ処理装置は、このパターン信号から、例えば、DNAの各塩基配列を解析することができる。
【0010】
【特許文献1】
特開2000−338087号公報(第2頁、図9、図10)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の電気泳動装置では次のような課題があった。
(1)測定に時間がかかる。
(2)多種の分離には多数のレーンが必要であり、大掛かりとなる。
(3)設置面積が大きい。泳動部の面積は、例えば50cm×50cmあるいは5cm×5cmなどといずれも大きい。
【0012】
本発明の目的は、上記の課題を解決するもので、シンプル、コンパクト、高信頼で、しかも高速化を図ることのできる電気泳動方法および電気泳動装置を実現することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、請求項1の発明は、
ゲル層を厚み方向に挟む上下の電極に直流電圧またはパルス電圧を印加して、ゲル層中のサンプルをゲルの厚さ方向へ泳動させる電気泳動方法において、前記サンプルが接触したとき化学反応を起こし発色する反応剤を前記ゲル層に配置し、前記電圧印加により前記サンプルを反応剤側に引き寄せるようにしたことを特徴とする。
【0014】
このような方法によれば、非常に短い距離をサンプルを強制的に反応剤側に引き寄せるため泳動時間が従来のものより大幅に短縮できるという効果がある。
【0016】
また、請求項2のように、前記サンプルを前記ゲル層の表面側の複数箇所に滴下し、前記反応剤を各サンプルに対向してゲル層の裏面側にそれぞれ配置する。これにより複数のサンプルを同時に泳動させることができる。
また、電極は、請求項3のようにゲル層と絶縁する。
【0017】
また、請求項4の発明は、
膜状のゲル層と、
このゲル層の表面側に滴下されたサンプルと、
前記ゲル層の裏面側に前記サンプルに対向して配置され、サンプルが接触すると化学反応を起こして発色する反応剤と、
前記ゲル層の表裏側にそれぞれ配置された電極と、
この電極に電圧を印加する電源
を具備し、前記電極に直流電圧またはパルス電圧を印加することにより前記サンプルがゲル層を泳動して反応剤側に引き寄せられるようにしたことを特徴とする。
【0018】
このような構成によれば、シンプルでコンパクトな電気泳動装置を容易に実現することができる。
また、ゲル層、サンプル、反応剤からなる部分は、電極から取り外すことができ、使い捨てカートリッジとして扱える。
【0019】
また、請求項5のように、前記サンプルは前記ゲル層の表面側の複数箇所に滴下され、前記反応剤は各サンプルに対向してゲル層の裏面側にそれぞれ配置されるようにすることもできる。これにより、サンプルはアレイ状に配置され、複数のサンプルの同時泳動が可能となる。
【0020】
また、請求項6のように、前記各サンプルが滴下される各サイトごとに、ゲル層の膜厚や材質が異なるように、また請求項7のように、前記各サンプルが滴下される各サイトごとに個別の電極を設け、これらの電極に異なる電圧を印加するように構成することもできる。
【0021】
また、この発明では、請求項8のように、前記サンプルは負に帯電し、前記ゲル層の裏面の反応剤側に配置された電極は正の電極、ゲル層表面側に配置された電極は負の電極とする。また、請求項9のように電極はゲルと絶縁しておく。さらにまた、反応剤としては、吸光試薬または発光試薬または蛍光試薬を用いる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下図面を用いて本発明を詳しく説明する。本発明は荷電粒子に電界を印加することによりゲル中の荷電粒子を移動させるという原理に基づくものである。図1は本発明の電気泳動装置の一実施例を示す要部構成図である。
【0023】
図1において、1はゲル層、2はサンプル、3は反応剤、4は第1の絶縁材、5は第2の絶縁材、6は負電極、7は正電極、8は電源である。
ゲル層1は、薄い膜、例えば1μm以下程度の膜で形成されている。サンプル2としては例えばターゲットDNAであり、ゲル層1の表面側に滴下される。反応剤3は、各サンプル2に対向してゲル層1の裏面側に配置され、前記ターゲットDNA2の接触により化学反応を起こし発色する特性を有するものである。
【0024】
絶縁材4と5は、ゲル層1を挟んで配置された例えばガラス基板などである。なお、絶縁材4と5は、容器の一部をなしており(図示せず)、この容器内にゲル層1と反応剤3とターゲットDNA2が充填されている。
負電極6は第1の絶縁材4の上側に配置され、正電極7は第2の絶縁材5の下側に配置されている。この電極には電源8から電圧が印加される。
【0025】
このような構成において、電源8から電極6、7に例えば数ボルトから数千ボルトの範囲内の適宜の高電圧を印加する。高電圧印加により電極間に電界が生じ、負に帯電しているターゲットDNA2はプラス電極7側に引き寄せられる。ゲル層1中を通過して反応剤3に接触すると化学反応を起こし発色する。
【0026】
ゲル層1に滴下されたそれぞれのターゲットDNAに分子量の違いがあると、同一時間内にゲル層中を移動する距離に違いが出る。分子量の軽い分子ほど泳動速度が速いため反応剤3に早く到達し、発色する。
この発色を検出することにより、DNAの分子量の比較や塩基配列の判定を行うことができる。
なお、上記発色検出や分子量の比較、塩基配列の判定は図示しない周知の手段により行なわれる。
【0027】
このように、本発明によれば、電極の材質などに依存する電気化学反応が生じないため高信頼性に富み、しかもシンプルかつコンパクトな電気泳動装置を容易に実現することができる。
また、本発明は従来のような電流を流す電気泳動ではないため、ターゲットDNAに電気分解は起こらない。高電圧印加により大きな力でターゲットDNAを正電極側7に引き寄せるため、また薄い膜の厚さ方向に移動させるため、従来に比べ泳動時間は大幅に短縮される。
【0028】
なお、本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形をも含むものである。
例えば、上記のターゲットDNAのスポットをアレイ状にして、DNAチップのように並べれば、電気泳動アレイ(電界泳動アレイともいう)を形成できる。
【0029】
また、DNAをスポットする各サイトはゲル層の膜厚や材質を適宜に変えたり、サイトごとに個別の電極を設けサイトごとに印加電圧を変えれば、電気泳動をアレイの2次元で行うことができる。
この場合、電極にITO(インジウム−スズ酸化物)のような透明電極を用いれば、発光、吸光、蛍光などを、電極を取り外すことなく直接観察することができる。
【0030】
なお、直流電圧の印加では荷電粒子(DNA)の移動が弱い場合は、図2に示すようなパルス電圧の印加にしてもよい。実施例の構造はコンデンサ構造となっているため、パルスを印加すると印加した瞬間に電流が流れる。そのため、ターゲットDNA2は、電気泳動の原理に基づき、図3に矢印で示すようにパルス印加ごとに正電極7側へ移動する。
【0031】
また、絶縁材と電極の間にはエアギャップを避けるために高誘電率の物質、例えばグリセリンなどを充填してもよい。
なお、実施例では、電極とゲル層の間に絶縁材5を入れているが、絶縁材5を用いない接液型でもよく、その場合もゲル層の厚さ方向への電気泳動により高速化を実現することができる。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば次のような効果がある。
(1)ゲル層上へのサンプル滴下をアレイ状に並べることにより容易に電気泳動アレイを形成することができる。
このとき、各サイトはゲル層の膜厚や材質を変えたり、サイトごとに印加電圧を変えることにより、容易にアレイの2次元で高速な電気泳動を行うことができる。
(2)絶縁物を持つタイプでは、従来の電気泳動で必要としていた接液電極が不要であり、シンプルでコンパクトな高信頼の電気泳動方法および電気泳動装置を容易に実現することができる。
(3)このとき、サンプルには電気分解が生じないので、高電圧印加が可能であり、サンプルの泳動をさらに高速化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電気泳動装置の一実施例を示す要部構成図である。
【図2】印加するパルス電圧波形の説明図である。
【図3】パルス電圧印加ごとのターゲットDNAの泳動を示す説明図である。
【図4】従来の電気泳動装置の一例を示す構成図である。
【図5】泳動パターンの説明図である。
【符号の説明】
1 ゲル層
2 サンプル
3 反応剤
4,5 絶縁材
6,7 電極
8 電源
Claims (9)
- ゲル層を厚み方向に挟む上下の電極に直流電圧またはパルス電圧を印加して、ゲル層中のサンプルをゲルの厚さ方向へ泳動させる電気泳動方法において、前記サンプルが接触したとき化学反応を起こし発色する反応剤を前記ゲル層に配置し、前記電圧印加により前記サンプルを反応剤側に引き寄せるようにしたことを特徴とする電気泳動方法。
- 前記サンプルは前記ゲル層の表面側の複数箇所に滴下され、前記反応剤は各サンプルに対向してゲル層の裏面側にそれぞれ配置されたことを特徴とする請求項1に記載の電気泳動方法。
- 前記電極はゲル層と絶縁されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気泳動方法。
- 膜状のゲル層と、
このゲル層の表面側に滴下されたサンプルと、
前記ゲル層の裏面側に前記サンプルに対向して配置され、サンプルが接触すると化学反応を起こして発色する反応剤と、
前記ゲル層の表裏側にそれぞれ配置された絶縁材と、
この絶縁材の外側にそれぞれ配置された電極と、
この電極に電圧を印加する電源
を具備し、前記電極に直流電圧またはパルス電圧を印加することにより前記サンプルがゲル層を泳動して反応剤側に引き寄せられるようにしたことを特徴とする電気泳動装置。 - 前記サンプルは前記ゲル層の表面側の複数箇所に滴下され、前記反応剤は各サンプルに対向してゲル層の裏面側にそれぞれ配置されたことを特徴とする請求項4記載の電気泳動装置。
- 前記各サンプルが滴下される各サイトごとに、ゲル層の膜厚や材質が異なるように構成したことを特徴とする請求項4または5に記載の電気泳動装置。
- 前記各サンプルが滴下される各サイトごとに個別の電極を設け、これらの電極に異なる電圧を印加するように構成したことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の電気泳動装置。
- 前記サンプルは負に帯電し、前記ゲル層の裏面の反応剤側に配置された電極は正の電極、ゲル層表面側に配置された電極は負の電極としたことを特徴とする請求項4ないし7のいずれかに記載の電気泳動装置。
- 前記電極はゲル層と絶縁されていることを特徴とする請求項4ないし8のいずれかに記載の電気泳動装置。
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