JP3934511B2 - 疲労特性の優れたコモンレール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や産業機械などの部品に使用される疲労特性の優れたコモンレールに関るものであり、より詳しくは、圧延や鍛造などの圧縮加工によって伸長したMn硫化物系介在物の伸長方向に平行でない開放面に引張応力が生じる部分を有する疲労特性の優れたコモンレールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、降伏応力以上の応力が負荷されると鋼材が変形するが、降伏応力以下の応力であっても、繰り返し、負荷されると鋼材が破壊される、いわゆる金属疲労という現象が知られている。鋼材が使用されている多くの部品はこのような応力環境下にあるため、鋼材の疲労強度を向上することは極めて重要である。疲労強度を上げる最もオーソドックスな方法は鋼材の強度を上げるという方法であるが、近年、鋼中の介在物が疲労強度に悪影響を及ぼすことが明らかになり、介在物の種類や大きさ、密度などの影響を詳細に研究し、その制御技術が開発されてきている。
【0003】
例えば、鋼材加工後の酸化物系介在物のアスペクト比が3.0以上のものを60%以上含ませることにより転動疲労を向上させる技術が特開平4−168247号公報に開示されている。また、特開平2−270935号公報においては、直径20μm以上の酸化物系介在物と窒化物系介在物を鋼1gあたり14個以下とすることにより歯車用肌焼鋼の疲労強度を向上させる技術が開示されている。また、浸炭用鋼のMnSを制御したものに特開平5−25586号公報および特開平7−188853号公報がある。前者は特定量のCaを添加することによりMnSの長さを短くすることで疲労強度を向上する技術であり、後者はMgを添加することにより、MnSの長さを短くすることで疲労強度を向上する技術であり、一定の成果をおさめてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、昨今においては、部品の軽量化のために鋼材の大きさを小さくしても同等の強度を得る必要性から、より疲労強度の優れた鋼材が要求されている。例えば、ディーゼルエンジンに最近使用されるようになった、特にコモンレールのような部品においては、図4に示すように、加工によって伸長したMn硫化物系介在物4が、分岐穴6によって形成される開放面2に対してほぼ垂直方向に交差し、かつ該開放面には分岐穴の円周方向に繰り返しの引張応力がかかるため、せっかく鋼材を高強度化しても伸長した介在物が破壊起点になり、引張強さに見合った疲労強度が得られない。
【0005】
本発明は、圧延や鍛造などの圧縮加工によって伸長したMn硫化物系介在物の伸長方向に平行でない開放面に引張応力が生じる部分を有する疲労特性の優れたコモンレールを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、実験を重ね鋭意研究した結果、鋼のS含有量を低減し、Mn硫化物系介在物のアスペクト比(長さ/幅)を低下させるMg等と、さらにAlとを適量添加し、かつ平均アスペクト比を一定値以下に制御することにより前記課題が解決できることを知見し、本発明を完成した。
【0007】
なお、Mn硫化物系介在物とは、純粋なMnSや酸化物を核として析出したMnSの他に、MnSを主体として含み、Fe、Ca、Ti、Zr、Mg、REM等の硫化物がMnSと固溶したり、結合して共存している介在物や、MnSを主体として含み、MnTeのようにS以外の元素がMnと化合物を形成してMnSと固溶したり、結合して共存している介在物が含まれるものであり、化学式では、(Mn,X)(S,Y)(ここで、X:Mn以外の硫化物形成元素、Y:S以外でMnと結合する元素)として表記できるものである。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 質量%で、
C:0.3〜0.5%、
Si:0.5%以下、
Mn:0.3〜1.5%、
P:0.035%以下
S:0.01%以下、
Al:0.01%超〜0.1%
を含有し、
Mg:0.0002〜0.01%、かつMg/S≧0.05、
Ca:0.0005〜0.01%、かつCa/S≧0.05、
Zr:0.0005〜0.02%、かつZr/S≧0.05、
Te:0.0002〜0.005%、かつTe/S≧0.05、
REM:0.0005〜0.01%、かつREM/S≧0.05
の内の1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなり、L断面において観察されるMn硫化物系介在物の長さ(L)と幅(D)の比(L/D)の平均値が4.5以下である鋼から作製したコモンレールであって、圧延や鍛造などの圧縮加工によって伸長したMn硫化物系介在物の伸長方向と平行でない開放面を有し、かつ該開放面に引張応力が生じる部分を有することを特徴とする疲労特性の優れたコモンレール。
【0009】
(2) 質量%で、
C:0.3〜0.5%、
Si:0.5%以下、
Mn:0.3〜1.5%、
P:0.035%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.01%超〜0.1%
を含有し、
Cr:0.4〜1.5%、
Mo:0.1%〜1.5%、
V:0.1%超〜0.6%
の内の1種または2種以上を含有し、
さらに、
Mg:0.0002〜0.01%、かつMg/S≧0.05、
Ca:0.0005〜0.01%、かつCa/S≧0.05、
Zr:0.0005〜0.02%、かつZr/S≧0.05、
Te:0.0002〜0.005%、かつTe/S≧0.05、
REM:0.0005〜0.01%、かつREM/S≧0.05
の内の1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなり、L断面において観察されるMn硫化物系介在物の長さ(L)と幅(D)の比(L/D)の平均値が4.5以下である鋼から作製したコモンレールであって、圧延や鍛造などの圧縮加工によって伸長したMn硫化物系介在物の伸長方向と平行でない開放面を有し、かつ該開放面に引張応力が生じる部分を有することを特徴とする疲労特性の優れたコモンレール。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のきっかけとなった実験結果をもとにMn硫化物系介在物の形態を鋼のL断面(圧延や鍛造等の圧縮加工による延伸方向断面)において、Mn硫化物系介在物の長さ(L)と幅(D)の比(L/D)の平均値を4.5以下とした理由について述べる。
【0015】
質量%で0.4%のCおよび0.006%のSを含む鋼の成分を調整した鋼塊を、減面率を調整するために種々の大きさに切断加工した後、通常の条件で熱間圧延し、種々のL/Dの形態を持つMn硫化物系介在物を有する厚さ15〜40mm、幅80mmの鋼板を作製した。各鋼板毎に厚さの中心付近から、L方向(圧延による延伸方向に平行)、C方向(同左方向に直角)、X方向(同左方向に対し45度方向)の3種類の方向の14mm角、長さ80mmの角棒の試験片を各々採取した。
【0016】
Mn硫化物系介在物のL/Dは以下のようにして測定した。C方向に採取した角棒の前記鋼板でのL断面の内の厚み方向断面(該角棒の長手方向との直角断面)において鏡面研磨し、断面の中心付近にある100個程度のMn硫化物系介在物を光学顕微鏡で撮影し、その写真を画像処理装置で読み取り、L/Dを求めた後、100個のL/Dの平均値を計算した。この値で以って、同一鋼板から採取したL方向およびX方向採取の角棒の平均L/Dの代表値とした。
【0017】
これら角棒を850℃〜960℃の温度から焼入れ、520℃〜660℃の温度で焼き戻し処理した後、引張試験片と小野式回転曲げ疲労試験片に機械加工し、引張試験と小野式回転曲げ疲労試験を行ない、耐久比(疲労限界/引張強さ)を調べた。
【0018】
図1に示すように、C方向とX方向に採取した試験片の耐久比はMn硫化物系介在物の平均L/Dによって大きく異なり、平均L/Dが4.5を超えると、耐久比が大きく低下することがわかった。一方、L方向に採取した試験片の耐久比は平均L/Dの値にほとんど影響されない。
【0019】
この理由の詳細は未だ不明であるが、Mn硫化物系介在物のような硫化物は熱間加工により伸長形状になり、これが試験片の表面(開放面)にある角度で交差すると、切欠き作用が起こり、あたかも表面傷のような作用として働くものと推定される。小野式回転曲げ疲労試験においては、試験片表面には引張応力が作用するため、試験片表面に切欠き作用をするものがあれば、疲労強度が劣化するものと推察される。
【0020】
上記の実験結果から、本発明では、Mn硫化物系介在物の長さ(L)と幅(D)の比(L/D)の平均値を4.5以下とした。
【0021】
平均L/Dは、後述するMg等のMn硫化物系介在物のアスペクト比(L/D)を低下させる元素の添加、鋼塊または鋳片からの減面率によって制御される。
【0022】
ここで、Mn硫化物系介在物の大きさの測定方法は、鋼の中心付近をL断面において鏡面研磨し、直径または厚さの中心付近にある100個程度のMn硫化物系介在物を光学顕微鏡で撮影し、その写真を画像処理装置で読み取り、平均のL/Dを求める。
【0023】
次にS量の限定理由を述べる。
試験鋼1群として、質量%でC:0.42%、S:0.001%〜0.025%を含有し、その他の成分を調整した鋼塊を溶解し、熱間圧延し、L断面において2.5〜3.5程度の範囲の平均L/Dの形態を持つMn硫化物系介在物を有する直径85mmφの棒鋼を作製した。また、試験鋼2群として、質量%でC:0.42%、Cr:1%、Mo:0.55%、V:0.41%、S:0.001%〜0.025%を含有し、その他の成分を調整した鋼塊を溶解し、熱間圧延し、試験鋼1群と同様にL断面において2.5〜3.5程度の範囲の平均L/Dの形態をもつMn硫化物系介在物を有する直径85mmφの棒鋼を作製した。ここで、Mn硫化物系介在物の大きさの測定方法は、各棒鋼の直径中心付近をL断面において鏡面研磨し、直径の中心付近にある100個程度のMn硫化物系介在物を光学顕微鏡で撮影し、その写真を画像処理装置で読み取り、平均のL/Dを求めた。これら棒鋼から引張試験片と小野式回転曲げ疲労試験片をC方向(圧延による延伸方向に直角)から採取した。次にこれらを900℃〜960℃の温度から焼入れ、580℃〜660℃の温度で焼き戻し処理した後、引張試験と小野式回転曲げ疲労試験を行ない、耐久比(疲労限界/引張強さ)を調べた。
【0024】
試験鋼1群および試験鋼2群の耐久比の実験結果を図2に示す。試験鋼1群の場合は、S量が0.01%超から耐久比の低下が著しくなる。この実験結果からSは0.01%以下に制限する。一方、試験鋼2群の場合はS量0.02%超からの耐久比の劣化が顕著である。理由は今のところ不明であるが、CrやMo、Vといった元素を含有する鋼の場合には、S量を0.02%までは疲労強度がある程度の値を保持できるものと推定される。従って、これら元素を含有する鋼の場合のS量は0.02%以下に制限する。好ましくは0.01%以下である。
【0025】
次にその他の化学成分の限定理由について述べる。
Al:0.01%超〜0.1%、
Alは脱酸元素として必須元素であり、またAlNを形成し、結晶粒の粗大化を防止する働きがある。結晶粒の粗大化は靭性の劣化を引き起こすだけでなく、部品の一部に粗大粒が発生することは機械的性質が不均一になるので好ましくない。Alは最低0.01%超は必要である。一方、0.1%超では、連続鋳造時のノズル詰まりが激しくなるので、上限を0.10%とする。
【0026】
Mg:0.0002〜0.01%、かつMg/S≧0.05
Ca:0.0005〜0.01%、かつCa/S≧0.05
Zr:0.0005〜0.02%、かつZr/S≧0.05
Te:0.0002〜0.005%、かつTe/S≧0.05
REM:0.0005〜0.01%、かつREM/S≧0.05
本発明においては、鋼にMg、Ca、Zr、Te、REMの内の1種または2種以上を添加する。これらは、Mn硫化物系介在物のアスペクト比(L/D)を低下させる働きがある有用な元素である。
【0027】
Mgは0.0002%未満の場合およびS量に対して質量%比率でMg/S<0.05なるMg量の場合ではアスペクト比の低下効果は見られず、一方、0.01%超ではクラスター状介在物ができて疲労破壊の起点となる。従って、Mgは0.0002〜0.01%、かつMg/S≧0.05とする。Caは0.0005%未満の場合およびS量に対して質量%比率でCa/S<0.05なるCa量の場合ではアスペクト比の低下効果はなく、一方、0.01%超ではクラスター状介在物ができて疲労破壊の起点となる。従って、Caは0.0005〜0.01%、かつCa/S≧0.05とする。Zrは0.0005%未満およびS量に対して質量%比率でZr/S<0.05なるZr量の場合ではアスペクト比の低下効果はなく、0.02%超ではクラスター状介在物ができて疲労破壊の起点となる。よって、Zrは0.0005〜0.02%、かつZr/S≧0.05とする。Teは、0.0002%未満およびS量に対して質量%比率でTe/S<0.05なるTe量の場合ではアスペクト比の低下効果はなく、0.005%超では、連続鋳造での製造が困難となる。よって、Teは0.0002〜0.005%、かつTe/S≧0.05とする。REMは0.0005%未満およびS量に対して質量%比率でREM/S<0.05なるREM量の場合ではアスペクト比の低下効果はなく、一方、0.01%超の添加はアスペクト比低下効果が低減し、かつ高価な元素であるため経済性を考慮して、REMの含有量は0.0005〜0.01%、かつREM/S≧0.05とする。
【0028】
C:0.3〜0.5%
Cは静的強度は言うに及ばず、疲労強度、靭性、延性に影響する最も基本的な元素である。Cが0.3%未満では静的強度および疲労強度が不十分であり、また、0.5%超では靭性が劣化する。従って、Cは0.3〜0.5%とする。
【0029】
Si:0.5%以下
SiはCに次いで固溶強化能が大きい重要な元素であるが、一方で靭性や加工性を著しく劣化させる元素でもある。0.5%超では、靭性の劣化が著しくなる。よって、Siは0.5%以下に制限する。
【0030】
Mn:0.3〜1.5%
Mnは焼入れ性を向上させ、冷却速度が不十分な場合でも部品の心部まで硬度を確保するのに重要な元素である。0.3%未満では、必要な強度が確保できない。また、1.5%超では靭性および加工性が劣化するので、Mnは0.3〜1.5%とする。
【0031】
P:0.035%以下
Pは鋼に添加する元素の中でも最も粒界に偏析しやすく、かつ粒界を脆弱にする元素である。本発明では極力低減したほうが好ましい。特に0.035%超では、粒界破壊が著しくなる。従って、Pは0.035%以下に制限する。遅れ破壊が問題となる環境で使用される場合には0.015%以下に制限することが好ましい。
【0032】
Cr:0.4〜1.5%
CrはMnと同様、鋼の焼入れ性を向上する有用な元素である。Mnのみでは焼入れ性が不十分な場合、部品の心部まで硬度を確保する場合に有用な添加元素である。0.4%未満では前記作用に効果が小さく、また、1.5%超では、添加量あたりの効果が落ち、むしろ他の元素を添加することで前記作用を得るほうが有利となる。従って、Crは0.4%〜1.5%とする。
【0033】
Mo:0.1%〜1.5%
MoはMoの炭窒化物を微細に析出させることにより、焼き戻し時に鋼を硬化させる、いわゆる二次硬化を起こす元素である。析出硬化により疲労強度を増加させる働きや、MnやCrと同様、焼入れ性を上げる元素である。0.1%未満では十分な効果が得られず、また、1.5%超の量を添加すると焼入れ熱処理時に末溶解の炭化物が残存し、靭性を劣化させる。従ってMoは0.1%〜1.5%とする。
【0034】
V:0.1%超〜0.6%
VもMoと同様、微細な炭窒化物を析出させることで、焼き戻し時に鋼を硬化させる、いわゆる二次硬化を起こす元素である。微細な炭窒化物による結晶粒の微細化をもたらし、靭性を上げる作用や、析出硬化による疲労強度のさらなる向上をもたらす元素である。0.1%以下では十分な効果が得られず、また、0.6%超の量を添加すると焼入れ熱処理時に末溶解の炭化物が残存し、かえって靭性を劣化させる。従ってVは0.1%超〜0.6%とする。
【0035】
本発明ではコモンレールの製造工程において、鋼は焼入・焼戻処理をして使用されるので、圧延の条件のうち、加熱温度、仕上げ温度といったパラメーターは、あまり強度に影響しない。コモンレール製造工程中における焼入れの溶体化温度は830℃以上が推奨されるが、特にVやMoを多量に添加する場合には、なるべく、VやMoの炭窒化物を溶体化することが好ましいので、溶体化温度としては880℃以上が好ましい。また、焼き戻し温度は、450℃以上が推奨されるが、高温戻しによる靭性の向上を図る場合等は、550℃以上にすることが好ましい。
【0036】
次に、本発明の疲労特性の優れたコモンレールについて、図3(a)、(b)、(c)に基づいて説明する。コモンレール1の鋼中には、圧延や鍛造などの加工によって伸長したMn硫化物系介在物4が存在する。図3(a)および(b)は、この伸長したMn硫化物系介在物4が開放面2(部品の表面や穴の内表面)に平行でない、ある角度で交差している場合を示しているが、このような開放面2に引張応力3が生じる部分を有する部品であるコモンレールに適用することにより疲労特性に優れたコモンレールが得られるものである。それに対して、図3(c)に示すように、開放面2に引張応力3が生じていても、開放面2に対してMn硫化物系介在物4が平行な方向を向いている場合には、コモンレールに適用しても疲労特性の向上が期待できない。
以上の作用効果は、前述のとおりである。
【0037】
次に、コモンレールの一例として、ディーゼルエンジンに使用されるコモンレールを図4によって説明する。コモンレールは燃料の軽油を圧送するポンプとインジェクターとの中間に位置する部品であって、軽油を蓄圧するパイプ状の容器である。本管レール穴5がコモンレールの主なるパイプであり、軽油を蓄圧する役割を有する。本管レール穴5には該穴に垂直に開口する分岐穴6が数個開口され、該穴6を通って各インジェクターに軽油が圧送される。エンジンの作動に伴ない、軽油が周期的に圧送される際に、コモンレール内の軽油の圧力も周期的に高圧化される。本管レール穴5および分岐穴6には周期的に周方向の引張応力が生じることになる。コモンレールは、通常、圧延された棒鋼の長手方向に沿って作製されるから、圧延によって伸長したMn硫化物系介在物4が分岐穴6の内面にほぼ直角に交差することになる。分岐穴は開放面であるから、該部分はまさに、図3(a)に示した状況となる。このようなコモンレールに本発明を適用することにより疲労特性が著しく向上する。
【0038】
以下に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前記、後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0039】
【実施例1】
表1に示す11種類の化学組成の鋼を溶製し、それらの鋼塊から種々の大きさの鋼塊に減面率を調整するために切断加工し、分塊圧延した鋼片を1200℃に加熱し、熱間圧延し、900℃で仕上げ、厚さ15〜35mm、幅80mmの種々の厚さの鋼板を作製し、鋼板の厚さ中心付近からC方向に15mm角、長さ80mmの角棒を採取した。
【0040】
各角棒の前記鋼板でのL断面の内の厚み方向断面(該角棒の長手方向との直角断面)を鏡面研磨し、断面の中心付近にある100個程度のMn硫化物系介在物を光学顕微鏡で撮影し、その写真を画像処理装置で読み取り、長さ(L)と幅(D)の比(L/D)を求め、それらの平均値を計算した。
【0041】
これらの棒を850〜960℃に加熱後、焼入れ、530〜660℃で焼戻した。その後、これらの角棒から引張試験片と小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。
【0042】
【表1】
【0043】
これらの試験片を用いて、引張試験および小野式回転曲げ疲労試験を行ない、耐久比(疲労限界/引張強さ)を求めた。
以上の結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
試番1〜8は本発明コモンレールの鋼であり、本発明範囲を満たしていて、いずれも十分な耐久比をもっている。一方、比較鋼の試番9はMg、Ca、Zr、Te、REMが本発明範囲に満たないため、また、試番11はSが本発明範囲を超えているため、Mn硫化物系介在物の平均L/Dが本発明範囲を超えて大きくなり、耐久比が劣化した例である。試番10は、化学成分は本発明範囲内であるが、圧延での減面率が大きすぎ、Mn硫化物系介在物の平均L/Dが本発明範囲を超えて大きくなったため、耐久比が劣化した例である。また、試番12はAlが本発明範囲よりも少ないため、結晶粒径が粗大化し、耐久比が劣化した例である。
【0046】
【実施例2】
さらに、本発明コモンレールの優位性を確認するため、実際の部品による試験を実施した。表3に示す10種類の化学組成の鋼を溶製し、分塊圧延した鋼片を1170℃に加熱し、熱間圧延し、880℃で仕上げて、45mmφの棒鋼とした。該棒鋼の中心付近のL断面を鏡面研磨し、直径の中心付近にある100個程度のMn硫化物系介在物を光学顕微鏡で撮影し、その写真を画像処理装置で読み取り、長さ(L)と幅(D)の比(L/D)を求め、それらの平均値を計算した。次いで、この棒鋼を加工して、図4に示す、棒鋼の長手方向に沿ったコモンレールを、長さ320mm、本管レール穴径7mmφ、5つの分岐穴の径1mmφ(コモンレール1)、長さ310mm、本管レール穴径6.5mmφ、5つの分岐穴の径1.4mmφ(コモンレール2)、長さ300mm、本管レール穴径6mmφ、5つの分岐穴の径1.9mmφ(コモンレール3)の3種類作製した。これらのコモンレールを830〜950℃に加熱後、焼入れ、530〜660℃で焼戻した。
【0047】
【表3】
【0048】
その後、これらのコモンレールの1つの本管レール穴と5つの分岐穴をすべてシールし、残る1つの本管レール穴から、ポンプで周期的に圧力を変化させるように軽油を圧入した。疲労限界に対応するものとして107回の繰り返す周期的圧力変化に(亀裂が入らずに)耐える軽油の最大の圧力(MPa)をコモンレールの疲労限特性値として評価した。
以上の結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
試番13〜18は本発明コモンレールの鋼であり、本発明範囲を満たしていて、いずれもコモンレールの疲労限特性値が高い。一方、比較鋼の試番19はMg、Ca、Zr、Te、REMが本発明範囲に満たないため、Mn硫化物系介在物の平均L/Dが本発明範囲を超えて大きくなり、Mn硫化物系介在物が疲労破壊の起点となり、疲労限特性値が劣化した例である。試番20はZrが本発明範囲を超えて、クラスター状介在物が疲労破壊の起点となり疲労限特性値が劣化した例である。試番21はSが本発明範囲を超えたために疲労限特性値が劣化した例である。試番22はAl添加量が本発明範囲よりも少ないため、結晶粒が粗大化し、疲労限特性値が劣化した例である。
【0051】
【発明の効果】
以上の結果から、本発明によれば、鋼の成分を最適にすること等によりMn硫化物系介在物の平均L/Dが適正値以下に制御され、圧延や鍛造などの圧縮加工によって伸長したMn硫化物系介在物に平行でない開放面を有し、かつ該開放面に引張応力が生じる部分を有する疲労特性に優れたコモンレールが提供でき、産業上の効果が極めて顕著な発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Mn硫化物系介在物の平均L/Dと耐久比との関係を表わす図である。
【図2】S含有量と耐久比との関係を表わす図である。
【図3】Mn硫化物系介在物の存在状態を表す図で、(a)は部品においてMn硫化物系介在物の伸長した方向と開放面とが直角な場合を表わす図で、(b)は部品においてMn硫化物系介在物の伸長した方向と開放面とが斜角な場合を表わす図で、(c)は部品においてMn硫化物系介在物の伸長した方向と開放面とが平行な場合を表わす図である。
【図4】コモンレールの概略縦断面を示し、Mn硫化物系介在物の伸長方向を示す図である。
【符号の説明】
1 鋼材
2 開放面
3 負荷応力の方向
4 伸長したMn硫化物系介在物
5 本管レール穴
6 分岐穴
7 コモンレール長さ
8 本管レール穴径
9 分岐穴径
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.3〜0.5%、
Si:0.5%以下、
Mn:0.3〜1.5%、
P:0.035%以下
S:0.01%以下、
Al:0.01%超〜0.1%
を含有し、
Mg:0.0002〜0.01%、かつMg/S≧0.05、
Ca:0.0005〜0.01%、かつCa/S≧0.05、
Zr:0.0005〜0.02%、かつZr/S≧0.05、
Te:0.0002〜0.005%、かつTe/S≧0.05、
REM:0.0005〜0.01%、かつREM/S≧0.05
の内の1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなり、L断面において観察されるMn硫化物系介在物の長さ(L)と幅(D)の比(L/D)の平均値が4.5以下である鋼から作製したコモンレールであって、圧延や鍛造などの圧縮加工によって伸長したMn硫化物系介在物の伸長方向と平行でない開放面を有し、かつ該開放面に引張応力が生じる部分を有することを特徴とする疲労特性の優れたコモンレール。 - 質量%で、
C:0.3〜0.5%、
Si:0.5%以下、
Mn:0.3〜1.5%、
P:0.035%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.01%超〜0.1%
を含有し、
Cr:0.4〜1.5%、
Mo:0.1%〜1.5%、
V:0.1%超〜0.6%
の内の1種または2種以上を含有し、
さらに、
Mg:0.0002〜0.01%、かつMg/S≧0.05、
Ca:0.0005〜0.01%、かつCa/S≧0.05、
Zr:0.0005〜0.02%、かつZr/S≧0.05、
Te:0.0002〜0.005%、かつTe/S≧0.05、
REM:0.0005〜0.01%、かつREM/S≧0.05
の内の1種または2種以上を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなり、L断面において観察されるMn硫化物系介在物の長さ(L)と幅(D)の比(L/D)の平均値が4.5以下である鋼から作製したコモンレールであって、圧延や鍛造などの圧縮加工によって伸長したMn硫化物系介在物の伸長方向と平行でない開放面を有し、かつ該開放面に引張応力が生じる部分を有することを特徴とする疲労特性の優れたコモンレール。
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