JP3933422B2 - 反射膜および反射膜の製造方法 - Google Patents

反射膜および反射膜の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コレステリック組成物を用いて形成された反射膜およびその製造方法に関する。また、本発明は、そのような反射膜を備えた表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、コレステリック液晶材料が形成するらせん構造の選択反射特性を利用した反射膜が知られている。この反射膜の選択反射波長(λ)は、コレステリック液晶材料の屈折率(n)とらせん構造のらせんピッチ(P)とによって、λ=n×Pで表される。この選択反射は、右円偏光か左円偏光のいずれか一方に対して起こるため、右円偏光用の反射膜と左円偏光用の反射膜とを積層して用いることにより、高効率で反射光を利用することができる。コレステリック液晶材料のらせん構造が有する反射特性を生かして、偏光分離方式の偏光板や、色分離膜(偏光カラーフィルタ)やこれらを用いた反射型液晶表示装置などが提案されている。
【0003】
しかしながら、コレステリック層によって反射される光の波長範囲(以下、「選択反射波長域(Δλ)」という。)は、コレステリック層を構成する材料の屈折率異方性(Δn)に大きく依存するので、選択反射波長域Δλを任意に制御することあるいは、広い選択波長域Δλを得ることが難しかった。
【0004】
これを解決する技術として、Broerらは、Nature,vol.378,467(1995)に、らせんピッチ(P)が連続的に変化するコレステリック層を作製する方法を提案した。この技術を用いることによって、可視光の全波長域に亘って偏光分離が可能な素子、Transmax(Merck社)が製造されている。このコレステリック層を作製する技術は、重合性化合物を用いてコレステリック層を形成する過程で重合性化合物分子が拡散することによって形成される、重合性化合物の層法線方向(膜厚方向)の濃度分布に対応してらせんピッチが連続的に変化することを利用して、選択反射波長域を広帯域化している。
【0005】
なお、本明細書において、「コレステリック液晶材料」とは、コレステリック相を呈する液晶材料を指し、狭義のコレステリック液晶だけでなくネマチック液晶とカイラル剤との混合物を含む。本発明による反射膜を形成するために用いられる材料は、コレステリック相を呈するとともに重合性を有し、典型的には、コレステリック液晶材料の他に、重合性化合物や重合開始剤などの化合物を含む。そこで、コレステリック液晶材料を含み、且つ重合性を有する材料を「コレステリック組成物」ということにする。コレステリック液晶材料自身が重合性を有する化合物を含む場合には、コレステリック液晶材料のみによってコレステリック組成物が構成されることもある。また、コレステリック組成物の重合性化合物を重合することによって得られる、コレステリック液晶材料に由来するらせん構造を有する層を「コレステリック層」ということにする。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本願発明者が検討した結果、上述のように重合性化合物を用いてコレステリック層を形成しても、コレステリック層に過剰のドメインが形成され、反射率の低いコレステリック層しか形成されなかったり、あるいは、らせんピッチの変化幅が狭すぎる結果、選択反射波長域を十分に広帯域化できないという課題があることがわかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、十分に広い波長領域の光を十分に高い反射率で反射することができる反射膜およびそのような反射膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明による反射膜の製造方法は、(a)コレステリック液晶材料と少なくとも一種類の重合性化合物とを含むコレステリック組成物を用意する工程と、(b)前記コレステリック液晶材料が層法線に概ね沿ったらせん構造を形成するコレステリック組成物層を形成する工程と、(c)前記コレステリック組成物がコレステリック相を呈する温度で前記コレステリック組成物層に化学線を照射し、前記少なくとも一種類の重合性化合物を重合させる工程とを包含し、前記らせん構造のらせんピッチが連続的に変化する構造を有する反射膜の製造方法であって、前記コレステリック組成物のTni点(ネマチック相−等方相(アイソトロピック相)転移温度)が、工程(c)を実行することによって上昇することを特徴とし、そのことによって上記目的が達成される。前記コレステリック液晶材料は前記少なくとも一種類の重合性化合物を含んでもよい。ある好ましい実施形態では、化学線は紫外線である。
【0009】
工程(c)の全期間に亘って、前記コレステリック組成物のTni点が低下することがないことが好ましい。
【0010】
工程(c)の前後における前記コレステリック組成物のTni点の変化量ΔTni(重合前と重合完了後のTniの差)が5℃以上30℃以内であることが好ましく、15℃以上であることがさらに好ましい。
【0011】
工程(c)における前記化学線の照射は、前記コレステリック組成物のTni点よりも0.5℃以上低い温度で実行されることが好ましい。
【0012】
工程(c)は、前記コレステリック組成物のTni点が前記少なくとも一種類の重合性化合物の重合の進行とともに上昇する初期過程と、前記コレステリック組成物のTni点が前記少なくとも一種類の重合性化合物の重合の進行に関わらず変化しない終期過程とを含むことが好ましい。
【0013】
ある実施形態において、前記コレステリック組成物は、非重合性ネマチック液晶材料と、重合性カイラル剤とを含む。ある実施形態において、前記重合性カイラル剤は非液晶性材料である。さらに、前記コレステリック組成物は、前記コレステリック組成物層の厚さ方向に前記化学線の強度分布が形成されるように、前記化学線を吸収する化合物を含んでもよい。
【0014】
本発明による反射膜は、上記のいずれかの製造方法によって製造された反射膜であり、そのことによって上記目的が達成される。
【0015】
本発明による反射膜は、コレステリック液晶材料が層法線に概ね沿ったらせん構造を有し、且つ、前記らせん構造のらせんピッチが連続的に変化しているコレステリック層を有する反射膜であって、前記コレステリック層は、層面内に少なくとも1つのドメインを有し、前記少なくとも1つのドメインの密度は、25個/100μm□以下であるという特徴を有し、そのことによって上記目的が達成される。
【0016】
反射膜は、470nm〜670nmの範囲の波長の光に対する反射率が40%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明による表示装置は、上記のいずれかの反射膜と、前記反射膜の観察者側に設けられた表示媒体層とを有するので、優れた表示特性を有している。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明は、重合性化合物を含むコレステリック液晶材料への化学線照射に伴う重合反応によってピッチが連続的に変化するらせん構造を形成する過程を詳細に検討した結果得られた知見に基づいてる。すなわち、本発明者は、重合反応が進行する過程におけるコレステリック液晶材料の温度の制御がらせん構造やドメインの形成に重要な影響を与えることを知見し、十分に広い波長領域の光を十分に高い反射率で反射することができるらせん構造を形成するために必要な温度条件を含む、反射膜の製造方法を想到するに至った。
【0019】
本発明による反射膜の製造方法は、(a)コレステリック液晶材料と重合性化合物とを含むコレステリック組成物を用意する工程と、(b)コレステリック液晶材料が層法線に概ね沿ったらせん構造を形成するコレステリック組成物層を形成する工程と、(c)コレステリック組成物がコレステリック相を呈する温度で前記コレステリック組成物層に化学線を照射し、重合性化合物を重合させる工程とを包含し、らせん構造の層法線に概ね沿ったらせんピッチが連続的に変化する構造を有する反射膜の製造方法であって、コレステリック組成物のTni点が、工程(c)を実行することによって上昇するように、コレステリック組成物の組成ならびに化学線を照射するときの温度が調整されている。
【0020】
コレステリック液晶組成物は、コレステリック相を呈し、且つ、重合性化合物を含むものであればよい。液晶性を有する化合物またはカイラル剤が重合性化合物であってもよく、コレステリック液晶材料と独立に重合性化合物を用意する必要は必ずしも無い。コレステリック液晶組成物は、典型的には、非重合性ネマチック液晶材料と重合性カイラル剤とを含む。
【0021】
この重合性を有するコレステリック組成物を、例えば基板(例えばガラス基板)上に付与することによって、コレステリック液晶材料が層法線に概ね沿ったらせん構造を形成するコレステリック組成物層を形成する。このコレステリック組成物がコレステリック相を呈する温度(すなわち、コレステリック組成物のTni点以下の温度)でコレステリック組成物層に化学線を照射し、重合性化合物を重合させることによって、層法線方向(基板法線方向)に概ね沿ったらせんピッチが連続的に変化する構造が形成される。また、コレステリック組成物は、重合性化合物が重合することによって、コレステリック組成物のTni点が上昇するようにその組成が調整されている。
【0022】
このような条件を満足するようにコレステリック組成物中の重合性化合物を重合することによって、十分に広い波長領域の光を十分に高い反射率で反射することができるらせん構造を形成することができる。これは、以下のようなメカニズムによると考えられる。
【0023】
重合反応がコレステリック組成物のTni点よりも低い温度で開始されるので、らせん構造が安定した状態で、重合反応が進行する。重合反応の進行に伴って重合性化合物が消費されるとき、コレステリック組成物層中において化学線の照射強度が強い領域に存在する重合性化合物が多く消費されるので、重合性化合物の濃度勾配が形成される。例えば、化学線をコレステリック組成物層の一方の面から照射した場合、コレステリック組成物層の照射面に近いほど重合性化合物(典型的には重合性カイラル剤)が速く消費され、照射面に対向する面に近いほど未反応の重合性化合物が多く残存することになる。このような濃度勾配を補償するように、重合性化合物分子の拡散が起こり、照射面に近い側で多くの重合性化合物が重合し、照射面に対向する面に近いほど反応する重合性化合物の量が少なくなる。その結果、コレステリック層の層法線にらせん構造のピッチが連続的に変化する構造が形成される。
【0024】
一方、この重合性化合物分子の拡散は、らせん構造を乱すように作用し、らせん構造が乱れると多数のドメインが形成されることになる。コレステリック組成物層中に多数のドメインが形成され、それが最終的なコレステリック層に残存することになる。コレステリック層にドメインが存在すると、ドメイン間の屈折率差に起因する散乱現象が起こるので、反射率が低下する。従って、あまりに多くのドメインが形成されないようする必要がある。
【0025】
本発明によると、コレステリック組成物は、重合性化合物が重合することによってTniが上昇するように調製されているので、重合の進行に伴って、そのらせん構造が安定化する。この安定化の効果によって、重合性化合物分子の拡散運動によって、らせん構造が乱されることが抑制される。その結果、コレステリック組成物層中に過剰に多数のドメインが形成されることが抑制される。
【0026】
このようならせん構造の安定化効果を十分に発揮させるためには、重合反応が進行する過程の全期間に亘って、コレステリック組成物のTni点が低下しないことが好ましい。また、重合の開始(すなわち、化学線の照射開始)のときのコレステリック組成物層の温度は、重合前のコレステリック組成物のTni点よりも0.5℃以上低いことが好ましい。
【0027】
さらに、重合の進行によりTniが極端に上昇すると、上述したのとは逆に、らせん構造の安定性が高すぎるために、重合性化合物の拡散が阻害され、らせん構造のピッチが連続的に変化する構造が形成されないことがある。本発明者の検討によると、重合の進行に伴うTni点の上昇の程度を制限することによって、これを防止することがわかった。具体的には、重合の前後(すなわち、コレステリック層を形成する前後)におけるコレステリック組成物のTni点の変化量ΔTniが5℃以上30℃以内であることが好ましい。なお、コレステリック層を形成するための重合は、必ずしも、全ての重合性化合物が重合することを要しない。それぞれのコレステリック組成物の組成(化合物の種類および量)に応じて、目的とするらせん構造が十分に安定に形成されれば、一部の重合性化合物が未反応で残存しても良い。
【0028】
コレステリック組成物中の重合性化合物を重合することによってコレステリック層を形成する過程において、上述したように拡散速度を制御するためには、コレステリック組成物のTni点が重合性化合物の重合の進行とともに上昇する初期過程と、コレステリック組成物のTni点が重合性化合物の重合の進行に関わらず変化しない終期過程とを含むことが好ましい。すなわち、重合の初期過程で、コレステリック組成物層中を拡散することができる程度の数量体(オリゴマ)が生成され、この段階で重合性化合物の重合によるTni点の変化分ΔTniの大半が起こり、重合の終期過程ではTni点がほとんど変化しないようなコレステリック組成物を用いると、重合反応を開始するための化学線の照射強度や重合開始剤の量などを制御し、重合性化合物が数量体を生成する速度および数量体の数を調整することによって、重合性化合物の拡散速度を適当な程度に制御することができる。
【0029】
なお、本明細書でいう「重合」は、線状高分子を生成する狭義の重合だけなく、架橋構造の形成を伴ってもよい。なお、架橋構造が形成されると分子のサイズが急激に大きくなり、拡散速度が急激に低下する。従って、架橋構造を導入する割合を制御することによって、重合性化合物の拡散速度を調整することもできる。例えば、重合性カイラル剤の一部または全部を多官能化合物としても良いし、重合性カイラル剤と共重合可能な多官能化合物(架橋剤)を混合してもよい。
【0030】
また、化学線は重合性化合物を重合させることが可能な放射線であればよく、典型的には、紫外線である。さらに、コレステリック組成物層の層法線方向に概ね沿って重合性化合物の濃度分布を形成するために、必要に応じて、コレステリック組成物に化学線を吸収する化合物を添加してもよい。また、重合速度の向上などのために、重合開始剤をさらに添加してもよい。これらの添加剤の種類や量を調整することによって、重合性化合物の拡散速度を制御することができる。
【0031】
上述したように、本発明による反射膜の製造方法によると、らせん構造の安定性と重合性化合物の拡散速度とがバランスよく制御されるので、十分に広い波長領域の光を十分に高い反射率で反射することができる反射膜が得られる。具体的には、反射膜を構成するコレステリック層内に形成されるドメインの密度を層面内で25個/100μm□以下にできるので、40%以上の反射率を実現することができる。また、470nm〜670nmの波長範囲の光を40%以上の反射率で反射できるように、らせん構造のピッチが連続的に変化した構造を実現することができる。
【0032】
このような反射膜は、光の利用効率が高いので、例えば、液晶層を表示媒体層とする反射型液晶表示装置の反射膜として利用することによって、明るい表示を実現することができる。
【0033】
(コレステリック組成物の組成および転移温度Tni)
本発明による反射膜の製造に用いられるコレステリック組成物として、ここでは、紫外線(特にi線)の照射によって重合性化合物が重合するものを例示する。また、コレステリック液晶材料としてはカイラルネマチック液晶材料を用いる。本実施形態のコレステリック組成物は下記の組成を有する。
【0034】
A:非重合性コレステリック液晶材料 63.5重量部
非重合性ネマチック液晶材料であるメルク社製のE7と右旋性の非重合性カイラル剤であるメルク社製CB15との混合物(Tni=42.5℃)
B:重合性カイラル剤 35重量部
右旋性のカイラルモノマー(非液晶性)、アクリレート(分子量363、Tci=74.3℃)
C:架橋剤0.5重量部
ジアクリレート(分子量590)
D:重合開始剤:1重量部
紫外線用の光重合開始剤であるチバガイギー社製のIrgacure369
E:紫外線吸収剤:2重量部(上記AからDの合計に対して2重量%に相当)
チバガイギー社製のTinuvineP
まず、図1を参照しながら、上記コレステリック組成物の重合によるTni点の変化を説明する。なお、重合性カイラル剤として、分子量が300〜700程度のアクリレートまたはメタクリレートを用い、架橋剤として、分子量が300〜700のジアクリレートやジメタクリレートを用いれば、ほぼ同様の結果を得ることができる。
【0035】
上記のコレステリック組成物は、非重合性のカイラルネマッチク液晶材料に、非液晶性の化合物(重合性化合物など)を含んでいるが、全体としてコレステリック相を呈する。また、図1に模式的に示したように、重合の進行ともにコレステリック組成物のTni点(重合途中のTni点をT1と表記する。)は上昇し、完全に重合したときにT2に達する。この間、コレステリック組成物のTniは低下することなく常に上昇する(T1>T0)。完全に重合したときのコレステリック組成物のTni点であるT2は、コレステリック液晶材料のTni点(T2’)とほぼ一致する。これは重合前のコレステリック組成物が一相系であるのに対し、コレステリック液晶材料中に不純物として相溶していた重合性カイラル剤が重合し高分子化することによって相分離が起こり、コレステリック組成物のTniは重合性カイラル剤を含まないコレステリック液晶材料のTniに近づくためである。上記混合物においてはT0=27℃、T2=47℃であり、常にT0<T1である。また、5℃≦T2−T0≦30℃の関係を満足している。また、重合温度の制御の簡便さを考慮すると、コレステリック組成物のT0は、室温以上であることが好ましい。
【0036】
なお、上記の重合性カイラル剤は非液晶性材料(Tci未満の温度で結晶、それ以上では等方相)であるため、ネマチック液晶材料との混合物につては、図2に模式的に示すような相図が得られる。従って、コレステリック組成物の重合前のTni(T0)が重合性カイラル剤を含まないときのTni(T2')よりも低く、かつ重合途中のコレステリック組成物のTni(T1)が常にT0よりも高くなるように、コレステリック組成物は図2中の領域aで示した範囲の組成を有している。
【0037】
なお、液晶性を有する重合性カイラル剤を用いると、液晶材料同士(液晶材料1と液晶材料2)の混合物について一般的に得られる図3に示すような相図となる。この場合、コレステリック組成物の重合完了後のTni(T2)が、重合前のコレステリック組成物のTni(T0)よりも高くなるためには、添加する液晶性重合性カイラル剤のTniが、コレステリック液晶材料のTniよりも低い材料を選ぶことが望ましい。
【0038】
コレステリック層の形成は例えば以下のようにして行うことができる。
【0039】
少なくとも一方は重合に用いる化学線(ここでは紫外線)を透過する2枚の基板(例えばガラス基板)を例えば10μmの空隙を介して互いに貼り合わせたセルを用意する。このセルの空隙内に上記コレステリック組成物を等方相で(すなわち、T0を超える温度で)注入する。その後、T0以下の温度に保持して、コレステリック組成物中のコレステリック液晶材料が層法線に概ね沿ったらせん構造(コレステリック秩序)を形成するコレステリック組成物層を形成する。なお、らせん軸方向の制御は、例えば、基板の内側の表面に適当な配向膜(少なくとも一方は水平配向膜)を設けることによって実行される。ここでは、コレステリック組成物層の両側に水平配向膜(例えば、日産化学社製RN1024)を設けた。
【0040】
次に、一様なコレステリック秩序が保持された状態で、すなわちTni(T0)よりも低い重合温度T3にて、コレステリック組成物層に紫外線を照射する。ここでは、コレステリック組成物のT0=27℃よりも低いT3=25℃(室温)において紫外線照射を行った。なお、紫外線は、紫外線を透過する基板面(すなわち、コレステリック組成物層に概ね垂直な方向から照射し、層面内の照度分布が均一で且つ平行度が高い紫外線を照射した。紫外線の照射強度は、0.5mW/cm2で、照射時間を30分とする。
【0041】
なお、重合前のコレステリック組成物のらせん構造を充分に安定させるために重合温度T3は、重合前のTni(T0)より低い温度であることが必要であるが、その差は0.5℃≦T0−T3であることが好ましい。これは、ネマチック相−等方相転移温度付近において生じる熱的ゆらぎの異常増大により、らせん構造(コレステリック秩序)が乱れて反射率が極端に低下した状態で重合が開始されることを避ける為である。
【0042】
また、重合途中のTni(T1)は常にT0<T1になるように、コレステリック組成物が調製されているので、重合温度条件T3で重合した場合、常にT3<T1の関係が保たれる。すなわち重合途中でアイソトロピック状態になることはなく、常にらせん構造が安定した状態でで重合を継続させることができる。さらに、重合の進行に伴う重合性化合物の拡散によって、らせん構造(コレステリック秩序)が乱されないように、らせん構造を十分安定に維持することができる。
【0043】
ここでは、予め作製したセルの空隙内にコレステリック組成物層を形成したので、酸素によって重合反応が阻害されることがなかったが、酸素による重合反応の阻害が起こらないように対策を施せば、セルを用いる必要はない。例えば、基板の表面にコレステリック組成物層を窒素雰囲気下で重合させることができる。あるいは、基板表面に塗布によって形成されたコレステリック組成物層上に紫外線および可視光を透過するガラスシートなどでコレステリック組成物層の表面が酸素と接触しないようにしてもよい。勿論、酸素によって阻害されない重合反応を利用することもできる。
【0044】
(コレステリック層の構造制御)
ここで、種々の組成のコレステリック組成物および温度条件などを変えて、反射膜を作製し、その反射膜の構造をおよび光学特性(正反射特性)を評価することによって本発明者が得た知見に基づくと、以下のようなメカニズムによって、らせんピッチが連続的に変化する構造が形成されていると考えれらる。このメカニズムを図4を参照しながら説明する。
【0045】
図4は、コレステリック組成物層中の紫外線強度の分布と高分子濃度分布およびらせんピッチの分布を模式的に示す図であり、横軸はセル厚(左側が照射面側、右側が非照射側(対向面側))方向における位置を示している。
【0046】
コレステリック組成物層の層法線方向の一方から紫外線を照射すると、重合性カイラル剤の重合が始まる。単位時間あたりに消費される重合性カイラル剤の量は紫外線強度に比例するので、紫外線照射前には均一であった重合性カイラル剤の濃度分布が、図4に示した紫外線強度分布に応じて不均一となる。紫外線強度の厚さ方向の分布は、コレステリック組成物が紫外線を吸収するために生じる。必要に応じて、例示したように、紫外線吸収剤を添加しても良い。
【0047】
重合反応の進行に伴う上述の濃度の不均衡を補償するために、重合性カイラル剤の拡散現象が生じる。その結果、照射面に近いほど多くの重合性カイラル剤が消費され(すなわち重合し)、照射面から離れるに従い重合性カイラル剤の消費が少なくなる。その結果、最終的に得られるコレステリック層において、重合した重合性カイラル剤の濃度が、照射面側で高く非照射面側で低い、連続的に変化した濃度分布が実現されていると考えられる。この重合性カイラル剤の濃度分布の結果、紫外線の照射面側では短ピッチとなり、照射面から最も遠い面側では長ピッチとなっている。
【0048】
従って、重合過程において、重合性カイラル剤の拡散による濃度分布が形成される条件が保たれる必要があることがわかる。
【0049】
一方、上述した重合性カイラル剤の拡散が激し過ぎると、らせん構造を形成しているコレステリック液晶分子の配向秩序が乱され、その結果、多くのドメインが形成される。このようにして形成されるドメインのらせん構造の軸方向にばらつきが生じるために、コレステリック層に多くのドメインが存在すると、全体的な正反射率が低下することになる。さらに多くのドメインが形成されると、それぞれのドメインのらせん構造による反射よりも、ドメイン間の屈折率の差に起因する散乱の寄与が多くなり、反射率は急激に低下する。さらに、多くのドメインが形成される状態では、反射特性を示すらせん構造が形成されなくなる。
【0050】
従って、重合過程における重合性カイラル剤の拡散は、過剰のドメイン形成を形成しないように、調整する必要があることがわかる。
【0051】
本発明者が種々の組成の異なるコレステリック組成物について、重合温度T3と、コレステリック組成物のTni点やその重合の進行に伴う変化と、得られるコレステリック膜の構造や光特性の関係を検討した結果を上記コレステリック組成物を例に以下に説明する。
【0052】
図5は、上記のコレステリック組成物(但し、配合比を調整し、Tniを制御した)を用いて、重合温度条件(T3)を変えて種々の反射膜を作製し、得られた反射膜の分光反射率特性を示すグラフであり、(a)はT2=47℃、T0=27℃、ΔTni=20℃、T3=25℃、(b)はT2=32℃、T0=18℃、ΔTni=14℃、T3=16℃、(c)はT2=57℃、T0=30℃、ΔTni=27℃、T3=28℃、(d)はT2=6℃、T0=2℃、ΔTni=4℃、T3=0℃の条件でそれぞれ得られた反射膜の分光反射率を示している。
【0053】
図5(a)に示したように、T2=47℃、T0=27℃、T3=25℃の条件で得られた反射膜(「反射膜A」と呼ぶ。)は、おおよそ470nmから670nmの広帯域の反射膜、40%〜45%の高い反射率が得られた。なお、重合過程の全期間に亘って、T1>T0であり、2℃≦T1−T3≦22℃の関係が保たれた。
【0054】
このように、重合前のTni点よりも0.5℃以上低い温度で重合を開始し、重合終了まで常にTni点が上昇し、重合終了時点のTni(T2)がT0よりも20℃高くなるように、コレステリック組成物が調製されているので、重合過程の全期間に亘って常にらせん構造が安定に維持されるとともに、重合性化合物の適度な拡散が起こる。その結果、らせんピッチが連続的に変化するらせん構造が得られるとともに、過剰のドメインが形成されることがないので、広帯域で反射率の高い反射膜が得られる。
【0055】
図6(a)は反射膜Aの光学顕微鏡写真であり、写真中の1つの格子の一辺は100μmである。図6(a)から明らかなように、反射膜Aの1つのドメインは100μm□よりも大きく、この例では500μm□よりも大きく、ほぼモノドメインのコレステリック層が形成されていることが確認された。
【0056】
一方、T2=32℃、T0=18℃となる組成比で、T3=16℃で同様に作製した反射膜(「反射膜B」と呼ぶ。)の分光反射率特性は、図5(b)に示したように、広帯域化は認められるものの、反射率は470nmから670nmで18%〜35%であり、反射膜Aよりも低かった。なお、反射膜Bの重合過程の全期間に亘って、T1>T0であり、2℃≦T1−T3≦16℃の関係が保たれた。
【0057】
反射膜Bは、図6(b)に示したの光学顕微鏡写真からわかるように、100μm□に平均25個のドメインが形成されており、その結果、反射率が低下したものと考えられる。
【0058】
これは、T2とT0との差が14℃と、反射膜Aのときの20℃よりも小さく、重合温度T3と重合過程のその時々のTniとの差が比較的小さいため、らせん構造(コレステリック秩序)が重合性化合物の拡散運動によって乱されやすくなり、配向膜Aよりも多くのドメインが形成され、反射率が低下したものと考えられる。このことから、高い反射率を得るためには、T2とT0との差(ΔTni)は15℃以上であることが好ましいことがわかる。なお、反射膜Bの反射率でああっても、用途によっては十分に利用できる。
【0059】
一方、T2=57℃、T0=30℃となる組成比で、T3=28℃にて同様に作製した反射膜(「反射膜C」と呼ぶ。)の分光反射率特性は、図5(c)に示したように、反射率は40〜45%以上を示すものの、その反射波長領域はおおよそ550nm〜635nmと、広帯域化の程度が反射膜Aよりも狭かった。なお、重合過程の全期間に亘って、T1>T0であり、2℃≦T1−T3≦29℃の関係が保たれた。
【0060】
これは、T2とT0との差(ΔTni)が27℃と、反射膜Aのときの20℃よりも大きく、重合温度T3と重合過程のその時々のTni(T1)との差が比較的大きいため、非常に安定ならせん構造(コレステリック秩序)が重合性化合物の拡散を阻害し、重合性化合物の層厚方向の濃度分布が十分に生成されず、らせんピッチの連続的変化が形成されにくかったためと考えられる。このことから、可視光全体に亘る広帯域化を実現するためには、T2とT0との差(ΔTni)は25℃以下であることが好ましいことがわかる。なお、反射膜Cの帯域幅であっても、用途によっては十分に利用できる。なお、T2−T0>30℃の場合には、重合前後での反射スペクトル変化はほとんど認められられず、広帯域化は起こらなかった。
【0061】
また、T2=6℃、T0=2℃となる組成比で、T3=0℃にて同様に作製した反射膜(「反射膜D」と呼ぶ。)の分光反射率特性は、図5(d)に示したように、もはやらせん構造(コレステリック秩序)による選択反射は観測されなかった。なお、重合過程の全期間に亘って、T1>T0であり、2℃≦T1−T3≦6℃の関係が保たれた。
【0062】
反射膜Dは、図6(c)に示したの光学顕微鏡写真からわかるように、100μm□に平均300個のドメインが形成されており、その結果、らせん構造による選択反射よりもドメイン間の散乱が支配的になったためと考えられる。
【0063】
これは、T2とT0との差(ΔTni)が4℃と小さく、重合温度T3と重合過程のその時々のTni(T1)との差が小さすぎるため、らせん構造の安定性が極端に減少し、重合性化合物の拡散による配向乱れが増大し、多数のドメインが形成されたものと考えれる。従って、過剰なドメイン形成を抑制するためには、T2とT0との差(ΔTni)が5℃以上あることが好ましいことがわかった。
【0064】
なおこのようにT2とT0の差ΔTniが十分にないコレステリック組成物においても、重合温度T3を十分に低く設定すれば、重合中のらせん構造を安定に保ち、選択反射および広帯域化を実現する可能性がある。しかしながらT3が低すぎると個々の含有材料(液晶材料を構成する個々の液晶性化合物)の結晶析出が生じやすく、液晶材料の組成比が変化してしまうため、T3は少なくとも重合前の材料において結晶析出が生じる温度以上でなければならない。
【0065】
次に、図7を参照しながら、重合速度とコレステリック層の構造との関係について説明する。図7は、重合進行に伴うコレステリック組成物のTni点の変化を模式的に示している。
【0066】
重合性カイラル剤が重合を開始すると、まず数量体のオリゴマ(高分子前駆体とも言う)が多数生成される。重合性カイラル剤の分子量の増加によりコレステリック液晶材料と重合性カイラル剤との相溶性が低下、コレステリック液晶材料中に相溶していた非液晶性の重合性カイラル剤が分離することによって、コレステリック組成物全体のTniがコレステリック液晶材料のTniに近づくので、コレステリック組成物のTniが上昇する。このとき分離した重合性カイラル剤のオリゴマの分子量はまだ十分に小さいため、コレステリック組成物中を拡散し、コレステリック層中に濃度分布を形成する。
【0067】
このときに、図7(a)に示すように、重合開始剤の量が少ないなどの理由で、広帯域化の完了すなわち選択反射スペクトル変化の収束までのオリゴマの生成速度が遅いと、Tniの上昇速度は遅くなる。すなわち、重合性カイラル剤が拡散不能な分子量のオリゴマに成長するまで、重合性カイラル剤が拡散し広帯域化が進行する過程で、その時々のコレステリック組成物のTniと重合温度T3との差が十分でないため、らせん構造の安定性が低下し、重合性カイラル剤の拡散によるらせん構造の乱れがおこりやすくなり、ドメイン化が生じて選択反射効率が低下するおそれがある。
【0068】
一方、図7(b)に示したように、重合開始剤の量が多いなどの理由で、オリゴマの生成速度が速いと、重合過程におけるTniの上昇速度は速くなる。その結果、オリゴマが拡散不能な分子量に成長するまで拡散し広帯域化が進行する際に、その時々のコレステリック組成物のTniと重合温度T3との差が極端に増大し、らせん構造の安定性が高すぎるために、重合性カイラル剤の拡散が阻害され重合性カイラル剤の濃度分布が形成されず、十分な広帯域化が図れないおそれがある。
【0069】
図8は、コレステリック組成物中の重合開始剤の添加量を変化させることによって重合速度を調整し、得られた反射膜の分光反射率を示すグラフである。なお、ここで用いたコレステリック組成物は、非重合性コレステリック液晶材料(A)63.5重量部、重合性カイラル剤(B)35重量部、架橋剤(C)0.5重量部の混合物であった。
【0070】
図8からわかるように、重合開始剤量が少ないほど反射スペクトルの広帯域化は認められるものの、反射率が低下している。すなわち、重合過程におけるTniの上昇速度が遅く、重合中のコレステリック組成物のTniと重合温度T3との差が十分でないため、らせん構造の安定性が低下し、重合性カイラル剤の拡散は十分に促進されるものの、拡散によるらせん構造の乱れがおこりやすくなり、コレステリック組成物のドメイン化が生じて選択反射効率が低下したものと考えられる。
【0071】
一方、重合開始剤量が多いほど反射率は高いものの十分な広帯域化が認められない。すなわち重合過程におけるTniの上昇速度が速く、重合中のコレステリック組成物のTniと重合温度T3との差が極端に増大し、らせん構造の安定性が高いために反射率が高い反面、重合性カイラル剤の拡散が阻害され、重合性カイラル剤の膜厚方向の濃度分布が十分に形成されず、十分に広帯域化できなかったものと考えられる。
【0072】
このように、重合性カイラル剤(一般には重合性化合物)からオリゴマが生成される速度、すなわちコレステリック組成物のTniの上昇速度を適切に調整することにより、適度ならせん構造の安定性と適度な拡散とを両立させることができる。すなわち、少なくとも重合性カイラル剤の重合が完了するよりも前の適切な段階で、コレステリック組成物のTni変化が収束するように、重合速度を調整することにより、重合性化合物のオリゴマがらせん構造を乱すことなく十分に拡散できるようにできる。重合速度は、重合性化合物の種類にも官能基数にも依存するが、例えば、重合開始剤の量を調整することによって、制御できる。
【0073】
なお、上記の実施形態で例示したコレステリック組成物では、重合性カイラル剤および、非重合性コレステリック液晶材料の非重合性カイラル剤として右旋性の材料を用いたが、これに限定されることはなく、左旋性のカイラル剤を用いてもよい。また、非重合性カイラル剤は、重合性カイラル剤のヘリカルツイストパワーや設定するらせんピッチの分布等、必要に応じて添加すればよく、省略することもできる。また、分子中にカイラル成分を有し、且つ、重合性官能基を有するコレステリック液晶材料を用いる場合には、重合性カイラル材料を省略することもできる。材料の選択の範囲の広さ、および、重合速度やTniの制御の容易さを考慮すると、重合性カイラル剤と非重合性のコレステリック液晶材料とを混合して用いることが好ましい。
【0074】
このとき、上述したように、非重合性コレステリック液晶材料および重合性カイラル材料のそれぞれの転移点(Tni点およびTci点)が材料選択の重要な因子であるとともに、それぞれの分子構造も重要である。すなわち、重合性カイラル剤の重合開始から重合終了にかけて、重合性カイラル剤が非重合性コレステリック液晶材料と適度な分子間力を有し、安定なコレステリック相をとり安定ならせん構造を形成する必要がある。
【0075】
すなわち、重合によって重合性カイラル剤が高分子化した際の微視的な相分離によってコレステリック液晶材料との分子間力が著しく変化する材料の組み合わせでは、安定したらせん構造をとるコレステリック組成物層中を重合性カイラル剤が拡散することができなくなる。
【0076】
重合性カイラル材料の分子構造としては、図9(a)に模式的に示すように、重合後の高分子の主鎖中にカイラル部(図中で不斉炭素を*で示す。)を導入するものと、図9(b)に模式的に示すように、重合後の高分子の側鎖中にカイラル部を導入するものがある。なお、不斉炭素(*)は、メソゲン部に存在しても良いし、スペーサ部に存在しても良い。
【0077】
このうち、図9(a)に示した高分子主鎖中にカイラル部を有する構造では、主鎖の構造安定化の運動により、非重合性コレステリック液晶材料との分子間相互作用が崩れ、分子間力が低下し、カイラル部によるねじり力が効果的に作用せず、安定ならせん構造が形成されない可能性が高い。
【0078】
これに対し、図9(b)に示した高分子の側鎖にカイラル部を有する構造では、側鎖は、主鎖の安定化の運動と独立に運動し得るので、非重合性コレステリック液晶材料との分子間相互作用が維持され、分子間力の低下がなく、カイラル部によるねじれ力が効果的に作用し、安定ならせん構造が形成されやすい。
【0079】
従って、高分子の側鎖にカイラル部を導入できる重合性カイラル剤が反射率の広帯域化には好ましく、代表的な重合性カイラル剤としては、側鎖型ポリシロキサンや側鎖型ポリアクリレートを生成するものが好ましい。さらに、らせん構造(コレステリック秩序)を安定化するためには、非重合性コレステリック材料との間に適当な大きさの分子間力を与えるグループ(原子団)を重合性カイラル剤の分子内に有することが好ましい。これらのグループとしては、下記の化1に示す(a)、(b)および(c)を例示することができる。
【0080】
【化1】
Figure 0003933422
【0081】
架橋剤(多官能アクリレートなど)は、最終的に得られたコレステリック層のらせん構造を安定にするために添加するものであり、省略しても良い。また、架橋剤の添加により重合速度(相分離速度すなわちTni点の上昇速度)を調整することもできる。
【0082】
また、紫外線吸収剤(紫外線吸収色素)は、コレステリック組成物層中に紫外線強度分布を生じさせるために添加するものであり、その他の材料が紫外線吸収作用を有する場合には、省略することもできる。
【0083】
コレステリック組成物を構成するその他の各材料についても、それぞれ上述したものと同様に機能するものであればよく、特に限定されない。また、組成(混合比)も前述した例に限られない。
【0084】
上記の実施形態のように、重合性化合物として重合性カイラル剤を用いる場合には、例えば、ネマチック液晶材料は10重量%から90重量%、非重合性カイラル剤は0重量%から75重量%、重合性カイラル剤は2重量%から75重量%、ジアクリレートは上記の混合物の総和に対して0重量%から10重量%、重合開始剤は必要に応じて0.05重量%から2重量%、紫外線吸収剤はこれらの総和に対して0重量%から5重量%配合される。
【0085】
また、上記の実施形態例において、セル厚(コレステリック層の厚さ)を10μmに設定したが、特にこれに制限されず、0.5μm以上あればよい。可視光を利用するため0.5μm以下にすると光の利用効率が極端に低下することがある。一方、厚くすればするほど必要となる駆動電圧が高くなり、電圧駆動可能な素子としては実用的でなくなるので、電圧駆動素子としては20μm以下、好ましくは10μm以下がよい。もちろん電圧駆動する必要がない反射膜として用いる場合は厚さの上限は特にない。
【0086】
上記の実施形態では、電圧で構造が変化するコレステリック層を用いた表示装置の詳細を省略したが、公知の表示装置(例えばTFT液晶表示装置)を構成することができる。コレステリック層が電圧に対して可逆的に応答することができるように、例えば、架橋剤の添加量を調整するだけでよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態において好適に用いられるコレステリック組成物のTni点の重合に伴う変化の様子を示す模式図である。
【図2】本発明の本発明の実施形態において好適に用いられるコレステリック組成物(液晶材料と非液晶材料との混合系)の組成を説明するための相図である。
【図3】本発明の本発明の実施形態において好適に用いられるコレステリック組成物(液晶性材料同士の混合系)の組成を説明するための他の相図である。
【図4】本発明の実施形態においてらせんピッチが連続的に変化するコレステリック層が形成されるメカニズムを説明するための模式図である。
【図5】(a)〜(d)は、製造条件を変えて得られた反射膜の分光反射率特性を示すグラフである。
【図6】(a)、(b)および(c)は、製造条件を変えて得られた反射膜の光学顕微鏡写真であり、図5(a)、(b)および(d)の特性を示した反射膜にそれぞれ対応する。
【図7】コレステリック組成物の重合速度とTni点の上昇速度との関係を模式的に示す図である。
【図8】重合開始剤添加量を変化させることによって重合速度を変えて作製した反射膜の分光反射率特性を示すグラフである。
【図9】(a)および(b)は、重合性カイラル材料の分子構造と、得られる高分子のらせん構造の安定性との関係を説明するための模式図である。

Claims (8)

  1. (a)コレステリック液晶材料と少なくとも一種類の重合性化合物とを含むコレステリック組成物を用意する工程と、
    (b)前記コレステリック液晶材料が層法線に概ね沿ったらせん構造を形成するコレステリック組成物層を形成する工程と、
    (c)前記コレステリック組成物がコレステリック相を呈する温度で前記コレステリック組成物層に化学線を照射し、前記少なくとも一種類の重合性化合物を重合させる工程と、を包含し、前記らせん構造のらせんピッチが連続的に変化する構造を有する反射膜の製造方法であって、
    工程(a)は、非重合性ネマチック液晶材料と、重合性カイラル剤とを含む前記コレステリック組成物を用意する工程を含み、
    前記コレステリック組成物のTni点は、工程(c)を実行することによって上昇工程(c)の前後における前記コレステリック組成物のTni点の変化量ΔTniが5℃以上30℃以内である、反射膜の製造方法。
  2. 前記コレステリック組成物のTni点は、工程(c)の全期間に亘って低下することがなく、且つ、前記コレステリック組成物の温度と前記コレステリック組成物のTni点との差は、工程(c)の全期間に亘って減少しない、請求項1に記載の反射膜の製造方法。
  3. 工程(c)における前記化学線の照射は、前記コレステリック組成物のTni点よりも0.5℃以上低い温度で実行される、請求項1または2に記載の反射膜の製造方法。
  4. 工程(c)は、前記コレステリック組成物のTni点が前記少なくとも一種類の重合性化合物の重合の進行とともに上昇する初期過程と、前記コレステリック組成物のTni点が前記少なくとも一種類の重合性化合物の重合の進行に関わらず変化しない終期過程とを含む、請求項1からのいずれかに記載の反射膜の製造方法。
  5. 請求項1からのいずれかに記載の反射膜の製造方法によって製造された反射膜。
  6. 層面内に少なくとも1つのドメインを有し、前記少なくとも1つのドメインの密度は、25個/100μm□以下である、請求項5に記載の反射膜。
  7. 470nm〜670nmの範囲の波長の光に対する反射率が40%以上である、請求項またはに記載の反射膜。
  8. 請求項からのいずれかに記載の反射膜と、前記反射膜の観察者側に設けられた表示媒体層とを有する、表示装置。
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