JP3928936B2 - サーモスタット装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等に使用される内燃機関(以下、エンジンという)を冷却する冷却水を、熱交換器(以下、ラジエータという)との間で循環させるエンジンの冷却システムにおいて、冷却水温度を可変制御するために用いられるサーモスタット装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用エンジンにおいて、これを冷却するためには、一般にはラジエータを用いた水冷式の冷却システムが使用されている。そして、従来からこの種の冷却システムにおいては、エンジンに導入する冷却水の温度を制御できるように、ラジエータ側に循環させる冷却水量を調節する熱膨張体を用いたサーモスタット、あるいは電気制御によるバルブユニットが使用されている。
【0003】
すなわち、上記の熱膨張体を用いたサーモスタットあるいは電気制御によるバルブユニット等による制御バルブを、冷却水通路の一部、たとえばエンジンの入口側または出口側に介装し、冷却水温度が低い場合に、該制御バルブを閉じて、冷却水をラジエータを経由せずバイパス通路を介して循環させ、また冷却水温度が高くなった場合は、制御バルブを開いて冷却水がラジエータを通して循環させると、冷却水の温度を所要の状態に制御することができるものである。
【0004】
ところで、上述したようなサーモスタット等を用いているエンジンの冷却システムにおいて、近年の冷却制御では、エンジンを早く暖めることで排気をクリーンにする速暖化や、省燃費(燃費を良くする)のために、冷却水温度を高温状態に維持することで各部のフリクションを低減したり等、冷却水の流量を減らす傾向にある。そして、通常のエンジン作動状態では、サーモスタット全開時の最大流量に対して、サーモスタットが僅かしか開弁していない状態での小流量による冷却水制御しか行っていないのが現状である。
【0005】
他方、高速運転、登坂走行等のような高負荷時などには、冷却水温度を下げる必要があり、そのような場合に備えて通常使用される冷却水流量より多い流量(サーモスタット全開での最大流量)を流す必要がある。したがって、従来一般的なサーモスタットは、そのような場合を想定して大きな流量を制御できるように設計されていた。
【0006】
また、電気制御バルブユニットによる制御においては、そのエンジン負荷等に応じてバルブ開閉温度を任意に可変することによって、エンジン冷却水温度を最適化できるよう設計されていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような従来のエンジンの冷却システムにおいては、エンジンの冷却性能を確保するために、大流量の冷却水を制御する必要があって、サーモスタットバルブの開口部を大口径とする必要があるが、このように大口径とすると、特に前述したような小流量での制御が困難になるという問題を生じている。
【0008】
さらに、このような構造とすると、開弁直後に一気に冷却水が流れるために、温度変化が大きくなり、温度ハンチングが発生しやすい。また、大流量による高水圧にうち勝つために、弁体を付勢するリターンスプリング等の構成部品も大きくなり、結果としてサーモスタット自体が大きくなってしまうという不具合があった。さらに、サーモスタットが大きくなることによって、サーモスタットが冷却水の流れに抵抗となって、通水抵抗が増してしまうという問題もあった。
【0009】
さらにまた、電気制御バルブユニットにおいては、構造が複雑化することにより、装置全体が大型化し、コスト的にも高価となるという問題もあった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、エンジンの冷却システムにおいて、冷却水の温度によって冷却水を小流量から大流量に至るまで適切かつ確実に制御可能であり、温度ハンチング等の不具合を招くおそれもなく、また全体の構造が簡略化され、しかも全体をコンパクトに構成できるとともに、コスト的にも安価であるサーモスタット装置を得ることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係るサーモスタット装置は、エンジンの冷却水回路の途中に設けられ、該冷却水回路を構成する冷却水通路内での冷却水の流れを、該冷却水通路を構成する冷却水流入側の入口側通路と冷却水流出側の出口側通路とを選択的に連通可能に開閉することにより大流量を制御するダイヤフラム式差圧弁と、前記ダイヤフラム式差圧弁の背面側に前記冷却水通路から独立した内室として形成されるとともに、前記冷却水通路の入口側通路側の冷却水がオリフィス通路を介して 常に流入されるように構成され、その内部圧力と前記冷却水通路側の圧力との圧力差に応じて前記ダイヤフラム式差圧弁の弁体を作動させるための圧力室と、前記ダイヤフラム式差圧弁を構成する弁体の一部に一体的に付設され、冷却水温度を感知することで開閉して前記圧力室と前記冷却水通路の出口側通路とを選択的に連通させることにより小流量を制御する温度感知式自動弁とを備えていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明(請求項2記載の発明)に係るサーモスタット装置は、上述した請求項1記載のサーモスタット装置において、前記冷却水通路の入口側通路の冷却水を前記圧力室に対して流入させるオリフィス通路の通路径を変更自在に制御するアクチュエータを備え、このアクチュエータは、電磁ソレノイドからなり、この電磁ソレノイドを、エンジン負荷情報や外気温度などのパラメータ情報に基づいて作動させることにより、高速連続走行、登坂走行、外気温度が高い場合などのように、エンジンの高負荷が続くような場合には、オリフィス通路径を小さくして、圧力室へ流入する冷却水量を少なくすることで、圧力室内の冷却水の水圧が小さくなるように制御し、これとは逆に、エンジン始動直後、低負荷走行時などには、オリフィス通路径を大きくして、圧力室内に導入する冷却水量を多くすることで、圧力室内の冷却水の水圧が大きくなるように制御することにより、温度感知式自動弁による冷却水の小流量制御と、ダイヤフラム式差圧弁による冷却水の大流量制御とを切り換えタイミングを変更可能に構成したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明(請求項3記載の発明)に係るサーモスタット装置は、請求項1または請求項2記載のサーモスタット装置において、前記ダイヤフラム式差圧弁の弁体の一部で前記圧力室と前記冷却水流出側の出口側通路との間に、前記圧力室に冷却水が滞留せず、かつエンジン冷却性能に影響しない程度の小径孔による冷却水逃がし通路を設けたことを特徴とする。
【0014】
本発明(請求項1〜請求項3記載の発明)によれば、ダイヤフラム式差圧弁とこれに一体的に付設した温度感知式自動弁からなる一つのサーモスタット装置で流量の大小異なる複数の弁機能を有しているため、通常のエンジン運転条件の場合、すなわち小流量での冷却水の制御が可能な場合には、ダイヤフラム式差圧弁(以下、ダイヤフラム弁という)に一体的に付設した温度感知式自動弁によって微少流量を制御し、大流量での制御が必要になった場合には、上述したダイヤフラム弁を開弁することによって大流量を確保することが可能となる。これによって、一つのサーモスタット装置によって、通水抵抗を増やすことなく小流量から大流量までの冷却水の制御が可能となる。
【0015】
さらに、小流量制御弁としての温度感知式自動弁は小型化が可能となり、構造を簡略化、規格部品の統一化をすることが可能であり、しかも耐久性の向上、コストダウンが可能となる。また、小流量制御弁としての温度感知式自動弁の小型化によって、ワックス式エレメントの構造を簡略化すること、さらには簡略化したバイメタル式や形状記憶合金などによる弁体への置換が可能となる。さらに、小流量制御弁と大流量制御弁とがそれぞれ独立しているから、開弁直後には小流量制御弁が開弁して小流量の冷却水が流れることになり、一気に大流量の冷却水が流れることによって従来発生していた温度ハンチングを防止することができる。
【0016】
また、本発明(請求項2記載の発明)によれば、オリフィス通路に設けた開口径をアクチュエータとして設けた電磁ソレノイドにより変更、設定させることで、温度感知式自動弁による冷却水の小流量での制御から、差圧弁による冷却水の大流量での制御への切り替え時期(温度)を変更することが可能になる。そうすることによって、サーモスタット装置の規格化、統一化することが可能となり、一つのサーモスタット装置で多機種への展開が可能となる。これは、切り替えタイミングは、前記オリフィス通路での適宜のアクチュエータによるオリフィス径の設定で変更できるためである。
【0017】
さらに、エンジン負荷情報や外気温度などのパラメータ情報に基づき、ECU(エンジンコントロールユニット)からの信号をソレノイドに出力することによって、運転状況に応じて前記通路径を適宜所要の状態で変化させることができるから、エンジン負荷情報や外気温度等に応じて、サーモスタット装置の小流量から大流量、すなわち温度感知式自動弁による冷却水の小流量制御から、ダイヤフラム弁(ダイヤフラム式差圧弁)による大流量での冷却水制御の切り替え温度を任意に変更することが可能になる。
【0018】
さらに、本発明(請求項3記載の発明)によれば、圧力室に冷却水が滞留せず、かつエンジン冷却性能に影響しない程度の冷却水逃がし通路(リーク通路)を、ダイヤフラム弁の弁体の一部で圧力室と冷却水流出側の出口側通路との間に設けることにより、サーモスタット装置の閉弁時においても、冷却水の流れが発生するため、温度感知式自動弁の熱応答性、すなわちサーモスタット装置の応答性が良好となる。しかも、リーク通路は、微量の冷却水を流すだけでよいから、エンジン冷却性能には影響せずに、サーモスタット装置の応答性が良好となるという利点がある。これは、このようなリーク通路を設けない場合に対し、閉弁時にも冷却水の流れを生じさせることにより、リーク通路が無い場合に対して圧力室内に設けられた温度感知式自動弁の熱応答性が良好になるからである。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1ないし図4は本発明に係るサーモスタット装置の一つの実施の形態を示すものである。これらの図において、まず、サーモスタット装置を含む自動車用エンジンの冷却水温度制御系の全体の概要を、図4を用いて以下に説明する。
【0020】
図4において、1はシリンダブロックおよびシリンダヘッドにより構成された内燃機関としての自動車用エンジンであり、このエンジン1のシリンダブロックおよびシリンダヘッド内には、矢印aで示した冷却水通路が形成されている。
2は熱交換器、すなわちラジエータであり、このラジエータ2には周知の通り冷却水通路2cが形成されており、ラジエータ2の冷却水入口部2aおよび冷却水出口部2bは、前記エンジン1との間で冷却水を循環させる冷却水回路3により接続されている。
【0021】
この冷却水回路3は、エンジン1に設けられた冷却水の出口部1cからラジエータ2に設けられた冷却水の入口部2aまで連通する流出側冷却水路3aと、ラジエータ2に設けられた冷却水の出口部2bからエンジン1に設けられた冷却水の入口部1bまで連通する流入側冷却水路3bと、これら冷却水路3a,3bの途中の部位を接続するバイパス通路3cとから構成されている。
これらのエンジン1、ラジエータ2、冷却水路3によって冷却水循環路が形成されている。
【0022】
この実施の形態では、冷却水路3内での冷却水の流れと流量を、冷却水路3内を流れる冷却水温度に応じて制御するためのサーモスタット装置10を、図1、図2および図4から明らかなように、前記エンジン1の出口側の冷却水路3aの途中であって、ラジエータ2側と前記バイパス水路3cとに分配制御する部分に、以下に詳述する構造をもって設けている。そして、このようなサーモスタット装置10により、冷却水温度が低いときは、冷却水をバイパス通路3cを介して循環させ、冷却水温度が高くなったときは、冷却水をバイパス通路3cではなく、冷却水路3aを介してラジエータ2に送り、該ラジエータ2を介してエンジン1側に循環させるように冷却水の流れと流量とを制御する。
【0023】
なお、図4において図示は省略したが、エンジン1の入口部1b部分には、エンジン1の図示しないクランクシャフトの回転により回転軸が回転されて冷却水を冷却水路3内で強制的に循環させるためのウォータポンプが配置されている。また、符号5はラジエータ2に強制的に冷却風を取り入れるための冷却ファンユニットであり、ファンとこれを回転駆動する電動モータとで構成されている。
【0024】
本発明によれば、上述したサーモスタット装置10を、図1および図2に示すように、エンジン1からの冷却水路3aの途中に設けられ、該冷却水路3aを構成する冷却水通路11内での冷却水の流れを、該冷却水通路11を構成する冷却水流入側の入口側通路11aと冷却水流出側の出口側通路11bとを選択的に連通可能に開閉することにより大流量を制御するダイヤフラム式差圧弁としてのダイヤフラム弁13と、このダイヤフラム弁13の背面側に前記冷却水通路11から独立した内室として形成されるとともに、前記冷却水通路11の入口側通路11a側の冷却水がオリフィス通路15を介して常に流入されるように構成され、その内部圧力と前記冷却水通路11側の圧力との圧力差に応じて前記ダイヤフラム弁13の弁体13aを作動させるための圧力室12と、前記ダイヤフラム弁13の弁体13aの一部に一体的に付設され、冷却水温度を感知することで開閉して前記圧力室12と出口通路11bとを選択的に連通させることにより小流量を制御する温度感知式自動弁14とを備えた構成としている。
そして、前記圧力室12に、前記冷却水路3aにおけるエンジン出口部1c側の冷却水をオリフィス通路15を介して常時流入させることにより、前記ダイヤフラム弁13を所要の状態で開閉動作させるとともに、前記温度感知式自動弁14をエンジン出口部1c側の冷却水温度に応じて動作させることができるのである。
【0025】
これを詳述すると、図1、図2において、符号10a,10bは装置ハウジングで、この装置ハウジング10a,10bには、エンジン1の出口部1cに接続される冷却水入口部21と、ラジエータ2に接続される冷却水出口部22が設けられている。さらに、前記バイパス水路3cに接続されるバイパス接続部23が設けられている。
【0026】
そして、前記エンジン出口部1c側の冷却水入口部21からラジエータ2側の冷却水出口部22に至る冷却水通路11の途中に、差圧弁であるダイヤフラム弁13が該冷却水通路11(11a,11b)を開閉可能に設けられるとともに、このダイヤフラム弁13の弁体13aの背面側に前記圧力室12が配設されている。なお、13bは弁体13aを常時閉塞方向に付勢するバルブリターンスプリング、13cは弁体13aが着座されるバルブシート部である。
【0027】
前記エンジン出口部1c側の冷却水入口部21は、通路部23aにより前記バイパス通路3c側に至るバイパス接続部23に接続されるとともに、この冷却水入口部21側の冷却水は、ハウジング10bの一部に、前記冷却水通路11の入口側通路11aとは別に、第2の入口側通路として設けたオリフィス通路15を介して前記ダイヤフラム式差圧弁(ダイヤフラム弁13)の差圧側である圧力室12に対して常に流入させるように構成されている。さらに、このオリフィス通路15には、該オリフィス通路15の通路径を変更自在に制御するアクチュエータとして、図示したような電磁ソレノイド16が付設され、その可動ロッドを介して通路径bが変更されるように構成されている。
【0028】
前記温度感知式自動弁14は、従来からよく知られているように、ワックスエレメント等を備え、冷却水温度を感知することにより、ワックスの膨張、収縮を利用して弁体を開閉させ、冷却水を流通させるような構造をもつもの、又はバイメタルを利用し、バイメタルの変形を利用して弁体を開閉する構造をもつものを適宜用いるとよい。なお、図中17は湾曲形成された該自動弁14のリターンスプリングであり、その付勢力により常時は閉弁状態を維持するとともに、冷却水温度が高温になると、前記温度感知式自動弁14はリターンスプリング17の付勢力に抗して開弁して、所定流量の冷却水を圧力室12から出口側通路11bに流すように機能する。
【0029】
また、前記ダイヤフラム式差圧弁(ダイヤフラム弁13)の差圧側である圧力室12には、その内部に冷却水が滞留せず、かつエンジン冷却性能に影響しない程度の冷却水逃がし通路18aまたは18bが設けられている。ここで、18aは前記ダイヤフラム弁13の弁体13aに穿設されることにより前記圧力室12と前記冷却水流出側の出口側通路11bとの間を連通する小径孔による逃がし通路、18bはハウジング10bに設けられたとえばウォータポンプ等に接続される通路で、少なくともいずれか一方(たとえばダイヤフラム弁13の弁体13aに設けた逃がし通路)を設ければよい。
【0030】
以上の構成によるサーモスタット装置10は、以下のように作動される。
【0031】
1.低温時(エンジン始動直後、暖機時)であって、温度感知式自動弁14が開弁前であるとき:
エンジン1の始動と同時に、ダイヤフラム弁13は、ラジエータ2側からの図示しないウォータポンプの吸引圧によってウォータポンプ側に引っ張られた状態となって出口側通路11bを閉弁し、さらに、エンジン1側からの吐出圧力もオリフィス通路15を介して圧力室12に加わるため、冷却水は殆ど流れずエンジン1の発生する熱によって冷却水温度は早期に上昇する。
【0032】
このとき、エンジン1の出口部側からの複数の通路のうち直接ダイヤフラム弁13に繋がる入口側通路11aでの水圧P2と、他方の入口側通路である電磁ソレノイド16を設けたオリフィス通路15から導かれる圧力室12内の水圧P1とは同圧となっている。
【0033】
2.高温時(暖機終了、低負荷走行など)であって、温度感知式自動弁14が開弁(小流量時)したとき:
エンジン1側の冷却水の温度が上昇すると、ダイヤフラム弁13に付設した温度感知式自動弁14は、オリフィス通路15を介して圧力室12内に流入している冷却水温度の上昇を感知して、図1中想像線で示すように開弁し、圧力室12からの開口部(小流量通路)をラジエータ2に通じる出口側通路11bに開口させて、冷却水をラジエータ2側に流す。これにより、冷却水はエンジン1、ラジエータ2間を循環することになる。
【0034】
ここで、温度感知式自動弁14によって開口される開口部の流量が、前記オリフィス通路15から圧力室12への流量よりも小さい場合は、温度感知式自動弁14からのみ冷却水は、圧力室12から流出する。
【0035】
3.高温時(高負荷走行時など)であって、温度感知式自動弁14が開弁し、ダイヤフラム弁13も開弁(大流量時)したとき:
エンジン1側の冷却水の温度がさらに上昇すると、ダイヤフラム弁13に付設された温度感知式自動弁14は、さらに開口が広がり、オリフィス通路15から圧力室12に流入する流量よりも、温度感知式自動弁14によって開口される開口部の流量が大きくなる。また、入口側通路11a側での冷却水の水圧P2も、圧力室12内の水圧P1よりも大きくなるため、ダイヤフラム弁13は、バルブシート部13cから離間し、圧力室12側に引っ張られるため、冷却水は、冷却水通路11を構成する入口側通路11aから出口側通路11bへと流れ、大流量の冷却水がラジエータ2側に流出することになる。このような状態となると、冷却水はラジエータ2によってさらに冷却され、エンジン1内部への冷却水の温度が低くなって、エンジン冷却機能を最大にすることができる。
【0036】
このような構成によれば、ダイヤフラム式差圧弁であるダイヤフラム弁13とこれに付設した温度感知式自動弁14からなる一つのサーモスタット装置10が、流量の大小異なる複数の弁機能を有しているため、通常のエンジン運転条件の場合、すなわち小流量での冷却水の制御が可能な場合には、ダイヤフラム弁13に付設した温度感知式自動弁14によって微少流量を制御するとともに、大流量での制御が必要になった場合には、上述したダイヤフラム弁13を開弁することによって大流量を確保することが可能となる。これによって、一つのサーモスタット装置10によって、冷却水回路内での通水抵抗を増やすことなく小流量から大流量までの冷却水の制御が可能となる。
このようなサーモスタット装置10による小流量、大流量の制御を、冷却水の温度との関係において、図3中に実線で示している。
【0037】
ここで、前述したオリフィス通路15での通路径(開口径)の変更についての作用を説明する。
すなわち、オリフィス通路15に電磁ソレノイド16を設け、任意に開口径を変化させることにより、圧力室12に加わる冷却水圧力P1が変化し、入口側通路11a側での水圧P2との関係やオリフィス通路15での流量が変化するため、小流量から大流量への切り替えタイミングを変更することが可能となるのである。
【0038】
これにより、エンジン負荷情報や外気温度などのパラメータ情報に基づき、サーモスタット装置10の開弁温度、すなわち温度感知式自動弁14による冷却水の小流量制御から、ダイヤフラム弁13等の差圧弁による大流量での冷却水の大流量制御までの時期や温度を適宜変更することが可能になる。
この状態を図3を用いて説明すると、オリフィス通路15の通路径によって、差圧弁特性が、図中矢印で示すように左右に変化することになる。
【0039】
したがって、高速連続走行、登坂走行、外気温度が高い場合などのように、エンジン1の高負荷が続くような場合には、オリフィス通路径を小さくし、圧力室12へ流入する冷却水量を少なくすることで、圧力室12内の冷却水の水圧P1が小さくなる。これに対して、ダイヤフラム弁13を開弁方向に作用させるP2の圧力が強くなるため、弁体13aが迅速に開弁することになり、結果として大流量への切り替えタイミングが速くなるので、冷却水温度を低めに設定することが可能となるのである。
また、これとは逆に、エンジン始動直後、低負荷走行時などには、オリフィス通路径を大きくし、圧力室12内に導入する冷却水量を多くすることで、圧力室12内の冷却水の水圧P1は大きくなる。これに対して、ダイヤフラム弁13を開弁方向に作用させる水圧P2の圧力は弱くなるから、弁体13aはゆっくりと開弁することになり、結果として大流量に切り替わるタイミングは遅くなるため、冷却水温度を高めに設定することが可能となるのである。
【0040】
さらに、上述した構成によるサーモスタット装置10によれば、小流量制御弁としての温度感知式自動弁14は小型化が可能となり、構造を簡略化し、また部品の共通化、規格部品の統一化を図ることが可能であり、しかも耐久性の向上、コストダウンも可能となる。また、小流量制御弁としての温度感知式自動弁14の小型化によって、ワックス式エレメントの構造を簡略化すること、さらには簡略化したバイメタル式や形状記憶合金などによる弁体への置換が可能となる。
【0041】
さらに、小流量制御弁と大流量制御弁とが温度感知式自動弁14、ダイヤフラム弁13というようにそれぞれ独立しているから、開弁直後には小流量制御弁が開弁して小流量の冷却水が流れることになり、一気に大流量の冷却水が流れることによって従来発生していた温度ハンチングを防止することができる。
【0042】
また、第2の入口側通路として設けたオリフィス通路15の通路径をアクチュエータにより変更、設定させることにより、温度感知式自動弁14による冷却水の小流量での制御から、ダイヤフラム式差圧弁(ダイヤフラム弁13)による冷却水の大流量での制御への切り替え時期(温度)を変更することが可能になる。
そうすることによって、サーモスタット装置10の規格化、統一化することが可能となり、一つのサーモスタット装置10で多機種への展開が可能となる。これは、切り替えタイミングが、前記オリフィス通路15でのアクチュエータによるオリフィス通路径の設定で任意に変更できるためである。
【0043】
さらに、上述したサーモスタット装置10によれば、エンジン負荷情報や外気温度などのパラメータ情報に基づき、ECU(エンジンコントロールユニット)からの信号を電磁ソレノイド16に出力することによって、運転状況に応じて前記オリフィス通路径を適宜所要の状態で変化させることができるから、エンジン負荷情報や外気温度等に応じて、サーモスタット装置10での開弁温度での小流量から大流量、すなわち温度感知式自動弁14による冷却水の小流量制御から、ダイヤフラム弁13等の差圧弁による大流量での冷却水制御の時期(温度)を任意に変更変更することが可能になる。
【0044】
さらに、上述したサーモスタット装置10によれば、圧力室12に、冷却水が滞留せず、かつエンジン冷却性能に影響しない程度の冷却水逃がし通路(リーク通路)18aまたは18bを設けることにより、サーモスタット装置10の閉弁時においても、冷却水の流れが発生するため、温度感知式自動弁14の熱応答性、すなわちサーモスタット装置10の応答性が良好とすることができる。しかも、逃がし通路18aまたは18bは、微量の冷却水を流すだけでよいから、エンジン冷却性能には影響せずに、サーモスタット装置10の応答性が良好となるという利点がある。これは、このような逃がし通路を設けない場合に対し、閉弁時にも冷却水の流れを生じさせることにより、逃がし通路が無い場合に対して圧力室12内に設けられた温度感知式自動弁14の熱応答性が良好になるからである。
【0045】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、サーモスタット装置10各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
たとえば上述した実施の形態では、サーモスタット装置10を、エンジン1の出口側に設けた場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。エンジン1の入口側にこのサーモスタット装置10を設ける場合には、冷却水入口部21にラジエータ2の出口部22を接続するとともに、冷却水出口部22にエンジン1の入口部に設けたウォータポンプ側に接続するとよい。このときには、バイパス接続部23はなくなる。
【0046】
また、前述した実施の形態では、ダイヤフラム式差圧弁としてダイヤフラム弁13を、温度感知式自動弁14としてワックス式エレメントを備えた自動弁である場合を説明したが、これに限らず、同等の動作が可能である弁であれば、適宜採用することは自由である。さらに、圧力室12にダイヤフラム弁13の作動圧力を導くための第2の入口側通路としてのオリフィス通路15の通路径を可変するためのアクチュエータとしても、電磁ソレノイド16に限られるものではない。
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係るサーモスタット装置によれば、ダイヤフラム式差圧弁とこれに付設した温度感知式自動弁からなる一つのサーモスタット装置で流量の大小異なる複数の弁機能を有しているため、通常のエンジン運転条件の場合、すなわち負荷が比較的小さいとき等のように、小流量での冷却水の制御が可能な場合には、ダイヤフラム式差圧弁(ダイヤフラム弁)に一体的に付設した温度感知式自動弁によって微少流量を制御し、大流量での制御が必要になった場合には、上述したダイヤフラム式差圧弁を開弁することによって大流量を確保することが可能となる。これによって、一つのサーモスタット装置によって、通水抵抗を増やすことなく小流量から大流量までの冷却水の制御が可能となる。
【0048】
さらに、小流量制御弁としての温度感知式自動弁は小型化が可能となり、構造を簡略化し、規格部品の統一化をすることが可能であり、しかも耐久性の向上、コストダウンが可能となる。また、小流量制御弁としての温度感知式自動弁の小型化によって、ワックス式エレメントの構造を簡略化すること、さらには簡略化したバイメタル式や形状記憶合金などによる弁体への置換が可能となる。
【0049】
さらに、本発明によれば、ダイヤフラム式差圧弁による大流量制御弁とこれに一体的に付設した温度感知式自動弁による小流量制御弁とがそれぞれ独立しているから、開弁直後には小流量制御弁が開弁して小流量の冷却水が流れることになり、一気に大流量の冷却水が流れることによって従来発生していた温度ハンチングを防止することができる。
【0050】
また、本発明によれば、第2の入口側通路であるオリフィス通路に設けた開口径をアクチュエータである電磁ソレノイドにより変更、設定させることで、温度感知式自動弁による冷却水の小流量での制御から、差圧弁による冷却水の大流量での制御への切り替えタイミング(たとえば時期や温度等による)を変更することが可能になる。そうすることによって、サーモスタット装置の規格化、統一化することが可能となり、一つのサーモスタット装置で多機種への展開が可能となる。
【0051】
さらに、本発明によれば、エンジン負荷情報や外気温度などのパラメータ情報に基づき、ECU(エンジンコントロールユニット)からの信号をソレノイドに出力することによって、運転状況に応じて前記通路径を適宜所要の状態で変化させることができるから、サーモスタット装置の小流量から大流量、すなわち温度感知式自動弁による冷却水の小流量制御から、ダイヤフラム式差圧弁による大流量での冷却水制御の切り替え温度を任意に変更することが可能になるので、エンジン負荷情報や外気温度等に応じて、冷却水温度を任意に制御することが可能となる。
【0052】
また、本発明によれば、上述した構成によるサーモスタット装置において、圧力室に冷却水が滞留せず、かつエンジン冷却性能に影響しない程度の冷却水逃がし通路を、ダイヤフラム式差圧弁の弁体の一部で前記圧力室と前記冷却水流出側の出口側通路との間に設けることにより、サーモスタット装置の閉弁時においても、冷却水の流れが発生するため、温度感知式自動弁の熱応答性、すなわちサーモスタット装置の応答性が良好となる。しかも、リーク通路は、微量の冷却水を流すだけでよいから、エンジン冷却性能には影響せずに、サーモスタット装置の応答性が良好となるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るサーモスタット装置の一つの実施の形態を示し、冷却水温度が低温状態にあるときの要部構造の概略断面図である。
【図2】 図1の状態から冷却水温度が高温状態に変化したときの概略断面図である。
【図3】 本発明に係るサーモスタット装置による冷却水の流量制御状態を説明するためのグラフである。
【図4】 本発明に係るサーモスタット装置を適用して好適なエンジンの冷却水回路の概要を説明するための概略構成図である。
【符号の説明】
1…エンジン、2…ラジエータ、3…冷却水路、10…サーモスタット装置、11…冷却水通路、11a…入口側通路、11b…出口側通路、12…圧力室、13…ダイヤフラム弁(ダイヤフラム式差圧弁)、13a…弁体、13b…リターンスプリング、13c…バルブシート部、14…温度感知式自動弁、15…オリフィス通路(第2の入口側通路)、16…電磁ソレノイド(アクチュエータ)、17…リターンスプリング、18a,18b…冷却水逃がし通路、21…冷却水入口部、22…冷却水出口部、23…バイパス接続部。
Claims (3)
- エンジンの冷却水回路の途中に設けられ、該冷却水回路を構成する冷却水通路内での冷却水の流れを、該冷却水通路を構成する冷却水流入側の入口側通路と冷却水流出側の出口側通路とを選択的に連通可能に開閉することにより大流量を制御するダイヤフラム式差圧弁と、
前記ダイヤフラム式差圧弁の背面側に前記冷却水通路から独立した内室として形成されるとともに、前記冷却水通路の入口側通路側の冷却水がオリフィス通路を介して常に流入されるように構成され、その内部圧力と前記冷却水通路側の圧力との圧力差に応じて前記ダイヤフラム式差圧弁の弁体を作動させるための圧力室と、
前記ダイヤフラム式差圧弁を構成する弁体の一部に一体的に付設され、冷却水温度を感知することで開閉して前記圧力室と前記冷却水通路の出口側通路とを選択的に連通させることにより小流量を制御する温度感知式自動弁とを備えていることを特徴とするサーモスタット装置。 - 請求項1記載のサーモスタット装置において、
前記冷却水通路の入口側通路の冷却水を前記圧力室に対して流入させるオリフィス通路の通路径を変更自在に制御するアクチュエータを備え、
このアクチュエータは、電磁ソレノイドからなり、
この電磁ソレノイドを、エンジン負荷情報や外気温度などのパラメータ情報に基づいて作動させることにより、
高速連続走行、登坂走行、外気温度が高い場合などのように、エンジンの高負荷が続くような場合には、オリフィス通路径を小さくして、圧力室へ流入する冷却水量を少なくすることで、圧力室内の冷却水の水圧が小さくなるように制御し、
これとは逆に、エンジン始動直後、低負荷走行時などには、オリフィス通路径を大きくして、圧力室内に導入する冷却水量を多くすることで、圧力室内の冷却水の水圧が大きくなるように制御することにより、
温度感知式自動弁による冷却水の小流量制御と、ダイヤフラム式差圧弁による冷却水の大流量制御とを切り換えタイミングを変更可能に構成したことを特徴とするサーモスタット装置。 - 請求項1または請求項2記載のサーモスタット装置において、
前記ダイヤフラム式差圧弁の弁体の一部で前記圧力室と前記冷却水流出側の出口側通路との間に、前記圧力室に冷却水が滞留せず、かつエンジン冷却性能に影響しない程度の小径孔による冷却水逃がし通路を設けたことを特徴とするサーモスタット装置。
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