JP3924604B2 - ガリウム砒素単結晶 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はIII−V族化合物半導体単結晶の育成方法において、特にB2O3を液体封止剤とし、Siをドーパントとして用いるGaAs単結晶育成方法に関してドーパント濃度が所望範囲の濃度に精度よく制御された単結晶およびその単結晶育成技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
III−V族化合物半導体の単結晶は受発光素子、高速演算素子、マイクロ波素子等に利用されており、その用途により単結晶に種々の物質を添加して利用されている。
【0003】
n型導電性GaAs単結晶は一般にシリコン(Si)がドーパントとして用いられ、結晶中の転位密度を小さくするため横型ボート法や縦型ボート法を用いて製造されている。特に縦型ボート法においては(100)方位の結晶成長が育成可能であるばかりでなく、円形で大口径の結晶が得られる利点があり、縦型温度傾斜法(VGF法)や縦型ブリッジマン法(VB法)による結晶成長が行われている。
【0004】
V族元素のAsは揮発成分であるため、結晶からの解離や分解を防ぐ目的等で封止剤として酸化ホウ素(B2O3)が用いられている。B2O3を液体封止剤として用いる場合、ドーパントであるSiがB2O3と反応して酸化シリコン(SiO2またはSiO)を形成し結晶中のSi濃度が制御しにくくなるため、本発明者らはSi濃度を制御する方法として特公平3−57079号で、予めSi酸化物をドープしたB2O3を用いる発明を提供した。
【0005】
この発明を用いれば、VB法またはVGF法等の縦型ボート法においても再現性よくSi濃度つまりキャリア濃度が制御された単結晶を育成することができる。
【0006】
図2は従来の単結晶育成装置の一例を示す概略縦断面図であって、るつぼ収納容器(サセプター)3内に設けたるつぼ4に種結晶5と化合物半導体原料を装入し、その上に封止剤(B2O3)8を置き、収納容器の回りをヒーター17で加熱して原料GaAsを溶融し、温度制御により原料融液7から化合物半導体結晶6を育成させる。ヒーター17の外周は断熱材16で囲まれていて、総てこれらは気密容器11内に収納され、前記るつぼ収納容器3は該気密容器11に設けた気密シール2を通して下部ロッド1により支持され、かつ上下移動および回転が可能になっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら前述の発明を用いても、結晶中のキャリア濃度は結晶尾部になるに従い大きくなり、頭部と比較して3〜4倍程度となって結晶成長方向での不均一性が解消されず、歩留りを著しく悪くするという問題があった。
【0008】
さらに特に最近はキャリア濃度の範囲について狭める要望があり、特に上限値を低くする要望が強くなっている。
【0009】
従って本発明の目的は、VB法やVGF法等の縦型ボート法を用いてSiドープ型GaAs単結晶を製造する方法の改善により、SiがGaAs単結晶中に再現性良くドープされた、またSi濃度が均一であって単結晶の歩留りが高いSiドープn型GaAs単結晶を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
通常の単結晶製造を行った場合、キャリア濃度は図5に示すように横軸をインゴットの固化率、縦軸をキャリア濃度とすると結晶尾部に向けて濃度が高くなる右上がりの勾配となる。特に結晶尾部に近くなるとキャリア濃度は急増する傾向にある。固化率が0.1程度でキャリア濃度が1×1018cm-3になるように結晶成長を行った場合、例えばキャリア濃度が上限4×1018cm-3まででは固化率0.8までの歩留りとなるが、上限が2×1018cm-3の場合は固化率0.6の歩留まりにしかならない。
【0011】
この欠点を解消するため、本発明者はSiの挙動について検討を行った。
【0012】
融液中に添加されたSiはGaAsに溶解しているが、封止剤B2O3と接触しているため次式の反応により融液中から消費される。
3Si(GaAs Melt 中)+2B2O3=3SiO2(B2O3へ)+4B(GaAs Meltへ)
上記反応は単結晶育成開始時にはほぼ平衡状態に達し、単結晶育成中はノーマルフリージングによる偏析現象によるSiのGaAs融液への濃縮がおこっているものと考えられる。
【0013】
もしも何らかの手段により単結晶育成中にも上記反応を右に進行させ続けることができるならばGaAs融液からのSiの損失も競合して起きることになる。この競合を制御すれば単結晶中のSi濃度すなわちキャリア濃度を制御することができる。単結晶育成中でも上記反応を右に進めるためにはB2O3中のSiO2濃度を低減すれば可能である。これには結晶育成中にSiO2が含まれる量がより少ないB2O3を新たに添加すれば可能となる。すなわち、本発明は結晶成長時に融液に含まれるドーパント濃度を酸化(還元)反応により制御するものである。
【0014】
すなわち本発明は第1に、液体封止剤を用いた縦型温度傾斜法または縦型ブリッジマン法によって製造されたSiドープガリウム砒素単結晶インゴットであって、該Siドープガリウム砒素単結晶インゴットの結晶肩部(固化率0 . 1)から結晶尾部(固化率0 . 8)までのキャリア濃度が1×10 18 cm -3 〜2×10 18 cm -3 であることを特徴とするSiドープガリウム砒素単結晶インゴット;第2に、液体封止剤を用いた縦型温度傾斜法または縦型ブリッジマン法によって製造されたSiドープガリウム砒素単結晶インゴットであって、該Siドープガリウム砒素単結晶インゴットの結晶肩部(固化率0 . 1)から結晶尾部(固化率0 . 8)までのキャリア濃度が1×10 18 cm -3 〜2×10 18 cm -3 であり、該固化率の増加につれて該キャリア濃度が増加することを特徴とするSiドープガリウム砒素単結晶インゴットを提供するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明では縦型温度傾斜法や縦型ブリッジマン法によりSiドープn型GaAs単結晶を製造する場合、結晶原料融液としてSiを添加したGaAs融液と、液体封止剤としてB2O3を使用する。図1は本発明の単結晶を製造するための製造装置の断面図を模式的に示したものである。
【0016】
図1において封止剤8はAsの飛散や結晶成長開始時のSi濃度を制御するための目的で投入(チャージ)したB2O3であり、第2の封止剤9は結晶育成途中でSi濃度を制御するための目的で添加されるB2O3である。るつぼ収納容器3は下部ロッド1で保持されており、るつぼ4が回転可能となっている。
【0017】
るつぼ収納容器3上部には回転および上下移動可能でかつ攪拌板等や上部封止剤収納容器が取付け可能な上部ロッド12が配置されており、るつぼ4内の融体の攪拌や封止剤を導入する配管としても利用可能となっている。
【0018】
図3は第2の封止剤9を添加する形態を示したものであり、上部封止剤収納容器15中の第2の封止剤9を溶解させてるつぼ4の上部あるいは溶体中に装入する。上部収納容器15はヒーターで加熱して第2の封止剤を溶解させることでるつぼ4への装入が可能であり、ヒーターでの加熱を停止することでるつぼ4への装入は停止することも可能である。装入は攪拌しながら行っても良いし、攪拌を止めた状態で行っても良い。また装入開始や停止の時期や攪拌の有無についても最適の条件を選択すれば良い。
【0019】
図4は封止剤8の上部に第2の封止剤9をおいた状態を示すものである。この場合でも、攪拌については最適条件を選択すれば良い。
【0020】
また図示はしていないが、上部ロッドの形状は溶体が攪拌できればどのような形状であっても良い。また攪拌は図1に見られるように、上部ロッド12や下部ロッド1を回転することで溶体を任意に攪拌することができる。
以下実施例により詳細に説明する。
【0021】
【実施例1】
図3はるつぼ4の上方に移動可能な攪拌板10を備えた収納容器15に第2の封止剤9を収納した状態を示したものであり、この図を用いて説明する。種結晶5上に化合物原料であるGaAs13を3000g用意した。ドーパント14としてのSiは化合物原料に対して0.027%となるように810mg用意した。封止剤8はSi濃度換算で3重量%となるようにSi酸化物を添加したB2 O3 240gを用意した。第2の封止剤9はB2O3に対してSi濃度換算でSi酸化物を0.5重量%含有させたもの50gを予め上部封止剤収納容器15に用意した。
【0022】
これを通常の育成方法により溶解し固化を開始した。上部収納容器15の第2の封止剤9は固化率0.4でるつぼ4に流入させ、攪拌板10を用いて混合・攪拌を開始した。上部ロッド12は5rpmで回転させたものと、回転させないものについて試験を行った。下部ロッドは回転させなかった。回転させたものについて固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.8までキャリア濃度2×1018cm-3以下の単結晶が得られた。回転させないものは固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.6でキャリア濃度が2×1018cm-3となった。図6に本実施例の上部ロッドを回転させて育成した結晶の固化率に対するキャリア濃度の変化を示した。
【0023】
【実施例2】
第2の封止剤9はB2O3に対してSiを含まないもの50g用意し、実施例1と同様に試験を行った。回転させたものについて固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.8までキャリア濃度1.8×1018cm-3以下の単結晶が得られた。回転させないものは固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.6でキャリア濃度が2×1018cm-3となった。
【0024】
【実施例3】
図4はるつぼ内に種結晶、化合物半導体原料、ドーパントと封止剤および第2の封止剤を収納し、上方に移動可能な攪拌板を設けた状態を示すものであり、この図を用いて説明する。化合物原料であるGaAs13を3000g用意した。ドーパント14としてSiは化合物原料に対して0.027%となるように810mg用意した。封止剤8はSi濃度換算で3重量%となるように添加したB2O3 240gを用意した。第2の封止剤9はB2O3に対してSi濃度換算でSi酸化物を0.5重量%含有させたもの50gを予め上部封止剤8の上に用意した。
【0025】
これを通常の育成方法により溶解し固化を開始した。固化率0.3で攪拌を開始した。上部ロッドは2rpmで回転させたものと、回転させないものについて試験を行った。下部ロッドは回転させなかった。回転させたものについて固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.8までキャリア濃度2×1018cm-3以下の単結晶が得られた。回転させないものは固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.6でキャリア濃度が2×1018cm-3となった。
【0026】
【実施例4】
第2の封止剤9はB2O3に対してSiを含まないもの50g用意し、実施例3と同様に試験を行った。回転させたものについて固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.8までキャリア濃度1.8×1018cm-3以下の単結晶が得られた。回転させないものは固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.6でキャリア濃度が2×1018cm-3以上となった。
【0027】
【実施例5】
実施例1と同様に化合物原料であるGaAs13を3000g用意した。ドーパント14としてSiは化合物原料に対して0.027%となるように810mg用意した。封止剤8はSi濃度換算で3重量%となるようにSi酸化物を添加したB2O3 240gを用意した。第2の封止剤9はB2O3に対してSi濃度換算でSi酸化物を0.5重量%含有させたもの50gを上部封止剤収納容器15に予め用意しておいた。
【0028】
これを通常の育成方法により溶解し固化を開始した。固化率0.4で上部収納容器15中の第2の封止剤9を溶解させてるつぼの溶体上に流下させた。上部ロッド12は回転を停止させ、下部ロッド1を2rpmで回転させたものと、回転させないものについて試験を行った。回転させたものについて固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.8までキャリア濃度2×1018cm-3以下の単結晶が得られた。回転させないものは固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.6でキャリア濃度が2×1018cm-3以上となった。
【0029】
【実施例6】
第2の封止剤9はB2O3に対してSiを含まないもの50g用意し、実施例5と同様に試験を行った。回転させたものについて固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.8までキャリア濃度2×1018cm-3以下の単結晶が得られた。回転させないものは固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.6でキャリア濃度が2×1018cm-3以上となった。
【0030】
【比較例】
化合物原料であるGaAs13を3000g用意した。ドーパント14としてSiは化合物原料に対して0.027%となるように810mg用意した。封止剤8はSi濃度換算で3重量%となるようにSi酸化物を添加したB2O3 290gを用意した。第2の封止剤9は用いなかった。
【0031】
これを通常の育成方法により溶解し固化を開始した。固化率0.1でキャリア濃度は1×1018cm-3であり、固化率0.6でキャリア濃度が2×1018cm-3以上の単結晶となった。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法によればB2O3を液体封止剤とし、Siをドーパントとして用いる従来のGaAs単結晶の製造方法に対し、Si濃度がより小さい第2の封止剤を併用することにより、さらにこれらを攪拌することにより結晶中のキャリア濃度を制御することが可能になるので、Siを単結晶中に再現性良くドープでき、またSi濃度が均一であって単結晶の歩留りが高いGaAs単結晶およびその製造方法が提供できる。
これらの結果からSi濃度のより小さい第2の封止剤を併用して用いること、さらにこれらを攪拌することにより結晶中のキャリア濃度を制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明での単結晶製造装置の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】従来の単結晶製造装置の一例を示す概略縦断面図である。
【図3】本発明の実施例において、るつぼ内に化合物半導体原料、種結晶、ドーパントSi、Si酸化物を予めドープした封止剤を収納し、さらに上部に移動可能な攪拌板を具備した収納容器に第2の封止剤を収納した状態を示す模式断面図である。
【図4】本発明の実施例において、るつぼ内に化合物半導体原料、種結晶、ドーパントSi、Si酸化物を予めドープした封止剤および第2の封止剤を収納し、さらに上部に移動可能な攪拌板を装備した状態を示す模式断面図である。
【図5】従来のSiドープガリウム砒素単結晶中の成長方向のキャリア濃度分布の一例を示すグラフである。
【図6】本発明を用いたSiドープガリウム砒素単結晶中の成長方向のキャリア濃度分布の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
1 下部ロッド
2 気密シール
3 るつぼ収納容器(サセプタ)
4 るつぼ
5 種結晶
6 化合物半導体結晶
7 原料融液
8 封止剤
9 第2の封止剤
10 攪拌板
11 気密容器
12 上部ロッド
13 化合物原料GaAs
14 ドーパント
15 上部封止剤収納容器
16 断熱材
17 ヒーター
Claims (2)
- 液体封止剤を用いた縦型温度傾斜法または縦型ブリッジマン法によって製造されたSiドープガリウム砒素単結晶インゴットであって、該Siドープガリウム砒素単結晶インゴットの結晶肩部(固化率0 . 1)から結晶尾部(固化率0 . 8)までのキャリア濃度が1×10 18 cm -3 〜2×10 18 cm -3 であることを特徴とするSiドープガリウム砒素単結晶インゴット。
- 液体封止剤を用いた縦型温度傾斜法または縦型ブリッジマン法によって製造されたSiドープガリウム砒素単結晶インゴットであって、該Siドープガリウム砒素単結晶インゴットの結晶肩部(固化率0 . 1)から結晶尾部(固化率0 . 8)までのキャリア濃度が1×10 18 cm -3 〜2×10 18 cm -3 であり、該固化率の増加につれて該キャリア濃度が増加することを特徴とするSiドープガリウム砒素単結晶インゴット。
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