JP3921142B2 - 建築物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、爆発発生時の安全性を高めた耐爆性能を有する建築物に関する。
【0002】
【従来の技術】
火薬工場或いは原子力発電所等の施設において、不慮の事故により、建築物の内部で爆発が発生する場合がある。このとき、被害を最小限にしようとするためには、以下の2通り考え方で建築物の設計を行うことが一般的であった。
【0003】
(1)第1の考え方は、火薬工場等、爆発が局所的な被害にとどまり、広範囲な領域に渡って2次的な大規模災害を生じさせることがない施設に対しては、建築物を平屋建ての木造等の軽量構造にするものである。この考え方は、建築物の内部で爆発が起きた場合には、当該建築物が破壊することを許容し、爆破による爆風や飛散物によって隣接する建築物等の影響を最小限にしようとする思想に基づくものである。
【0004】
(2)第2の考え方は、原子力発電所等、爆発が広範囲な領域に渡って2次的な大規模災害を生じさせる恐れがある施設に対しては、建築物を想定される爆発に対して、充分耐うるだけの強固な構造(例えば、建築物の外壁を厚さ数100cmの鉄筋コンクリート構造)とするものであり、建築物の外部に爆発の影響が及ばないようにしようとする思想に基づくものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年、半導体工場や、先端技術の研究開発施設など(以下、「先端技術施設」という)では、多量の水素ガスやモノシランガス等の爆発危険性物質を取り扱うことが多くなり、爆発事故の危険性が高くなってきている。
しかし、先端技術施設の建築物を構築するにあたり、前記第1の考え方では、建築物が独立した平屋建ての軽量構造を想定しているため不適当であり、また、前記第2の考え方では、建築物が強固な構造であることを想定しているため、不経済になってしまうという問題点を有していた。さらに、前記先端技術施設の建築物では、製造ラインの変更や研究開発のテーマの変更に応じて、建築物の区画を機動的かつ自由に変更したいという要望等があることからも、新しい考え方の提案が要求されている。
【0006】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、爆発危険性物質を取り扱う各種施設に好適である、爆発発生時の安全性を高めた建築物を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記問題点を解決するために、本発明の建築物は、間仕切壁により、内部領域が、建築物躯体における圧力放散口を有する外壁と接している爆発危険領域と、他領域とに隔絶されている建築物であって、前記間仕切壁は、前記圧力放散口を取り囲むように層状に配置されている複数枚の区画板により形成されており、 前記建築物躯体及び前記間仕切壁は、前記圧力放散口が開放された場合における、前記爆発危険領域の内部に作用する最大圧力に耐えうる設計基準耐力を有して形成されており、かつ、前記各区画板は、前記圧力放散口が開放される以前に、前記爆発危険領域の内部に作用する圧力により破壊されうる設計基準耐力を有して形成されていることを特徴としている。
【0008】
ここで、爆発危険領域とは、建築物の内部で爆発危険性物質を取り扱う、爆発の危険性がある空間部であり、工場の作業室、実験室、或いは、発電装置の設置室等をいう。
また、圧力放散口とは、外壁部と比較して、設計基準強度が小さくなるように設計施工されており、爆発時には外壁部より先に開放されることで、室内の圧力を外部に放出する役割を果たす部位であり、窓部等であってもよい。
【0009】
さらに、区画板とは、石膏ボードや、ケイ酸カルシウム板等の一般的な板状のパネル材を使用することができる。そして、区画板は、複数層設ける必要があるが、層数等は、圧力放散口の面積、使用する区画板の強度や、建築物の種類、爆発危険領域の広さ等に応じて適切に定める必要がある。また、総ての区画板について、同一種類の部材を使用する必要はない。
【0010】
本発明の建築物は、圧力放散口を取り囲むように層状に配置されている複数枚の区画板から形成される間仕切壁により、内部領域が爆発危険領域と、他領域とに隔絶されている。そのため、区画板を最初に破壊させることで爆発エネルギーを吸収し、当該爆発エネルギーを減少させた後に、圧力放散口を開放させることで、爆発の影響が建築物の他領域と外部へ及ぶことを最も合理的(効果的かつ経済的)に防止することができる。
【0011】
さらに、前記建築物において、前記区画板は、下地材により、取り付け及び取り外し自在に配置されているものであってもよい。
ここで、下地材とは、区画板の軸組に使用するための部材であり、スタッド、ランナ、振れ止め等の部材を使用することができる。
【0012】
本発明によれば、区画板が、下地材により、取り付け及び取り外し自在に設けられていることから、間仕切壁の設置作業を容易に行うことができ、建築物の内部領域を機動的かつ自由に変更することが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明において、同一の構成要素に関しては同一の符号を付し、重複した説明は省略するものとする。
【0014】
[本発明の考え方]
図1は、建築物10の内部で爆発が起きた場合において、当該爆発に伴って発生する建築物10の内部圧力と時間との関係を示したグラフである。このグラフによると、建築物10の外壁12に外部と連通する圧力放散口12aが設けられているときに、圧力放散口12aが開放されない場合における爆発により発生する建築物10の内部の最大圧力値(図1(a)におけるA点)は、当該圧力放散口12aが開放された場合(図1(b)におけるA’点)と比べて、大きくなることが示されている(なお、B’点は圧力放散口12aが開放された時点を示す)。
従って、爆発が生じた場合には、圧力放散口12aが開放されるようにするとともに、建築物躯体12及び後記間仕切壁13を前記最大圧力値に耐えられるように設計することにより、爆発の影響が、建築物10の内部領域における他領域30(爆発危険領域20以外の領域)と建築物10の外部へ及ぶことを合理的に防止することができる。
【0015】
一方、前記最大圧力値は圧力放散口12aの面積が大きい程、小さくすることができるが、建築物10によっては、その構造上、理論上必要となる面積を確保することができない場合があるとともに、圧力放散口12aを大きくしすぎると、爆発の影響が建築物10の外部に及んでしまう恐れがある。
【0016】
従って、本発明では、前記圧力放散口12aが開放される以前に、爆発危険領域20の内部に作用する圧力により破壊されうる設計基準耐力となるように形成されている区画板14を複数枚用い、圧力放散口12aを取り囲むように多層状に設置して間仕切壁13とすることで、爆発時に、区画板14を先に破壊させ、爆発エネルギーを吸収することにより減少させた後に、圧力放散口12aを開放させることとしている。
【0017】
但し、圧力放散口12aは、各種試験から求められた、圧力放散口12aが開放された場合における室内の最大圧力値(図1(b)参照)よりも、やや低い圧力で破壊するように設計されていることが、外部への爆発の影響を最小限にする上では好ましい。
また、前記間仕切壁13の全体及び建築物躯体11は、前記圧力放散口12aが開放された場合における、前記爆発危険領域20の内部に作用する最大圧力に耐えうる設計基準耐力を有して形成されている必要があり、他領域30側の外縁部に設けられている区画板14(符号14Aで示す)は、少なくとも、前記最大圧力で破壊されないように設計されている必要がある。
【0018】
[建築物]
図3に示すように、本発明の建築物10は、基礎部(図示せず)の上に、建築物躯体11が構築されており、内部領域が、間仕切壁13により、爆発の危険性を有する爆発危険領域20と、他領域30とに隔絶されている。
前記爆発危険領域20は、建築物躯体11における外壁12と接しており、当該外壁12には、所定面積である圧力放散口12aが形成されている。
【0019】
本実施形態では、間仕切壁13は、圧力放散口12aを取り囲むように、略C字形状で、4層(複数層)の区画板14が設けられている。図5に示すように、区画板14は、上端部と下端部の水平方向に設けられた溝型のランナー15と、所定間隔で垂直方向に設けられた複数のスタッド16(断面H字形状)により、裏面部又は表面部が支持されている。前記ランナー15は、開口部15aが上下に対向する向きで配置され、当該開口部15aのフランジ部15bの内側にスタッドのフランジ部16aの外側が当接しており、ランナー15の位置を変えることで、区画板14の取り付け及び取り外しが可能となっている。なお、符号17は、水平方向に設けられているずれ止め部材である。
【0020】
前記建築物10によれば、爆発危険領域20の内部で爆発が生じると、設計基準耐力の小さい区画板14が、当該爆発危険領域20に近い側から順次破壊される。このとき、区画板14の破壊によって、爆発エネルギーが吸収され、当該爆発エネルギーが減少した後に圧力放散口12aが開放される(図4参照)。前記圧力放散口12aが開放された後は、爆発危険領域20の内部の最大圧力が大幅に上昇することがないように設計されていることから、建築物10の外部への爆発の影響を抑止することができる。また、間仕切壁13を形成する他領域側30に設けられている区画板14の最外縁の一層は、破壊されることがないように設計されていることから、当該他領域30への爆発の影響を抑止することができる。
さらに、区画板14が、ランナー15、スタッド16及びずれ止め17により、取り付け及び取り外し自在に設けられていることから、区画板14の種類や数等を適宜変更することにより、建築物10の内部領域を機動的かつ自由に変更することができる。
【0021】
[その他]
なお、前記区画板14を取り付けるためのスタッド16の断面形状には制限はなく、C型41(図6(a)参照)、口型42(図6(b)参照)、CH型43(図6(c)参照)、HH型44(図6(d)参照)等を用いることができる。また、スタッド16,41〜44の配置にも制限はなく、平面視で、千鳥状配置(図3及び図6(a)参照)、直線状配置(図6(b)参照)、略S字状配置(ジグザグ配置)(図6(c)参照)、斜め方向配置(図6(d)参照)等を用いることができる。なお、直線上配置や、S字状配置は、区画板の強度が高い時に特に有効な配置である。
【0022】
以上、本発明について、好適な実施形態の一例を説明した。しかし、本発明は、前記実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜設計変更が可能である。
特に、本発明の建築物は、火薬類や可燃性ガス等の爆発危険物質を扱う工場、研究所、原子力発電施設等の種々の建築物に適用することができる。また、間仕切壁の形状等についても制限はない。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、爆発発生時の安全性を高めた、先端技術施設等に対応可能である建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】爆発発生時における、建築物の内部に作用する圧力(内部圧力)と時間との関係を示すグラフであり、(a)は、圧力放散口が開放されない場合、(b)は、圧力放散口が開放された場合を示す。
【図2】本発明の建築物において、爆発危険領域の内部で爆発が発生した場合における間仕切壁の破壊状況を示す模式図である。
【図3】本発明の建築物を示す上面方向から見た断面図であり、通常時を示す。
【図4】本発明の建築物を示す上面方向から見た断面図であり、爆発時を示す。
【図5】区画材の取り付け状況を示す斜視図である。
【図6】(a)〜(d)ともに、本発明の建築物における区画板の配置の他の実施形態を示す平面図である。
【符号の説明】
10 建築物
11 建築物躯体
12 外壁
12a 圧力放散口
13 間仕切壁
14 区画板
15 ランナー
16,41〜44 スタッド
17 ずれ止め
20 爆発危険領域
30 他領域
Claims (2)
- 間仕切壁により、内部領域が、建築物躯体における圧力放散口を有する外壁と接している爆発危険領域と、他領域とに隔絶されている建築物であって、
前記間仕切壁は、前記圧力放散口を取り囲むように層状に配置されている複数枚の区画板により形成されており、
前記建築物躯体及び前記間仕切壁は、
前記圧力放散口が開放された場合における、前記爆発危険領域の内部に作用する最大圧力に耐えうる設計基準耐力を有して形成されており、かつ、
前記各区画板は、前記圧力放散口が開放される以前に、前記爆発危険領域の内部に作用する圧力により破壊されうる設計基準耐力を有して形成されていることを特徴とする建築物。 - 前記区画板は、下地材により、取り付け及び取り外し自在に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の建築物。
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