JP3915966B2 - 電子制御サーモスタットの制御方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等に使用される内燃機関(以下、エンジンと称す)の負荷に応じて冷却水温度を可変設定するエンジンの冷却水温度制御系において、冷却水の温度制御を行うために用いられる電子制御サーモスタットの制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用エンジンにおいて、これを冷却するためには、一般にはラジエータを用いた水冷式の冷却装置が使用されている。そして、従来からこの種の冷却装置においては、自動車の燃費向上を目的として、エンジンに導入する冷却水の温度を制御できるように、ラジエータ側に循環させる冷却水量を調節する熱膨張体を用いたサーモスタット、あるいは電気制御によるバルブユニットが使用されている。
【0003】
すなわち、上記の熱膨張体を用いたサーモスタットあるいは電気制御によるバルブユニット等による制御バルブを、冷却水通路の一部に介装し、冷却水温度が低い場合に、該制御バルブを閉じて、冷却水をラジエータを経由せずバイパス通路を介して循環させ、また冷却水温度が高くなった場合は、制御バルブを開いて冷却水がラジエータを通して循環させることにより、冷却水の温度を所要の状態に制御することができるものである。
【0004】
ところで、従来、上述した冷却水の温度制御は目標温度を任意に設定することにより行われていた。たとえば市販の自動車に採用されているものには、エンジン制御ユニットで種々のパラメータ、たとえば冷却水温度、外気温、車速、エンジン回転数等から算出したデータと予め入力された温度とのマップによって制御するものがあり、その設定温度を細かくすることによりリニアな制御を達成しようとしている。
【0005】
また、エンジンが高負荷で運転されているときには、冷却水温度を低くし、低負荷であるときには水温を高くすることにより、自動車の燃費向上を図れることが知られている。
【0006】
このような冷却水の温度制御を所要の状態で行うことにより、燃費向上を図るものとして、従来から種々の制御方式を採用したものが多数提案されている。
たとえば特開平5−332136号公報には、エンジンの冷却水温度制御方法として、運転領域に応じた緻密な温度制御を行うことにより、冷却水温度の急激な温度上昇に対しても充分に対処できるようにした方法が提案されている。この従来例では、冷却水通路において、エンジンの入口側と出口側との温度を検出するセンサを設け、これらの検出値をエンジン負荷に応じて選択して用い、制御バルブの開閉を制御するようにしている。
【0007】
また、特開平10−331637号公報には、内燃機関(エンジン)の冷却制御装置および冷却制御方法として、あらゆる運転状態でも冷却水の温度変化が極力少なくなるようにし、オーバヒートに至らない程度の高温度の状態で運転しようとしたものが提案されている。この従来例は、エンジンの運転状態を示す適宜のパラメータを用い、これにより冷却水の温度降下をテーブル式のマップから読み出すようにプログラムされているものであって、これにより冷却水温度の変化を予測して温度管理を行う、いわゆる一定水温制御によるものである。
【0008】
また、特開平5−222932号公報には、吸入空気の密度を検出する圧力センサと吸気温センサからの信号を読み取り、吸入空気密度を演算し、密度が上昇するほど、エンジンの入口側温度を低くするように、密度が低下するほど、冷却水温度を高くするように制御している内燃機関(エンジン)の冷却制御装置が提案されている。この従来例では、エンジン回転数、負荷等のエンジンの運転状況を検出し、これにより予め設定してあるマップから設定温度を読み出して冷却水温度を制御する、いわゆるマップ制御を行うものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように冷却水の温度制御を一定水温制御やマップ制御により行うものは、従来から多数提案されているが、いずれも一長一短があり、あらゆる運転状態に応じた効率のよい冷却水の温度制御を行い、より一層の燃費向上を図れるものは未だ提案されていない。
【0010】
たとえば、上述した従来例による冷却水温度制御では、以下のような不具合があった。
すなわち、冷却水の温度制御を非常に細かく制御しようとすると、データの容量が大きくなったりし、制御に手間がかかり、コストがかかってしまう。
【0011】
また、エンジンの要求する状態に同期して冷却水温度を制御することは事実上不可能である。これは、エンジンの状態は刻々と変わっているから、その状況をエンジン制御ユニットECU等の中央処理ユニットCPUで演算し、サーモスタットバルブ等に信号を送って冷却水温度を目標水温に変化させようとしても、それまでの間には、水温ハンチングなどによる時間がかかることは避けられないからである。すなわち、実際にその制御を行っても、目標水温に至るまでには既に数秒以上経過することになる。
【0012】
定常運転、モード運転において、各々の有効な冷却水温度や点火時期等をエンジン制御ユニットECUで最適補正を行うことにより、燃費向上が図れると言われているが、それはある一定条件を満たしている場合であり、一般ユーザ、特に未熟なユーザが通常走行を行った場合の実際の効果が小さいことが多い。
【0013】
また、実際に運転状況に連動して冷却水温度を最適水温にリニヤに制御しようとすることは、冷却水温度感知からエンジン制御ユニットECUでの演算、制御、これに基づく電子制御サーモスタットの動き、これによる冷却水の流れの変化により目標水温の達成という経過を辿る以上、応答性の上で困難である。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、運転状態において、エンジンの負荷変動を適切に予測判断し、冷却水の温度制御を適切かつ効率よく行うことにより、燃費向上をより一層確実に、しかも運転状態のほぼ全域で達成することができる電子制御サーモスタットの制御方法を得ることを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
このような目的に応えるために本発明に係る電子制御サーモスタットの制御方法は、自動車用エンジンの負荷に応じて電子制御サーモスタットにより冷却水温度を可変設定するエンジン冷却水温度制御系における電子制御サーモスタットの制御方法であって、エンジンの状態を検出する各種センサ類からのパラメータを、エンジン制御ユニットに入力し、前記エンジン制御ユニットが、自動車の運転状態を表すパラメータの値によって、エンジン負荷が小さい低負荷であることが多いと判断したときは、前記電子制御サーモスタットで前記冷却水温度を制御するための目標設定水温を常に一定の高温に保つような制御(いわゆる高水温による一定水温制御)に切り換え、中、高負荷が多くなると判断したときは、前記電子制御サーモスタットで前記パラメータの値に対応する目標温度を前記エンジン制御ユニットから読み出して制御するような制御(いわゆるマップ制御)に、切り換え制御することを特徴とする。
【0016】
ここで、本発明に係る電子制御サーモスタットの制御方法において、エンジン制御ユニットは、自動車の運転状態を表すパラメータであるアクセル開度とエンジン回転数等が所定の条件を満足したときに、エンジン負荷が低負荷であるか、中、高負荷であるかを予測判断することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る電子制御サーモスタットの制御方法において、エンジン制御ユニットにより前記電子制御サーモスタットで前記冷却水温度を制御するための目標設定水温を常に一定の高温に保つような制御(いわゆる高水温による一定水温制御)は、スロットル開度、エンジン回転数、冷却水温度に基づいて行われることを特徴とする。
さらに、本発明に係る電子制御サーモスタットの制御方法において、前記パラメータの値に対応する目標温度をエンジン制御ユニットから読み出すことにより行われる前記電子制御サーモスタットの制御(いわゆるマップ制御)は、スロットル開度、エンジン回転数、冷却水温度、大気圧、吸入吸気量、吸入空気の湿度、吸入空気の温度のうち、少なくとも一つまたは任意の組み合わせに基づいて行われることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る電子制御サーモスタットの制御方法において、電子制御サーモスタットは、冷却水温度を任意の温度に可変制御できるものであって、エンジン冷却水路においてエンジンの入口側または出口側のいずれかに配設されていることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、たとえば燃費向上を目的としてエンジン負荷に応じて冷却水温度を制御(低負荷時には高水温に、中、高負荷時には低水温に)する場合に、エンジン負荷の予測、判断を行い、高負荷モードであるか、低負荷モードであるかを判断する。
【0020】
例としては、エンジン始動時から通常は低負荷モードとしておく。また、高速度が一定時間以上維持されたり、頻繁にスロットル開度が大きくなる場合は高負荷モードと判断する。さらに、オートマチック車であるときは、マニュアルモードやスポーツモードとなったときは高負荷モードと判断する。また、カーナビゲーションを装備した車輌であるときには、該カーナビゲーション等からの情報で高速道路や山岳路を走行しているときには高負荷モードと判断する。
【0021】
そして、高負荷モードに切り換えられたときには、負荷に応じた目標水温を実現できるようにエンジン制御ユニットから読み出しを行うことで、マップ制御を行う。これは、冷却水温度を下げる方が上げるよりは早いために、高負荷時には、高い確率で燃費最適となる低水温が実現されることになる。
また、低負荷モードであるときには、冷却水温度を高温に保つように、高水温(例えば110℃)による一定水温制御とする。これにより運転状態の大部分を占める低負荷時に燃費最適水温となる高水温が実現できる。
【0022】
ここで、電子制御サーモスタットとしては、任意に水温制御ができるものであればよく、たとえばWAXを使ったサーモスタットにPTC等の発熱体を組み合わせて冷却水温度に関係なくするWAX−PTC式、バタフライ式およびロータリバルブ式等の構造をもつものを用いる。
【0023】
【発明の実施の形態】
図1ないし図5は本発明に係る電子制御サーモスタットの制御方法の一実施の形態を示すものである。
これらの図において、まず、電子制御サーモスタットを含む自動車用エンジンの冷却水温度制御系の全体の概要を示す図3に基づき、以下に説明する。
【0024】
図3において、1はシリンダブロック1aおよびシリンダヘッド1bにより構成された内燃機関としての自動車用エンジンであり、このエンジン1のシリンダブロック1aおよびシリンダヘッド1b内には、矢印cで示した流体通路が形成されている。
2は熱交換器、すなわちラジエータであり、このラジエータ2には周知の通り流体通路2cが形成されており、ラジエータ2の冷却水入り口部2aおよび冷却水出口部2bは、前記エンジン1との間で冷却水を循環させる冷却水路3に接続されている。
【0025】
この冷却水路3は、エンジン1の上部に設けられた冷却水の流出部1dからラジエータ2の上部に設けられた冷却水の流入部2aまで連通する流出側冷却水路3aと、ラジエータ2の下部に設けられた冷却水の流出部2bからエンジン1の下部に設けられた冷却水の流入部1eまで連通する流入側冷却水路3bと、これら冷却水路3a,3bの途中の部位を接続するバイパス水路3cとから構成されている。
これらのエンジン1、ラジエータ2、冷却水路3によって冷却媒体の循環路4が形成されている。
【0026】
前記エンジン1の上部に設けられた冷却水の流出部1dと、ラジエータ2の上部に設けられた冷却水の流入部2aとの間に配置された流出側冷却水路3aの途中には、水路中の流量制御手段としての電子制御サーモスタットによるバルブユニット21が、フランジ接合によって設けられている。この電子制御サーモスタットによるバルブユニット21には、図4に示すように、例えばバタフライ式のバルブ(以下、バタフライバルブという)が使用されており、該バルブユニット21内に配置された例えば電動モータ(後述する直流モータ21a)の正逆転作用により開閉動作され、ラジエータ2側に送り出す冷却水の流量を調節できるように構成されている。
【0027】
また、前記エンジン1における冷却水の流出部1d近くの流出側冷却水路3aには、例えばサーミスタ等の温度検知素子22が配置されている。この温度検知素子22による検出値、すなわちエンジン出口水温に関する情報(以下、これを第3情報ともいう)は、変換器23によってエンジン制御ユニット(以下、ECUと称す)24が認識可能なデータに変換され、エンジン1全体の運転状態を制御するECU24に供給されるように構成されている。
【0028】
また、この図3に示す実施の形態においては、ECU24に対してバルブユニット21に配置された後述する角度センサより得られるバタフライバルブの回転角度を示す信号(以下、これを第2情報ともいう)が供給されるように構成されている。
【0029】
さらに、図示していないが、前記ECU24には、他に強制冷却手段としてのファンユニット12におけるファンモータ12bの動作状態または不動作状態を示す信号(以下、これを第1情報ともいう)、外気温を示す信号(以下、これを第4情報ともいう)、および熱交換器を通過する冷却媒体の量を示す信号、すなわち、エンジンの回転数の情報(以下、これを第5情報ともいう)等も供給されるように構成されている。
【0030】
また、前記ECU24には、後述する図13に示されるように、エンジン1の周囲の大気圧Pを検出する圧力センサ42、吸入空気量Qを検出するエアーフローメータ43、吸入空気の温度THA(=大気温度)を検出する吸気温センサ44、吸入空気の湿度Huを検出する湿度センサ45、ディストリビュータ(図示せず)に設けられ、エンジン回転数Neに対応する信号を出力する回転角センサ46、スロットルバルブの開度θthを検出するスロットル開度センサ47、ノッキングを検出すると共に点火時期を制御してノッキングの発生を防止するノックコントロールシステム(KCS)48からの検出出力が入力されるように構成されている。なお、上記圧力センサ42はエンジン1の吸気管(図示せず)の外部に設けられており、エンジン運転状態においても常にエンジン1の周囲の大気圧を検出するものである。
【0031】
前記ECU24は、これら第1乃至第5情報、さらに上述したセンサ42〜48からの情報を加え、後述する演算処理を実行し、バルブユニット21に与える指令信号を生成する。この指令信号はモータ制御回路25に供給され、モータ制御回路25はバッテリ10から供給される電流を制御し、バルブユニット21に具備された後述する直流モータに対して駆動電流を与えるように構成されている。
【0032】
また、ECU24からは、例えばリレー装置によるモータ制御回路26にもオン、オフの指令信号が供給されるように構成され、モータ制御回路26を介してバッテリー10よりファンモータ12bに対して間欠的に駆動電流を供給できるように構成されている。したがって、ファンモータ12bのオン動作によりラジエータ2は空冷による強制冷却がなされる。
【0033】
なお、図3において符号11はエンジン1の流入部1e部分に配置されたウォータポンプであり、エンジン1の図示しないクランクシャフトの回転により回転軸が回転されて冷却水を強制的に循環させるためのものである。
また、符号12はラジエータ2に強制的に冷却風を取り入れるためのファンユニットであり、冷却ファン12aと、これを回転駆動する電動モータ12bとから構成されている。
【0034】
図4は、前記したバルブユニット21の構成を模式的に示したものである。このバルブユニット21には、前記したように直流モータ21aが具備されている。この直流モータ21aは、前記モータ制御回路25からの駆動電流を受けて正方向および逆方向に回転駆動されるものであり、このモータ21aの駆動軸は減速ギヤ21bに結合されている。
【0035】
この減速ギヤ21bは、バタフライバルブ21cの駆動軸に結合されている。バタフライバルブ21cは筒状の冷却媒体通路21c1と、通路21c1中に配置された平板状のバルブ21c2により構成されている。このバルブ21c2は、冷却水の流通方向に対して、その平面方向の角度が駆動軸としての支軸21c3の回転角により、冷却水の流量が制御されるように成される。すなわち、冷却水の流通方向に対して、その平面方向の角度が0度付近で開弁状態となり、冷却水の流通方向に対して、その平面方向の角度が90度付近で閉弁状態となる。そして、その中間角度等を採ることにより、冷却水の流量はリニアに制御される。
【0036】
また、前記支軸21c3の減速ギヤ21bに対向する他端部には、角度センサ21dが結合されており、この角度センサ21dによりバタフライバルブ21cの回転角度(以下、開度とも呼ぶ)を認識することができる。
そして、角度センサ21dの出力は、前記したとおりECU24に供給されるように構成されている。
【0037】
図5は、前記ECU24の基本構成を示したものである。このECU24には、前記第1乃至第5情報等を受けて、ECUが認識可能なデジタル信号等に変換する信号処理部24aと、この信号処理部24aにより処理された入力データと、メモリ24cにテーブル形式で格納された後述する各種のデータとを比較する比較部24bと、この比較部24bによる比較結果を演算処理して、電子制御サーモスタットとしての前記バルブユニット21などに指令信号を出力する信号処理部24dより構成されている。
【0038】
以上の構成において、本発明によれば、電子制御サーモスタットによるバルブユニット21を、運転状態においてエンジンの負荷変動を適切に予測判断し、冷却水の温度制御を適切かつ効率よく行うことにより、燃費向上をより一層確実に、しかも運転状態のほぼ全域で達成することができるように制御することを特徴としている。
【0039】
すなわち、エンジン1の状態を検出する各種センサ類からのパラメータを、エンジン制御ユニットECU24に入力し、ECU24が、自動車の運転状態を表すパラメータの値によって、図1に示すように、エンジン負荷が小さくなると判断したときは、電子制御サーモスタットによるバルブユニット21を高水温(例えば110℃)での一定水温制御で制御し、また中、高負荷が多くなると判断したときは、電子制御サーモスタットによるバルブユニット21をマップ制御となるように切り換え制御するように構成している。
【0040】
ここで、上述したECU24は、自動車の運転状態を表すパラメータであるアクセル開度(スロットル開度)とエンジン回転数とが所定の条件を満足したときに、エンジン負荷が低負荷モードであるか、高負荷モードであるかを予測判断する。すなわち、一定時間のスロットル開度θthとエンジン回転数Neとを読み取り、その時の運転状態がどのモードに該当するかを判断する。例えば、Ne=50%(使用したエンジンの最高回転数を100%として)であって、θth=20%(全開を100%として)がt=10sec以上継続されたときには、高負荷モードになると予測判断して、低負荷モードからの切り換えを行う。
【0041】
高負荷モードでのマップ制御とは、例えばエンジンの運転状況としてエンジン回転数と負荷(スロットル開度)をモニタし、対応する設定水温(例えば燃費最適水温)をメモリに記憶されているテーブルから所要のデータを読み出して制御するものである。
なお、高負荷モードとは、エンジン負荷が大きく、スロットル開度θthが大きい状態をいう。そして、高負荷時の割合が多い運転状態を高負荷モードという。すなわち、中、高負荷の多いモードでは、マップ制御の効果が見込める。
【0042】
一方、低負荷モードでの一定水温制御とは、マップ制御とは異なり、冷却水温度を高水温(例えば110℃)に保つような制御である。
なお、低負荷モードとは、エンジン負荷が小さく、スロットル開度θthが小さい状態をいう。そして、低負荷時の割合が多い運転状態を低負荷モードという。すなわち、低負荷の多いモードでは、マップ制御は行わずに高水温による一定水温制御を行う方がよい。
【0043】
また、ECU24による一定水温制御は、スロットル開度θth、エンジン回転数Ne、冷却水温度Twに基づいて行われる。
さらに、ECU24によるマップ制御は、スロットル開度θth、エンジン回転数Ne、冷却水温度Tw、大気圧P、吸入吸気量Q、吸入空気の湿度Hu、吸入空気の温度THAに基づいて行われる。
【0044】
このような構成において、たとえば燃費向上を目的としてエンジン負荷に応じて冷却水温度を制御(低負荷時には高水温、中、高負荷時には低水温となるように制御)する場合に、エンジン負荷の予測、判断を行い、高負荷モードであるか、低負荷モードであるかを判断すればよい。
その例としては、エンジン始動時から通常は低負荷モードとしておく。そして、高速度が一定時間以上維持されたり、頻繁にスロットル開度が大きくなる場合は高負荷モードと判断し、低負荷モードから高負荷モードへと切り換えるとよい。
【0045】
そして、高負荷モードに切り換えられたときには、負荷に応じた目標水温を実現できるようにマップ制御を行う。これは、冷却水温度を下げる方が上げるよりは早いために、高負荷時には、高い確率で燃費最適となる低水温が実現されることになる。そして、高負荷モードと判断している限りは、マップ制御を行う。
また、低負荷モードであるときには、高水温(例えば110℃)による一定水温制御とする。これにより大部分を占める低負荷時に燃費最適水温となる高水温が実現できる。そして、低負荷モードと判断している限りは、高温による一定水温制御を行う。
【0046】
なお、オートマチック車であるときは、マニュアルモードやスポーツモードとなったときは高負荷モードと判断するとよい。また、カーナビゲーションを装備した車輌であるときには、該カーナビゲーション等からの地図情報を基にし、高速道路や山岳路を走行していると判断されるときには高負荷モードとして切り換え制御するとよい。
【0047】
以上のような制御を行うと、図2に示すように、低負荷モード、高負荷モードのいずれでも、水温理想値に比べてばらつきの少ない実水温を得ることができ、どのような運転状態にあっても燃費に最適な水温を得ることが可能で、結果として燃費向上を、効果的に図れるものである。しかも、このような制御方法は、従来から知られている既存の制御を巧みに組み合わせているので、コスト的には何ら問題ないものである。特に、このような一定水温制御とマップ制御との切り換えをエンジン負荷により行うと、運転状態のほぼ全域での燃費向上の効果があり、一般ユーザがどのような運転を行っても、燃費向上という効果を得られることになる。
なお、実験によれば、燃費最適水温を得ることにより、約5.4%の燃費向上が図れることが確認されている。
【0048】
次に、図3乃至図5に示した自動車エンジンの冷却制御装置において、電子制御サーモスタットによるバルブユニット21を一定水温制御により制御する場合の一例について、図6以降に示す主に前記ECU24が実行する制御フローにしたがって説明する。
【0049】
図6は、バタフライバルブの開度を制御するためのメインフローを示したものである。まず、エンジンが起動されるとステップS11において、バルブユニット21における角度センサ21dからの開度情報に基づき、バタフライバルブ21cの現在開度が取込まれる。
【0050】
そして、ステップS12において、後述する目標開度と現在開度とが比較され、現在開度に対して目標開度が大であるか否かが判定される。この判定結果がYesである場合には、ステップS13に移り、バタフライバルブ21cの開弁を実行する。これは、ECU24よりモータ制御回路9に指令信号を送り、バルブユニット21における直流モータ21aに対してバタフライバルブ21cが開弁する方向に一定時間駆動電流を与えることで達成される。
【0051】
そして、ステップS14においてエンジンが停止したか否かを判定し、エンジンが停止していない場合には、ステップS11に戻り、同様なルーチンを繰り返す。
【0052】
前記ステップS12において、現在開度に対して目標開度が大ではない、すなわちNoと判定されるとステップS15に移り、バタフライバルブ21cの閉弁を実行する。これは、前記と同様にECU24よりモータ制御回路9に指令信号を送り、バルブユニット21における直流モータ21aに対してバルブ21cが閉弁する方向に一定時間駆動電流を与えることで達成される。
このようにしてエンジン1が駆動中においては、常時バタフライバルブ21cの開度を調整するメインルーチンを繰り返す。
【0053】
図7は、前記メインルーチンに対して一定時間毎に割込む割込み処理ルーチンの第1の実施の形態を示したものである。
すなわち、ステップS21において例えば一定時間毎に、エンジン出口水温(第3情報)、バルブ開度(第2情報)、外気温(第4情報)が取込まれる。前記エンジン出口水温は前記温度検知素子22よりもたらされるものであり、バルブ開度はバルブユニット21における角度センサ21dからもたらされ、外気温は、図示していないが温度検知器等から得ることができる。
【0054】
そして、ステップS22において、エンジン出口水温Thと外気温との差であるΔTが求められる。そしてステップS23に移り、ラジエータファンがオン状態か否かが判断される。これは強制冷却手段としてのファン12aが稼働しているか否かを判断するものであり、ECU24自身から出力されるファンモータ12bの駆動指令信号の有無により判断することができる。
【0055】
ここで、ラジエータファンがオン状態(Yes)であると判断すると、ステップS24に移り、図8に示されたテーブル形式のマップ▲1▼より読み出し、ラジエータでの温度降下Tdを算出する。
すなわち、図8はバルブ開度に対応した各マップを示しており、その詳細な図示は省略したが、それぞれのバルブ開度に対応してラジエータ2での温度降下データTdが予め設定されている。これらの温度降下データTdは、ステップS22において求めた温度差ΔT、すなわちTh−外気温との関係において定められており、それぞれに対応した温度降下データが記述されている。したがって、このようなマップ▲1▼よりラジエータでの温度降下データTdが求められる。
【0056】
なお、図8に示されたテーブル形式のマップ▲1▼は紙面での表現上、2次元で示されているが、これらは3次元データとして図3におけるメモリ24cに格納されている。
また、図8においては紙面および説明の便宜上、9種類のバルブ開度に対応したマップを示し、またそれぞれに対応した温度降下データが設定されているが、それぞれの中間値においては、いわゆる中間補間をなすことで、それぞれに対応した温度降下データTdを求めることもできる。
【0057】
図7に戻り、ステップS23においてラジエータファンがオン状態ではない(No)と判断すると、ステップS25に移り、マップ▲2▼からラジエータでの温度降下Tdを算出する。このマップ▲2▼も上述した図8等に示されたものと同様な形態であり、結果として温度降下データTdとして複数の数値が、ラジエータファンがオン時の特性で記述されている。
なお、このマップ▲2▼も、前記マップ▲1▼と同様に図5におけるメモリ24cに格納され、マップ▲1▼とマップ▲2▼を含めて4次元のデータで構築させるようにしてもよい。
【0058】
次に、ステップS26においては、ステップS24またはステップS25において求めた温度降下データTdと、ステップS21で取込んだエンジン出口水温Thとによりラジエータ通過後の水温Tc(=Th−Td)を算出する。
【0059】
そして、ステップS27においては、ステップS26において求めたTcを用いて流量比を算出する。この流量比はエンジンに流入する冷却水の目標温度と、Tcと、エンジン出口水温Thとにより算出する。すなわち、流量比=〔(目標温度〕−Tc〕/〔Th−Tc〕の演算が成される。
【0060】
続いてステップS28に移り、マップ▲3▼からバルブ開度の基本開度D0 を算出する。このマップ▲3▼の一例を図9に示しており、前記ステップS27において求めた流量比に対応した基本バルブ開度D0 が図9に示すマップ▲3▼より得ることができる。
【0061】
このようにして求められた基本バルブ開度D0 となるように、前記バタフライバルブ21cの開度を設定すれば、理論的にはエンジンに流入する冷却水の温度が前記した目標温度に設定されることになるが、現実には種々の外乱要素により、目標温度の近傍に収束しない状態が発生する。そこで、ステップS29においてPID制御量の算出サブルーチンが実行される。このPID(追従制御量)の演算により、バルブの開度が変化して冷却水のエンジン流入口の温度変化に至るまでの時間的な遅れを補正するための微小な正負方向の開度データが算出される。
【0062】
そして、ステップS30において、バルブの目標開度が算出される。これはステップS28において算出された基本開度D0 に対して、ステップS28において算出されたPID制御量を補正値として加えるものである。
(目標開度=D0 +PID)
このようにして得られた目標開度が、図6に示すメインルーチンにおけるステップS12における目標開度として利用される。
【0063】
したがって、前記メインルーチンの作用によって、バタフライバルブ21cの開度が調整され、エンジンに流入する冷却水の温度をほぼ目標温度に設定させることができる。なお、前記ステップS29においては、PID制御量の算出サブルーチンを実行するようにしているが、このサブルーチンにおいてはPID制御に加え、ファジー制御による補正値も含めてバルブの目標開度を設定するように構成することで、より理想的なバルブの開閉制御を成すことが可能となる。
【0064】
次に、図10は、前記図6に示したメインルーチンに対して一定時間毎に割込む割込み処理ルーチンの第2の実施の形態を示したものである。なお、この図10に示した割込み処理ルーチンの大半は、図7に示した割込み処理ルーチンと同一であり、以下については図7に示すルーチンとの相違点を主に説明する。
【0065】
まず、ステップS41において一定時間毎に、エンジン出口水温(第3情報)、バルブ開度(第2情報)、外気温(第4情報)、エンジン回転数(第5情報)が取込まれる。このステップS41においては、図7のステップS21に対してエンジン回転数(第5情報)も取り込むようにした点に相違がある。
このエンジンの回転数に関する情報は、エンジンの回転力によってウォータポンプ11が駆動されており、したがってエンジンの回転数に応じて冷却水の送出度合いが変化するため、このパラメータも利用するようにしている。
【0066】
続いて、ステップS42においては、マップ▲4▼からラジエータの通過流量Lを求める。マップ▲4▼の一例が図11に示されており、エンジン回転数とバルブ開度に対応させて、冷却水のラジエータの通過流量Lを求めることができる。
そして、ステップS43に移るが、ステップS43乃至ステップS46までは、図7におけるステップS22乃至ステップS25と同一であり、その説明は省略する。ただし、ステップS45において利用されるマップ▲5▼は、図12に示されたものが利用される。
【0067】
すなわち、図12は、図8に示したバルブ開度に対応した各マップにおいて、その一つのバルブ開度に対応して記述されたラジエータの温度降下Tdを示したものである。この温度降下データTdは、ステップS43において求めた温度差ΔT、すなわちTh−外気温と、ステップS42で求めたラジエータの通過流量Lとのマトリックスになされており、それぞれに対応した温度降下データTdxxのデータが記述されている。したがって、このようなマップ▲5▼よりラジエータでの温度降下データTdが求められる。
【0068】
また、ステップS46において利用されるマップ▲6▼も、図12に示されたものと同一形態のものが利用される。ただし、この図12における温度降下データTdxxの数値は異なりラジエータファンオン時の冷却特性からの値になる。
【0069】
このようにしてマップ▲5▼またはマップ▲6▼により温度降下データTdxxを求め、以下ステップS47乃至ステップS51に示すルーチンを実行するが、これらは図7に示すステップS26乃至ステップS30と同一であり、その説明は省略する。
また、図10に示す割込み処理ルーチンによって求められた目標開度は、図6に示すメインルーチンにおけるステップS12における目標開度として利用されることも同様である。
【0070】
一方、上述した図3〜図5によるエンジン冷却水温度制御系において、ECU24により電子制御サーモスタットによるバルブユニット21を、マップ制御する場合の一例を、図13等を用いて以下に説明する。
【0071】
なお、この図13において、ECU24における中央処理ユニット(CPU)51は、各センサから出力されるデータを制御プログラムに従って入力、演算すると共に、周知のように図示しない燃料噴射弁、イグナイタ、ISCV等の各種アクチュエータ、および前記バルブユニット21を制御するための処理を行うようになっている。
【0072】
リードオンリメモリ(ROM)52は、上記制御プログラム、点火時期演算マップ等のデータを格納する記憶装置であり、ランダムアクセスメモリ(RAM)53は、各センサから出力されるデータや演算制御に必要なデータを一時的に読み書きする記憶装置であり、バックアップランダムアクセスメモリ(バックアップRAM)54は、図示しないイグニッションスイッチがオフになっても機関駆動に必要なデータ等がバッテリー電源によりバックアップされる記憶装置である。
【0073】
また、入力部55は圧力センサ42、エアーフローメータ43等の各センサからの入力信号を図示しない波形整形回路により波形整形し、この信号を図示しないマルチプレクサによりCPU51に選択的に出力するようにしている。この入力部55では、各センサからの出力信号がアナログ信号であれば、これをA/Dコンバータ57によりデジタル信号に変換する。
【0074】
入出力部56は、エンジン回転数Neの信号の基となる回転角センサ46等からの入力信号を波形整形回路により波形整形し、この信号を入力ポートを介してRAM53等に書き込む。また、入出力部56は、上記CPU51の指令により出力ポートを介して駆動する駆動回路により、図示されていない燃料噴射弁、イグナイタ、ISCV、およびバルブユニット21等を所定のタイミングで所定量駆動する。
【0075】
ここで、バスライン58は、上記CPU51、ROM52等の各素子および入力部55に接続されるA/Dコンバータ57、入出力部56を結び各種データを送るものである。
【0076】
ECU50は、上記の如く、燃料噴射弁、イグナイタおよびISCV17等の各種アクチュエータを制御する他に、バルブユニット21を適当な開度に制御する。即ち、ECU50内のCPU51は、ROM52内に格納されたプログラムに従い、以下に説明するフローチャートの処理を実行し、バルブユニット21を制御する。
【0077】
次に、図14を用いて、マップ制御による冷却水温度制御ルーチンについて以下に説明する。
同図に示す冷却水温度制御ルーチンは、所定時間毎に割り込み起動される。このルーチンが起動されると、まずステップS102において、CPU51の初期化、および上記各種センサ22、42〜48からの入力データを読み込む。
【0078】
次のステップS104ではエンジン回転数Ne、負荷Q/Neをパラメータとした燃費が最も良好となる冷却水温度THWを、予め設定されているマップ(図示せず)から求め、これを冷却水温度制御の目標値THW0 とする。すなわち、上記ステップS102における各種入力データのうち、回転角センサ46の入力データからエンジン回転数Ne、回転角センサ46およびエアーフローメータ43の入力データからエンジン負荷Q/Neの値を算出し、これを前記マップに当てはめることにより、現在のエンジン運転状態において燃費が最良となる冷却水温度THW0 が得られる。
【0079】
ここで、このマップ制御で用いるマップは、標準状態(例えば、大気の密度γa0=1.2kg/m3、吸気温度T0=20℃、吸気湿度Hu0=50%)において、エンジン回転数Ne、負荷Q/Neをパラメータとして燃費が最も良好となる冷却水温度を実験により求め、これをプロットして作成することにより得られ、ECU50内のROM52に格納されている。
【0080】
すなわち、燃費が最良となる冷却水温度は常に一定ではなく、低回転、低負荷域ほど高く、高回転、高負荷域となるに従って低くなる傾向を有する。したがって、このマップは、縦軸となるエンジン負荷を表す値は、吸入空気量Qをエンジン回転数Neで割った値に限らず、ECU50内で算出される燃料噴射量Qf、またはスロットルポジションセンサ47により検出されるスロットルバルブ開度θthであってもよい。
【0081】
次のステップS106では、水温センサ22によるエンジン出口部における現時点での冷却水温度THWs、およびKCS48による現在ノッキングが発生しているか否かのノッキング信号を夫々読み込む。また、続くステップS108では、圧力センサ42の出力信号による現時点におけるエンジン1の周囲の大気圧P、および吸気温センサ44の出力信号による現時点における吸気温度THAを夫々読み込み、吸入空気の密度(=エンジン1の周囲の大気の密度;以下、これを吸気密度と称する)γaを演算して求め、この値を読み込む。
【0082】
ここで、一般に気体の密度は、理想気体の状態方程式PV=RTより圧力と温度の関数であることが分かる。従って、本実施例では、上記の如く圧力センサ42と吸気温センサ44の出力信号を入力して所定の演算を行うことにより、上記吸気密度γaを求めることができる。すなわち、この実施の形態では、圧力センサ42と吸気温センサ44とが、吸入空気の密度を検出する密度センサとして機能している。
【0083】
また、ステップS106,S108において読み込まれた冷却水温度THWs、ノッキング信号、大気圧Pおよび吸気温度THA夫々は上記ステップS102において一度読み込まれているが、このステップS106,S108にて更新する。
【0084】
次のステップS110では、吸気密度γaに対する補正値K2 を表すマップ(図示せず)より、ステップS108にて読み込まれた現時点での吸気密度γaに対応する補正値K2 を求める。この補正値K2 とは、ステップS104で求められた標準状態(吸気密度γa0=1.2kg/m3)における冷却水温度の目標値THW0 を、現時点の吸気密度の場合における目標値に補正するための補正値である。
【0085】
標準状態での目標値THW0 は後述するようにこの補正値K2 により加算補正される。このため、上記標準状態の吸気密度γa0 における補正値K2 は0とされている。なお、このようなマップは、前述したマップと同様に、予め実験により求められたものを用いる。
【0086】
次のステップS112では上記ステップS108により読み込まれた現時点での吸気温度THAにより、上記ステップS110で算出された補正値K2 に所定のガードを設ける。すなわち、吸気温度THAに対応する上限ガードKmaxと下限ガードKminを表すマップを用いてガードされる。ここで、吸気温センサ44から得られる吸気温度THAにより上下限ガードKmax,Kminが設定され、補正値K2 が上下限ガードKmax,Kminを越える場合には、K2 =Kmax或いはK2 =Kminとされる。なお、上下限ガードKmax,Kminの基本的な考え方は、過補正防止と、寒冷時における最低水温の確保と、酷暑時のオーバーヒートの防止である。
【0087】
次に、ステップS114では、次式により冷却水温度制御の最終目標値THWfを算出する。
【0088】
THWf=THW0+K2……(1)
【0089】
次のステップS116では、上記ステップS106にて読み込まれたノッキング信号により現時点においてノッキングが発生しているか否かの判定を行う。
ノッキングが発生していない場合にはステップS118に進み、上記ステップS106にて読み込まれた現時点における冷却水温度THWsと上記ステップS114にて算出された冷却水温度の最終目標値THWfとを比較する。
【0090】
冷却水温度THWsが目標値THWfを越えてしまっている場合にはステップS120に進み、ステップS120で前記バルブユニット21を現時点の開度から更に開方向に駆動せしめる。
このバルブユニット21が開方向に駆動されると、即ちバルブユニット21の開度が増すと、高温側のバイパス水路3cよりも低温側の冷却水通路3bから流れる冷却水の割合が増加し、エンジン1の入口側における冷却水温度を低下する。このため、検出される冷却水温度THWsが最終目標値THWfに近づく方向に制御される。
【0091】
また、ステップS118にて、冷却水温度THWsが目標値THWf未満である場合にはステップS122に進み、バルブユニット21を現時点の開度から閉方向に駆動せしめる。
バルブユニット21が閉方向に駆動されると、即ちバルブユニット21の開度が減ると、上記とは反対に低温側の冷却水通路3bよりも高温側のバイパス水路3cから流れる冷却水の割合が増加し、エンジン入口側における冷却水温度を上昇せしめる。したがって、この場合にも、検出される冷却水温度THWsが最終目標値THWfに近づく方向に制御される。
【0092】
ステップS120,S122のいずれかの処理が行われた後は、再び上記ステップS106に戻され、ステップS106以降の処理が繰り返し実行される。
このように、上記ステップS118,S120、S122の処理を繰り返し実行することにより、冷却水温度THWsが最終目標値THWfと一致するようにバルブユニット21ののフィードバック制御が行われる。
【0093】
また、ステップS116においてノッキング発生有りと判定された場合には、無条件でステップS120に進んで冷却水温度を低下せしめ、燃焼室壁面の温度を低下させてノッキングの発生を防止する。
このようにこの実施の形態では、燃焼室壁面の温度を低下させてノッキングの発生を防止するため、上述したKCS48はノッキングが検出されている場合においても点火遅角を実行しないように制御されている。
【0094】
以上のように図14に示す冷却水温度制御ルーチンによれば、吸気密度γaが低いほど、前記のマップから大きい値の補正値K2 が得られ、冷却水温度THWsは、上式(1)により得られる高めの最終目標値THWfにフィードバック制御される。よって、エンジン入口側における冷却水温度が高くなり冷却能力が低下する。
【0095】
また、これとは反対に、吸気密度γaが高いほど、小さい値の補正値K2 (標準状態の吸気密度γa0 よりも高い場合には、補正値K2 は負の値)により低めの最終目標値THWfにフィードバック制御される。よって、エンジン入口側における冷却水温度が低くなり冷却能力が高まることになる。
【0096】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
たとえば上述した実施の形態で説明した電子制御サーモスタットは、目標温度を任意に設定できる構造をもつものであり、具体的には流量制御に有利なバタフライバルブとし、ベベルギヤを介してDCモータで駆動する構造をもつものを用いるとよい。しかし、これに限らず、任意の温度制御が行える電子制御サーモスタットであれば適用可能である。
【0097】
また、前述した高水温による一定水温制御やマップ制御で説明したマップとしては、図示や説明で特定されるものに限定されるものではなく、種々の形態のものを採用することは自由である。さらに、上述したそれぞれの制御での説明も、一例を例示したに過ぎず、本発明の精神を逸脱しない範囲において、種々の形態を採ることができる。
【0098】
また、上述した実施の形態では、電子制御サーモスタットによるバルブユニット21を、エンジンの出口制御を行う位置に設けた例を説明したが、エンジンの入口制御を行う位置に設けてもよいことは勿論である。
【0099】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係る電子制御サーモスタットの制御方法によれば、運転状態においてエンジンの負荷変動を適切に予測判断し、電子制御サーモスタットで冷却水の温度制御を適切かつ効率よく行うことにより、燃費向上をより一層確実に、しかも運転状態のほぼ全域で達成することができる。
【0100】
しかも、このような制御方法は、従来から知られている既存の制御を巧みに組み合わせているので、コスト的には何ら問題ないものである。特に、このような一定水温制御とマップ制御との切り換えをエンジン負荷により行うと、運転状態のほぼ全域での燃費向上の効果があり、一般ユーザがどのような運転を行っても、燃費向上という効果が得られる。
【0101】
また、本発明によれば、制御の切り換えを頻繁には行わないので、シンプルでコストもかからないものであり、しかもレスポンスという課題を満足できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る電子制御サーモスタットの制御方法の一つの実施の形態を示し、本制御方法の概要を示す概略図である。
【図2】 図1の制御を行うことによる効果を説明するための低負荷モード、高負荷モードでの冷却水温度において、実水温と水温理想値との関係を説明するための図である。
【図3】 本発明を適用する自動車用エンジンの冷却制御装置の概要を説明するための構成図である。
【図4】 図3に示す装置に用いられる流量制御手段である電子制御サーモスタットによるバルブユニットを一部断面状態で示した構成図である。
【図5】 図3に示す装置に用いられるエンジン制御ユニット(ECU)の構成を示したブロック図である。
【図6】 図3に示す装置において高水温による一定水温制御の作用を説明するためのフローチャートである。
【図7】 図6に示すルーチンに対して割込む処理ルーチンの第1の実施の形態を示したフローチャートである。
【図8】 図7に示す処理ルーチンにおいて使用されるマップの形態を示した構成図である。
【図9】 図7に示す処理ルーチンにおいて使用される他のマップの形態を示した構成図である。
【図10】 図6に示すルーチンに対して割込む処理ルーチンの第2の実施の形態を示したフローチャートである。
【図11】 図9に示す処理ルーチンにおいて使用されるマップの形態を示した構成図である。
【図12】 図9に示す処理ルーチンにおいて使用されるマップの詳細な構成を示した構成図である。
【図13】 本発明の制御方法において、マップ制御を行うときのECUと各種センサとの関係を示す構成図である。
【図14】 図13に示す装置においてマップ制御の作用を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
1…内燃機関(エンジン)、2…熱交換器(ラジエータ)、3…冷却水路、4…冷却媒体循環路、10…バッテリ、11…ウォータポンプ、12…ファンユニット、12a…冷却ファン、12b…電動モータ、21…電子制御サーモスタットによるバルブユニット、21a…直流モータ、21b…減速ギヤ、21c…バタフライバルブ、21d…角度センサ、22…温度検知素子、23…変換器、24…エンジン制御ユニット(ECU)、25…モータ制御回路、26…モータ制御回路、42…圧力センサ(密度センサ)、43…エアーフローメータ、44…吸気温センサ、45…湿度センサ、46…回転角センサ、47…スロットル開度センサ、51…中央処理ユニット(CPU)。

Claims (5)

  1. 自動車用エンジンの負荷に応じて電子制御サーモスタットにより冷却水温度を可変設定するエンジン冷却水温度制御系における電子制御サーモスタットの制御方法であって、
    エンジンの状態を検出する各種センサ類からのパラメータを、エンジン制御ユニットに入力し、
    前記エンジン制御ユニットが、自動車の運転状態を表すパラメータの値によって、エンジン負荷が小さい低負荷であることが多いと判断したときは、前記電子制御サーモスタットで前記冷却水温度を制御するための目標設定水温を常に一定の高温に保つように高水温による一定水温制御に切り換え、
    中、高負荷が多くなると判断したときは、前記電子制御サーモスタットで前記パラメータの値に対応する目標温度を前記エンジン制御ユニットから読み出して制御するようなマップ制御に、切り換え制御することを特徴とする電子制御サーモスタットの制御方法。
  2. 請求項1記載の電子制御サーモスタットの制御方法において、
    前記エンジン制御ユニットは、自動車の運転状態を表すパラメータであるアクセル開度とエンジン回転数とが所定の条件を満足したときに、エンジン負荷が低負荷であるか、中、高負荷であるかを予測判断することを特徴とする電子制御サーモスタットの制御方法。
  3. 請求項1または請求項2記載の電子制御サーモスタットの制御方法において、
    前記エンジン制御ユニットにより前記電子制御サーモスタットで前記冷却水温度を高温に保つ高水温による一定水温制御は、スロットル開度、エンジン回転数、冷却水温度に基づいて行われることを特徴とする電子制御サーモスタットの制御方法。
  4. 請求項1、請求項2または請求項3記載の電子制御サーモスタットの制御方法において、
    前記パラメータの値に対応する目標温度を前記エンジン制御ユニットから読み出すことにより行われる前記電子制御サーモスタットのマップ制御は、スロットル開度、エンジン回転数、冷却水温度、大気圧、吸入吸気量、吸入空気の湿度、吸入空気の温度のうち、少なくとも一つまたは任意の組み合わせに基づいて行われることを特徴とする電子制御サーモスタットの制御方法。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子制御サーモスタットの制御方法において、
    前記電子制御サーモスタットは、冷却水温度を任意の温度に可変制御できるものであって、エンジン冷却水路においてエンジンの入口側または出口側のいずれかに配設されていることを特徴とする電子制御サーモスタットの制御方法。
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