JP3914902B2 - 可搬型スクロール真空ポンプ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、可搬型スクロール真空ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
真空ポンプは、真空槽内部の空気を排出する目的で使われる。特に、大気圧状態から稼動し、排気側が常に大気圧である粗引き真空ポンプの性能は、真空到達度と排気速度で代表される。スクロール式を含め容積形真空ポンプは作動室と呼ぶ内部空間を真空槽側から大気側に移動させ、作動室に閉じ込めた空気を排出する。運転時の作動室は最初真空槽側に開口し、移動後に大気側に開口する。いずれにも開口しない移動中は閉じた空間になる。ただし、厳密に閉じた空間を形成することは難しく、作動室につながるわずかな内部漏洩流路が存在する。従来の真空ポンプに関連するものとしては、特開平1−237377号公報(特許文献1)に記載されたものがある。
【0003】
【特許文献1】
特開平1−237377号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
性能指標の1つである真空到達度は、真空ポンプ内部で発生する逆流に大きく依存し、この逆流を少なくすることが真空到達度を高める上で重要である。逆流の発生場所は複数の作動室をつなげるように形成される内部漏洩流路である。スクロール式ではラップの先端や側面で、相手ラップに接触間近まで接近する部分に形成される。これらの内部漏洩流路を形成する隙間は小さいほど内部漏洩が減少するので、隙間の無い接触が内部漏洩低減には理想である。しかし、ラップ相互が接触すると、ラップを損傷したり磨耗したり、そこまで至らずとも摩擦による機械損失や発熱を発生するため、微小でも隙間が必用である。更には熱変形や振動があってもラップ間接触を避けるため、ある程度の隙間を確保せねばならない。
【0005】
特に可搬型の場合には搬送中の振動での損傷を防止するため、定置型より大きなラップ間の隙間を必要とする。また、可搬型では、搬送を容易にするため軽量化が肝心であるが、振動防止のため剛性を強化すると、重量増が避けられない。
【0006】
以上述べたように、従来の真空ポンプでは、次のような併立の難しい3つの要求があった。第1は、高い真空到達度を得るため、スクロールラップ間の隙間を極力小さくしたい要求がある。第2は、可搬型で小型軽量化するため、薄肉で簡素な構造としたい要求がある。第3は、搬送時の振動によるラップ間接触を避ける上から、強固で厚肉の構造にしたい要求がある。
【0007】
本発明の目的は、可搬型に向く小型軽量構造でありながら、十分な真空到達度があり、搬送時の振動でも損傷しない高い信頼性を備えた可搬型スクロール真空ポンプの実現にある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は、互いに噛み合う渦巻状のラップを有する旋回スクロール及び固定スクロールと、前記旋回スクロールの旋回運動を規定する自転防止機構と、前記旋回スクロールをクランク軸を介して駆動する電動機を備えた可搬型スクロール真空ポンプにおいて、真空ポンプの運転停止時に前記旋回スクロールの停止位置を特定すると共にその停止位置を維持する停止位置特定手段を備え、前記特定された停止位置における固定スクロールと旋回スクロールとの接近した両ラップ間に形成される隙間を他の位置における両ラップ間の隙間より大きくしたことにある。
【0009】
上述した本発明の構成において、好ましくは、前記特定された停止位置における固定スクロールと旋回スクロールとの接近した両ラップ間に形成される隙間を前記旋回スクロールの外周面に形成した平面部により構成することである。
【0010】
また、上述した本発明の構成において、好ましくは、停止位置特定手段は、前記電動機の回転角度を検出するロータリエンコーダと、運転停止時に前記クランク軸の停止位置を維持する電磁ブレーキと、前記ロータリエンコーダの検出信号に基づいて前記旋回スクロールを特定位置に停止するように制御すると共に前記電磁ブレーキに指示を出す制御回路とを備える構成にしたことである。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例の可搬型スクロール真空ポンプについて図を用いて説明する。
【0012】
まず、可搬型スクロール真空ポンプの全体構成に関して図1を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施例の可搬型スクロール真空ポンプの縦断面図である。
【0013】
可搬型スクロール真空ポンプ50は、例えば真空槽(図示せず)から気体(例えば空気)を吸引して大気に排出するスクロール流体機構部51と、スクロール流体機構部51を駆動する電動機部52と、スクロール流体機構部51及び電動機部52を特定の位置に停止して維持する停止位置特定手段53と、を備えて構成されている。
【0014】
スクロール流体機構部51は、固定スクロール1、旋回スクロール2、クランク軸11、中間ケース13及び補助クランク21を備えて構成されている。
【0015】
固定スクロール1は、渦巻状に形成された固定スクロールラップ3と、外周部に形成された吸入口6と、中央部に形成された吐出口7とを備えて構成されている。固定スクロールラップ3は後述する旋回スクロールラップ4を噛み合わされて作動室5を形成する。吸入口6は、真空槽から空気を作動室5に図1の矢印に示すように吸入するためのものである。吐出口7は、作動室5から空気を図1の矢印に示すように大気中へ吐出するためのものである。そして、固定スクロール1は、その外周端面が中間ケース13の端面に密着した状態で、中間ケース13に固定されている。
【0016】
旋回スクロール2は、渦巻状に形成された旋回スクロールラップ4と、クランク軸11の偏心部11aを軸受8を介して嵌合するクランク軸嵌合部2aと、クランク軸11の偏心部21aを軸受9を介して嵌合する補助クランク嵌合部2bとを備えて構成されている。旋回スクロール2は、旋回スクロールラップ4が固定スクロールラップ3に噛み合わされた状態で、固定スクロール1と中間ケース13との間に旋回可能に挟持されている。
【0017】
クランク軸11は、主軸12の一側に形成され、主軸12の一部を構成している。偏心部11aは電動機15による主軸12の回転に伴って偏心回転する。これによって、旋回スクロール2は旋回力が与えられて旋回運動を行なう。
【0018】
補助クランク21は、旋回スクロール2の背面の外周近くに複数設けられている。これらの補助クランク21の偏心量は、主軸12とクランク軸11の偏心部11aとのなす偏心量に等しくなっている。補助クランク21は、旋回スクロール2に対しても、中間ケース13に対しても回転自在に取り付けられている。組み立てられた状態で、クランク軸11とすべての補助クランク21は、中間ケース13側を基準とすれば同じ方向に偏心し、偏心方向は平行を成している。旋回スクロール2の運動によっても、この各補助クランク21の偏心方向は平行を維持し、旋回スクロール2は自転することなく旋回運動するよう規定される。したがって、これら補助クランク21による機構は旋回スクロール2の自転防止機構として機能する。
【0019】
ここで、クランク軸21が取り付けられる穴の位置が旋回スクロール2の背面側と中間ケース13側とで一致していないと、平行クランク機構が成り立たず、運動が阻害(ロック)される。なお、運転停止状態でこの条件が満足されていても、真空ポンプの運転による発熱で熱変形した時にこの条件を満足しなくなる場合がある。そこで、補助クランク21に熱変形補償手段を設けておくことが望ましい。
【0020】
電動機部52は、主ケース14、電動機15、主軸12及び冷却ファン19を備えて構成されている。
【0021】
主ケース14は、円筒状に形成され、一側に中間ケース13を固定している。主ケース14の両側には、通風穴14a、14bが形成されている。通風穴14a、14bは電動機15の両側に位置して設けられている。
【0022】
電動機15は、主ケース14の内周面に固定された固定子15aと、固定子15aの内側で回転する回転子15bとを備えて構成されている。
【0023】
主軸12は中間ケース13ならびに主ケース14に設けた軸受22、23で支持され、電動機15の回転軸を兼ねている。主軸12にはつりあわせ錘16、17が備えられ、旋回スクロール2やクランク軸11等の旋回運動で発生するアンバランスを相殺するようになっている。主軸12が中間ケース13を貫通する部分には軸シール18が備えられ、主軸12の表面に沿って空気が漏洩するのを阻止できるようになっている。
【0024】
冷却ファン19は、主軸12の反クランク軸側の端部に取り付けられている。主軸12の回転に伴って冷却ファン19が回転することにより、外部の空気を通風穴14aから主ケース14内に吸込み、電動機15を冷却した後、通風穴14bを通して冷却ファン19に吸込み、それから外部に吹出すようになっている。
【0025】
停止位置特定手段53は、角度検出手段であるロータリエンコーダ24と、電磁ブレーキ(図示せず)と、真空ポンプに付属した制御回路(図示せず)とを備えて構成されている。ロータリエンコーダ24は、主軸12に取り付けられた円板と、この円板に対向して主ケース14に設置されたセンサとを備えて構成されている。
【0026】
主軸12の回転角度をロータリエンコーダ24で検出して制御回路にフィードバックし、主軸12の停止角度を特定角度となるように制御回路で制御する。この特定角度は、後述するように、旋回スクロールラップ4の安全逃げ部31が固定スクロールラップ3に最も接近する位置に設定されている。また、運転時以外の時は電磁ブレーキが作動しており、主軸12の停止角度は次の運転時まで維持される。
【0027】
次に、固定スクロール1及び旋回スクロール2の構成に関して図2から図4を参照しながら具体的に説明する。図2は図1のスクロール部分の断面図、図3は図2の特定停止位置におけるA部拡大図、図4は図2の特定停止位置以外におけるA部拡大図である。
【0028】
真空ポンプ50は、図2に示すように、固定スクロール1と旋回スクロール2とを有するスクロール流体機構部51を備えている。そして、互いの固定スクロールラップ3と旋回スクロールラップ4とを噛み合わせ、両ラップ3、4に挟まれた作動室5を形成する。
【0029】
各スクロールラップ3、4の表面の基本座標は、図2に丸印で示す各点で接触する。実際にはここに微小な隙間を有し、運転中も接触しない寸法形状となっているが、以下では接触点と称して説明する。この接触点は、固定スクロールラップ3の表面と旋回スクロールラップ4とが最も接近する部分である。図示例では、この接触点は上下にそれぞれ3箇所ずつ、合計6箇所に形成される。旋回スクロール2の旋回運動によって旋回スクロールラップ4が動いた時には、この接触点は順次ラップ表面に沿って移動する。
【0030】
特定角度で真空ポンプが停止した状態の接触点では、図3に示すように、固定スクロールラップ3の表面と旋回スクロールラップ4との間に100μm程度の隙間32を与える安全逃げ部31が設けられている。この安全逃げ部31は旋回スクロールラップ4の外周面に平面部を設けることにより形成されている。この平面部は、幅がL寸法であり、旋回スクロールラップ4の根本から先端まで全高さにわたって形成された平坦部で構成されている。このような平坦部は固定スクロールラップ3を製作する際に極めて容易に形成することができる。そして、安全逃げ部31は図2に丸印で示す6ヶ所すべてに同様に設けられている。なお、係る平面部は旋回スクロールラップ4の円弧面より大きな曲率半径の面で形成するようにしてもよい。
【0031】
これに対し、特定停止位置以外の接触点は、図4に示すように、固定スクロールラップ3及び旋回スクロールラップ4が理論曲線上にあり、微小な隙間を介して固定スクロールラップ3の表面と旋回スクロールラップ4とが接近している。その微小隙間は、例えば30〜50μm程度に設定され、安全逃げ部31における隙間の半分以下となっている。換言すれば、安全逃げ部31における接触点の隙間は他の部分における接触点の隙間の2倍以上になっている。
【0032】
図1に示すように、作動室5は正面方向から見ると三日月形状を成している。固定スクロール1には図4中で左方向に相当する正面からラップ溝に貫通させた穴である吸入口6と吐出口7を設ける。吸入口6は最外周の作動室に連通し、吐出口7は最内周の作動室に連通する。
【0033】
以上述べた構造に関し、各部材間の位置決め方法やシール、あるいはボルト等付属部品については本発明の本質に係わらないので、その説明及び図示を省略する。
【0034】
次に、かかる真空ポンプ50の動作や機能等に関して図1から図4を参照しながら説明する。
【0035】
電動機15に通電することにより、電磁ブレーキが解除され、主軸12が回転する。主軸端のクランク軸11を介して旋回スクロール2が主軸12の回転速度と同じ周期で旋回運動する。旋回スクロール2は補助クランク21の平行リンク機構で旋回運動に規定されており自転しない。旋回スクロール2の旋回運動により、スクロール流体機構部51に形成される作動室5は回転しながら外周から内周に向かって移動し、それにつれて内容積を縮小する。作動室5は、最外周にある時には吸入口6に連通するため、吸入口6から気体(主に空気)を取り込み、最内周で吐出口7に開口して吐き出す。以上の働きにより真空ポンプとして動作する。なお、この運転中に、主軸端の冷却ファン19の作用により主ケース14内部が換気され、電動機15やスクロール部分の発熱を空気中に放出する。
【0036】
スクロール流体機構部51による真空到達度及び排気速度は、作動室5の移動に逆らって作動室間の隙間(接触点における隙間)を逆流する空気の流れに影響される。従って、接触点における隙間が大きいほど真空到達度及び排気速度が悪くなる(換言すれば、真空度が低く、圧力が高くなると共に、排気速度が遅くなる)。そこで、両スクロールラップ3、4は、高精度に加工され、両スクロールラップ間の隙間を可能な限り小さくし、到達真空度を高めるようになっている(図4参照)。
【0037】
なお、旋回スクロールラップ4の一部には、図3に示す安全逃げ部31が設けられているので、この部分での逆流が多くなるが、スクロールラップ4全体に占める安全逃げ部31の範囲は部分的であり(30分の1程度であり)、逆流が増加する時間割合も同様に小さい。したがって、安全逃げ部31を設けたことによる真空到達度の低下は極めて小さいものである。
【0038】
真空ポンプ50の停止操作をすると、制御回路の働きで主軸12の回転速度が徐々に遅くなり、ロータリエンコーダ24で検出した回転角度に基づいて主軸12が特定の位置(図3参照)で停止するように制御回路が機能する。旋回スクロール2が特定位置で停止すると、電磁ブレーキが作用して回転軸12を特定位置に静止する。
【0039】
真空ポンプ50を可搬型とした場合には、搬送時に発生するある程度の振動を許容することが必要となる。特に微小な隙間を有して噛み合わされている固定スクロールラップ3と旋回スクロールラップ4間は搬送時に発生する振動により衝突しやすいため、この衝突を抑制することが必要である。即ち、このスクロールラップ3、4間の隙間は真空到達度に大きく影響するため、衝突による損傷があると、真空ポンプとしての性能が低下してしまう。本実施例においては、旋回スクロール2の停止位置における接触点のスクロールラップ3、4間の隙間のみを大きく設定しているので、搬送時に生ずるある程度の振動では衝突しないようにでき、衝突による損傷で性能が低下することを防止できる。
【0040】
なお、可動部品の振動を抑制する方法として、構造的に剛性を向上したり、各部品にストッパ機構をつけたりすることも考えられるが、これらでは真空ポンプの重量増加は避けられず、可搬型としては好ましくない。
【0041】
本実施例によれば、従来のスクロール真空ポンプの基本構成を大きく変更することなく、搬送時の振動により発生が懸念されるスクロールラップ3、4間の衝突を防止することができる。そのため、搬送に際して過度の防振手段を用いる必要がない。また、スクロール真空ポンプでは、日常的に運搬する必要性から、可搬を容易にする小型軽量であることが望まれると共に、稼動時には定置して運転する使用形態であるので、高い信頼性のもと十分に高い真空到達度を長期にわたり維持できる構造が望まれるが、本実施例ではこれらを併立して達成することができる。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、可搬型に向く小型軽量構造でありながら、十分な真空到達度があり、搬送時の振動でも損傷しない高い信頼性を備えた可搬型スクロール真空ポンプを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の可搬型スクロール真空ポンプの縦断面図である。
【図2】図1のスクロール部分の断面図である。
【図3】図2の特定停止位置におけるA部拡大図である。
【図4】図2の特定停止位置以外におけるA部拡大図である。
【符号の説明】
1…固定スクロール、2…旋回スクロール、2a…クランク軸嵌合部、2b補助クランク嵌合部、3…固定スクロールラップ、4…旋回スクロールラップ、5…作動室、6…吸入口、7…吐出口、11…クランク軸、11a…偏心部、12…主軸、13…中間ケース、14…主ケース、14a、14b…通風穴、15…電動機、16…つりあわせ錘、17…つりあわせ錘、18…軸シール、19…冷却ファン、21…補助クランク、21a…偏心部、22、23…軸受、24…ロータリエンコーダ、31…安全逃げ部、50…真空ポンプ、51…スクロール流体機構部、52…電動機部、53…停止位置特定手段。
Claims (3)
- 互いに噛み合う渦巻状のラップを有する旋回スクロール及び固定スクロールと、前記旋回スクロールの旋回運動を規定する自転防止機構と、前記旋回スクロールをクランク軸を介して駆動する電動機を備えた可搬型スクロール真空ポンプにおいて、
真空ポンプの運転停止時に前記旋回スクロールの停止位置を特定すると共にその停止位置を維持する停止位置特定手段を備え、
前記特定された停止位置における固定スクロールと旋回スクロールとの接近した両ラップ間に形成される隙間を他の位置における両ラップ間の隙間より大きくした
ことを特徴とする可搬型スクロール真空ポンプ。 - 前記特定された停止位置における固定スクロールと旋回スクロールとの接近した両ラップ間に形成される隙間を前記旋回スクロールの外周面に形成した平面部により構成したことを特徴とする請求項1に記載の可搬型スクロール真空ポンプ。
- 停止位置特定手段は、前記電動機の回転角度を検出するロータリエンコーダと、運転停止時に前記クランク軸の停止位置を維持する電磁ブレーキと、前記ロータリエンコーダの検出信号に基づいて前記旋回スクロールを特定位置に停止するように制御すると共に前記電磁ブレーキに指示を出す制御回路とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の可搬型スクロール真空ポンプ。
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