以下本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の光通信システムの基本構成を示すブロック図である。光送信機1は、入力信号に基づいて変調された信号光を光伝送路2に供給する。変調方式は、例えば、コヒーレントな光若しくはコヒーレントでない光に対する強度変調又はコヒーレントな光に対する振幅変調若しくは角度変調である。
光伝送路2により伝送された信号光は、位相共役光発生手段3に供給される。位相共役光発生手段3は、受けた信号光に対する位相共役光を発生する。
光伝送路4は、位相共役光発生手段3で発生した位相共役光を伝送して光受信機5に供給する。光受信機5は、供給された位相共役光に基づいて、光送信機1における入力信号に対応した復調信号を再生する。
光受信機5における検波方式としては、光送信機1における変調方式が強度変調である場合には、フォトダイオード等の受光器を用いた直接検波が適しており、光送信機1における変調方式がコヒーレント光に対する振幅変調又は角度変調である場合には、フォトダイオード等の受光器とローカル光とを用いたヘテロダイン検波又はホモダイン検波が適している。
位相共役光発生手段3は、非線形光学媒質6と、励起光を出力する励起光源7と、励起光源7から供給された励起光を光伝送路2から供給された信号光とともに非線形光学媒質6に供給する信号光/励起光供給手段8とを含む。
非線形光学媒質6は、2次又は3次の非線形光学効果を呈するもので、3次の非線形光学効果が生じている場合には、非線形光学媒質6においては、縮退型又は非縮退型の4光波混合等により位相共役光が発生する。
光伝送路2及び4は、波長分散が不可避的に生じる例えば石英系の光ファイバであり、この場合、本発明の実施により波長分散が補償される。光伝送路2で生じる波長分散が光ファイバ4で生じる波長分散にほぼ等しい場合、本発明の実施により効果的に波長分散を補償することができる。光伝送路2及び4が特にモード分散のないシングルモード光ファイバである場合、本発明による波長分散の補償は極めて効果的である。
次に、位相共役光について説明する。いま、+z方向に進行するプローブ光(変調されていない信号光に相当)が平面波として次の式で表されるものとする。
ここで、A
S(r)は電場の複素振幅、rは空間座標ベクトル、ω
Sはプローブ光の(角)周波数、tは時間、k
Sは波数ベクトルの大きさを表し、c.c.はその直前の項の複素共役をとることを意味する。但し、波数ベクトルの大きさk
Sは、光路の屈折率をn、真空中の光速をcとすると、k
S=ω
Sn/cで与えられる。このとき、(1)式で表される光の位相共役光は、次の(2A)式及び(2B)式で表される。
ここで、(2A)式は−z方向の進行波である反射型位相共役光を表し、(2B)式は+z方向の進行波である透過型位相共役光を表す。(1)式及び(2A)式より明らかなように、反射型位相共役光については、
が成り立ち、位相共役光が時間反転の性質をもつことがわかる。また、透過型位相共役光については、横方向の空間座標成分について時間反転の性質を持つ。
この時間反転の性質を用いると、光伝送路で受ける線形の位相歪み(例えば波長分散の影響)や偏波変動等の位相揺らぎを補償可能である。
次いで、波長分散の補償についてその原理を説明する。
図1のシステムにおいて、光送信機1から光伝送路2に供給される信号光をES1、光伝送路2から位相共役光発生手段3に供給される信号光をES2、位相共役光発生手段3から光伝送路4に供給される位相共役光をEC1、光伝送路4から光受信機5に供給される位相共役光をEC2とする。また、光伝送路2及び4の長さをそれぞれL1及びL2とする。このとき、送信信号をS(t)とし、そのフーリエ変換をF(Ω)とすると、
ここで、Ωは変調周波数を表し、ω
Sに比べて十分に小さい値を持つものとする(Ω≪ω
S)。光伝送路2の伝搬定数をβ(ω)として、次のようにω
Sに関してテーラー展開する。
(5),(6)式より、位相共役光発生手段3に供給される信号光E
S2は、Ωに関する2次までの近似において次式で与えられる。
ここで、β
0=β(ω
S)であり、信号光の群速度v
g及び群速度分散(GVD)はそれぞれ次の(8),(9)式により与えられる。
さて、位相共役光発生手段3における信号光の位相共役光への変換効率をT(Ω)、位相変位をφ(Ω)とすると、位相共役光発生手段3から光伝送路4に供給される信号光E
C1は次のように表される。
光伝送路4における伝搬定数をβ′(ω)としてω
Sに関してテーラー展開すると次の式が得られる。
(7)式を求めたのと同じようにして、光伝送路4から光受信機5に供給される位相共役光E
C2を求めると次の式が得られる。
従って、群遅延の総量は、光伝送路2及び4における遅延の和(∂β(ω
S)/∂ω)L
1+(∂β′(ω
C)/∂ω)L
2で与えられ、信号光が光伝送路2を伝搬するときの分散と位相共役光が光伝送路4を伝搬するときの分散とが、次の式の条件が満足されるときに相殺されることがわかる。
以上の結果から、光伝送路2及び4の分散特性が同じである場合には、光伝送路2の長さを光伝送路4の長さと等しくすることによって、分散の効果的な補償が可能である。また、光伝送路2及び4の分散特性が異なる場合には、(13)式を満足するように各光伝送路2及び4の長さを設定することによって、分散の効果的な補償が可能である。
(1)〜(13)式による説明は、信号光、励起光及び位相共役光の周波数が異なる非縮退型4光波混合により位相共役光を得る場合についてのものであるが、信号光の周波数と励起光の周波数が一致する縮退型4光波混合プロセスにより位相共役光が発生する場合においても、同じように分散の補償が可能である。この場合ωS=ωCとすればよい。
図2は4光波混合による位相共役光の発生原理の説明図である。位相共役光の発生には、4光波混合、特に前方4光波混合を用いるのが望ましい。
前方4光波混合においては、図2に示されるように、高い強度の励起光EP(周波数ωP)によりもたらされる3次の非線形光学プロセス、具体的には、励起光の一部と信号光の相互作用により形成される物質励起波による残りの励起光の自己回折効果により、周波数ωS、波数kSの信号光ESから、周波数ωS、波数kSの信号光ES´と、周波数ωI、波数kIのアイドラ光EI´が発生する。
特に、図2に示されるように、周波数ωP、波数kPの励起光EPを信号光と同じ方向から非線形光学媒質11に供給する場合には、kI=2kP−kSとなるから、アイドラ光は入射方向と同じ方向に出力される。
このとき、エネルギー保存則により次の関係が成り立つ。
このときの信号光、励起光及びアイドラ光の周波数配置を図3に示す。周波数軸上において、信号光及びアイドラ光は励起光を中心として対称の位置にあることがわかる。図中Δω=|ω
P−ω
S|=|ω
P−ω
I|は、信号光及びアイドラ光と励起光との周波数差を表す。
図3の原理における非線形光学効果の相互作用長をLとすれば、生成方程式は次のように与えられる。
であり、n及びχ
(3)はそれぞれ非線形媒質11の屈折率及び3次の非線形定数を表す。また、<χ
(3)>は非線形定数χ
(3)の全ての偏波状態についての平均を表す。ここでは、位相整合が成り立っている(|δk|=|2k
P−k
S−k
I|=0)とした。
(15)式において、入力アイドラ光がない場合(EI=0)を考えると、出力アイドラ光EI´が入力信号光ESの位相共役光になっていることが明らかである。また、信号光及びアイドラ光に対する利得GS及びGIは、
で与えられることがわかり、4光波混合を用いた位相共役光の発生においては、信号の増幅も同時に実現されることがわかる。従って、波長分散の補償のみならず信号の減衰に対する補償も可能になり、高性能な光中継器の実現が可能になる。
図4は図1の位相共役光発生手段3の第1実施例を示すブロック図である。図1の非線形光学媒質6、励起光源7及び信号光/励起光供給手段8にそれぞれ対応する光ファイバ21、レーザダイオード22及び光カプラ23が用いられる。
非線形光学媒質としての光ファイバ21は望ましくはシングルモード光ファイバである。この場合において、信号光の波長と励起光の波長をわずかに異ならせて非縮退型の4光波混合を生じさせるときには、光ファイバ21の零分散を与える波長が励起光の波長(レーザダイオード22の発振波長)に一致するようにしておく。
光カプラ23は4つのポート23A,23B,23C及び23Dを有している。ポート23Aには図1の光伝送路2が接続され、ポート23Bにはレーザダイオード22が接続され、ポート23Cには光ファイバ21の第1端が接続され、ポート23Dはデッドエンドにされる。光ファイバ21の第2端は図1の光伝送路4に接続される。
尚、本願明細書において「接続」という語は、動作的な接続を意味し、光学的に直接接続される場合を含み、さらに、光フィルタや光アイソレータ等の光デバイスを介して接続される場合や偏光状態を適当に調整した上で接続される場合を含む。
光カプラ23は、少なくとも、ポート23A及び23Bに供給された光をポート23Cから出力するように機能し、この光カプラ23としては、例えば、ファイバ融着型のもの、ハーフミラー、光合波器、偏光ビームスプリッタ等が使用される。
この実施例の構成によると、光カプラ23のポート23Aに供給された信号光とポート23Bに供給されたレーザダイオード22からの励起光とをともに非線形光学媒質である光ファイバ21に導波させることができるので、4光波混合により透過型の位相共役光を発生することができ、この位相共役光を図1の光伝送路4に供給することができる。
図5は図1の位相共役光発生手段3の第2実施例を示すブロック図である。
この実施例は、図4の位相共役光発生手段の第1実施例と対比して、光ファイバ21内で発生した位相共役光を、光バンドパスフィルタ31及び光増幅器32をこの順に介して図1の光伝送路4に供給している点で特徴付けられる。
光増幅器32は、例えば線形光増幅器である。光増幅器32の一つの構成例は、Er等の希土類元素がドープされたドープファイバと、励起光を出力する励起光源と、この励起光を増幅すべき光とともにドープファイバに供給する手段とを含む。
光バンドパスフィルタ31は、信号光、励起光、雑音光等の不所望な光を除去するためのものである。このような不要な光を除去することによって、例えば、レーザダイオード22からの励起光によって光増幅器32の動作が飽和されるのを回避することができ、光ファイバ21内で生じた位相共役光を十分に増幅することができる。
また、一般に位相共役光を発生させるための励起光の強度は信号光及び位相共役光の強度に比べて極めて高いので、光バンドパスフィルタ31を用いて励起光等の不要な光を除去することによって、高強度な励起光が後段の光伝送路内でさらに非線形光学効果を生じさせる恐れがない。
さらに、光バンドパスフィルタ31により不要な光を除去することによって、図1の光受信機5で受けた位相共役光に基づき復調信号を再生するに際して、励起光の存在による復調の困難を排除することができる。
後述の実験システムのように、非線形光学媒質内で効率よく位相共役光を発生させるために、図1の光伝送路2と光カプラ23のポート23Aの間に光増幅器及び光バンドパスフィルタをこの順に挿入してもよい。
尚、レーザダイオード22から供給される励起光の強度が十分高い場合には、光ファイバ21に供給された信号光の強度よりも光ファイバ21内で発生する位相共役光の強度が高くなることがあるので、このような増幅作用が生じている場合には、光増幅器32は用いなくてもよい。
図6は図1の位相共役光発生手段3の第3実施例を示すブロック図である。この実施例は、図4の位相共役光発生手段の第1実施例に対比して、励起光源としてのレーザダイオード22と光カプラ23のポート23Bとの間に偏光スクランブラ41を設けている点で特徴付けられる。
一般に、シングルモード光ファイバの伝搬モードには、偏光面が互いに直交する2つの偏光モードが存在し、各種の外乱の影響によりこれら2つの偏光モードが結合して、結果として、光ファイバの第1端に供給される光の偏光状態はこの光ファイバの第2端から出力される光の偏光状態に一致しない。従って、図1の光伝送路2としてシングルモード光ファイバが用いられている場合には、位相共役光発生手段3に供給される信号光の偏光状態は、環境変化等によって時間とともに変動する。
一方、前述した位相共役光の発生原理から明らかなように、図1の位相共役光発生手段3における信号光から位相共役光への変換効率は、位相共役光発生手段3に供給される信号光の偏光状態と励起光の偏光状態との関係に依存する。
図6の位相共役光発生手段の第3実施例によると、レーザダイオード22からの励起光を偏光スクランブラ41を介して信号光と合流させるようにしているので、供給される信号光の偏光状態が時間とともに変動する場合でも、信号光から位相共役光への変換効率を一定にして位相共役光発生手段の安定動作を実現することができる。
偏光スクランブラ41は、1/2波長板及び1/4波長板等を用いて通常通り構成され、例えば、レーザダイオード22から供給される励起光がほぼ直線偏光である場合には、その偏光面を回転するように機能する。供給される信号光の偏光状態の環境条件の変化等に起因する変動は比較的ゆっくりなので、偏光スクランブラ41の動作周波数(例えば偏光面の回転周期の逆数)を1〜100KHz程度に設定しておくことによって、十分に偏光依存性を排除することができる。
この例では、レーザダイオード22から供給される励起光に対して偏光スクランブラ41を作用させているが、図1の光伝送路2から光カプラ23のポート23Aに供給される信号光に対して偏光スクランブラを作用させるように構成してもよい。また、励起光及び信号光の双方に対して偏光スクランブラを作用させるように構成してもよい。
図7は図1の位相共役光発生手段3の第4実施例を示すブロック図である。この実施例では、図1の光伝送路2から供給された信号光を偏光面が互いに直交する第1及び第2偏光成分に分離する偏光ビームスプリッタ51と、偏光ビームスプリッタ51からの第1及び第2偏光成分に基づいてそれぞれ位相共役光を発生する位相共役光発生装置52及び53と、位相共役光発生装置52及び53からの各位相共役光を合流させる偏光合成器54とを含む。
偏光合成器54としては例えば偏光ビームスプリッタを用いることができ、この偏光合成器54で合成された位相共役光は図1の光伝送路4に供給される。
位相共役光発生装置52及び53としては、例えば図4の構成が採用される。
この実施例によると、各位相共役光発生装置52及び53に供給される信号光の第1及び第2偏光成分は共に直線偏光であるから、位相共役光発生装置52及び53において、供給された信号光(第1又は第2偏光成分)の偏光状態を励起光の偏光状態に一致させるのが容易であり、偏光依存性のない位相共役光発生手段の実現が可能になる。つまり、図1の光伝送路2から供給される信号光の偏光状態の変動にかかわらず、一定強度の位相共役光を光伝送路4に供給することができる。
図8は図1の位相共役光発生手段3の第5実施例を示すブロック図である。励起光源としてレーザダイオード22が用いられ、非線形光学媒質6として光ファイバ21が用いられている点はこれまでの第1乃至第4実施例と同じである。
この実施例では、信号光及び励起光を非線形光学媒体である光ファイバ21に双方向に導波させるために、信号光/励起光供給手段は、光カプラ61と偏光ビームスプリッタ62とを含む。
光カプラ61はポート61A,61B及び61Cを有し、ポート61A及び61Bに供給された光をポート61Cから出力する。ポート61Aには図1の光伝送路2が接続され、ポート61Bには励起光源としてのレーザダイオード22が接続される。
偏光ビームスプリッタ62はポート62A,62B,62C及び62Dを有し、ポート62A及び62Bに供給された光を直交2偏光成分に偏光分離し、これらの2偏光成分をそれぞれポート62C及び62Dから出力する。また、偏光ビームスプリッタ62は、ポート62C及び62Dに供給された光を直交2偏光成分に偏光分離し、これらの2偏光成分をそれぞれポート62A及び62Bから出力する。
ポート62Aには光カプラ61のポート61Cが接続され、ポート62Bには図1の光伝送路4が接続され、ポート62C及び62D間には光ファイバ21が接続される。光ファイバ21の途中には、1/4波長板及び1/2波長板等を用いて通常通り構成される偏光制御器63が設けられており、この偏光制御器63は、光ファイバ21に供給された光の偏光状態と光ファイバ21から出力する光の偏光状態とが一致するような制御を行う。
供給された信号光は、光カプラ61で、レーザダイオード22からの励起光と合流され、これら信号光及び励起光は、偏光ビームスプリッタ62で第1偏光成分とこの第1偏光成分の偏光面に直交する偏光面を有する第2偏光成分とに分離される。第1及び第2偏光成分は、それぞれ光ファイバ21を互いに逆方向に伝搬して、さらにもう一度偏光ビームスプリッタ62を通過するときに偏光合成されてポート62Bから出力される。
レーザダイオード22から出力される励起光の偏光面は、偏光ビームスプリッタ62で分離される第1及び第2偏光成分への、レーザダイオード22からの励起光の分配比が1:1になるように、設定される。即ち、偏光ビームスプリッタ62のポート62Aに供給される励起光の偏光面は、第1及び第2偏光成分の偏光面に対してそれぞれほぼ45°傾斜するように、レーザダイオード22が設定される。
こうしておくと、光ファイバ21に互いに逆方向に導波される信号光の直交2偏光成分に対して、励起光の直交2偏光成分がそれぞれ一致した偏光面でもって作用するので、光ファイバ21内で互いに逆方向に発生した位相共役光を偏光ビームスプリッタ62で合成してポート62Bから出力したときに、供給された信号光の偏光状態の変動にかかわらず一定強度の位相共役光を得ることができる。
図9は図1の位相共役光発生手段3の第6実施例を示すブロック図である。この実施例は、図8の位相共役光発生手段の第5実施例と対比して、光ファイバ21として偏光面保存型の定偏波ファイバ21′を用いている点で特徴付けられる。
定偏波ファイバ21′は、定偏波ファイバ21′に供給された光の偏光状態が定偏波ファイバ21′から出力される光の偏光状態に一致するように、偏光ビームスプリッタ62に接続される。この場合、定偏波ファイバ21′の主軸は、偏光ビームスプリッタ62で偏光分離される直線偏光の偏光面に平行である。この実施例によると、図8の偏波制御器63が不要になるので、装置の構成を簡単にすることができる。
図10は図1の位相共役光発生手段3の第7実施例を示すブロック図である。非線形光学媒質としての光ファイバ21と、励起光源としてのレーザダイオード22と、偏光ビームスプリッタ62と、偏光制御器63とが用いられている点は、図8の位相共役光発生手段の第5実施例と同じである。
この実施例では、位相共役光の発生に際して消費されずに残った励起光を発生した位相共役光と分離するために、図1の信号光/励起光供給手段8は、光カプラ71と1/2波長板73と偏光ビームスプリッタ62とを含む。また、励起光を供給するポートと位相共役光を取り出すポートとを分離するために、信号光/励起光供給手段は、さらに光サーキュレータ72を含む。
光サーキュレータ72は3つのポート72A,72B及び72Cを有し、ポート72Aに供給された光をポート72Bから出力し、ポート72Bに供給された光をポート72Cから出力し、ポート72Cに供給された光をポート72Aから出力するように機能する。
ポート72Aには図1の光伝送路2が接続され、ポート72Cは図1の光伝送路4に接続される。
光カプラ71は4つのポート71A,71B,71C及び71Dを有し、ポート71A及び71Bに供給された光を等分配してポート71C及び71Dから出力し、ポート71C及び71Dに供給された光を等分配してポート71A及び71Bから出力する。光カプラ71としては、例えばハーフミラーやファイバ融着型のものが用いられる。
光カプラ71のポート71Aには励起光源としてのレーザダイオード22が接続され、ポート71Bには光サーキュレータ72のポート72Bが接続され、ポート71Dは偏光ビームスプリッタ62のポート62Bに接続される。
1/2波長板73は光カプラ71のポート71Cと偏光ビームスプリッタ62のポート62Aの間の光路に挿入され、この1/2波長板73は供給された光の偏光面を90°回転させる。
この実施例では、レーザダイオード22から光カプラ71のポート71Aに供給される励起光の偏光状態と、レーザダイオード22から光サーキュレータ72を介して光カプラ71のポート71Bに供給される信号光の偏光状態とが一致するようにされている。いま、これらの励起光及び信号光がそれぞれ紙面に垂直な偏光面を有する直線偏光であるとしてこの実施例における動作を説明する。
光カプラ71のポート71A及び71Bにそれぞれ供給された励起光及び信号光は、等分配されてポート71C及び71Dから出力する。ポート71Cから出力された信号光及び励起光は、1/2波長板73で偏光面を90°回転され、紙面に平行な偏光面を有する直線偏光として偏光ビームスプリッタ62のポート62Aに供給される。
ポート62Aに供給された信号光及び励起光は、ポート62Dから光ファイバ21に供給され、光ファイバ21内で図の反時計回りに伝搬するときに同方向に位相共役光が発生する。
この位相共役光と残留した励起光は、ポート62Cから偏光ビームスプリッタ62に供給されポート62Bから出力する。
一方、光カプラ71のポート71Dから偏光ビームスプリッタ62のポート62Bに供給された信号光及び励起光は、紙面に垂直な偏光面を有しているので、これら信号光及び励起光は、ポート62Dから光ファイバ21に供給され、光ファイバ21内で図中の反時計回りに伝搬するときに位相共役光が発生する。
この位相共役光と残留した励起光は、ポート62Cから偏光ビームスプリッタ62に供給され、ポート62Aから出力される。ポート62Aから1/2波長板73に供給された位相共役光及び励起光は、偏光面を90°回転されて紙面に平行な直線偏光として光カプラ71のポート71Cに供給される。
1/2波長板73からポート71Cに供給される励起光及び位相共役光と偏光ビームスプリッタ62のポート62Bから光カプラ71のポート71Dに供給される励起光及び位相共役光とは、共に紙面に平行な偏光面を有しており、且つ、これらが経てきた光路の長さは完全に一致する。
従って、光カプラ71においてポート71C及び71Dに供給された励起光及び位相共役光のうち、励起光は主としてポート71Aから出力され、位相共役光は主として71Bから出力される。
光カプラ71のポート71Bから出力された光は、光サーキュレータ72を介して図1の光伝送路4に供給される。
本実施例によると、非線形光学媒質としての光ファイバ21内での位相共役光の発生に際して残留した励起光と発生した位相共役光とを、光フィルタ(例えば図5の光バンドパスフィルタ31)を用いることなしに分離することができる。位相共役光の発生に際して用いられる励起光の強度は信号光及び発生した位相共役光の強度に比べて極めて高いので、このような高強度の励起光を位相共役光と分離する上で、図10の実施例は有用である。
以上説明した実施例では、信号光は一つであるが、周波数分割多重された複数の信号光に対しても本発明を適用可能である。
次に、本発明を実施し得ることを実証するための実験及びその結果を説明する。この実証実験の詳細については文献(S. Watanabe, T. Naito and T. Chikama,“Compensation of Chromatic dispersion in a single-mode fiber by optical phase conjugation", IEEE photon. Technol. Lett., 5, 92-95, 1993.)に示されている。
図11は実証実験に用いられたシステムのブロック図である。信号光源81としては、発振波長λS=1546nmで駆動される3電極λ/4シフト型のDFB−LD(分布帰還型レーザダイオード)が使用された。
このDFB−LDの詳細については、文献(S. Ogita, Y. Kotaki, M. Matsuda, Y. Kuwahara, H. Onaka, H. Miyata, and H. Ishikawa,“FM response of narrow-linewidth, multielectrode λ/4 shift DFB laser", IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 2, pp.165-166, 1990.)に示されている。
信号光の変調は、送信光源81を5Gb/sNRZデータ列(PN:27−1)で直接変調された。変調方式は連続位相周波数シフトキーイング(CPFSK)であり、変調指数は0.87に設定された。
光強度が+9.1dBmの信号光が図1の光伝送路2に相当するシングルモードファイバ82(損失:0.23dB/km) に供給された。シングルモードファイバ82の長さL1は80kmであり、波長λSにおける分散D1は1324ps/nmであった。
シングルモードファイバ82により伝送された信号光は、位相共役光発生器83に供給され、ここで波長λCが1552nmである位相共役光に変換された。発生した位相共役光は、図1の光伝送路4に対応するシングルモードファイバ84により伝送され光カプラ87でローカル光源85から偏光制御器86を介して供給されたローカル光とともにヘテロダイン受信機88に供給された。
シングルモードファイバ84の損失特性はシングルモードファイバ82のそれと同等であり、その長さL2は72km、波長λCでの分散D2は1203ps/nmであった。
図12は図11の位相共役光発生器83のブロック図である。供給された信号光はErドープファイバを備えた光増幅器91により増幅され、半値全幅が3nmである光フィルタ92を通過しさらに偏光制御器93で偏光状態を制御された後、光カプラ94で励起光源95からの励起光源と合流された。励起光源95としては、波長λP=1549nmで動作する3電極型のDFB−LDが用いられた。
光カプラ94で合流された光は次いで長さが23kmで損失が0.25dB/kmである分散シフトファイバ96に供給され、この分散シフトファイバ96内においては、非縮退型の前方4光波混合プロセスによって、周波数が低い方向に変換された位相共役光が発生した。
分散シフトファイバ96に供給された信号光及び励起光の強度はそれぞれ+6.1dBm及び+7.4dBmであった。分散シフトファイバ96の零分散波長は、良好な位相整合を達成するために、λPに一致する1549nmに設定された。
発生した位相共役光は次いで通過帯域の半値全幅が0.7nmの光フィルタ97を通過した後、さらに光増幅器98で増幅されて図11のシングルモードファイバ84に供給された。
図13は図12の分散シフトファイバ96の出力光のスペクトルを示している。Aで示されるピークは位相共役光についてのもの、Bで示されるピークは励起光についてのもの、Cで示されるピークは信号光についてのもの、Dで示されるピークは周波数が高まる方向に変換された励起光についてのものである。
位相共役光のパワーは−19.0dBmであって、この値は信号光からの変換効率−25.1dBに相当している。
Bで示される励起光の強度レベルとCで示される信号光の強度レベルはほぼ一致していた。AのピークがDのピークに比べて十分高いレベルであったという結果は、励起光の波長を分散シフトファイバ96の零分散波長に一致させたことで良好な位相整合が達成されたことを示している。
受信側において、ローカル光源85として波長λL=1552nmで駆動される3電極型のDFB−LDが採用された。また、ヘテロダイン受信機88においては、バランス型の光/電気変換器が使用された。ヘテロダイン検波信号はフィルタを通過した後遅延型の復調器により復調された。中間周波信号の中心周波数は8.7GHzに設定され、位相共役光のビートスペクトルの半値全幅は約6MHzであった。
図14は実験により得られたビット誤り率特性を示す図である。黒塗りの三角印は送信光源81からの信号光を5mの光伝送路を介して直接受信部に伝送したときの特性を表し、黒塗りの丸印は送信光源81からの信号光を5mの光伝送路と位相共役光発生器83とを介して受信側に伝送したときの特性を表し、白抜きの丸印は図11のシステムを動作させたときの特性を表し、白抜きの三角印は図11のシステムから位相共役光発生器83を除いて動作させたときの特性を表している。
5mの光伝送路を用い位相共役光発生器83を用いなかったときの受信感度は、ビット誤り率10−9で−42.5dBmであり、信号光の152km(シングルモードファイバ82及び84の長さの和に相当)の伝送に際しての分散によるパワーペナルティは1.6dBであった。尚、位相共役光発生器83を用いない場合の測定に際してのローカル光源85の発振波長は1546nmであった。
図11のシステムにより位相共役光発生器83を用いることにより、パワーペナルティは0.8dB改善された。
尚、5mの光伝送路を用いた場合において、位相共役光発生器83未使用時に対して使用時のパワーペナルティが0.6dB劣化しているのは、位相共役光発生器83において信号対雑音比が劣化しているからであると考えられる。
図11のシングルモードファイバ82及び84間の分散の差を考慮すると、以上の実験結果は、位相共役光発生器83の使用により効果的な分散の補償が達成されたことを示している。
ところで、信号光が強度変調或いは振幅変調されてなる光パルス(複数の光パルスからなるパルス列を含む。)である場合、波長分散以外の原因によってパルス波形が歪むことがある。このような例としては、
(1)波長分散と光カー効果の相乗効果による波形歪み、
(2)光増幅多中継伝送における光アンプのASE雑音の累積によるランダムな位相揺らぎによる波形歪み、
等が顕著なものとして考えられる。以下、こうした波長分散以外の原因によるパルス波形の歪みにも対処し得る実施例を説明する。
(1)について
光パルスが分散媒質中を伝送する場合を考える。図15に示したように、チャープしていないパルスが分散媒質を透過する際、正常分散媒質(∂2β/∂ω2>0)の場合には、パルスの立ち上がりにおいて低周波側にシフトし、立ち下がりにおいて高周波側にシフトする(いわゆるアップ・チャーピング)。一方、異常分散媒質(∂2β/∂ω2<0)の場合には、パルスの立ち上がりにおいて高周波側にシフトし、立ち下がりにおいて低周波側にシフトする(いわゆるダウン・チャーピング)。そして、正常分散媒質においては波長が長い程群速度が速く、異常分散媒質においては波長が短い程群速度が速いため、いずれの場合にもパルス幅は拡がることになる。
他方、光の強度が大きい場合には、光カー効果によって屈折率が
だけ変化する。ここに、n
2=χ
(3)/2ε
0nは非線形屈折率とよばれる量であり、シリカファイバの場合には3.2×10
−16cm
2/W程度の大きさである。光パルスが光カー効果を受けると、
だけスペクトルが拡散する。ここにΔzは相互作用長である。これを自己位相変調(Self-phase mojulation: SPM)と称している。SPMにより光パルスの立ち上がりにおいては低周波側にシフトし、立ち下がりにおいては高周波側にシフトする(アップ・チャーピング)。そのため、この光パルスが分散媒質中で光カー効果を受けると、正常分散媒質の場合にはパルスが拡散するが、異常分散媒質の場合にはパルス圧縮が起きる。
従って、上記の波長分散の効果を考え合わせると、正常分散媒質の場合には大きなパルス拡散が発生し、異常分散媒質の場合には波長分散によるパルス拡散とSPMによるパルス圧縮が相殺しあい、どちらか効果の大きなものが残ることになる。特に、これら2つの効果をバランスさせたものが光ソリトンである。
一般に、異常分散媒質においてSPMによるパルス圧縮を加えた方がよいように考えがちであるが、最近光アンプを用いて高いレベルの光パワーで伝送するようになったことと、分散シフトファイバの開発により比較的小さな波長分散値が実現できるようになったこととから、いちがいにパルス圧縮を加えた方がよいとも言えなくなってきた。
つまり、パルス圧縮効果が大きくなり過ぎて大きな波形歪みが発生するのである。特に、NRZパルスの場合には、パルスの立ち上がり、立ち下がり部分においてのみパルス圧縮がおきるため、急激な波形変化や、極端な場合には、立ち下がり部分が立ち上がり部分を追い抜き、パルスが3つに分裂するようなことも起きる。この様子を図16に示す。
こうした問題に対しても本発明は効果があると考えられる。図17の構成において考える(ここでは伝送路は異常分散媒質とした)。構成は図1の基本構成と同じである。ここで、PCは位相共役光発生装置を表す。ただし、波長分散のみの補償では、2つの伝送路の全分散値を等しくするだけでよかったが、SPMの効果も補償するためには、伝送路の非線形屈折率の値や光パワーの値を制御することが望ましい。このとき、信号光と位相共役光のスペクトルが反転することから、分散による波形歪みもSPMによる波形歪みも補償されることになる。波長分散の補償条件は(13)式であり、SPMの補償条件は、以下の考察から明らかになる。
前述の(5)式を(6)式に展開するに際して、光カー効果により生じる項を考慮すると、(6),(7),(10),(11),(12)式は、それぞれ次に示すように(6´),(7´),(10´),(11´),(12´)式に変形される。
従って、非線形効果(光カー効果)が小さくて無視することができる場合には、前述の(13)式の条件が満足されるときに波長分散が補償されるのである。
次に、光カー効果の影響を無視することができない場合には、波長分散と光カー効果の非線形作用によりパルスの形状が歪む。このパルス形状の歪は、(20の4)式におけるΦ1(Ω,L1)と(20の5)式におけるΦ2(Ω,L2)を等しくすることにより補償することができる。ここでは、最も簡単な近似として、各々の影響を独立に補償することを考える。
この場合、波長分散の補償については前述と同様であり、光カー効果による影響は、以下の条件がなりたてば補償されることになる。
ここで、第1の光ファイバ(図1の光伝送路2に対応)及び第2の光ファイバ(図1の光伝送路4に対応)の損失係数をそれぞれα
1及びα
2とすると、
と書けるから、求める条件は、次の(20の9)式で与えられる。
ここにP
Sは第1の光ファイバ内での信号光の平均パワーを表し、P
Cは第2の光ファイバ内での位相共役光の平均パワーを表す。即ち、P
S及びP
Cは次の(20の10)式及び(20の11)式で与えられる。
このように、(13)式を満足させて波長分散を補償した上で、第1の光ファイバにおける非線形屈折率と平均パワーと光周波数とファイバ長との積を第2の光ファイバにおける非線形屈折率と平均パワーと光周波数とファイバ長との積に等しく設定しておくことにより、光カー効果によるパルス歪の補償も可能になる。
以上の各式において、n21及びn22はそれぞれ第1及び第2の光ファイバの非線形屈折率を表し、Aeffは光ファイバの有効コア面積を表す。
(20の9)式より、もしも2つの伝送路が同じ非線形屈折率をもち、信号光と位相共役光の周波数が等しい(縮退4光波混合:ωS=ωC)場合には、同じ長さにして、平均パワーを等しくすればよいことになる。しかし、実際には各パラメータは微妙に異なるし、信号光と位相共役光の入力波形は異なる(なぜなら位相共役光は歪んだ波形の線形変換光であるから)ため、各光パルスのピーク・パワーが異なることになり、結果として光カー効果の大きさが異なり、その補償に限界がでる。実際には、各パラメータ(特に平均パワーと長さ)を調整して最適化(波長分散の補償との整合も考慮して)を行うのが望ましい。
伝送路の損失が大きい場合、伝送路内で大きなパワー変動があるために、PCの前後での光カー効果に対して時間反転の性質から大きく逸脱してしまい、結果として補償が不十分となる。このような場合には、途中にいくつかの光アンプを設置して小さな損失を小さな利得で補償し、できるだけ小さなパワー変動に抑えるようにするのが望ましい。こうすることにより、上記の平均パワーによる近似に近い条件が達成され、十分な補償が可能となる。
また、伝送路に損失がない場合、或いは分布定数型の光アンプにより伝送路の損失を補償しながら伝送する場合には、時間反転条件が成り立つ結果、理想的な波形歪みの補償が実現できることはいうまでもない。
ところで、図17の構成では、PCを伝送路の途中に設けて中継器として使用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、PCを受信機の近くに設けて、プリアンプとして使用してもよい。プリアンプは、通常送信機及び受信機から遠方に位置する中継器に比べて管理が容易である。尚、波長分散及び光カー効果の影響を補償したシステムの具体例については後述する。
前述の(13)式を、分散値として通常用いられるD値を用いて書き直すと次式が得られる。ここで、λS及びλCはそれぞれ信号光及び位相共役光の波長である。
例えば、いまω
S≒ω
Cであるとし、第1の光伝送路としてD
1=1.8ps/nm/kmの分散シフトファイバを用い、これをD
2=18ps/nm/kmの第2の光伝送路により補償することを考える。このようなファイバは1550nm帯での分散シフトファイバを異常分散領域で用いるとともに、ゼロ分散波長が1310nm帯のシングルモードファイバを1550nmで用いることによって容易に実現可能である。この場合、D
2/D
1=10であるから、(20の12)式よりL
2はL
1のおよそ1/10倍に設定することになる。すなわち、もしもL
1=100kmならばL
2=10km、L
1=1000kmならばL
2=100kmに設定できる。このとき、2つのファイバの非線形屈折率がさほど違わないとすれば、第2の光伝送路における位相共役光の平均光強度を第1の光伝送路における信号光の平均光強度の約10倍の値に設定することにより、光カー効果による波形歪みの補償が可能になる。
また、位相共役光と信号光の平均光強度がほぼ等しい場合には、第1及び第2の光伝送路の長さの違いに応じて、(20の9)式を満足するように、非線形屈折率を設定すればよい。非線形屈折率が大きいファイバとして、カルコゲナイトガラスからなるファイバが知られている。
(2)について
信号光が強度変調或いは振幅変調されてなる光パルスである場合に波長分散以外の原因によってパルス波形が歪む現象は、特に、多数の光増幅器を用いて多段光増幅中継を行う場合に顕著であり、その対策が要望されている。
図18は、本発明を適用可能な光増幅中継システムのブロック図である。光送信機1から出力された信号光は、その途中に1つ又は複数の光増幅器101が挿入された光伝送路2を介して光中継器102に供給される。光中継器102で波形整形、増幅、タイミング調整等の処理をなされた信号光は、その途中に1つ又は複数の光増幅器103が挿入された光伝送路4を介して光受信機5に伝送される。
光中継器102が位相共役光発生手段3(図1参照)を含む場合に波長分散が補償されることはこれまでに説明した通りである。伝送距離が長くなって、図18に示されるように、1つ又は複数の光増幅器を用いて信号光を伝送する場合、各光増幅器において生じる自然放出光(ASE)による微小な振幅揺らぎが信号光に付加され、信号光自らのパワーによる光カー効果によって生じる位相シフトのランダム化(所謂自己位相変調(SPM))や、信号光を励起光とする自然放出光の4光波混合過程を通じて、信号光のスペクトルが拡散する。その結果がパルス波形の歪みである。
この非線形効果については、特に大陸間の光海底伝送等の長距離伝送システムにおいて盛んに研究されている。信号光のパワー及び光増幅器の利得を可能な限り小さくしたり、狭帯域の光フィルタを用いて自然放出光を低減すること等が提案されているが、有効な解決策は未だないのが現状である。
図19は図18のシステムに適用可能な位相共役光発生装置のブロック図である。非線形光学媒質6、励起光源7及び信号光/励起光供給手段8が用いられている点は、図1の位相共役光発生手段3と同じである。
この例では、光パルスOP1からなる信号光が信号光/励起光供給手段8を介して非線形光学媒質6に供給され、一方、励起光源7は光パルスOP2からなる励起光を、信号光/励起光供給手段8を介して非線形光学媒質6に供給する。光パルスOP1とOP2は同期するようにされている。
そのために、図19の装置は、光パルスOP1とOP2が同期するように励起光源7を駆動する駆動手段111をさらに備えている。
駆動手段111の一つの構成例は、基準パルスSPを出力するパルスジェネレータ112と、基準パルスSPを調整された遅延時間だけ遅延させて励起光源7に供給する可変遅延回路113と、非線形光学媒質6から出力される位相共役光を第1及び第2の分岐光に分岐する光分岐回路114と、第1の分岐光を受け、その平均パワーを検出する受光回路115と、受光回路115で検出された平均パワーが最大になるように可変遅延回路113における遅延時間を調整するタイミング回路116とを含む。
光分岐回路114で分岐された第2の分岐光は光伝送路4(図18等参照)に送出される。第1の分岐光のパワーは第2の分岐光のパワーに比べて十分小さくてよい。
駆動手段111の具体例における動作については後述する。
図19の位相共役光発生装置を図18の光中継器102に適用することによって、波長分散が補償されるという効果が生じる他、波形整形、リタイミング、増幅等が可能になる。波長分散の補償を効果的に行うためには、図18のシステムにおいて、光伝送路2における総分散量と光伝送路4における総分散量とがほぼ等しくなるようにされ、光増幅器101の数と光増幅器103の数は例えば等しくされる。
また、図19の装置は、光送信機1と光受信機5を結ぶ光伝送路における光受信機5に近い所に配置して使用することもできる。この場合、波形改善等を行った直後に受信することができるので、高性能な前置増幅器を提供することができる。或いは、図19の装置は光受信機5に含まれていてもよい。その具体例については後述する。
尚、図18においては、光中継器102が1つだけ図示されているが、光送信機1と光受信機5を結ぶ光伝送路の途中に光中継器を複数設けてもよい。
次に、図19の装置において波形整形等がなされる原理について詳細に説明する。図2の説明並びに(14)式乃至(20)式から明らかなように、4光波混合においては、励起光EPと信号光ESが非線形光学媒質中で相互作用する結果、EPES *に比例した物質励起波ができ、これによりさらに励起光EPがkI=2kP−kSの方向に自己回折されてアイドラ光(位相共役光)EIが生じる。結果として、アイドラ光EIの複素振幅AI(t)は次式で与えられる。
ここで、A
P1(t)及びA
P2(t)はそれぞれ励起光パルスの複素振幅を表す。励起光パルスの複素振幅が2つあるのは、励起光の作用が2光子過程に相当するからである。つまり、励起光は4光波混合過程において2光波に相当する。
(21)式から、アイドラ光(位相共役光)が信号光パルスと励起光パルスの重なり領域で発生していることがわかる。発生するアイドラ光パルス(位相共役光パルス)II(t)は次式で与えられる。
ここに、G
I0はアイドラ光の利得を表し、t
1及びt
2は励起光パルスの信号光パルスに対する時間ずれを表す。励起光源が1つである場合には、t
1及びt
2は等しい値をとるが、2つの励起光源を用いる場合を含む一般形においては、t
1及びt
2は必ずしも一致しない。
ここでは、励起光パルスのパルス幅は非線形光学媒質の応答時間よりも十分に長い場合を想定している。この場合、物質系からの応答は十分に得られ、光波と媒質との非線形相互作用による分極は定常値に達する。
従って、発生する位相共役光のパルス幅はプローブ光(信号光)のパルス幅と等しいか、それよりも短くなる。また、励起光パルスが対称形である場合には、供給された信号光のパルス波形が対称形でないとしても、発生する位相共役光のパルス波形は対称形に近づく。
このことを確認するために、半値全幅(FWHM)がTSの信号光とパルス幅がTPである矩形波の励起光パルスとによる4光波混合を考える。但し、各パルスの中心は時間的に一致している(t1=t2=0)とする。このとき、(22)式より次式が得られる。
ここで、τは励起光パルスの中心からの時間ずれを表す。また、簡単のため励起パルスの強度は規格化した。
(23)式の結果を図20及び図21に示す。
図20は、励起光のパルス幅が信号光のパルス幅にほぼ等しいか或いはそれよりも大きい場合における各光パルスの波形図である。同図において、(A)は信号光パルス、(B)は励起光パルス、(C)は位相共役光パルスを表す。
励起光のパルス幅が信号光のパルス幅にほぼ等しい場合には、発生した位相共役光のパルス形状は供給された信号光のパルス形状にほぼ一致する。尚、励起光のパルス幅が信号光のパルス幅よりも大きい場合にも、位相共役光のパルス形状は信号光のパルス形状にほぼ一致する。
図21は励起光のパルス幅が信号光のパルス幅よりも小さい場合の各波形図を表す。同図において、(A)は信号光パルス、(B)は励起光パルス、(C)は位相共役光パルスを表す。
励起光のパルス幅が信号光のパルス幅よりも小さい場合には、発生する位相共役光パルスの形状はその幅が励起光のパルス幅により制限されたものになる。従って、信号光に基づき位相共役光を発生させるときに、パルス幅を減少させて波形整形を行うことができる。
図20及び図21による説明においては、使用する励起光のパルス形状が単純な矩形波であるとしたが、本発明はこれに限定されず、任意パルス波形の励起光を用いて信号光に対する波形整形を行うことができる。
図21により説明した原理に従って、パルス波形整形を行う場合、非線形光学媒質に供給される信号光に対して、供給する励起光を同期させることが要求される。この同期を行うための駆動手段111(図19参照)の動作の具体例を説明する。
パルスジェネレータ112が出力した基準パルスSPは、可変遅延回路113により、調整された遅延量だけ遅延されて、タイミングを調整された基準パルスSP′となって励起光源7に供給される。励起光源7は、例えばレーザダイオードを用いて構成され、供給された遅延パルスに同期した励起光パルスOP2を出力する。
信号光パルスOP1及び励起光パルスOP2が非線形光学媒質6に供給されると、信号光パルスOP1と励起光パルスOP2とが時間軸上で重なり合っているときに位相共役光パルスPCが非線形光学媒質6から出力される。
非線形光学媒質6から出力された位相共役光パルスPCは、その一部を光分岐回路114で分岐され、その分岐光の平均パワーは受光回路115によって検出される。
信号光パルスOP1と励起光パルスOP2とが完全に同期したときに、受光回路115で検出される平均パワーが最大になる。従って、受光回路115で検出される平均パワーが最大になるように、タイミング回路116が可変遅延回路113における基準パルスSPのタイミングを調整することによって、信号光パルスOP1と励起光パルスOP2を同期させることができる。
尚、図示はしないが、駆動手段111の他の具体例としては、供給された信号光パルスからクロック成分を抽出し、このクロック成分に基づき励起光源7を駆動するように構成されるものがある。
信号光パルスが後述するソリトンパルスである場合には、パルス間の相互作用によりパルス間隔が変動し、クロック抽出が困難になる場合があるので、このような場合には、図19に示される駆動手段111の具体例が適している。
図22は、図18の光送信機における信号光の符号形式(コード)がNRZコードである場合の各光パルスの波形図である。図18の光増幅中継システムにおける光中継器102は、図19の位相共役光発生装置を有しているものとする。
図22において、(A)は光送信機1から送出される送信信号光パルス、(B)は光中継器102が受ける伝送信号光パルス、(C)は光中継器102において供給される励起光パルス、(D)は光中継器102から送出される位相共役光パルスのそれぞれの波形を表している。
信号光パルスがビットレートB、幅T(T=1/B)のNRZパルスである場合には、同じビットレートでパルス幅T′(T′<T)の全オンRZパルスからなる励起光パルスを用いることにより、生成される位相共役光パルスのパルス幅T″をTよりも細くすることができる。
図22の(B)に示されるように、伝送信号光パルスのパルス幅が波長分散やSPMの影響により送信信号光パルスに対比して拡がっている場合には、T″≒1/Bとなるように波形整形が可能である。また、多くの場合、伝送信号光パルスのタイミングも微妙にずれているが、このずれも図22の波形整形過程において修正される。
図23は信号光がRZコードである場合の各光パルスの波形図である。図23の(A)〜(D)はそれぞれ図22の(A)〜(D)に対応している。
信号光パルスがビットレートB、幅TのRZパルスである場合には、同じビットレートでパルス幅T′(T′≦T)の全オンRZパルスからなる励起光パルスを用いることにより、位相共役光パルスのパルス幅T″をTよりも小さくすることができる。
伝送信号光パルスのパルス幅Tが波長分散やSPMの影響により送信信号光パルスにおける当初の設定値d/B(dデューティ比)よりも拡がっている場合には、この方法によりT″≒d/Bとなるように波形整形が可能である。
ここで、このような波形整形をすることの効果について考える。まず第1に、波形整形によりSN比が改善される。コヒーレント光を用いた光通信においては、損失を受けても量子雑音によって決まるSN比(所謂ショット雑音限界)は保存されるので、受信機で検波した際の送信信号に対するSN比の低下は、主として、光伝送路における付加雑音若しくは隣接パルス間の干渉又は受信機における熱雑音によってもたらされる。
このうちの付加雑音に関しては、光増幅器が放出するASE雑音が最も大きい。また、隣接パルス間の干渉は、波長分散やSPMによる波形歪みが主な原因である。
位相共役光発生装置自身も増幅機能を有していることがあるので、これによる雑音の累積は増加する。しかしながら、位相共役光発生装置において波形整形を行うことにより、隣接パルス間の干渉雑音を減らすことが可能になるので、結果としてSN比を回復可能である。この様子を図24に示す。
図24は波形整形の効果の説明図であって、(A)は波形劣化した伝送信号光パルスの波形図、(B)は波形整形された位相共役光パルスの波形図を表している。波形整形によって干渉雑音を除去可能であることがわかる。
第2に、本発明による波形整形の結果、伝送信号光パルスの時間軸上の揺らぎを補正して、リタイミングされた位相共役光パルスを生成することができる。従って、この位相共役光パルスを受信側に伝送したときに、受信に際しての位相余裕を大きくすることができる。
ところで、最近、光ソリトンを用いた光通信の研究が盛んになされている。光ソリトン通信の場合にも、信号光は自らの電界の2乗に比例する位相シフトを受けるが、光増幅中継する場合には、光増幅器のASEによるランダムな強度変調によるランダムな位相変調により、パルスのランダムな群速度揺らぎが発生し、これにより受信パルスのタイミングずれが生じ、伝送特性が劣化する。
この劣化による伝送速度と伝送距離の積の限界はGordon-Haus 限界と呼ばれ、光ソリトン通信の限界を与えるものとなっている。これを克服するための各種の方策が検討されているが、いずれもトリッキーなものであり、実現にはほど遠い。
本発明によると、前述の説明から明らかなように、パルスのタイミングを補正することができるので、この原理を用いてGordon-Haus 限界を越える伝送を実現することができる。これを図25により説明する。
図25は信号光がソリトンパルスである場合の各光パルスの波形図である。(A)は送信信号光パルス、(B)は伝送信号光パルス、(C)は励起光パルス、(D)は位相共役光パルス、(E)は出力一定化パルスにそれぞれ対応する。
光送信機から出力される送信信号光はビットレートBのソリトンパルスであるとする。この信号光が伝送された結果、ビットレートがB+ΔBであるようにタイミングが揺らいでいる場合、同じビットレートBの全オンRZパルスからなる励起光パルスを用いることによって、タイミング揺らぎがΔBよりも小さなソリトンパルスからなる位相共役光パルスを生成可能である。
この場合、発生する位相共役光パルスの波高は、信号光パルスと励起光パルスのタイミングずれに依存するので、位相共役光パルスの波高のばらつき(図25の(D)参照)を補償するために、出力一定光増幅器を用いるのがよい。
このような光増幅器の例としては、出力飽和領域にあるファイバ型光増幅器があげられる。或いは、応答速度の速い半導体型光増幅器の駆動電流へのフィードバックを行うことにより、光増幅器出力が一定になるようにしてもよい。さらに、過飽和吸収体と線形光増幅器を組み合わせたり非線形光学効果を用いて出力一定光増幅器を構成してもよい。
図26は、図18のシステムの遠隔操作に適した改良例を示すブロック図である。光中継器102′に図16の位相共役光発生装置が適用される点については図18のシステムと同じであるが、この例では、励起光源として、遠隔地に設置されたソリトン光源121を用いている。
前述した波形整形の原理においては、励起光パルスはできるだけ形がきれいで高いパワーであることが望ましい。ところが、図18及び図26に示されるように、多段の光増幅中継を行う場合には、光中継器を人が容易に近づくことができない場所(例えば山奥や海中)に設置されることが多いので、光中継器についての監視が要求される。
その一方で、監視機能に関する構成をできるだけ簡素にしたいという基本的な要求もある。こうした観点から、遠隔地に設置された光中継器に本発明の位相共役光発生装置を適用しようとする場合には、励起光パルス用の励起光源を遠隔伝送用に構成することが要求されるのである。
励起光パルスを遠隔伝送する場合、分散等の影響による励起光パルスの波形劣化を防止するために、励起光パルスをソリトンパルスにすることが望ましい。ソリトンパルスは光ファイバの波長分散や位相シフトとバランスした形で伝送するので、パルス波形を保存した状態で光中継器に伝送することができる。
但し、パルス幅はパワーの減少に従って拡がるので、光ファイバの損失が問題になる程遠距離の伝送を行う場合には、ソリトン光源121におけるパルス幅を予め所要のものよりも狭くしておくか、励起光パルス伝送用の光伝送路の途中で光増幅器を用いて伝送損失を補償する等の対策がなされることが望ましい。
尚、ソリトン光源は、例えば、次に掲げる文献に開示された公知技術を用いて構成することができる。
(1) G. Eisenstein et al., “Active mode-locking characteristics of InGaAsP single mode fiber composite cavity lasers", IEEE J. Quantum Electron., vol. QE-22, pp.142-148, 1986.
(2) R. S. Tucker et al.,“40 GHz active mode-locking in a 1.5 μm monolithic extended-cavity laser",Electron. Lett., vol.25, pp.621-622, 1989.
(3) M. C. Wu et al.,“Transform-limited 1.4 ps optical pulses from a monolithic colliding-pulse mode-locked quantum well laser", Appl. Phys. Lett., vol. 57, pp.759-761, 1990.
(4) M. Suzuki et al., “Transform-limited 14 ps optical pulse generation with 15 GHz repetition rate by InGaAsP electroabsorption modulator", Electron. Lett., vol. 28, pp.1007-1008, 1992.
(5) K. Iwatsuki et al., “Generation of transform-limited gain-switched
DFB-LD pulses < 6 ps with linear fiber compression and spectral window",Electron. Lett., vol. 27, pp.1981-1982, 1992.
(6) K. Smith et al.,“Totally integrated erbium fiber soliton laser pumped by laser diode", Electron. Lett., vol. 27, pp.244-246, 1991.
(7) D. J. Richardson et al.,“Pulse repetition rates in passive, selfstarting, femtsecond soliton fiber laser", Electron. Lett., vol. 27, pp.1451-1453, 1991.
(8) S. V. Chernikov et al., “Tunable source of 4 ps to 230 fs solitons
at repetition rates from 60-200 Gbit/s", OAA'92, Paper PD7, 1992.
本発明の位相共役光発生装置の応用例として、時分割多重(TDM)された光パルスの分離(DEMUX)への適用がある。光パルスが高速になるにつれ、実際に変復調を行うエレクトロニクスの動作速度の限界に近づいてゆく。これを打破するための一例として、光TDMと称される方法が提案されている。この方法では、光デバイスの帯域が十分に広いことを利用している。
具体的には、図27に示されるように、別チャネルの光パルスを、その一方のタイミングを調整しながら一つのチャネルに合流させるのである。
一方の信号光発生器131からの信号光パルスOP11は、光カプラ等からなる光マルチプレクサ134を介して光伝送路2に送出される。他方の信号光発生器132からの信号光パルスOP12は、遅延時間が可変な光遅延回路133を通り光マルチプレクサ134を介して光伝送路2に送出される。
信号光パルスOP11とOP12とが同一速度であるとすれば、光遅延回路133における遅延時間を適切に設定することによって、光伝送路2に送出される信号光パルスOP13の速度を信号光パルスOP11及びOP12の速度の2倍にすることができる。
このように、図27に示された光送信機は高速化に適したものであり、この光TDMを繰り返し行うことにより、原理的には伝送速度の上限はない。
しかしながら、いくら高速な信号光パルスを生成することができたとしても、光受信機において光パルスの分離(DEMUX)を行い得なければ意味がない。本発明の位相共役光発生装置は、このような光パルスの分離に適用することができる。具体的には次の通りである。
図28は、TDM光パルス(時分割多重された光パルス)の分離に適した光受信機の例を示すブロック図である。例えば図27の光送信機において生成された高速な信号光パルスOP13は、光カプラ等からなる信号光/励起光供給手段8を介して非線形光学媒質6に供給される。
励起光源7から信号光/励起光供給手段8を介して非線形光学媒質6に供給される励起光パルスOP14は、信号光パルスOP13に対して、多重数(この例では2)の逆数に比例した速度を有している。
励起光源7がパルスジェネレータ112からの基準パルスSPに基づいて駆動される点は、図19の位相共役光発生装置におけるのと同じである。この場合、基準パルスSPは前述したような励起光パルスOP14が得られるように速度を調整されている。
この構成によると、複数チャネルの低速光パルスを時分割多重してなる信号光パルスOP13の内、励起光パルスOP14が同期する低速光パルスのみについて位相共役光パルスPCを生じさせることができるので、低速パルスのいずれかを選択的に取り出すことができる。つまり、時分割多重された光パルスの分離が可能になるのである。
選択的に取り出された、低速光パルスに対応する位相共役光PCは、光分岐回路114で分岐され、その分岐光の一方は受信部141に供給されてデータが再生される。分岐光の他方は、受光回路115に供給され、図16で説明した原理に従って、励起光パルスOP14と信号光パルスOP13における低速光パルスとの同期ずれが生じないように、基準パルスSPのタイミングが調整される。
次に図29及び図30により、供給される信号光の偏波状態にかかわらず位相共役光の生成効率を安定に保つことができる位相共役光発生装置の実施例を説明する。これらの位相共役光発生装置は、図1のシステムにおける位相共役光発生手段3として用いることができる他、図19の装置或いは図28の光受信機にも適用可能である。
図29は位相共役光発生装置の第8実施例を示す図である。信号光/励起光供給手段としては、光カプラ151が用いられ、非線形光学媒質としては定偏波ファイバ152が用いられている。供給された信号光と励起光源7からの励起光は、光カプラ151で合流して定偏波ファイバ152に入力する。
この例では、励起光は予め定められた偏波面を有する実質的な直線偏波であり、この予め定められた偏波面が定偏波ファイバ152の主軸に対してほぼ45°傾斜するように励起光源7の配置等が設定される。
こうしておくと、励起光パワーの直交2偏波成分を等しく一定に保つことができるので、任意の偏波状態の信号光に対して位相共役光の生成効率を安定に保つことができる。
図29の実施例では、非線形光学媒質としての定偏波ファイバ152の長さが長くなるのに従って、定偏波ファイバ152の2つの主軸方向の偏波に対する屈折率のわずかな違いによる位相ずれが生じる可能性があるので、励起光パワーを高くするか或いは定偏波ファイバ152の非線形定数を大きくすることによって、短い定偏波ファイバ152で足りるようにすることが望ましい。
この直交2偏波成分間の位相ずれの程度は、定偏波ファイバ152の材料や構造により決定される。標準的なファイバにおいては、10mの長さに対して約17psのずれが発生する。従って、ビットレートが60Gb/s程度の信号光に対して1ビットの偏波分散となって現れる。この場合、実際に伝送可能な信号光の伝送速度は10Gb/s程度になる。定偏波ファイバの長さが長くなればさらに伝送可能な信号光の伝送速度は低下する。
次に、非線形光学媒質としての定偏波ファイバの長さを短くすることなしに高ビットレートの信号光に対応可能な実施例を説明する。
図30は位相共役光発生装置の第9実施例を示す図である。この実施例は、図29の実施例と対比して、非線形光学媒質がほぼ同じ長さの2本の定偏波ファイバ152A及び152Bからなる点で特徴付けられる。
定偏波ファイバ152A及び152Bはこれらの主軸同士が互いに直交するように接続される。励起光は予め定められた偏波面を有する実質的な直線偏波である。実質的な直線偏波を出力する励起光源としては、例えばレーザダイオードを用いることができる。
光カプラ151で合流した信号光と励起光は、定偏波ファイバ152Aの第1端に供給される。このとき、励起光の偏波面が定偏波ファイバ152Aの主軸に対してほぼ45°傾斜するように、励起光源7の配置が設定される。
定偏波ファイバ152Aの第2端は定偏波ファイバ152Bの第1端に接続される。定偏波ファイバ152Bの第2端からは、定偏波ファイバ152A及び152B内で生じた位相共役光が出力する。
この実施例では、ほぼ同じ特性を有する定偏波ファイバ152A及び152Bの長さを等しく設定しているので、定偏波ファイバ152Aで生じた直交2偏波成分間の位相ずれは定偏波ファイバ152Bにおいて生じる直交2偏波成分間の位相ずれと相殺され、定偏波ファイバ152Aと152Bの総長が長い場合でも、これによって信号光の伝送速度が制限されることがない。
次に、本発明により波長分散及び光カー効果の影響を補償したシステムの具体例について説明する。
即ち、図17のシステムの幾つかの具体例である。
図31は図17のシステムの第1の具体例を示すブロック図である。ここでは、線形光増幅器による光増幅多中継伝送システムにおいて、各中継器間の伝送路の途中に位相共役光発生装置を置いて、その前後のファイバによるパルス歪を補償しながら伝送する構成を示している。具体的には次の通りである。
光送信機1と光受信機5を結ぶ光伝送路の途中に、複数の位相共役光発生装置PCと複数の線形光増幅器LAとを設けている。光伝送路はこの例ではシングルモードファイバからなる。
即ち、光送信機1と光受信機5の間に、光送信機1の側から、シングルモードファイバSMF−m1と位相共役光発生装置PC−mとシングルモードファイバSMF−m2と線形光増幅器LA−mとの組(mは自然数)をN組この順に設けている。
任意の位相共役光発生装置PC−mの上流側のシングルモードファイバSMF−m1の波長分散と下流側のシングルモードファイバSMF−m2の波長分散とが同符号で且つほぼ等しい値にしておくことによって、システム全体において波長分散を累積的に補償することができる。
また、波長分散を補償した上で、任意の位相共役光発生装置PC−mの上流側のシングルモードファイバSMF−m1における平均光パワーと光周波数と非線形屈折率と長さの積が下流側のシングルモードモールドSMF−m2における平均光パワーと光周波数と非線形屈折率と長さの積に等しくしておくことによって、波長分散及び光カー効果の影響を累積的に補償することができる。
図32は図17のシステムの第2の具体例を示すブロック図である。この実施例では、光送信機1′の内部に第1の光伝送路としてのシングルモードファイバSMF−1と位相共役光発生装置PCとを設け、このシングルモードファイバSMF−1に光変調器OMからの波長λSの出力光をパワーP1 で供給する。シングルモードファイバSMF−1の長さはL1、分散はD1、非線形屈折率はn21である。
位相共役光発生装置PCに供給された光は、波長λCの位相共役光に変換され、この光はパワーP2でこのシステムの伝送路となる第2の光伝送路としてのシングルモードファイバSMF−2により光受信機5に伝送される。シングルモードファイバSMF−2の長さはL2、分散はD2、非線形屈折率はn22である。
この場合、前述の(20−9)式及び(20の12)式を満足するように各パラメータを設定することで、波長分散及び光カー効果の影響を補償することができる。尚、(20の9)式を適用するに際して、光周波数ωS及びωCはそれぞれ波長λS及びλCの逆数に比例する。
この実施例によると、光受信機5において歪のない光パルスを受信することができ、しかも、位相共役光発生装置PCを中継器として使用する場合のように位相共役光発生装置PCが伝送路の途中にないので、偏光依存性等に対する考慮が不要である(光送信機内であれば一定偏光の状態を確保しやすい)。
図32のシステムを実施する場合、光送信機1′内に設けるシングルモードファイバSMF−1のD1及びn21をできるだけ大きくすることが望ましい。これにより、比較的小さい値のD2及びn22を有するシングルモードファイバSMF−2を長く設定することができるので、長距離伝送が容易になる。
図33は図17のシステムの第3の具体例を示すブロック図である。この実施例では、位相共役光発生装置PCと第2の光伝送路としてのシングルモードファイバSMF−2を光受信機5′内に設け、シングルモードファイバSMF−2から出力する光を光検波器ODで検波するようにしている。従って、この場合には、第1の光伝送路としてのシングルモードファイバSMF−1がこのシステムの伝送路として機能する。
この実施例においても、図32の実施例と同様に各パラメータの条件を設定しておくことによって、波長分散及び光カー効果の影響を補償することができる。尚、図32の実施例と対比して、シングルモードファイバSMF−1内における偏波変動を考慮すると、光受信機5′には偏波変動に対する対策が要求されるが、位相共役光発生装置PCにおいて励起光による波長選択機能があることを考えると、図33のシステムは光周波数多重伝送システム等において有望な構成である。
波長分散及び光カー効果の影響を補償するようにした以上の実施例では、波長分散による光パルスの波形歪の補償とSPMによる光パルスの波形歪の補償とを独立に行うという近似のもとでシステムを構築している。実際の実験結果からも、このような近似で定性的な説明はできるし、効果も確認されている。しかし、より厳密な補償を行うためには、もう少し詳細な考察が必要である。
ここでの考え方の基礎は、光位相共役による補償は位相共役光の時間反転性を用いているという点である。波長分散についてはその定常的な性質から完璧な補償が可能であるが、SPMについては、光カー効果がピークパワーに依存するため、補償の度合いが光伝送路における長手方向のパワー分布に依存することになる。その意味では、伝送路の損失が無視できる場合、或いは分布定数的な光増幅器を用いる場合には時間反転のパワー分布を得ることが可能である。
しかし、無視できない伝送路の損失の補償を最も一般的な集中定数的な光増幅器により行う場合には、位相共役光発生装置の前後におけるパワー分布が対称とはならないから、正確には光カー効果に対する時間反転性もなりたたないことになる。また、光の電界Eは波動方程式に従って伝搬していくが、波長分散と光カー効果がともに存在する場合には、この2つの効果が互いに影響しながら波動が伝搬する。実際、伝送路中の光強度変動等を含んだより厳密な議論をするためには、以下の非線形シュレジンガー方程式でよく説明できることが示されている。
ここに、(z,T)は光パルスと一緒に動く座標系を表し、Γは減衰定数を表す。これをもう少し現象論的に見てみる。位相共役光発生装置の前後では、信号光と位相共役光とでスペクトル及びチャーピングの符号が反転する。また、パルスの歪はこのチャーピングと分散の相互作用であることは前に示した通りである。従って、SPMを補償するためには、チャーピングを補償する必要がある。その補償条件は次式で与えられる。
問題は、伝送方向の積分の中に時間微分が含まれていることである。これは、光の振幅変動に依存してチャーピング量が異なること、即ちパルスの形状によってチャーピング量が異なることを表している。従って、光のパワー分布が位相共役光発生装置の前後で対称でない場合には、チャーピングの時間反転性が正確な意味ではなりたたないことになる。
ここで、光パワーと電場の振幅との関係が次の(26)式で与えられることを考慮すると(nは線形屈折率)、前述の(20の6)式から(20の11)式の議論は(25)式において時間微分がない場合、即ち位相シフトを扱った場合に相当することがわかる。
こうした問題を考慮した実施例を図34及び図35により説明する。
図34は図17のシステムの第4の具体例を示すブロック図である。光送信機1からの信号光はシングルモードファイバSMF−1で位相共役光発生装置PCに送られ、ここで位相共役光に変換されてシングルモードファイバSMF−2により光受信機5に伝送される。図の下側には、長手方向(z方向)におけるパワー分布が示されている。
シングルモードファイバSMF−1及びSMF−2が異常分散ファイバである場合に、位相共役光発生装置PCに供給される信号光ではパルス圧縮が生じている。従って、位相共役光発生装置PCの後の平均パワーPC(L1)を最初のパワーPS(0)と同じにすると、位相共役光発生装置PCの後のパルスの平均のピークパワーが最初のそれよりも大きくなってしまう。そこで、PC(L1)<PS(0)とすることにより、シングルモードファイバSMF−2内での光カー効果をできるだけシングルモードファイバSMF−1内のそれに近づけようとするものである。
この効果は既に実験で確認されている。この実験においては、光送信機1の光出力を11dBmに設定し、位相共役光発生装置PCの光出力を5dBmに設定した。尚、正常分散ファイバを用いる場合には、波長分散とSPMの相乗効果によりパルス幅が拡大されるから、PC(L1)>PS(0)とすることが望ましい。この場合にも、各ファイバ内の平均ピークパワーをほぼ等しくするという点では、異常分散ファイバを用いる場合と同様である。
図35は図17のシステムの第5の具体例を示すブロック図である。この実施例では、位相共役光発生装置PCの後のシングルモードファイバSMF−2をN分割し(Nは自然数)、分割された各ファイバSMF−21,SMF−22,…,SMF−2Nの入力パワーPCj(j=1,2,…,N)を次第に大きくしていき、各ファイバ内の平均パワーの変化が、シングルモードファイバSMF−1内の長手方向のパワー分布とほぼ対称になるように設定するものである。
尚、この場合の対称という意味は、2つの条件、(13)式及び(20の9)式を満足することである。即ち、分散の比に応じて光パワーの比が決定されるのである。また、図32の例では、シングルモードファイバSMF−1をN分割して、分割された各ファイバの入力パワーを次第に大きくする構成をとることもできる。
こうすることにより、シングルモードファイバSMF−2内の光カー効果がシングルモードファイバSMF−1内の光カー効果の時間反転により近いものになり、厳密な意味での波長分散及び光カー効果の補償が可能になる。分割数Nを大きくすることにより、対称性が良好になり、より良い補償が可能になる。
尚、図示された例では、各ファイバの入力パワーを次第に大きくするために、シングルモードファイバSMF−2の途中に複数の線形光増幅器を設けているが、これによる光伝送路内での光パワーの不連続な変化を防止するために、分布定数的な光増幅器を用いてもよい。
この種の分布定数的な光増幅器は、例えば、位相共役光発生装置PCと光受信機5を結ぶシングルモードファイバSMF−2にEr(エルビウム)等の希土類元素をドープしておき、受信機5の側から予め定められた波長のポンプ光を供給することなどで実現される。この場合、シングルモードファイバ長手方向におけるドープ濃度に連続的な変化を与えることで、利得の長手方向の変化を生じさせ、前述の対称性の確保を容易にしてもよい。また、ラマンアンプ、ブリルアンアンプ等の非線形効果を用いた光アンプを用いることもできる。
図36は偏光状態の能動制御が適用される実施例を示すシステムのブロック図である。シングルモードファイバSMF−1からの信号光は、光カプラ162の第1ポートに入力する。光カプラ162の第2ポートには、情報信号源164により変調される励起光源166からの励起光が、偏波制御器168を介して供給される。光カプラ162で加え合わされた信号光及び励起光が非線形媒質170に入力すると、ここで位相共役光が発生し、この位相共役光は光カプラ172で2分岐される。分岐された一方の位相共役光はシングルモードファイバSMF−2に送出され、他方の位相共役光は光フィルタ174を通って受光器176で電気信号に変換される。
比較器178は、受光器176の出力レベルが最大になるように、励起光の偏波状態と励起光源166の発振波長を制御する。偏波制御器168はλ/2板とλ/4板に相当するものを組み合わせることにより構成することができる。また、励起光の波長は、励起光源166として使用されるレーザダイオードの温度やバイアス電流により制御することができる。