以下、本発明の実施形態を添付図面に沿って詳細に説明する。
図1は本発明の光ファイバ通信システムの基本構成を示す図である。送信機2は、伝送データに基づく変調を行って信号光を生成し、この信号光ES は、プローブ光として第1の光ファイバSMF1(長さL1 ,分散D1 ,非線形屈折率n21)で伝送された後、全伝送路の途中にある位相共役光発生器(Phase conjugator:PC) 6に入力する。
位相共役光発生器6でポンプ光E0 を用いて信号光Esは位相共役光EC に変換され、これを第2の光ファイバSMF2(長さL2 ,分散D2 ,非線形屈折率n22)で受信機4まで伝送する。
受信機4では、位相共役光を受光器で受け、信号検出がなされる。信号検出は、例えば、位相共役光を帯域フィルタで抽出した後の光直接検波や光ヘテロダイン検波によってなされる。これにより、伝送データが再生される。
尚、ここで用いられる光ファイバは例えばシリカファイバであり、光通信において一般的に用いられている1.3μm零分散ファイバや1.55μm分散シフトファイバ等がその代表例である。また、信号光は周波数の異なる複数の光源からの出力信号光の周波数多重信号光でもよい。
位相共役光発生器6は、2次又は3次の非線形光学媒質と、この媒質に信号光及びポンプ光を供給する手段とを有する。2次の非線形光学媒質が用いられている場合は、パラメトリック効果により、また、3次の非線形光学媒質が用いられている場合には、縮退型或いは非縮退型の四光波混合により位相共役光が発生する。
3次の非線形光学媒質としては例えばシリカ光ファイバを用いることができ、この場合、4光波混合におけるポンプ光の波長を上記ファイバの零分散波長にほぼ一致させておくことにより、良好な位相共役光の発生が可能になる。
図2は位相共役光発生器の例を示すブロック図である。この位相共役光発生器は、非線形光学媒質としての光ファイバ121と、ポンプ光源としてのレーザダイオード122と、信号光及びポンプ光を加え合わせて光ファイバ121に供給する光学手段としての光カプラ123とを備えている。
光ファイバ121は望ましくはシングルモードファイバである。この場合において、信号光の波長と励起光の波長をわずかに異ならせて非縮退型の四光波混合を生じさせるときには、光ファイバ121の零分散を与える波長がポンプ光の波長(レーザダイオード122の発振波長)に一致するようにしておく。
光カプラ123は、4つのポート123A,123B,123C及び123Dを有している。ポート123Aには図1の第1の光ファイバSMF1が接続され、ポート123Bにはレーザダイオード122が接続され、ポート123Cには光ファイバ121の第1端が接続され、ポート123Dはデッドエンドにされている。光ファイバ121の第2端は、図1の第2の光ファイバSMFに接続される。
尚、本願明細書において「接続」という語は、動作的な接続を意味し、光学的に直接接続される場合を含み、更に、光フィルタや光アイソレータ等の光学要素を介して接続される場合や偏光状態を適当に調整した上で接続される場合を含む。
光カプラ123は、ポート123A及び123Bに供給された光をポート123Cから出力するように機能し、この光カプラ123としては、例えば、ファイバ融着型のもの、ハーフミラー、光合波器、偏光ビームスプリッタ等が使用される。
この構成によると、光カプラ123のポート123Aに供給された信号光とポート123Bに供給されたポンプ光とを加え合わせて非線形光学媒質である光ファイバ121に供給することができるので、四光波混合により信号光を位相共役光で変換することができる。
図3は位相共役光発生器の他の例を示すブロック図である。この位相共役光発生器は、図2の例と対比して、レーザダイオード122と光カプラ123のポート123Bとの間に偏光スクランブラ(偏波スクランブラ)124を設けている点で特徴付けられる。
一般に、シングルモードファイバの偏波モードには、偏波面が互いに直交する2つの偏波モードが存在し、各種の外乱の影響によりこれら2つの偏波モードが結合して、結果として、ファイバの第1端に供給される光の偏波状態はこのファイバの第2端から出力される光の偏波状態に一致しない。従って、伝送路としてシングルモードファイバが用いられている場合には、位相共役光発生器に供給される信号光の偏波状態は、環境変化等によって時間と共に変動する。
一方、位相共役光発生器における信号光から位相共役光への変換効率は、位相共役光発生器に供給される信号光の偏波状態とポンプ光の偏波状態との関係に依存する。
図3の例によると、レーザダイオード122からのポンプ光を偏光スクランブラ124を介して信号光と合流させるようにしているので、供給される信号光の偏波状態が時間と共に変動する場合であっても、各種光デバイスの安定動作を実現することができる。
偏光スクランブラ124は、1/2波長板及び1/4波長板の組み合わせやLiNbO3 位相変調器等を用いて通常通り構成され、例えば、レーザダイオード122から出力されるポンプ光がほぼ直線偏光である場合には、その偏波面を回転するように機能する。
図3に図示された例では、レーザダイオード122から出力されるポンプ光に対して偏光スクランブラ124を作用させているが、光カプラ123のポート123Aと図1の第1の光ファイバSMF1との間あるいは送信機に偏光スクランブラを配置して信号光に対して偏光スクランブラが作用するようにしてもよい。
次に、本発明の原理を説明する。光ファイバ伝送における信号光E(x,y,z,t)=F(x,y)φ(z,t)exp〔i(ωt−kz)〕の伝搬は、一般に以下の非線形波動方程式によって記述可能である。ここに、F(x,y)は横方向のモード分布、φ(z,t)は光の複素包絡線を表し、このφ(z,t)は光の周波数ωに比べて十分にゆっくり変化すると仮定する。
ここに、T=t−β1 z(β1 は伝搬定数)、αはファイバの損失、β2 はファイバの波長分散を表し、
は、ファイバ内の光カー効果の係数を表す。ここに、n2 とAeff はそれぞれファイバの非線形屈折率と有効コア断面積を表す。cは真空中の光速である。ここでは1次分散までを考慮し、それより高次の分散は省略した。また、α,β2 ,γはzの関数であるとし、それぞれα(z),β2 (z),γ(z)と表されるものとする。さらに、位相共役光発生器の位置を原点(z=0)とする。ここで、以下の規格化関数を導入する。
ここに、
は、振幅を表し、α(z)>0の場合は伝送路が損失を持ち、α(z)<0の場合は利得を持つことをそれぞれ表す。A(z)≡A(0)は損失無しの場合を表す。また、A(z)2 =P(z)は光パワーに相当する。(5),(6)式を(3)式に代入すると、次の発展方程式が得られる。
ここで以下の変換を行う。
その結果、(7)式は以下のように変換できる。
ここで、sgn[β2 ]≡±1は、β2 >0,即ち正常分散の場合には+1を、β2 <0,即ち異常分散の場合には−1をそれぞれとる。(9)式が成り立てばその複素共役も成り立ち、次の式が得られる。
複素共役光u* はuに対する発展方程式と同じ発展方程式に従う。ただし、その際の伝搬方向は反転する。この動作はまさしく位相共役光発生器の動作である。透過型の位相共役光発生器においては上記のことはGVD(群速度分散)とSPMによる位相シフトを反転させることと等価である。
ここで図4のシステムを考える。長距離伝送においては伝送路損失を光増幅中継して補償する。図1の光ファイバSMF1及びSMF2にそれぞれ対応する伝送路I(長さL1 )と伝送路II(長さL2 )の間に位相共役光発生器を配置する。
規格化座標(ζ軸)において、位相共役光発生器は中点ζ=0に置き、受信機はζ=ζ0 に置く。伝送路I内(−ζ0 <ζ<0)においては、u(ζ)は発展方程式(9)に従う。位相共役光発生器によりu(0)は位相共役光u* (0)に変換される。u* (ζ)は伝送路II内(0<ζ<ζ0 )を発展方程式(10)に従って伝搬する。
このときζ軸上の位相共役光発生器の位置(ζ=0)に関して対称な位置にある任意の2点−ζ,ζにおける規格化距離dζ内において、(9)式の右辺第一、二項の係数が等しくなるように各パラメータの値を設定すれば、−ζにおけるu* はζにおけるuの位相共役光となる。即ち、次の2式が条件となる。
(11)式は伝送路I,IIの分散の符号が等しい必要性を示しており、これは分散補償の条件と一致する。ファイバ内では、γ>0,A(z)2 >0であることを考慮すると、上記条件は次のようにまとめることができる。
伝送路I内の(−ζ)におけるGVDとSPMによる位相シフトは位相共役光発生器により符号が反転する。従って、この位相シフトによる波形歪みは伝送路II内の(ζ)における位相シフトによる歪みにより補償される。このように小区間毎に上記のような設定による補償を繰り返していけば、全長に渡る補償が可能となる。
次に、上記の補償条件をz座標で記述する。(13)式より、
を得る。即ち、各区間内での非線形定数と光パワーの積に対する波長分散の比を等しくすることが条件となる。ここで、−z1 ,z2 は次の式を満足させる2点である。
(14),(15)式より(16),(17)式が得られる。
dz1 ,dz2 はそれぞれ−z1 ,z2 における小区間の長さであり、各区間長は当該区間内の分散に反比例するかあるいは非線形定数と光パワーの積に反比例する。ここで、分散β2 と分散パラメータDの関係、D=−(2πc/λ2 )β2 を考慮すれば、(16),(17)式より以下の関係が得られる。Dはzの関数であり、D(z)とも表される。
分散及び非線形効果についていずれも位相共役光発生器に関して対称な二つの位置の一方における増加分と他方の減少分とが等しいことが補償の条件であることがわかる。
(18),(19)式は、補償のための必要条件であり、対応する各小区間での総分散量と光カー効果の総量が等しくなることを示している。ここで(4)式とI=P/Aeff が光強度を表すことを考慮すると、伝送路Iと伝送路IIの各小区間の分散値、非線形屈折率及び光強度の積を区間の長さに反比例するように設定し、且つその比が等しくなるように設定すれば補償可能であることを示している。
特にα,D及びγが一定であり且つパワーの変動が小さい場合には(18),(19)式を積分すれば、
ここで、損失を補償するための利得を与える方法について考えてみる。第1には、伝送路として分布定数的な利得媒質を用いることが挙げられる。例えば、ラマン増幅器やEr3+イオンを希薄にドープしたドープファイバ増幅器等が考えられる。
本発明では、光カー効果と分散値の比を制御するようにしている。位相共役光発生器に関して等価的に対称の位置において同じ値の光カー効果と分散の比を与えることにより、完全な補償を実現することができる。
伝送路に沿ってこの比を大きくするためには、分散を徐々に小さくしていくか、光カー効果を徐々に大きくしていけばよい。分散の値を変化させることは、ファイバの設計により可能である。例えば、分散シフトファイバ(DSF)の零分散波長を変化させることや、ファイバのコアとクラッドの比屈折率差やコア径を変えることにより上述の比を変化させることができる。
一方、光カー効果を変化させることは、非線型屈折率を変化させたり光強度を変化させることにより可能となる。即ち、損失、非線形屈折率、モードフィールト径及び分散から選択される少なくとも一つのファイバパラメータを連続的に変化させることにより、本発明に適用可能な光ファイバを製造することができる。ここでは、光強度を変化させる方法について考える。
例えば、損失のある伝送路に沿って光強度を大きくするためには、損失がさほど変化しない範囲で有効コア断面積Aeff を次第に小さくしていけばよい。例えば、モードフィールド径(MFD)が半分になれば光強度は約4倍になる。
もっと大きな損失に対しては更にMFDを小さくしなければならないが、あまりMFDを小さくすると損失が増えてしまい効果が出ない。現実的なMFDの最小値はせいぜい2〜3μmというところである。
1.3μm零分散SMFのMFDが約10μm、1.55μmDSFのMFDが約8μmであることを考慮すると、MFDだけで対応可能な損失はSMFで約7dB、DSFでは約6dBということになる。
更に大きな損失がある場合でも、コア径を小さくすることの効果と、分散の値を小さくすることの効果を組み合わせて本発明を実施すればよい。例えば、分散の値を半分にすることができれば更に3dBの損失がある場合でも(14)式を満足する分布を実現することができる。
図5は本発明の第1実施形態を示す図である。ここでは、位相共役光発生器6を挟んで各伝送路の対称な位置z1j,z2j((15)式で定義されている)にある微小区間1j(長さΔz1j),2j(長さΔz2j)の各パラメータを、
となるように設定する。D1j,ω1 ,n21j , 〈I1j〉はそれぞれ区間1jにおける分散パラメータ、光周波数、非線形屈折率、平均強度であり、D2j,ω2 ,n22j , 〈I2j〉はそれぞれ区間2jにおける分散パラメータ、光周波数、非線形屈折率、平均強度である。
具体的な例を説明する。今、光ファイバSMF1の分散がD1 =−30ps/nm/kmで一定であり、光ファイバSMF2の分散がD2 =−0.3ps/nm/kmで一定であるとする。このとき、(20)式より、L1 /L2 =D2 /D1 =1/100となる。
従って、例えば光ファイバSMF2の全長をL2 =50kmとすると、L1 =500mとなる。このことは、500mのファイバにより予め波形を歪ませておくことにより、50kmの歪みのない伝送が可能になることを示している。
或いは、ファイバパラメータの異なる複数のファイバを、(22),(23)式を満足するように縦列に配置し、各ファイバをスプライスして接続してもよい。
図6は本発明の第2実施形態を示す図である。ここでは、光アンプを使った多中継伝送に本発明を適用した場合を示している。今、光ファイバSMF2が伝送路であるとして、その途中に(N−1)個の光アンプA−1,・・・,A−(N−1)を間隔l2 で中継して全長L2 =Nl2 の光増幅中継伝送を行う。このとき、図6に示されるように、光ファイバSMF1についても中継数と同じようにN等分し、各区間の距離をl1 、全長をL1 とする。
このとき、L1 とL2 の比(l1 とl2 の比)は、各ファイバの分散の逆数に比例するから、L1 =(D2 /D1 )L2 (l1 =(D2 /D1 )l2 )とする。また、光カー効果については、位相共役光発生器6に関して対応する区間内の対応する各微小区間において(23)式が成り立つようにしておく。
例えば、上述の分散値の場合には、中継区間50kmの伝送において、光ファイバSMF1を500m毎に区切って上記設定を行うことになる。従って、例えば光ファイバSMF1として500m毎に40分割した全長20kmのファイバを用いれば、位相共役光発生器6の後50km毎の39中継による全長2000kmの伝送が可能となる。
この場合、光ファイバSMF1の長さ500mの各区間に対応する光ファイバSMF2の各区間の長さが異なることは言うまでもない。対応する区間は(15)式で定義されており、光ファイバSMF1の区間のうち大きな分散の区間は光ファイバSMF2におけるより長い区間をカバーする。
ここでは分割を等間隔に行っているが、対応する区間毎に(22),(23)式が成り立てばよいから、特に等間隔である必要はない。特に、光ファイバSMF1については損失を補償する光増幅器が設けられていないので、現実的な分散やパワーでは条件を満たすことが困難になることもある。こうした場合には、L1 を等間隔に分割せずに、損失によって強度が小さくなるにつれL1 を大きくしていくことなどにより、分散やパワーについての要求を緩和することができる。
また、光ファイバSMF2についても分散を一定にせず、例えば各中継区間を分割してパワーの高い部分では比較的分散を大きくし、パワーが小さい部分では比較的分散を小さくすることにより、等価的に損失の効果を小さくすることができる。こうした方法により、光ファイバSMF1における分散やパワーについての要求を緩和することが可能である。
こうした方法における分割は細かければ細かいほど有効であることはいうまでもないが、実際には数分割程度でも十分有効である。必要な分割数は伝送速度と伝送距離によって決まる。
又、図6の実施形態では、光ファイバSMF2を光増幅中継伝送しているが、光ファイバSMF1を光増幅中継伝送した後同様の方法により光ファイバSMF2にて補償してもよい。その例を図7に示す。
図7は本発明の第3実施形態を示す図である。ここでは、位相共役光発生器6の前後で中継数を同じにしておき、位相共役光発生器6に関して対称な区間において(22),(23)式が成り立つように設定する。具体的には、第1の光ファイバSMF1の途中にはN個の光増幅器A1−1,・・・,A1−Nが設けられており、第2の光ファイバSMF2の途中には同じくN個の光増幅器A2−1,・・・,A2−Nが設けられている。
この実施形態ではL1 を長くすることができるので、これに対応してL2 も長くなり、長距離伝送が可能になる。
その際、前述のように光ファイバSMF2における分散を一定にせず、例えば各中継区間を分割してパワーの高い部分では比較的分散を大きくし、パワーの小さい部分では比較的分散を小さくすることにより、等価的に損失の効果を小さくすることができる。
図8は本発明の第4実施形態を示す図である。ここでは、平均強度近似を用いた伝送において、分散と光カー効果も伝送路内で一定でない場合についての応用が示されている。まず、分散パラメータの平均値について、
が成り立つようにし、更に非線型屈折率と光強度の積の平均値について、
が成り立つように設定する。これによりおおよその補償が可能となる。
補償の残留分については、図8に示されるように、光ファイバSMF2と受信機4との間に設けられた長さL3 の第3の光ファイバSMF3の分散D3 とこの中の光カー効果n23I3 を適当に調節することにより、ほぼ完全な補償が可能になる。
図9は本発明の第5実施形態を示す図である。この実施形態は、図8の第4実施形態を光増幅多中継伝送系に適用したものである。この場合、位相共役光発生器6の前後に複数の中継器を設け、位相共役光発生器6に関して対応する区間において(22),(23)式が成り立つように設定すればよいし、より大雑把には、特願平5−221856号に示されるように、全長における平均値において上式が成り立つように設定してもある程度の補償は可能である。さらに補償の程度をよくするためには、図8の第4実施形態におけるのと同様にして第3の光ファイバSMF3を用い、その分散D3 と光カー効果n23I3 を調節すればよい。
ところで、実際の長距離伝送システムにおいては、周囲環境により分散値に揺らぎが生じる。特に、温度変動による分散値の変動の影響は大きく、これは特に零分散付近の小さな分散値に設定したシステムの場合に顕著である。
零分散付近の分散値は、信号光の波長を変えることにより2次分散の傾斜(約0.08ps/nm2 /km)に従って変えることが可能である。一方、四光波混合を用いて位相共役光を発生させるシステムにおいては、位相共役光の角周波数をωC ,ポンプ光の角周波数をωP ,信号光の角周波数をωS とすると、ωC=2ωP −ωS の関係があるから、ωS またはωP を変えることによりωC を変えることが可能である。
このように、送信機においてωS を調整するか、図示しない端局から送られる制御信号により位相共役光発生器6においてωP を調整することにより、分散の変動に合わせて常時最適な伝送を行うことができる。
図10は光ファイバSMF1及びSMF2のそれぞれの零分散波長ω10,ω20に対する信号光、ポンプ光及び位相共役光の周波数配置を示す図である。
もしも、2つのファイバの分散曲線が環境の変化により同じ方向にシフトしたとすると(図の鎖線参照)、ωS とωC を同じ方向にシフトさせるのがよいが、ωS の変化に対してωC は反対方向にシフトするので、ωS を変化させつつωPをωS と同じ方向に同じだけ変化させるのがよい。図10のような最も単純な場合には、ωS とωP を同じ方向に同じ大きさ(Δω)だけシフトすればよい(ωC +Δω=2(ωP +Δω)−(ωS +Δω))。現実には、分散の変動は単純なものではないので、状況に合わせて適宜補正することになる。実際には、端局において受信波形をモニターする等しながらωS とωP の微調整を行って最適状態を得る。
図11は本発明の第6実施形態を示す図である。この実施形態は基本的には平均強度を用いたものであるが、光アンプ間のパワーの変化(低下)の影響を緩和するために、図7に示した分散の制御を行うものである。
具体的には、各中継区間を数分割し、伝送方向に向かって次第に分散値を小さくしていくものである。一例を図12に示す。
ここでは、伝送路の平均分散をD1 =−30ps/nm/km,D2 =−0.30ps/nm/kmに設定する場合において、各中継区間を3分割し、伝送方向に向かって−0.35,−0.30,−0.25ps/nm/kmになるように設定した例を示している。
このとき、中継区間が例えば51kmであれば、17km毎に分割することになり、分散の傾斜は約−0.04dB/km程度になる。従って、例えばファイバの損失が−0.20dB/kmであれば、(23)式で表される比の変化を約−0.16dB/kmに低下することが可能となる。
これにより、より損失の小さな状態と等価な状態を実現することができる。従って、光アンプの中継区間を拡大することが可能である。また、同じ中継間隔でも、歪みの補償効果を向上させることができる。
図13は本発明の第7実施形態を示す図である。この実施形態は、本発明を光増幅多中継伝送系に適用した場合に、光ファイバSMF1内において非線形効果と分散の比が一定になるようにしたものである。
即ち、光ファイバSMF1を複数の区間に分割し、各区間jにおける分散値D1jΔz1jの値の総和が光ファイバSMF2の総波長分散に一致するようにし、且つ、各区間jにおける非線形効果と分散の比(∝n21ISj/D1j)の値を一定に設定する。一方、光ファイバSMF2では平均値近似を用いた光増幅多中継伝送を行う。光ファイバSMF1内での非線形効果の総量を光ファイバSMF2における非線形効果の平均値の総量に一致させるものである。光ファイバSMF2についても、光ファイバSMF1と同じように設定してもよい。
損失によるISjの低下を、D1jを次第に小さくすることで補償することができるので、非線形効果と分散の比を一定にすることができる。また、区間の長さΔz1jを損失に反比例する形で長くすることにより、各区間での分散値を一定にすることができる。即ち、n21ISjΔz1jが一定になるようにし、且つ、D1jΔz1jが一定になるようにするのである。
この実施形態では、光ファイバSMF1の分割数を光ファイバSMF2における中継数と同じにしているが、このような平均値近似においては、実用上は、光ファイバSMF1の分割数を光ファイバ2の中継数よりも少なくしても効果が得られる。即ち、同数の分割におけるいくつかの分割毎の平均値で代用するものである。この際の効果は、伝送速度と伝送距離に依存する。
図14は本発明の第8実施形態を示す図である。この実施形態では、位相共役光発生器6から出力された光を光カプラ8或いはそれに代わる図示しない光スイッチにより2分岐し、一方の分岐光は光ファイバSMF2(長さL2 )により受信機4(#1)に伝送し、他方の分岐光は光ファイバSMF3(長さL3 )により受信機4(#2)に伝送する。
光ファイバSMF2には光増幅器A2−1,2,・・・,N2 が設けられており、光ファイバSMF3には光増幅器A3−1,2,・・・,N3 が設けられている。
この実施形態のように、本発明を伝送路の分岐について応用した場合にも、非線形光学媒質6からの光を分岐して各受信機4(#1,#2)までの距離に見合った分散と光強度により伝送可能である。
図15は本発明の第9実施形態を示す図である。この実施形態では、波長多重伝送において複数の第3のファイバを用いて追加補償を行っている。図において、10(#1,#2,・・・,#N)は光ファイバSMF2により伝送された位相共役光についてチャネル選択を行う光学フィルタを示している。各光学フィルタ10(#1,#2・・・,#N)から出力された光は、それぞれ補償用の光ファイバSMF3−1,2,・・・,Nを介して受信機4(#1,#2,・・・,#N)に伝送される。
Nチャンネルの波長多重信号光ES1,ES2,・・・,ESN(周波数:ωS1,ωS2,・・・,ωSN)を光ファイバSMF1により伝送した後、位相共役光発生器6によりNチャンネルの波長多重位相共役光EC1,EC2,・・・,ECN(周波数:ωC1,ωC2,・・・,ωCN)に変換し、光ファイバSMF2により伝送後、各受信機により受信する。
このとき、光ファイバSMF1、SMF2での各チャンネルの分散は図16のようになっている。
位相共役光発生器を用いた分散補償においては、位相共役光発生器の前後で分散の符号が同一である必要があるから、零分散に対して、図16のような周波数配置になる。図に示された例では、正常分散から正常分散への変換になっている。この場合、光ファイバSMF1では第1チャネルに対する分散の絶対値が最小値であるのに対して、光ファイバSMF2においては第Nチャネルに対する分散の絶対値が最小値になっている。
従って原理的には、全チャネルに対して同時に完全な分散補償を行うことは困難である。図15の第9実施形態は、このような場合に対して、光ファイバSMF2の出力を分岐した後各チャネルについて周波数選択を行い、その後各チャネル毎の残留補償量に見合った第3のファイバSMF3−1,2,・・・,Nを用いて追加補償を行っているものである。
図17に示される本発明の第10実施形態は、全チャネルを等しく理想的に補償するためのものである。ここでは、各チャネル毎に信号光を別々のファイバSMF11,12,・・・,1Nで伝送し、その際、異なる分散に見合う強度(I11,I12,I1N)で伝送する。光ファイバSMF1の出力光を各チャネル毎の位相共役光発生器6(#1),(#2)・・・,(#N)或いは全チャネルを一括して図示しない1つの位相共役光発生器で位相共役光に変換し、これらを共通の光ファイバSMF2で伝送して図15の第9実施形態におけるのと同じようにして受信する。
但し、複数の信号光或いは位相共役光を合波する光マルチプレクサの図示は省略されている。ここでは第3の光ファイバSMF3は不要である。尚、この際の各チャネルの分散と非線形効果の設定は、これまでに述べたいずれの方法によってもよい。
ところで、位相共役光発生器は偏光依存性を持つため、信号光の偏光状態により変換効率が異なり、それによりシステム特性が不安定となる。また、位相共役光発生器や光増幅器に用いられる光部品には偏光依存性のあるものが多く、これらを多段接続したときに信号レベルが不安定となる。
これを抑えるためには、偏波ダイバーシティ或いは偏波能動制御を適用するか、信号光或いはポンプ光について偏波スクランブルを行えばよい。特に、送信機において信号光の偏波スクランブルを行う方法は、構成が簡単である上、現在長距離伝送において問題となっている各種の偏波依存性の影響を除去する上からも有望である。
図18は本発明の第11実施形態を示す図である。この光ファイバ通信システムは、図6の第2実施形態と対比して、第1の光ファイバSMF1として偏波保持ファイバ(PMF)を用いている点で特徴付けられる。
送信機2は実質的に直線偏波である信号光を出力する。一般に偏波保持ファイバは少なくとも1つの主軸を有しており、この主軸に平行な偏波面を有する直線偏光を、その偏波面を維持して伝送可能である。
送信機2からの信号光は、その偏波面が第1の光ファイバSMF1の主軸に平行になるように第1の光ファイバSMF1へ供給される。第1の光ファイバSMF1と位相共役光発生器6は、第1の光ファイバSMF1から出力される信号光の偏波面が位相共役光発生器6におけるポンプ光の偏波面に一致するように互いに接続される。
波長分散と光カー効果の相乗効果による波形歪みを補償するための条件については、図6の第2実施形態におけるのと同じであるからその説明を省略する。
4光波混合(FWM)や光パラメトリック増幅により生成される位相共役光の生成効率は、入力信号光及びポンプ光の偏波状態に依存する。本実施形態においては、位相共役光発生器6へ入力する信号光の偏波状態が定まっているので、位相共役光発生器6において安定且つ高効率で位相共役光を発生させることができる。
望ましくは、送信機2、第1の光ファイバSMF1及び位相共役光発生器6は送信局内に配置され、第2の光ファイバSMF2は伝送路として用いられ、受信機4は受信局内に配置される。
図19は本発明の第12実施形態を示す図である。この実施形態では、(N−1)個の光増幅器A−1,・・・,A−(N−1)は第1の光ファイバSMF1の途中に設けられ、位相共役光発生器6と受信機4は第2の光ファイバSMF2により接続されている。
第1の光ファイバSMF1は偏波保持ファイバからなり、便宜上ここでは各ファイバ区間の主軸方向が一致しているものとする。そして、各光増幅器A−1,・・・,A−(N−1)の信号光出力側には、それぞれ偏光子12−1,・・・,12−(N−1)が設けられている。各偏光子の偏光主軸は各光増幅器から出力される信号光の偏波面にほぼ平行になるように設定される。即ち、各偏光子の偏光主軸は各ファイバ区間の主軸にほぼ平行になるように配置されている。
望ましくは、送信機2は送信局内に配置され、第1の光ファイバSMF1は伝送路として用いられ、位相共役光発生器6、第2の光ファイバSMF2及び受信機4は受信局内に配置されている。
偏波保持ファイバからなる第1の光ファイバSMF1を伝送路として用いる場合、その長さは通常10km以上になるので、第1の光ファイバSMF1の入力端に実質直線偏波である信号光を供給したとしても、第1の光ファイバSMF1の出力端においては信号光の直線偏波状態が崩れる可能性がある。そこで、この実施形態では、各光増幅器の信号光出力側において信号光の偏波状態を改善しているのである。従って、偏光子12−1,・・・,12−(N−1)はそれぞれ光増幅器A−1,・・・,A−(N−1)の信号光入力側に設けられていてもよい。また、偏光子は全ての光増幅器に付加される必要はない。
この実施形態においても、図18の第11実施形態におけるのと同様に、偏波変動に係わらず最適な受信状態を維持することが可能になる。
図20は位相共役光発生器の更に他の例を示す図である。この位相共役光発生器は、図2の位相共役光発生器と対比して、ポンプ光源として2つのレーザダイオード122A及び122Bを有している点で特徴付けられる。
レーザダイオード122A及び122Bはそれぞれ実質的に直線偏波である第1及び第2のポンプ光を出力する。第1及び第2のポンプ光はこれらの偏波面が互いに直交するように偏波カプラ125により合成され、光カプラ123を介して非線形光学媒質である光ファイバ121へ供給される。
望ましくは、第1及び第2のポンプ光は互いに異なる光周波数を有しており、これらの差は信号光の伝送速度に対応する周波数と等しいかそれよりも大きく設定される。また望ましくは、第1及び第2のポンプ光はほぼ同振幅である。
この位相共役光発生器の構成によると、非線形光学媒質である光ファイバ121内において常に位相共役光が発生するので、信号光の偏波変動に係わらず最適な受信状態を維持することができる。
図21は本発明の第13実施形態を示す図である。光送信機2、第1の光ファイバSMF1及び位相共役光発生器6は、送信局STに含まれる。第2の光ファイバSMF2は伝送路として用いられ、受信機4は受信局RTに含まれる。
受信局RTは、光受信機4における伝送情報の再生の品質を示すパラメータをモニタリングするモニタ回路14を更に含む。モニタ回路14はモニタ信号を出力する。
送信局STは制御器(フィードバック手段)16を更に含む。制御器16は、モニタ回路14からのモニタ信号を受け、モニタ回路14においてモニタリングされたパラメータが最適な値になるように光送信機2における信号光の波長若しくはパワー又は位相共役光発生器6におけるポンプ光の波長若しくはパワーをフィードバック制御する。
例えば、信号光及び/又はポンプ光の波長の制御により、伝送路の分散が最適な値に維持され、信号光及び/又はポンプ光のパワーの制御により、分散と光カー効果の相乗効果による波形歪みが適切に補償される。
図22は本発明の第14実施形態を示す図である。光送信機2は送信局STに含まれ、第1の光ファイバSMF1が伝送路として用いられる。受信局RTは、位相共役光発生器6、第2の光ファイバSMF2、光受信機4及びモニタ回路14を含む。
制御器16は、制御対象が位相共役光発生器6におけるポンプ光の波長又はパワーである場合には、受信局RTに含まれ、制御対象が光送信機2における信号光の波長又はパワーである場合には、送信局STに含まれる。
尚、図21又は図22のシステムにおいて、モニタ回路14から制御器16へ供給するモニタ信号の伝送は、このシステムの伝送路によることができる。例えば双方向伝送を行って、逆方向の信号光に低速の監視信号を重畳等するとよい。
次に、本発明を波長分割多重(WDM)に適合させる場合において図16により説明した問題を解決するいくつかの実施形態を説明する。
図23は本発明の第15実施形態を示す図である。送信機2(#1,#2,・・・,#N)は互いに異なる波長(光周波数)の信号光ES1,ES2,・・・,ESNを出力する。これらの信号光の光周波数はωS1,ωS2, ・・・,ωSNである。
これらの信号光は複数の第1の光ファイバSMF11,SMF12,・・・,SMF1Nによって伝送され、スターカプラ等からなる光マルチ/デマルチプレクサ18によって加え合わされると共に分岐される。
分岐された信号光はそれぞれ位相共役光発生器6(#1,#2・・・,#M)へ供給される。位相共役光発生器6(#1,#2・・・,#M)は供給された複数の信号光の少なくとも1つに対応する位相共役光を発生する。発生した位相共役光はそれぞれ光フィルタ20(#1,#2・・・,#M)を透過した後複数の第2の光ファイバSMF21,SMF22,・・・,SMF2Mによってそれぞれ光受信機4(#1,#2・・・,#M)へ伝送される。
複数の第2の光ファイバによって伝送される位相共役光は、E′C1,E′C2,・・・,E′CMで示されている。
第1の光ファイバSMF1j(j=1,2,・・・,N)のそれぞれの長さはL1j、分散はD1j、非線形係数はγ1jであり、各信号光のパワーはP1jであるとする。また、第2の光ファイバSMF2k(k=1,2,・・・,M)のそれぞれの長さはL2k、分散はD2k、非線形係数はγ2kであり、各位相共役光のパワーはP2kであるとする。
このとき、次の2つの条件が満足されるように各パラメータが設定される。
D1jL1j=D2kL2k=(一定)
γ1jP1j/D1j=γ2kP2k/D2k=(一定)
尚、ここでの一定という意味には、各ファイバ内の任意の区間における平均値が一定であるということが含まれる。
ここで、各第2の光ファイバSMF2kによる波形歪みの補償は、光フィルタ20(#k)の帯域を通過する位相共役光に対して最適化されるように設定されている。また、位相共役光発生器6(#k)と光フィルタ20(#k)の組み合わせによって抽出されるチャネルE′Ckは、信号光の任意の1チャネル又はその近傍の光フィルタの帯域に含まれる複数のチャネルの位相共役光である。
各光フィルタを透過するチャネルは、位相共役光発生器におけるポンプ光の波長制御及び/又は光フィルタの透過波長の制御により任意に設定可能である。
このシステムは、例えば、第2の光ファイバが伝送路として用いられている場合には分配システムとして機能し、第2の光ファイバが受信局或いは中継器内にある場合にはチャンネル交換(クロッシング)システムとして機能する。
図24は本発明の第16実施形態を示す図である。このシステムは、図23の第15実施形態と対比して、複数の光送信機2(#1,#2,・・・,#N)に対して共通の第1の光ファイバSMF1が用いられている点で特徴付けられる。
この変更に伴い、第1の光ファイバSMF1の入力端は光マルチプレクサ22を介して各光送信機2(#j)に接続され、出力端は光デマルチプレクサ24を介して各位相共役光発生器6(#k)に接続される。
この共通の第1の光ファイバSMF1における分散は全チャネルに対してほぼ一定になるようにされている。例えば、第1の光ファイバSMF1としては、分散の大きな分散シフトファイバ、1.55μm帯の信号光に対する1.3μm帯零分散ファイバ、1.3μm帯の信号光に対する1.55μm帯零分散ファイバを用いることにより、上述の条件を満足することができる。
このような共通の第1の光ファイバSMF1に対して、各第2の光ファイバSMF2kが本発明の条件を満足することにより、各チャネルについて最適な受信状態を得ることができる。
図25は本発明の第17実施形態を示す図である。ここでは、第1の光ファイバとして、比較的大きな分散のN個の光ファイバSMF11′,SMF12,・・・,SMF1N′と比較的小さな分散の共通の光ファイバSMF1′とを組み合わせたものが用いられている。
光ファイバSMF11′,SMF12′,・・・,SMF1N′と光ファイバSMF1′とは光マルチプレクサ22によって接続されており、光ファイバSMF1′と各位相共役光発生器6(#k)とは光デマルチプレクサによって接続されている。
このシステムにおいても、第1の光ファイバと第2の光ファイバについて所定の条件を満足させることによって、各チャネルについて波形歪みを良好に補償することができ、最適な受信状態を得ることができる。
図26はチャネルセレクタの一例を示す図である。ここでは、チャネルセレクタ26は、各光送信機2(#j)に付随して設けられている。
チャネルセレクタ26は、光送信機2(#j)からのデータに基づき制御信号を発生する。チャネルセレクタ26からの制御信号はコントローラ28へ供給される。
コントローラ28は、供給された制御信号に基づき、所望のチャネルの信号光を選択するために、位相共役光発生器6(#k)におけるポンプ光の波長及び光フィルタ20(#k)の特性の少なくとも一方を制御する。
図27はチャネルセレクタの他の例を示す図である。ここではチャネルセレクタ26は各光受信機4(#k)に付随して設けられており、チャネルセレクタ26は光受信機4(#k)からのデータに基づき制御信号を発生する。
コントローラ28は、チャネルセレクタ26から供給された制御信号に基づき、所望チャネルの信号光を選択するために、位相共役光発生器6(#k)におけるポンプ光の波長及び光フィルタ20(#k)の特性の少なくとも一方を制御する。
次に、本発明の有効性を確認するために実施した実証実験の結果について説明する。
図28を参照すると、実証実験で用いられたシステムのブロック図が示されている。このシステムは実質的に図11の第6実施形態に対応している。
送信機(Transmitter)は図11の送信機2に対応し、ファイバ補償器(Fiber compensator)は図11の第1の光ファイバSMF1に対応し、位相共役光発生器(Phase conjugator)は図11の位相共役光発生器6に対応し、分散シフトファイバ(DSF−1,2,・・・,46)及びエルビウムドープファイバ増幅器(EDFA1,2,・・・,45)は図11の第2の光ファイバSMF2に対応し、受信機(Receiver)は図11の受信機4に対応している。
送信機における光源としては、3電極λ/4シフト型のDFB−LD(分布帰還型レーザダイオード)が二つ用いられた。時分割多重された20Gb/sの信号光ES (波長λS =1551nm)が、約40psのパルス幅(FWHM)を有する10Gb/sの2チャネルのRZ信号を時分割多重することによって生成された。
10Gb/sのRZパルスを生成するために、第1のLiNbO3 変調器(LN−1)を用いて10−GHzの正弦波によりES を強度変調し、次いで第2のLiNbO3 変調器(LN−2)を用いて10Gb/sのNRZデータ信号(PN:223−1)によって強度変調を行った。
変調されたES はパワーP1 で二段のDD−DCF1,2に入力され、これにより波形が予め補償された。
ここで、「DD−DCF」は分散漸減型の分散補償ファイバ(dispersion−decreasing dispersion−compensating fiber:DD−DCF)を表している。
DD−DCFの各々は5本のDCFを互いにスプライスして構成される。DD−DCFの各々の損失は0.46dB/kmであり、DCFの各々のモードフィールド径は約4μmに設定された。
(14)式の条件を近似的に満足するために、分散パラメータD1 はDCFの各々における平均光パワーの減少に従って減少すべきである。そのために、5本のDCFの各々の長さ及びD1 は、表に示されるように設定された。
DD−DCFの各々の長さは13.7kmであり、各々の総分散は−662.8ps/nmであった。
なお、DD−DCFの各々に入力する光のパワーをP1 に設定するために、二つの光増幅器がカスケード接続された。
次いで、位相共役光発生器が、20kmのDSFにおける波長λP =1554nmのポンプ光EP を用いた非縮退型のフォワードFWMによって、予め補償された(歪を与えられた)ES をこれと同方向に伝搬する位相共役光EC (波長λC =1557nm)に変換した。ES からEC への変換効率は−12dBであった。
次いで、位相共役光EC は、カスケード接続された46本のDSF(0.21dB/km損失)及びこれらの間に設けられる45個のEDFA(各々の雑音指数は約6dB)からなる3036kmの伝送路へ供給された。
この伝送路のλC における平均分散はマイナス0.44ps/nm/kmであった。従って、二段のDD−DCFにおける総分散と上記伝送路における総分散との間の差は約10ps/mであった。
各DSFの長さは66kmであり、各DSFへの光入力パワーP2 は+6dBmに設定された。
P1 の最適値は上述の条件では+16dBmであった。DD−DCFの非線形定数γ1 は約18.0W-1km-1であると見積もられた。
誘導ブリユアン散乱(SBS)を抑圧するために、ES 及びEP はそれぞれ500−kHz及び150−kHzの正弦波信号により周波数変調された。受信機では、第3のLiNbO3 変調器(LN−3)及びフェイズロックループ(PLL)を用いることによってEC は時分割デマルチプレキシングされ、ビットエラーレート(BER)が測定された。
比較のため、一つのDD−DCF及び23本のDSFを用いた1518kmの伝送実験も行われた。
図29に測定されたBERの特性を示す。3036kmの伝送の後であっても、10-9より小さいBERで信号の検出を行うことができた。10-9のBERにおける4.8dBのパワーペナルティは、EDFAの雑音等の理論値からのS/N劣化によるものであった。この実験ではλC は各EDFAにおけるゲインピークを与える波長λG ≒1558.5nmから1.5nmほど離調していた。もしλC をλG に一致させることができれば、より高いS/N特性を得ることができる。1518kmの伝送実験では、ペナルティは約1.2dBであった。
図30の(a)〜(e)に3036km伝送実験における検出された波形の変化の様子を示す。(a)は送信機の出力波形、(b)は位相共役光発生器の出力波形、(c)は1518km伝送後の波形、(d)は2706km伝送後の波形、(e)は3036km伝送後の波形をそれぞれ示している。予めひずめられた波形がEC の伝搬に伴って次第に改善されていることが判る。(e)における波形歪みの残留は、不完全な補償条件によるものであった。即ち、この実証実験では、EDFAの間隔(DSFの長さ;66km)が(γ2 P2 )-1で定義される非線形長よりも十分に短くないことにより、波形の改善が完全でなかったものである。
従って、本発明では、光増幅器を複数用いる場合には、これらの間隔を非線形長よりも短く設定することが望ましい。
また、DD−DCFにおけるDCFの分割数を実験における5よりも大きくすることによって、補償を更に改善することができる。
図31の(A)、(B)及び(C)を参照すると、図28のシステムにおける光パワーP、分散β2 及び非線形効果γP/β2 のダイヤグラムが示されている。位相共役光発生器の位置が原点Oである。
図面の明瞭さを確保するために、距離を示す各横軸の尺度が原点の左側と右側とで異なっている点に留意されたい。
図31の(C)から、非線形効果γP/β2 が位相共役光発生器の上流側及び下流側で実質的に一定の同じ値となっており、本発明が限定的に適用されていることがわかる。
図32を参照すると、図1の基本構成に分散補償器(DC)30が付加された構成が示されている。図示された例では、分散補償器30は第2の光ファイバSMF2の途中に挿入されているが、この例に限定されることなく、分散補償器30は、第1の光ファイバSMF1、位相共役光発生器6及び第2の光ファイバSMF2を含む光路上に設けられていればよい。
図33の(A)及び(B)を参照して、分散補償器30を付加したことによる伝送距離の拡大を説明する。図33の(A)及び(B)の各々において、横軸は距離を表し、縦軸は分散パラメータの距離に関する積分(−∫Ddz)を表している。
本発明が限定的に適用される場合、第1の光ファイバSMF1の総分散と第2の光ファイバSMF2の総分散は、図33の(A)に示されるように実質的に等しい。
分散補償器30の分散値の符号は、第1及び第2の光ファイバの分散値の符号と逆に設定される。従って、図32に示されるように分散補償器30が第2の光ファイバSMF2の途中、例えば中点に設けられる場合には、図33の(B)に示されるように、第2の光ファイバSMF2の距離L2 はL2 ′に拡大される。
分散補償器30としては、分散補償ファイバを用いることができる。第1及び第2の光ファイバSMF1及びSMF2が正常分散値を有しており、信号光の波長が1.55μm帯にある場合には、分散補償器30としては、波長1.3μmの近傍で零分散を与える分散補償ファイバであることが望ましい。
今、分散補償ファイバの単位長さ当たりの分散が−D3 、長さがl3 であるとし、分散補償の程度を表す値m=D3 l3 /D2 L2 (0≦m<1)を導入する。この場合、第2の光ファイバSMF2の総分散はD2 L2 −D3 l3 である。
第1の光ファイバSMF1の総分散はD1 L1 であり、分散補償の条件はD1L1 =D2 L2 =D2 L2 ′−D3 l3 であるから、L2 ′は次式で与えられる。
L2 ′=L2 (1+m)=D1 L1 (1+m)/D2
非線形効果についても同時に補償する場合には、第1の光ファイバSMF1への光入力パワーP1 ′を実質的にP1 (1+m)に等しくしておくとよい。
分散補償器30の分散値の最適化及び第1の光ファイバSMF1への入力光パワーの最適化は、例えば、受信機4における伝送情報の再生品質が最良になるようにして行うことができる。
分散補償器30として、図示はしないが複数の分散補償器30jを用いることができる。各分散補償器30jは伝送路(SMF1,2)の分散値と逆符号の分散値−D3j(jは自然数)を有している。この場合、L2 ′は次式で 与えられる。
L2 ′=L2 (1+Σmj )=D1 L1 (1+Σmj )/D2
ここで、mj =D3jl3j/D2 L2 であり、l3jは分散補償器30jの各々の長さである。
前述の実証実験の結果から明らかなように、第1の光ファイバSMF1においてのみ補償条件を満足していれば、第2の光ファイバSMF2の分散が一定であっても補償が可能である。この場合に第2の光ファイバSMF2における光増幅器の中継間隔を非線形長よりも短く設定しておくことによって良好な補償が可能になることは前述した通りである。
図32の構成は、この原理に基づいて分散補償器30により補償可能な伝送距離を長くしたものである。
図32の構成による効果は特に海底伝送のような数千キロメートルにも及ぶ長距離伝送において顕著である。その理由を説明する。
位相共役光発生器を用いた補償においては、その前後のファイバ内の波形歪みを同じにする必要がある。このため、最も波形がひずんでいるのは、位相共役光発生器の直前及び直後においてである。従って、位相共役光発生器においては最もスペクトルが広がった状態になっている。
一方、位相共役光発生器及び光増幅器からは雑音が付加され、この雑音によるS/N劣化はスペクトルが広いほど大きい。従って位相共役光発生器の直前及び直後でのスペクトル広がりが少なくなるようにシステムを設計することは、伝送距離を延ばす上で非常に有効である。
この意味において、伝送路の分散値を小さくすることは有効である。例えば、図32の構成において、送信機2、第1の光ファイバSMF1及び位相共役光発生器6が送信局に設けられ、第2の光ファイバSMF2が伝送路として使用される場合には、m=0.5としておく。つまり、分散補償器30により伝送路分散の半分を補償するのである。これにより、同じ長さの伝送路を補償するのに要するDD−DCFの分散値、或いは数を削減可能である。
この場合、L2 ′=2×L2 となり、分散補償器30を用いない場合におけるものの2倍の長さの伝送路を同じ第1の光ファイバSMF1で補償することができることになる。逆言すれば、同じ長さの伝送路の補償に要する第1の光ファイバSMF1の長さが半分になるので、波形歪みを半減することができる。また、DD−DCFの数も少なくすることができる。
図34を参照すると、ファイバグレーティングFGを用いた分散補償器の構成が示されている。図34の分散補償器は図32の分散補償器30として用いることができる。
光パルスの両縁の波長がそれぞれλ1 及びλ2 である光パルスが光サーキュレータOCを通ってファイバグレーティングFGへ供給される。ファイバグレーティングFGのグレーティングピッチは予め定められた分布を有しており、波長λ1 の光は光サーキュレータOCに比較的近い位置でブラッグ反射され、波長λ2の光は比較的遠い位置でブラッグ反射される。これにより光パルスの圧縮が行われ、ファイバグレーティングからのブラッグ反射光を光サーキュレータOCを介して取り出すことによって、分散補償を行うことができる。
図32の分散補償器30を例えば図6の第2実施形態のように第2の光ファイバSMF2の途中に光増幅器A−j(jは自然数)が設けられているシステムに適用する場合には、分散補償器30を光増幅器A−jの直前に配置するのが望ましい。これは、分散補償器30が分散補償ファイバである場合に分散補償ファイバへの入力光パワーが小さいほど分散補償ファイバにおける非線形効果を小さくすることができるからである。
図15の第9実施形態に分散補償器30を適用する場合には、分散補償器30は、光ファイバSMF1、光ファイバSMF2又は光ファイバSMF3−1,2,・・・,Nの途中に設けられる。
図17の第10実施形態に分散補償器30を適用する場合には、分散補償器30は、光ファイバSMF11,12,・・・,1N又は光ファイバSMF2の途中に設けられる。
図18の第11実施形態又は図19の第12実施形態に分散補償器30を適用する場合には、分散補償器30は偏波保持ファイバSMF1(PMF)又は光ファイバSMF2の途中に設けられる。
図23の第15実施形態に分散補償器30を適用する場合には、分散補償器30は、光ファイバSMF11,12,・・・,1N又は光ファイバSMF21,22,・・・,2Nの途中に設けられる。
図24の第16実施形態に分散補償器30を適用する場合には、分散補償器30は、光ファイバSMF1又は光ファイバSMF21,22,・・・,2Nの途中に設けられる。
図25の第17実施形態に分散補償器30を適用する場合には、分散補償器30は、光ファイバSMF11′,12′,・・・,1N′又は光ファイバSMF21,22,・・・,2Mの途中に設けられる。