JP3913812B2 - 切り花の延命処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、切り花の鮮度保持期間や寿命を長くすることができる切り花の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年花卉市場の広がりと共に切り花の需要が伸びてきており、その鮮度保持技術に対する関心も高まっている。切り花の鮮度保持技術としては、切り花を低温又低温且つ高湿環境下で保存する通常の方法、STS(チオ硫酸銀)剤や過マンガン酸カリウムを吸着させた活性アルミナ等のエチレン生成抑制剤や処理剤を用いる方法(特開平2−312541号公報参照)等を含め、種々の方法が提案されている。しかしながら、このような方法では、十分長い鮮度保持期間が得られないと共に、環境保全の観点からも問題がある。又、販売や観賞等のために切り花を自然状態に戻した後の鮮度保持期間を延長することができない。
【0003】
最新の技術としては、切り花を低温環境において無極性ガス雰囲気下で保存することにより、切り花の生体機能を保持しつつ代謝を抑制して老化の進行を停止させ、販売時等に外部に取り出した後自然状態へ復帰させる切り花の保存方法が提案されている(特開平8−104601号公報参照)。この方法によれば、切り花を長期保存することは可能であるが、自然状態に復帰させた後の鮮度保持期間は必ずしも長くならない。又、自然状態復帰後の鮮度保持期間延長のための処理としては、処理期間が長いという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は従来技術に於ける上記問題を解決し、環境問題等を発生させることなく、短い処理期間で自然状態に復帰させた後の切り花の鮮度保持期間及び寿命を延長できる切り花の処理方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するために、請求項1の発明は、切り花の処理方法が、切り花への水の供給を前記切り花の水吸収速度が速くなって水吸収が促進される程度の所定時間停止した後前記切り花を密閉性のある耐圧容器の内部に入れ、前記内部にキセノンガスボンベからキセノンガスを入れて前記内部を前記キセノンガスが分圧を持つ雰囲気にすると共に前記内部で前記キセノンガスの水溶液を作って前記切り花の切り口を前記水溶液に所定時間であって前記切り花の保有する水が全て前記キセノンガスの分子の周りに再配向した水分子となって疎水性水和を生じて構造化された水に置換されるために必要な所定時間浸し、該所定時間経過後に前記内部の前記キセノンガスを回収することを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、切り花の処理方法が、切り花への水の供給を前記切り花の水吸収速度が速くなって水吸収が促進される程度の所定時間停止した後前記切り花を密閉性のある耐圧容器の内部に入れ、前記内部にキセノンガスボンベからキセノンガスを入れて前記内部を前記キセノンガスが分圧を持つ雰囲気にすると共に前記内部に前記キセノンガスの水溶液を供給して前記切り花の切り口を前記水溶液に所定時間であって前記切り花の保有する水が全て前記キセノンガスの分子の周りに再配向した水分子となって疎水性水和を生じて構造化された水に置換されるために必要な所定時間浸し、該所定時間経過後に前記内部の前記キセノンガスを回収することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の切り花の処理方法を実施できる装置の全体構成の一例を示す。
密閉性のある収容体として処理筒となる耐圧容器1は、その内部に切り花2を支持するバスケット3が入れられ、外側を外筒4で支持されている。耐圧容器1には、無極性ガスを供給する供給装置5、及び、これを回収するための回収装置6が接続される。無極性ガスは一般に水に対する溶解度が低いが、本例では、その中で、活性が低く比較的水に溶けやすい無極性ガスの一例としてのキセノンガスを用いる。従って、供給装置5としてはキセノンガスボンベ等を用いる。
【0012】
耐圧容器1は、供給装置5及び回収装置6に接続される入口管11及び出口管12、入口管11と接続し渦巻き状等に形成され多数の小孔の開けられた底部の内管(散気管)13、入口弁14、圧力計15、出口弁16、耐圧ガラス17aを持つ蓋17、水供給排出管18、同弁19、20等を備えている。バスケット3は支持台1a上に載せられる。
【0013】
図2は、上記装置を用いた切り花の処理方法の各工程の一例を示す。
この処理方法は、切り花収納工程(S−1)、水注入工程(Sー2)、キセノンガス注入工程(S−3)、処理工程(S−4)、キセノンガス回収工程(S−5)を有する。
【0014】
切り花収納工程(S−1)では、切り花2をバケット3に入れ、これらを耐圧容器1の蓋17を開けて上部から容器内に収納する。この場合、切り花への水の供給を所定時間停止した後、即ち切り花に水ストレスを加えた後に容器内に収納することが望ましい。そのようにすれば、以後の処理において切り花が水を吸収し易くなり、処理時間が短縮される。この所定時間は、切り花に影響を与えない範囲で水吸収速度が促進される程度の時間が良く、水ストレスに強い花や弱い花など花の種類等によっても異なるが、例えば数時間から1日程度でよい。
【0015】
水注入工程(S−2)では、弁19を開き、二点鎖線で示す程度の適当な水位まで耐圧容器1内に水を入れる。これによって、切り花の下端の切り口が水に漬かり、そこから水の吸い上げが可能になる。
【0016】
キセノンガス注入工程(S−3)では、弁14及び弁16を閉じ、キセノンガスボンベ5を入口管11に接続し、弁14を適当な開度に開き、圧力計15を見ながらて容器1内にキセノンガスを少しづつ充填する。そして、キセノンガスの分圧が例えば4kgf/cm 2 程度(圧力計のゲージ圧力で4kgf/cm2G程度)になると、弁14を閉じて注入を停止すると共に処理筒1を密閉し、ガスボンベ5の接続を解除する。
【0017】
この工程では、キセノンガスの分圧を4kgf/cm2 程度にすることにより、キセノンガスが水の表面から内部に溶け込んでその分圧に対応した溶解度に到達する。この場合、キセノンガスが耐圧容器1の底部の内管の多数の小孔から水中に吹き出すので、このときに水と十分接触し、その一部分が水に溶解しつつ容器内に充満するので、キセノンガスの水に溶け込む時間が短縮される。
【0018】
処理工程(Sー4)では、耐圧容器1とキセノンガスボンベ5との接続を解除し、耐圧容器1内にキセノンガスを注入した状態を所定時間として例えば20時間程度持続させる。この工程は、夏季の高温時には20°C程度に空調した場所で行われることが望ましい。又、耐圧容器1を冷蔵倉庫等の中に入れて5°C程度の低温条件で処理すれば更に良い。
【0019】
処理工程(Sー4)により、切り花はその切り口からキセノンガスの溶解した水溶液を効率良く吸収する。又、切り花は相当の分圧を持ったキセノンガス雰囲気下にあるので、その花弁の表面からもキセノンガスを吸収し、これが細胞内の水に溶解する。この相乗作用によって、切り花の体内の水は全体的に短時間でキセノンガスの溶解した水になる。
【0020】
キセノンガスが水に溶解すると、水素結合した水分子集団の数が増加する。即ち、水分子がキセノンガス分子の周りに再配向して疎水性水和を生じ、いわゆる水の構造化が図られる。そして、切り花はこの構造化された水を吸収し、全ての細胞内の水が構造化された水で置換される。その結果、切り花の細胞内の水の分子運動が遅くなって水の粘度が増大し、酵素反応の速度が遅くなり、代謝が抑制される。そして、切り花がこの構造化された水を保有することにより、切り花の鮮度保持期間と寿命が大幅に延長される。
【0021】
以上の切り花の処理方法の例によれば、本発明における“密閉性のある収容体の内部に切り花を入れる”構成を切り花収納工程(Sー1)によって行ない、“内部を活性が低く水に溶けやすい無極性ガスを含む雰囲気にすると共に無極性ガスの水溶液を作って切り花の切り口をその水溶液に所定時間浸す”構成を水注入工程から処理工程(Sー2〜4)で行っている。
【0022】
以上のような処理方法は、切り花の生産直後の新鮮な状態のときに行われる。そして、この処理を施された切り花は、その後通常の流通過程に乗せられる。この場合、耐圧容器1内のキセノンガスを回収した後の水は、キセノンガスが溶解した水であるから、弁20を開いてこの水溶液を容器に採取し、その後は切り花の切り口をこの水溶液に漬けた状態にしておくことが望ましい。なお、出荷時期の調整等のため、処理工程(Sー4)を長期間持続することも可能である。この場合にも、切り花の体内の水が早期にキセノンガス水溶液で置換されるので、鮮度保持効果が高い。なお、長期間貯蔵するときには、低温貯蔵にすることが望ましい。
【0023】
ガス回収工程(S−5)では、図1に示すように切り花2を耐圧容器1内に保持した状態で出口管12をキセノンガス回収装置6に接続し、後述するように回収装置6を作動させて内部のキセノンガスを回収する。そして、ガスを回収した後に蓋17を開いて切り花2を取り出す。回収したガスは再利用される。このような回収作業は、流通の形態により、生産地、卸売市場、販売店等の何れかにおいて処理工程の終了後に行われる。但し、低コストの無極性ガスを用いる場合等には回収工程を省略し、耐圧容器1内のガスを大気に放出させてもよい。この場合、活性の低い無極性ガスは無毒・無臭であるから、周囲環境に対して悪影響を与えることがない。
【0024】
図3は無極性ガス回収装置としてのキセノンガス回収装置の構成例を示す。
本装置は、耐圧容器1の出口管12と接続される接続部61と、接続部を介して耐圧容器内のキセノンガスを吸引して昇圧するブースタポンプ62と、吸引したキセノンガスを吐出する吐出部63とを備えている。キセノンガスは耐圧容器1内で空気と混合しているので、回収するキセノンガスの純度を向上するために、更に、キセノンガス液化用のサンプルシリンダ64、デュワービン65、液化配管系66、その真空引き用の真空ポンプ67等を設けている。符号68は、減圧弁V8を介してブースタポンプ62に作動用空気を送る圧縮機である。その他、配管系には弁類や圧力計等が適宜設けられている。
【0025】
本装置によるキセノンガスの回収は次のように行う。
切り花及びキセノンガスが入った耐圧容器1及びキセノンガスボンベ5を本装置と連結した後、弁16、V1、V4及びV6を閉じ、弁V2、V3、V5及びV7を開き、真空ポンプ67を作動させてラインの真空引きをする。次に、弁V2、V4、V6及びV7を閉じ、弁16、V1、V3及びV5を開き、ブースタポンプ62を運転して耐圧容器1内のキセノンガスをサンプルシリンダ64内に圧入すると共に、デュワービン65内に液化炭酸ガスを噴射してサンプルシリンダ64を冷却し、内部のキセノンガスを液化させ、キセノンガスを一次的に回収する。このときには、安全弁V9の設定圧力以下の圧力まで昇圧する。なお、耐圧容器1内が負圧になるように吸引すれば、回収効率が向上する。
【0026】
耐圧容器1内のキセノンガスを全てサンプルシリンダ64内に回収すると、弁V1、V2、V3、V4、V5及びV7を閉じ、弁V6を開き、回収ラインの大気圧を確認した後弁V6を閉じ、弁V5及びV7を開き、真空ポンプ67を再度運転して回収ラインの空気を抜く。そして、弁V1、V2、V3、V6及びV7を閉じ、弁V4及びV5を開き、サンプルシリンダ内のキセノンガスを圧力差により逆止弁V10を介してキセノンガスボンベ5内に移送する。この移送は、ラインの圧力が5 kg/cm2Gになるまで行う。次に弁V5を閉じて弁V2及びV3を開き、このラインのキセノンガスもブースタポンプ62を介して5 kg/cm2Gになるまで移送する。以上の操作は、図示の各部の圧力計P1〜P4を見ながら行う。
【0027】
なお、キセノンガス回収装置をパッケージ化したり自動化するようにしてもよい。この場合には、例えば、開閉させる弁を全て電動弁とし、必要箇所に圧力センサを設け、操作盤を設けてその操作スイッチをオンにすることにより、上記のような機器やバルブの動作が圧力検出やタイマー等によりシーケンシャルに行われるようにする。又、耐圧容器1及びキセノンガスボンベ5は、回収装置とワンタッチで着脱できるようにする。このようにすれば、キセノンガスの回収操作が極めて容易になる。
【0028】
図4は本発明の切り花の処理方法を実施できる他の装置の例を示し、図5は本例の装置を用いた場合の処理方法の各工程を示す。
本例では、耐圧容器1自体には水を入れず、切り花を入れる容器3´内に水を入れるようにしている。従って、図2において、切り花収納工程(Sー1)では、容器3´内に水を入れた状態でこれを耐圧容器1内に入れる。又、当然に水注入工程はない。なお、切り花を水に入れて収納する前に水ストレスを与えることが望ましいのは、図1の例と同様である。キセノンガス注入工程(Sー2)では、耐圧容器1内にキセノンガスの分圧が4kgf/cm2 程度になるように直接キセノンガスを入れる。この場合には、容器3´の水には、分圧の効果によってその表面からキセノンガスが溶解する。
【0029】
この例では、図1の例よりもキセノンガスが水に溶解するまでの時間が長くなるので、処理工程(Sー3)を例えば24時間程度にする。しかし、処理後にはキセノンガスの溶解した水に入れられた切り花をそのまま取り出して流通過程に乗せられるので、取扱いは容易になる。又、耐圧容器等の構造も簡単になる。この例でも、切り花がキセノンガスの溶解によって構造化した水を吸収することにより、その後の鮮度保持期間の延長と長寿命化が図られる。
【0030】
なおこの例の方法では、本発明の“密閉性のある収容体の内部に切り花を入れる”構成を切り花収納工程(Sー1)によって行ない、“内部を活性が低く水に溶けやすい無極性ガスを含む雰囲気にすると共に無極性ガスの水溶液を作って切り花の切り口をその水溶液に所定時間浸す”構成を、花収納工程(Sー1)の一部分である容器3´に水を入れる作業並びにキセノンガス注入工程及び処理工程(Sー2、3)で行っている。
【0031】
図6は、カーネーションの切り花に対して、20°Cの一定温度で上記の処理をしたものと処理をしなかったものとを静置状態にして、その後の鮮度保持効果を比較した実験結果を示す。なお、本例では約1日の水ストレスを与えている。水ストレスを与えない場合には、処理期間を10時間程度延長すればよい。図では、処理しない花をC、処理した花をTとしてそれぞれ左右に示し、(a)乃至(d)に、それぞれの収穫後の経過日数が2日、11日、16日及び18日の状態を示している。
【0032】
この比較結果によれば、収穫から1週間経過した頃から両者の差異が明確に現れ始めて、11日後には、Cでは相当しおれが見られるのに対して、Tは初期状態からそれ程変化していなく、16〜18日後には、Cが完全にしおれて枯死状態になったのに対して、Tはまだ開花状態を保っている。そして、Tはその後も3週間乃至4週間の間観賞に耐えられる状態であった。従って、本発明を適用した本例の処理をすれば、観賞期間を2週間以上延長できる効果が生ずる。
【0033】
図7は、上記の実験と平行して行ったカーネーションの切り花の呼吸速度の測定結果を示す。図で符号Cで示す黒四角の曲線は無処理のもので、符号Tで示す白丸の曲線は上記処理をしたものである。図示の如く、花の状態変化の少なかった1週間位までは、CもTも同様の呼吸特性を示しているが、その後、Cは所謂クライマテリック現象と言われる急激に呼吸速度が上昇する現象を示した後、急激に呼吸速度が低下して枯死している。これに対してTは、そのような現象を全く発生させることなく、極めて安定して推移する呼吸状態を示している。この呼吸特性の測定結果から推定される切り花の鮮度状態は、図6の目視結果と良く一致するものであった。
【0034】
図8は本発明の切り花の延命処理方法を実施できる装置の更に他の例を示し、図9は本例の装置を用いた処理方法の工程を示す。
本例では、切り花を入れる耐圧容器1とは別にキセノンガスを溶解させるだけのための溶解槽7を設けている。溶解槽7は、例えば10kgf/cm2G程度の耐圧容器で、水注入管71、キセノンガス導入管72、キセノンガス水溶液出口管73等を備えている。溶解槽7は、耐圧容器1に一回分の水を入れられる大きさであってもよいし、それよりも十分大きくて同時に複数の耐圧容器に水を入れられる大きさであってもよい。
【0035】
本例の装置を用いて切り花の処理方法を実施する場合には、先ず、溶解槽7内に水を入れた後キセノンガスを注入して圧力10kgf/cm2G程度のキセノンガス水溶液を製造するキセノンガス水溶液製造工程1を行ない、その後順次、切り花収納工程(Sー2)、キセノンガス注入工程(Sー3)、キセノンガス水溶液供給工程(Sー4)、12時間程度の処理工程(Sー5)及びキセノンガス回収工程(Sー6)を行う。工程(Sー3)は、耐圧容器1内に予めキセノンガスを注入してその分圧を4kgf/cm2 程度まで上げて置くことにより、工程(Sー4)でキセノンガス水溶液を容器3´に注入したときの水溶液中のガスの急激な蒸発を防止するための工程である。なお、耐圧容器1が密閉されているので、この中に注入した水溶液中のガスが蒸発しても器内が飽和になれば蒸発が止まるので、液中のガスが保たれる。
【0036】
この方法によれば、装置は複雑になるが、予めキセノンガス水溶液、即ち構造化された水を製造しておくことができるので、切り花の処理開始時には、切り花に直ちにこの水を吸収させられるため、図1の装置によるよりも更に処理時間を短縮できる。その結果、鮮度保持のための処理をした切り花をより早く市場に出荷することができる。
【0037】
図10は更に他の切り花の処理方法の例を示す。
本例では、図1に示すように切り花を耐圧容器1内に入れることなく、大気圧下で処理している。キセノンガス等の無極性ガスは、前述の如く溶解度が低いため分圧を上げて水溶液にする必要があり、これを大気圧下に開放すると、溶解したキセノンガスがある程度大気中に放出されるが、一定時間以内であれば可なり溶解した状態で残存する。そのため、この水溶液で処理することにより、切り花の鮮度保持と寿命延長を図ることができる。この場合、切り花にキセノンガスの溶解度の高い水を早く吸収させるため、花によっては例えば24時間程度の強い水ストレスを加えた後処理することが望ましい。又、例えば5°C程度の低温状態では、常温に較べてキセノンガスの溶解量が倍増するので、例えば冷蔵倉庫内等でこの処理を行えば有効である。
【0038】
同図(a)では、切り花2を浅い皿8に入れて適当な方法で保持すると共に、キセノンガス水溶液を入れた容器9の底から水溶液をごく少量づつ流し、常にキセノンガスの溶解量の多い液を切り花の切り口に与える。この場合、キセノンガス水溶液は例えば図8に示す溶解槽7のような装置で製造する。このような溶解槽7は相当のキセノンガス分圧を持っているので、これから多数の切り花に直接水溶液を供給するときには、適当な減圧装置を介してこれを供給する。又、小規模の用途では、溶解槽7からキセノンガス水溶液を小型ボンベ等に入れ、使用時に栓を抜いて大気圧にして切り花に供給する。このような処理方法は、極めて簡易で家庭内においても行える。なお、容器9は、水溶液中からキセノンガスが放出されにくいように、表面積の小さい形状のものが望ましい。
【0039】
同図(b)では、ビニール袋8a等に大気圧に復元した直後のキセノンガス水溶液を入れ、これに切り花の切り口を漬けて袋の口を括ってシールする。この状態で冷蔵装置等に入れることが望ましい。なお、袋の中に綿8b等を入れて、更にキセノンガスの発散防止を図るようにしてもよい。(c)はキセノンガス水溶液を花瓶8cに入れて活ける方法、(d)は切り花全体を容器8d内に漬ける方法、(e)は同溶液を滴下する方法である。
【0040】
図10の方法によれば、図1乃至図9の処理方法よりも鮮度保持や延命効果は劣るものの、極めて簡易に実行でき、無処理の切り花に較べて数日乃至1週間程度の鮮度保持期間の延長が可能である。
【0041】
なお以上において、図6、7の比較実験では切り花がカーネーションである場合の例を示したが、本発明の方法は薔薇やその他のどのような花に対しても適用可能であり、それらに対して鮮度延長効果が得られる。
【0042】
又、キセノンガス等の使用可能な無極性ガスは、それぞれ水に対する溶解度を異にし、その圧力を高くすると溶解度が高くなり水の構造化が促進し、鮮度保持効果が大きくなるという性質を有する。従って、無極性ガスの圧力は、使用するガスの種類、対象とする切り花の種類、目的とする鮮度保持の期間や程度等を総合的に判断して決定される。例えばクリプトンガスを用いる場合には、このガスはキセノンガスよりも水に対する溶解度が低いから、キセノンガスの場合の2倍程度の圧力を必要とする。但しクリプトンガスは安価であるため、必ずしも回収する必要がなく、大気中に放散させるようにすれば鮮度保持のための処理が容易になる。
【0043】
【発明の効果】
以上の如く本発明によれば、請求項1の発明においては、活性が低く水に溶けやすい無極性ガスとしてキセノンガスの水溶液を切り花に与えるので、切り花の体内の水をキセノンガスの溶解によりある程度構造化した水に置換することができる。その結果、この水を含んだ切り花は、その後一定期間代謝が抑制された状態を持続し、鮮度を保持して寿命が延長される。従って、簡易な方法で切り花の延命処理を行うことができる。
【0044】
無極性ガスであるキセノンガスは、無色・無臭且つ無毒の気体で、大気中に放出されても何ら環境問題を発生させない。
【0045】
キセノンガスは、融点−111.8°C、沸点−107.1°Cを持つ無色・無臭且つ無毒の気体で、0°Cにおける解離圧がそれぞれ0.15MPaで低い値である。従って、比較的低い圧力で切り花の細胞内の水に溶解するので、水の構造化を図るのに適している。又、このガスは、溶解しても細胞内の化学反応に関与しない化学的に安定したガスである。従って、本発明に使用する無極性ガスとして最も適している。
【0046】
又、切り花の処理前に切り花に水ストレスを与えるので、その後のキセノンガス水溶液の吸収速度が速くなり、処理時間を短縮することができる。
【0047】
又、切り花にキセノンガス水溶液を与える方法として、密閉性のある収容体の内部に切り花を入れ、この中を活性が低く水に溶けやすいキセノンガスを含む雰囲気にすると共に、切り花の切り口をキセノンガスの水溶液に所定時間浸すので、切り花の体内の水を全て構造化された水に置換することができる。その結果、この水を含んだ切り花は、その後長期間にわたって代謝が抑制された状態を持続し、鮮度を保持して寿命が延長される。この場合、上記処理後にも、切り花をキセノンガスの水溶液に漬けた状態で流通させれば、一層長い期間鮮度を保つことができる。
【0048】
この場合の所定の時間は、切り花の種類、目的とする鮮度保持期間等によって異なるが、上記の如く切り花の保有する水が全て構造化された水に置換されるために必要な時間であることが望ましく、例えば24時間程度である。この場合、切り花をキセノンガスの雰囲気下に置くだけでなく、その切り口から構造化された水を吸わせるので、処理期間を大幅に短縮できる。なお、所定時間即ち切り花の処理中の状態を長期間持続させれば、切り花を長期間保存することもできる。
【0049】
又、切り花を容器に入れ、その容器内に水を入れ、その容器の表面をキセノンガスの雰囲気に曝すことによってキセノンガスの水溶液を作るようにすれば、処理後に容器と共に切り花を取り出し、そのままの状態で流通過程に乗せることができる。その結果、簡単な作業で切り花を一層長期間新鮮な状態に置くことができる。
【0050】
請求項2の発明においては、切り花を耐圧容器に入れ、内部にキセノンガスボンベからキセノンガスを入れて内部をキセノンガスを含む雰囲気にすると共に内部ににキセノンガスの水溶液を供給するので、切り花が直ちに構造化された水の吸収を開始するので、内部の水の置換が速くなり、処理時間を短縮することができる。
【0051】
以上の請求項1及び2の発明においては、所定時間経過後にキセノンガスを回収するので、キセノンガスの繰り返し利用が可能になり、高価なキセノンガスを使用するときに処理費用を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の切り花の処理方法を実施できる装置の構成例を示す説明図である。
【図2】上記装置を用いた切り花の処理方法の一例を示す工程図である。
【図3】キセノンガス回収装置の構成の一例を示す系統図である。
【図4】本発明の切り花の処理方法を実施できる他の装置の構成例を示す説明図である。
【図5】上記装置を用いた切り花の処理方法の一例を示す工程図である。
【図6】(a)乃至(d)は、カーネーションの切り花を上記処理方法により処理した場合と処理しない場合とで花の状態を比較した実験結果を示す説明図である。
【図7】上記実験において呼吸速度を測定して比較した曲線図である。
【図8】本発明の切り花の処理方法を実施できる更に他の装置の構成例を示す説明図である。
【図9】上記装置を用いた切り花の処理方法の一例を示す工程図である。
【図10】(a)乃至(e)は切り花の処理方法の更に他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 耐圧容器(収容体)
2 切り花
3´ 容器
6 キセノンガス回収装置
7 溶解槽
Claims (2)
- 切り花への水の供給を前記切り花の水吸収速度が速くなって水吸収が促進される程度の所定時間停止した後前記切り花を密閉性のある耐圧容器の内部に入れ、前記内部にキセノンガスボンベからキセノンガスを入れて前記内部を前記キセノンガスが分圧を持つ雰囲気にすると共に前記内部で前記キセノンガスの水溶液を作って前記切り花の切り口を前記水溶液に所定時間であって前記切り花の保有する水が全て前記キセノンガスの分子の周りに再配向した水分子となって疎水性水和を生じて構造化された水に置換されるために必要な所定時間浸し、該所定時間経過後に前記内部の前記キセノンガスを回収することを特徴とする切り花の処理方法。
- 切り花への水の供給を前記切り花の水吸収速度が速くなって水吸収が促進される程度の所定時間停止した後前記切り花を密閉性のある耐圧容器の内部に入れ、前記内部にキセノンガスボンベからキセノンガスを入れて前記内部を前記キセノンガスが分圧を持つ雰囲気にすると共に前記内部に前記キセノンガスの水溶液を供給して前記切り花の切り口を前記水溶液に所定時間であって前記切り花の保有する水が全て前記キセノンガスの分子の周りに再配向した水分子となって疎水性水和を生じて構造化された水に置換されるために必要な所定時間浸し、該所定時間経過後に前記内部の前記キセノンガスを回収することを特徴とする切り花の処理方法。
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