JP3913359B2 - 機能性グラフト化ポリウレタンフィルム、及びその製造法 - Google Patents

機能性グラフト化ポリウレタンフィルム、及びその製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な多機能性ポリウレタンに関し、ポリウレタンを主鎖とし、各種機能性単量体を主鎖にグラフト重合により結合させてなる高分子化合物より成り、ポリウレタンの特性と、グラフト重合によって導入された側鎖のブロックポリマーの特性を併せ持ち、側鎖を構成する機能性単量体の種類により親水性、親油性、撥水性、撥水撥油性等特定の機能を付与することができる機能性グラフト化ポリウレタンフィルム、及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
周知のようにポリウレタンはゴム弾性を示す特性を有し、さらに耐摩耗性、耐酸化性、耐油性、耐老化性等においても優れた性質を有し、しかもその塗膜は高い強度と柔軟性を有しているので、塗料、繊維、フォーム、パッキン、接着剤等各種の用途にひろく使用されている。また、近年、半導体、透明導電性フィルム、感光感熱材料などの新しい用途にも使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このようなポリウレタンを、さらなる新しい用途に使用しようとする各種試みがあるが、例えばポリウレタンに撥水性を持たせて撥水剤として用いることができれば従来にない優れた効果を有する撥水剤となることが見込まれる。
即ち、天然繊維、合成繊維などの繊維品や各種プラスチック成形品などに撥水性、防水性、耐水性を付与する撥水剤として、従来ではパーフルオロアルキル基を有する重合体を主体とするシリコーン系化合物及びフッ素系化合物を塩素系溶剤に溶解させたり、アルコール及び水からなる混合溶液にエマルジョン状に乳化した製品が市販され、対象物に対してスプレー・浸漬・塗布の如き通常の方法で塗着して撥水性を付与しているが、これらは以下のような問題点を有している。
【0004】
前記従来の撥水剤はその使用方法として、その大部分がスプレー・塗布により対象物表面に薄い被膜を形成して撥水させるタイプであり、例えばフッ素系の撥水剤を衣服等にスプレーすると、塗着部が概してゴワゴワになり、衣服等素材の柔軟性が損なわれることが多々あった。これは、フッ素系の重合体よりなる成形物が非常に硬く、全く柔軟性がなく、しかも薄いフィルム状に成形した場合にはわずかな力でも割れてしまう等の欠点があり、現在のところフィルム成形物等の用途は見出されていないことからも明らかである。一方、シリコーン化合物はフィルム状にしてもフッ素系重合体のような剛体にはならず、比較的弾性を有する形状となるが、引っ張る等の外力が加わると簡単に裂け目を生ずるなど脆弱であって強度が極めて小さいものであった。
さらに、特にフッ素系重合体は汎用の有機溶剤に対する溶解性が小さく、塩素系溶剤等の毒性の強い限られた溶剤のみにしか溶解しないため、その取扱いが困難であるという欠点を有していた。しかも基材との接着性も十分でないため、例えば塗料等のバインダーなどには到底使用できないという問題もあった。
【0005】
前記のようにポリウレタンは、高い強度及び柔軟性など多岐にわたる優れた特性を有しているので、撥水性を持たせて撥水剤として用いることができれば前記従来の撥水剤の問題点を生ずることがない優れた撥水剤となることが見込まれるのであるが、未だ良好な結果が報告されていない。
また、撥水性の付与のみならず他の性質についてもポリウレタンの特性を有する組成で、親水性、親油性、撥水撥油性、生体適合性を付与することができれば優れた効果が見込まれるが、これらについても未だ良好な結果が報告されていない。
【0006】
【課題を解決するために手段】
本発明者らは上記に鑑み鋭意研究の結果本発明に至った。即ち、基本概念は、ポリウレタンと各種機能性を有する化合物を配合することではなく、結合させることにより両者の特性を併せ持つ多機能性ポリウレタンを合成するものである。その基本的手法としては、少なくとも分子内に一つ以上の二重結合を有するジオール及びジイソシアネートの反応によりポリウレタンを合成する第一工程、この第一工程にて得られるポリウレタンを主鎖とし、この主鎖に、ビニル基を有する機能性単量体をグラフト重合により結合させて側鎖とする第二工程よりなる。こうして側鎖の機能に応じた特性を有するポリウレタンを得るのであるが、特に重要なことは側鎖を主鎖にグラフト重合により結合させるものであり、その概念的な様子は図1に示される。
【0007】
このようにして得られる本発明の機能性グラフト化ポリウレタンフィルムは、少なくとも分子内に一つ以上の二重結合を有する一種以上のジオール及びジイソシアネートの反応により合成されるポリウレタンを主鎖とし、この主鎖に、ビニル基及びエポキシ基を有する機能性単量体をグラフト重合により結合させて側鎖とし、この側鎖のエポキシ基にアミノ基及び水酸基を有する化合物を反応させて水酸基を導入し、このポリウレタンをフィルム状に成形し、さらにフィルム表面に存在する水酸基に、ビニル基を有する機能性単量体をグラフト重合により結合させて側鎖を延長化したことを特徴とする機能性グラフト化ポリウレタンであり、表面グラフトしたポリウレタンであって、主鎖のポリウレタンの特性を損なうことなく、表面グラフトされた物質が分子レベルの非常に薄い状態で結合しているため、その表面性状はグラフト化した物質の特性が確実に且つ十分に発揮されるものとなる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に係る機能性グラフト化ポリウレタンについて以下に詳細に説明する。
【0009】
本発明に用いられるジイソシアネートとしては、特に限定されるものではなく、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、などの脂肪族ジイソシアネート類、トリレンジイソシアネート、4,4−メチレンジフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどがある。
【0010】
本発明に用いられるジオールとしては、分子内に少なくとも一つ以上の二重結合を有するものであれば良く、内部オレフィン型のジオールであればよい。本発明のジオールとしてより良好なものとしては、分子内に少なくともビニル基を一つ以上有するジオールがあり、それらのジオールの内、特に末端(側鎖)ビニル基を有するポリブタジエンジオールが好ましい。最も好ましいポリブタジエンジオールの例としては、
化2
を挙げることができる。
【0011】
ポリウレタンの合成反応には、例えば前記4,4−メチレンジフェニルジイソシアネートと前記ポリブタジエンジオールとを反応させるのであるが、この時ポリブタジエンジオールと水素添加ポリブタジエンジオールを併用することにより主鎖中にビニル基の割合を適宜調整することもできる。この水素添加ポリブタジエンジオールの例としては、
化3
がある。
【0012】
また、前記水素添加ポリブタジエンジオールの代わりにポリエステルジオール、ポリカーボネイトジオール等の高分子ジオールを用いても前記と同様の効果を得ることができる。
【0013】
さらに、前記ジオールとして、或いは前記水素添加ポリブタジエンジオールの代わりにラジカル重合によって得られたポリブタジエンジオールを用いるようにしても良い。一般にイオン重合により得られたポリブタジエンジオールは1,2付加が多いのに対し、ラジカル重合により得られたポリブタジエンジオールは1,4付加が多く、主鎖中のビニル基の割合の調整の役割を果たすことができるのである。
【0014】
また、ポリウレタンの合成に際しては、ジオール成分に対して過剰量のジイソシアネートを添加してポリウレタンを合成するが、一定の条件で反応させた後、HO−(CH2nOH(n=2〜10)で表される低分子ジオールを添加するようにしても良い。この低分子ジオールは反応性に富み、得られるポリウレタンをより高分子にすることができる。例えばブタンジオール等を添加すると、ポリウレタンの末端のイソシアネート基と反応し、例えば4000程度の分子量のポリウレタンを12000程度の高分子量に高めることができる。
尚、この場合において、例えばブタンジオールの代わりにエチレンジアミン(H2NCH2CH2NH2)等を使用することにより、主鎖延長の他にポリウレタンを硬く且つ強くすることもできる。
【0015】
尚、ポリウレタンを合成する際の溶媒としては、通常にポリウレタンを合成する際に使用する溶媒であれば良く、トルエン、N,N−ジメチルアセトアミド等を例示できる。また、その他の合成条件についても通常にポリウレタンを合成する際の条件で行えばよい。
【0016】
こうして得られるポリウレタン(又はプレポリマー)は分子量2000〜500000程度であり、主鎖中に適度の間隔で二重結合(好ましくはビニル基)を有している。
このポリウレタン中の二重結合(ビニル基等)に各種機能性単量体をグラフト重合により結合させるのであるが、ポリウレタンに機能性単量体を加え、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等のアゾ系、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)等の過酸化物系、過硫酸アンモン等のラジカル開始剤により、適当な溶媒、例えばジオキサン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、N−メチルピロリドン等に溶解させた状態でグラフト重合させるのである。尚、この場合、第一の単量体をグラフト重合させた後、第二の単量体をグラフト重合させる二段階合成により異なった二種類の機能を有する機能性ポリウレタンを合成することもできる。例えば親水性モノマーと撥水性モノマーを交互にグラフト重合させて得られたポリウレタンは新規な性能を有し、新しい用途を開発できる可能性がある。
【0017】
本発明の特徴の一つは、上述の如くグラフト重合させる機能性単量体の種類により機能の異なる各種の機能性ポリウレタンを得ることができ、その結果、非常に多くの今までは成しえなかった用途に対しても適用できるようになる。
【0018】
以下に主鎖であるポリウレタンにグラフト重合させることができる機能性単量体と、得られる機能性ポリウレタンについて説明する。
【0019】
第一にあげられる機能性単量体は、親水性モノマーであり、その例としては、
化4
化5
化6
化7
化8
化9
化10
等があり、これらのモノマーをグラフト重合により主鎖のポリウレタンに結合させた親水性セグメントを側鎖にした機能性グラフト化ポリウレタンは保水性を有する。
さらに、
化11
化12
をグラフト重合したタイプのものは抗血栓性を有し、
化13
も同様の作用がある。
また、
化14
をグラフト重合したタイプのものは末端のリン酸に係るOHにより無機物との結合ができるため、歯の接着に適用することができる。
【0020】
第二にあげられる機能性単量体は、親油性(疎水性)モノマーであり、その例としては、
化15
があり、このモノマーをグラフト重合により主鎖のポリウレタンに結合させた親油性セグメントを側鎖にした機能性グラフト化ポリウレタンは保油性を有する。
このような親油性(疎水性)モノマーとしては、上記モノマー以外に
化16
化17
化18
化19
化20
化21
化22
で示すようなスチレン、アルキルスチレン、アクリロニトリル、アルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン等の各種単量体があり、これらの単量体は、AIBNのようなアゾ化合物、BPO等の有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物などの開始剤により、溶液重合、乳化重合、懸濁重合法により、グラフト重合化され、表面グラフト化する単量体の種類により、表面硬度、表面弾性、親油−親水バランスの異なる種々の特性を有するグラフト化ウレタン組成物が作成される。
【0021】
第三にあげられる機能性単量体は、撥水性モノマーであり、その例としては、
化23
がある。一般にシリコーン化合物は水をはじく性質を有するが、前述のように引っ張る等の外力が加わると簡単に裂け目を生ずるなど脆弱であって強度が極めて小さいものであった。しかし、この撥水性モノマーを側鎖にグラフト重合した本発明の機能性グラフト化ポリウレタンは、柔軟性、透明性を有し、且つ高い強度を有し、しかも通常のポリウレタンを溶解する溶剤にも溶解するため、従来の撥水剤にない優れた効果を有するものとなる。この撥水剤を用いて接触角を測定すると、120〜160゜程度になる。
【0022】
第四にあげられる機能性単量体は、撥水撥油性モノマーであり、その例としては、
化24
がある。この他に撥水撥油性モノマーとしては、
化25
化26
化27
化28
で示すようなテトラフロロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、三フッ化エチレン等の各種単量体があり、これらの単量体は、AIBNのようなアゾ化合物、BPO等の有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物などの開始剤により、溶液重合、乳化重合、懸濁重合法により、グラフト重合化される。一般にフッ素化合物は撥水撥油性を有するが、前述のように衣服等にスプレーすると、塗着部が概してゴワゴワになり、衣服等素材の柔軟性が損なわれたり、フッ素化合物を溶解させる溶剤は殆どなく、塩素系溶剤等の毒性の強い限られた溶剤のみにしか溶解しないためその取扱いが困難であるという欠点を有していた。しかし、この撥水撥油性モノマーを側鎖にグラフト重合した本発明の機能性グラフト化ポリウレタンは、ポリウレタン自身が柔軟性を有し、しかも高い強度を有するので、フィルム成形も可能になり、さらには通常のポリウレタンを溶かす溶剤に溶解するため、塗料としての用途にも用いることができる。また、撥水撥油性という機能は汚れを付着させないので、対象物に撥水性ばかりでなく汚れ防止の機能も付与することができ、さらには基材への接着性も高いので、種々の材料に適用することができる。フィルム成形性を利用してチューブとして使用すると前記付着防止性の性質による、人工血管として応用することにより抗血栓性の人工血管が得られる。さらに汚れ防止性を利用して各種電子部品用としての用途にも使用できる。また、撥水性能を判定する接触角は表面形状にもよるが、130〜170゜程度になることもある。
【0023】
その他にも機能性単量体としてどのようなモノマーを用いてもよく、例えば
化29
のイオン構造を有した単量体をグラフトし、抗血栓剤ヘパリン等のR-SO3 -Na+(Rは多糖)の構造を持つ化合物を反応し、抗血栓グラフト化ポリウレタンを得る。
化30
の単量体をポリウレタンにグラフト化した後、水、アルコール、或いはアミンでエポキシド基を開環させ、官能性基エポキシドを残し、その後、アミン、アルコール、水等と反応させ、反応性ポリウレタンを得ることができ、例えば接着性ポリウレタンとして用いることができる。
【0024】
また、本発明においてグラフト化させる場合、2種以上の単量体をグラフト化させることもできる。例えば前述のように、
化31
をグラフト化させたものは、抗血栓性を有することは述べたが、ブチルアクリレートやメチルメタクリレートのような親油性のモノマーと上記の単量体Aとの両者をグラフト化させた場合、得られたグラフト化ポリウレタンは親油性の導入により、表面疎水性を増し、単独のグラフトに比べ、より抗血栓性を有し、血液適合性がより良好となる。
【0025】
尚、本発明の機能性グラフト化ポリウレタンにおける主鎖を構成するポリウレタンと、側鎖を構成するグラフト重合によって導入されたブロックポリマーとの割合は、95:5〜5:95であり、この範囲より側鎖の割合が小さい(主鎖の割合が大きい)と、導入された側鎖の機能が十分に発揮されず、主鎖、即ちポリウレタンの性質のみが表れるものとなる。逆にこの範囲より側鎖の割合が大きい(主鎖の割合が小さい)と、主鎖、即ちポリウレタンの特性が損なわれ、側鎖、即ち機能性単量体からなるホモポリマーとしての性質のみが表れるものとなる。
【0026】
以上、主鎖を構成するポリウレタンに、機能性単量体をグラフト重合により結合させて側鎖とした機能性グラフト化ポリウレタンについて記述したが、さらにこの機能性グラフト化ポリウレタンの表面グラフトについて以下に記載する。
【0027】
ポリウレタンの表面グラフトとは、ポリウレタンの表面に分子レベルのグラフト化を行うことであり、端的に言うならばポリウレタンの有する各種特性を全く損なうことなく、その表面のみはグラフト化された物質の性質を有するものであり、一種のポリウレタンの表面処理と言えなくもないが、一般の表面処理と異なり、本発明に係る表面処理は、ポリウレタン表面と反応により化学的に結合されているため、剥離、分離などを全く生じない。即ち、混合物(積層体)ではなく反応生成物(一体)である。
また、このような反応を行うことにより、[0024]に記載した主鎖の割合が大きいと側鎖に導入された物質の機能が十分に発揮されないという課題も解消されるのである。
【0028】
この表面グラフトしたポリウレタンの合成法についてさらに詳細に記すると、以下の第一〜第五工程からなる。
第一工程であるポリウレタンの合成は前述と同様である。
第二工程であるグラフト化ポリウレタンの合成についても前述とほぼ同様であるが、この場合は、ビニル基とエポキシ基とを併せ持つ単量体をグラフト重合させる。この際、ポリウレタン間のクロスリンキングを避けるために反応即ちグラフト化パーセンテージは低レベルにコントロールする必要がある。この第二工程に用いる単量体として代表的であるのが、
化32
で示されるメタクリル酸グリシジルである。
第三工程では、グラフト化ポリウレタン中に導入されたエポキシ基の開環を行うと共に分子中に水酸基を導入するのであるが、この時に使用される物質としては分子内にアミノ基及び水酸基を併せ持つ化合物で、その例示としては、
化33
で示されるジエタノールアミン等がある。尚、この反応においてはエポキシ基を完全に開環させるためアミンを大過剰に用いても問題となることはない。
第四工程では、第三工程で得られたポリウレタンをフィルム状に成形する。具体的には、一度溶解させ、ガラス板上に流し込み、キャスティングフィルムを作成する。このフィルムは、その表面に水酸基の単分子が突き出た状態となる。
第五工程では、前記第四工程で得られたフィルム状ポリウレタンを表面グラフト化させるのであり、機能性単量体と重合開始剤を溶解させた溶媒中に浸漬させ、グラフト重合させる。即ち、フィルム表面に存在する水酸基に、ビニル基を有する機能性単量体をグラフト重合により結合させて側鎖を延長化するのである。例えば水溶性の単量体をグラフトさせる場合、Ce(IV)のような重合開始剤を単量体と共に水に溶解させ、前記フィルム状ポリウレタンを浸漬させてグラフト重合化させればよい。また、単量体を2種使用してのグラフト化共重合させることもできる。
【0029】
以上記述したように表面グラフトしたポリウレタンは、主鎖のポリウレタンの特性を損なうことなく、表面グラフトされた物質が分子レベルの非常に薄い状態で結合しているため、その表面性状はグラフト化した物質の特性が確実に且つ十分に発揮されるという、今までにない画期的な材料となり、種々の用途に期待できる。特に後述する実施例2に示すように、MPCによりグラフト化されたポリウレタンは、グラフト化した表面への血液の付着粘着性が非常に少なく、人工血管としての用途も見込まれる。
【0030】
【実施例】
[実施例1]
〔1.分子内に二重結合を有するポリウレタンの合成〕
(1)PBD
化34
(2)HPBD
化35
(3)MDI
化36
(4)BD
化37
13.7gのPBD(0.01mol)及び21.0gのHPBDを容積比1/4のN,N−ジメチルアセトアミド及びトルエンの混合溶媒60mlに溶解させた。この溶液中に前記混合溶剤30mlに溶解させたMDI10.0gを乾燥窒素気流中で添加し、激しく撹拌させた。反応温度は70〜75℃で、反応時間は1時間である。その後、N,N−ジメチルアセトアミド10mlに1.8gのBDを溶解したものを10分間かけて滴下し、反応温度を100〜110℃に上げ、1時間反応させた。反応物を室温に冷やし、大過剰のメタノール中に注ぎ、得られた白色沈殿物を濾過し、数回メタノールで洗浄した。その後、真空下70℃で少なくとも48時間乾燥させて目的のポリウレタンを得た。
【0031】
〔2.親水性セグメント化ポリウレタンの合成〕
化38
ジオキサン25mlに前記〔1〕で得られたポリウレタン3.0gを溶解した溶液にメタノール4ml中に上記MPC1.2gを溶解した溶液を混合させた。重合開始剤AIBN30mgを窒素気流中の溶液に添加した。グラフト反応は70℃で2時間行った。最初は無色溶液であり、重合が進むにつれて徐々に乳白色に変化したが、沈殿は表れなかった。反応終了後、生成物をメタノール中に注ぐと白色の固形物を生じた。MPCモノマー及びホモポリマーは多量のメタノールで洗浄除去した。得られた親水性セグメント化(MPCグラフト化)ポリウレタンを濾過し、真空中60℃で2日間乾燥した。
得られたMPCグラフト化ポリウレタンのIRを図1に示した。グラフト化率は12.8%であった。
【0032】
〔3.撥水性セグメント化ポリウレタンの合成〕
化39
ジオキサン25ml及びトルエン15mlの混合溶液に前記〔1〕で得られたポリウレタン3.0gを溶解し、メタノール4ml中に上記のシリコーン単量体1.5gを溶解した溶液を混合した。重合開始剤AIBN1gを窒素気流中の溶液に添加した。グラフト重合反応は70℃で24時間行った。反応終了後の操作は、前記〔2〕と同様に行った。
得られた撥水性セグメント化(シリコーン誘導体グラフト化)ポリウレタンのIRを図2に示した。グラフト化率は3.5%であった。
【0033】
〔4.撥水撥油性セグメント化ポリウレタンの合成〕
化40
ジオキサン50mlに前記〔1〕で得られたポリウレタン4.0gを溶解した溶液に、メタノール4ml中に上記のフッ素系単量体1.2gを溶解した溶液を混合した。重合開始剤AIBN50mgを窒素気流中の溶液に添加した。グラフト重合反応は70℃で1時間行った。反応終了後の操作は、前記〔3〕と同様に行った。
得られた撥水撥油性セグメント化(フッ素誘導体グラフト化)ポリウレタンのIRを図3に示した。グラフト化率は25%であった。
【0034】
〔5.各種セグメント化ポリウレタンのフィルム化〕
前記〔2〕、〔3〕、〔4〕で得られた各種セグメント化ポリウレタンをN−メチル−2−ピロリドン中に超音波発信機を用いて溶解させた。得られた溶液はデシケーター中エバポレーターによる溶液中の気泡を取り除いた。その後、ガラス板状の容器に流し込み、70℃のオーブン中窒素気流中48時間かけ溶媒の大部分を除去した。次いでフィルムは70℃の真空オーブン中で2日間乾燥させ、残留している溶剤をできる限り完全に除去した。
【0035】
〔6.フィルムの接触角の測定〕
前記〔5〕で得られた3種類の機能性グラフト化ポリウレタンフィルムに1滴に水を滴下し、その接触角を協和界面科学(株)製の接触角計CA−S・150型を使用して測定した。各3回の測定の平均値を表1に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
〔7.防水性試験〕
前記〔3〕、〔4〕で得られたシリコーン誘導体グラフト化ポリウレタン及びフッ素誘導体グラフト化ポリウレタンをそれぞれN−メチル−2−ピロリドンに溶解させ、この溶液を噴射ガスとしてLPGを使用し、噴射圧3.5kgでエアゾール詰めし、コートにスプレーしてその塗着状況(目視)、柔軟性(指触)及び防水性について調査した。
尚、比較として、市販のフッ素系防水スプレー2種類(フッ素系撥水剤を塩素系溶剤に溶解したタイプ及びフッ素系撥水剤をアルコール及び水を溶剤とし、エマルジョン状に分散したタイプ)を同様に調査した。
その結果を表2に示した。
【0038】
【表2】
【0039】
[実施例2]
〔1.分子内に二重結合を有するポリウレタンの合成(重合)〕
原料の配合量、実験手順、精製方法は、実施例1と同様に行った。この合成されたポリウレタンの分子量は平均分子量で71000であった。
【0040】
〔2.グラフト化ポリウレタンの合成(グラフト重合)〕
前記〔1〕で得られたポリウレタン5g、下記で示すメタクリル酸グリシジル
化41
3ml、AIBN50mgを窒素気流中で混合溶解させる。ウォーターバス中70℃2時間撹拌する。反応終了後、生成物をメタノール中に注ぐと白色のポリマーが沈殿した。濾過後、アセトンで数回洗浄を行い、モノマー、ホモポリマーを洗浄除去し、真空中60℃で2時間乾燥させた。元素分析により計算されたグラフト化率は18.4%であった。
【0041】
〔3.エポキシ基の開環反応〕
前記〔2〕で得られたグラフト化ポリウレタンをジオキサン中に再溶解し、100℃で1時間過剰のジエタノールアミンと反応させる。反応により得られた、水酸基が導入されたポリウレタンを、メタノール中で沈殿、濾過し、メタノール洗浄後、60℃で24時間真空中で乾燥させた。
【0042】
〔4.キャスティングフィルムの作成(フィルム化)〕
前記〔3〕で得られた、表面に水酸基が導入されたポリウレタンをジオキサン8部、メタノール2部の混合溶媒中に溶解させた。得られた溶液はデシケータ中エバポレーターにより溶液中の気泡を取り除いた。その後、ガラス板状の容器に流し込み、24時間窒素気流中室温で乾燥させ、さらに70℃で10時間乾燥処理を行い、可能な限り残留溶媒を除去した。
【0043】
〔5.表面グラフト化反応(グラフト重合)〕
前記〔4〕で得られたキャスティングフィルム(表面水酸基化されたポリウレタンフィルム)を完全に乾燥させ、重量を測定した後、
化42
化43
で示されるモノマーと重合開始剤の水溶液中に浸漬した。重合開始剤である硝酸二セリウム四アンモニウム[Ce(IV)]の濃度は0.05M、MPCの場合は0.5M、DMAmの場合は1.0Mに調整して行った。反応温度は40℃で、窒素気流中での反応である。反応後、得られた表面グラフト化フィルム(分子レベルで表面グラフト化されたポリウレタンフィルム)を水で十分に洗浄し、60℃で24時間真空中で乾燥させ、重量測定した。
尚、〔1〕〜〔5〕の反応は、図5に示した。
【0044】
〔6.表面グラフト化密度の測定〕
グラフト化率(mg/cm2)は
(反応後の重量−反応前の重量)/(キャスティングフィルムの表面積)で計算される。
結果、MPC表面グラフト化フィルムでは 3.3mg/cm2
DMAm表面グラフト化フィルムでは 5.5mg/cm2
となった。
【0045】
〔7.血液適合性試験〕
7−1.試験方法及び試験手順
( )フィルムを塩水で洗浄する。
( )新しく調整されたPRP中37℃1時間培養
PRP(血小板の多い血漿)の調整方法は、45mlのウサギの血液(オス)と3.8%のクエン酸ナトリウム水溶液の混合物を1000rpmで20分間遠心分離させて調整した。
( )培養後、フィルムを塩水で洗浄した。
( )2.5%グルタルアルデヒド含有塩水中に浸漬させ、冷凍温度で一夜静置した。
( )その後、塩水で洗浄した。
( )エタノール水溶液(エタノール濃度を上昇させ、数回行う)で脱水させた。
( )その後、臨界点のCS2により乾燥させた。
( )乾燥後のフィルム表面を目視観察した。
【0046】
7−2.試験材料
( )表面MPCグラフト化ポリウレタンフィルム
( )表面DMAmグラフト化ポリウレタンフィルム
( )表面水酸基化グラフト化ポリウレタンフィルム
( )元のグラフト化ポリウレタン
尚、( )及び( )は比較例である。
【0047】
7−3.目視及び指触観察結果
【表3】
このように( )は血液の粘着付着に対して大きな抵抗を示すが、その理由として第一にグラフト化された表面が極性を有し、その表面に水を吸着させ、グラフト化表面に薄いヒドロゲル層を形成させ、血小板の粘着を防止していると考えられる。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように本発明は、ポリウレタンを主鎖とし、各種機能性単量体を主鎖にグラフト重合により結合させてなる高分子化合物より成り、ポリウレタンの特性とグラフト重合により導入された側鎖のブロックポリマーの特性を併せ持ち、側鎖に入る機能性単量体の種類により親水性、親油性、撥水性、撥水撥油性等特定の機能を付与することができる。即ち、ポリウレタンは、ゴム弾性を示す他、耐摩耗性、耐酸化性、耐油性、耐老化性等において優れた性質を有し、さらにその塗膜は高い強度と柔軟性を有しているので、これらに機能性単量体の特性を付与することにより、従来にない優れた効果を有する素材として多種の分野で利用することができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 機能性グラフト化ポリウレタンの合成法を示す概念図である。
【図2】 実施例にて合成した親水性セグメント化ポリウレタンのIRチャートである。
【図3】 実施例にて合成した撥水性セグメント化ポリウレタンのIRチャートである。
【図4】 実施例にて合成した撥水撥油性セグメント化ポリウレタンのIRチャートである。
【図5】 実施例にて合成した表面グラフト化ポリウレタンフィルムの合成法を模式的に示す概念図である。

Claims (3)

  1. 少なくとも分子内に一つ以上の二重結合を有する一種以上のジオール及びジイソシアネートの反応により合成されるポリウレタンを主鎖とし、この主鎖に、ビニル基及びエポキシ基を有する機能性単量体をグラフト重合により結合させて側鎖とし、この側鎖のエポキシ基にアミノ基及び水酸基を有する化合物を反応させて水酸基を導入し、このポリウレタンをフィルム状に成形し、さらにフィルム表面に存在する水酸基に、ビニル基を有する機能性単量体をグラフト重合により結合させて側鎖を延長化したことを特徴とする機能性グラフト化ポリウレタンフィルム
  2. フィルム状ポリウレタンにグラフト重合する機能性単量体が
    であることを特徴とする請求項1に記載の機能性グラフト化ポリウレタンフィルム
  3. 少なくとも分子内に一つ以上の二重結合を有する一種以上のジオール及びジイソシアネートを反応させてポリウレタンを合成する第一工程、 前記第一工程で得られたポリウレタンを主鎖とし、この主鎖に、ビニル基及びエポキシ基を有する機能性単量体をグラフト重合により結合させて側鎖とする第二工程、
    前記第二工程で得られたグラフト化ポリウレタンの側鎖のエポキシ基にアミノ基及び水酸基を有する化合物を反応させて水酸基を導入する第三工程、
    前記第三工程で得られたポリウレタンをフィルム状に成形する第四工程、
    前記第四工程で得られたフィルム状ポリウレタンを、重合開始剤及び機能性単量体を溶解させた溶液中に浸漬させてグラフト重合させる第五工程
    よりなることを特徴とする機能性グラフト化ポリウレタンフィルムの製造法
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