JP3902817B2 - チシマザサの栽培方法及び栽培土壌 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チシマザサ(Sasa kurilensis;別名ネマガリダケ)を若筍食材として低地温暖な栽培圃場または環境の制御できる施設内で栽培種として馴地栽培するための栽培土壌及び栽培方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
天然のチシマザサは、稈の根元が曲がっていることからネマガリダケの別名がある。このほかにも幾つかの呼び名があるが、その分布城は、千島列島及び樺太から北海道を経て、本州鳥取以北の日本海側に及んでいる。チシマザサの植生は、山地積雪の多い急な斜面や原野に大群落をつくって自生するというものであり、地下茎の生長によって増殖し、数十年かかって開花結実してその一生を終えると言われている。
【0003】
チシマザサの成熟稈は工芸材料、若筍は食材として用いられており、特に若筍は季節の山菜食材として珍重されている。ところが、若筍を容易に収穫し易い地帯では乱獲が進んでおり、かかる場所では親竹までもが絶滅寸前に追い込まれているような状態である。このような現状では、ある一定量以上の収穫を望むとすれば俊険な山を越えて相当な奥地にまで足を延ばさざるを得ない。しかしながら、苦労の末に若筍を得たとしても、天然物であるがゆえに一時期の季節的片寄りがあるのは勿論のこと、品質や量的なバラツキも多く、その努力が徒労に終わってしまうことも少なくない。
【0004】
このようなことから、幾人かの先駆者がチシマザサの平地での栽培を試みたが、低地温暖な圃場やハウス等での栽培は野生種のため馴地し難いこと、地下茎の制御・管理、移植・増殖等の技術が確立されていないこと、並びに、一定の品質が得られず経済効果が低いこと等の理由で、農産物としての一定規模以上での栽培は実現していない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、きびしい自然環境で自生している野生種を栽培種として生育するためには、種子から育てて低地の温暖な環境へ順応させる方法が採用されるのが普通であるが、チシマザサの場合には、その種子を得ることが殆ど不可能に近い。また、たとえ種子を得ることができたとしても、それを発芽させて一人前になるまで生長させることは容易ではなく、反って自生地から収穫した方が経済性の面からも得策ということになってしまうのである。
【0006】
更に、たとえ収穫可能な程度に生長したとしても、栽培技術の確立されていない現状では、自然環境の相違によって親竹の維持管理ができないことを初めとして、密植させて増収を計るための栽培土壌の環境作りについてのデータが皆無であるなどの多くの問題が山積している。
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、地下茎の制御・増殖技術等を初めとするチシマザサの栽培技術を確立し、一定の品質を有するチシマザサを農産物として一定規模以上で経済的に栽培することができるようにすることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
以上のような目的を達成するために本発明者が鋭意研究を重ねた結果、チシマザサを条件の整った圃場で栽培した場合には、水平方向に特異な生育形態が生ずることを突き止め、この特異な生育形態を応用することによって本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明者は、上述の「条件の整った圃場」として、水捌けのよい土壌上に敷かれた透水性の濾過床上に一定厚さの腐植土壌層を備えていることを特徴とするチシマザサの栽培土壌を開発した。そして、この栽培土壌の腐植土壌層にチシマザサの株を移植し、該移植されたチシマザサの葉にも水がかかるように該腐植土壌層に散水しつつ、春化処理を行うことによって、移植されたチシマザサを生育させることに成功したものである。
【0010】
上記栽培土壌においては、前記透水性の濾過床に近付くに従って水捌けが向上するように設定するのが好適である。このような栽培土壌における腐植土壌層としては、赤土細礫土と腐葉土とを混合したものが好適であって、前記透水性の濾過床に近付くに従って水捌けが向上するようにするためには、下層ほど赤土細礫土の含有率が多くかつ上層ほど腐葉土の含有率が多くなるように、赤土細礫土と腐葉土の混合割合を調整すればよい。
ここで、自生地の土壌環境は、多くの場合、砂礫表土上にチシマザサの枝葉の腐植土層が堆積したものからなり、最上層ほど未腐植の状態にあることが分かっている。従って、本発明に係る栽培土壌も、自生地の腐植土層と同じような土壌環境(即ち、多孔質で柔軟性に富むと共に、水分や空気を多く含み、横走する地下茎の節より出ている毛根の水分吸収や同化・異化呼吸が十分に行える土壌環境)を形成するように考慮するとよい。
なお、上層ほど腐葉土の含有率が多くなるようにすると、地表付近が柔らかくなるため、生長した地下茎が地表付近を横走派生しやすくなる。このため、このように設定することで、生長した地下茎ができる限り地表に近いところを横走派生するように仕向けることができ、そのようにすることでチシマザサ収穫の容易性を向上させることができる。
【0011】
経済性を向上させるためには、チシマザサを高密度に栽培させて、単位面積あたりの収穫量を増加させる必要がある。そのためには、上記チシマザサの栽培土壌の腐植土壌層において、該腐植土壌層に植設したチシマザサの親株地下茎群および親株から横走派生する地下茎群の伸長する先端に障害物を設置するようにするとよい。このようにすると、障害物により地下茎が任意の方向に湾曲・誘導されることによって、地下茎群の節間が短くなり、この節より発芽する地上桿群を高密度に生育させることができるようになる。なお、このような高密度栽培土壌においても、その腐植土壌層は、前記透水性の濾過床に近付くに従って水捌けが向上するように設定するのが好適である。
【0012】
上記いずれの栽培土壌においても、その腐植土壌層にチシマザサの株を移植し、該移植されたチシマザサの葉にも水がかかるように該腐植土壌層に散水しつつ、春化処理を行うことによって、該移植されたチシマザサを生育させることができる。なお、横走派生する地下茎群の伸長する先端に障害物を設置するチシマザサの高密度栽培方法においては、移植されるチシマザサの右利き・左利きを考慮して前記障害物を設置することが好ましい。
【0013】
ここで、上記各栽培土壌をそれぞれ使用したチシマザサの栽培方法の全てが本発明に含まれるのは勿論のこと、栽培に係るチシマザサもしくはそれ以前の代で上記栽培土壌を使用した上記各栽培方法により栽培・生育されることによって得られたチシマザサの株もしくは若筍も本発明の範囲に含まれる。
【0014】
以上のような本発明に係るチシマザサの栽培方法及び栽培土壌は、次のような発明も提供する。
(1)休耕田の表土上に15〜20cm厚さで山砂を敷き、12mm厚さの耐水コンクリートパネルで高さ45cm、3.6m四角に枠仕切りをして固定し、枠仕切り内の床面にプラスチック製の網目状スクリ−ンを敷き、その上に、下層ほど赤土細礫土が多くかつ上層ほど腐葉土が多くなるような割合で赤土細礫土と腐葉土とを混合したものからなる腐植土壌層を40〜50cm厚さで形成し、チシマザサの栽培土壌環境をつくることを特徴とする休耕田の活用方法。
(2)上記栽培土壌のいずれかを備え、かつ、この栽培土壌に移植されたチシマザサの葉にも水がかかるように該栽培土壌に散水を行う散水施設と、前記腐植土壌を浸透して出てきた水を排水する排水施設と、移植されたチシマザサに春化処理を行うために所定時期に温度の昇降を行う温度調節施設と、移植されたチシマザサに肥料分を供給する肥料供給施設と、を備えることを特徴とするチシマザサの栽培システム。
(3)水捌け用の穴を有する所定の容器内に上記いずれかの栽培土壌を備え、該栽培土壌にチシマザサの株を移植し、該移植されたチシマザサの株が根付くまで散水処理を行うことによって製造されるチシマザサ用プランタ。
特に、チシマザサ用プランタについては、その大きさは制限されない。即ち、通常の観賞用のものから、坪(3.3平方メートル)単位のものについてまで適用することができる。坪単位の大型のものについてまで適用することができるのは、横走派生するチシマザサの地下茎により栽培土壌との結び付きが強くなり、当該栽培土壌と一体にして容易に移動をすることが可能になるからである。
【0015】
更に、チシマザサについては、その後の研究により水耕栽培の可能性が示唆されており、現時点では、水耕培地中で1月程度生存し得る程度に毛根を備えるものであれば、その後の水耕栽培に耐え得ることが明らかになっている。この一方で、チシマザサの水耕栽培についてのこれ以外の発明特定事項は、現時点では明らかになっていない。従って、水耕栽培に耐え得る特徴として「水耕培地中で1月程度生存し得る程度に毛根を備えるチシマザサ」を掲げ、本発明に係るチシマザサの水耕栽培方法を「水耕培地中で1月程度生存し得る程度に毛根を備えるチシマザサの株を用いて当該水耕培地中で水耕栽培を行うことを特徴とするチシマザサの水耕栽培方法」と特定するものとする。
【0016】
以上のような本発明によれば、チシマザサ株の栽培環境への移植と馴地、チシマザサ株の栽培土壌環境造りと管理、チシマザサ株の栽培圃場またはハウス等での地下茎の制御と管理、チシマザサ株の移植・増殖技術の確立、並びに、チシマザサの経済効果と市場性という課題が解決され、チシマザサを栽培し、食材や工芸材料として経済効果をあげることができるようになる。
【0017】
【発明の実施の形態】
[栽培土壌]
まず、「土壌」は岩石が風化分解して細粒化・細粉化したものに有機質が混合したものをいう。そして、本発明に係る「腐植土壌」は、植物の腐食したものが20%(重量比)以上含まれているものを指す(日本農学会)。よって、本発明に係る「腐植土壌」の一例としてあげられている「赤土細礫土と腐葉土とを混合したもの」は、これに限られることはない。例えば、「腐葉土」の他にも、堆肥(藁の腐食したもの)、木材の腐食したもの、或いはバーク(腐朽木材の粉末)などを使用することもできる。また、「腐葉土」にしても、その種類には無関係である。但し、腐葉土について言えば、天然のものよりも市販のものの方が、無菌処理がなされているがゆえに雑菌がいないので好ましい。なお、本発明に係る「腐植土壌」の成分としてあげられている赤土細礫土も、これに限られることなく、赤玉土や鹿沼土などで代用することができる。
【0018】
赤土細礫土と腐葉土を用いた場合に、その混合割合は、植物の腐食したものが20%(重量比)以上という限定を出ないように、表層あたりで赤土細礫土:腐葉土=4:6〜3:7(体積比)、透水性の濾過床付近で赤土細礫土:腐葉土=6:4〜7:3(体積比)になるように、混合比率に傾斜勾配を持たせるようにすると好適である。
【0019】
高密度栽培用に用いられる「障害物」としては、目的とする方向に地下茎の先端を湾曲・誘導させるようなものであれば、形状を問わず、いかなる物体も使用することができる。「障害物」となる物体としては、腐植土壌層の半分以上の深さで埋設される柔軟な薄板が好ましい。実施の形態としては、例えば、耐水性のコンクリートパネルや塩化ビニル製の薄板等を使用することができる。なお、この「障害物」については、地上桿が目的とする状態(例えば、渦巻状)になれば取り除いてもよい。
【0020】
上記の栽培土壌において、「水捌けのよい土壌」として好適なのは、例えば山砂で構成された土壌である。その他、川砂や砂利なども使用できるが、海砂には塩分が含まれているため、いわゆる通常の海砂はあまり好ましくない。従って、海砂を用いる場合には、チシマザサの生育に適するように塩分を充分に除去しておく必要がある。また、山砂、川砂及び砂利にしても、栽培地を充分に考慮して使用することが望ましい。例えば、砂利を休耕田に使用するのは、復田のことを考慮すると好ましくないであろう。
【0021】
上記の栽培土壌において、「透水性の濾過床」として好適なのは、例えば樹脂素材からなる網目状のシートである。しかしながら、「透水性の濾過床」は、これに限られることなく、例えば金網も使用することができ、その他にも砂利や素焼きの層、素焼きの板により構成することもできる。いずれにしても、土中にて腐らない透水性の構造物であれば、いかなるものも用いることができる。
【0022】
[チシマザサの株の選択、移植]
天然物の地上稈は地下茎の任意の一節から一本ずつ出芽生長するが、厳しい自然条件下では変形して出芽している場合が多く、そのようなものについては出芽率も低い。従って、栽培種の親株としては、外観的に稈丈高で外径が太く節間が短く稈の横断面が肉厚なもの、または、地下茎は節間が太くて短く出芽率の高いものを選ぶ。
【0023】
栽培圃場への移植は、山地の自生地では高度によって雪解け時期が異なるため、低地栽培圃場の気候条件と似通った夏季の一定時期に行なうようにする。また、移植後の散水管理は徹底して行うようにする。散水が不十分であると、根付きが悪く、枯死する確率が高い。また、腐葉土壌への施肥は生長の休止期に行うようにする。
【0024】
自生地からの採取・移植は、低地栽培圃場へ直接搬送するか、または、自生地の近辺で散水管理のしやすい環境で2〜3年移植・馴地した後に低地栽培圃場に移植することによって行う。但し、直接搬送する場合には、できるだけ短時間に移植する必要があり、同時に移植後の散水管理が特に重要となる。
【0025】
移植・株分けは地上稈が5〜10本を含む地下茎群を一単位として行う。移植後は、チシマザサの葉に水がかかるように充分に散水を行い、地下茎毛根が活着するまで散水管理をする。活着後は、毎年市販の腐葉土を5〜10cm厚さで地表面に散布するようにし、自生地の土壌環境(多孔質で柔軟性に富むと共に、水分や空気を多く含み、横走する地下茎の節より出ている毛根の水分吸収や同化・異化呼吸が十分行える土壌環境)を考慮して、腐植土壌が常に多孔質で柔軟な層であるようにする。
【0026】
もし、種子が得られた場合には、通常の直播きまたは温床播種・移植栽培のいずれを行うようにしてもよい。
【0027】
[チシマザサの生育]
<地上稈>
圃場での自然増殖の場合には、親株(移植株)の地下茎節より直接出芽する地上稈群と、任意方向に横走派生する地下茎節より出芽する地上稈群と、がある。地下茎より出芽する地上稈は一節一稈で出芽し、斜上方に伸長生長する。そして、地上稈の生長方向は地下茎の先端方向とほぼ一致することから、地上稈の伸長方向を見れば、地下茎の生長方向が特定できる。地上稈と地下茎の生長は密接な相互関係にあり、地上稈群が生長している時は地下茎群の生長が休止し、成熟稈になるに従って地下茎群が生長する。地上稈群上部の分枝基部に冬芽が完成すると双方とも生長が休止する。
【0028】
<親株(移植株)の地下茎節より直接出芽する地上稈群>
親株の地下茎節より直接出芽する地上稈群は、親株を中心に外側斜上方に向かって放射状に出芽し、地表3〜5節で垂直方向に強く湾曲しながら伸長する。成熟梓群は菊花弁状に拡がり、上方で分枝を繰り返す。成熟稈群の丈高は最大でも1.8mを越えることはないが、湾曲しているため見掛けの丈高はこれより低くなる。また、親株の中心部分の地表面は経年変化で台風の目状の円形空域を生じる。親株の地上稈群は5〜6年で世代交代する。
【0029】
<任意方向に横走派生する地下茎節より出芽する地上稈群>
横走派生する地下茎の先端は、柔らかい腐植土層を匍匐しながら伸長するが、地表に出ても、その趨地性のために再度腐植土層へ潜入する。しかし、障害物などのために地中へ潜入できなかった先端はそのまま地上稈として生長する。ところが、このような地上稈は、成熟しても丈高が大きくならず、矮化する。
【0030】
横走派生する地下茎群は、親株から直接伸びるものであっても、親株地下茎から伸びるものであっても、生長点のある先端に障害物があると、任意方向(上下左右)に湾曲し、節間が短くなり、全体として節数が多くなる。節数が多くなると出芽する地上稈も多くなるので、横走派生する地下茎群の生長点の先端に障害物があると、高密度栽培が可能となる。なお、生長点のある地下茎の先端を切断すると、その地下茎の生長が停止し、別の節より生長した地下茎から地上稈が出芽する。
【0031】
自然増殖法では単位面積当たりの出芽率に限界があるが、親株を中心に横走派生する地下茎の伸長方向を人為的に右回りまたは左回りの渦巻き放射状になるように障害物を設置し地下茎を湾曲させて出芽率を上げることにより、一区画仕切内の若筍食材の栽培効率を上げることができる。右回りか左回りかは、親株の固有性に従う。右回りか左回りかの固有性は無視してはならない性質であるが、地上稈の生長方向は地下茎の先端方向とほぼ一致することから、地上稈の伸長方向を観察することにより、対象となるチシマザサの固有性を容易に特定することができる。
【0032】
なお、横走派生する地下茎を親株を中心とした渦巻き放射状になるようにするためには、任意の放射状曲面をもつ櫛歯状の薄板を腐葉土壌中の設定位置に埋設しておくようにするとよい。
【0033】
<雑草処理>
成熟稈群下の地表面には雑草が生えにくいので、チシマザサの生育にあたって雑草処理に煩わされる心配はない。
【0034】
<休耕田への適用>
休耕田を利用して本発明に係るチシマザサの栽培土壌を作成した場合には、復田の際には、親株のみを保存して区画仕切り設備だけ撤去し、土壌はそのまま田地として利用できる。この場合において、残留したチシマザサ株の腐食物は田地の土壌改良材として作用する。
【0035】
このように、本発明に係るチシマザサの栽培土壌を休耕田に適用した場合には、復田が容易であり、かつ、田地の土壌改良も図れるため、本発明により、例えば減反休耕田の有効活用が図れるようになる。
【0036】
<チシマザサの栽培システム>
本発明は減反休耕田のみでなく、圃場や環境の制御される施設に適用することもできる。本発明に関するチシマザサの栽培方法及び栽培土壌によれば、チシマザサの成熟稈の丈高は1.8mを越えることが無いから、一般圃場または環境の制御できる施設での天井高さを考慮する必要がない。従って、低地温暖な圃場のみならず、ハウス等での栽培も可能になる。それゆえに、前述したように建物の中に人工的に環境を設定して栽培システムを構築するのに好適である。この場合において、前述したように、チシマザサの成熟稈群下の地表面には雑草が生えにくいので、建物内に栽培システムを構築するするのに都合がよい。
【0037】
【実施例】
本発明に係るチシマザサの栽培方法及び栽培土壌によるチシマザサの栽培実施例を説明する。
図1に示されるように、休耕田の表土11上に15〜20cm厚さで山砂12を敷き、それを12mm厚さの耐水コンクリートパネルで高さ45cm、3.6m四角に枠仕切り13をして固定した(図2)。そして、その枠仕切り13内の床面に農業用プラスチック製スクリ−ン14を敷き、その上に赤土細礫土と市販腐葉土の任意の割合で混合したものを40〜50cm厚さで堆積して腐植土壌層15を形成することにより、チシマザサの栽培土壌16を作成した。この場合において、この腐植土壌層15は、発明の実施の形態に示す態様に従って下層ほど赤土細礫土を多くし、上層ほど腐葉土を多くなるような割合にした。
【0038】
そして、自生地と栽培地の気候環境の近い夏季に、地上稈10本を含む地下茎群を親株として採取し、栽培土壌16の枠仕切り13の中央の腐植土壌層15に20〜30cmの深さで当該親株を直接植設し、地下茎の毛根が活着するまで散水管理をした。
【0039】
移植後は毎年、腐植土壌層15の表面に市販腐葉土を3〜5cm厚さに散布・中耕し、多孔性と柔軟性を保持させた。これは、生長した地下茎が、できる限り地表に近いところを横走派生するように仕向けるためである。
【0040】
以上の方法でチシマザサを生育させた場合、移植後の地上稈の出芽率は、1平方メートルあたりの移植年に対し、2年目で1.3倍、3年目で5.9倍、4年目で10.7倍、5年目で27.4倍となった。
【0041】
ここで、上記のような移植栽培のための一区画仕切り(この実施例では、耐水コンクリートパネルによる3.6m四角の枠仕切り13)は、経年後の成熟稈の枝張りと地下茎の管理を考慮すると、5m平方(1アール当たり四区画)程度が適当である。なお、充分に活着・生長した場合には、区画仕切り壁としての枠仕切り13を設けず、区画に相当する溝を設けるようにして、区画を仕切るようにしてもよい。また、腐植土壌層15への施肥は生長の休止期に行うようにする。これについては、直播き栽培の場合も同様である。
なお、上述の一区画仕切りについては、横走派生するチシマザサの地下茎により栽培土壌との結び付きが強くなっており、当該栽培土壌と一体にして一区画ごと移動をすることが容易に行えることが認められている。これは、チシマザサ用プランタについては、その大きさは制限されないことを意味する。従って、チシマザサ用プランタについては、通常の観賞用のものに限られることなく、坪(3.3平方メートル)単位の大規模な移動用の栽培土壌として取り扱うこともでき、それについて単独に取引の対象とすることもできる。
【0042】
以上説明した本実施例に係る方法は、地下茎の地下潜り込み防止スクリーンを施した透水性の濾過床上に一定厚さの腐植土壌層をつくり、任意大きさの区画仕切り壁を設け、区画の中央部分に親株を移植し、地下茎の毛根が活着するまで散水処理をする方法である。そして、この実施例に係る方法によれば、経年後の地下茎の錯綜による枯死を防止し、単位面積当たりの出芽効率が向上するという本発明の効果を容易に達成することができる。
【0043】
ここで、図3に示されるように、植設されるチシマザサの右利き左利きを考慮した上で、親株Pを中心に横走派生する地下茎P´の伸長方向を人為的に渦巻き放射状になるように、腐植土壌層15に湾曲状の障害物17を、腐植土壌層15の半分以上の深さで埋設することにより、地下茎P´を湾曲させて出芽率を上げ、一区画仕切内の若筍食材の栽培効率を上げることができる。なお、チシマザサの利き方向と逆向きに障害物17を埋設してしまった場合には、地下茎P´が障害物17上に乗り上げてしまうので、そのような事態が生じた場合には、直ちに埋設障害物17の設定方向を変更する必要がある。
しかしながら、四角の枠仕切り13だけでも、伸長する地下茎群の先端に設置される障害物としての役割を充分に果たすので、湾曲状の障害物17を製作し、それを埋め込むか否かの決定は、生産効率の向上とのバランスを考慮して行うと良いであろう。
【0044】
【発明の効果】
(1)以上説明したように、本発明は、若筍は食材として用いられ、成熟稈は工芸材料として用いられているチシマザサにおいて、長年にわたって求められていた地下茎の増殖技術を提供し、地下茎の制御・管理、移植・増殖等の技術を所定範囲で確立するものである。これにより、一定品質のチシマザサが得られるようになると同時に、その経済効果を高めることが可能になるので、種子を得なくても、一定規模以上の農産物としての栽培を行うことができるようになる。
【0045】
また、本発明によれば、条件の整った低地栽培圃場で、自生地より採取したチシマザサを移植・栽培した結果、自生している山地や原野ではみられない水平方向に色々の特異な生育形態を有するという性質を応用することによって、チシマザサの高密度栽培が可能になる。
加えて、雑草処理の必要がないので手入れが楽であり、農業分野以外でも生物資源としてチシマザサを安定的に供給することができるようになる。
【0046】
(2)チシマザサの若筍は食材として用いられており、食材としての経済的効果は移植後3〜4年後より上げられるものである。これが、天然の若筍よりも2〜3箇月早く市場出荷できることに加えて、品質や量的供給の面でも安定しているため、チシマザサ若筍自身の商品としての付加価値を高めることができる。
【0047】
(3)本発明により、減反休耕田を利用できる有効な方法の一つが提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例に係るチシマザサの栽培土壌を説明するための断面図である。
【図2】本実施例に係るチシマザサの栽培土壌を説明するための上面図である。
【図3】別の実施例に係るチシマザサの栽培土壌を説明するための上面図である。
【符号の説明】
11 休耕田の表土
12 山砂(水捌けのよい土壌)
13 枠仕切り
14 農業用プラスチック製スクリ−ン(透水性の濾過床)
15 腐植土壌層
16 チシマザサの栽培土壌
17 障害物
P 親株
P´ 地下茎
Claims (12)
- 水捌けのよい土壌上に透水性の濾過床を敷き、該透水性の濾過床上に一定厚さの腐植土壌層をつくり、
前記腐植土壌層は、前記透水性の濾過床に近付くに従って水捌けが向上するように設定され、
前記腐植土壌層にチシマザサの株を移植し、
前記腐植土壌層に移植したチシマザサの親株地下茎群および親株から横走派生する地下茎群の伸長する先端に障害物を設置し、
前記移植したチシマザサの葉にも水がかかるように前記腐植土壌層に散水しつつ、春化処理を行うことによって、前記移植したチシマザサを生育させることを特徴とするチシマザサの栽培方法。 - 請求項1記載のチシマザサの栽培方法において、移植されるチシマザサの右利き・左利きを考慮して前記障害物を、移植されるチシマザサが右利きの場合は右回り、左利きの場合は左回りの略渦巻き放射状に設置することを特徴とするチシマザサの栽培方法。
- 水捌けのよい土壌上に敷かれた透水性の濾過床上に一定厚さの腐植土壌層を備えると共に、該腐植土壌層に植設したチシマザサの親株地下茎群および親株から横走派生する地下茎群の伸長する先端に障害物が設置されていることを特徴とするチシマザサの栽培土壌。
- 請求項3記載の栽培土壌において、前記腐植土壌層は、前記透水性の濾過床に近付くに従って水捌けが向上するように設定されていることを特徴とする栽培土壌。
- 請求項3記載の栽培土壌において、前記腐植土壌層は、赤土細礫土と腐葉土とを混合したものからなることを特徴とする栽培土壌。
- 前記障害物は、目的とする方向に地下茎の先端を湾曲・誘導させる物体であることを特徴とする請求項3記載の栽培土壌。
- 前記腐植土壌層は赤土細礫土と腐葉土とを混合したものであって、前記透水性の濾過床に近付くに従って水捌けが向上するよう、下層ほど赤土細礫土の含有率が多くかつ上層ほど腐葉土の含有率が多くなるように赤土細礫土と腐葉土の混合割合が設定されていることを特徴とする請求項4記載の栽培土壌。
- 請求項3から7いずれか記載の栽培土壌において、前記水捌けのよい土壌は、山砂もしくは川砂で構成された土壌であることを特徴とする栽培土壌。
- 請求項3から8いずれか記載の栽培土壌において、前記透水性の濾過床は、樹脂素材からなる網目状のシートであることを特徴とする栽培土壌。
- 休耕田の表土上に15〜20cm厚さで山砂を敷き、12mm厚さの耐水コンクリートパネルで高さ45cm、3.6m四角に枠仕切りをして固定し、枠仕切り内の床面にプラスチック製の網目状スクリ−ンを敷き、その上に、下層ほど赤土細礫土が多くかつ上層ほど腐葉土が多くなるような割合で赤土細礫土と腐葉土とを混合したものからなる腐植土壌層を40〜50cm厚さで形成し、チシマザサの栽培土壌環境をつくることを特徴とする休耕田の活用方法。
- 請求項3から9いずれか記載の栽培土壌を備え、かつ、この栽培土壌に移植されたチシマザサの葉にも水がかかるように該栽培土壌に散水を行う散水施設と、前記腐植土壌を浸透して出てきた水を排水する排水施設と、移植されたチシマザサに春化処理を行うために所定時期に温度の昇降を行う温度調節施設と、移植されたチシマザサに肥料分を供給する肥料供給施設と、を備えることを特徴とするチシマザサの栽培システム。
- 水捌け用の穴を有する所定の容器内に請求項3から9いずれか記載の栽培土壌を備え、該栽培土壌にチシマザサの株を移植し、該移植されたチシマザサの株が根付くまで散水処理を行うことによって製造される、該移植されたチシマザサを有する鉢植え。
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