JP3902216B1 - 昆虫寄生菌の子実体の生産方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】昆虫寄生菌の子実体の生産方法は、昆虫の表皮に傷を付け、そこに昆虫寄生菌を接種し、昆虫の体内で昆虫寄生菌を増殖させ、昆虫寄生菌の子実体を形成する方法である。昆虫寄生菌としては例えば冬虫夏草菌類が用いられ、昆虫としてはハスモンヨトウ等の鱗翅目の昆虫が用いられる。前記昆虫寄生菌を寒天培地又は穀物培地上で培養し、該培地上に昆虫寄生菌の菌糸を形成させた状態で、その上に表皮に傷の付いた昆虫を置いて昆虫寄生菌を接種することが好ましい。さらに、昆虫寄生菌が昆虫の体内で繁殖して昆虫が硬化し、その表皮に子実体原基が形成されたものを種菌として子実体を形成することができる。
【選択図】なし
Description
請求項1に記載の昆虫寄生菌の子実体の生産方法では、昆虫の表皮に傷を付け、そこに昆虫寄生菌を接種し、昆虫の体内で昆虫寄生菌を増殖させ、昆虫寄生菌の子実体を形成する昆虫寄生菌の子実体の生産方法であって、前記昆虫寄生菌を寒天培地又は穀物培地上で培養し、該培地上に昆虫寄生菌の菌糸を形成させた状態で、その上に表皮に傷の付いた昆虫を置いて昆虫寄生菌を接種するものである。昆虫の表皮に傷を付けることで、昆虫が本来保持している細菌等の影響を排除し、昆虫寄生菌の感染速度が著しく高くなり、昆虫の体内で昆虫寄生菌の増殖が早期かつ容易に行われ、子実体が形成される。従って、昆虫寄生菌の子実体を速やかに、かつ安定して生産することができる。また、昆虫の体内に生存する細菌類が体外に漏れて増加することを抑制することができるとともに、昆虫寄生菌の活性の低下を抑制することができる。
本実施形態における昆虫寄生菌(昆虫病原菌)の子実体(キノコ)の生産方法は、昆虫の表皮に傷を付け(付傷させ)、そこに昆虫寄生菌を接種し、昆虫の体内で昆虫寄生菌を増殖させ、昆虫寄生菌の子実体を形成するものである。子実体は、主に棒状で、その頭部や先端近くに子嚢胞子を抱えた袋状の器官である子嚢果の集まりで、結実部がある。子実体の形態には、こん棒型、タンポ型、耳掻き型等のタイプがある。子実体の長さは、数mmから数cmのものが多いが、十数cmのものもある。子実体の色は、オレンジ色、白色、黄色、茶色等が挙げられる。
・ 本実施形態における昆虫寄生菌の子実体の生産方法では、昆虫の表皮に傷を付け、その付傷部に昆虫寄生菌を接種し、昆虫の体内で昆虫寄生菌を増殖させ、昆虫寄生菌の子実体を形成するものである。このため、昆虫の表皮に傷を付け、その付傷部に昆虫寄生菌を接種するという簡単な操作により、昆虫の体内で昆虫寄生菌の増殖が早期かつ容易に行われ、子実体が形成される。従って、昆虫寄生菌の子実体を速やかに、かつ安定して生産することができ、生産性を格段に向上させることができる。
・ また、昆虫寄生菌を寒天培地又は穀物培地上で培養し、該培地上に昆虫寄生菌の菌糸を形成させた状態で、その上に表皮に傷の付いた昆虫を置いて昆虫寄生菌を接種することにより、昆虫の体内に生存する細菌類が体外に漏れて増加することを抑制することができるとともに、昆虫寄生菌の活性の低下を抑制することができる。
(参考例1、昆虫の世代の比較)
PDA培地内に昆虫寄生菌を25℃で10日間繁殖させて蔓延させ、ハスモンヨトウ幼虫の3令(齢)、4令、5令、前蛹及び蛹を各々10頭を2日間静置し、サナギタケを接種した。接種後35日間飼育管理し、サナギタケの感染の有無、死亡虫の個数及び子実体の形成の有無を調べた。上記の処理を行わなかった場合についても試験を行った(無処理)。それらの結果を表1に示した。
(試験例1、接種方法による比較)
サナギタケをPDA培地で培養後の菌糸懸濁液を作製して、濃度106個/mlの菌糸濃度とし、ハスモンヨトウ蛹に噴霧接種した(寄生菌噴霧接種)。また、培養菌糸液を注射器を用いてハスモンヨトウ蛹の体内に0.2mlを背面から注射し接種した(寄生菌菌糸液注射)。次に、PDA培地で培養したサナギタケ上にハスモンヨトウ蛹を2日間静置し接種した(無傷静置)。また、このハスモンヨトウ蛹の一部に鋭いナイフで小さな傷を付けた後、この培養菌糸内に2日間静置し、付傷部に接種した(付傷静置1)。次に、蛹に対する付傷程度を変えて、体液が溢出する程度の傷を付けて同様に静置し、付傷部に接種した(付傷静置2)。接種後これらの蛹を採取して50日間22℃で管理した。なお、供試蛹数は各々150頭とした。また、上記の処理をしないハスモンヨトウ蛹の場合についても同様に試験を行った(無処理)。そして、サナギタケの感染の有無、子実体形成までの日数、子実体の個数、作業性、多量接種(サナギタケがハスモンヨトウの蛹全体につくような接種)について測定し、それらの結果を表2に示した。
(試験例2、培養日数の比較)
PDA培地内にサナギタケを25℃で2日間、4日間、6日間、8日間及び10日間繁殖させ、その上にハスモンヨトウ蛹を各々10頭4日間22℃に静置して接種した。接種後35日間飼育管理し、サナギタケの感染の有無、子実体の形成の日数及び雑菌の繁殖の有無について調べた。なお、蛹は全て体表皮に付傷させた。また、上記の処理を行わなかった場合についても試験を行った(無処理)。それらの結果を表3に示した。
(試験例3、培地の比較)
試験例3で子実体の原基が形成された蛹をさらに保湿状態に静置して子実体を形成させた。通常の室内では子実体は形成されないため、形成を促すためにハイゴケ、山間地の沢の土中、保湿器に入れ、これらの保湿材としてバーミキュライト、ピートモス、ミズゴケを用いた。また、後3者には細菌の発生を抑制するためクエン酸を添加してpHを3.0に低下させた。1リットルの容器(タッパーウェア(株)製のタッパーウェア)内に上記の材0.7リットルを入れて蒸留水0.1リットルを添加して保湿し、子実体原基を形成した蛹を20頭ずつ埋設した。そして、20日後に子実体の形成率(%)及び腐敗個数を調べた。それらの結果を表4に示した。
(試験例4、継体培養について)
子実体をPDA培地が収容されたシャーレの蓋内面に貼付けて静置しておくと、培地上に昆虫寄生菌の子嚢胞子が落下し、新鮮な子嚢胞子を再分離することが可能となる。この方法を応用して次の試験を行った。
(試験例5、乾燥保存法について)
子実体原基を形成する前の硬化した蛹を数日間乾燥し、さらに密閉できる500mlのガラス容器内に20〜25℃で保存した。ガラス容器内には乾燥剤としてシリカゲル200gを入れ、内部を乾燥状態にした(乾燥処理区)。一方、比較として同様のガラス容器内に湿らせた綿を入れ、湿度を高めて上記と同様の蛹を保存した(保湿処理区)。また、対照として乾燥や加湿しないガラス容器にも同様の蛹を保存した(無処理区)。そして、子実体の形成について調べ、次の基準で評価し、その結果を表6に示した。
(試験例6〜8、昆虫の種類と昆虫寄生菌の種類による相違)
昆虫としてタバコガ蛹(試験例6)及びカイコガ蛹(試験例7)を用いて実施した。昆虫寄生菌としてサナギタケを用い、そのサナギタケをPDA培地及び穀物(籾米)培地を用いて10日間、25℃で培養し、菌子が蔓延した培養容器内にタバコガ蛹を20頭付傷させて静置し、サナギタケを接種するとともに、その後取り出して22℃に保ったバーミキュライト培地中に保持した。続いて、サナギタケをPDA培地及び穀物(米)培地を用いて10日間、25℃で培養し、菌子が蔓延した培養容器内にカイコガ蛹を20頭、付傷させて静置し、サナギタケを接種するとともに、その後取り出して22℃に保ったバーミキュライト培地中に保持した。
・ 昆虫の表皮に形成される付傷部を複数にし、それらの付傷部に昆虫寄生菌を接種することも可能である。
・ 培地にミネラル類、ビタミン類、アミノ酸類等の栄養分を添加することもできる。
・ 前記昆虫の表皮の傷は、昆虫の体液が溢れ出ない程度に行われるものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の昆虫寄生菌の子実体の生産方法。この生産方法によれば、請求項1から請求項7のいずれかに係る発明の効果に加えて、昆虫の体内で昆虫寄生菌の感染を促進させることができる。
Claims (6)
- 昆虫の表皮に傷を付け、そこに昆虫寄生菌を接種し、昆虫の体内で昆虫寄生菌を増殖させ、昆虫寄生菌の子実体を形成する昆虫寄生菌の子実体の生産方法であって、前記昆虫寄生菌を寒天培地又は穀物培地上で培養し、該培地上に昆虫寄生菌の菌糸を形成させた状態で、その上に表皮に傷の付いた昆虫を置いて昆虫寄生菌を接種することを特徴とする昆虫寄生菌の子実体の生産方法。
- 前記昆虫寄生菌は冬虫夏草菌類であることを特徴とする請求項1に記載の昆虫寄生菌の子実体の生産方法。
- 前記昆虫寄生菌が昆虫の体内で繁殖して昆虫が硬化し、その表皮に子実体原基が形成されたものを種菌として子実体を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の昆虫寄生菌の子実体の生産方法。
- 前記種菌を苔上に配置し、子実体を形成することを特徴とする請求項3に記載の昆虫寄生菌の子実体の生産方法。
- 前記種菌をpH2〜4の酸性培地上に配置し、子実体を形成することを特徴とする請求項3に記載の昆虫寄生菌の子実体の生産方法。
- 請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の昆虫寄生菌の子実体の生産方法で得られた子実体を、培地を収容する容器内の上部に貼付し、子実体から落下した子嚢胞子を種菌として子実体を形成することを特徴とする昆虫寄生菌の子実体の生産方法。
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