JP3898058B2 - 異常監視装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、異常監視装置に係り、特に使用済燃料集合体及び高レベルガラス固化体などの放射性発熱物質を収納した容器(キャスク,キャニスタ)を貯蔵する放射性物質貯蔵施設に適用するのに好適な異常監視装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
容器の温度に関しては、従来、接触式の固定温度センサによりキャスク個別に監視することが検討されていた。一方、放射線に関しては、放射性物質貯蔵建屋内及び施設境界にエリアモニター等の放射線モニタリングシステムを設置して放射性物質貯蔵建屋で一括的にモニタリングすることが検討されていた。放射線量の異常がエリアモニターで検知された場合は、使用済燃料集合体等が収納された個々の貯蔵容器の放射線量を測定して、放射線量が異常になっている貯蔵容器を特定し、適切な防護処置を施した後、施設から搬出することになる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
貯蔵容器の温度監視に関する従来技術は、図16に示すように、貯蔵室2内に貯蔵されている個々の貯蔵容器1に最低1つの熱電対(接触式の固定温度センサ)17を取り付け、それぞれの熱電対17の計測信号を配線4によって計測室6内の監視盤5まで伝える。この熱電対17は、貯蔵容器1が貯蔵室2内へ搬入された後に取り付け作業を実施することになるため作業員の被ばくが発生しうる。また、放射性物質貯蔵施設内に受け入れた貯蔵容器1を貯蔵室2の所定位置に移動する際に、床上を走行する台車等を使用する場合には、配線4を保護するため配線4を床に埋め込む、走行経路を避けた配線をするなどの対策を講じる必要がある。さらに、配線4の数は、貯蔵容器1の個数に比例して増加する。また、従来の方法では、異常発生の有無は検知できるが、測定点が貯蔵容器1の一部に固定されていることから、異常発生の個所及び原因を同定するには別の手段を設けて表面温度分布を測定する必要がある。
【0004】
一方、貯蔵容器1からの漏洩放射線量監視に関しては、貯蔵容器1の異常発生による放射線量増大が熱電対17で検知できるレベルに至る前に当該貯蔵容器1表面での放射線量増加がある程度進んでいる可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、貯蔵している貯蔵容器の異常を迅速に知ることができる異常監視装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、放射性発熱物質を収納した貯蔵容器を貯蔵する貯蔵施設内に貯蔵された前記貯蔵容器の状態を非接触で検出する計測手段と、前記計測手段から出力された計測信号の処理を行い貯蔵容器の異常を判定する演算処理装置と、前記演算処理装置で作成された前記貯蔵容器の異常部を含む画像データを表示する表示装置とを備えたことにある。
【0007】
貯蔵容器の状態を非接触で検出する計測手段を用いているため、個々の貯蔵容器に計測手段を設置する必要がない。また、作成された異常部を含む画像データが表示装置に表示できるため、異常の発生だけでなく異常の発生個所を迅速に知ることができる。
【0008】
好ましくは、貯蔵建屋内に貯蔵されている個々の容器や建屋内壁面における表面温度や容器からの漏洩放射線量,圧力等の状態量を非接触手段により連続あるいは定期的に遠隔測定する
好ましくは、非接触的な状態量の計測手段としては、温度計測手段としては公知の赤外線熱画像装置が適用でき、放射線計測手段としてはγ線カメラのように放射線のコリメータ,コリメータの後方に取り付けた複数の放射線測定器,検出器が指向している方向すなわち収納容器及びその周辺や背景の可視画像を取得する装置、及び線源の空間分布を求めて可視画像に重ね合わせるための解析装置とを組み合わせたシステムが適用できる。
【0009】
好ましくは、複数の容器や貯蔵建屋壁面部位を同時あるいは個別に監視することは、非接触計測手段が、計測領域の移動や回転のための駆動機構や計測領域を可変とするズーム機構の少なくとも1つを有するようにすることで実現できる。
【0010】
好ましくは、計測結果の表示方法には、温度分布や放射線源の空間分布の計測結果を計測領域を含む可視画像上に重ね合わせて表示する手段がある。
【0011】
好ましくは、異常検知のためには、監視されている状態量の計測値が予め定めたしきい値を上回った場合に異常と判定するか、または監視されている状態量の計測値と予め測定しておいた正常状態における値との偏差が予め定めたしきい値を上回った場合に異常と判定する手段がある。
【0012】
好ましくは、監視する状態量が中性子線量である場合の異常検知のためには、収納容器内の放射性物質から放出される中性子線を直接測定する方法、中性子線が収納容器構造材成分と反応して生成した放射性核種からのγ線を測定する方法、あるいは中性子線に対して反応断面積が大きな核種を含んだ放射化箔等を収納容器の外側に取り付けたターゲットとが核反応して生成する放射性核種からのγ線を測定する方法のいずれか少なくとも一つの測定方法を用いる手段がある。また、ここでより高感度に異常を検知するため、放射線計測手段で計測する放射線として、容器を構成する材料との核反応で生成した放射性核種の発するγ線であり、且つこのγ線のエネルギーは容器内に含まれる放射性物質と発するγ線の強度が低いエネルギー領域にあるものを選択する手段がある。
【0013】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
放射性物質貯蔵建屋に適用した、本発明の好適な一実施例である異常監視装置を、図1を用いて説明する。この異常監視装置は、貯蔵容器異常監視装置である。本実施例では、放射性物質貯蔵施設である放射性物質貯蔵建屋は、使用済燃料集合体を収納した貯蔵容器である金属キャスクを貯蔵する。本実施例の異常監視装置は、非接触式の二次元温度計測手段として赤外線熱画像撮影装置を用いている。本実施例は、使用済燃料集合体の貯蔵施設のみに適用が限定されるものではなく、また貯蔵容器として金属キャスクを適用したものに限定されるものではない。放射性廃棄物を固化した高レベルガラス固化体など比較的高い熱を発生しうる放射性物質を収納した容器(キャニスタ等)を貯蔵する施設であれば、本実施例が適用可能である。
【0014】
本実施例の異常監視装置は、赤外線熱画像装置3及び監視盤5を備える。放射性物質貯蔵建屋の貯蔵室2内には、使用済燃料集合体を収納した貯蔵容器(例えば、金属キャスク)1が貯蔵されている。本実施例は、貯蔵容器1としてコンクリートキャスクを用いた場合にも適用できる。複数の赤外線熱画像装置3は、貯蔵室2内で側壁に取り付けられ、配線4によって計測室6内に設置された監視盤5に接続される。赤外線熱画像装置3は、貯蔵室2に貯蔵された貯蔵容器1の表面温度分布を計測する。赤外線熱画像装置3により計測された表面温度データは配線4により監視盤5に送られ監視盤5に設けられた表示装置(図示せず)に表示される。赤外線熱画像装置3による貯蔵容器1の表面温度は、貯蔵容器1単体毎に計測するだけでなく、複数の貯蔵容器1に対して同時に計測してもよい。赤外線熱画像装置は、駆動機構及びズーム機構を備えているため、図2に示すように、温度計測領域を温度計測領域Aから温度計測領域Bまたその逆に移動可能であり、温度計測領域を温度計測領域Aから温度計測領域Cに縮小し、またその逆に温度計測領域を拡大することができる。
【0015】
なお、赤外線熱画像装置3で計測された表面温度データは配線4の代わりに無線装置を用いて監視盤5に伝送してもよい。
【0016】
本実施例では、赤外線熱画像装置3によって単数または複数の貯蔵容器1の表面温度が測定される。貯蔵容器1に熱的な影響の現れるような異常(例えば、金属キャスクの中性子遮へい体(レジン)部における伝熱を促進するために用いられる伝熱フィンの欠落など)が発生した場合、中性子遮へい体及び伝熱フィンは通常金属製のカバーで覆われているため、貯蔵容器1の外観に変化は生じない。しかし、伝熱フィンの欠落部では貯蔵容器1内の使用済燃料集合体で発生した熱が貯蔵容器1の外側へ移動する際の抵抗が大きくなるため、貯蔵容器1表面への熱流は減少する。一方、伝熱フィン欠落部を流れるはずだった熱流は貯蔵容器1の他の部分を迂回して貯蔵容器1表面の別の場所に伝えられる。貯蔵容器1の外部の冷却条件に変化がなければ、貯蔵容器1の熱流の減少した部分における表面温度は低下し、熱流の増大した部分における表面温度は上昇する。このため、異常の発生により貯蔵容器1の表面温度分布は変化する。本実施例はこの表面温度分布の変化を赤外線熱画像装置3によって検知する。
【0017】
監視盤5は、上記した表示装置と共にコンピュータ(図示せず)を備えている。このコンピュータは、赤外線熱画像装置3で計測されて配線4にて伝送された表面温度データを入力し、図示されていない記憶装置に記憶させる。コンピュータは、図3に示す処理を実行する。その処理内容を詳細に説明する。まず、コンピュータは、図4に示す温度計測領域7を設定する。本実施例における温度計測領域7は貯蔵容器1の表面で設定される。この温度計測領域7の設定は、例えば、オペレータが入力装置(例えば、キーボード)により領域設定データを入力することによって設定される。コンピュータは、設定した温度計測領域7の情報を配線4を介して赤外線熱画像装置3に伝える。赤外線熱画像装置3に設けられた制御装置(図示せず)は、駆動機構を操作して貯蔵容器1の表面の温度計測領域7の温度分布を計測するように赤外線熱画像装置3の向き等を調節する。赤外線熱画像装置3は温度計測領域7に対する表面温度データを計測し、計測された表面温度データは上記のようにコンピュータに入力される。
【0018】
ステップ31(図3)において、入力した表面温度データを用いて容器温度分布の表示情報が作成される。この表示情報の作成は、図5に示す処理に基づいて行われる。まず、記憶装置に記憶されている温度計測領域7に対する表面温度データの中から温度計測領域7内に複数(n個)設けられた測定位置の一つである測定位置番号i(初期値は1)に対する表面温度データを取り込む(ステップ31A)。記憶装置に記憶されている温度と表示色とを対応つけた温度・色情報37に基づき、表面温度データをその温度に対応する表示色データに変換する(ステップ31B)。記憶装置は、測定位置番号ごとの測定位置データ38を記憶している。測定位置番号iに対応する測定位置データ38を、記憶装置から取り込む(ステップ31C)。この測定位置データ38は監視盤5における表示装置上の表示位置データに変換される(ステップ31D)。上記表示装置上の測定位置番号iに対応する部分を予め定められた表示色のデータを付与する(ステップ31E)。温度計測領域7内の測定位置番号iがnになったかを判定し(ステップ31F)、i=nになるまでステップ31A〜31Fの処理が繰り返される。i=nになったとき、ステップ31の処理が終了し、図4に示す温度分布表示例8(最高温度点の情報を除いて)の画像情報が作成される。
【0019】
次に、温度計測領域7内の表面温度データの中から、最高温度の表面温度データが検索される(ステップ32)。貯蔵容器1の異常を検知する方法としては、例えば貯蔵容器1の安全上問題となる温度に適切なマージン(計測誤差等を含む)を考慮したしきい値を予め定めておき、計測された表面温度がこれを超えた場合に異常が発生したと判定する方法がある。本実施例は、この方法により異常の発生を判定する。すなわち、ステップ32で検索された最高温度の表面温度データが上記しきい値(設定値)より高いかを判定する(ステップ33)。この判定が「No」であれば、貯蔵容器1の表面温度が「正常な状態にある」旨の表示を表示装置に行う(ステップ35)。「正常な状態にある」旨の表示は、正常である旨のメッセージ情報及び最高温度点の情報を含む上記温度分布表示例8の画像を表示することである。最高温度点の情報には、最高温度のデータが含まれている。ステップ33の判定が「Yes」である場合には、異常である旨のメッセージ情報及び最高温度点の情報を含む上記温度分布表示例8の画像を表示することである。
【0020】
本実施例は、赤外線熱画像装置3によって、貯蔵容器1表面の広範囲に亘って温度分布の測定が可能であることから、貯蔵容器1表面の最高温度点を容易に把握することができる。更に、本実施例は、非接触式温度検出器である赤外線熱画像装置3を用いているため、従来技術のように個々の貯蔵容器1に熱電対を設置する必要がなく、赤外線熱画像装置3の設置時における作業員の被ばくの危険性は著しく低減する。すなわち赤外線熱画像装置3は、貯蔵室2内に貯蔵容器1を初めて収納する前に設置することが可能である。また、個々の貯蔵容器に温度センサを取り付けないため、温度センサのメンテナンスに要する時間及び作業員の労力が著しく低減される。また、非接触式温度検出器である赤外線熱画像装置3を用いているため、1つの赤外線熱画像装置3によって複数の貯蔵容器1の表面温度を測定できるので従来技術のように多数の配線4が不要となり、異常監視装置の設置に要する作業時間が著しく短縮できる。本実施例は、貯蔵容器1の異常発生有無だけでなく、貯蔵容器1における異常発生個所やその概略範囲が明らかとなり、発生原因の究明や対策を迅速に進めることができる。
【0021】
(実施例2)
本発明の他の実施例である異常監視装置について説明する。本実施例の異常監視装置は、貯蔵容器異常監視装置であり、実施例1と同様に放射性物質貯蔵施設に適用されている。本実施例の異常監視装置のハード構成は実施例1と同様に図1に示す構成を有し、赤外線熱画像装置3は放射性物質貯蔵建屋の貯蔵室2内に設置される。本実施例は、コンピュータ内で実行される、計測された表面温度データの処理が実施例1と異なっている。本実施例でも、コンピュータは、ステップ30の処理に基づいて設定した温度計測領域7の情報を配線4を介して赤外線熱画像装置3に伝える。その後、赤外線熱画像装置3で測定された貯蔵容器1の測定温度データが、監視盤5のコンピュータに入力される。そして、コンピュータは、図6に示す処理を実行する。本実施例における、貯蔵容器1の異常を検知する方法は、図7に示すように、貯蔵容器1の正常な状態における温度分布9を基準として、温度計測領域7に対して測定された測定温度データに基づく温度分布10から、貯蔵容器1の正常な状態における温度分布9(基準温度分布)を差し引いて得られる温度差の最大値が予め定めたしきい値(設定値)以上になった場合に異常と判定する。
【0022】
図6に示す処理について説明する。記憶装置は、表面温度データTi及び外気温度データT∞の情報40を記憶する。まず、記憶装置に記憶されている温度計測領域7に対する表面温度データの中から温度計測領域7内に複数(n個)設けられた測定位置の一つである測定位置番号i(初期値は1)に対する表面温度データTiを取り込むと共に、別途、計測された外気温度データT∞を記憶装置から取り込む(ステップ39A)。これらのデータに基づいて、測定位置番号iにおける計測された表面温度データと現時点での外気温度との温度差ΔTi(=Ti−T∞)を計算する(ステップ39B)。測定位置番号iに対する、貯蔵容器1の正常状態における表面温度データと外気温度との温度差ΔTi′を、記憶装置から取り込む(ステップ39C)。温度差ΔTi′に関する情報41は、例えば、温度差ΔTiの計算の前に算出して記憶装置に記憶されている。温度差ΔTi′はステップ39Aの前に算出してもよい。温度差ΔTi′と温度差ΔTiとの差の絶対値が予め定めたしきい値を超えているか否かを判定する(ステップ39D)。その絶対値がしきい値を超えている場合には、測定位置番号iに対応する測定位置データ38記憶装置から取り込み、異常発生部のフラグと共に記憶装置に記憶する(ステップ39E)。ステップ39Dの判定が「しきい値を超えていない」である場合、または測定位置番号iに対応するステップ39Eの処理が終了したとき、温度計測領域7内の測定位置番号iがnになったかを判定し(ステップ39F)、i=nになるまでステップ39A〜39Fの処理が繰り返される。図6に示す処理が終了したとき、コンピュータによって、表示画像データが作成される。すなわち、ステップ39Eにおいて異常発生部のフラグと共に記憶した少なくとも1つの測定位置データを記憶装置から取り込んで、その測定位置データに基づいて異常温度になっている領域の画像データ、例えば、図7に示す温度異常発生領域12を含む温度異常検出結果表示例11の画像データが作成される。温度異常検出結果表示例11の画像データは表示装置に表示される。上記絶対値がしきい値を越えた領域が存在しない場合は、貯蔵容器1の表面温度は正常であるため、温度分布表示例8(図4)が作成され、表示装置に表示される。
【0023】
本実施例も実施例1と同様な効果を得ることができる。本実施例は、外気温度の変化や冷却空気流動状況の変化などが貯蔵容器1の表面温度に与える影響を相殺できるので、早期の異常発見が容易となる。
【0024】
図6の処理の代わりに図8に示す処理をコンピュータで実行してもよい。図8の処理における、貯蔵容器1の異常を検知する方法は、ステップ39Dにおける判定のしきい値を実施例2におけるしきい値よりも低めに設定し、この設定されたしきい値を超える温度異常発生領域12の面積の積分値が予め定めた設定値以上となった場合に異常と判定するものである。その異常検知方法は温度変化量が比較的小さい軽度の異常あるいは初期の異常を発見するのに適している。
【0025】
図8に示す処理は、図6の処理からステップ39Eを削除し、新たにステップ42A〜42Cを追加したものである。これらのステップ42A〜42Dの処理について説明する。ステップ39Dの判定が「Yes」となったとき、測定位置番号iに対応する測定位置データ38を記憶装置から取り込み、この測定位置データ38は監視盤5における表示装置上の表示位置データに変換される(ステップ42A)。ステップ39Fの判定が「Yes」になったとき、ステップ42Aで変換された表示位置データに基づいて特定される温度異常発生領域12の積分値が設定値を超えているかを判定する(ステップ42B)。その積分値が設定値を超えている場合(ステップ42Bの判定が「Yes」)には、表示位置データに基づいて温度異常発生領域12の画像データを作成すると共に、その画像データに色情報(例えば、赤色情報)を付与する(ステップ42C)。色情報が付与された温度異常発生領域12のデータがコンピュータから表示装置に出力され、その領域12のデータが表示装置に赤色で表示される。ステップ42Bの判定が「No」である場合は、貯蔵容器1の表面温度は正常な状態にあり、実施例1と同様に、図4の温度分布表示例8の表示データが表示装置に表示される(ステップ42D)。ステップ42Bの判定は、温度異常発生領域12の積分値を判定する替りに、ステップ42Aで変換された表示位置データの個数が個数の設定値よりも多いかの判定を行ってもよい。表示位置データの個数が個数の設定値よりも多い場合には、ステップ42Cの処理を実行する。
【0026】
図8に示す処理の実行により、上記した温度変化量が比較的小さい軽度の異常あるいは初期の異常を発見できること以外に、実施例2で得られる効果を得ることができる。
【0027】
更に、図6及び図8の処理において、異常であると判定された領域の表示にあたっては、単一の異常表示色ではなく、正常な状態からの温度偏差(ΔTi−ΔTi′)の大きさに対応した色または輝度を与えてもよい。これによって、異常の程度の把握が一層容易となる。
【0028】
なお、貯蔵容器1内に収納されている使用済燃料集合体(図示しない)からの発熱量は、短期的(数週間程度)には大きく変化することはないが、長期的には放射性物質の崩壊によって減少する。貯蔵容器1内の発熱量が変化すると貯蔵容器1表面の温度分布も変化することから、異常判定の際の基準となる正常状態における温度分布9のデータは定期的に更新することが望ましい。
【0029】
(実施例3)
放射性物質貯蔵施設に適用される本発明の他の実施例である異常監視装置を、図9に基づいて説明する。本実施例の異常監視装置のハード構成は実施例1と同様に図1に示す構成を有し、赤外線熱画像装置3は放射性物質貯蔵建屋の貯蔵室2内に設置される。本実施例では、図示されていないが、貯蔵室2内に赤外線熱画像装置3以外に貯蔵容器1の外観を撮影するテレビカメラを設置している。このテレビカメラは、温度計測領域7も含めて貯蔵容器1の表面状態を撮影する。テレビカメラで撮影された貯蔵容器1の表面状態の映像情報(図10に示す容器可視光画像データ14)は、コンピュータに伝送され、記憶装置に記憶される。本実施例でも、コンピュータは、ステップ30の処理に基づいて設定した温度計測領域7の情報を配線4を介して赤外線熱画像装置3に伝える。その後、赤外線熱画像装置3で測定された貯蔵容器1の測定温度データ15(図10)が、監視盤5のコンピュータに入力され、記憶装置に記憶される。コンピュータが行うその後の処理を、図9を用いて説明する。まず、図8に示すステップ39Aの処理が実行される。ステップ43Aの温度異常領域の抽出では、図8に示すステップ39B〜39D,42A,39F及び42Bの各処理が実行される。ステップ42Bにおいて表示位置データに基づいて特定される温度異常発生領域12の積分値が設定値を超えていると判定されたとき、温度計測領域7内における温度異常発生領域12の画像データ13を、ステップ42Aで得られた表示位置データに基づいて作成する(ステップ43B)。記憶装置から読み出された容器可視光画像データ14に、画像データ13を上書きする(ステップ43C)。容器可視光画像データ14のうち温度異常発生領域12の画像データ13と重なる部分に、温度異常を示す色情報(例えば赤色)が付与される(ステップ43D)。ステップ43Dで得られた画像データは、表示装置に出力されて表示装置に表示される。
【0030】
本実施例は実施例2で生じる効果を得ることができる。また、本実施例は、異常の発生している個所を迅速に特定でき、詳細測定が必要な場合にも作業計画を容易に立てることができる。特に、容器可視光画像データ14を利用しているため、温度異常発生領域12以外の部分は、貯蔵された貯蔵容器1の表面の状態を適切に表示できる。ここで、容器可視光画像データは、必ずしも温度計測領域7と同一である必要はなく、温度計測領域7のうち少なくとも温度異常発生領域を含んでいればよい。なお、表示される可視光画像の範囲と温度計測領域が異なる場合には、可視光画像内に温度計測領域を示す枠線などを同時に表示させることが望ましい。
【0031】
実施例1〜3は、温度計測領域7を1つの貯蔵容器1に設定した場合について説明したが、図11に示すように、温度計測領域7を複数の貯蔵容器1に設定して複数の貯蔵容器1を同時に赤外線熱画像装置3で測定し、それぞれの貯蔵容器1について該当するそれぞれの処理で温度異常発生領域の有無を判定してもよい。
【0032】
(実施例4)
放射性物質貯蔵施設に適用される本発明の他の実施例である異常監視装置を、図12に基づいて説明する。本実施例の異常監視装置は、貯蔵室2内への侵入者を監視する。本実施例は、図1に示す貯蔵容器異常監視装置を用いる。ただし、監視盤5のコンピュータは、図12に示す処理を実行する。
【0033】
侵入者監視の原理を説明する。侵入者を監視する場合には、温度計測領域7は貯蔵室2内の広い領域(例えば、図13に示すように9個の貯蔵容器1を含むように)を設定する。図13に示したように貯蔵容器1と赤外線熱画像装置3(図示しない)との間に侵入者16が位置した場合には、貯蔵容器1から赤外線熱画像装置3へ向かう赤外線が侵入者16によって遮られ、赤外線熱画像装置3は侵入者16の体表面温度を測定する。侵入者16の体表面温度は使用済燃料集合体を収納した貯蔵容器1の表面温度より低いので、見かけ上、貯蔵容器1の表面温度が下がったように見える。侵入者16が貯蔵容器1と赤外線熱画像装置3との間に位置しないときには、貯蔵容器1表面から発する赤外線が侵入者16に照射されることから、侵入者16の体表面温度は侵入者自身の発生する体温とも相まって、貯蔵容器1間の通路部分の温度より高くなる。どちらのケースでも通常状態に対する温度の異常としてとらえられる。
【0034】
本実施例では、赤外線熱画像装置3で測定された、温度計測領域7内の貯蔵容器1,貯蔵室2の貯蔵容器1間の通路、及び侵入者16が存在する場合における侵入者16の測定温度データがコンピュータに入力され、記憶装置に記憶される。記憶装置は、測定温度データTi及び外気温度データT∞の情報40を記憶する。コンピュータは、図12に示す処理を実行する。まず、時刻tにおける温度計測領域7内の測定温度データから測定位置番号iにおける温度計測データTiを取り込むと共に、別途取得した外気温度データT∞を取り込む(ステップ44A)。これらのデータから測定位置番号iにおける時刻tでの測定された測定温度データと時刻tでの外気温度との温度差ΔTi(=Ti−T∞)を計算する(ステップ44B)。次に、時刻tより過去の時刻t0 に取得された測定位置番号iにおける測定温度データと外気温度との温度差ΔTi′を、記憶装置から取り込む(ステップ44C)。温度差ΔTi′に関する情報41は、例えば、温度差ΔTiの計算の前に算出して記憶装置に記憶されている。温度差ΔTi′はステップ44Aの前に算出してもよい。次に、ステップ39Dの処理を実行する。ステップ39Dの判定が「Yes」の場合にはステップ42Aの処理を実行する。ステップ42Aの処理が終了したとき、またはステップ39Dの判定が「No」のとき、ステップ39Fの処理が実行される。ステップ39Fの判定が「Yes」になったとき、ステップ42Bの判定が行われる。ステップ42Bの判定が「Yes」の場合、ステップ42Cの処理が行われる。ステップ42B及びステップ42Cの処理により、例えば、外気温度の変動分以外の温度変化が小さい、貯蔵容器1及び貯蔵室2の内壁面(床や天井を含む)は除去され、図14に示すように温度異常点(侵入者16である可能性の高い部分)のみが抽出される。図14の画像データが表示装置に表示される。本実施例は、以上のように貯蔵室2内に侵入者がいることを確認することができる。特に、設備を追加することなしに侵入者の検知が可能となる。
【0035】
これに加え、侵入者16は比較的短時間の間に移動すると考えられること、またノイズであれば通常ランダムに現れることから、上記処理を短い時間間隔で連続的に行い、抽出された温度異常点の発生位置が連続的に移動しているか否かを監視することにより、侵入者16の有無をより精度良く判定できる。
【0036】
なお、本実施例では、貯蔵容器1及び侵入者16から発生する赤外線を利用していることから、ライトが使えない場合にも侵入者16の侵入検知が可能となる。
【0037】
(実施例5)
本発明の他の実施例である異常監視装置を以下に説明する。本実施例は、実施例1において赤外線熱画像装置3をγ線カメラに置き換えた構成を有する。本実施例におけるγ線カメラ以外の構成は実施例1と同じである。貯蔵室2内に貯蔵されている貯蔵容器1は金属キャスクである。
【0038】
本実施例で用いられるγ線カメラの構成の一例を以下に説明する。γ線カメラは、タングステン等の原子番号の大きな材料で構成されたγ線コリメータ、γ線コリメータの後方に配置された複数のヨウ化セシウム等のシンチレータ(放射線検出器)及び光電子増倍管を備えた放射線測定装置であり、シンチレータが指向している方向すなわち貯蔵容器1及びその周辺、更には背景の映像を撮影する撮影装置及び放射線源の空間分布を求めて映像に重ね合わせる解析装置を備えている。
【0039】
γ線カメラは、リモートコントロール式の移動台車に設置され、貯蔵室2内で貯蔵容器1間を移動できる。γ線カメラは、ある位置で貯蔵容器1の撮影及び放射線計測を行った後、別な場所に移動して撮影及び放射線計測を行うことを繰り返し、貯蔵室2内の全貯蔵容器1のモニタリングを行う。このとき、貯蔵容器1一基ごとのモニタリングを行うのではなく、図11に示すように貯蔵容器1数基分を一括してモニタリングしてもよい。
【0040】
シンチレータを用いた放射線測定装置により測定されるγ線は、貯蔵容器1内の使用済燃料集合体内の放射性核種から直接放出されるγ線,中性子等によって放射化された貯蔵容器1の内筒及び外筒等の構造部材内に生成された放射性核種(放射化生成核種という)から放出されるγ線、及び放射壊変及び核反応で生成する荷電粒子の制動放射線である。使用済燃料集合体内の放射性核種から直接放出されるγ線については、放射性核種量と遮へいによる減衰率等で決まる線量で、放射性核種の半減期に応じて減衰する。貯蔵容器1の構造部材内の放射化生成核種からのγ線は、十分長い貯蔵期間が経過した後では、放射化による核種生成と生成した核種の半減期に応じた崩壊とが平衡になる線量が測定される。一旦、平衡に達した後の放射性核種量は、中性子フラックスの変化すなわち中性子放出核種の減衰と遮へい性能の変化に対応して線量は変化する。制動放射については、使用済燃料集合体内の放射性核種の半減期に応じて減衰する。
【0041】
貯蔵容器1の中性子遮へい材としては高分子材料でできているものがある。この中性子遮へい材は、長期間に渡る加熱と放射線照射による劣化で水素成分が減損し、中性子遮へい性能が低下することが考えられる。通常は、水素成分の減損を考慮して遮へい厚さを設定するので、中性子遮へい材部分を透過する中性子の線量は問題にならない。万が一、何らかの理由で、設計で考慮した以上に水素成分が減損した場合には、中性子遮へい材を透過して貯蔵容器1の外筒に達する中性子フラックスが増加する。これにより、外筒内の放射化生成核種の存在量は増加する。従って、測定されるγ線量は、貯蔵容器1内の中性子線源の減衰曲線から逸脱した経時変化を示すようになる。これは、中性子遮へい性能の低下による貯蔵容器1の外筒内の放射化生成核種量が増加する(図15参照)ことに起因して、貯蔵容器1から放出されるγ線量が増加するからである。計測されるγ線量の増加は、貯蔵容器1の中性子遮へい体が劣化していることを意味する。このため、γ線の計測によって、貯蔵容器1の中性子遮へい体の劣化をモニタリングすることができる。このとき、計測するγ線としては、外筒の鉄と中性子の反応で生成し、高いエネルギーのγ線を放出する放射性核種を選定する。その放射性核種の一例を、以下に示す。
【0042】
54Fe(n,p)54Mn:
835keV,T1/2=312.2日
56Fe(n,p)56Mn :
847,1811,2113835keV,T1/2=2.58h
58Fe(n,γ)59Fe:
1099,1292keV,T1/2=45.1日
γ線カメラは、移動台車に乗せて移動する以外に、貯蔵室2内で天井に取り付けたレールを移動するようにしてもよい。また、使用済燃料貯蔵建屋の構造によっては、全ての金属キャスクが死角に入らない位置にγ線カメラを設置することもできる。γ線カメラは、固定してもよいし、固定した位置で回転できるようにしてもよい。放射線検出器としては、シンチレータ以外に、エネルギー分解能が高い半導体検出器を用いてもよい。外筒の放射化による放射化生成核種からのγ線を測定する以外に、貯蔵容器1外部に放射化箔等のターゲットを取り付け、中性子との反応で測定が容易な放射性核種を生成させて、モニタリングする方式でもよい。また、パラフィン等の高分子とホウ素化合物等の中性子吸収材で構成した中性子コリメータと有機シンチレータを組み合わせて、中性子線と線源の空間分布をモニタリングする方式でもよい。
【0043】
以上、本実施例によれば、貯蔵容器1のレジン劣化による中性子遮へい性能の低下を直接モニタリングできるので、エリアモニター等によって計測される放射線量率が高くなる前に、異常の発生した貯蔵容器1を特定でき、速やかな対応が可能になる。
【0044】
(実施例6)
本発明の他の実施例である異常監視装置は、実施例1の赤外線熱画像装置による各貯蔵容器1の表面温度監視機能、及び実施例5のγ線カメラによる各貯蔵容器1の漏洩線量率監視機能の両方の機能を有し、貯蔵室2内に貯蔵されている各貯蔵容器1をモニタリングする。本実施例の異常監視装置は、貯蔵室2内の空間の温度分布と放射線源強度分布を、同時にあるいは交互に、貯蔵容器1及びその周辺の可視画像に重ね合わせて監視する。
【0045】
本実施例によれば、貯蔵容器1の表面温度と貯蔵容器1から放出されるγ線量の両方を測定することができ、異常の発生原因の究明及び対策を迅速に講じることが可能となる。例えば、中性子遮へい体に亀裂などの異常が発生した場合には、亀裂発生位置でのストリーミング中性子が増大すると同時に当該部位での熱伝導率が低下することから貯蔵容器1表面への熱流が減少し、貯蔵容器1の表面温度が低下する。このため、貯蔵容器1の表面での放射線量増大と温度低下が同時に観測された場合には亀裂発生の可能性が高いと判断できる。
【0046】
(実施例7)
貯蔵容器1の金属ガスケットシール部分における密封性能のモニタリングに本発明を適用することもできる。ここでの貯蔵容器(金属キャスク)1の蓋部は二重構造となっており、蓋間の圧力を燃料収納部や外界の圧力に比べて高くし、この圧力が低くなった時に異常(漏洩発生)と判断する。本実施例では、この蓋間圧力の測定にブルドン管など外部電源の入力を必要とせず、また圧力の変動がアナログ針の回転などに変換され金属キャスク外部から目視にて確認のできる計測手段を採用し、貯蔵室内部に設置したカメラ(可視光)により圧力計を撮影、貯蔵室外部に設置された監視盤で圧力異常の有無を監視する。カメラ(可視光)には貯蔵室内を移動する駆動手段が取り付けられており、複数の金属キャスクにおける圧力異常を監視できる。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、個々の貯蔵容器に計測手段を設置する必要がなく、異常の発生だけでなく異常の発生個所も迅速に知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の異常監視装置の構成図である。
【図2】温度計測領域の例を示す説明図である。
【図3】図1に示す監視盤内のコンピュータで実行される処理を示すフローチャートである。
【図4】図1の実施例における温度計測領域の例と表示装置に表示される画像データの一例を示す説明図である。
【図5】図3に示すステップ31における詳細な処理のフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施例である実施例2の異常監視装置におけるコンピュータで実行される処理のフローチャートである。
【図7】実施例2において表示装置に表示される画像データの一例を示す説明図である。
【図8】図6の処理の他の実施例のフローチャートである。
【図9】本発明の他の実施例である実施例3の異常監視装置におけるコンピュータで実行される処理のフローチャートである。
【図10】実施例3において表示装置に表示される画像データの一例を示す説明図である。
【図11】温度計測領域の他の例を示す説明図である。
【図12】本発明の他の実施例である実施例4の異常監視装置におけるコンピュータで実行される処理のフローチャートである。
【図13】実施例4における侵入者がいる温度計測領域の説明図である。
【図14】実施例4において表示装置に表示される画像データの一例を示す説明図である。
【図15】貯蔵容器の貯蔵期間と放射化生成核種量との関係を示す特性図である。
【図16】従来の異常監視装置の構成図である。
【符号の説明】
1…貯蔵容器、2…貯蔵室、3…赤外線熱画像装置、4…配線、5…監視盤、6…計測室、17…熱電対。
Claims (5)
- 放射性発熱物質を収納しかつ内部に中性子遮へい体を設けた貯蔵容器を貯蔵する貯蔵施設内に貯蔵された前記貯蔵容器の状態を非接触で検出する計測手段である、前記貯蔵容器の温度を計測する赤外線熱画像装置、及び前記貯蔵容器の放射線計測を行う放射線計測手段と、前記赤外線熱画像装置から出力された計測信号である貯蔵容器表面温度及び前記放射線計測手段から出力された計測信号である貯蔵容器表面線量の処理を行い前記中性子遮へい体の異常を判定する演算処理装置と、前記演算処理装置で作成された前記貯蔵容器の異常部を含む画像データを表示する表示装置とを備え、
前記演算処理装置が、前記貯蔵容器の温度分布の表示データ及び前記貯蔵容器の放射線量の空間分布の表示データを前記貯蔵容器の可視光の画像データに重ね合わせて前記異常部を含む画像データを作成することを特徴とする異常監視装置。 - 前記計測手段は、貯蔵施設内を移動する移動装置に設置される請求項1記載の異常監視装置。
- 前記赤外線熱画像装置は、ズーム機構を有している請求項2の異常監視装置。
- 前記演算処理装置は、前記計測手段で計測された状態量の計測値が前記状態量の設定値を上回った場合に異常と判定する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の異常監視装置。
- 前記演算処理装置は、前記計測手段で計測された状態量の計測値と前記状態量の正常状態における値との偏差が設定値を上回った場合に異常と判定する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の異常監視装置。
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