JP3898046B2 - ハイドロキシアパタイトの製造方法及びその利用 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医歯薬分野の再建医療、再生医療、組織工学、DDS(Drug Delivery System)等における支持体や基材等のみならず、遺伝子工学、生体成分の利用技術、生体とその成分の改造や模倣の技術等々、多種多様な、いわゆるバイオテクノロジー全領域に好適な、結晶の形状や性状等に係る特性が制御された制御ハイドロキシアパタイト及びその合成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハイドロキシアパタイト(以下、HApと略記する)は生体硬組織(骨組織)の主成分であり、生体親和性が高いことから、骨補填材や代替骨といった生体材料の領域において広く利用されている。
【0003】
このような生体材料は、強度を付与するために焼結されており、あくまでも生体組織再建用材料として使用され、一度移植された生体材料は半永久的に体内に残存し、体内で代謝されることはほとんどない。
【0004】
しかし、生体組織再建用の治療としては、再建される組織の機能の復元だけでなく、機能および組織双方の復元が可能な組織再生材料の方が望ましい。
【0005】
また、生体内局所における特異的な治療を目的としたドラッグデリバリーシステムやベクターを使った遺伝子導入に関する研究が高分子材料を中心に進められている。HApもその可能性について検討されているが、現状では薬剤放出やプラスミドDNAの放出制御はほとんどできない。
【0006】
もし、HApの溶解性を制御できれば、上記HApからなる成形物を生体材料として生体内に移植した場合、体内に残存する時間を制御でき、骨再生に伴う生体材料の消失を実現できる。その際、溶出するカルシウムイオンや、りん酸イオンは新生骨生成において有効である。
【0007】
さらに、薬剤やプラスミドDNAの放出がHApの溶解に依存するように設定することで薬剤放出時間制御や遺伝子導入時間制御が可能となる。
【0008】
また、結晶サイズの制御は薬剤、プラスミドDNAの吸着量の制御において重要な要因である。もし、HApの結晶サイズを制御できれば薬剤、DNA吸着量の制御も可能になり、上記の溶解性制御と組み合わせることで真の薬剤や遺伝子の放出制御が可能となる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来、HApの溶解性制御では合成温度の低下やマグネシウム、鉄、炭酸といった各種イオンの置換により行われている。しかし、合成温度低下だけでは顕著な溶解性の向上には結びつかず、また、各種イオンの置換では骨再生の場に溶出するこれらイオンが再生骨の骨質を脆弱化させる可能性が懸念される。
【0010】
また、HApの結晶サイズの制御はその合成温度、圧力、時間の制御により行い、その場合結晶サイズの大きいものを作る点は容易であったが、さらに小さいものを作ることは困難であった。
【0011】
従って、本発明の目的は、結晶サイズや、溶解性が制御された制御HAp及びその合成方法を確立し、ヒトの硬組織再生や組織治癒促進等に有効な生体材料を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、HAp合成時にアスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性アミノ酸、さらにグリシン、セリンといった中性アミノ酸を存在(共存)させることにより、HApの結晶成長を阻害することを見いだした。
【0013】
また、これらアミノ酸の存在量を変えることにより、HApの結晶サイズ、溶解性が制御された制御HApを得ることに成功した。
【0014】
すなわち、本発明の制御HApは、上記課題を解決するために、アミノ酸の共存下において合成されて得られたものであることを特徴としている。
【0015】
上記制御HApでは、アミノ酸により、得られた結晶の形状及び性状の少なくとも一方が制御されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、アミノ酸の共存下において合成されて得られているので、得られた結晶の形状及び性状の少なくとも一方が制御されており、溶解性や、タンパク質の吸着能を調節、制御できる。
【0017】
これにより、上記構成は、生体材料や、DDSのキャリアとして有効な機能性を所望する目的に合わせて付与できるから、生体材料や、DDSのキャリアの素材としてより好適なものとすることが可能となる。
【0018】
本発明の制御HApの合成方法は、前記課題を解決するために、アミノ酸の共存下にて生成させることを特徴としている。
【0019】
上記合成方法では、アミノ酸の共存下にて生成させるとき、該アミノ酸を結晶中に含有又は包接又は吸着させることにより、得られた制御HApの結晶の形状及び性状の少なくとも一方を制御することが好ましい。
【0020】
上記方法によれば、生体材料や、DDSのキャリアの素材としてより好適な制御HApが、アミノ酸の共存という簡便な方法にて得られるので、優れた機能を有する制御HApの製造を簡素化できる。
【0021】
上記制御HAp及びその合成方法においては、アミノ酸が酸性アミノ酸及び中性アミノ酸の少なくとも一方であることが望ましい。
【0022】
上記制御HAp及びその合成方法では、アミノ酸がアスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、及びセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸であることが好ましい。
【0023】
上記構成及び方法では、上記アミノ酸を用いることで、優れた機能を有する制御HApがより確実に得られる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態に係る制御HApの合成方法では、HApの湿式合成法を用いている。上記湿式合成法は、非常に簡便でHApを安価かつ大量に合成できる方法である。
【0025】
上記湿式合成法は、具体的にはカルシウム溶液とりん酸溶液を10:6の割合のモル濃度比でpHを7.4以上の所定値に維持したバッファー液中に長時間にわたり順次滴下することにより、上記バッファー液中にHApが析出し、析出したHApを捕集する方法である。上記HApとしては、炭酸アパタイト、オクタカルシウムフォスフェートであってもよい。
【0026】
また、上記合成温度としては、特に限定されるものではないが、好ましくは0℃〜100℃の範囲内、より好ましくは30℃〜90℃の範囲内である。
【0027】
そして、本発明では、上記合成の際、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン及びセリンからなるアミノ酸群から少なくとも選択された1種をバッファー液中に存在(共存)させている。上記アミノ酸の濃度としては、0.005 mol/L〜飽和濃度の範囲内であればよいが、より好ましくは0.01 mol/L〜0.5 mol/Lである。
【0028】
このようにアミノ酸の存在下にて合成すると、HApの結晶成長が抑制され、結晶サイズの小さい、また、溶解性の高い制御HApが合成できることが分かった。
【0029】
この結晶サイズ、溶解性はバッファー液中に存在させるアミノ酸の量に依存し、このとき、最も顕著に影響を及ぼすのはアスパラギン酸であり、グルタミン酸、セリン、グリシンの順に効果が小さくなることが分かった。
【0030】
次に、上記合成の具体例について説明する。図1に示すように、まず、濃度が100 mmol/L の酢酸カルシウム一水和物水溶液100 ml と、濃度が60 mmol/Lのりん酸一アンモニウム水溶液100 ml とを、同速度にて攪拌されている、濃度が1.3 mmol/Lの酢酸緩衝液(バッファー液)200 ml 中に、チューブポンプ1により、順次滴下してHApを析出(生成)させ、沈殿物を分取して合成した。
【0031】
合成温度は恒温槽2により60℃±1℃に維持した。バッファー液は、pH計3によりモニターされ、pHが7.4±0.1となるようにアンモニウム水溶液を上記モニター結果により制御されるチューブポンプ4によって維持された。
【0032】
この合成時に、上記バッファー液中に、予め、12種のアミノ酸をそれぞれ濃度0.5 mol/Lとなるように添加した。12種のアミノ酸は、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、プロリン(Pro)、ハイドロキシプロリン(Hyp)、セリン(Ser)、バリン(Val)、スレオニン(Thr)、メチオニン(Met)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)である。
【0033】
このようにして、アミノ酸の存在下(共存下)にて合成されたHApは、後述するように結晶性や溶解度が制御された本発明の制御HApであり、蒸留水にて洗浄され、60℃の恒温器内にて72時間乾燥した。また、比較例として、アミノ酸をバッファー液内に添加せずに合成した比較HAp(HAp-con)を別に調製した。
【0034】
このようにして得られた制御HAp及び比較HApの結晶性を評価するために、それぞれを、X線回折法(使用機器:Rigaku Ultima+, 40kV and 30mA, CuKα)を用いて、X線回折図をそれぞれ得た。それらの結果を図2及び図3に示した。また、それらX線回折図に基づき、HApのa軸、c軸にそれぞれ対応する、(300)、(002)反射から、半値幅の逆数をそれぞれ算出した。それらの結果を表1に示した。表1において、*印を付与したものは、平均値がHAp-conに対して5%未満にて有意差を有することを示す。また。測定不能(Immeasurable)とは、ピークがブロード過ぎて算出できなかったことを示す。
【0035】
【表1】
【0036】
上記X線解析から、アミノ酸の存在下にて合成された制御HApは、比較HApと比べて、図2、図3及び表1に示すように、ピークがブロードとなっているので結晶性が相違することが分かり、それぞれのピークのシフトが観察されないことから、それぞれがHApであることが分かる。
【0037】
特に、グリシン、セリン、アスパラギン酸、又はグルタミン酸の存在下にて合成された制御HAp(以下、それぞれをHAp-Gly、HAp-Ser、HAp-Asp、HAp-Glu と記す)は、比較HApと比べて、5%未満の有意差を有して、結晶性が顕著に低く(結晶歪みが大きく)なっていることが分かる。
【0038】
これにより、本発明の制御HApは、結晶性が顕著に低く(結晶歪みが大きく)なっていることにより、後述するように、イオン性物質、例えばタンパク質の吸着能を制御する(特に向上させる)ことができる。
【0039】
また、上記X線回折図のピークから、HAp-con、HAp-Gly、HAp-Ser、HAp-Asp、HAp-Glu の結晶サイズを以下の式(Scherrerの式)によって求めた。
【0040】
D=0.9λ/βcosθ
ここで、λは波長、βは半値幅、θは入射角である。上記各結晶サイズは、以下の表2の通りであった。
【0041】
【表2】
【0042】
本発明の制御HAp及びその合成方法では、アミノ酸の存在量が多いほど結晶サイズは小さくなり、最小で200nmのものを確実に、かつ容易に、安定して実現できる。
【0043】
次に、上記制御HAp及び比較HApの組成を調べた。まず、10 mg の試料を10 ml の0.1Nの塩酸水溶液に溶解した。その溶解液から、原子吸光法(使用機器:Shimadzu AA6400F)を用いて試料中のカルシウム(Ca)濃度をそれぞれ測定し、UV分光光度法(使用機器:Shimadzu UV-150-02)を用いて試料中のりん酸(P)濃度をそれぞれ測定した。それらの結果を表3に示した。表3において、*印を付与したものは、平均値がHAp-conに対して5%未満にて有意差を有することを示す。
【0044】
【表3】
【0045】
上記結果から、HAp-Asp、HAp-Gluの存在下にて合成された制御HApは、比較HApに比べて、カルシウムイオンやりん酸イオンの組成成分が顕著に低くなっていることが分かる。
【0046】
続いて、上記制御HAp及び比較HApを同定し、分子構造を調べるために、フーリエ変換赤外分光光度法(使用機器:Shimadzu FT-IR 8300M)を用いてKBrペレット(試料濃度10 mg/400mgKBr)中の試料の赤外吸収を調べた。それらの結果を図4に示した。
【0047】
上記結果から、HAp-Gly、HAp-Ser、HAp-Asp、及びHAp-Gluでは、1600〜1700(1/cm)の範囲にて特異なピークが観察された。このピークは、アミノ酸のカルボキシル基のカルボニル(C=O)に起因するものであり、洗浄後の制御HApにおいても、アミノ酸(少なくともグリシン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸)を、HAp結晶中への含有、吸着及び包接の少なくとも1つにて有していることが分かる。
【0048】
さらに、添加濃度を0.05、0.15、0.25、0.5 mol/Lとなるようにそれぞれ添加して各HAp-Aspを調製した。それらの結果を図5に示した。
【0049】
上記結果から、添加濃度に応じてカルボキシル基のカルボニル(C=O)を示すピークが大きくなっており、制御HAp中のアミノ酸の定量が可能なことが分かる。
【0050】
上記制御HAp及び比較HApの各沈殿物について、走査型電子顕微鏡(使用機器:Hitachi S-5000) を用いて、それらの結晶サイズや形態を観察した。
【0051】
その観察結果から、HAp-Aspは、他の制御HApのものより、厚さが薄いフレーク状(flake-like)の形態を有し、各結晶の境界は不明瞭なものとなっていた。HAp-Gly、HAp-Ser、及びHAp-Gluは、板状(plate-like) の形態を有し、比較HApと比べて結晶サイズが小さいものであった。
【0052】
最後に、上記制御HAp及び比較HApの溶解度を調べた。まず、10 mg の試料を、それぞれ、10 ml の酢酸緩衝液(pH5.0、濃度0.1 mol/L)に混合した混合液を調製し、37℃の恒温器中にて1週間静置した。上記混合液の上清液から、前述の原子吸光法(使用機器:Shimadzu AA6400F)を用いて試料中のカルシウム濃度をそれぞれ測定し、それぞれ溶解度を調べた。それらの結果を図6に示した。
【0053】
上記結果から、HAp-Ser、HAp-Asp、及びHAp-Gluは、結晶性が顕著に低く(結晶歪みが大きく)なっていることにより、HAp-conと比べて、5%未満の有意差を有して、見かけの溶解度が大きくなっており、用いた各アミノ酸に応じて相違しているのが分かる。それらの溶解度の大きさは、HAp-Asp>HAp-Ser>HAp-Glu>HAp-Glyであった。それらの相違はHApと各アミノ酸との親和力の違いに起因すると考えられた。
【0054】
本実施の形態では、定量試験は、4回ずつ繰り返し行った。それらの結果の平均値及び標準偏差値を算出し、平均値を結果値とした。上記試験データは、因子分析(factor analysis of variance:ANOVA)により統計的に分析された。試験結果においては、上記平均値と標準偏差値を用いて、各平均値間の95%以上の有意差を検定する方法としてシェフ(Scheff)のF-test法を用いた。
【0055】
次に、HAp-con、及びHAp-Aspを各合成温度(前記の60℃に加えて80℃、40℃)及びアミノ酸濃度(0.25 mol/L)にて、他は前記と同様にしてそれぞれ調製した。それらを前述のX線回折法によりそれぞれ調べた結果について図7及び図8にそれぞれ示した。上記結果から、アミノ酸の存在下でのHAp 合成が、HAp結晶性の制御に対して有効であることが分かる。
【0056】
また、上述した、各合成温度にて合成された、HAp-con、及びHAp-Aspに関する、酢酸溶液(pH5)中におけるカルシウム(Ca)の溶出量をそれぞれ調べた結果を図9に示した。上記結果から、HAp-Aspは、HAp-conと比べて、有意に、Caの溶出量(放出量)が大きいことが分かる。
【0057】
さらに、上述した、各合成温度にて合成された、HAp-con、及びHAp-Aspに関する、比表面積をそれぞれ調べた結果を図10に示した。上記結果から、HAp-Aspは、HAp-conと比べて、有意に比表面積(吸着能)が大きいことが分かる。
【0058】
続いて、上述した、各合成温度にて合成された、HAp-con、及びHAp-Aspに関する、塩基性タンパク質の吸着能を調べた結果を説明する。
【0059】
まず、シトクロームc(塩基性タンパク質、pI=10、MW=1万)の水溶液中に、上記のHAp-con、及びHAp-Aspをそれぞれ浸漬(37℃、4時間)、遠心分離後、上澄み液溶液中の残留タンパク質量を定量して、吸着量をそれぞれ調べた。それらの結果を、図11に示した。上記結果から、HAp-Aspは、HAp-conと比べて、有意に塩基性タンパク質の吸着能が大きいことが分かる。
【0060】
また、図10及び図11の結果から、HAp-con、及びHAp-Aspでは比表面積と上記吸着能との間に正の良好な相関性があることが分かる。
【0061】
さらに、上記のようにタンパク質を固定化したHAp-Aspを、in vitroにて溶解実験したところ、HApの溶解に伴い、溶液中への固定化されていたタンパク質の放出が確認され、その放出はHApが完全に溶解するまで持続したことを確かめた。
【0062】
このようにアミノ酸の存在下(共存下)で、HApを生成、結晶化、合成して得られた制御HApにより、得られた制御HApの結晶形態(針状、花弁(flake)状、プレート状、不定形等)、結晶サイズ、溶解度(水溶性)の少なくとも1つを、アミノ酸の種類と濃度とにより所望する目的に合うように制御できる。
【0063】
よって、上記制御HApは、溶解能や、タンパク質吸着能が多様に異なる機能性を合目的に有することができて、医歯薬分野の再建医療、再生医療、組織工学、DDS(Drug Delivery System)等における支持体(担体)や基材等のみならず、遺伝子工学、生体成分の利用技術、生体とその成分の改造や模倣の技術等々、多種多様な、いわゆるバイオテクノロジー全領域に好適なものとなっている。
【0064】
本発明の制御HApの応用例として、増殖因子のキャリアとして用いることが挙げられる。上記の増殖因子は、様々な細胞の分化、増殖を制御する働きをもつといわれるタンパク質であり、再生医学ではこれをうまく利用しようとする試みが多くなされている。最近では科研製薬から発売されたbFGFを利用したスプレーや大阪大学でのHGF投与などが挙げられる。
【0065】
タンパク質はその構成アミノ酸の種類により酸性、中性、塩基性タンパク質に分類される。硬組織再生に有効とされるBMP、bFGF、TGF−βなど多くのタンパク質が塩基性タンパク質であること、増殖因子は少量で非常に高価(1mgで数十万円)であることから本発明の制御HApは、塩基性タンパク質の吸着能が大きいので、上記増殖因子の放出量の調整を容易化できて、上記増殖因子のキャリアとして極めて有効である。
【0066】
また、他の応用例は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)や、コントロールリリース(Controlled release)である。薬剤(ドラッグ)は投与後に体内を移動し、作用部位に到達して治療効果を発揮する。DDSは薬物を必要な部位に必要な量送ることができるように設計したシステムである。
【0067】
コントロールリリースとは薬剤を必要な時間に必要な量だけ放出できるように制御することである。DDS、コントロールリリース、又はそれらを組み合わせることにより、局所における効率の良い薬効の発現や副作用の抑制などが可能になる。
【0068】
薬剤のキャリアとしての本発明の制御HApは、その代謝性(溶解による消失性)を調節することにより、薬剤の放出を制御することが可能となっているので、必要時には保持した薬剤を順次放出し、治療完了後には消失させるように設定できて、DDS、コントロールリリースのキャリアとして好適なものとなっている。
【0069】
ところで、生体硬組織の主成分であるHApは、エナメル質では97%以上、象牙質、骨では70%程度の構成成分となっており、生体親和性、骨接合性が高いことから硬組織用生体材料として多く利用されている。
【0070】
本発明の制御HApは、上記HApと同等な生体親和性、骨接合性を有するものと、前述のX線回折結果から明らかであるので、骨の欠損(広領域でも狭領域でも)の場合、骨欠損部に埋入することにより骨の機能を持たせることができる人工材料である骨補填剤に好適に用いられる。
【0071】
さらに、他の応用例としては、生体内に埋め込まれ、生体組織の再生に伴い消失するGTR(Guided Tissue Regeneration) 膜、細胞培養時の基質及び細胞用担体、プラスミドDNAや、RNAを組み込んだ遺伝子治療用のベクター、液体クロマトグラフィー用のカラム充填材等が挙げられる。
【0072】
上記GTR膜としては、I型コラーゲン(豚皮由来)溶液と、本発明の制御HAp(炭酸アパタイト、C/P比=10)のNaOH溶液(濃度2.5 mg/ml以下)とを互いに混合してゲル化させたものが挙げられる。このようなGTR膜は、制御HAp含有量及びコラーゲン濃度を調整することにより、生体内での吸収性が調節可能なものである。
【0073】
上記GTR膜は、生体の損傷部分など補修に用いた場合、生体吸収性で、2次手術の必要が無く、制御HApの溶出により局所のCaイオン、Pイオン濃度が上昇し、局所の石灰化の促進を期待できる。
【0074】
【発明の効果】
本発明の制御HApは、以上のように、アミノ酸の共存下において合成されて得られた構成である。
【0075】
それゆえ、上記構成は、生体材料や、DDSのキャリアとして有効な機能性を所望する目的に合わせて付与できるから、生体材料や、DDSのキャリアの素材としてより好適なものにできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制御HApにおける製造装置の概略構成図である。
【図2】上記制御HApの一部、及び比較HApのX線回折図である。
【図3】上記制御HApの残りのX線回折図である。
【図4】上記制御HApの一部(HAp-Asp、HAp-Ser、HAp-Glu、HAp-Gly)及び比較HApのIR測定結果を示すグラフである。
【図5】上記HAp-Aspにおける、添加濃度の違いに対応した、IR測定結果の変化を示すグラフである。
【図6】上記制御HApの一部(HAp-Asp、HAp-Ser、HAp-Glu、HAp-Gly)及び比較HApの溶解度を示すグラフである。
【図7】上記比較HApの各合成温度でのX線回折図である。
【図8】上記HAp-Aspの各合成温度でのX線回折図である。
【図9】上記HAp-Aspと上記比較HApとにおけるCa放出量を示すグラフである。
【図10】上記HAp-Aspと上記比較HApとにおける、比表面積を示すグラフである。
【図11】上記HAp-Aspと上記比較HApとにおける、タンパク質吸着量を示すグラフである。
Claims (7)
- カルシウム溶液とリン酸溶液をバッファー液中に順次投入してハイドロキシアパタイトを製造する湿式合成法を用いており、
上記バッファー液はハイドロキシアパタイト合成の間に所定のpHに維持されており、かつ
上記バッファー液は、アミノ酸を含み、
さらに、種結晶を用いることなく、ハイドロキシアパタイトを製造することを特徴とする、溶解性及び/又はタンパク質の吸着能が制御されたハイドロキシアパタイトを製造する方法。 - 上記アミノ酸が、酸性アミノ酸及び中性アミノ酸の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の、溶解性及び/又はタンパク質の吸着能が制御されたハイドロキシアパタイトを製造する方法。
- 上記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、及びセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸である請求項1又は2に記載の、溶解性及び/又はタンパク質の吸着能が制御されたハイドロキシアパタイトを製造する方法。
- カルシウム溶液とリン酸溶液をバッファー液中に順次投入してハイドロキシアパタイトを製造する湿式合成法を用いており、
上記バッファー液はハイドロキシアパタイト合成の間に所定のpHに維持されており、かつ
上記バッファー液は、アミノ酸を含み、
さらに、種結晶を用いることなく、ハイドロキシアパタイトを製造することを特徴とする、ハイドロキシアパタイトの溶解性、及び/又は、タンパク質の吸着能を制御する方法。 - 上記アミノ酸が、酸性アミノ酸及び中性アミノ酸の少なくとも一方であることを特徴とする請求項4に記載の、ハイドロキシアパタイトの溶解性、及び/又は、タンパク質の吸着能を制御する方法。
- 上記アミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、及びセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸である請求項4又は5に記載の、ハイドロキシアパタイトの溶解性、及び/又は、タンパク質の吸着能を制御する方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶解性及び/又はタンパク質の吸着能が制御されたハイドロキシアパタイトを製造する方法によって得られることを特徴とする、溶解性及び/又はタンパク質の吸着能が制御されたハイドロキシアパタイト。
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