JP3897690B2 - 制御弁通過ガス流量算出装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関の排気再循環ガス制御弁通過ガス量算出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の燃焼室において燃焼される混合気の空燃比を最適な値とするためには、吸気弁が閉じたときに燃焼室内に充填されている吸気ガスの量(以下、「筒内充填ガス量」と称す)を正確に推定する必要がある。通常、筒内充填ガス量は、流量センサ(エアフロメータ)等の多数のセンサ、およびこれらセンサからの出力値を引数とした多数のマップから推定される。ところが、このようにマップを用いて筒内充填ガス量を推定すると、必要なマップの数およびその引数の数が多くなり、これにより筒内充填ガス量算出時のマップ検索操作が増大し、制御負荷が増大してしまう問題がある。
【0003】
さらに、上記のようにマップに基づいて吸入ガス量を算出するためには、各内燃機関の形式毎に実際の測定に基づいて各マップを作成する、いわゆる適合作業を行わなければならないが、この適合作業における測定点はマップの引数の数に応じて増大するため、引数の数が多くなると適合を行う際の工数が多大になり、また引数の数が一つ増えるだけで、その工数は何十倍にも増加してしまう問題がある。
【0004】
そこで、近年において、流体力学等に基づく式で表される吸入ガス量モデルを用いることにより、マップの数および引数を減らして筒内充填ガス量を算出することが検討されている。このような吸入ガス量モデルM20の一つは、例えば、後述するスロットルモデルM21と、吸気管モデルM22と、吸気弁モデルM23とを備え、これら各モデルを用いることによりスロットル弁開度、大気圧、および大気温度から、筒内充填ガス量を求めるようにしている。
【0005】
より詳細には、スロットルモデルM21は、エネルギ保存則、運動量保存則、質量保存則、および状態方程式に基づいて、スロットル弁開度、大気圧、および大気温度から、スロットル弁を通過する空気流量(以下、「スロットル弁通過空気流量」と称す)を算出するようになっている。また、吸気管モデルM22は、エネルギ保存則、質量保存則および状態方程式に基づいて、スロットルモデルM21において算出されたスロットル弁通過空気流量と後述する吸気弁モデルM23において算出された筒内吸入ガス流量とから、吸気管内圧力および吸気管内温度を算出するようになっている。さらに、吸気弁モデルM23は、筒内充填ガス量が吸気管内圧力にほぼ比例するという経験則から導かれた近似式に基づいて、吸気管モデルM22において算出された吸気管内圧力、吸気管内温度、および大気温度から、燃焼室内に流入する吸気ガスの流量(以下、「筒内吸入ガス流量」と称す)および筒内充填ガス量を算出するようになっている。
【0006】
このように、吸入ガス量モデルを用いて筒内充填ガス量を算出することにより、ECUに記憶させるべきマップの数が減少し、適合を行う際の工数を削減すことができる。また、各モデルに用いられる計算式は比較的単純なものであるため、マップを使用する場合に比べて制御負荷を小さくすることができる。
【0007】
ところで、従来から、燃焼室から排気通路へ排出された排気ガスの一部を再び燃焼室に戻す機構であるEGRを備えた内燃機関が知られているが、上述したような吸入ガス量モデルM20では、このようなEGRを備えた内燃機関を考慮しておらず、よってこの内燃機関に適用することはできない。例えば、EGRを備えていない内燃機関においては、筒内に吸い込むガス量には実際には吸気ポートに吹き返した内部EGRが含まれるが、この内部EGRはその吸気行程中に再び吸い込まれるので、筒内吸入ガス流量(新気ガス流量)に基づいて燃料噴射量が決定されるが、EGRを備えた内燃機関では、燃焼室内に流入する吸気ガスには大気中から流入した空気(新気)の他にEGR通路21を通って吸気管13に流入した排気ガス(以下、「EGRガス」と称す)が含まれるため、筒内吸入ガス流量から燃焼室内に流入するEGRガスの流量(以下「筒内吸入EGR流量」と称す)を除いた、燃焼室内に流入する空気(新気)の流量(以下、「筒内吸入新気流量」と称す)に基づいて燃料噴射量を決定しなければならない。したがって、EGRを備えた内燃機関に上述したような吸入ガス量モデルを適用するためには、筒内吸入EGR流量を正確に推定することができなければならない。
【0008】
一般に、筒内吸入EGR流量はEGR弁を通過したEGRガスの流量(以下、「EGR弁通過ガス流量」と称す)に応じて変化するため、筒内吸入EGR流量はEGR弁通過ガス流量から求めることができる。そして、EGR弁通過ガス流量は、EGR弁の上流側の圧力、EGR弁の下流側の圧力、EGR弁開度といったパラメータに応じて変化する。そこで、従来のEGR弁通過ガス流量算出装置では、上記パラメータを引数としてEGR弁通過ガス流量を算出するためのマップを作成している。そして実際に使用するときには、センサ等によって検出されたパラメータの値から上記マップを用いてEGR弁通過ガス流量を算出し、算出されたEGR弁通過ガス流量から筒内吸入EGR流量を算出している。(特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】
特開2001−280202号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献1に記載の装置では、EGR弁の上流側の圧力とEGR弁の下流側の圧力との差圧をマップの引数としてEGR弁通過ガス流量を算出している。上述したように、EGR弁通過ガス流量は、EGR弁の上流側の圧力とEGR弁の下流側の圧力とに応じて変化するため、マップの引数を上記差圧にすると、正確にEGR弁通過ガス流量を算出することができない。さらに、EGR弁通過ガス流量は上記パラメータのみならず、内燃機関の燃焼室から排気通路に排出される排気ガスの温度(以下、「排気温度」と称す)によっても変化する。したがって、実際には上記パラメータに加えて、排気温度にも基づいてEGR弁通過ガス流量を算出しなければ、正確な値を算出することができない。このように、従来では、EGR弁通過ガス流量を正確に算出することができなかった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、EGR弁を通過するEGRガスの流量を正確に算出することができるEGR弁通過ガス流量算出装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1の発明では、内燃機関の燃焼室から排気通路に排出された排気ガスの少なくとも一部を吸気通路に流入させる排気再循環通路と、該排気再循環通路を通る排気ガスの流量を調整する制御弁と、少なくとも前記機関の排気圧と、吸気管内圧力と、前記制御弁の開度とに基づいて制御弁通過ガス流量を算出する制御弁通過ガス流量算出手段とを具備する制御弁通過ガス流量算出装置において、前記制御弁通過ガス流量算出手段は、前記排気圧と吸気管内圧力と制御弁開度に加えて更に機関排気温度に基づいて所定時間毎に前記制御弁通過ガス流量を算出し、機関回転数と前記制御弁通過ガス流量算出手段によって前回算出された制御弁通過ガス流量とから今回の制御弁通過ガス流量算出に使用する機関排気温度を算出する
【0013】
第1の発明によれば、制御弁通過ガス量算出手段は、実際にセンサ等で機関排気温度を検出することなく比較的正確に機関排気温度を算出することができる。
【0014】
第2の発明では、第1の発明において、上記制御弁通過ガス流量算出手段は、μeを制御弁における流量係数、Aeを制御弁の開口断面積、Peを前記排気圧、Teを前記排気温度、Pmを前記吸気管内圧力、Rを定数、Φ(Pm/Pe)をPm/Peの値に応じて定まる係数とすると、下記数2に基づいて制御弁通過ガス流量megrを算出する。
【数2】
Figure 0003897690
【0015】
第2の発明によれば、制御弁通過ガス流量算出手段は、予め用意したマップに基づいてではなく、数値計算によって制御弁通過ガス流量を算出する。このため、マップを用いる場合に生じる適合の問題と、算出された制御弁通過ガス流量の値の精度の問題とを共に解決することができる。
【0016】
第3の発明では、第1または第2の発明において、前記制御弁通過ガス流量算出手段は、充填効率と機関回転数とに基づいて算出した排気圧を利用して前記制御弁通過ガス流量を算出する。
第3の発明によれば、制御弁通過ガス量算出手段は、実際にセンサ等で排気圧を検出することなく排気圧を比較的正確に算出することができる。なお、上記充填効率とは、標準状態において燃焼室の総行程容積を占める空気量に対する実際に燃焼室に充填された空気量の比を意味する。また、この充填効率を機関負荷率に替えることも可能である。
【0017】
第4の発明では、第3の発明において、前記制御弁通過ガス流量算出手段は、前記充填効率と機関回転数とに基づいて大気圧が所定の標準大気圧にあるときの機関排気圧を算出し、該標準大気圧における機関排気圧を実際の大気圧に基づいて補正した排気圧を使用して前記制御弁通過ガス流量を算出する。
一般に、排気圧は充填効率と機関回転数とに応じて変化し、さらに実際に燃焼室に充填される空気量は、他の条件が同一であっても内燃機関周囲の大気圧(または、吸気通路に吸入される気体の吸気圧)に応じて変化する。そこで、第4の発明によれば、制御弁通過ガス流量算出手段は、上記充填効率および機関回転数に基づいて算出された排気圧を実際の大気圧に基づいて補正し、上記充填効率および機関回転数に基づいて算出された排気圧の替わりに上記補正された排気圧を使用して制御弁通過ガス流量を算出することにより、より正確に制御弁通過ガス流量を算出することができる。
【0018】
第5の発明では、第1〜第4の発明において、前記制御弁通過ガス流量算出手段は、前記機関回転数と前回算出された制御弁通過ガス流量とに基づいて大気温度が所定の標準大気温度にあるときの機関排気温度を算出し、該標準大気温度における機関排気温度を実際の大気温度に基づいて補正した機関排気温度を使用して前記制御弁通過ガス流量を算出する。
一般に、機関排気温度は機関回転数と前回の制御弁通過ガス流量と、さらに内燃機関周囲の大気温度(すなわち、吸気通路に吸入される気体の吸気温)とに応じて変化する。そこで、第6の発明によれば、制御弁通過ガス流量算出手段が、機関回転数と前回の制御弁通過ガス流量とに基づいて算出された機関排気温度を実際の大気温度に基づいて補正し、機関回転数と前回の制御弁通過ガス流量とに基づいて算出された機関排気温度の代わりに上記補正された機関排気温度を使用して制御弁通過ガス流量を算出することにより、より正確に制御弁通過ガス流量を算出することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1に概略的に示した機関本体1は筒内噴射型火花点火式内燃機関を示す。しかしながら、本発明を別の火花点火式内燃機関や圧縮自着火式内燃機関に適用してもよい。
【0021】
図1に示したように、本発明の第一の実施形態では機関本体1はシリンダブロック2と、シリンダブロック2内で往復動するピストン3と、シリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド4とを具備する。ピストン3とシリンダヘッド4との間には燃焼室5が形成される。シリンダヘッド4には各気筒毎に吸気弁6と、吸気ポート7と、排気弁8と、排気ポート9とが配置される。さらに、図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。またピストン3の頂面には燃料噴射弁11の下方から点火プラグ10の下方まで延びるキャビティ12が形成されている。
【0022】
各気筒の吸気ポート7は下流側吸気管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は上流側吸気管15を介してエアクリーナ16に連結される。吸気管15内にはステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気管19に連結され、この排気管19は排気浄化装置20に連結される。排気通路(排気ポート、排気管等)と吸気通路(吸気ポート、吸気管)とは排気再循環通路(以下、「EGR通路」と称す)21を介して互いに連結され、この排気再循環通路21内には排気再循環通路を通る排気ガスの流量を調整するための制御弁(以下、「EGR弁」と称す)22が配置される。
【0023】
電子制御ユニット(ECU)31はディジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を具備する。吸気管13には、吸気管内の吸気ガス(新気およびEGRガス)の圧力を検出するための吸気管内圧力センサ40が設けられており、吸気管内圧力センサ40は吸気管内圧力に比例した出力電圧を発生し、この出力電圧が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、排気管19には、内燃機関から排気通路に排出された排気ガスの圧力および温度をそれぞれ検出するための排気圧センサ41、排気温度センサ42が設けられており、同様に出力電圧が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
【0024】
また、スロットル弁18の開度を検出するためのスロットル開度センサ43と、内燃機関の周囲の大気の温度、または吸気管15に吸入される空気の温度(吸気温)を検出するための大気温度センサ44と、内燃機関の周囲の大気の圧力、または吸気管15に吸入される空気の圧力(吸気圧)を検出するための大気圧センサ45とが設けられ、これらセンサの出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、アクセルペダル46にはアクセルペダル46の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ47が接続され、負荷センサ47の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。クランク角センサ48は例えばクランクシャフトが30度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ45の出力パルスから機関回転数が計算される。一方、出力ポート37は対応する駆動回路39を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11、ステップモータ17およびEGR弁22に接続される。なお、EGR弁22の開度は、ECU31において出力ポート37からEGR弁22へ送信されるステップ信号に基づいて計算される。
【0025】
ところで、内燃機関の制御装置では、内燃機関の燃焼室5において燃焼される混合気の空燃比を目標空燃比にするためには、吸気弁が閉じたときに燃焼室5内に充填されている吸気ガスの量(以下、「筒内充填ガス量Mc」と称す)を推定し、推定された筒内充填ガス量Mcに基づいて混合気の空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射弁によって内燃機関の燃焼室5(または吸気通路)に噴射する燃料の量(以下、「燃料噴射量」と称す)を定めている。したがって、内燃機関の燃焼室5において燃焼される混合気の空燃比を正確に目標空燃比とするためには、筒内充填ガス量Mcを正確に推定する必要がある。
【0026】
通常、筒内充填ガス量Mcは、流量センサ(エアフロメータ)等の多数のセンサ、およびこれらセンサからの出力値を引数とした多数のマップから推定される。ところが、このようにマップを用いて筒内充填ガス量Mcを推定する場合、推定される筒内充填ガス量Mcの値をより正確なものにするためには、必要なマップの数およびその引数の数が多くなる。このようにマップの数が多くなると、マップを保存するためのECUのROMを記憶容量の大きいものにしなければならず、内燃機関の制御装置の製造コストが高くなってしまう。さらに、各マップを作成するにはマップが用いられる内燃機関の形式毎に適合作業を行わなければならないが、この適合作業における測定点はマップの数およびその引数の数に応じて増大するため、マップの数およびその引数の数が多くなると適合作業の工数も増大してしまう。
【0027】
そこで、マップを用いずに様々なモデルを用いて、数値計算により筒内充填ガス量Mcを算出する内燃機関の制御装置が検討されている。このような制御装置では、数値計算を多用することにより必要なマップの数を極力減らすようにしており、これにより適合作業を行う際の工数を大幅に削減しながらも、筒内充填ガス量Mcを正確に算出することができる。このような制御装置のうち本願出願人により提案されたものの一つに、図7に示した吸入ガス量モデルM20を搭載した制御装置がある(特願2001−316350号)。図示した吸入ガス量モデルM20はEGR機構を装備していない内燃機関に適用される最も単純なモデルであり、以下この吸入ガス量モデルM20について説明する。
【0028】
吸入ガス量モデルM20は、図7に示したようにスロットルモデルM21、吸気管モデルM22、吸気弁モデルM23を備える。スロットルモデルM21には、スロットル開度センサ43によって検出されたスロットル弁18の開度(スロットル開度)θtと、大気圧センサ45によって検出された内燃機関周囲の大気圧(または、吸気管15に吸入される空気の圧力)Paと、大気温度センサ44によって検出された内燃機関周囲の大気温度(または、吸気管15に吸入される空気の温度)Taと、後述する吸気管モデルM22において算出された吸気管13内の圧力(吸気管内圧力)Pmとが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述するスロットルモデルM21のモデル式に代入することで、単位時間当たりにスロットル弁18を通過する空気の流量(以下、「スロットル弁通過空気流量mt」と称す)が算出される。スロットルモデルM21において算出されたスロットル弁通過空気流量mtは、吸気管モデルM22へ入力される。
【0029】
吸気管モデルM22には、スロットルモデルM21において算出されたスロットル弁通過空気流量mtと、以下で詳述する単位時間当たりに燃焼室5内に流入する吸気ガスの流量(以下、「筒内吸入ガス流量mc」と称す。なお、筒内吸入ガス流量mcの定義については、吸気弁モデルM23において詳述する)とが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述する吸気管モデルM22のモデル式に代入することで、吸気管13内に存在する吸気ガスの圧力(以下、「吸気管内圧力Pm」と称す)と吸気管13内に存在する吸気ガスの温度(以下、「吸気管内温度Tm」と称す)とが算出される。吸気管モデルM22において算出された吸気管内圧力Pmと吸気管内温度Tmは共に吸気弁モデルM23へ入力され、さらに吸気管内圧力PmはスロットルモデルM21にも入力される。
【0030】
吸気弁モデルM23には、吸気管モデルM22において算出された吸気管内圧力Pmおよび吸気管内温度Tmの他に大気温度Taが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述する吸気弁モデルM23のモデル式に代入することで、筒内吸入ガス流量mcが算出される。算出された筒内吸入ガス流量mcは、筒内充填ガス量Mcに変換され、この筒内充填ガス量Mcに基づいて燃料噴射弁からの燃料噴射量が決定される。また、吸気管モデルM23において算出された筒内吸入ガス流量mcは吸気管モデルM22に入力される。
【0031】
図7から分かるように、吸入ガス量モデルM20では或るモデルにおいて算出されたパラメータの値が別のモデルへの入力値として利用されるので、吸入ガス量モデルM20全体では、実際に入力される値はスロットル開度θt、大気圧Pa、および大気温度Taの三つのパラメータのみであり、これら三つのパラメータから筒内充填ガス量Mcが算出される。
【0032】
次に、吸入ガス量モデルM20の各モデルM21〜M23について説明する。
スロットルモデルM21では、大気圧Pa、大気温度Ta、吸気内圧力Pm、スロットル開度θtから、下記数3に基づいてスロットル弁通過空気流量mtが算出される。ここで、数3におけるμtはスロットル弁における流量係数で、スロットル弁開度θtの関数であり、よって図8に示したようなマップから定まる。また、Atはスロットル弁の開口断面積を示し、スロットル弁開度θtの関数であり、図9に示したようなマップから定まる。なお、これら流量係数μtおよび開口断面積Atをまとめたμ・Atをスロットル弁開度θtから一つのマップで求まるようにしてもよい。また、Rは気体定数に関する定数であり、実際には気体定数を1mol当たりの気体(空気)の質量Mlmolで除算した値である。
【数3】
Figure 0003897690
【0033】
また、Φ(Pm/Pa)は下記数4に示した関数であり、この数4におけるκは比熱比(一定値とする)である。この関数Φ(Pm/Pa)は図10に示したようなグラフに表すことができるので、このようなグラフをマップとしてECU31のROM34に保存し、実際には数4を用いて計算するのではなくマップからΦ(Pm/Pa)の値を求めるようにしてもよい。
【数4】
Figure 0003897690
【0034】
これらスロットルモデルM21の数3および数4は、スロットル弁18上流の気体の圧力を大気圧Pa、スロットル弁18上流の気体の温度を大気温度Ta、スロットル弁18の下流の気体の圧力を吸気管内圧力Pmとして、図11に示したようなスロットル弁18のモデルに対して、質量保存則、エネルギ保存則および運動量保存則を適用し、さらに気体の状態方程式、比熱比の定義式、およびマイヤーの関係式を利用することによって得られる。
【0035】
吸気管モデルM22では、スロットル弁通過空気流量mt、筒内吸入ガス流量mc、および大気温度Taから、下記数5および数6に基づいて吸気管内圧力Pmおよび吸気管内温度Tmが算出される。なお、数5および数6におけるVmはスロットル弁18から吸気弁6までの吸気管13等の部分(以下、「吸気管部分」と称す)の容積に等しい定数である。
【数5】
Figure 0003897690
【数6】
Figure 0003897690
【0036】
ここで、吸気管モデルM22について図12を参照して説明する。吸気管部分の総気体量(総吸気ガス量)をMとすると、総気体量Mの時間的変化は、吸気管部分に流入する気体の流量、すなわちスロットル弁通過空気流量mtと、吸気管部分から流出する気体の流量、すなわち筒内吸入ガス流量mcとの差に等しいため、質量保存則により下記数7が得られ、この数7および気体の状態方程式(Pm・Vm=M・R・Tm)より、数5が得られる。
【数7】
Figure 0003897690
【0037】
また、吸気管部分の気体のエネルギM・Cv・Tmの時間的変化量は、吸気管部分に流入する気体のエネルギと吸気管部分から流出する気体のエネルギとの差に等しい。このため、吸気管部分に流入する気体の温度を大気温度Ta、吸気管部分から流出する気体の温度を吸気管内温度Tmとすると、エネルギ保存則により下記数8が得られ、この数8および上記気体の状態方程式より、数6が得られる。
【数8】
Figure 0003897690
【0038】
吸気弁モデルM23では、吸気管内圧力Pm、吸気管内温度Tm、および大気温度Taから、下記数9に基づいて、筒内吸入ガス流量mcが算出される。なお、数9におけるa、bは、機関回転数Neから、さらに吸気弁6の位相角(バルブタイミング)および作用角を変更できる可変動弁機構を備えた内燃機関の場合には吸気弁6の位相角、作用角から定まる値である。
【数9】
Figure 0003897690
【0039】
上述した吸気弁モデルM23について図13を参照して説明する。一般に、吸気弁6が閉じたときに燃焼室5内に充填されている吸気ガスの量である筒内充填ガス量Mcは、吸気弁6が閉弁するとき(吸気弁閉弁時)に確定し、吸気弁閉弁時の燃焼室5内の圧力に比例する。また、吸気弁閉弁時の燃焼室5内の圧力は吸気弁上流の気体の圧力、すなわち吸気管内圧力Pmと等しいとみなすことができる。したがって、筒内充填ガス量Mcは、吸気管内圧力Pmに比例すると近似することができる。
【0040】
ここで、単位時間当たりに吸気管部分から流出する全吸気ガスの量を平均化したもの、または単位時間当たりに吸気管部分から全ての燃焼室5に吸入される吸気ガスの量を一つの気筒の吸気行程に亘って(後述するように本実施形態ではクランク角180°分)平均化したものを筒内吸入ガス流量mc(以下で詳述する)とすると、筒内充填ガス量Mcが吸気管内圧力Pmに比例することから、筒内吸入ガス流量mcも吸気管内圧力Pmに比例すると考えられる。このことから、理論および経験則に基づいて、上記数9が得られる。なお、数9における値aは比例係数であり、値bは燃焼室5内に残存していた既燃ガスを表す値(排気弁8閉弁時に燃焼室5内に残る既燃ガス量を後述する時間ΔT180 °で除算したものと考えられる)である。また、実際の運転では過渡時に吸気管内温度Tmが大きく変化する場合があるため、これに対する補正として理論および経験則に基づいて導かれたTa/Tmが乗算されている。
【0041】
ここで、筒内吸入ガス流量mcについて、図14を参照して内燃機関が4気筒である場合について説明する。なお、図14は横軸がクランクシャフトの回転角度、縦軸が単位時間当たりに吸気管部分から燃焼室5に実際に流入する吸気ガスの流量である。図14に示したように、4気筒の内燃機関では、吸気弁6が例えば1番気筒、3番気筒、4番気筒、2番気筒の順に開弁し、各気筒に対応する吸気弁6の開弁量に応じて吸気管部分から各気筒の燃焼室5内へ吸気ガスが流入する。例えば、吸気管部分から各気筒の燃焼室5内に流入する吸気ガスの流量の変位は図14に破線で示した通りであり、これを総合して吸気管13から全気筒の燃焼室に流入する吸気ガスの流量は図14に実線で示した通りである。また、例えば1番気筒への筒内充填ガス量Mcは図14に斜線で示した通りである。
【0042】
これに対して、実線で示した吸気管から全ての気筒の燃焼室に流入する吸気ガスの量を平均化したものが筒内吸入ガス流量mcであり、図中に一点鎖線で示す。そして、この一点鎖線で示した筒内吸入ガス流量mcに、4気筒の場合にはクランクシャフトが180°(すなわち、4ストローク式内燃機関において1サイクル中にクランクシャフトが回転する角度720°を気筒数で割った角度)回転するのにかかる時間ΔT180 °を乗算したものが筒内充填ガス量Mcとなる。したがって、吸気弁モデルM23で算出された筒内吸入ガス流量mcにΔT180 °を乗算することで、筒内充填ガス量Mcが算出される(Mc=mc・ΔT180 °)。より詳細には、筒内充填ガス量Mcが吸気弁閉弁時の圧力に比例することを考慮して、吸気弁閉弁時の筒内吸入ガス流量mcにΔT180 °を乗算したものが筒内充填ガス量Mcとされる。
【0043】
次に、上記吸入ガス量モデルM20を内燃機関の制御装置に実装して、実際に筒内充填ガス量Mcを算出する場合について説明する。筒内充填ガス量Mcは吸入ガス量モデル10を用いて、上記数3、数5、数6、および数9を解くことにより表される。この場合、ECU31で処理するために、これらの式を離散化する必要がある。時刻t、計算間隔Δtを用いて数3、数5、数6、および数9を離散化すると、それぞれ下記数10、数11、数12、および数13が得られる。なお、吸気管内温度Tm(t+Δt)は、数11および数12によってそれぞれ算出されたPm/Tm(t+Δt)およびPm(t+Δt)から、数14によって算出される。
【数10】
Figure 0003897690
【数11】
Figure 0003897690
【数12】
Figure 0003897690
【数13】
Figure 0003897690
【数14】
Figure 0003897690
【0044】
このようにして実装された吸入ガス量モデルM20では、スロットルモデルM21の数10で算出された時刻tにおけるスロットル弁通過空気流量mt(t)と、吸気弁モデルM23の数13で算出された時刻tにおける筒内吸入ガス流量mc(t)とが、吸気管モデルM22の数11および数12に代入され、これにより時刻t+Δtにおける吸気管内圧力Pm(t+Δt)および吸気管内温度Tm(t+Δt)が算出される。次いで、算出されたPm(t+Δt)およびTm(t+Δt)は、スロットルモデルM21および吸気弁モデルM23の数10および数13に代入され、これにより時刻t+Δtにおけるスロットル弁通過空気流量mt(t+Δt)および筒内吸入ガス流量mc(t+Δt)が算出される。そして、このような計算を繰り返すことによって、スロットル弁開度θt、大気圧Pa、および大気温度Taから、任意の時刻tにおける筒内吸入ガス流量mcが算出され、算出された筒内吸入ガス流量mcに上記時間ΔT180 °を乗算することで、任意の時刻tにおける筒内充填ガス量Mcが算出される。
【0045】
なお、内燃機関の始動時には、すなわち時刻t=0においては、吸気管内圧力Pmは大気圧と等しい(Pm(0)=Pa)とされ、吸気管内温度Tmは大気温度と等しい(Tm(0)=Ta)とされて、各モデルM21〜M23における計算が開始される。
【0046】
なお、上記吸入ガス量モデルM20では、大気温度Taおよび大気圧Paが一定であるとしているが、時刻によって変化する値としてもよく、例えば、大気温度を検出するための大気温度センサによって時刻tにおいて検出された値を大気温度Ta(t)、大気圧を検出するための大気圧センサによって時刻tにおいて検出された値を大気圧Pa(t)として上記数10、数12、および数13に代入するようにしてもよい。
【0047】
ところで、排気通路と吸気通路とを連通する排気再循環通路(以下、「EGR通路」と称す)21と、このEGR通路21を通る排気ガスの流量を調整するための制御弁(以下、「EGR弁」と称す)22とを備え、内燃機関の燃焼室5から排気通路に排出された排気ガスの一部を再び燃焼室に戻す機構であるEGRを備えた内燃機関が知られているが、上述した吸入ガス量モデルM20では、このようなEGRを備えた内燃機関を考慮しておらず、よって上記吸入ガス量モデルM20をこのような内燃機関に適用することはできない。例えば、EGRを備えた内燃機関では、燃焼室5内に流入する吸気ガスには大気中から流入した空気(新気)の他に、EGRガスが含まれるため、筒内充填ガス量Mcに基づいて燃料噴射量を算出すると燃焼室5内の混合気の空燃比を目標空燃比にすることができない。また、上記吸気管モデルM22では、吸気管13に流入する吸気ガスとしてスロットル弁18を通過した空気のみを想定しているが、EGRを備えた内燃機関では吸気管13にはEGR通路21を通ったEGRガスも流入する。したがって、上記吸気管モデルM22では、EGRを備えた内燃機関において吸気管内圧力Pmおよび吸気管内温度Tmを算出することはできない。
【0048】
このように、EGRを備えた内燃機関にも適用可能な吸入ガス量モデルを作成するには、まず、EGR弁22を通過する排気ガスの流量(以下、EGR弁通過ガス流量megr」と称す)を算出する必要がある。このEGR弁通過ガス流量megrは、EGR弁22の上流側の圧力、EGR弁22の下流側の圧力、EGR弁開度といったパラメータに応じて変化するため、従来ではこれらパラメータを引数としてマップからEGR弁通過ガス流量を推定していた。ところが、マップを用いてEGR弁通過ガス流量を推定する場合、マップを作成するために内燃機関の形式毎に運転パラメータ(マップの引数に相当)を変えて運転を行ってEGR弁通過ガス流量を計測する、いわゆる適合作業を行う必要がある。この適合作業における測定点はマップの数およびその引数の数に応じて増大するため、マップの数が多くなると適合を行う際の工数が多大になり、またマップの引数が一つ増えるだけで、その工数は何十倍にも増加してしまう。したがって、マップの適合作業における工数を考慮した場合、マップの引数の数は少ない方が好ましい。そこで、従来の制御装置の一つでは、EGR弁通過ガス流量を推定する場合に引数として用いられるEGR弁の上流側の圧力とEGR弁の下流側の圧力とを、EGR弁の上流側の圧力とEGR弁の下流側の圧力との差圧という一つの引数にまとめることで、マップの引数の数を少なくしている。
【0049】
しかしながら、一般に、マップの引数を減らすと、そのマップから推定されるパラメータの値の正確性は低くなる。したがって、上記従来の制御装置では、EGR弁の上流側の圧力とEGR弁の下流側の圧力とをEGR弁の上下差圧にまとめて一つの引数とすることで、マップによって推定されるEGR弁通過ガス流量の精度は低くなってしまう。したがって、マップを用いると、マップの引数を多くした場合には、マップにより推定されるパラメータの値の正確性は高くなるが適合を行う際の工数が多くなり、逆に、マップの引数を少なくした場合には、適合を行う際の工数は少なくなるが、マップにより推定されるパラメータの値の正確性は低くなる。よって、マップを用いてEGR弁通過ガス流量を推定した場合には、適合を行う際の工数とマップにより算出されるEGR弁通過ガス流量の正確性とのいずれかを犠牲にしなければならいという問題があった。
【0050】
そこで、本発明のEGR弁通過ガス量算出装置では、EGR弁通過ガス流量算出手段が、EGR弁通過ガス流量を、マップからではなく、内燃機関の燃焼室5から排気通路に排出された排気ガスの圧力(以下、「排気圧Pe」と称す)、EGR弁22の上流におけるEGR通路21内の排気ガスの温度、または内燃機関の燃焼室5から排気通路に排出された排気ガスの温度(以下、「排気温度Te」と称す)、上記吸気管内圧力Pm、EGR弁開度θeとの少なくとも四つのパラメータの値に基づく数値計算によって算出している。より詳細には、μeをEGR弁における流量係数、AeをEGR弁22の開口断面積、Peを排気圧、Teを排気温度、Pmを吸気管内圧力、Rを気体定数に関する定数、Φ(Pm/Pe)をPm/Peの関数とすると、EGR弁通過ガス流量算出手段は、下記数15からEGR弁通過ガス流量megrを算出する。ここで、流量係数μeおよびEGR弁の開口断面積Aeは、EGR弁の開度θeによって定まる値である。なお、数15における関数Φ(Pm/Pe)は、数16に示した関数であり、図10に示した関数Φ(Pm/Pa)の変数Pm/Paを変数Pm/Peに置き換えたものである。また、気体定数に関する定数Rは、実際には気体定数を1mol当たりの気体(空気、排気ガス、またはそれらの混合気)の質量Mlmolで除算した値である。
【数15】
Figure 0003897690
【数16】
Figure 0003897690
【0051】
したがって、本発明のEGR弁通過ガス流量算出装置によれば、排気圧Pe、排気温度Te、吸気管内圧力Pm、およびEGR弁開度θeからEGR弁通過ガス流量を算出するときにマップを用いずに数値計算を用いることにより、マップにおける適合作業の工数の問題およびマップから算出される値の精度の問題が発生することなくEGR弁通過ガス流量megrを正確に求めることができる。
【0052】
なお、上記数15および数16は、基本的に上記スロットルモデルM21における数3および数4と同様である。したがって、EGR弁22上流の気体の圧力を排気圧Pe、EGR弁22上流の気体の温度を排気温度Te、EGR弁22の下流の気体の圧力を吸気管内圧力Pmとして、図2に示したようなEGR弁22のモデルに対して、質量保存則、エネルギ保存則および運動量保存則を適用し、さらに気体の状態方程式、比熱比の定義式、およびマイヤーの関係式を利用することによって得られる。
【0053】
次に、上記EGR弁通過ガス流量算出手段が利用する排気圧Pe、排気温度Teの算出過程について説明する。
【0054】
ところで、一般に、内燃機関の製造コストを考慮した場合、センサの数はできるだけ少ない方が好ましい。そこで、例えば、排気再循環機構(EGR)を備えた内燃機関において、排気圧センサ41を用いないで排気圧を検出する場合について考える。このような場合、通常、機関回転数、燃料噴射量、燃料点火時期、EGR率(燃焼室に流入した総吸気ガス量に対するEGRガス量の割合)等、様々なパラメータを引数としたマップを用いなければならなかった。ところが、上述したようにマップの引数が多いと、適合作業を行う際の工数が増大してしまう。逆に、引数を減らすと、マップから得られた値の精度に欠けてしまう。
【0055】
これに対して、排気圧Peは、標準状態において燃焼室5の総行程容積を占める吸気ガス量に対する実際に燃焼室5に充填された空気量の比(すなわち、「充填効率」または「機関負荷率」。詳細は以下に示す。以下、「充填効率」と称す)KLと機関回転数Neとから求まる。図3に充填効率KLおよび機関回転数Neと排気圧Peとの関係を示す。なお、図3の横軸は充填効率KLであり、縦軸は排気圧Peであり、図中の複数の実線は機関回転数Neの異なる場合における関係を示す。
【0056】
図3から分かるように、充填効率KLが大きくなると排気圧Peが高くなり、逆に、充填効率KLが小さくなると排気圧Peが低くなる。また、機関回転数Neが高くなると排気圧Peも高くなり、逆に、機関回転数Neが低くなると排気圧Peも低くなる。そして、これら充填効率KLと機関回転数Neとのパラメータを引数としたマップからは、引数となるパラメータの数が少ないのにも関わらず排気圧Peが比較的精度良く求まる。したがって、これら二つのパラメータを変数として排気圧Peを求めるためのマップを作成すれば、マップの引数を減らしながらも、マップから比較的高い精度で排気圧Peの値を得ることができる。
【0057】
そこで、本発明のEGR弁通過ガス流量算出手段は、充填効率KLと機関回転数Neとから排気圧Peを算出する。より詳細には、EGR弁通過ガス流量算出手段は、充填効率KLと機関回転数Neとを引数として図3に示したようなマップから、または図3に示したような関数f1(KL、Ne)から排気圧Peを算出する。なお、図3に示したようなマップ、または関数f1(KL、Ne)で用いられる充填効率KLの算出過程については後述する。
【0058】
次に、排気圧センサ41の場合と同様に、EGRを備えた内燃機関において、排気温度センサ42を用いないで排気温度Teを検出する場合について考える。一般に、内燃機関から排気通路に排出された排気ガスの温度は、機関回転数Neに応じて変化し、機関回転数Neが高くなると高くなり、機関回転数Neが低くなると低くなる。したがって、このことを利用して、内燃機関から排気通路に排出された排気ガスの温度Teを、機関回転数Neを引数とした一次元マップから求めることができる。
【0059】
ところが、上述したようにEGR弁通過ガス流量megrを算出する場合、排気温度Teとして内燃機関から排気通路に排出された排気ガスの温度を用いるよりも、EGR弁22上流におけるEGR通路21内の排気ガスの温度を用いた方が、高い精度でEGR弁通過ガス流量megrを算出することができる。
【0060】
そこで、EGR弁22上流におけるEGR通路21内の排気ガスの温度を求めるにあたり、EGR通路21に対する入熱および放熱について考えると、EGR弁通過ガス流量megrが多い場合、すなわちEGR通路21に流入するEGRガスの量が多い場合には、EGR通路21内のEGRガスからEGR通路21を形成するEGR管を介して大気中へ放出される熱量に対して、排気ガスがEGR通路21へ流入することによるEGR通路21へ入る熱量の割合が大きくなり、逆に、EGR弁通過ガス流量megrが少ない場合、EGR通路21に流入するEGRガスの量が少ない場合には、EGR通路21へ入る熱量に対して大気中へ放出される熱量の割合が大きくなる。このため、EGR弁通路ガス流量megrが多くなると排気温度Teが上がり、EGR弁通過ガス流量が少なくなると排気温度Teが下がる。この様子を図4に示す。なお、図4の横軸はEGR通過ガス流量megrであり、縦軸は排気温度Teであり、図中の複数の実線は機関回転数Neの異なる場合における関係を示す。
【0061】
以上のことを考慮すると、排気温度TeとしてEGR弁22上流におけるEGR通路21内の排気ガスの温度を用いる場合、排気温度TeはEGR弁通過ガス流量megrと機関回転数Neとに応じて変化する。そこで、本発明のEGR弁通過ガス流量算出手段は、EGR弁通過ガス流量megrと機関回転数Neとから排気温度Teを算出する。より詳細には、EGR弁通過ガス流量算出手段は、EGR弁通過ガス流量megrと機関回転数Neとを引数としたマップから排気温度を算出する。換言すると、排気温度は、図4に示したような関数f2(megr、Ne)から算出される。ここで図4の横軸は、EGR弁通過ガス流量megr、縦軸は関数f2、すなわち排気温度を示している。また、図中に複数ある実線は、全体的に関数f2の値が最も高い実線は機関回転数Neが高い場合を示しており、全体的に関数f2の値が最も低い実線は機関回転数Neが低い場合を示している。
【0062】
このようにして排気温度TeとしてEGR弁上流におけるEGR通路内の排気ガスの温度を算出することにより、算出された排気温度TeからEGR弁通過ガス流量megrをより高い精度で算出することができるようになる。
【0063】
なお、EGR弁通過ガス流量算出手段が後述するように所定の時間間隔Δt毎にEGR弁通過ガス流量を算出する場合、関数f2(megr、Ne)はEGR弁通過ガス流量算出手段によって前回算出されたEGR弁通過ガス流量と機関回転数Neとから排気温度Teを算出し、EGR弁通過ガス流量算出手段はこのようにして算出された排気温度Teを用いて今回の制御弁通過ガス量算出に使用する排気温度を算出する。
【0064】
また、上述したように関数f1から排気圧Teを算出する場合および関数f2から排気温度Teを算出する場合には、機関回転数Neの替わりに内燃機関の燃焼室内に流入する空気流量(筒内充填新気流量mcair)を用いてもよい。
【0065】
ところで、上記説明では関数f1によって算出される排気圧を実際の排気圧としている。しかしながら、排気圧Peは実際には内燃機関の周囲の大気の圧力(大気圧)によっても変化するため、上記関数f1によって算出される排気圧は、大気圧が所定の標準大気圧(例えば1atm)であると仮定した場合における排気圧(すなわち、大気条件が所定の標準状態にあると仮定した場合における排気圧)Pebであり、実際の排気圧Peとは僅かに異なる。
【0066】
そこで、EGR弁通過ガス流量算出手段は、上述したように関数f1によって算出された排気圧Pebを実際の大気圧に基づく排気圧Peに補正し、この補正された排気圧PeからEGR弁通過ガス流量を算出する。より詳細には、EGR弁通過ガス流量算出手段は、内燃機関周囲の大気圧が基準大気圧であると仮定した場合の排気圧Pebを、内燃機関周囲の大気圧が任意の大気圧である場合の排気圧Peに補正するための補正係数Kpaを算出し、算出された補正係数Kpaを関数f1によって算出された排気圧Pebに乗算することによって排気圧Peを求める(Pe=Kpa・Peb)。そして、このようにして求められた排気圧Peに基づいてEGR弁通過ガス流量megrを算出する。このように関数f1に大気圧から求まる補正係数Kpaを乗算した排気圧Peに基づいてEGR弁通過ガス流量megrを算出することにより、EGR弁通過ガス流量megrをより正確に算出することができるようになる。なお、補正係数Kpaは、内燃機関周囲の大気圧のみから定まる変数であり、内燃機関周囲の大気圧が高くなると大きくなり、逆に、内燃機関周囲の大気圧が低くなると小さくなる。
【0067】
なお、EGR弁通過ガス流量算出手段は、上記関数f1に補正係数Kpaを乗算することによって排気圧Peを算出する替わりに、充填効率KL、機関回転数Ne、および大気圧の三つのパラメータを引数としたマップに基づいて排気圧Peを算出してもよい。
【0068】
また、排気温度Teに関しても同様に、上記説明では関数f2によって算出される排気温度を実際の排気温度としている。しかしながら、排気温度Teは実際には内燃機関の周囲の大気の温度(大気温度)によっても変化するため、上記関数f2によって算出される排気温度は、大気温度が所定の標準温度(例えば298K)であると仮定した場合における排気温度(すなわち、大気条件が所定の標準状態にあると仮定した場合における排気温度)Tebであり、実際の排気温度とは僅かに異なる。
【0069】
そこで、EGR弁通過ガス流量算出手段は、上述したように関数f2によって算出された排気温度Tebを実際の大気温度に基づく排気温度Teに補正し、この補正された排気温度TeからEGR弁通過ガス流量を算出する。より詳細には、EGR弁通過ガス流量算出手段は、内燃機関周囲の大気温度が基準大気温度であると仮定した場合の排気温度Tebを、内燃機関周囲の大気温度が任意の大気温度である場合の排気温度Teに補正するための補正係数Ktaを算出し、算出された補正係数Ktaを関数f2によって算出された排気温度Tebに乗算することによって排気温度Teを求める(Te=Kta・Teb)。そして、このようにして求められた排気温度Teに基づいてEGR弁通過ガス流量megrを算出する。このように関数f2に大気温度から求まる補正係数Ktaを乗算した排気温度Teに基づいてEGR弁通過ガス流量megrを算出することにより、EGR弁通過ガス流量megrをより正確に算出することができるようになる。なお、補正係数Ktaは、内燃機関周囲の排気温度のみから定まる変数であり、内燃機関周囲の大気温度が高くなると大きくなり、逆に、内燃機関周囲の大気温度が低くなると小さくなる。
【0070】
なお、EGR弁通過ガス流量算出手段は、上記関数f2に補正係数Ktaを乗算することによって排気温度Teを算出する替わりに、EGR弁通過ガス流量megr、機関回転数Ne、大気温度の三つのパラメータを引数としたマップに基づいて排気温度Teを算出してもよい。
【0071】
次に、上述したEGR弁通過流量算出手段を実装する場合について説明する。一般に、ECU31のCPU34で行われる計算の中に除算や平方根の計算が含まれていると、CPU34に対する負荷が大きくなり、またCPU34での計算に時間がかかってしまう。そこで、EGR弁通過流量算出手段を実装する場合には、できるだけCPU34に除算や平方根の計算を行わせないようにするのが好ましい。
【0072】
そこで、EGR弁通過流量算出手段の実装時には、数15から除算や平方根の計算を除いた数17が用いられる。ここで数17のekpe、ekte、およびeklegrmはそれぞれ排気圧Pe、排気温度Te、およびEGR弁開度θeの関数であり、より詳細には数18、数19、および数20に示した通りである。これら関数ekpe、ekte、およびeklegrmを乗算すると数15が得られる。
【数17】
Figure 0003897690
【数18】
Figure 0003897690
【数19】
Figure 0003897690
【数20】
Figure 0003897690
ここで、数20に示したように関数eklegrmは、排気ガスが所定の状態、例えば排気ガスが標準状態にある場合(すなわち、排気圧Pe=101.325(kPa)、排気温度Te=298(K)である場合)における数15の関数Φ(Pm/Pe)を除いた右項部分に等しく、EGR弁開度θeのみの関数である。このEGR弁開度θeのみの関数eklegrmは適合によって求められるが、排気ガスが標準状態にある場合のみの値を算出すればよいため、適合の工数は非常に少ない。
【0073】
また、数18および数19に示した通り、関数ekpe、ekteは排気ガスが標準状態にあると仮定して算出された関数eklegrmをそれぞれ実際の排気圧Pe、および排気温度Teに基づいて補正するための関数である。数18および数19から分かるように、これら関数ekpe、ekteには除算や平方根の計算が含まれている。上述したように除算や平方根の計算をECU31のCPU34に計算を行わせるとCPU34の負荷が大きくなってしまう。そこで、排気圧Peと関数ekpeとのマップ、および排気温度Teと関数ekteとのマップを予め用意し、実際にCPU34に計算を行わせずにマップから値を求めるようにする。これにより、CPU34の負荷が大きくなってしまうことはなく、また、関数ekpe、ekteは計算によって算出することができるため適合を行う必要もない。このように、数15を数17に変形して実装することで、CPU34の負荷を小さくしながらも適合の工数を少なくすることができる。
【0074】
また、関数ekpe、ekteの引数である排気圧Peおよび排気温度Teには、それぞれ上述したように関数f1に補正係数Kpaを乗算したもの(Pe=Kpa・f1(KL、Ne))および関数f2に補正係数Ktaを乗算したもの(Ta=Kta・f2(megr,Ne))が用いられる。ここで、機関回転数はクランク角センサ48から算出され、充填効率KLは後述するEGRを備えた内燃機関用の吸入ガス量モデルM10において求められ、また、EGR弁通過ガス流量megrはEGR弁通過ガス流量算出手段によって算出される。大気圧Pa、大気温度Peはそれぞれ大気圧センサ、大気温度センサによって検出される。
【0075】
次に、上述したEGR弁通過ガス流量算出手段に用いられているモデルをEGR弁モデルM14として、EGRを備えた内燃機関に用いられる吸入ガス量モデルM10について説明する。なお、以下では、特に定常状態(スロットル弁開度、EGR弁開度、機関回転数等がほぼ一定のまま維持されている状態)に適用可能な吸入ガス量モデルM10について説明する。
【0076】
本発明で用いられる吸入ガス量モデルM10を図5に示した。図5に示したように、吸入ガス量モデルM10は、スロットルモデルM11と、吸気管モデルM12と、吸気弁モデルM13と、EGR弁モデルM14とを具備する。スロットルモデルM11および吸気弁モデルM13は基本的に図7に示したEGRを備えていない内燃機関に用いられる吸入ガス量モデルM20のスロットルモデルM21および吸気弁モデルM23と同様である。したがって、スロットルモデルM21は、スロットル開度θt、大気圧Pa、大気温度Ta、および吸気管モデルM12で求められた吸気管内圧力Pmに基づいてスロットル弁通過空気流量mtを算出し、吸気弁モデルM23は、吸気管内圧力Pm、吸気管内温度Tm、および大気温度Taに基づいて筒内吸入ガス流量mcを算出する。
【0077】
一方、吸気管13にはスロットル弁18を通過した空気(新気)に加えて、EGR弁22を通過したEGRガスが流入する。したがって、吸気管モデルM12は、図12に示した吸気管モデルM22とは異なり、図6に示したモデルを用いる。図12に示した吸気管モデルM22における数11および数12と同様に、EGRガスが流入する場合の吸気管部分に質量保存則およびエネルギ保存則を適用すると、数21および数22が得られる。ここで、数21、数22におけるEGR弁通過ガス量megrおよび排気温度TeはEGR弁モデルM14で求められる。
【数21】
Figure 0003897690
【数22】
Figure 0003897690
【0078】
上述したEGR弁通過ガス流量算出手段の説明から、EGR弁モデルM14は、EGR弁開度θe、吸気管内圧力Pm、充填効率KL、前回のEGR弁通過ガス流量megr、機関回転数Ne、大気圧Pa、大気温度Taから、EGR弁通過ガス流量megrを算出するモデルであることが分かる。ここで、機関回転数Neセンサから検出され、大気圧Pa、大気温度Taは定数とする。吸気管内圧力Pmは、吸気管モデルM12で求められ、充填効率KLは後述するように吸気弁モデルM13から求められる。前回のEGR弁通過ガス流量megrはEGR弁モデルM14における前回の計算で算出された値である。
【0079】
ところで、吸気ガス量モデルM10は燃焼噴射量を決定するために用いられるモデルである。燃料噴射量は燃焼室5内に流入する空気(新気)の量に応じて決定する必要があるが、EGRを備えた内燃機関では燃焼室5内に流入する吸気ガスには空気だけでなく、EGRガスが含まれる。そこで、EGRを備えた内燃機関において燃料噴射量を決定するためには、燃焼室5内に流入する吸気ガスの流量(筒内吸入ガス流量mc)から燃焼室5内に流入するEGRガスの流量(以下、「筒内吸入EGR流量mcegr」と称す)を除いた燃焼室5内に流入する空気の流量(以下、「筒内吸入新気流量mcair」と称す)を求めなければならない(mcair=mc−mcegr)。
【0080】
ここで、上述したように定常状態である場合、EGR弁22を通過するEGRガスの流量と燃焼室5内に流入するEGRガスの流量は等しい(mcegr=megr)。これにより、筒内吸入EGR流量mcegrが求まり、これと上記吸気弁モデルで求められる筒内吸入ガス流量mcとから、筒内吸入新気流量mcairが得られる。得られた筒内吸入新気流量mcairに、上記吸気弁モデルM23で説明したように、時間T180 °を乗算することで、一回の吸気行程で燃焼室内に充填される空気(新気)の量(以下、「筒内充填新気量Mcair」と称す)が求められ、この筒内充填新気量Mcairに基づいて燃料噴射弁から噴射される燃料噴射量が決定される。
【0081】
また、充填効率KLは、標準状態において燃焼室5の総行程容積を占める吸気ガス量に対する実際に燃焼室5に充填された空気量の比、すなわち筒内充填新気量Mcairを標準状態において燃焼室5内に充填可能な吸気ガス量(以下、「最大筒内充填ガス量Mcmax」と称す)で割った値を意味する(KL=Mcair/Mcmax)。したがって、充填効率KLは、上述したように算出された筒内充填新気量Mcairと定数である最大筒内充填ガス量Mcmaxとから算出され、算出された充填効率KLはEGR弁モデルM14で用いられる。
【0082】
このように、吸入ガス量モデルM10では、或るモデルにおいて算出されたパラメータの値が別のモデルへの入力値として利用されるので、吸入ガス量モデルM10全体では、実際に入力される値は基本的にスロットル開度θt、EGR弁開度θe、大気圧Pa、および大気温度Taの四つのパラメータのみであり、これら四つのパラメータから筒内充填ガス量Mcが算出される。
【0083】
次に、上記吸入ガス量モデルM10を内燃機関の制御装置に実装して、実際に筒内充填新気量Mcairを算出する場合について説明する。この場合、スロットルモデルM11、吸気弁モデルM13等で用いられる数式は、EGRを備えていない内燃機関におけるスロットルモデルM21、吸気弁モデルM23等で用いられる数10、数13、数14と同じである。
【0084】
EGR弁モデルM14では、数17が数23の形で実装され、数23内の排気圧Pe(t)および排気温度Te(t)はそれぞれ数24および数25の形で実装された式によって求められる。ここで、megr(t−Δt)は、時刻tより計算間隔Δtだけ前のEGR弁通過ガス流量、すなわち前回計算されたEGR弁通過ガス流量を示している。このようにして、EGR弁モデル5では、時刻tにおけるEGR弁通過ガス流量megr(t)が算出される。
【数23】
Figure 0003897690
【数24】
Figure 0003897690
【数25】
Figure 0003897690
【0085】
また、吸気管モデルM12では、数21および数22を離散化した下記数26および数27と、上記吸入ガス量モデルM20で用いられた数14とから成る式に、スロットルモデルM11で算出されたスロットル弁通過ガス流量mt(t)と、吸気弁モデルM13で算出された筒内吸入ガス流量mc(t)と、EGR弁モデルM14で算出されたEGR弁通過ガス流量megr(t)とを代入することで、時刻t+Δtにおける吸気管内圧力Pm(t+Δt)および時刻t+Δtにおける吸気管内温度Tm(t+Δt)とが算出される。
【数26】
Figure 0003897690
【数27】
Figure 0003897690
【0086】
このようにして実装された吸入ガス量モデルM10では、スロットルモデルM11において算出された時刻tにおけるスロットル弁通過空気流量mt(t)と、EGR弁モデルM14において算出された時刻tにおけるEGR弁通過ガス量megr(t)および排気温度Te(t)と、吸気弁モデルM13において算出された時刻tにおける筒内吸入ガス流量mc(t)とが、吸気管モデルM12の数26および数27に代入され、これにより時刻t+Δtにおける吸気管内圧力Pm(t+Δt)および吸気管内温度Tm(t+Δt)が算出される。次いで、算出されたPm(t+Δt)およびTm(t+Δt)は、スロットルモデルM11および吸気弁モデルM23に代入され、これにより時刻t+Δtにおけるスロットル弁通過空気流量mt(t+Δt)および筒内吸入ガス流量mc(t+Δt)が算出される。また、筒内吸入ガス流量mc(t+Δt)と時刻tにおけるEGR弁通過ガス流量megr(t)とから筒内吸入新気流量mcair(t+Δt)が算出され、この筒内吸入新気流量mcair(t+Δt)から時刻t+Δtにおける充填効率KL(t+Δt)が算出される。そして、このKL(t+Δt)と上記Pm(t+Δt)とからEGR弁モデルM14において、時刻t+ΔtにおけるEGR弁通過ガス流量megr(t+Δt)が算出される。算出されたmc(t+Δt)、megr(t+Δt)、mt(t+Δt)は再び吸気管モデルM12に代入される。このような計算を繰り返すことによって、スロットル弁開度θt、EGR弁開度θe、大気圧Pa、および大気温度Taとから筒内吸入新気流量mcairが算出され、算出された筒内吸入新気流量mcairに時間ΔT180 °を乗算することで常に筒内充填新気量Mcairを算出することができる。
【0087】
なお、内燃機関の始動時には、すなわち時刻t=0においては、吸気管内圧力は大気圧と等しい(Pm(0)=Pa)とされ、吸気管内温度および排気温度は大気温度と等しい(Tm(0)=Ta、Te(0)=Ta)とされて、各モデルM11〜M13における計算が開始される。
【0088】
また、上記吸入ガス量モデルM10では、大気温度Taおよび大気圧Paが一定であるとしているが、上記吸入ガス量モデルM20と同様に時刻tにおける大気温度Ta(t)、時刻tにおける大気圧Pa(t)を上記数10、数13、数22に代入するようにしてもよい。
【0089】
なお、上記実施形態では、EGR弁通過ガス流量算出手段は、排気圧Peおよび排気温度Teを、機関回転数Ne、充填効率KLおよびEGR弁通過ガス流量megr等に基づくマップから求めているが、これら排気圧Peおよび排気温度Teを排気圧センサ41および排気温度センサTeによって検出してもよい。また、上記実施形態では、EGR弁通過ガス流量算出手段は、吸気管内圧力Pmを吸入ガス量モデルM10から算出しているが、吸気管内圧力Pmを吸気管内圧力センサ40によって検出してもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、EGR弁通過ガス流量算出手段は、排気圧Pe、排気温度Te、吸気管内圧力Pm、およびEGR弁開度θtの四つのパラメータを引数とした数15に示した計算式からEGR弁通過ガス流量megrを求めているが、少なくとも上記四つのパラメータを引数としていれば数15とは異なる計算式またはマップからEGR弁通過ガス流量megrを求めてもよい。
【0091】
上述したように、EGR弁通過ガス流量算出手段によってEGR弁通過ガス流量を正確に算出することにより、例えば、算出されたEGR弁通過ガス流量に基づいて上述したように筒内充填新気量を算出し、この筒内充填新気量に基づいて燃料噴射量を正確に算出することが可能となる。また、算出されたEGR弁通過ガス流量に基づいて、EGR弁通過ガス量が目標値になるようにEGR弁の開度をフィードバック制御することも可能となる。
【0092】
【発明の効果】
各請求項に記載の発明によれば、制御弁上流側の気体の圧力、吸気管内圧力、および制御弁開度のみならず、排気温度をも考慮してEGR弁通過ガス流量が算出されるため、より正確に制御弁通過ガス流量を算出することができるという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のEGR弁通過ガス流量算出装置を備えた内燃機関全体を示す図である。
【図2】EGR弁通過ガス流量の算出における基本概念を示す図である。
【図3】充填効率と排気圧との関係を表した図である。
【図4】EGR通過ガス流量と排気温度との関係を表した図である。
【図5】EGRを備えた内燃機関に適用可能な本発明の吸入ガス量モデルを示す図である。
【図6】EGRを備えた内燃機関に適用可能な吸気管モデルの基本概念を示す図である。
【図7】EGRを備えていない内燃機関に適用可能な吸入ガス量モデルを示す図である。
【図8】スロットル弁開度と流量係数との関係を示す図である。
【図9】スロットル弁開度と開口断面積との関係を示す図である。
【図10】関数Φ(Pm/Pa)を示す図である。
【図11】スロットルモデルの基本概念を示す図である。
【図12】EGRを備えていない内燃機関に適用可能な吸気管モデルの基本概念を示す図である。
【図13】吸気弁モデルの基本概念を示す図である。
【図14】筒内充填ガス量および筒内吸気ガス量の定義に関する図である。
【符号の説明】
1…機関本体
5…燃焼室
6…吸気弁
7…吸気ポート
8…排気弁
11…燃料噴射弁
13…吸気管
18…スロットル弁
22…EGR弁

Claims (5)

  1. 内燃機関の燃焼室から排気通路に排出された排気ガスの少なくとも一部を吸気通路に流入させる排気再循環通路と、該排気再循環通路を通る排気ガスの流量を調整する制御弁と、少なくとも前記機関の排気圧と、吸気管内圧力と、前記制御弁の開度とに基づいて制御弁通過ガス流量を算出する制御弁通過ガス流量算出手段とを具備する制御弁通過ガス流量算出装置において、
    前記制御弁通過ガス流量算出手段は、前記排気圧と吸気管内圧力と制御弁開度に加えて更に機関排気温度に基づいて所定時間毎に前記制御弁通過ガス流量を算出し、機関回転数と前記制御弁通過ガス流量算出手段によって前回算出された制御弁通過ガス流量とから今回の制御弁通過ガス流量算出に使用する機関排気温度を算出する制御弁通過ガス流量算出装置。
  2. 前記制御弁通過ガス流量算出手段は、μeを制御弁における流量係数、Aeを制御弁の開口断面積、Peを前記排気圧、Teを前記排気温度、Pmを前記吸気管内圧力、Rを定数、Φ(Pm/Pe)をPm/Peの値に応じて定まる係数とすると、下記数1に基づいて制御弁通過ガス流量megrを算出する請求項1に記載の制御弁通過ガス流量算出装置。
    Figure 0003897690
  3. 前記制御弁通過ガス流量算出手段は、充填効率と機関回転数とに基づいて算出した排気圧を使用して前記制御弁通過ガス流量を算出する請求項1または2に記載の制御弁通過ガス流量算出装置。
  4. 前記制御弁通過ガス流量算出手段は、前記充填効率と機関回転数とに基づいて大気圧が所定の標準大気圧にあるときの機関排気圧を算出し、該標準大気圧における機関排気圧を実際の大気圧に基づいて補正した排気圧を使用して前記制御弁通過ガス流量を算出する請求項3に記載の制御弁通過ガス流量算出装置。
  5. 前記制御弁通過ガス流量算出手段は、前記機関回転数と前回算出された制御弁通過ガス流量とに基づいて大気温度が所定の標準大気温度にあるときの機関排気温度を算出し、該標準大気温度における機関排気温度を実際の大気温度に基づいて補正した機関排気温度を使用して前記制御弁通過ガス流量を算出する請求項1〜4のいずれか1項に記載の制御弁通過ガス流量算出装置。
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