JP3892152B2 - 既設柱の耐震補強構造および既設柱の耐震補強方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄筋コンクリート製の既設柱を外周から耐震補強する既設柱の耐震補強構造および耐震補強方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
阪神大震災を機に高架道路の鉄筋コンクリート製の既設柱の補強が盛んに行われており、この種の耐震補強方法の1つとして本出願人は、図5,6に示すような工法を最近提案した(特開平10−148038号公報)。
【0003】
この耐震補強工法は、まず、既設柱51のコンクリートを、後に吹き付けられるモルタルとなじませるべく表面処理し、続いて柱51の外側四隅に結束用の添え筋58を垂設する(図6参照)。次に、PC鋼棒を螺旋状の束に加工してなる螺旋フープ筋1を、図5(A)に示すように、そのループ面が既設柱51の外面近傍に対向するように鉛直に配置し、巻き始めとなる直角に曲げた先端を、既設柱51の下端の穴に差し込んで固定し、螺旋フープ筋1の束を鉛直に保持したまま、図5(B)の矢印Xで示す束がほどける方向に回転させつつ、既設柱51の周囲に矢印Yで示す方向に巡らせて、1ループずつ既設柱51の下端外周に水平に巻き付けていく。
1束の巻き付けが終わると、柱51の下端外周に重なって巻き付いた螺旋ループ筋1の上端を柱51の上方へ図6(B)の如く持ち上げて、所定のピッチP=5cmを作って保持し、この状態で螺旋ループ筋1の四隅を、添え筋58に結束線で結束して固定する。
次に、巻き建ての終わった螺旋フープ筋1の先端が差し込まれたアンカー穴にグラウトを注入して固定した後、既設柱51と螺旋フープ筋1の隙間にモルタルを吹き付けながら充填するとともに螺旋フープ筋1をモルタルで覆って、厚さ40mmのモルタル層57として、図6(C)に示すように、既設柱51の耐震補強を終了する。
【0004】
上記螺旋フープ筋1のピッチP=5cmは、単位長の柱につき螺旋フープ筋の合計断面が担うべき許容荷重Wから決まり、PC鋼棒SBPD130/145の直径,降伏点,柱1m当たりの本数は、夫々d=7.1mm,σy=134kgf/mm2, n=20だから、上記許容荷重Wは、W=σy×(πd2/4)×2n=212212kgとなる。
一方、図5(A)に示す巻き付けの際に捩りによって螺旋フープ筋1に生じる最大剪断応力τ(kgf/mm2)について考えると、τ=16T/(πd3)=16GI/(πd3)=16G(πd4θ/32)/(πd3)=Gdθ/2=…(1) となる。但し、T,G,θは、螺旋フープ筋1の夫々捩り剛性,横弾性係数(kgf/mm2),単位長さ当たりの捩れ角(rad/mm)である。
上記(1)式中のθは、螺旋フープ筋1を柱51の周りに半周長巻き付けるごとに捩れ角が90°増加するから一定であり、例えば柱断面が900mm×900mmなら、θ=(πrad/180°)×(90°/1800mm)=0.000873(rad/mm)となる。また、上記(1)式中のGは、G=E/2(ν+1) E:ヤング率,ν:ポアソン比で与えられ、鉄鋼であるPC鋼棒でも一定値(8100kgf/mm2)である。従って、螺旋フープ筋1に生じる最大剪断応力τは、(1)式からフープ筋の直径dに比例することになる。
他方、材料の許容最大剪断応力τaは、その材料の降伏点をσyとすれば、
τa=σy/2√3…(2) で与えられるので、螺旋フープ筋1の許容最大剪断応力は、材料の降伏点σyに比例することになる。
【0005】
従って、螺旋フープ筋1であるPC鋼棒SBPDの材料特性値,寸法を上記(1),(2)式に代入して最大剪断応力τ,許容最大剪断応力τaを求めると、τ=25.1(kgf/mm2)<τa=38.7(kgf/mm2) となって弾性変形内での巻き付けが可能になることが判る。これは、螺旋フープ筋1に高強度で細径のPC鋼棒SBPDを用いているので、許容最大剪断応力τaを大きくできるうえ、最大剪断応力τを直径に逆比例して小さくできるからである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来の既設柱の耐震補強方法は、高架道路の橋脚柱などの設計軸力比(軸方向圧縮応力度/コンクリートの設計圧縮強度)が0.1以下の地上構造物を対象としている。しかし、地下深くの地下構造物の柱では、上載荷重の他に土圧が加わって軸力比が0.2〜0.5と高まり、その結果、柱の変形性能が低減する。地下構造物として必要な変形性能を確保し,保証するには、地上構造物に対するよりも太径の螺旋フープ筋を用いるか、螺旋フープ筋のピッチPをより狭くしなければならない。
ところが、JIS G 3137で規定されたPC鋼棒SBPDの最大径dは、12.6mmであるうえ、直径dが増えると、(1)式で述べたように、螺旋フープ筋に生じる最大剪断応力τ,つまり巻き付けに要する力が比例して増加し、人力で巻き付け作業ができなくため、太径にするにも限度がある。また、柱51と螺旋フープ筋1の隙間にモルタル57を吹き付けることから、この隙間を33mm以上にする必要があり、ピッチを狭くするにも限度がある。そのため、軸力比の大きな地下構造物の柱や超高層建物の下階部の柱では、上記限度を超えた太径あるいはピッチの螺旋フープ筋が必要となって、上記従来の既設柱の耐震補強方法が適用できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、螺旋フープ筋の配置を高密度になるように工夫することによって、螺旋フープ筋の巻き付けによる優れた経済性,施工性を活かしつつ、高い軸力の加わる既設柱も補強することができる既設柱の耐震補強構造および耐震補強方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の既設柱の耐震補強構造は、既設柱の回りにこの既設柱の外周面から一定間隔を隔てて配設された螺旋フープ筋と、上記既設柱と螺旋フープ筋の隙間に吹き付けによって充填されたモルタルとを備え、上記螺旋フープ筋は、複数本1組で互いに結束線によって束ねられ、この螺旋フープ筋に接して立設した添え筋に上記結束線によって固定されるとともに、束ねられた螺旋フープ筋の束は、これらの束を繋ぐ上記螺旋フープ筋の部分によって33mm以上の間隔を隔てて配設されていることを特徴とする。
【0009】
請求項1の既設柱の耐震補強構造では、既設柱の回りを取り囲む螺旋フープ筋は、複数本1組で互いに結束線によって束ねられ、この螺旋フープ筋に接して立設した添え筋に上記結束線によって固定され、これらの束を繋ぐ螺旋フープ筋の部分によって33mm以上の間隔を隔てて配設されている。従って、例えば軸力比の高い地下既設柱の変形性能を倍増すべく、螺旋フープ筋の配置密度(単位柱長さ当たりの本数)を2倍にしても、螺旋フープ筋は2本1組で束ねられるから、束ねた組同士の隙間は、束ねない場合の筋同士の隙間の2倍になる。しかも、束ねられた螺旋フープ筋は、結束線によって添え筋に固定されているので、33mm以上の間隔を確実に確保できる。一例を挙げれば、d=7.1mmの螺旋フープ筋のピッチPを半分の2.5cmにした場合、束ねない場合の隙間は17.9mmでモルタルの充填が不可能だが、束ねた場の隙間は33mm 以上の35.8mmになって、モルタルの充填が可能になるのである。
【0010】
請求項2の既設柱の耐震補強構造は、上記螺旋フープ筋が、JIS G 3137で規定する公称径が12.6mm以下の細径異形PC鋼棒であることを特徴とする。
【0011】
請求項2の既設柱の耐震補強構造では、JIS G 3137で規定された細径異形PC鋼棒は、JIS G 3112で規定され,一般に用いられるSD345等の鉄筋コンクリート用異形棒鋼よりも降伏点が3〜5倍も高い。つまり、既設柱に加わる荷重を小さい合計断面積で担うことができるので、細径の螺旋フープ筋を少量用いるだけで足り、螺旋フープ筋の所要重量を大幅に低減して施工の軽量化を図れる。また、降伏点が高いので、螺旋フープ筋の(2)式で述べた許容最大剪断応力τaを大きくできて、確実に弾性変形範囲内で巻き付けが可能になるうえ、細径なので、巻き付けの際に螺旋フープ筋に生じる(1)式で述べた最大剪断応力τ,つまり巻き付けに要する力が小さくできて、施工が容易になるとともに、巻き付いた螺旋フープ筋相互の隙間が広くなって、モルタルの充填が容易になる。
【0012】
請求項3の既設柱の耐震補強方法は、既設柱の回りにこの既設柱の外周面から一定間隔を隔てて螺旋フープ筋を複数回巻き付け、この巻き付けた螺旋フープ筋の束を複数本1組で互いに束ねては、この束に連なる上記螺旋フープ筋の部分を上記既設柱に沿って所定間隔だけずらせる作業を繰り返して、上記既設柱の長さ方向全長に亘って複数の螺旋フープ筋の束を上記所定間隔で配置した後、上記既設柱と螺旋フープ筋の隙間にモルタルを充填することを特徴とする。
【0013】
請求項3の既設柱の耐震補強方法では、連続した螺旋フープ筋を既設柱の回りに一定間隔を隔てて巻き付けて配設するので、従来のように輪状のフープ筋を柱に1つずつ外嵌して継目を溶接する必要がないから、欠陥の少ない能率的なフープ筋の施工により既設柱を能率良く強固に耐震補強することができる。また、既設柱の回りを取り囲む螺旋フープ筋が、複数本1組で互いに束ねられ、これらの束が、螺旋フープ筋の部分によって所定間隔を隔てて互いに繋がれているので、請求項1で述べたと同じ理由から、束ねた組同士の隙間は、束ねない場合の筋同士の隙間の少なくとも2倍になるから、モルタルの充填が十分可能になる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1,図2および図3は、夫々モルタル施工前および施工後の本発明の既設柱の耐震補強構造の一例を示している。この既設柱の耐震補強構造は、地下深くから立ち上がり,土圧により大きな軸圧縮応力を受ける橋脚柱などの既設柱31の外周面から一定間隔を隔てて配設された螺旋フープ筋1(図1,2参照)と、この螺旋フープ筋1と上記既設柱31の隙間に充填され、かつ螺旋フープ筋1を被覆するモルタル57(図3参照)とを備えている。
【0015】
上記螺旋フープ筋1は、予め柱全長の補強に必要な長さの公称径7.1mmの細径異形PC鋼棒(JIS G 3137)を,既設柱31の断面よりも少し大きい矩形の螺旋状の束に加工し、これを図5の従来例で述べたと同様の手法で既設柱31の下端外周に,柱四隅に立設した添え筋58a(図1(B)参照)に外接させて総て巻き付けた後、螺旋フープ筋1の四隅に外接して2本ずつ立設した添え筋58bと上記添え筋58aに固定して図1に示すように柱全長に亘って配置される。
即ち、螺旋フープ筋1は、図1(B),図2に示すように、三隅1b〜1dにおいて2本1組で互いに当接するように結束線2によって束ねられ、かつその隅の添え筋58a,58bに水平に固定され、残る一隅1aにおいて3本1組で同様に結束線2により束ねて添え筋に固定されるとともに、上記一隅1aは、左上に登る一辺部分1eを介して上の束に、右下に降りる一辺部分1fを介して下の束に夫々繋がっていて、この一辺部分1e,1fによって各束の間隔(ピッチ)が決まる。つまり、螺旋フープ筋1は、既設柱31の上端から、この既設柱31を水平に2巻き周回した後、柱平面に沿って1ピッチ下降し、下降端からさらに既設柱を水平に2巻き周回した後、再び相隣る柱平面に沿って1ピッチ下降することを繰り返す。
【0016】
上記モルタル57は、結束線2で2本ずつ束ねられた螺旋フープ筋1の束の隙間から、図3に示すように、既設柱31と螺旋フープ筋1の間を満たし,かつ螺旋フープ筋1を覆うように吹き付けによって施工される。
いま、地下埋設の既設柱31の担荷重(軸力比)が、図6で述べた地上既設柱51の担荷重(軸力比)の2倍以上あり、柱の同等の変形性能を確保すべく、螺旋フープ筋のピッチpを(図6の半分)p=P/2=2.5cmにするような場合には、螺旋フープ筋1を仮に束ねないで上記ピッチpで配置すれば、図2の右側に示すように、螺旋フープ筋相互間の隙間wは、w=p−d=25−7.1=17.9mmと狭くなって、隙間にモルタルを充填できないが、本実施の形態では2本1組で束ねられているので、図2の左側に示すように、ピッチPの上下端に1本ずつの配置に相当し、螺旋フープ筋相互間の隙間Wは、W=P−2d=50−14.2=35.8mmと広くなって、モルタルの充填が可能になる。
【0017】
なお、上記螺旋フープ筋1として、公称径が9.0,10.7,12.6mmの細径異形PC鋼棒(JIS G 3137)を用いることもできる。なぜなら、鋼棒の断面積は、公称径の二乗に比例するので、同じ荷重を担うための鋼棒のピッチも公称径の二乗に比例して増え、鋼棒相互間の隙間の増分は公称径の増分より大きくなるからであり、上記径の鋼棒を用いた場合の隙間Wは、夫々62.3,92.2,132.3mmとなってモルタルの充填は十分可能である。
上記実施の形態では、螺旋フープ筋1の材料として、一般の鉄筋コンクリート用異形棒鋼SD345など(JIS G 3112)よりも降伏点が3〜5倍も高い細径異形PC鋼棒(JIS G 3137)を用いているので、段落[0004]で述べたように細径の鋼棒を少量用いるだけで柱の荷重を担うことができ、螺旋フープ筋の所要重量を大幅に低減して施工の軽量化を図れる。また、降伏点が高いので、螺旋フープ筋の(2)式で述べた許容最大剪断応力τaを大きくできて、塑性変形域に入ることなく確実に弾性変形域内で巻き付けが可能になるうえ、細径なので、巻き付けの際に螺旋フープ筋に生じる(1)式で述べた最大剪断応力τ,つまり巻き付けに要する力を小さくできて、施工が容易になるとともに、螺旋フープ筋相互の隙間が広くなって、モルタルの充填が容易になるという利点がある。
【0018】
図4は、本発明の既設柱の耐震補強方法の一例を順に示している。
この耐震補強方法は、まず、図4(A)に示すように、地下埋設の既設柱31のコンクリートの表面を、後に吹き付けられるモルタルとなじませるべく処理し、続いて柱31の外側四隅に結束用の添え筋58を垂設する。次に、既設柱31の下端角部に螺旋フープ筋1の先端の直角屈曲部を引っ掛け、図4(B)に示すように、螺旋フープ筋1の束のループ面を柱外面に対向させて、鉛直方向に沿うように保持し、この状態のまま束を図4(B)に示す矢印X方向に回転させつつ矢印Y方向に柱の周囲に巡らせて、1ループずつ柱31に巻き付けていく。
【0019】
1束の巻き付けが終わると、既設柱31の下端外周に積み重なった螺旋フープ筋1の束を、既設柱31の上端まで手または昇降台によって持ち上げ、図4(C)に示すように、最上部の螺旋ループ筋から順に、矩形の各隅において2本1組で互いに当接するように結束線2で束ねると共に、刻まれたピッチを示す目盛3に合わせて添え筋58に水平に固定した後、柱平面に沿って1目盛だけ下降し、同様に2本1組で結束線2で束ねて添え筋58に固定することを既設柱31の下端まで繰り返す。但し、2本1組の束で螺旋フープ筋が上方から降りてくる隅および下方へ降りていく隅は、図1(A),図2から判るように結束線2で束ねられる螺旋フープ筋が3本になる。
こうして螺旋フープ筋1の配設が終わると、図4(D)に示すように、最初にモルタルを吹き付ける柱面の両側端に仕切板4,4を立設し、これを仕切りとして既設柱31と螺旋フープ筋1の間を満たし,かつ螺旋フープ筋1を覆うように吹付けガン5によってモルタル57を吹き付ける。既設柱31の四面についてモルタル57の吹き付けを終え、仕切板4を外せば、図4(E)の如く耐震補強が終了する。
【0020】
このように、本実施の形態の既設柱の耐震補強方法の要部である螺旋フープ筋の巻き付けは、螺旋フープ筋1のループ面を既設柱31の外面に対向させて鉛直方向に沿って保持したまま、束がほどける方向(図4(B)の矢印X)に回転させつつ既設柱の回りを巡らせて(図4(B)の矢印Y)1ループずつ巻き付けていくので、矩形状のフープ筋の隅部を矩形面内で曲げ力によってさらに90°開くのではなく、螺旋フープ筋を柱の半外周長当たり90°捩るだけでよいから、弾性変形範囲内での巻き付けが可能になるうえ、螺旋フープ筋の束の鉛直保持により、柱の周囲空間が狭くても施工ができる。
さらに、本実施の形態では、従来のように輪状のフープ筋を柱に1つずつ外嵌して継目を溶接する必要がないので、能率的で欠陥の少ない既設柱の耐震補強を行なうことができる。
【0021】
また、上記実施の形態では、螺旋フープ筋1の材料に降伏点が134kgf/mm2の高強度鋼を用いているので、従来と同等の補強強度を維持しつつ、フープ筋の所要重量を略半減でき、施工の軽量化を図れるとともに、降伏点の上昇による許容剪断応力の上昇およびフープ筋の小径化に比例した巻き付けに伴って生じる捩り最大剪断応力の低減により、弾性範囲内での巻き付けを確実に保証しつつ、巻き付けの一層の容易化を図ることができる。
また、螺旋フープ筋1の高強度化と小径化により、螺旋フープ筋相互間の隙間が広くなって、モルタルの充填が容易化する。
【0022】
なお、上記実施の形態では、螺旋フープ筋を2本1組で束ねたが、既設柱により大きい担荷重が加わる場合や束間のピッチを広げたい場合は、3本以上を1組として束ねることもできる。また、螺旋フープ筋のループ形状を正方形としたが、この形状は既設柱の断面形状に合わせて円形,長方形などにできることは勿論である。また、螺旋フープ筋の材質は、上記実施の形態のSBPDに限らず、巻き付けに伴う捩り最大剪断応力が弾性範囲内に収まるものであれば、どのようなものでもよい。
さらに、上記実施の形態では、螺旋フープ筋1を巻き付けた上に吹き付けによりモルタル層57を施工しているので、モルタル充填用の仮枠を要さずに螺旋フープ筋まで被覆できるから、施工を一層能率化できるとともに、螺旋フープ筋の防錆塗装を省略することができる。
【0023】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、請求項1の既設柱の耐震補強構造は、既設柱の回りにこの既設柱の外周面から一定間隔を隔てて配設された螺旋フープ筋と、上記既設柱と螺旋フープ筋の隙間に吹き付けによって充填されたモルタルとを備え、上記螺旋フープ筋は、複数本1組で互いに結束線によって束ねられ、この螺旋フープ筋に接して立設した添え筋に上記結束線によって固定され、これらの束を繋ぐ螺旋フープ筋の部分によって33mm以上の間隔を隔てて配設されている。従って、螺旋フープ筋の配置を高密度にして既設柱に加わりうる大きな荷重を良好な変形性能でもって担うことができるとともに、螺旋フープ筋の束相互に大きな隙間を確実に確保でき、この隙間からモルタルを容易に充填することができる。
【0024】
請求項2の既設柱の耐震補強構造は、上記螺旋フープ筋が、JIS G 3137で規定する公称径が12.6mm以下の細径異形PC鋼棒であるので、降伏点が普通の鉄筋コンクリート用鋼棒よりも数倍高く、既設柱に加わる荷重を小さい合計断面積で担うことができるから、螺旋フープ筋の所要重量を大幅に低減して施工の軽量化を図れるうえ、許容最大剪断応力が大きくなって、確実に弾性変形範囲内で巻き付けができ、巻き付けの際に生じる最大剪断応力,即ち巻付けに要する力が小さくなって、施工が容易にでき,かつ螺旋フープ筋の束相互の隙間が広くなって、モルタルの充填が一層容易にできる。
【0025】
請求項3の既設柱の耐震補強方法は、既設柱の回りにこの既設柱の外周面から一定間隔を隔てて螺旋フープ筋を複数回巻き付け、この巻き付けた螺旋フープ筋の束を複数本1組で互いに束ねては、この束に連なる上記螺旋フープ筋の部分を上記既設柱に沿って所定間隔だけずらせる作業を繰り返して、上記既設柱の長さ方向全長に亘って複数の螺旋フープ筋の束を上記所定間隔で配置した後、上記既設柱と螺旋フープ筋の隙間にモルタルを充填するので、従来のように輪状のフープ筋を柱に1つずつ外嵌して継目を溶接する必要がないから、欠陥の少ない能率的なフープ筋の施工により既設柱を能率良く強固に補強できるとともに、請求項1で述べたと同じく螺旋フープ筋の配置を高密度にして既設柱に加わりうる大きな荷重を良好な変形性能でもって担うことができるとともに、螺旋フープ筋の束相互の隙間を大きくでき、この隙間からモルタルを容易に充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 モルタル施工前の本発明の既設柱の耐震補強構造の一例を示す斜視図およびb−b線に沿う断面図である。
【図2】 図1(A)の矢印IIから見た一部破断正面図である。
【図3】 モルタル施工後の上記耐震補強構造の一例のa−a線に沿う縦断面図および横断面図である。
【図4】 本発明の既設柱の耐震補強方法の一例を順に示す斜視図である。
【図5】 従来の耐震補強工法の要部をなす螺旋フープ筋の配設方法を示す斜視図および側面図である。
【図6】 上記従来の耐震補強工法を示す平面図,側面図および拡大平面図である。
【符号の説明】
1…螺旋フープ筋、1a…矩形の一隅、1b〜1d…矩形の残る三隅、
1e,1f…螺旋フープ筋の一辺部分、2…結束線、3…目盛、4…仕切板、
5…吹付けガン、31…地下埋設の既設柱、57…モルタル、
58,58a,58b…添え筋。
Claims (3)
- 既設柱の回りにこの既設柱の外周面から一定間隔を隔てて配設された螺旋フープ筋と、
上記既設柱と螺旋フープ筋の隙間に吹き付けによって充填されたモルタルとを備え、
上記螺旋フープ筋は、複数本1組で互いに結束線によって束ねられ、この螺旋フープ筋に接して立設した添え筋に上記結束線によって固定されるとともに、束ねられた螺旋フープ筋の束は、これらの束を繋ぐ上記螺旋フープ筋の部分によって33mm以上の間隔を隔てて配設されていることを特徴とする既設柱の耐震補強構造。 - 請求項1に記載の既設柱の耐震補強構造において、上記螺旋フープ筋は、JIS G 3137で規定する公称径が12.6mm以下の細径異形PC鋼棒であることを特徴とする既設柱の耐震補強構造。
- 既設柱の回りにこの既設柱の外周面から一定間隔を隔てて螺旋フープ筋を複数回巻き付け、この巻き付けた螺旋フープ筋の束を複数本1組で互いに束ねては、この束に連なる上記螺旋フープ筋の部分を上記既設柱に沿って所定間隔だけずらせる作業を繰り返して、上記既設柱の長さ方向全長に亘って複数の螺旋フープ筋の束を上記所定間隔で配置した後、上記既設柱と螺旋フープ筋の隙間にモルタルを充填することを特徴とする既設柱の耐震補強方法。
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