JP3891255B2 - 傾斜板沈降装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、上水道施設等の水処理施設の沈殿池に設置される傾斜板沈降装置に関するものであり、特に空気洗浄の際に発生する気泡により傾斜板に付着したフロックを下方に滑落させて除去することを可能とした傾斜板沈降装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
上水道施設等の水処理施設では、河川等から導かれた原水は不純物凝集工程、沈殿工程、ろ過工程、殺菌工程等の各工程を経て浄水処理される。上記の沈殿工程には、原水中に含まれる不純物を沈殿させて除去するための沈殿池が設けられている。沈殿工程では、不純物凝集工程において形成された不純物の集塊(以下、フロックという)を沈殿池底部に沈殿させることにより、原水に含まれる不純物を除去している。
【0003】
沈殿工程を行う沈殿池には、一般に、傾斜板沈降装置又は傾斜管沈降装置が設けられており、このうち傾斜板沈降装置は多数の傾斜板が並設されて構成されるものである。ここで、沈殿池のフロック除去能力は、表面負荷率、即ち、被処理水の流量を、沈殿池の底面積で割った値で表され、この表面負荷率が小さいほど沈殿池のフロック除去能力が向上する。即ち、沈殿池の底面積が大きいほど沈殿池のフロック除去能力が向上することになる。そして、傾斜板沈降装置は、上述したように、多数の傾斜板を備えていることから、この傾斜板上にフロックを沈殿させることによって沈殿池の底面積を事実上大きくすることができる。したがって、傾斜板沈降装置は沈殿池のフロックの除去能力を大幅に向上させることを可能とするものである。
また、傾斜板沈降装置を沈殿池に設置することにより、沈殿池内の被処理水の流れを静かで一様な流れに整えることができ、偏流によるフロックの巻き上げを防止して、多くのフロックを確実に沈殿池底部に沈降させることが可能となる。
【0004】
図5(a)は従来の傾斜板沈降装置を構成する傾斜板及び補強用部材を示す斜視図である。傾斜板沈降装置は、所定の角度に傾斜した傾斜板11が複数並設されて構成されており、それぞれの傾斜板11の裏面には、離間する2本の補強用部材33が、傾斜板11の一辺と平行になるように固着されている。傾斜板11及び補強用部材33は長方形の平板から形成されている。
【0005】
被処理水はA方向から隣接する2枚の傾斜板11の間の流路に流れ込み、被処理水中を沈降するフロックは傾斜板11の表面上に沈殿する。上述したように、傾斜板11は傾斜して設置されているため、一旦、傾斜板11に沈殿したフロックは傾斜板11の表面上を滑落し、傾斜板11の下端より更に沈降して沈殿池の底部に沈殿する。
【0006】
傾斜板沈降装置によるフロックの沈殿除去作業が進むにつれて、傾斜板には滑落せずに残存するフロックが累積的に付着していくため、該傾斜板を定期的に洗浄することが必要となる。傾斜板の洗浄方法としては空気洗浄による方法があり、この空気洗浄は傾斜板沈降装置の下方で連続する気泡を発生させ、この気泡を傾斜板に当てることにより、該傾斜板に付着したフロックを取り除くものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の傾斜板沈降装置では、図5(b)に示すように、空気洗浄の際に傾斜板沈降装置の下方から供給された気泡は、傾斜板11の裏面に固着された補強用部材33によって上昇が堰き止められ、補強用部材33に沿って傾斜板11の両側11e,11eから気泡が逃げてしまうため、気泡を均一に分散させることができなかった。その結果、該傾斜板の裏面側に対向して並設されている他の傾斜板表面には下向水流が発生しないため、該傾斜板表面に付着するフロックを下方に滑落させることができず、該フロックは上昇する気泡により剥離されて被処理水中に完全に混合してしまっていた。
【0008】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、傾斜板に固着されている補強用部材に孔を設けることにより、空気洗浄により発生した気泡を傾斜板裏面に均一に上昇させることができ、この結果、他の傾斜板の表面に下向水流を発生させて、傾斜板に付着したフロックを下方にスムーズに滑落させて除去することを可能にした傾斜板沈降装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の問題を解決するために、本発明は、複数の傾斜板が所定の間隔に離間して並設され、前記傾斜板の裏面には前記傾斜板を補強するための補強用部材が固着されている傾斜板沈降装置において、前記補強用部材には、前記傾斜板の下方から供給される気泡を通過させるための孔が前記傾斜板に沿って設けられていることを特徴とするものである。
また、本発明の1態様においては、前記補強用部材には、前記傾斜板の下方から供給される気泡を通過させるための孔が所定の間隔で複数設けられている。
【0010】
このように構成した本発明によれば、空気洗浄の際に該傾斜板沈降装置の下方より供給された気泡は、補強用部材に設けられた孔を通過して、該傾斜板裏面の上端まで上昇を続けることができるため、傾斜板裏面の全体には上昇する気泡の流れが均一に発生することが可能となる。その結果、該傾斜板裏面付近の被処理水の密度と、該傾斜板裏面側に対向して並設されている他の傾斜板の表面付近の被処理水の密度とに差異が生じるため、該他の傾斜板の表面には下向水流が生じ、この下向水流により該他の傾斜板表面に付着するフロックを下方に滑落させて除去することが可能となる。
このような、気泡の上昇流及び下向水流は、それぞれの傾斜板に生じるため、傾斜板沈降装置に設置される全傾斜板のフロック除去が可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る傾斜板沈降装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る傾斜板沈降装置が設置された沈殿池全体の概略断面図である。
【0012】
上水道施設等の水処理施設には、沈殿工程を行うための沈殿池2が設けられている。この沈殿池2は、池内の被処理水6の偏流を防ぐとともに、被処理水6の流れに直進性を与えるために横長の造りとなっている。沈殿池2の前端には、不純物凝集工程を経た被処理水6を沈殿池2に導くための流入口3が設けられており、沈殿池内の前方及び後方には整流板4が設けられている。沈殿池内の中央付近には、本発明に係る複数の傾斜板が並設された傾斜板沈降装置1が設置されている。傾斜板に沈殿したフロックは該傾斜板上を滑落し、沈殿池2の底部に堆積していくため、堆泥の空間を確保するために、傾斜板沈降装置1は架台7を介して底面から所定距離の高さに設置されている。沈殿池2の後端には該沈殿工程を経た被処理水6の流出堰5が設けられている。
【0013】
B方向より沈殿池2内に導かれた被処理水6は、沈殿池2の前方及び後方に設けられた整流板4によって、被処理水6の流速が沈殿池内の全断面において一様になるように整流されて池内を流下する。沈降速度の大きいフロックは、傾斜板沈降装置1に流入する前に直接沈殿池底部に沈殿するが、沈降速度の小さいフロックは傾斜板沈降装置1に流入し、傾斜板表面上に沈殿する。傾斜板表面上に沈殿したフロックは該傾斜板表面上を滑落し、沈殿池底面に沈殿する。このようにして、多くのフロックが沈殿池底部及び傾斜板沈降装置1に沈降した後、被処理水6は流出堰5から排水されて、次工程であるろ過池に流入する。
【0014】
次に、本発明に係る傾斜板沈降装置について図2を参照して説明する。
図2(a)は本発明に係る傾斜板沈降装置を構成する傾斜板及び補強用部材の斜視図であり、図2(b)は本発明に係る傾斜板沈降装置に設置されている傾斜板の配置図である。
【0015】
図2(b)に示すように、傾斜板沈降装置は複数の傾斜板11からなり、それぞれの傾斜板11は、沈降するフロックを傾斜板上に沈殿させるために傾斜板表面11aが上方を向くように、水平方向に対して所定の角度θに傾斜した状態で並設されている。なお、傾斜板11の傾斜角度θは、フロックを沈殿させるための面積を確保しつつ、傾斜板表面11aに沈殿したフロックをスムーズに滑落させるために、約60°に設定するのが好ましい。
【0016】
図2(a)に示すように、傾斜板裏面11bには、離間する2本の補強用部材12が、傾斜板11の長手方向の一辺と平行になるように取り付けられている。傾斜板11及び補強用部材12は長方形の平板からなり、補強用部材12には、気泡を通過させるための孔13が所定の間隔で複数設けられている。本発明の実施の形態では、補強用部材12の長さは傾斜板11の長手方向の一辺の長さと同じであるが、必ずしも同じ長さでなくともよい。
【0017】
次に本発明に係る傾斜板沈降装置を空気洗浄した際における本発明の作用について図3を参照して説明する。
図3(a)及び(b)は本発明に係る傾斜板沈降装置を空気洗浄した際の、気泡及びフロックの流れを示した傾斜板の斜視図及び側面図である。
傾斜板沈降装置の下方には、連続する気泡21を発生させる空気洗浄装置24が設けられている。図3(a)に示すように、空気洗浄装置24から発生した気泡21は、傾斜板裏面11bの下端付近に当たった後、傾斜板裏面11bに沿ってC方向に上昇し、各補強用部材12に設けられた孔13を通過して、傾斜板裏面11bの上端に達した後、更に上昇する。このようにして、気泡が一定の間隔で設けられた各々の孔13を通過して上昇することにより、傾斜板裏面11bの裏面に気泡の流れを均一に分散させることが可能となる。
【0018】
また、この傾斜板11の裏面側に対向して設けられている他の傾斜板の表面には、前述したように、D方向に下向水流が生じることから、この下向水流によって傾斜板表面に付着するフロック23はD方向に滑落し除去される。
【0019】
次に本発明に係る傾斜板沈降装置を用いて行った実験例について、図4を参照して説明する。
図4(a)は傾斜板11に補強用部材12が3枚固着されている状態の裏面図であり、図4(b)は図4(a)のIII矢視図であり、図4(c)は図4(a)のII−II線断面図であり、図4(d)は補強用部材に設けられている孔の拡大図を示す。
【0020】
本実験例では、傾斜板11としてW=2000mm、L=214mm、H=1.5mmの平板を使用した。傾斜板11の裏面には3枚の補強用部材12がそれぞれ77mmの間隔で、傾斜板11の長手方向の一辺と平行に固着されている。
【0021】
図4(b)に示すように、それぞれの補強用部材12には、5mm×15mmの横長の孔13が、100mmの間隔で離間して19個設けられている。即ち、長さ2000mmの傾斜板1枚につき、19個×3枚の補強用部材の計57個の孔が設けられている。
【0022】
本実験例では2箇所の沈殿池にて実験を行い、一方の沈殿池では傾斜板11を36000枚設置し、もう一方の沈殿池では傾斜板11を1300枚設置して、傾斜板11を空気洗浄した際の、気泡の流れ及び気泡の流量について観測を行った。その結果、傾斜板11の下方より供給された気泡は、補強用部材12に設けられている計57個の孔を通過して、傾斜板11の裏面の全体に均一に気泡が分散されるのが確認された。また、このときの孔を通過する空気量は3.0l/minであった。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、空気洗浄時に、傾斜板表面に付着したフロックを沈殿池底部にスムーズに滑落させて十分に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明に係る傾斜板沈降装置が設置された沈殿池全体の概略断面図である。
【図2】図2(a)は本発明に係る傾斜板沈降装置を構成する傾斜板及び補強用部材の斜視図であり、図2(b)は本発明に係る傾斜板沈降装置に設置されている傾斜板の配置図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は本発明に係る傾斜板沈降装置を空気洗浄した際における気泡及びフロックの流れを示した傾斜板の斜視図及び側面図である。
【図4】図4(a)は傾斜板に補強用部材が固着されている状態の裏面図であり、図4(b)は図4(a)のIII矢視図であり、図4(c)は図4(a)のII−II線断面図であり、図4(d)は補強用部材に設けられている孔の拡大図である。
【図5】図5(a)は従来の傾斜板沈降装置を構成する傾斜板及び補強用部材を示す斜視図であり、図5(b)は従来の傾斜板沈降装置を空気洗浄した際における気泡の流れを示した図である。
【符号の説明】
1 傾斜板沈降装置
2 沈殿池
3 流入口
4 整流板
5 流出堰
6 被処理水
7 架台
11 傾斜板
11a 傾斜板表面
11b 傾斜板裏面
11e 傾斜板側面
12 補強用部材
13 孔
21 気泡
23 フロック
24 空気洗浄装置
33 従来型補強用部材
Claims (2)
- 複数の傾斜板が所定の間隔に離間して並設され、前記傾斜板の裏面には前記傾斜板を補強するための補強用部材が固着されている傾斜板沈降装置において、前記補強用部材には、前記傾斜板の下方から供給される気泡を通過させるための孔が前記傾斜板に沿って設けられていることを特徴とする傾斜板沈降装置。
- 前記補強用部材には、前記傾斜板の下方より供給される気泡を通過させるための孔が所定の間隔で複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の傾斜板沈降装置。
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