JP3882473B2 - 展示ケース - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、美術館や博物館等で展示物を展示するために好適に使用される展示ケースに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
美術館や博物館において使用される展示ケースでは、通常、外気との空気の流れを遮断してほぼ密閉した展示空間内に展示物を収容し展示するようにしている。これは、外気中には展示物にとって有害な化学物質や塵等が含まれている可能性があるため、展示物が絶えず空気流に曝されていると、展示物が変質、変色するなどの恐れがあるからである。また、展示空間内の湿度環境を一定に保つことも、展示物の変質や錆を防ぐためには重要なことである。このような考えから、展示物の劣化を防止するために、展示物を展示している間においても密閉した展示空間内に空気の流れを作らないようにしているのが通例である。そして、展示物を載せている展示面に調湿剤を置くなどして、展示空間内の調湿を図るようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このような従来の展示ケースでは、展示物を収容してから展示空間を密閉すると上述したような有害物質を含んだ外気を展示空間内に閉じ込めてしまうこととなり、実質的には展示物の劣化を防止することにはなっていないのが現状である。特に、新築の美術館等では、館内の空気に建材から放散されるホルムアルデヒドやその他の酸性及びアルカリ性因子に代表される有害化学物質や塵等が多量に含まれているために、その空気を閉じ込めた展示空間内の展示物に及ぼす悪影響は著しいと考えられる。
【0004】
さらに、展示面に展示物と共に調湿剤を置けば見栄えが悪くなるという不具合も生じることになる。このような不具合を解消するために、展示物を載せる展示床面の一部に多数の貫通孔を具備するパンチングボードを適用しその下方に調湿剤等を配置して、自然に湿度が調整されるようにした構成も考えられる。ところがこのものは、展示面に貫通孔が見えるので外観が低下するため、できるだけ外観を良好に維持するにはパンチングボードにあまり多くの貫通孔を設けることができず、その結果、展示物と調湿剤とが遠く離れるうえに貫通孔が少ないと展示空間内の空気が調湿剤に触れにくくなって効率のよい調湿が行われにくいという問題が生じる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以上のような問題に鑑みて、展示空間内に適度な空気の流れを強制的に作ることで、展示物を劣化させる有害物質を有効に除去して清浄な空気を供給したり有効な調湿が行えるようにした展示ケースを構成することとしている。
【0006】
【発明の実施の形態】
すなわち、本発明の展示ケースは、ガラス板等で包囲され内部に展示物を収容し得る展示空間を設定したケース本体と、前記ケース本体を支持し開閉可能な扉体を設けた基台部とから構成され、前記基台部の内部に、展示空間に密閉状態で連通され展示空間内の空気を強制的に循環させる、伸縮、可撓変形可能なダクト要素を有する循環経路を設けているものとする。
【0007】
このような前提の展示ケースであれば、循環経路を通じて密閉された展示空間内に強制的に空気の流れを作り出すことができるため、例えば循環系路上に然るべき浄化や調湿の手段を設けることで、容易に展示空間内の空気を浄化したり調湿することが可能となる。
【0008】
そして、本発明の展示ケースは、前記循環経路と、その循環経路上に配置され且つ扉体を開けた状態で露出する位置で前記扉体に設けられる調湿手段とを具備し展示空間内の湿度を調整し得る調湿機構を具備してなり、前記調湿手段が、設定湿度に対応して空気に含有される水分を吸収又は放出する着脱可能に設けたカートリッジ式の調湿剤を備えてなることを特徴とする。
すなわち、展示空間内の湿度環境も効率よく調整し得るようにするためには、展示空間内の湿度を調整し得る調湿機構を設け、その調湿機構を、前記循環経路と、その循環経路上に配置される調湿手段とを具備してなるものとしていることが有効である。この場合、特に有用な調湿手段としては、設定湿度に対応して空気に含有される水分を吸収又は放出する調湿剤を備えてなるものが挙げられる。さらに、一定期間使用して劣化した調湿剤を容易に交換できるようにするためには、調湿剤をカートリッジ式のものとして、循環系路上に着脱可能に設けていることが好ましい。
【0009】
また、本発明の展示ケースは、前記循環経路と、その循環経路上に配置され且つ前記扉体を開けた状態で露出する位置に着脱可能に設けられるカートリッジ式のフィルタとを具備し空気を清浄化し得る空気浄化機構を具備が望ましい。
すなわち、展示空間内の空気を循環経路を通じて強制的に展示空間外に引き出し、展示空間内の空気を好適に浄化するためには、展示空間内の空気を清浄化し得る空気浄化機構を設け、その空気浄化機構を、前記循環経路と、その循環経路上に配置されるフィルタとを具備してなるものとしていることが望ましい。このような構成の空気浄化機構を備えたものであれば、フィルタによって塵や有害物質等を除去して清浄な空気としたうえで、循環経路を通じて再び展示空間内に戻すことができるので、展示物が有害物質等に曝される恐れをなくし、その劣化を有効に防止できることとなる。さらに、一定期間使用して劣化したフィルタを容易に交換できるようにするためには、フィルタをカートリッジ式のものとして、循環系路上に着脱可能に設けていることが好ましい。
この場合、空気に含まれる化学物質を極めて有効に除去し得るフィルタとしては、有害物質を吸着し得るケミカルフィルタが挙げられる。
【0010】
ところで、空気の流れが殆どないか緩やかな場合は、展示物の周囲に境界空気層と呼ばれる空気の層が存在しており、展示ケース内ではこの境界空気層によって展示物自体の湿度(水分含有量)等の環境が維持されている。したがって、この境界空気層を剥がすような強い空気流を展示物に当てることは好ましくないため、上記のような構成の展示ケースにあっては、少なくとも展示物の周囲における空気の流れを、所定速度以下に設定していることが望ましい。
【0011】
また、展示物を収容した後、展示空間内の空気を一旦浄化し或いは調湿すればその環境が次に展示空間を開放するまで略一定に保たれ、常時空気を循環させておく必要がないので、空気の循環を開始してから所定時間経過後に空気の流れを自動的に停止するタイマスイッチを設けることが望ましい。なお、前記所定時間は、展示空間の容積等によって適宜決定すればよい。
【0012】
また、展示ケースの具体的な基本構成として、ガラス板等で包囲され内部に展示空間を設定したケース本体と、少なくとも側板及び上面側に展示面を設定した頂板を具備し前記ケース本体を支持する基台部とから構成されるものである場合、循環経路が目立つことのない良好な外観のものとするためには、基台部の内部に循環経路を配置するとともに循環経路と展示空間とを連通させる開口部を設けていることが望ましい。
【0013】
特に、強制的に循環させた空気の流れが展示物に直接当たると展示物の劣化の原因となるため、そのような原因を極力排除するためには、展示空間内において、空気がケース本体の内面側に沿って流れるように構成することが好ましい。
【0014】
また、展示空間と循環経路とを連通する前記開口部として、展示物を見る観覧者から見て目立ちにくいものには、展示面に設けたスリットが挙げられる。
【0015】
その他、展示面に格別のスリットを設けることなく展示ケース本来の構成を有効に利用した開口部には、展示面とケース本体のうち展示空間の側方に位置づけられるガラス面との間に形成される隙間が挙げられる。この場合、展示空間内に均一な空気の流れを形成して展示空間内の環境を略一定に保ち得るようにするためには、その隙間が、前記ガラス面に沿って延びる連続溝であることが好ましい。さらに、狭い隙間に向けて循環経路を適切に接続するには空間的な制約があるが、このような場合でも循環経路を好適に設けるとともに空気の流れが展示物に直接当たりにくいようにするためには、隙間に連通する循環経路の送気口及び吸気口を、前記ガラス面と対向する方向に開口させていることが好ましい。
【0016】
このような展示ケースの場合、特にフィルタや調湿剤の交換等の際に腰を屈めて基台部の内部に潜り込んで作業する等の不具合を解消し、作業効率の向上を図るためには、基台部にその内部を上方に向けて外部に開放し得る開閉可能な扉体を設けていることが好ましい。このようにした場合、例えばその扉体の内側などの扉体を開けた際に外部から作業しやすい部位にフィルタや調湿剤を設けることで、メンテナンス作業の効率化が図られる。この場合、扉体の開閉に伴って循環経路に支障を来さないようにするためには、循環経路を、伸縮自在なジャバラ式のダクト要素によって構成していることが有効である。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
【0018】
(第1実施例)
この実施例の展示ケースA1は、美術館や博物館等で展示物Bを展示する際に使用されるもので、図1に示すように、主として床上に独立して配置される基台部1と、基台部1の上方に設定した展示空間Sを包囲するケース本体2とからなるものであり、基台部1の内部に展示空間Sの空気を循環させて清浄化しあるいは湿度調整するための空気浄化機構X及び調湿機構Yを具備している。
【0019】
まず、基台部1は、図1〜図3に示すように、4枚の側板11と頂板12及び底板13とを箱型に形成してなる中空のもので、頂板12の上面を展示物Bを載せるための展示面12aとしており、下端部にはアジャスタ16や必要に応じてキャスタ等の接地部材を取り付けられるようにしてる。また、側板11のうちの1枚の下端部を図示しない蝶番によって底板13に連結し、開閉可能な扉体11aとしている。なお、基台部1の内部には、展示物Bを出し入れする際にケース本体2を昇降し展示空間Sを開放するための昇降機構等を必要に応じて配置することもできる。そして、前記扉体11aの内側に、ケース本体2の昇降機構や展示空間S内の照明器具等の操作部3を付帯して設け、この操作部3が扉体11aを開けるのに伴って外部に露出され、上方から操作できるようにしている。
【0020】
一方、ケース本体2は、前記展示面12aの周囲に沿って起立させた4枚のガラス板21と、これら各ガラス板21の上端部に略水平な状態で連続させたガラス板22とからなるもので、各ガラス板21、22及び展示面12aとで包囲される空間を展示空間Sとしている。なお、このケース本体2内には、特に図示しないが照明器具等を配置することもできる。
【0021】
しかして、基台部1の内部に設けられた空気浄化機構Xは、図2及び図3に示すように、展示空間Sの空気を吸気する吸気用ダクト要素41と、この吸気用ダクト要素41の終端部41b側に取り付けられ電気的に駆動されるファン43と、ファン43を通じて空気が送られる側に設けたケミカルフィルタ44と、ケミカルフィルタ44を通じて清浄化された空気を展示空間Sに戻す送気用ダクト要素42とから構成され、これら吸気用ダクト要素41の始端部41aから送気用ダクト要素42の終端部41bまでを密閉した空気の循環経路4としている。
【0022】
吸気用ダクト要素41及び送気用ダクト要素42は、共に伸縮可能且つ可撓変形可能なジャバラ式の樹脂製ダクトからなるもので、これら両ダクト要素41、42をそれぞれ展示空間Sに連通させるために、基台部1の頂板12に幅約3〜4mmの一対の開口部たるスリットを貫通して設けて各ダクト要素41、42に対応する側を吸気口14及び送気口15とするとともに、それら吸気口14及び送気口15に吸気用ダクト要素41の始端部41a及び送気用ダクト要素42の終端部42bを下方から取り付けている。また、ファン43は、図示しないタイマスイッチによって所定時間駆動されると自動的に停止するようにしたもので、図1に示すように、そのタイマスイッチの操作ボタン45を、扉体11aに取り付けた操作部3に上方から操作可能に設けている。
【0023】
また、ケミカルフィルタ44は、図2及び図3に示すように、空気中に含まれる殆どの有害な化学物質や塵等を吸着し、その一部を分解し得るものであり、例えば繊維状活性炭をフェルト状に加工したもの(一例として、大阪ガスケミカル株式会社製の商品名「リベノス空気浄化フィルター」等)を使用する。しかして、循環経路4を吸気用ダクト要素41の終端部41bと送気用ダクト要素42の始端部42aとの間で密閉状態を保ったまま前記操作部3の一部を通過させ、このようなケミカルフィルタ44を、操作部3のうち扉体11aを開けた状態で上方に露出する部位に設定したフィルタ取付部31に着脱可能に取り付けている。なお、このケミカルフィルタ44は、カートリッジ内に収容されたのものであって、そのカートリッジごとフィルタ取付部31に着脱できるようにしたものである。
【0024】
さらに、この循環経路4上には、展示空間S内の空気の湿度を調整するための調湿手段Yaを設けている。具体的には、この調湿手段Yaは、循環経路4を空気浄化機構Xと共用して調湿機構Yを構成するものであって、図2及び図3に示すように、展示物Bに対応した湿度(例えば50%等)に水分を吸収又は放出することができる調湿剤を内部に収納した筐体状をなすカートリッジ5からなり、このカートリッジ5を前記ケミカルフィルタ44と送気用ダクト要素42の始端部42aとの間において前記操作部3に設けた調湿剤取付部32に着脱可能に内蔵させている。以上のような構成の空気浄化機構X及び調湿機構Yは、展示空間Sを含めて密閉状態に保たれている。
【0025】
ここで、展示空間S内の空気の浄化及び調湿の手順について説明すると、展示空間Sに展示物Bを収容した後、展示空間Sが密閉されるようにケース本体2を閉じ、図1(想像線)及び図3に示すように基台部1の扉体11aを開ける。この扉体11aの開閉に伴って、両ダクト要素41、42が伸縮、可撓変形し、循環経路4の密閉状態が維持される。そして、展示空間Sの容積に対応した時間(例えば1.5時間等)にタイマスイッチを設定し、扉体11aを閉じてファン43を駆動させ、展示空間S内の空気を強制的に循環させる。その間、吸気口14及び吸気用ダクト要素41を通じて吸引された空気は、図2に矢印で示すように、ケミカルフィルタ44にて有害物質や塵を除去され、さらに調湿剤によって湿度が調整された状態で、清浄な空気として送気用ダクト要素42及び送気口15を経て展示空間Sへと送出される。なお、展示物Bの周囲には、その展示物B自身の湿度等の環境を守っている薄い境界空気層Ba(図2に想像線で示す)があるため、この境界空気層Baを剥がさないように、少なくとも展示物Bに送出された空気が当るところでは、その空気の速度が例えば10cm/秒となるように、ファン43の駆動力を設定する。しかる後、前記設定時間でファン43が停止すると、次回に展示物Bの入れ替えなどで展示空間Sを開放するまでは、展示空間S内の空気が清浄且つ一定湿度に維持される。なお、ケミカルフィルタ44や調湿剤が劣化したり、展示物Bの性質に対応したものと取り替える必要があるときは、扉体11aを開け、フィルタ取付部31からカートリッジごとケミカルフィルタ44を取り外したり調湿剤取付部32から調湿剤をカートリッジ5ごと取り外すなどすることによって、上方から取り替え作業を行う。
【0026】
以上のような構成からなる本実施例の展示ケースA1は、展示空間Sの外部に設けた空気浄化機構Xを密閉状態で展示空間Sに連通し、その空気浄化機構Xを構成する循環経路4を通じて強制的に循環される空気をフィルタたるケミカルフィルタ44によって清浄化する構成を有しているため、展示空間S内の空気に含まれる塵や有害物質の除去及び展示空間Sへの清浄な空気の供給を効率的に行い、展示物Bの劣化を有効に防止することができる。
【0027】
特に、その空気の流れを展示物Bの周囲に存在する境界空気層Baを剥がさない程度の速度以下に設定するようにしているので、展示空間Sに送出される空気によって境界空気層Baが壊れず、展示物Bの周囲の湿度等の環境を維持し、保存状態を良好なものとすることができる。
【0028】
また、循環経路4上に調湿手段Yaを設けて調湿機構Yを構成しているので、空気の清浄化と同時に、空気に含まれる水分を強制的に効率よく調整することができる。そして、この調湿手段Yaを、空気中の水分を設定湿度に対応して吸収または放出する調湿剤を備えたものとしているため、大がかりな設備を設けることなく簡単且つ有効に湿度調整を行うことができる。
【0029】
さらに、フィルタとしては上述のようなケミカルフィルタ44を使用しているため、迅速で有効に有害物質や塵を除去することができる。
【0030】
また、このようなケミカルフィルタ44や調湿剤はいずれもカートリッジ式のものであって、循環経路4上に着脱可能なものであるため、所定期間使用した後劣化すれば、簡単に取り替えることができる。
【0031】
また、この空気浄化機構Xには、ファン43を所定時間経過後に停止させるタイマスイッチを設けているので、常時空気を強制循環させる無駄がなく、低コストで展示空間S内の環境を略一定に維持することができる。
【0032】
さらに、本実施例の展示ケースA1は、ケース本体2とそれを支持する基台部1とからなり島型配置されるタイプのものであり、基台部1に空気浄化機構X等や調湿機構Yを収納して、展示空間Sと循環経路4とを連通する細いスリットからなる吸気口14及び送気口15を基台部1の頂板12に設定した展示面12aに開口しているので、空気浄化機構Xや調湿機構Yを外部から容易に隠し、さらには吸気口14と送気口15とが目立たず、良好な外観を維持することができる。
【0033】
さらにまた、開閉可能な扉体11aを基台部1の側板11に設定し、その扉体11aを開けた際には基台部1の内部が上方に開放されるようにするとともに、扉体11aの内側にフィルタ取付部31及び調湿手段Yを備えた操作部3を付帯して設けているため、ケミカルフィルタ44や調湿手段Yのカセット5の交換作業或いは空気浄化手段Xや照明等操作を立ったままの姿勢で行うことができるので、それら作業や操作を楽に行うことができ、作業効率を有効に高めることにもなる。また、循環経路4をジャバラ式のダクト要素から構成しているので、扉体11aの開閉に伴って伸縮し可撓変形するダクト要素に無理な力がかからず、長期に亘る使用も可能である。
【0034】
(第2実施例)
図4及び図5に示す展示ケースA2は、前記第1実施例の展示ケースA1と同様に基台部110及びケース本体120を有し島型配置されるタイプのものであって、空気浄化機構X1や調湿機構Y1を備えた構成のものである。なお、前記第1実施例と同一構成を有する部位については説明を省略するものとする。
【0035】
基台部110は、4枚の側板111と頂板112とを具備しており、さらに頂板112の上面に展示物Bを載せるべき展示床116を配置している。展示床116の上面に設定した展示面116aは、側板111の上端部111aよりも一段高くなるように設定している。なお、側板11の一部を開閉可能な扉体111aとしてその内側に操作部130を設けている点は、前記第1実施例と同様である。
【0036】
ケース本体120は、展示空間Sの周囲を包囲するように4枚の側面ガラス121及び上面ガラス122から構成され、下端部を開口したもので、その下端部の内側に矩形枠状をなす枠体123を一体的に取り付けて保形性を維持している。この枠体123と側面ガラス121との間にはシール部材124を取り付けて気密性を保つようにしている。また、このケース本体120は、基台部110内に設けた図示しない昇降機構によって下端部の四隅を上下動作可能に支持されており、この昇降機構を駆動することでケース本体120が昇降して展示空間Sを開閉し得るように構成している。そして、基台部110の展示床116よりも一段低い側板111の上端部111aには、略全周に亘ってシール部材117を配置して、ケース本体120を降下させて展示空間Sを閉じた状態においては枠体123と側板111との間に前記シール部材117が挟み込まれることによって展示空間Sの気密性を高めるようにしている。さらに、このようなケース本体120の昇降動作に基台部110が干渉しないようにするために、展示床116と側面ガラス121との間に側面ガラス121に沿って連続する所定広さの連続溝状をなす隙間Tが形成されるように展示床116の大きさを設定している。
【0037】
一方、空気浄化機構X1及び調湿機構Y1は、前記第1実施例と同様に循環経路140を共用している。循環経路140は、樹脂製で伸縮可能且つ可撓変形可能なジャバラ式の吸気用ダクト要素141及び送気用ダクト要素142からなるもので、吸気用ダクト要素141の始端部141a及び送気用ダクト要素142の終端部142bをそれぞれダクトチャンバ145に取り付けている。ダクトチャンバ145は、基台部110内の上端部側において、頂板112の一辺に沿って対向する隅部よりもやや内側に位置づけて側板111と頂板112との間に取り付けた側面視概略L字型をなす中空のものである。そして、その上端部に側方に向けて開口する複数の貫通孔を設けるとともにその貫通孔を通じて前記展示床116と側面ガラス121との間の隙間Tに連通させ、下端部を下方に向けて開口するとともにその部位に吸気用ダクト要素141の始端部141a及び送気用ダクト要素142の終端部142bをそれぞれ取り付けている。また、吸気用ダクト要素141側のダクトチャンバ145における上端部の貫通孔を吸気口145aとするとともに、送気用ダクト要素142側のダクトチャンバ145における貫通孔を送気口145bとしている。すなわち、これらダクトチャンバ145は、前記隙間Tを通じて展示空間Sと循環経路140とを連通させており、隙間Tは、そのための側面ガラス121に沿って展示床116の周囲に形成した開口部を構成するものである。なお、側板111のうちダクトチャンバ145を設けた箇所においては、頂板112との間に若干の空間を設けて吸気口145a及び送気口145bを前記隙間Tに連通させている。
【0038】
しかして、このような循環系路140上において、吸気用ダクト要素141に設けたフィルタ取付部131に前記第1実施例と同様のカートリッジ式のケミカルフィルタ144を着脱可能に取り付けるとともに、吸気用ダクト要素141の終端部141bと送気用ダクト要素142の始端部142aとの間に設けた調湿剤取付部132に、調湿剤を収納したカートリッジ式の調湿手段Y1aを着脱可能に取り付けている。すなわち本実施例においても、ケミカルフィルタ144及び循環経路140によって空気浄化機構X1を構成するとともに、調湿手段Y1a及び循環経路140によって調湿機構Y1を構成しており、循環経路140を空気浄化機構X1と調湿機構Y1とで共用している。また、フィルタ取付部131と調湿剤取付部132との間には、ファン143を設けている。その他、タイマスイッチや扉体111a、操作部130等の具体的構成は第1実施例のものと同様である。
【0039】
このような構成からなる本実施例の展示ケースA2であっても、第1実施例の展示ケースA1と略同様に、操作部130を操作してファン143を作動させることによって展示空間S内の空気は、循環経路140の吸気用ダクト要素141へと吸い込まれ、ケミカルフィルタ144で有害物質や塵が除去されるとともに調湿剤で適切な湿度に調整されて、送気用ダクト要素142を通じて再び展示空間Sへと送り出される。したがって、このような構成によっても展示空間S内の空気を清浄化し適度に調湿することが可能である。
【0040】
特にこの展示ケースA2は、ケース本体120を昇降することによって展示空間Sを開閉するようにしたものであって、その昇降動作に基台部110が干渉しないようにケース本体120の側面ガラス121と基台部110の展示床116との間に形成した連続溝状をなす隙間Tを、展示空間Sと循環経路140とを連通させる開口部として利用しているため、このような展示ケースA2が展示空間Sの開閉のための構成を有効に利用して、外部から目立つことなく空気を循環させることができる。しかもその際、循環経路140の吸気口145a及び送気口145bを、側面ガラス121と対向する方向に開口させたダクトチャンバ145の貫通孔に設定し、前記隙間Tを通じて空気の出し入れを行うようにしているので、設計上空間的な制約がある狭い隙間Tに向けてダクトチャンバ145を介して下方からダクト要素141、142を適切に接続することができる。またこのような構成によって、強制循環される空気は、側面ガラス111に沿って吸い込まれるとともに同じく側面ガラス111に沿って吹き出すこととなるため、展示物Bに空気が直接当たらないようにして、展示物Bの劣化を防止することも容易にできる。
【0041】
なお、本発明は前記各実施例に限られず、フィルタや調湿手段を他の性質を有するものと変更してもよい。また、吸気口や送気口の設定箇所、或いはファンやフィルタ、調湿手段の配置順序などを変更しても構わないし、空気の送出速度は、展示空間の容積やファンの性能、スリットや隙間等の開口部の形状や開口幅等を考慮して決定すればよい。また、本発明は、島型に配置される展示ケースに限らず、建築壁面に隣接して据え置かれる展示ケース等、他の仕様の展示ケースにも適宜循環経路を設定することで適用することができる。
【0042】
その他、各部の具体的構成は、上記実施例に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0043】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したような形態で実施され、以下に記載されるような効果を奏する。
【0044】
すなわち、本発明の展示ケースは、展示空間の外部に、展示空間に密閉状態で連通される循環経路を設けることによって、展示空間内の空気を強制循環させるように構成しているため、循環経路を通じて展示空間内の空気を外部に引き出したうえで、例えば空気の浄化を行ったり調湿を行って展示空間内の環境を望ましい一定の状態に保ち、展示物の劣化を有効に防止することができる。
【0045】
また、その循環経路上に配置されるフィルタを配置して空気浄化機構を形成し、展示空間内の空気を強制的に循環させて空気を清浄化するようにしている場合には、その空気に含まれる塵や有害物質を効率的に除去し、清浄な空気を展示空間内に供給して、展示物の劣化防止を有効に図ることができる。特に、このようなフィルタとしてケミカルフィルタを用いる場合には、ホルムアルデヒドやその他の展示物に悪影響を及ぼす有害物質を有効に除去することができる。さらに、フィルタが循環系路上に着脱可能なカートリッジ式のものであれば、使用の結果劣化したフィルタの交換を容易に行うことができる。
【0046】
また、循環経路上に調湿手段を設けることによって調湿機構を形成している場合には、強制的に循環させた空気が効率よく調整手段を通過するので、湿度環境の調整を行うことも可能であり、循環経路を空気浄化機構と共用すれば調湿と同時に展示空間内の空気を浄化することもできる。この場合は、調湿手段が空気中の水分を設定湿度に対応して吸収または放出する調湿剤を備えたものであれば、湿度の調整を極めて有効且つ簡単なものとすることができる。さらに、調湿剤が循環系路上に着脱可能なカートリッジ式のものであれば、使用の末劣化した調湿剤の交換を簡便に行うことができる。
【0047】
このような構成において、強制的に循環される空気の流れを、例えば展示物の周囲に形成される境界空気層を剥がさない程度の所定速度以下に設定している場合には、境界空気層によって保護される展示物自体の湿度等の環境を良好に維持することができる。
【0048】
また、タイマスイッチを設けて所定時間経過後に自動的に空気の強制循環を停止するように構成すれば、常時空気を強制循環させる無駄を省き、展示空間内の環境を略一定に維持することができる。
【0049】
特に、内部に展示空間を設定したケース本体及びケース本体を支持する基台部とを具備する展示ケースの場合、その基台部に循環経路を配置して、その循環経路と展示空間とを連通する開口部を形成することで、循環経路を開花的に隠すとともに、展示ケースの外観を良好に維持することができる。この場合、空気がケース本体の内面側に沿って流れるように構成すれば、強制的に循環させた空気の流れが展示物に直接当たって展示物が劣化することを有効に防止することができる。
【0050】
特に開口部として、基台部の頂板等に設定した展示面に展示空間と空気の循環経路とを連通する細いスリットを設けている場合には、空気浄化機構や調湿機構を効果的に隠すとともにスリットを目立たせず、展示空間及び展示面の外観を良好に維持しつつ適切な空気の浄化や調湿を行うことができる。
【0051】
また、開口部として、展示面とケース本体のうち展示空間の側方に位置づけられるガラス面との間に形成される隙間を利用する場合には、展示ケースが本来有している構成を有効に利用して空気の浄化や調湿が可能である。この場合、隙間が、ガラス面に沿って連続的に延びる溝であれば、展示空間内に均一な空気の流れを形成して展示空間内の環境を効率的に略一定に保つことができる。さらに、循環経路の送気口及び吸気口を、ガラス面と対向する方向に開口させて前記隙間から空気の出し入れを行うようにすることで、設計上空間的な制約がある狭い隙間に向けて適切に循環経路を接続することができ、さらには空気の流れを展示物に直接当たりにくいように設定することも容易である。
【0052】
特に、このような展示ケースにおいて、上方に開放されるようにした扉体を基台部に設けている場合には、その扉体の内側にフィルタや調湿剤等の取付部を付帯させることで、それらの交換等の作業を上から覗き込むような姿勢で行うことができるので、作業効率を有効に高めることができる。さらに、循環経路をジャバラ式のダクト要素で構成すれば、このダクト要素が扉体の開閉に伴って伸縮するために無理な負担がかからず、長期の使用にも耐え得るものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す斜視図。
【図2】同実施例の内部構造を簡略化して示す模式的な側断面図。
【図3】同扉体を開けた状態を図2に対応して示す模式的な側断面図。
【図4】本発明の第2実施例の内部構造を簡略化して示す模式的な側断面図。
【図5】同実施例を一部省略して示す斜視図。
【符号の説明】
A1、A2…展示ケース
S…展示空間
T…開口部(隙間)
X、X1…空気浄化機構
Y、Y1…調湿機構
Ya、Y1a…調湿手段
1、110…基台部
2、120…ケース本体
4、140…循環経路
11a、111a…扉体
12a、116a…展示面
14、15…開口部{スリット(吸気口、送気口)}
41、42、141、142…ダクト要素(吸気口、送気口)
44、144…フィルタ(ケミカルフィルタ)
145a…吸気口
145b…送気口
Claims (11)
- ガラス板等で包囲され内部に展示物を収容し得る展示空間を設定したケース本体と、前記ケース本体を支持し開閉可能な扉体を設けた基台部とから構成され、前記基台部の内部に、展示空間に密閉状態で連通され展示空間内の空気を強制的に循環させる、伸縮、可撓変形可能なダクト要素を有する循環経路を設け、
前記循環経路と、その循環経路上に配置され且つ扉体を開けた状態で露出する位置で前記扉体に設けられる調湿手段とを具備し展示空間内の湿度を調整し得る調湿機構を具備してなり、
前記調湿手段が、設定湿度に対応して空気に含有される水分を吸収又は放出する着脱可能に設けたカートリッジ式の調湿剤を備えてなることを特徴とする展示ケース。 - 前記循環経路と、その循環経路上に配置され且つ前記扉体を開けた状態で露出する位置に着脱可能に設けられるカートリッジ式のフィルタとを具備し空気を清浄化し得る空気浄化機構を具備している請求項1記載の展示ケース。
- 少なくとも展示物の周囲における空気の流れが、所定速度以下となるように設定していることを特徴とする請求項1又は2記載の展示ケース。
- 空気の循環を開始してから所定時間経過後に空気の流れを自動的に停止するタイマスイッチを具備していることを特徴とする請求項1、2又は3記載の展示ケース。
- ガラス板等で包囲され内部に展示空間を設定したケース本体と、少なくとも側板及び上面側に展示面を設定した頂板を具備し前記ケース本体を支持する基台部とから構成され、基台部の内部に循環経路を配置するとともに、基台部と展示空間との間に循環経路と展示空間とを連通させる開口部を形成していることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の展示ケース。
- 展示空間内において、空気がケース本体の内面側に沿って流れるように構成していることを特徴とする請求項5記載の展示ケース。
- 前記開口部が、展示面に設けたスリットであることを特徴とする請求項5又は6記載の展示ケース。
- 前記開口部が、展示面とケース本体のうち展示空間の側方に位置づけられるガラス面との間に形成される隙間であることを特徴とする請求項5又は6記載の展示ケース。
- 前記隙間が、前記ガラス面に沿って延びる連続溝であることを特徴とする請求項8記載の展示ケース。
- 前記隙間に連通する循環経路の送気口及び吸気口が、前記ガラス面と対向する方向に開口していることを特徴とする請求項8又は9記載の展示ケース。
- 循環経路を、伸縮自在なジャバラ式のダクト要素によって構成していることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の展示ケース。
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