ところで、従来の回転式圧縮機では、上述したように、デッドボリューム(死容積)を少なくするために鏡板部を薄肉に形成する場合は、締結用部材の雄ネジと嵌合穴の雌ネジとが噛み合う長さが不足しないように、嵌合穴を設ける位置を厚肉にするために鏡板部の前面側に凸部を設ける必要があった。このため、鏡板部の加工において凸部を形成する手間が必要となっていた。また、凸部は可動部材と干渉しないように鏡板部の外周寄りの位置に設けられ、それに伴い嵌合穴も鏡板部の外周寄りの位置になるので、吐出弁の長さが必然的に長くなっていた。このため、吐出弁は、剛性を確保するために厚さや幅が比較的大きくなっていた。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするこころは、鏡板部の背面側に吐出弁が固定される回転式圧縮機において、鏡板部を加工する手間を軽減させると共に吐出弁のコンパクト化を図ることにある。
第1の発明は、環状のシリンダ室(41,42)を有するシリンダ(40)と、該シリンダ(40)に対して偏心してシリンダ室(41,42)に収納され、シリンダ室(41,42)を外側シリンダ室(41)と内側シリンダ室(42)とに区画する環状ピストン(45)と、上記シリンダ室(41,42)に配置され、各シリンダ室(41,42)を第1室(41a,42a)と第2室(41b,42b)とに区画するブレード(46)と、前面が該環状ピストン(45)の基端部に連結されて上記シリンダ室(41,42)に面する鏡板部(37)とを備え、上記シリンダ(40)と上記環状ピストン(45)とが相対的に偏心回転運動することによって上記シリンダ室(41,42)内の流体を圧縮する回転式圧縮機(10)を対象とする。そして、上記鏡板部(37)には、上記シリンダ室(41,42)に連通して該鏡板部(37)の背面に開口する吐出通路(51,52)と、該吐出通路(51,52)を開閉する吐出弁(21)とが設けられ、上記吐出弁(21)は締結用部材(22)によって上記鏡板部(37)に固定されており、該締結用部材(22)を挿入するための嵌合穴(26)は、上記鏡板部(37)のうち該鏡板部(37)の厚さ方向から見て環状ピストン(45)と重複する部分に形成されて、該鏡板部(37)の背面に開口している。
第1の発明では、締結用部材(22)を挿入するための嵌合穴(26)が、鏡板部(37)のうち該鏡板部(37)の厚さ方向から見て環状ピストン(45)と重複する部分に形成されて、鏡板部(37)の背面に開口している。嵌合穴(26)が形成されている環状ピストン(45)と重複する部分は、その環状ピストン(45)の高さが加わって厚肉になっている。従来は、締結用部材(22)の雄ネジと嵌合穴(26)の雌ネジとが噛み合う長さが不足しないように、嵌合穴(26)の位置に凸部を設けていた。これに対して、この第1の発明では、嵌合穴(26)を形成するにあたって、締結用部材(22)の雄ネジと嵌合穴(26)の雌ネジとが噛み合う長さが不足しないように鏡板部(37)のうち環状ピストン(45)と重複する厚肉の部分を利用している。従って、嵌合穴(26)を形成するための凸部を設ける必要がない。
第2の発明は、第1の発明において、上記鏡板部(37)の背面側には凹部(25)が形成され、該凹部(25)の底面には上記吐出通路(51,52)と嵌合穴(26)とが開口している。
第2の発明では、デッドボリュームが少なくなるように、吐出通路(51,52)が鏡板部(37)のうち厚みが小さい凹部(25)の底面に開口している。また、嵌合穴(26)も凹部(25)の底面に開口している。ここで、締結用部材(22)の雄ネジと嵌合穴(26)の雌ネジとが噛み合う長さが不足しないように凸部を設ける場合は、凸部と共に嵌合穴(26)の位置も鏡板部(37)の外周寄りになるので、凹部(25)を吐出通路(51,52)付近から外周付近まで形成する必要があった。これに対して、この第2の発明では、鏡板部(37)のうち環状ピストン(45)と重複する部分に嵌合穴(26)を形成するので、嵌合穴(26)の位置が吐出通路(51,52)に近くなる。
第3の発明は、第2の発明において、上記凹部(25)が、上記鏡板部(37)の厚さ方向から見て上記環状ピストン(45)の内側から外側に亘って形成されると共に、該環状ピストン(45)の接線方向に沿って伸長している。
第3の発明では、凹部(25)が環状ピストン(45)の内側から外側に跨って形成されており、しかも該環状ピストン(45)の接線方向に沿って伸長している。つまり、凹部(25)は、鏡板部(37)の厚さ方向から見て環状ピストン(45)と重複する部分の面積が大きくなるように該環状ピストン(45)に沿って形成されている。
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つ発明において、上記嵌合穴(26)が上記鏡板部(37)から上記環状ピストン(45)に亘って形成されている。
第4の発明では、嵌合穴(26)が、鏡板部(37)を貫通して、その裏側に連結された環状ピストン(45)に達するように設けられている。つまり、嵌合穴(26)を形成するにあたって環状ピストン(45)の内部を利用している。
第5の発明は、固定スクロール(39)と可動スクロール(38)とを備え、上記固定スクロール(39)の固定側ラップ(49)と上記可動スクロール(38)の可動側ラップ(48)とが互いに噛み合って圧縮室(41)を形成するスクロール型の回転式圧縮機(10)を対象とする。そして、上記固定スクロール(39)は、上記固定側ラップ(49)が前面に立設されて上記圧縮室(41)に面する鏡板部(37)を備え、上記鏡板部(37)には、上記圧縮室(41)に連通して該鏡板部(37)の背面に開口する吐出通路(51,52)と、該吐出通路(51,52)を開閉する吐出弁(21)とが設けられ、上記吐出弁(21)は締結用部材(22)によって上記鏡板部(37)に固定されており、該締結用部材(22)を挿入するための嵌合穴(26)は、上記鏡板部(37)のうち該鏡板部(37)の厚さ方向から見て固定側ラップ(49)と重複する部分に形成されて、該鏡板部(37)の背面に開口し、該固定側ラップ(49)と重複しない部分に形成されていれば鏡板部(37)における嵌合穴(26)の穴底の部分が変形する程度の深さまで到達している。
第5の発明では、締結用部材(22)を挿入するための嵌合穴(26)が、鏡板部(37)のうち該鏡板部(37)の厚さ方向から見て固定側ラップ(49)と重複する部分に形成されて、鏡板部(37)の背面に開口している。嵌合穴(26)が形成されている固定側ラップ(49)と重複する部分は、その固定側ラップ(49)の高さが加わって厚肉になっている。つまり、この第5の発明では、嵌合穴(26)を形成するにあたって、締結用部材(22)の雄ネジと嵌合穴(26)の雌ネジとが噛み合う長さが不足しないように鏡板部(37)のうち固定側ラップ(49)と重複する厚肉の部分を利用している。従って、嵌合穴(26)を形成するための凸部を設ける必要がない。
第6の発明は、固定スクロール(39)と可動スクロール(38)とを備え、上記固定スクロール(39)の固定側ラップ(49)と上記可動スクロール(38)の可動側ラップ(48)とが互いに噛み合って圧縮室(41)を形成するスクロール型の回転式圧縮機(10)を対象とする。そして、上記固定スクロール(39)は、上記固定側ラップ(49)が前面に立設されて上記圧縮室(41)に面する鏡板部(37)を備え、上記鏡板部(37)には、上記圧縮室(41)に連通して該鏡板部(37)の背面に開口する吐出通路(51,52)と、該吐出通路(51,52)を開閉する吐出弁(21)とが設けられ、上記吐出弁(21)は締結用部材(22)によって上記鏡板部(37)に固定されており、該締結用部材(22)を挿入するための嵌合穴(26)は、上記鏡板部(37)のうち該鏡板部(37)の厚さ方向から見て固定側ラップ(49)と重複する部分に形成されて、該鏡板部(37)の背面に開口し、上記鏡板部(37)から上記固定側ラップ(49)に亘って形成されている。
第6の発明では、嵌合穴(26)が、鏡板部(37)を貫通して、その裏側に連結された固定側ラップ(49)に達するように設けられている。つまり、嵌合穴(26)を形成するにあたって固定側ラップ(49)の内部を利用している。
第7の発明は、第5又は第6の発明において、上記固定側ラップ(49)は、その厚みが変化しており、そのうち厚肉になっている部分に上記嵌合穴(26)が形成されている。
第7の発明では、固定側ラップ(49)の嵌合穴(26)が形成されている部分が厚肉になっている。これにより、固定側ラップ(49)の嵌合穴(26)の周囲の強度が大きくなる。
第8の発明は、第1乃至第7の発明の何れか1つにおいて、上記吐出弁(21)は、上記鏡板部(37)の背面に前面が当接する板状の弁体(18)と、該弁体(18)の変形量を制限する弁押さえ(16)とを備えるリード弁で構成され、上記弁押さえ(16)の基端部を上記締結用部材(22)が貫通している。
第8の発明では、吐出弁(21)が弁押さえ(16)の基端部を貫通する締結用部材(22)によって鏡板部(37)に固定されている。この吐出弁(21)では、弁体(18)がその変形に伴い吐出通路(51,52)が開閉し、弁押さえ(16)が弁体(18)の変形量を制限する。
第9の発明は、第8の発明において、上記吐出通路(51,52)が上記弁体(18)の長手方向に長い長穴状に形成されている。
第9の発明では、吐出通路(51,52)を弁体(18)の長手方向に長い長穴状にしている。弁体(18)の必要幅を小さくすることが可能になる。
第10の発明は、第1乃至第9の発明の何れか1つにおいて、冷凍サイクルを行う冷凍装置の冷媒回路に設けられ、該冷媒回路に冷媒として充填された二酸化炭素を圧縮する。
第10の発明では、回転式圧縮機(10)がシリンダ室(41,42)又は圧縮室(41)で二酸化炭素を圧縮するように構成されている。すなわち、冷媒として二酸化炭素を用いる冷凍サイクルでは、シリンダ室(41,42)又は圧縮室(41)に吸入される低圧冷媒と該シリンダ室(41,42)又は圧縮室(41)から吐出される高圧冷媒との圧力差が大きくなる。このため、回転式圧縮機(10)は、シリンダ室(41,42)又は圧縮室(41)を区画する固定側ラップ(49)や環状ピストン(45)が圧縮時の低圧冷媒と高圧冷媒との圧力差に耐えうるように、一般的なフロン冷媒を用いる場合に比べてその厚みが大きくなっている。従って、嵌合穴(26)が形成される鏡板部(37)と環状ピストン(45)とが重複する部分の幅、又は鏡板部(37)と固定側ラップ(49)とが重複する部分の幅が広くなっている。
本発明では、嵌合穴(26)を形成するにあたって、鏡板部(37)のうち該鏡板部(37)の厚さ方向から見て環状ピストン(45)あるいは固定側ラップ(49)と重複する厚肉の部分を利用することで、嵌合穴(26)を形成するための凸部を設ける必要がなくなるようにしている。従って、鏡板部(37)を加工する手間を軽減させることができる。また、鏡板部(37)のうち環状ピストン(45)あるいは固定側ラップ(49)と重複する部分に嵌合穴(26)を形成する場合は、凸部を設ける場合に比べて、嵌合穴(26)の位置が吐出通路(51,52)に近くなる。従って、凸部を設ける場合に比べて吐出弁(21)の長さが短くなるので、吐出弁(21)は必要となる剛性が小さくなって厚みや幅も小さくなる。よって、吐出弁(21)のコンパクト化を図ることができる。
また、上記第2の発明では、デッドボリュームが少なくするために鏡板部(37)に凹部(25)が設けられている。そして、鏡板部(37)のうち環状ピストン(45)と重複する部分に嵌合穴(26)を形成するので、凸部の位置に嵌合穴(26)を形成する従来の場合に比べて、嵌合穴(26)の位置が吐出通路(51,52)に近くなる。つまり、従来に比べて凹部(25)の面積を小さくすることができる。従って、シリンダ室(41,42)で流体を圧縮する過程で発生する鏡板部(37)の変形を低減させることができるので、鏡板部(37)の変形に伴うシリンダ室(41,42)からの冷媒漏れを低減させることができ、回転式圧縮機(10)の圧縮効率を向上させることができる。
また、上記第3の発明では、凹部(25)が、鏡板部(37)の厚さ方向から見て環状ピストン(45)と重複する部分の面積が大きくなるように該環状ピストン(45)に沿って形成されている。凹部(25)の底面部分の厚みは、その周囲に比べて薄くなっているが、環状ピストン(45)と重複する部分は、その環状ピストン(45)の高さが加わって厚肉になっている。つまり、凹部(25)は、環状ピストン(45)に沿うように形成されて厚みが薄い部分の面積が小さくなっている。よって、シリンダ室(41,42)で流体を圧縮する過程で発生する鏡板部(37)の変形を低減させることができるので、鏡板部(37)の変形に伴うシリンダ室(41,42)からの冷媒漏れを低減させることができ、回転式圧縮機(10)の圧縮効率を向上させることができる。
また、上記第4の発明では、嵌合穴(26)を形成するにあたって環状ピストン(45)の内部を利用することで、嵌合穴(26)が環状ピストン(45)に達するようにしている。これにより、締結用部材(22)の雄ネジと嵌合穴(26)の雌ネジとが噛み合う長さを十分に確保でき、吐出弁(21)を鏡板部(37)により強固に固定することができるようになる。
また、上記第6の発明では、嵌合穴(26)を形成するにあたって固定側ラップ(49)の内部を利用することで、嵌合穴(26)が固定側ラップ(49)に達するようにしている。これにより、締結用部材(22)の雄ネジと嵌合穴(26)の雌ネジとが噛み合う長さを十分に確保でき、吐出弁(21)を鏡板部(37)により強固に固定することができるようになる。
また、上記第7の発明では、固定側ラップ(49)の嵌合穴(26)が形成されている部分が厚肉になって、その周囲の強度が大きくなっている。よって、固定側ラップ(49)の嵌合穴(26)の周囲における破損を防止することができる。また一方で、締結用部材(22)の太さを太くすることができる。この場合、締結用部材(22)の破損を防止することができる。
また、上記第9の発明では、吐出通路(51,52)を弁体(18)の長手方向に長い長穴状にして、弁体(18)の必要幅が小さくなるようにしている。従って、吐出弁(21)のコンパクト化を図ることができる。また、鏡板部(37)に凹部(25)が形成された回転式圧縮機(10)においては、弁体(18)の必要幅が小さくなるので、凹部(25)の必要幅を小さくすることができる。従って、凹部(25)の面積をさらに小さくすることができるので、シリンダ室(41,42)で流体を圧縮する過程で発生する鏡板部(37)の変形をさらに低減させることができる。よって、鏡板部(37)の変形に伴うシリンダ室(41,42)からの冷媒漏れを低減させることができ、回転式圧縮機(10)の圧縮効率をさらに向上させることができる。
また、上記第10の発明では、嵌合穴(26)を形成する部分である鏡板部(37)と環状ピストン(45)とが重複する部分の幅、又は鏡板部(37)と固定側ラップ(49)とが重複する部分の幅が広くなっている。従って、嵌合穴(26)を形成するためのスペースが容易に確保される。また、嵌合穴(26)の周囲の強度が大きくなるので、その嵌合穴(26)の周囲における破損を防止することができる。また一方で、締結用部材(22)の太さを太くすることができる。この場合、締結用部材(22)の破損を防止することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1ついて説明する。実施形態1の圧縮機(10)の縦断面図を図1に示す。この圧縮機(10)は、後述する環状ピストン(45)とシリンダ(40)とが相対的に偏心回転運動することによってシリンダ室(41,42)内の冷媒を圧縮する回転式圧縮機(10)である。この回転式圧縮機(10)は、冷媒として二酸化炭素が充填されて蒸気圧縮冷凍サイクルを行う冷凍装置の冷媒回路に設けられている。この回転式圧縮機(10)は、蒸発器から吸入した冷媒を圧縮して凝縮器へ吐出する。この冷媒回路では、冷凍サイクルの高圧が二酸化炭素の臨界圧力以上になる。
圧縮機(10)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(15)を備えている。このケーシング(15)の内部には、下寄りの位置に圧縮機構(20)が配置され、上寄りの位置に電動機(30)が配置されている。
ケーシング(15)には、その胴部を貫通する吸入管(14)が設けられている。吸入管(14)は、圧縮機構(20)に接続されている。また、ケーシング(15)には、その上部を貫通する吐出管(13)が設けられている。吐出管(13)は、その入口が電動機(30)の上側の空間に開口している。
ケーシング(15)の内部には、上下方向に延びるクランク軸(33)が設けられている。このクランク軸(33)は、主軸部(33a)と偏心部(33b)とを備えている。偏心部(33b)は、クランク軸(33)の下寄りの位置に設けられ、主軸部(33a)よりも大径の円柱状に形成されている。この偏心部(33b)は、その軸心が主軸部(33a)の軸心から所定量だけ偏心している。
圧縮機構(20)は、ケーシング(15)に固定された上部ハウジング(36)と鏡板部である下部ハウジング(37)との間に構成されている。圧縮機構(20)は、図2に示すように、シリンダ(40)と環状ピストン(45)とブレード(46)と揺動ブッシュ(27)とを備えている。環状ピストン(45)の基端部(下端部)は、下部ハウジング(37)の前面(上面)に連結されている(図1参照)。
シリンダ(40)は、外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とを備えている。外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とは、上部が連結部材(47)で連結されて一体になっている(図1参照)。連結部材(47)は、環状ピストン(45)の一端部(上側)に形成され、後述するシリンダ室(41,42)に面している。
外側シリンダ(40a)と内側シリンダ(40b)とは、共に円環状に形成されている。外側シリンダ(40a)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面とは、互いに同一中心上に配置された円筒面になっている。外側シリンダ(40a)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面との間には、環状のシリンダ室(41,42)が形成されている。
内側シリンダ(40b)の内周面には、クランク軸(33)の偏心部(33b)が摺動自在に嵌め込まれている。本実施形態の回転式圧縮機(10)では、環状ピストン(45)が固定されてシリンダ(40)が偏心回転運動を行うことで、該環状ピストン(45)と該シリンダ(40)とが相対的に回転するように構成されている。
環状ピストン(45)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成されている。環状ピストン(45)は、外周面が外側シリンダ(40a)の内周面よりも小径で、内周面が内側シリンダ(40b)の外周面よりも大径に形成されている。環状ピストン(45)は、シリンダ(40)に対して偏心した状態でシリンダ室(41,42)内に収納されている。これにより、環状ピストン(45)がシリンダ室(41,42)を内側と外側とに区画している。環状ピストン(45)の外周面と外側シリンダ(40a)の内周面との間には、外側シリンダ室(41)が形成され、環状ピストン(45)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面との間には、内側シリンダ室(42)が形成されている。なお、この環状ピストン(45)は、この実施形態1の回転式圧縮機(10)が冷媒として二酸化炭素が用いられる冷媒回路に設けられるので、圧縮時の低圧冷媒と高圧冷媒との圧力差に耐えうるように、その厚みが一般的なフロン冷媒を用いる場合より大きくなっている。
環状ピストン(45)とシリンダ(40)とは、環状ピストン(45)の外周面と外側シリンダ(40a)の内周面とが1点で実質的に接する状態(厳密にはミクロンオーダーの隙間があるが、その隙間での冷媒の漏れが問題にならない状態)において、その接点と位相が180°異なる位置で、環状ピストン(45)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面とが1点で実質的に接するようになっている。
ブレード(46)は、環状ピストン(45)の分断箇所を挿通して、外側シリンダ(40a)の内周面から内側シリンダ(40b)の外周面までシリンダ室(41,42)の径方向に延びるように構成されている。ブレード(46)は、外側シリンダ(40a)の内周面と内側シリンダ(40b)の外周面とに固定されている。これによって、ブレード(46)は、上記各シリンダ室(41,42)を第1室である高圧室(圧縮室)(41a,42a)と第2室である低圧室(吸入室)(41b,42b)とに区画している。
揺動ブッシュ(27)は、環状ピストン(45)の分断部(円環の一部分が抜き取られたC型形状の開口部)において、環状ピストン(45)とブレード(46)とを相互に可動に連結している。揺動ブッシュ(27)は、ブレード(46)に対して高圧室(41a,42a)側に位置する吐出側ブッシュ(27a)と、ブレード(46)に対して低圧室(41b,42b)側に位置する吸入側ブッシュ(27b)とから構成されている。吐出側ブッシュ(27a)と吸入側ブッシュ(27b)とは、いずれも断面形状が略半円形で同一形状に形成され、フラット面同士が対向するように配置されている。そして、両ブッシュ(27a,27b)の対向するフラット面の間のスペースがブレード溝(28)を構成している。
このブレード溝(28)には、ブレード(46)が挿入されている。揺動ブッシュ(27a,27b)のフラット面(ブレード溝(28)の両側面)は、ブレード(46)と実質的に面接触している。揺動ブッシュ(27a,27b)の円弧状の外周面は、環状ピストン(45)と実質的に面接触している。揺動ブッシュ(27a,27b)は、ブレード溝(28)にブレード(46)を挟んだ状態で、ブレード(46)がその面方向にブレード溝(28)内を進退するように構成されている。同時に、揺動ブッシュ(27a,27b)は、環状ピストン(45)に対してブレード(46)と一体的に揺動するように構成されている。従って、揺動ブッシュ(27)は、該揺動ブッシュ(27)の中心点を揺動中心としてブレード(46)と環状ピストン(45)とが相対的に揺動可能となり、かつブレード(46)が環状ピストン(45)に対して該ブレード(46)の面方向へ進退可能となるように構成されている。
なお、この実施形態1では両ブッシュ(27a,27b)を別体とした例について説明したが、両ブッシュ(27a,27b)は、一部で連結することにより一体構造としてもよい。
上部ハウジング(36)と下部ハウジング(37)とには滑り軸受けである軸受部(36a,37a)がそれぞれ形成されている。クランク軸(33)は、その軸受部(36a,37a)に回転自在に支持されている。本実施形態1の回転式圧縮機(10)では、クランク軸(33)が圧縮機構(20)を上下方向に貫通している。クランク軸(33)は、上部ハウジング(36)と下部ハウジング(37)とを介してケーシング(15)に保持されている。
下部ハウジング(37)は、シリンダ(40)の一端部(下側)に形成され、前面(上面)がシリンダ室(41,42)に面している。また、下部ハウジング(37)の下側には、マフラー(23)が取り付けられている。下部ハウジング(37)とマフラー(23)との間には、吐出空間(53)が形成されている。また、上部ハウジング(36)と下部ハウジング(37)との外縁部には、吐出空間(53)と圧縮機構(20)の上側の空間とを連通する接続通路(57)が形成されている。
電動機(30)は、ステータ(31)とロータ(32)とを備えている。ステータ(31)は、ケーシング(15)の胴部の内壁に固定されている。ロータ(32)は、ステータ(31)の内側に配置されてクランク軸(33)の主軸部(33a)と連結されており、クランク軸(33)がロータ(32)とともに回転するように構成されている。
クランク軸(33)の下端部には、給油ポンプ(34)が設けられている。この給油ポンプ(34)は、クランク軸(33)の軸心に沿って延びて圧縮機構(20)と連通する給油路(図示省略)と接続されている。そして、給油ポンプ(34)は、ケーシング(15)内の底部に貯留された潤滑油を給油路を通じて圧縮機構(20)の摺動部に供給するように構成されている。
以上の構成において、クランク軸(33)が回転すると、外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)は、ブレード溝(28)の方向(シリンダ室(41,42)の径方向)に進退しながら、揺動ブッシュ(27)の中心点を揺動中心として揺動する。この揺動動作により、シリンダ(40)は、クランク軸(33)に対して偏心しながら回転(公転)運動する(図5(A)から(D)参照)。
また、外側シリンダ(40a)の外側には、吸入空間(6)が形成されている(図1参照)。ケーシング(15)の胴部を貫通する吸入管(14)の出口端は、吸入空間(6)に開口している。また、下部ハウジング(37)には、シリンダ(40)の径方向に延びる吸入通路(7)が形成されている。この吸入通路(7)は、内側シリンダ室(42)から吸入空間(6)に跨って、長穴状に形成されている。吸入通路(7)は、シリンダ室(41,42)の低圧室(41b,42b)と吸入空間(6)とを連通している。また、外側シリンダ(40a)には、吸入空間(6)と外側シリンダ室(41)の低圧室(41b)とを連通する貫通孔(43)が形成され、環状ピストン(45)には、外側シリンダ室(41)の低圧室(41b)と内側シリンダ室(42)の低圧室(42b)とを連通する貫通孔(44)が形成されている。
図3に示すように、下部ハウジング(37)の背面(下面)には、凹部(25)が形成されている。図4に示すように、凹部(25)は、略長方形状に形成されている。凹部(25)は、下部ハウジング(37)の厚さ方向から見てその下部ハウジング(37)の前面に連結された環状ピストン(45)の内側から外側に亘って形成されると共に、その環状ピストン(45)の接線方向に沿って伸長している。つまり、凹部(25)は環状ピストン(45)を跨ぐ領域に形成され、その長手方向が概ね環状ピストン(45)の接線方向と一致している。下部ハウジング(37)における凹部(25)の底面部分の厚みは、その周囲に比べて薄くなっているが、環状ピストン(45)と重なっている部分はその環状ピストン(45)の高さが加わって厚肉になっている。これにより、凹部(25)の厚みが薄い部分の面積が少なくなっている。
下部ハウジング(37)には、シリンダ室(41,42)に連通して凹部(25)の底面に開口する外側吐出通路(51)及び内側吐出通路(52)が設けられている。外側吐出通路(51)と内側吐出通路(52)とは、共に凹部(25)の長手方向に長い長穴状に形成され、凹部(25)の長手方向の一端側(図4において右上側)で下部ハウジング(37)の略径方向に並んで設けられている。外側吐出通路(51)の入口端は外側シリンダ室(41)の高圧室(41a)に開口し、内側吐出通路(52)の入口端は内側シリンダ室(42)の高圧室(42a)に開口している。この両吐出通路(51,52)は、シリンダ室(41,42)の高圧室(41a,42a)と吐出空間(53)とを接続している。
凹部(25)には、共に細長い板状の第1弁体(18a)及び第2弁体(18b)とが設けられている。第1弁体(18a)と第2弁体(18b)とは、基端側が連結部(18d)で連結されている。第1弁体(18a)と第2弁体(18b)とは、その長手方向が共に凹部(25)の長手方向と一致し、その前面が凹部(25)の底面に当接するように配置されている。これらの弁体(18a,18b)の長手方向は、長穴状の吐出通路(51,52)の長手方向とも一致している。弁体(18a,18b)の幅は、吐出通路(51,52)の短手方向の長さよりも若干長くなっている。第1弁体(18a)は、先端側の前面が弁座面である外側吐出通路(51)の出口の周囲に当接するように配置されている。第2弁体(18b)は、先端側の前面が弁座面である内側吐出通路(52)の出口の周囲に当接するように配置されている。なお、第1弁体(18a)と第2弁体(18b)とは、連結部(18d)で連結することなく別体であってもよい。
下部ハウジング(37)には、固定部(19)と第1本体部(17a)と第2本体部(17b)とからなる板状の弁押さえ(16)が設けられている。弁押さえ(16)は、固定部(19)の側面から同じ方向へ2つの本体部(17a,17b)が離れた状態で延びるように形成され、平面視でコ字状になっている。この弁押さえ(16)と上記弁体(18)とは、それぞれ本発明に係る吐出弁(21)を構成している。吐出弁(21)は、リード弁であって、弁体(18)が弾性変形することにより吐出通路(51,52)を開閉するように構成されている。
弁押さえ(16)は、第1本体部(17a)が第1弁体(18a)に重なるように、そして第2本体部(17b)が第2弁体(18b)に重なるように設けられている。弁押さえ(16)の固定部(19)は、両弁体(18a,18b)の基端部の背面に当接している。本体部(17)は、下側へ湾曲した弓状になっており、先端に近づくほどその上面が両弁体(18a,18b)から離れている。第1本体部(17a)は第1弁体(18a)の変形量を制限し、第2本体部(17b)は第2弁体(18b)の変形量を制限している。
凹部(25)の長手方向の他端側(図4において左下側)で下部ハウジング(37)の厚さ方向から見て環状ピストン(45)と重なる位置には、嵌合穴であるボルト穴(26)が凹部(25)の底面から環状ピストン(45)に亘って形成されている。ボルト穴(26)は、凹部(25)の底面部分を貫通して、その裏側に連結された環状ピストン(45)に達している。また、連結部(18d)と弁押さえ(16)の固定部(19)とには、貫通孔がそれぞれ形成されている。締結用部材である固定用ボルト(22)は、これらの貫通孔に挿入されてボルト穴(26)に螺合されている。これにより、弁体(18)と弁押さえ(16)とが凹部(25)に取り付けられている。両弁体(18a,18b)の基端側は、固定部(19)と凹部(25)の底面とに挟み込まれている。なお、ボルト穴(26)は、環状ピストン(45)まで達するようにすると、吐出弁(21)を下部ハウジング(37)により強固に固定することができるが、凹部(25)の底面部分を貫通せずにその凹部(25)の底面部分の厚みの範囲内で形成するようにしてもよい。
−運転動作−
次に、この回転式圧縮機(10)の運転動作について図5を参照しながら説明する。
電動機(30)を起動すると、ロータ(32)の回転がクランク軸(33)を介して圧縮機構(20)の外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)に伝達される。その結果、ブレード(46)が揺動ブッシュ(27a,27b)の間で往復運動(進退動作)を行い、かつ、ブレード(46)と揺動ブッシュ(27a,27b)が一体的となって、環状ピストン(45)に対して揺動動作を行う。そして、外側シリンダ(40a)及び内側シリンダ(40b)が環状ピストン(45)に対して揺動しながら公転し、圧縮機構(20)が所定の圧縮動作を行う。
ここで、外側シリンダ室(41)においては、図5(D)の状態(低圧室(41b)がほぼ最小容積となる状態)からシリンダ(40)が図の右回りに公転することで、吸入通路(7)から低圧室(41b)に冷媒として二酸化炭素が吸入される。同時に、冷媒は、吸入空間(6)から貫通孔(43)を介して低圧室(41b)に吸入される。そして、シリンダ(40)が図5の(A)、(B)、(C)の順に公転して再び図5の(D)の状態になると、上記低圧室(41b)への冷媒の吸入が完了する。
ここで、この低圧室(41b)は、冷媒が圧縮される高圧室(41a)となる一方、ブレード(46)を隔てて新たな低圧室(41b)が形成される。この状態でシリンダ(40)がさらに回転すると、新たに形成された低圧室(41b)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(41a)の容積が減少し、該高圧室(41a)で冷媒が圧縮される。そして、高圧室(41a)の圧力が第1弁体(18a)に作用する背圧を上回ると、第1弁体(18a)が弁押さえ(16)側へ変形して、その先端部が弁座面である外側吐出通路(51)の出口の周囲から離れる。これによって、外側シリンダ室(41)内で圧縮された高圧冷媒が、外側吐出通路(51)を通過して、吐出空間(53)へ吐出される。なお、第1弁体(18a)の変形量は、弁押さえ(16)によって制限されている。
内側シリンダ室(42)においては、図5(B)の状態(低圧室(42b)の容積がほぼ最小となる状態)からシリンダ(40)が図の右回りに公転することで、吸入通路(7)から低圧室(42b)に冷媒が吸入される。同時に、冷媒は、吸入空間(6)から貫通孔(44)を介して低圧室(42b)に吸入される。そして、シリンダ(40)が図5の(C)、(D)、(A)の順に公転して再び図5の(B)の状態になると、上記低圧室(42b)への冷媒の吸入が完了する。
ここで、この低圧室(42b)は、冷媒が圧縮される高圧室(42a)となる一方、ブレード(46)を隔てて新たな低圧室(42b)が形成される。この状態でシリンダ(40)がさらに回転すると、新たに形成された低圧室(42b)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(42a)の容積が減少し、該高圧室(42a)で冷媒が圧縮される。そして、高圧室(42a)の圧力が第2弁体(18b)に作用する背圧を上回ると、第2弁体(18b)が弁押さえ(16)側へ変形して、その先端部が弁座面である内側吐出通路(52)の出口の周囲から離れる。これによって、内側シリンダ室(42)内で圧縮された高圧冷媒が、内側吐出通路(52)を通過して、吐出空間(53)へ吐出される。なお、第2弁体(18b)の変形量は、弁押さえ(16)によって制限されている。
吐出空間(53)へ吐出された冷媒は、接続通路(57)を流通して圧縮機構(20)の上側の空間へ流入し、電動機(30)の周囲に形成される隙間を流通して吐出管(13)から吐出される。
−実施形態1の効果−
この実施形態1では、ボルト穴(26)を形成するにあたって、下部ハウジング(37)のうち該下部ハウジング(37)の厚さ方向から見て環状ピストン(45)と重複する厚肉の部分を利用することで、ボルト穴(26)を形成するための凸部を設ける必要がなくなるようにしている。従って、下部ハウジング(37)を加工する手間を軽減させることができる。また、下部ハウジング(37)のうち環状ピストン(45)と重複する部分にボルト穴(26)を形成する場合は、ボルト穴(26)の位置が下部ハウジング(37)の外周付近にはならない。従って、凸部を設ける場合に比べて、吐出弁(21)の長さが短くなるので、吐出弁(21)は必要となる剛性が小さくなって厚みや幅も小さくなる。よって、吐出弁(21)のコンパクト化を図ることができる。
また、この実施形態1では、デッドボリュームが少なくするために下部ハウジング(37)に凹部(25)が設けられている。そして、下部ハウジング(37)のうち環状ピストン(45)と重複する部分にボルト穴(26)を形成するので、凸部の位置にボルト穴(26)を形成する従来の場合に比べて、ボルト穴(26)の位置が吐出通路(51,52)に近くなる。つまり、従来に比べて凹部(25)の面積を小さくすることができる。従って、シリンダ室(41,42)で冷媒を圧縮する過程で発生する下部ハウジング(37)の変形を低減させることができるので、下部ハウジング(37)の変形に伴うシリンダ室(41,42)からの冷媒漏れを低減させることができ、回転式圧縮機(10)の圧縮効率を向上させることができる。
また、この実施形態1では、吐出通路(51,52)を弁体の長手方向に長い長穴状にして、凹部(25)の必要幅が小さくなるようにしている。従って、凹部(25)の面積をさらに小さくすることができる。
また、凹部(25)の底面の裏側には環状ピストン(45)が連結されているので、凹部(25)の厚みが薄い部分の面積は減少する。しかも、この実施形態1では、凹部(25)は環状ピストン(45)の内側から外側に亘って形成されると共に、その環状ピストン(45)の接線方向に伸長しているので、凹部(25)において環状ピストン(45)と重複する部分の面積は大きくなり、凹部(25)の厚みが薄い部分の面積を減少させることができる。
従って、シリンダ室(41,42)で冷媒を圧縮する過程で発生する下部ハウジング(37)の変形を低減させることができる。よって、下部ハウジング(37)の変形に伴うシリンダ室(41,42)からの冷媒漏れを低減させることができ、この実施形態1の回転式圧縮機(10)では圧縮効率を向上させることができる。
また、この実施形態1では、ボルト穴(26)を形成するにあたって環状ピストン(45)の内部を利用することで、ボルト穴(26)が環状ピストン(45)に達するようにしている。これにより、固定用ボルト(22)の雄ネジとボルト穴(26)の雌ネジとが噛み合う長さを十分に確保でき、吐出弁(21)を下部ハウジング(37)により強固に固定することができるようになる。
また、この実施形態1では、吐出通路(51,52)を第1弁体(18a)や第2弁体(18c)の長手方向に長い長穴状にして、第1弁体(18a)や第2弁体(18c)の必要幅が小さくなるようにしている。従って、吐出弁(21)のコンパクト化を図ることができる。
また、この実施形態1では、ボルト穴(26)を形成する部分である下部ハウジング(37)と環状ピストン(45)とが重複する部分の幅が広くなっている。従って、ボルト穴(26)を形成するためのスペースが容易に確保される。また、ボルト穴(26)の周囲の強度が大きくなるので、そのボルト穴(26)の周囲における破損を防止することができる。また一方で、固定用ボルト(22)の太さを太くすることができる。この場合、固定用ボルト(22)の破損を防止することができる。
−実施形態1の変形例−
実施形態1の変形例について説明する。この変形例では、図6に示すように、下部ハウジング(37)の背面側に凹部(25)が形成されておらず、外側吐出通路(51)及び内側吐出通路(52)とボルト穴(26)とが下部ハウジング(37)の背面に開口している。ボルト穴(26)は、下部ハウジング(37)のうち該下部ハウジング(37)の厚さ方向から見て環状ピストン(45)と重複する部分に、下部ハウジング(37)の背面から環状ピストン(45)に亘って形成されている。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2ついて説明する。実施形態2の圧縮機(10)の縦断面図を図7に示す。この圧縮機(10)は、後述する可動スクロール(38)が固定スクロール(39)に対して公転運動することによって圧縮室(41)内の冷媒を圧縮するスクロール型の回転式圧縮機(10)である。この圧縮機(10)は、冷媒として二酸化炭素が充填されて蒸気圧縮冷凍サイクルを行う冷凍装置の冷媒回路に設けられている。
圧縮機(10)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(15)を備えている。このケーシング(15)の内部には、上寄りの位置に圧縮機構(20)が配置され、下寄りの位置に電動機(30)が配置されている。
ケーシング(15)には、その上部を貫通する吸入管(14)が設けられている。吸入管(14)は、圧縮機構(20)に接続されている。また、ケーシング(15)には、その胴部を貫通する吐出管(13)が設けられている。吐出管(13)は、その入口が圧縮機構(20)と電動機(30)との間の空間に開口している。
ケーシング(15)の内部には、上下方向に延びるクランク軸(33)が設けられている。このクランク軸(33)は、主軸部(33a)と偏心部(33b)とを備えている。主軸部(33a)は、その上端部がやや大径に形成されている。偏心部(33b)は、主軸部(33a)よりも小径の円柱状に形成され、主軸部(33a)の上端面に立設されている。この偏心部(33b)は、その軸心が主軸部(33a)の軸心から所定量だけ偏心している。
電動機(30)の下側には、ケーシング(15)の胴部の下端部に固定される下部軸受部材(12)が設けられている。下部軸受部材(12)の中心部には滑り軸受けが形成されており、この滑り軸受けは主軸部(33a)の下端部を回転自在に支持している。
電動機(30)は、ステータ(31)とロータ(32)とを備えている。ステータ(31)は、ケーシング(15)の胴部の内壁に固定されている。ロータ(32)は、ステータ(31)の内側に配置されてクランク軸(33)の主軸部(33a)と連結されており、クランク軸(33)がロータ(32)とともに回転するように構成されている。
圧縮機構(20)は、偏心運動する可動部材である可動スクロール(38)と、その可動スクロール(38)と共に後述する圧縮室(41,42)を形成する固定部材である固定スクロール(39)と、ハウジング(11)とを備えている。ハウジング(11)は、その中央部が窪んだ比較的厚肉の円板状に形成されており、その外周部がケーシング(15)の胴部の上端部と接合されている。また、ハウジング(11)の中央部には、クランク軸(33)の主軸部(33a)が挿通されている。このハウジング(11)は、クランク軸(33)の主軸部(33a)を回転自在に支持する軸受けを構成している。
可動スクロール(38)は、円板状の鏡板部(56)と、その鏡板部(56)の前面側(上面側)に立設された渦巻き壁状の可動側ラップ(48)と、その鏡板部(56)の背面側(下面側)に突出した円筒状の突出部(35)とを備えている。この可動スクロール(38)は、図外のオルダムリングを介してハウジング(51)の上面に載置されている。また、可動スクロール(38)の突出部(35)には、クランク軸(33)の偏心部(33b)が挿入されている。つまり、可動スクロール(38)は、クランク軸(33)に係合されている。
固定スクロール(39)は、円板状の鏡板部(37)と、その鏡板部(37)の前面側(下面側)に立設された渦巻き壁状の固定側ラップ(49)と、その鏡板部(37)の外周から外側へ連続して形成された比較的厚肉の外周部(29)とを備えている。
図8に示すように、圧縮機構(20)では、固定スクロール(39)の固定側ラップ(49)と、可動スクロール(38)の可動側ラップ(48)とが噛み合わされている。そして、固定側ラップ(49)と可動側ラップ(48)とが互いに噛み合うことによって、複数の圧縮室(41)が形成される。
鏡板部(37)には、圧縮室(41)に連通する吐出通路として1つのメイン通路(51)と2つのバイパス通路(52a,52b)とが設けられている。メイン通路(51)と2つのバイパス通路(52a,52b)とは、鏡板部(37)の背面に開口している。メイン通路(51)は、鏡板部(37)の中心付近に設けられ、その入口端が圧縮機構(20)の最内に形成される圧縮室(41)に開口している。2つのバイパス通路(52a,52b)は、メイン通路(51)を挟んで設けられている。バイパス通路(52a,52b)は、図10において横方向に長い長穴状に形成され、その面積がメイン通路(51)の面積よりも小さくなっている。バイパス通路(52a,52b)は、その入口端がメイン通路(51)よりもやや外側に開口している。
なお、この実施形態2では、鏡板部(37)が比較的薄肉に形成されている。スクロール型の回転式圧縮機では、圧縮室(41)で冷媒を圧縮する過程で鏡板部(37)が変形しても、圧縮室(41)から漏れた冷媒は、固定側ラップ(49)又は可動側ラップ(48)を隔てた隣の圧縮室(41)に移動する。つまり、鏡板部(37)が変形しても、圧縮室(41)から漏れた冷媒が低圧側にまで移動することはない。従って、スクロール型の回転式圧縮機の場合は、鏡板部(37)の変形に伴う冷媒漏れによる圧縮効率の低下が比較的小さい。
鏡板部(37)には、第1弁体(18a)と第2弁体(18b)と第3弁体(18c)とが設けられている。第1弁体(18a)と第2弁体(18b)と第3弁体(18c)とは、連結部(18c)によって連結されている。第1弁体(18a)は、細長い板状でその先端がメイン通路(51)の出口よりもひと回り大きい円形になっている。第2弁体(18b)と第3弁体(18c)とは、細長い板状に形成され、その幅がバイパス通路(52)の短手方向の長さよりも若干長くなっている。これらの弁体(18a,18b,18c)とは、その長手方向がバイパス通路(52)の長手方向と一致し、その前面が鏡板部(37)の背面に当接するように配置されている。第1弁体(18a)は、先端側の前面が弁座面であるメイン通路(51)の出口の周囲に当接するように配置されている。第2弁体(18b)と第3弁体(18c)とは、先端側の前面が弁座面であるバイパス通路(52a,52b)の出口の周囲にそれぞれ当接するように配置されている。
鏡板部(37)には、固定部(19)と第1本体部(17a)と第2本体部(17b)と第3本体部(17c)とからなる板状の弁押さえ(16)が設けられている。弁押さえ(16)は、固定部(19)の側面から同じ方向へ3つの本体部(17a,17b,17c)が離れた状態で延びるように形成され、平面視でヨ字状になっている。この弁押さえ(16)と上記弁体(18)とは、それぞれ本発明に係る吐出弁(21)を構成している。吐出弁(21)は、リード弁であって、弁体(18)が弾性変形することにより吐出通路(51,52)を開閉するように構成されている。
弁押さえ(16)は、第1本体部(17a)が第1弁体(18a)に重なるように、第2本体部(17b)が第2弁体(18b)に重なるように、そして第3本体部(17c)が第3弁体(18c)に重なるように設けられている。弁押さえ(16)の固定部(19)は、全ての弁体(18a,18b,18c)の基端部の背面に当接している。本体部(7a,17b,17c)は、上側へ湾曲した弓状になっており、先端に近づくほどその下面が各弁体(18a,18b,18c)から離れている。第1本体部(17a)は第1弁体(18a)の変形量を制限し、第2本体部(17b)は第2弁体(18b)の変形量を制限し、第3本体部(17c)は第3弁体(18c)の変形量を制限している。
鏡板部(37)のうち鏡板部(37)の厚さ方向から見て固定側ラップ(49)と重なる位置には、2つのボルト穴(26)が鏡板部(37)の背面から固定側ラップ(49)に亘って形成されている。ボルト穴(26)は、図9に示すように、鏡板部(37)を貫通して、その裏側の固定側ラップ(49)に達している。ボルト穴(26,26)は、第1弁体(18a)の基端部と第2弁体(18b)の基端部との間に相当する位置と、第1弁体(18a)の基端部と第3弁体(18c)の基端部との間に相当する位置と形成されている。また、連結部(18d)と弁押さえ(16)の固定部(19)とには、貫通孔が2つずつ形成されている。締結用部材である固定用ボルト(22)は、これらの貫通孔に挿入されてボルト穴(26)に螺合されている。これにより、弁体(18)と弁押さえ(16)とが凹部(25)に取り付けられている。各弁体(18a,18b,18c)の基端側は、固定部(19)と凹部(25)の底面とに挟み込まれている。
−運転動作−
次に、このスクロール型の回転式圧縮機(10)の運転動作について説明する。
電動機(30)を起動すると、ロータ(32)の回転がクランク軸(33)を介して圧縮機構(20)の可動スクロール(38)に伝達される。クランク軸(33)の偏心部(33b)と係合する可動スクロール(38)は、オルダムリングによって案内され、自転することなく公転運動だけを行う。
可動スクロール(38)が公転運動を行うと、低圧のガス冷媒が吸入管(14)を通って可動側ラップ(48)及び固定側ラップ(49)の外周側から圧縮室(41)へ流入する。さらに、可動スクロール(38)が公転運動すると、圧縮室(41)に閉じ込められたガス冷媒が圧縮機構(20)の内側へ徐々に移動し、それに伴い圧縮室(41)の容積が減少してガス冷媒が圧縮されてゆく。そして、圧縮されたガス冷媒がメイン通路(51)の入口端が開口する圧縮機構(20)の内側まで導かれ、そのガス冷媒の圧力が第1弁体(18a)に作用する背圧を上回ると、第1弁体(18a)が弁押さえ(16)側へ変形する。そして、第1弁体(18a)が弁座面であるメイン通路(51)の出口の周囲から離れ、圧縮されて高圧となったガス冷媒がメイン通路(51)を通って圧縮機構(20)の上側の空間へ吐出される。
なお、吐出側と吸入側の圧力比が、固定側ラップ(49)の形状と可動側ラップ(48)の形状から決まる圧縮比を下回ることがある。この時に、圧縮室(41)内のガス冷媒を最後まで圧縮してメイン通路(51)から吐出すると、圧縮しすぎになるので圧縮機構(20)の駆動に用いられる動力が無駄になる。そこで、この回転式圧縮機(10)では、バイパス通路(52a,52b)を形成している。圧縮室(41)に閉じ込められたガス冷媒が圧縮機構(20)の内側へ移動する過程で、圧縮室(41)の内圧が吐出側の圧力を上回ると、第2弁体(18b)や第3弁体(18c)が弁押さえ(16)側へ変形する。これにより、バイパス通路(52a,52b)が開口し、このバイパス通路(52a,52b)からガス冷媒が吐出される。
圧縮機構(20)から吐出されたガス冷媒は、図外の通路を通って圧縮機構(20)の下側の空間へ流入し、その後に吐出管(13)からケーシング(15)外へ吐出される。
−実施形態2の効果−
この実施形態2では、ボルト穴(26)を形成するにあたって、鏡板部(37)のうち該鏡板部(37)の厚さ方向から見て固定側ラップ(49)と重複する厚肉の部分を利用することで、ボルト穴(26)を形成するための凸部を設ける必要がなくなるようにしている。従って、鏡板部(37)を加工する手間を軽減させることができる。また、鏡板部(37)のうち固定側ラップ(49)と重複する部分にボルト穴(26)を形成する場合は、ボルト穴(26)の位置が鏡板部(37)の外周付近にはならない。従って、凸部を設ける場合に比べて、吐出弁(21)の長さが短くなるので、吐出弁(21)は必要となる剛性が小さくなって厚みや幅も小さくなる。よって、吐出弁(21)のコンパクト化を図ることができる。
−実施形態2の変形例1−
実施形態2の変形例1ついて説明する。この変形例1は、可動側ラップ(48)及び固定側ラップ(49)の形状が実施形態2と異なっている。この変形例1の圧縮機構の横断面図を図11に示す。
可動側ラップ(48)は、その厚みが次第に変化しており、内側が厚肉に形成されている。固定側ラップ(49)は、その厚みが次第に変化しており、可動側ラップ(48)よりも全体的に厚肉に形成されている。固定側ラップ(49)のボルト穴(26)が形成されている部分は、厚肉になっている。
この変形例では、固定側ラップ(49)のボルト穴(26)が形成されている部分が厚肉になって、その周囲の強度が大きくなっているので、固定側ラップ(49)のボルト穴(26)の周囲における破損を防止することができる。
−実施形態2の変形例2−
実施形態2の変形例2について説明する。この変形例2では、図12に示すように、鏡板部(37)の背面側に凹部(25)が形成されている。鏡板部(37)は、平面視矩形状に形成され、その底面にはメイン通路(51)とバイパス通路(52a,52b)とボルト穴(26)とが開口している。また、鏡板部(37)には、弁体(18)と弁押さえ(16)とからなる吐出弁(21)が設けられている。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
上記嵌合穴(26)を矩形の穴としてもよい(図13参照)。この場合、上記締結用部材(22)としては、嵌合穴(26)に合致する矩形の嵌合部(22a)が頭部(22b)から突出したピン状の部材が用いられる。弁押さえ(16)を鏡板部(37)に取り付ける際は、締結用部材(22)の頭部(22b)が押込まれてその嵌合部(22a)が嵌合穴(26)に挿入される。なお、
また、嵌合穴(26)を細長い溝状の穴としてもよい。この場合、締結用部材(22)の嵌合部(22a)は板状になる。
また、上記締結用部材(22)は、嵌合部(22a)の先端側が分離して、そのそれぞれに係止部(22c)が形成されるようにしてもよい(図14参照)。上記嵌合穴(26)は、壁面に段差が形成され、底面側が広くなっている。締結用部材(22)を嵌合穴(26)に挿入する際は、分離した嵌合部(22a)がそれぞれ内側に撓むようになっている。締結用部材(22)は、係止部(22c)が段差に引っ掛かることで鏡板部(37)から外れないようになっている。
また、締結用部材(22)を使用せず、弁押さえ(16)の固定部(19)に嵌合部(19a)を設けてもよい。弁押さえ(16)は、嵌合部(19a)を嵌合穴(26)に挿入することで鏡板部(37)に取り付けられる。この場合、図14に示すように、嵌合部(19a)の先端側を分離させて、そのそれぞれに係止部(19c)を設けてもよい。
また、回転式圧縮機(10)を二酸化炭素以外の冷媒を用いる冷媒回路に設けてもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。