JP3875604B2 - 亜鉛基合金の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表層に母層より硬質な合金層が形成された亜鉛基合金の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、Zn−Al−Cu−Mg系合金(所謂、ZAS合金)等の亜鉛基合金は、低融点であるとともに、アルミニウムに比べて酸化の進行が遅く、さらに強度および硬度が低いという性質を有している。このため、亜鉛基合金を鋳造材料として使用し、試作用の金型の他、複雑形状の鍵や鍵シリンダ等が製造されている。
【0003】
ところが、亜鉛基合金の強度や硬度が低いため、金型や鍵等の鋳造品の耐用性が低く、不経済であるという問題が指摘されている。そこで、亜鉛基合金の表面を硬化処理するために、例えば、特許第2832224号公報に開示されている製造方法が知られている。
【0004】
この従来技術では、亜鉛基合金からなる金型の表面に直接無電解ニッケルめっきを施すに際し、前記金型を有機酸ニッケル塩等を含有する無電解ニッケルめっき液に浸漬している。これにより、ニッケル被覆を直接亜鉛基合金に施すため、皮膜剥離が生じることがなく、しかも緻密でクラックの発生がないため、耐摩耗性および耐食性が良好となる、としている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来技術では、亜鉛基合金の表面にめっき層を設けるだけであり、硬化層(めっき層)が表層部のみに限られてしまう。これにより、亜鉛基合金の表層部には、十分な強度、硬度および耐熱性を付与することができないという問題がある。
【0006】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、鋳造性に優れるとともに、表層部に所望の強度、硬度および耐熱性を確実に付与することが可能な亜鉛基合金の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る亜鉛基合金の製造方法では、亜鉛または亜鉛合金の溶湯を用いて鋳造成形を行う際に、少なくとも銅またはマンガンの1種が接種材として前記溶湯に添加される。このため、鋳造成形処理を施された表層は、接種により添加された高強度化金属を介して母層よりも強度、硬度および耐熱性に優れた合金層が設けられる。
【0008】
従って、予め合金層が設けられた亜鉛基合金を所望の形状に加工する場合に比べ、鋳造により容易に成形することができ、良好な成形性を維持することが可能になる。一方、予め銅またはマンガン等の金属を母材金属に混在させた材料を用いて鋳造成形を行う場合に比べ、溶融温度を低下させることができ、エネルギ消費量を有効に低減することが可能になる。
【0009】
また、前記溶湯に接種材の添加を行った後、10秒〜30秒の間で鋳造成形を開始するようにしている。10秒未満では、接種した金属が十分に拡散しないため、必要な硬度が得られない。一方、30秒を超えると、結晶粒が成長して硬度が低下してしまう。
【0010】
さらに、少なくとも銅またはマンガンの粒径が、10μm〜50μmの粉末状である。粒径が10μm未満では、合金化が進行し過ぎて拡散が進み過ぎ、十分な効果が得られない。一方、粒径が50μmを超えると、鋳肌の荒れや欠陥が生じ易くなる。
【0011】
さらにまた、少なくとも銅またはマンガンの粒径が、より好ましくは10μm〜20μmの粉末状であるため、接種した金属を介して合金層の物性の向上が確実に図られる。
【0012】
また、接種材の主体をなす銅の接種量は、亜鉛基合金全体の1重量%〜18重量%である。1重量%未満では、拡散し過ぎて十分な効果が得られない一方、18重量%を超えると、溶湯の冷却が著しくなって鋳造性の低下が惹起される。なお、銅の接種量が3重量%〜7重量%であると、良好な効果が得られる。この範囲では、鋳造物の表面近傍に数mm〜数10mmの深さまで合金化し、亜鉛乃至Zn−Al−Cu−Mg系合金の結晶粒が観測されず、良好な状態となる。
【0013】
さらに、マンガンの接種量は、接種材の3重量%〜30重量%である。3重量%未満では、十分な効果が得られない一方、30重量%を超えると、未反応物が凝集してしまい、物性が低下して欠陥の要因となるおそれがある。
【0014】
上記の亜鉛基合金の製造方法について、より詳細に説明すると、母材金属の主体である亜鉛(Zn)は、その表面および表面近傍を真鍮化することができる。真鍮は、銅(Cu)と亜鉛との合金であり、亜鉛に比べて2倍以上の融点、強度および硬度を有するとともに、耐食性も高い。さらに、銅は、AlやSnとも合金化して青銅を形成する。
【0015】
Cu−Zn合金の機械的性質は、引張強度が1GPaを超えるとともに、硬度がHRC48程度となって、強度および硬度が非常に高いという特徴がある。通常の亜鉛基合金(Zn−Al−Cu−Mg系合金)の強度が200MPa〜250MPaで、硬度がHV110程度であり、Cu−Zn合金とは特性が大きく異なっている。また、青銅でも、亜鉛基合金の1.5倍〜2倍程度の強度および硬度となっている。
【0016】
この場合、銅を母材金属に添加した混合材を用意し、この混合材を溶融して鋳造成形することが考えられる。ところが、銅の添加により融点が上昇してしまい、実際上、亜鉛の融点の2倍以上の高温となり、鋳造性が損なわれるとともに、消費エネルギが増加してしまう。
【0017】
そこで、高強度化金属を接種材として添加することにより、亜鉛基合金の鋳造性の特性を損なわずに、高強度化および高硬度化を図ることが可能になる。その際、銅の接種時にマンガンを同時に添加すると、凝固速度が変化して巣の形成や偏析を減少させることができる。さらに、マンガンは、母材金属やAlの他、添加した銅等とも反応し、合金化するとともに、熱処理により析出させてマンガンが固溶した部材全体を強化することが可能になる。例えば、Zn−Al−Cu−Mg系合金の強度が200MPa〜250MPaであるのに対し、350MPa程度に強度が向上する。
【0018】
これによって、亜鉛基合金は、全体構成が亜鉛または亜鉛合金である一方、表面が銅合金と同様の性質を有しており、機械的性質が約2倍程度に向上する。しかも、表面近傍が銅を主体とする構成となるため、表面に生成され易く接合性や溶接性を妨げていた因子が除去され、接合が容易に行われる。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施形態に係る亜鉛基合金の製造方法により製造(鋳造)された金型等の鋳造品10の断面概略説明図である。
【0020】
鋳造品10は、母層12を設けるとともに、表層に前記母層12より硬質な合金層14が形成される。母層12を構成する母材金属は、亜鉛または亜鉛合金であり、具体的にはZn、Zn−Al、Zn−Sn、またはZn−Al−Cu−Mg系合金が使用される。
【0021】
合金層14は、少なくとも銅(Cu)またはマンガン(Mn)の1種を含有している。この合金層14は、Zn−Cu、Zn−Mn−Cu、Zn−Al−Cu、Zn−Al−Cu−Mn、Zn−Sn−Cu、Zn−Sn−Cu−Mn、Zn−Sn−Al−CuまたはZn−Sn−Al−Mn−Cuから選択された真鍮層を構成する。
【0022】
図2は、鋳造品10を鋳造成形するための鋳造装置20の概略説明図である。
【0023】
鋳造装置20は、亜鉛または亜鉛合金の溶融金属からなる溶湯22を保持する溶湯保持炉24と、この溶湯保持炉24内から所定量(1ショット分)の溶湯22を汲み出す溶湯汲み出し機構26と、前記溶湯汲み出し機構26を構成するラドル27により汲み出された前記溶湯22に接種材28を添加する接種材添加機構30と、前記接種材28を添加した該溶湯22が注湯されて所定の形状に成形する鋳型32とを備える。
【0024】
接種材28は、少なくとも銅またはマンガンの1種、本実施形態では、銅およびマンガンを含有する。銅およびマンガンは、それぞれの粒径が10μm〜50μm、より好ましくは10μm〜20μmの粉末状に構成される。銅の接種量は、亜鉛基合金全体の1重量%〜18重量%に設定されるとともに、マンガンの接種量は、接種材28の3重量%〜30重量%に設定される。
【0025】
このように構成される鋳造品10を製造する方法について、図3に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0026】
まず、図2に示すように、溶湯保持炉24には、亜鉛または亜鉛合金の溶融金属からなる溶湯22が保持されている(ステップS1)。そこで、溶湯汲み出し機構26が駆動される。この溶湯汲み出し機構26では、ラドル27が溶湯保持炉24内に挿入され、このラドル27が傾動することにより1ショット分の溶湯22が該ラドル27により汲み出される(ステップS2)。
【0027】
溶湯22を汲み出したラドル27は、接種材添加機構30の添加位置に移動され、この接種材添加機構30から前記ラドル27内の前記溶湯22に、接種材28が所定量だけ供給される(ステップS3)。溶湯汲み出し機構26は、接種材28の添加を行った後、10秒〜30秒の間で鋳型32の注湯口34に注湯を開始する(ステップS4)。これにより、鋳型32内の図示しないキャビティでは、接種材28が混在された溶湯22が充填され、所定の冷却処理が施されることにより、鋳造品10が得られる(ステップS5)。
【0028】
この場合、本実施形態では、亜鉛または亜鉛合金の溶湯22を用いて鋳造成形を行う際に、銅およびマンガンを含有する接種材28が前記溶湯22に添加される。このため、鋳造成形処理により得られる鋳造品10は、接種により鋳造直前に添加された高強度化金属を介して、表層に母層12よりも強度、硬度および耐熱性に優れた合金層14が設けられる(図1参照)。
【0029】
従って、予め合金層が設けられた亜鉛基合金を所望の形状に加工する場合に比べ、鋳造成形により鋳造品10を容易に成形することができ、良好な成形性を維持することが可能になる。一方、予め銅またはマンガン等の金属を母材金属に混在させた材料を用いて鋳造成形を行う場合に比べ、溶融温度を低下させることができ、エネルギ消費量を有効に低減することが可能になる。
【0030】
また、溶湯22に接種材28の添加を行った後、10秒〜30秒の間で前記溶湯22が鋳型32に注湯される。これにより、溶湯22に接種材28が十分に拡散され、鋳造品10の表層には、表面から数mm〜25mm程度の範囲に合金層14が設けられる。なお、溶湯22の注湯が、接種から10秒未満では、接種した金属(銅および/またはマンガン)が十分に拡散しないため、必要な硬度が得られない。一方、接種から30秒を超えると、結晶粒が成長して硬度が低下してしまう。
【0031】
さらに、銅およびマンガンは、粒径が10μm〜50μmの粉末状である。粒径が10μm未満では、合金化が進行し過ぎて拡散が進み過ぎ、十分な効果が得られない。一方、粒径が50μmを超えると、鋳造品10の鋳肌の荒れや欠陥が生じ易くなる。その際、銅およびマンガンの粒径は、より好ましくは10μm〜20μmであるため、接種した金属を介して合金層14の物性の向上が確実に図られる。
【0032】
さらにまた、接種材28の主体をなす銅の接種量は、母材金属の1重量%〜18重量%である。1重量%未満では、拡散し過ぎて十分な効果が得られない一方、18重量%を超えると、溶湯22の冷却が著しくなって鋳造性の低下が惹起される。なお、銅の接種量が3重量%〜7重量%であると、良好な効果が得られる。この範囲では、鋳造品10の表面近傍に数mm〜数10mmの深さまで合金化し、亜鉛乃至Zn−Al−Cu−Mg系合金の結晶粒が観測されないため、良好な状態となる。
【0033】
さらに、マンガンの接種量は、接種材28の3重量%〜30重量%である。3重量%未満では、十分な効果が得られない一方、30重量%を超えると、未反応物が凝集してしまい、合金層14の物性が低下して欠陥の要因となるおそれがある。
【0034】
なお、本実施形態では、溶湯22を汲み出したラドル27が、接種材添加機構30の添加位置に移動され、この接種材添加機構30から前記ラドル27内の前記溶湯22に接種材28が所定量だけ供給されているが、前記接種材28を、鋳型32に設けられ湯口乃至湯道に連通する鋳型経路に直接供給するようにしてもよい。
【0035】
【実施例】
亜鉛合金としてZn−Al−Cu−Mg系合金(ZAS材)を用い、600℃まで温度を上げて溶湯22が用意された。この溶湯22は、ガス抜き等の処理が施された後、550℃で鋳型32に注湯されるように設定された。
【0036】
まず、接種タイミングを検討するために、時間を溶湯中、ラドル中および注湯中に設定し、それぞれの分散の均質性を観察するとともに、それぞれの効果を検証した(図4参照)。この接種タイミングは、鋳型32の注湯口34に溶湯22が接触する時間を基準とし、接種材28を添加した時間からの秒数でカウントした。
【0037】
接種材28は、銅およびマンガンの粉末混合物であり、鋳造品10を構成する鋳物量全体の5%の量に設定されるとともに、それぞれの粒径が10μm〜20μmの範囲内に設定された。
【0038】
そこで、鋳造装置20により鋳造成形された各試料は、中央断面で切断されて研磨処理および鏡面仕上げ処理が施された後、表面にアルカリ腐食処理が施された。次に、それぞれの結晶組織の変化を観察するとともに、表面から2mmの部位におけるHV硬さを測定した。その結果が、図4に示されている。
【0039】
一方、接種を行わずに試料を鋳造した場合、結晶がデントライド状であるとともに、その粒径が涙滴状であり、長径が600μm〜800μmで、短径が150μm〜200μmであった。また、硬度は、HV110〜120であった。
【0040】
図4から諒解されるように、接種タイミングにより結晶組織の変化が明確に視認されるとともに、その結晶粒径および硬度に差違が発生した。組織変化は、接種タイミングが長くなるのに従ってその層自体が大きくなるものの、添加した接種材28が拡散してしまい、硬度や結晶粒径の向上にはあまり寄与しなかった。一方、接種タイミングが1秒および5秒と短い場合には、接種材28が十分に拡散されず、さらに硬度の向上も図られなかった。
【0041】
また、銅とマンガンは、同時に接種したにも関わらず、それぞれの拡散幅が異なり、マンガンでは、銅に比べて内部に2倍〜3倍まで浸透していた。接種タイミングが30秒の場合においても、その合金化部位が27mm〜30mm程度まで明瞭に確認された。その間の硬度変化は、図5に示されている。
【0042】
以上のことから、接種タイミングは、10秒〜30秒の間が最も好ましく、結晶の微細化が、接種しない場合に比べて1/20に改善されるとともに、硬度が2倍程度に向上した。その際、接種タイミングが10秒の試料と30秒の試料とを引張試験試料とし、表面近傍の結晶変化部位を基準として切り出し測定を行った。この結果、接種しない場合の強度が230MPaであったのに対し、それぞれの強度が480MPa、420MPaと大きく向上した。従って、亜鉛または亜鉛合金の鋳造性を維持しつつ、組織、硬度および強度を改善することが可能であることが実証された。
【0043】
【発明の効果】
本発明に係る亜鉛基合金の製造方法では、亜鉛または亜鉛合金の溶湯を用いて鋳造成形を行う際に、少なくとも銅またはマンガンの1種が接種材として添加されるため、接種により添加された高強度化金属を介して、表層に母層よりも強度、硬度および耐熱性に優れた合金層が設けられる。
【0044】
従って、予め合金層が設けられた亜鉛基合金を所望の形状に加工する場合に比べ、鋳造により容易に成形することができ、良好な成形性を維持することが可能になる。一方、予め銅またはマンガン等の金属を母材金属に混在させた材料を用いて鋳造成形を行う場合に比べ、溶融温度を低下させることができ、エネルギ消費量を有効に低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る亜鉛基合金の製造方法により製造された金型等の鋳造品の断面概略説明図である。
【図2】前記鋳造品の製造方法に使用される鋳造装置の概略説明図である。
【図3】前記鋳造品の製造方法を説明するフローチャートである
【図4】接種タイミングと物性の変化との関係説明図である。
【図5】接種タイミングが30秒の場合において、表面からの距離と硬度変化との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
10…鋳造品 12…母層
14…合金層 20…鋳造装置
22…溶湯 24…溶湯保持炉
26…溶湯汲み出し機構 27…ラドル
28…接種材 30…接種材添加機構
32…鋳型 34…注湯口

Claims (5)

  1. 表層に母層より硬質な合金層が形成された亜鉛基合金の製造方法であって、
    亜鉛または亜鉛合金の溶湯を用いて鋳造成形を行う際に、少なくとも銅またはマンガンの1種を接種材として前記溶湯に添加し、
    前記接種材の添加を行った後、10秒〜30秒の間で鋳造成形を開始することを特徴とする亜鉛基合金の製造方法。
  2. 請求項1記載の製造方法において、少なくとも前記銅またはマンガンの粒径が、10μm〜50μmの粉末状であることを特徴とする亜鉛基合金の製造方法。
  3. 請求項2記載の製造方法において、少なくとも前記銅またはマンガンの粒径が、0μm〜20μmの粉末状であることを特徴とする亜鉛基合金の製造方法。
  4. 請求項1記載の製造方法において、前記銅の接種量は、亜鉛基合金全体の1重量%〜18重量%であることを特徴とする亜鉛基合金の製造方法。
  5. 請求項1記載の製造方法において、前記マンガンの接種量は、前記接種材の3重量%〜30重量%であることを特徴とする亜鉛基合金の製造方法。
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