JP3872539B2 - 高度不飽和脂肪酸エステルに顕著に作用するリパーゼ遺伝子及びそれを用いるリパーゼの製造法 - Google Patents

高度不飽和脂肪酸エステルに顕著に作用するリパーゼ遺伝子及びそれを用いるリパーゼの製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は高度不飽和脂肪酸(以下、PUFAと略す)エステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質の遺伝情報を有するDNA断片、該DNA断片を含有する発現ベクター、該発現ベクターで形質転換された形質転換体及び該形質転換体を培養することによる、PUFAエステルに顕著に作用するリパーゼの製造法に関する。
【0002】
より詳細には、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)3-80株(FERM P-14166)由来のPUFAエステルに顕著に作用するリパーゼをコードする遺伝子のDNA配列、該DNA配列を含む組み換え体DNA及び該組み換え体DNAによって形質転換された宿主菌を培養してリパーゼを製造する方法に関する。
【0003】
【従来の技術】
リパーゼは脂質を加水分解する酵素として、消化薬、臨床検査薬、油脂の加工、洗剤など医薬・食品の分野のみならず、近年は、有機化合物その中でも特に光学活性化合物の不斉合成及び分解等の医薬、食品外の工業分野でも広く利用されている。
【0004】
しかしながら、従来発見されているリパーゼは、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸等のPUFA含有トリグリセリドには、作用し難いと言われている。即ち、既存のリパーゼのPUFA含有油脂に対する作用は、極めて微弱であり、魚油などのPUFA含有油脂の加水分解や改質、PUFAのエステル交換反応、アシドリシス及びアルコリシス等を、既存のリパーゼを用いて効率的に行うことは極めて困難であり、PUFA含有油脂により高い活性を示す新たなリパーゼが求められていた。
【0005】
そこで、本発明者らは、PUFAエステルに顕著に作用するリパーゼについて研究を重ね先にシュードモナス属に属する菌株が産生するリパーゼが、PUFAエステルに顕著に作用し、該リパーゼを用いてPUFA含有油脂およびエステルの分解、改質あるいは調製が可能であることを見いだし、既に特許出願した(特願平7-70589)。
【0006】
しかしながら当該リパーゼの工業的利用をさらに飛躍的に拡大するには、このシュードモナス属菌株のリパーゼの生産性を向上する必要があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、PUFA含有油脂およびエステルの分解、改質あるいは調製が可能である当該リパーゼを効率よく生産し、かつ将来的に基質特異性あるいは熱・有機溶媒に対する安定性等の点でいっそう利用価値の高いものへ誘導することを目的として当該リパーゼ活性を有する蛋白質の遺伝情報を有するDNA断片を提供することである。更に本発明は、PUFA含有油脂に対して顕著に作用するリパーゼに特有の一次構造画分を明らかにし、提供するものである。
【0008】
該DNA断片は、高い生産効率にて高純度のPUFAエステルに顕著に作用するリパーゼ活性をもつ蛋白質を取得するのに有用である。また、本発明は該DNA断片を用いることを特徴とするPUFAエステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質の製造法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記▲1▼〜▲5▼の構成を有する。
▲1▼PUFAエステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質の遺伝情報を有 するDNA断片。
▲2▼前記DNA断片を含有する発現ベクター。
▲3▼前記発現ベクターによって形質転換された形質転換体。
▲4▼前記形質転換体を栄養培地で培養して、得られる培養物からPUFAエステルに 顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質を採取することを特徴とするPU FAエステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質の製造法。
更に、
▲5▼PUFAエステルに顕著に作用する基質特異性の遺伝情報を担うと推定されるアミノ酸配列及び塩基配列。
【0010】
本発明者らは上述したような課題を解決するため、PUFAエステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質をコードする遺伝子のDNA配列について検討した結果、シュードモナス属菌株からPUFAエステルに顕著に作用するリパーゼ遺伝子のクローニングに成功し、該遺伝子のDNA配列を決定することができた。
【0011】
そして、該DNA配列を有する発現ベクターを導入せしめた形質転換体によれば、PUFAエステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質が高い生産効率で製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
▲1▼ リパーゼ遺伝子のクローニング
本発明におけるリパーゼを産生するシュードモナス属細菌の染色体DNAは次のようにして分離することができる。例えば斉藤、三浦の方法[Biochim. Biophys. Acta., 72巻, 619-629(1963)]等、公知の方法を利用して調製することができる。
【0013】
リパーゼ遺伝子のクローニングは、SaikiらのPolymerase Chain Reaction(PCR)法[R. K. Saiki et al., Science, 230, 1350-1354(1985)]を用いて行うことができる。
【0014】
リパーゼ遺伝子のクローニングに用いるプライマーは、シュードモナス属細菌の培養ろ液より精製したリパーゼのN−末端及び内部ペプチドのアミノ酸配列をもとに設計し合成したものを用いることができる。
【0015】
そして、PCR法で得たリパーゼ遺伝子の一部を含むDNA断片をスクリーニング用プローブとして使用することにより、シュードモナス属細菌の染色体DNAライブラリーよりリパーゼ遺伝子を含む組み換え体DNAを得ることができる。
【0016】
リパーゼ遺伝子のDNA配列は、ジデオキシ(dideoxy)法[F. Sanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 74, 5463- (1977)]等の公知の手法にて決定することができる。
【0017】
▲2▼ 大腸菌でのリパーゼの生産
上記のようにして得られたリパーゼ遺伝子を含むDNA断片を大腸菌で複製可能な異種遺伝子の生産用に開発されたプラスミドベクターに導入することにより、リパーゼ遺伝子発現用組み換え体DNAを構築することができる。
【0018】
この様なプラスミドベクターとしてはpBluescreptプラスミド(東洋紡績社製)、pKK223-3プラスミド(ファルマシヤ社製)、pETシステムプラスミド(タカラ社製)などが挙げられる。
【0019】
この様にして、リパーゼ遺伝子発現用組み換え体DNAにて大腸菌JM109株等の宿主大腸菌を塩化カルシウム法等の公知の方法にて形質転換し、リパーゼ生産能を有する組み換え体大腸菌を得た。
【0020】
この組み換え体大腸菌をLB培地等の栄養培地にて培養し、菌体内に可溶性あるいは不溶性の沈殿としてリパーゼを生産する。また、不溶性の沈殿として生産したリパーゼは尿素あるいは塩酸グワニジン等の変性剤にて沈殿を可溶化し、希釈などの手法を用いることによりリパーゼ蛋白質の巻き戻しを行いリパーゼ活性を回復させ、高度に精製されたリパーゼを得ることができる。
【0021】
当該技術分野においては、上述したように操作して得られた配列は、遺伝子コードの縮重により、コードするアミノ酸配列を変えることなく、DNAにおける塩基の1個又は2個以上を他の塩基で置換することができる。
【0022】
これにより、例えば本発明のDNA断片は配列表における配列番号:2に示す塩基配列をそのまま有するもののみならず、それが配列表における配列番号:3に示されるアミノ酸配列を有する酵素若しくはその相同変異体をコードするものである限り、遺伝子コードの縮重に基づいて、塩基の1個又は2個以上が他の塩基の置換されたものも包含する。
【0023】
同様に、特異な基質特異性を示す遺伝情報を担うと推定される配列表の配列番号:4に示す塩基配列又はその一部の塩基配列についても、その縮重においてシュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)における特徴であるPUFAエステルに顕著に作用する性質を有するリパーゼに特有な配列である場合には塩基の1個又は2個以上が他の塩基の置換されたものも包含する。
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
【実施例】
実施例1
▲1▼ 染色体 DNA の調整法
シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)を栄養培地(グリセロール 1%、ポリペプトン 1%、酵母エキス 0.2%、リン酸2カリウム 0.2%、硫酸マグネシウム 0.05%、pH7.0)で、28℃にて35時間好気的に培養する。
【0026】
菌体を集菌後、斉藤、三浦の方法[Biochim. Biophys. Acta., 72巻, 619-629(1963)]を利用して染色体DNAを抽出、精製し、染色体DNA 0.8mgを得た。
【0027】
▲2▼ リパーゼ遺伝子のクローニング
PCR法によるリパーゼ遺伝子のクローニングに使用したプライマーは、図1に示すアミノ酸に対応するDNA配列を選んだ。PCR法は、東洋紡績社製PCR法専用試薬キットを使用し以下の条件で行った。
【0028】
Figure 0003872539
【0029】
Figure 0003872539
【0030】
この様にして増幅したDNA断片を回収し、末端をブランティングキット(東洋紡績社製)を用いて平滑化し、ファージベクターM13mp18(東洋紡績社製)のSmaIサイトにサブクローニングした後、DNAシークエンサー373A[アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製]にてDNA配列を決定し、リパーゼ遺伝子の一部をコードしていることを確認した。
【0031】
次に、PCR法で得られたDNA断片をランダムプライマーDNAラベリングシステム(Amersham社製)を用いて[α-32P]dCTP(Amersham社製)で標識し、これをプローブとして、制限酵素PstIで消化したシュードモナス・フルオレスセンス3-80株染色体DNAに対してサザンハイブリダイゼーション[E. M. Sourthern, J. Mol. Biol., 98, 503(1975)]を行った。
【0032】
その結果、約3.5kbpの位置にプローブに相補的なDNA断片を検出した。次に、シュードモナス・フルオレスセンス3-80株染色体DNAを制限酵素PstIで消化し、アガロースゲル電気泳動を行い、その3.5kbp断片をDNA回収用ガラスパウダーEASYTRAPTM Ver.2(タカラ社製)を用いて回収した。
【0033】
この回収DNA断片をプラスミドベクターpBluscript SK+(東洋紡績社製)のPstI部位に連結し、塩化カルシウム法にて大腸菌JM109株を形質転換した。
【0034】
この形質転換株を50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地にプレーティングし、37℃で一夜培養して得たコロニーに対し、上記サザンハイブリダイゼーションで用いた標識プローブを使ってコロニーハイブリダイゼーション法を用いたスクリーニングを行い、陽性クローンを得た。こうして得られた組み換えプラスミドを図2に示しpLP101とした。
【0035】
▲3▼ 塩基配列の決定
上記組み換えプラスミドpLP101の挿入DNA断片の塩基配列をDNAシークエンサー373[アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製]を使用して決定した。その塩基配列は配列表の配列番号:1に示される。
【0036】
そして、このDNA断片中にリパーゼ遺伝子(配列表の配列番号:2)の含まれることが判明し、推定されるリパーゼのアミノ酸配列は、配列表の配列番号:3に示される。
【0037】
以上の実施例における菌体からのプラスミドの調製、制限酵素などを用いた反応およびDNA断片の処理等の操作は、特に指定されている以外は、モレキュラークローニング ラボラトリーマニュアル セカンドエディション[Molecular Cloning A LABORATORY MANUAL SECOND EDITION, J. Sambrook, E. F. Fritsch, and T. Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]に記載されている方法で行った。
【0038】
なお、リパーゼ活性の測定は、「工業用リパーゼの活性測定法」乳化剤添加法による測定法(B法 、37℃, pH7.0)に準じた。
【0039】
▲4▼ 大腸菌でのリパーゼの生産
前記リパーゼ遺伝子を含むプラスミドpLP101で大腸菌JM109株を形質転換し、得られた形質転換体をアンピシリン100μg/ml、IPTG 0.1mMを含むLB培地にて37℃で10時間振とう培養し、遠心分離により菌体を得、この菌体を超音波破砕装置INSONATOR 201M(KUBOTA社製)にて破砕し、破砕液の遠心上清を可溶部液、沈殿を沈殿部とした。
【0040】
可溶部液のリパーゼ活性は培地当たり4.6u/mlのリパーゼ活性が認められた。次に沈殿部を8M尿素、5%グリセロールを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した後、尿素濃度が1Mとなるように5%グリセロールを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて希釈し、4℃にて一晩ゆっくり攪拌した。
【0041】
この溶液を5%グリセロールを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて透析し、限外濃縮して可溶化リパーゼを得た。可溶化リパーゼのリパーゼ活性は培地当たり158u/mlであった。本活性は親株のリパーゼ生産能の約4倍であった。
【0042】
実施例2
本発明のシュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)由来のリパーゼ遺伝子と公知のシュードモナス・フルオレッセンスに同定された菌株より得られたリパーゼ遺伝子を比較する。
【0043】
その結果を図3及び図4に示す。その結果より、シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)由来のリパーゼ遺伝子には、公知のシュードモナス・フルオレッセンスに分類される各種リパーゼ遺伝にには存在しない配列が挿入されていることがわかる。即ち、この挿入されている配列表の配列番号:4に示す塩基配列がPUFAエステルに顕著に作用する遺伝情報を担うDNA配列であると考えられ、アミノ酸配列は配列表の配列番号:5と推定される。
【0044】
尚、公知のシュードモナス・フルオレッセンスに同定された菌株より得られたリパーゼ遺伝子としては各々以下に示したものを比較した。
▲1▼ シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)
▲2▼ シュードモナス・フルオレッセンス B52
[Tan.Y. and Miller K.J., Apppl. Environ. Microbiol., 58,
1402-1407(1992)]
▲3▼ シュードモナス・フルオレッセンス LS107d2
[Loreena A. Johnson, Ifor R. Beacham, Ian C. Macrae, and Miranda
L. Free, Apppl. Environ. Microbiol., 58, 1776-1779(1992)]
▲4▼ シュードモナス・フルオレッセンス SIK W1
[Chung.G.H., Lee Y.P., Jeohn G.H., Yoo D.J., and Rhee J.S.,
Agric. Biol. Chem., 55, 2359-2365(1991)]
【0045】
実施例3
実施例2で述べたように、シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)に特有に挿入されている配列がリパーゼの性質にどのような影響を示すかについて検討した。
【0046】
即ち、他のリパーゼに欠失したDNA領域を持たない本酵素の変異型DNA断片を得るために、本リパーゼ蛋白質のN末端側とC末端側のDNA配列をそれぞれPCR法を用いて合成し、それらを連結することにより変異型リパーゼDNA断片を得た。
【0047】
リパーゼ遺伝子を含むPatI断片3.5kbpを鋳型として図6に示すセンスプライマー1とアンチセンスプラオマー1及びセンスプライマー2とアンチセンスプライマー2のそれぞれを実施例1のPCR条件にて増幅させ、Original TA Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いてpCRTMIIベクターにクローニングし、それぞれの挿入DNA断片約1.2kbpと約0.3kbpの塩基配列をDNAシークエンサー373A(アプライド・バイオシステムズ社製)を使用して決定し、目的とするDAN断片が挿入されていることを確認した。
【0048】
そして、センスプライマー1とアンチセンスプライマー1で増幅しpCRTMIIベクターにクローニングしたDNA断片をSspIとEcoRI、センスプライマー2とアンチセンスプライマー2で増幅しpCRTMIIベクターにクローニングしたDNA断片をScaIとSalIでそれぞれ消化し、アガロースゲル電気泳動して分離し、それぞれのDNA断片をDNA回収用ガラスパウダーEASYTRAPTM Ver.2(タカラ社製)を用いて回収、EcoRI、SalIで消化し脱リン酸化したpUC18ベクターとの3断片をDNAライゲーションキット(タカラ社製)にて連結した。
【0049】
こうして得られた変異型リパーゼ遺伝子を含むプラスミドをpLPD101とし、挿入DNA断片約1.5kbpの塩基配列をDNAシークエンサー373Aを使用して決定し、配列番号:6に示す塩基配列を確認した。
【0050】
そして、このプラスミドpLPD101を用いて大腸菌JM109株を形質転換し、実施例1と同様の方法にてリパーゼを生産させ可溶化リパーゼを調製した。
【0051】
プラスミドpLPD101を保持する大腸菌JM109株より生産されたリパーゼは実施例1で生産されたリパーゼと比較し、EPAを含有する油脂を加水分解した場合、低加水分解率下においてEPAを遊離する量が減少し、配列番号:5に示したアミノ酸配列に対応する塩基配列を削除することによって、EPAに対する作用性が低下することが明らかとなり、この欠失したアミノ酸配列がリパーゼがPUFAによく作用する為に重要な構造であることがわかった。
【0052】
実施例4
シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)由来の酵素、実施例1記載の組換体より得られた酵素、実施例3記載の組換体より得られた酵素、クロモバクテリウム由来のリパーゼ(Chromobacterium viscosum,旭化成社製)及びシュードモナス由来のリパーゼ(Pseudomonas sp.,商品名:リパーゼ−AK,天野製薬社製)を用いてエステル交換反応について比較した。
【0053】
▲1▼ 固定化リパーゼの調製
精製した各酵素を2000単位/mlになるように10mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて希釈し、この酵素液2mlにセライト545(和光純薬工業社製)2gを加え乳鉢を用いてスラリー状にし、室温にて20時間真空乾燥した。
【0054】
▲2▼ 反応1 水分量の検討
各酵素を用いて同一条件にてトリオレインとEPAエチルエステルとでエステル交換反応を行いエステル交換反応における水分量の影響を調べた。
【0055】
トリオレイン(和光純薬工業社製)100μmole、EPAエチルエステル(日本化学飼料社製)100μmole、固定化リパーゼ100mg、n−ヘキサン3ml、水0,1,3,5,10,30μlをそれぞれ30ml容サンプル瓶(内径2.5cm、高さ5.5cm)にいれ、窒素ガスにて空気を置換後密栓し、30℃にて振盪して(振幅3cm、150ストローク)24時間反応を行った。
【0056】
反応後、反応液の300μlを取りシリカゲル薄層クロマトグラフィー(20cm×20cm、展開溶媒 n−ヘキサン:ジエチルエーテル:ギ酸=80:20:1 V/V)にて展開し、トリグリセリド画分をかきとり10%塩酸−メタノールにてメチルエステル化して、トリグリセリド画分中のEPAの含量をガスクロマトグラフィーにより定量し、トリオレインへのEPAの取り込み量を検討した。ガスクロマトグラフィーの条件は以下のように設定した。
【0057】
装置 :島津GC-17Aガスクロマトグラム
カラム :ULBON HR-SS-10(信和化学社製)0.25mm×50m
カラム温度 :220℃
注入口温度 :250℃
検出器 :FID
キャリアガス:He
【0058】
シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)由来の酵素及び実施例1の組換体より得られた酵素は、どの水分量においてもトリオレインとEPAエチルエステルとではエステル交換反応が非常に速やかに進行した。一方、実施例3記載の組換体より得られた酵素、クロモバクテリウム由来のリパーゼ及びシュードモナス由来のリパーゼの結果では、何れの水分量においてもほとんど反応は進行しなかった。
【0059】
即ち、実施例3の組換体より得られた酵素はPUFAに対する反応性が欠如し、従来のシュードモナス・フルオレッセンス株由来のリパーゼと同様の性質を示すことが確認された。
【0060】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明は、PUFAエステルに顕著に作用するリパーゼを組換えDNA技術により大規模且つ効率的に生産する道を拓くものである。しかも、この発明による形質転換体より生産される酵素は、全アミノ酸配列まで明らかにされた酵素であり、基質特異性あるいは熱・有機溶媒に対する安定性等の点でいっそう利用価値の高いものへ誘導することも可能となる。
【0061】
【配列表】
Figure 0003872539
Figure 0003872539
Figure 0003872539
【0062】
【配列表】
Figure 0003872539
Figure 0003872539
【0063】
【配列表】
Figure 0003872539
Figure 0003872539
【0064】
【配列表】
Figure 0003872539
【0065】
【配列表】
Figure 0003872539
【0066】
【配列表】
Figure 0003872539

【図面の簡単な説明】
【図1】PCR法によるリパーゼ遺伝子のクローニングに使用したプライマーを示す。
【図2】本発明の実施例で得られた組み換えプラスミド(pLP101)の構造を示す。
【図3】シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)由来のリパーゼ遺伝子のDNA配列と公知のシュードモナス・フルオレッセンス菌株より得られたリパーゼ遺伝子のDNA配列とを比較する図である。
【符号の説明】
図中の▲1▼はシュードモナス・フルオレッセンス3-80(FERM P-14166)由来の酵素、▲2▼はシュードモナス・フルオレッセンス B52由来の酵素、▲3▼はシュードモナス・フルオレッセンス LS107d2由来の酵素、▲4▼はシュードモナス・フルオレッセンス SIK W1由来の酵素を示す。
【図4】図3に続き、シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)由来のリパーゼ遺伝子のDNA配列と公知のシュードモナス・フルオレッセンス菌株より得られたリパーゼ遺伝子のDNA配列とを比較する図である。
【符号の説明】
図中の▲1▼はシュードモナス・フルオレッセンス3-80(FERM P-14166)由来の酵素、▲2▼はシュードモナス・フルオレッセンス B52由来の酵素、▲3▼はシュードモナス・フルオレッセンス LS107d2由来の酵素、▲4▼はシュードモナス・フルオレッセンス SIK W1由来の酵素を示す。
【図5】シュードモナス・フルオレッセンス3-80株(FERM P-14166)由来のリパーゼ遺伝子のアミノ酸配列と公知のシュードモナス・フルオレッセンス菌株より得られたリパーゼ遺伝子のアミノ酸配列とを比較する図である。
【符号の説明】
図中の▲1▼はシュードモナス・フルオレッセンス3-80(FERM P-14166)由来の酵素、▲2▼はシュードモナス・フルオレッセンス B52由来の酵素、▲3▼はシュードモナス・フルオレッセンス LS107d2由来の酵素、▲4▼はシュードモナス・フルオレッセンス SIK W1由来の酵素を示す。
【図6】実施例3のPCR法によるリパーゼ遺伝子のクローニングに使用したプライマーを示す。

Claims (6)

  1. 高度不飽和脂肪酸エステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質の遺伝情報を有する配列表の配列番号:2に記載の遺伝子配列又は遺伝子コードの縮重に基づいて、配列表の配列番号:2に記載の遺伝子配列の塩基の1個又は2個以上が他の塩基に置換された遺伝子配列を含むDNA断片。
  2. 高度不飽和脂肪酸エステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質のDNA断片がシュードモナス(Pseudomonas)属由来である請求項1記載のDNA断片。
  3. 配列表の配列番号:3に記載のアミノ酸配列をコードする請求項1または2に記載のDNA断片。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載のDNA断片とそのDNAの発現調節を行う機能を有するDNAとを含有する発現ベクター。
  5. 請求項4に記載の発現ベクターによって形質転換された形質転換体。
  6. 請求項5に記載の形質転換体を栄養培地で培養して、得られる培養物から高度不飽和脂肪酸エステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質を採取することを特徴とする高度不飽和脂肪酸エステルに顕著に作用するリパーゼ活性を有する蛋白質の製造法。
JP06543096A 1996-02-26 1996-02-26 高度不飽和脂肪酸エステルに顕著に作用するリパーゼ遺伝子及びそれを用いるリパーゼの製造法 Expired - Fee Related JP3872539B2 (ja)

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