JP3871028B2 - ワイヤハーネス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤハーネスに関し、さらに詳しくは、ポリ塩化ビニル樹脂の絶縁材料により被覆されたポリ塩化ビニル(PVC)樹脂絶縁電線とハロゲン元素を含まないノンハロゲン系の絶縁樹脂材料により被覆されたハロゲンフリー樹脂絶縁電線とが混在して束ねられたワイヤハーネスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種のワイヤハーネスは、例えば、自動車用あるいは電気・電子機器などの配線に用いられ、一般には複数本の電線が束ねられ、その周囲にテープを巻き付けたものが使用されている。
【0003】
そしてこれに用いられる電線としては、従来よりポリ塩化ビニル(PVC)樹脂の絶縁材料が難燃性に優れ、また耐摩耗性や引張強さ等の機械的特性あるいは柔軟性や加工性等の各種特性を備えることから電線被覆材として一般的に用いられている。
【0004】
一方、近年では、このPVC樹脂がハロゲン元素を含むために自動車の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄処分時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題から、これに代わる絶縁材料としてノンハロゲン系の電線被覆材も開発されてきている。
【0005】
そのノンハロゲン系の電線被覆材としては、代表的なものにハロゲン元素を含まないポリオレフィン系樹脂を主成分としたものが種々提案されており、例えば、本件出願人によるポリオレフィン系樹脂を主成分とするもの、これに酸変性ポリマーを配合したもの、あるいはさらに難燃剤として金属水和物などを配合したものなどが挙げられる。
【0006】
そして実際には、上述のPVC樹脂を電線被覆材とするPVC電線と、ノンハロゲン系樹脂を電線被覆材とするハロゲンフリー電線とが別個に使用されるとは限らず、混在して束ねられて使用されることもある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そのような時に、PVC電線の場合は、PVC樹脂に柔軟性を付与し材料の加工性を改善したり、あるいは材料コストを下げるために、樹脂との混合性も良く、耐水性や電気絶縁性などにも優れた可塑剤が配合されており、老化防止剤が添加されることは一般にはない。
【0008】
一方、ハロゲンフリー電線の場合は、可塑剤を配合することはあまりなく、逆に材料の経時的劣化を阻止するため老化防止剤が添加されることが多い。
【0009】
そのような場合に、PVC電線とハロゲンフリー電線とが混在した状態で束ねられて用いられると、両電線の接触状態において経時的変化としてハロゲンフリー電線の被覆材中の老化防止剤がPVC電線の被覆材中の可塑剤によって抽出され可塑剤に溶け込み、そのためにハロゲンフリー電線側の老化防止剤がPVC絶縁電線側に拡散してハロゲンフリー絶縁電線の被覆材中の老化防止剤が少なくなることによりハロゲンフリー電線の寿命が短くなるという問題が生じた。
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、PVC樹脂絶縁電線とハロゲンフリー樹脂絶縁電線とを混在使用してもハロゲンフリー電線の電線被覆材中の老化防止剤の減少を抑制し、これの寿命延長を図ることでワイヤハーネスとしての安定的かつ恒久的な使用を達成しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するために本発明のワイヤハーネスは、請求項1に記載のように、ポリ塩化ビニル樹脂の絶縁材料で被覆されたポリ塩化ビニル樹脂絶縁電線と、老化防止剤を含んだノンハロゲン系の絶縁材料で被覆されたハロゲンフリー絶縁電線とが混在して束ねられたワイヤハーネスにおいて、ポリ塩化ビニル樹脂絶縁電線の絶縁材料中に老化防止剤が添加されていることを要旨とするものである。
【0012】
これによりポリ塩化ビニル(PVC)樹脂絶縁電線とハロゲンフリー絶縁電線とが混在使用されてもハロゲンフリー電線の電線被覆材に配合される老化防止剤がPVC電線の電線被覆材中へ溶出することが回避され、ハロゲンフリー電線の経時的劣化が阻止される。
【0013】
ここに、ハロゲンフリー絶縁電線の電線被覆材料に使用される樹脂としては、オレフィン系のプロピレンポリマー(ホモポリマーおよびプロピレンランダム又はブロックコポリマー)、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなど)、ポリブテンポリマー、エチレン共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体など)、オレフィン系エラストマー(ポリプロピレン−エチレン/プロピレン共重合体など)、またはこれら共重合体中の不飽和二重結合を水素添加により飽和した共重合体などが好適なものとして挙げられる。これらポリマーは、単独で、または2種以上の混合物として用いることができる。
【0014】
これに難燃剤として水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物等のハロゲンを含まない難燃剤を添加する。さらに老化防止剤を添加し、必要に応じ加工助剤などを添加する。さらには必要に応じ架橋を施し耐熱性を向上させることもある。
【0015】
この場合に請求項2に記載のように、前記ポリ塩化ビニル樹脂絶縁電線の絶縁材料中に添加される老化防止剤の添加量がハロゲンフリー絶縁電線の絶縁材料中の老化防止剤の添加量に対して、10%〜5倍量の範囲とされていることが望ましい。
【0016】
PVC電線の電線被覆材に配合される老化防止剤の添加量がハロゲンフリー電線の電線被覆材に配合される老化防止剤の添加量(X重量%)に対して10%未満であると、ハロゲンフリー電線とPVC電線との混在本数の割合によってPVC電線の本数が多くなった時に、ハロゲンフリー電線からPVC電線側への老化防止剤の溶け込みが進行し易くなり、ハロゲンフリー電線の老化防止性能が損なわれ充分でなくなる。
【0017】
一方、PVC電線中の老化防止剤の添加量がハロゲンフリー電線のそれの5倍量を超える程に多くなると、PVC樹脂そのものの押出特性が悪くなり、PVC電線の安定生産が出来ないという問題が出てくる。
【0018】
この老化防止剤としては、フェノール系その他各種のものがあるが、請求項3に記載のようにPVC電線の絶縁材料に添加されるものは、ハロゲンフリー電線に添加されるものと同種類であることが好ましい。これによりハロゲンフリー電線からPVC電線への老化防止剤の溶出移動が一層効果的に阻止されることとなる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の好適な実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
初めにポリ塩化ビニル(PVC)樹脂絶縁電線(以下、単に「PVC電線」と称する)と、電線被覆材にハロゲン元素を含んでいないハロゲンフリー絶縁電線(以下、単に「ハロゲンフリー電線」と称する)とを合計30本束ね、塩化ビニル(PVC)樹脂テープによりハーフラップ巻きしたものを供試サンプルとして用意することとした。
【0020】
その場合PVC電線とハロゲンフリー電線との本数の比率は、図1に示したように5段階とし、PVC電線の本数:ハロゲンフリー電線の本数が、(1)25本:5本のもの、(2)20本:10本のもの、(3)10本:20本のもの、(4)5本:25本のもの、及び(5)0本:30本のもの(全てがハロゲンフリー電線のもの)を用意した。サンプル長は、いずれも10cmであり、その外観形態は、図2に示した通りである。
【0021】
【実施例1】
PVC電線は、具体的には次のように製作されたものである。すなわち、その断面形態を図3に示したが、直径0.32mmの軟銅線1を7本撚り合わせて外径約1.0mmの銅撚線に形成し、その周囲に絶縁性の電線被覆層2を形成するのに下の表1に示した樹脂組成からなるPVC樹脂材料を2軸混練機で混合温度180℃で混合してペレタイザにてペレット状の組成物としたものを用い、その組成物を押し出し機を用いて上記の銅撚線1の周囲に0.3mm厚さに押し出し加工することにより作成したものである。なお、その際の押し出し温度は、180℃とした。
【0022】
【表1】
【0023】
また、これとは別にPVC電線に老化防止剤を全く含まないもの(0wt%)のものも用意した。作成の手順は上述したPVC電線と同様であるが、表1に示した組成のうち老化防止剤は全く配合されていない。
【0024】
一方、ハロゲンフリー電線は、次のように製作されたものを用いた。すなわち、その断面形態は図3に示したものと同じであるが、直径0.32mmの軟銅線1を7本撚り合わせて外径約1.0mmの銅撚線に形成し、その周囲に下記のハロゲンフリー樹脂材料を2軸混練機で混合温度250℃で混合してペレタイザにてペレット状の組成物として被覆したもので、その組成物を押し出し機を用いて上記の銅撚線の周囲に0.3mm厚さに押し出し加工して電線被覆層2を作成したものである。なお、その際の押し出し温度は、250℃とした。
【0025】
【表2】
【0026】
次にこのようにして製作されたPVC電線の老化防止剤が全く添加されていないもの(0wt%)と1.25wt%添加されているもの、及びハロゲンフリー電線の老化防止剤が1.04wt%添加されているものについて上述したように、図1の5種類の供試サンプルを用意し、それぞれ140℃、120℃、及び100℃の各温度の恒温槽に入れ、一定時間経過後に取り出し、常温まで冷却した後、ハロゲンフリー電線を自己径(そのハロゲンフリー電線と同一径)の電線に巻き付け、クラックが入るまでの時間を測定した。PVC電線については、5種類の供試サンプルがそれぞれ全く老化防止剤が添加されていないもの(比較品)と、表1に示したように老化防止剤が添加されているもの(本実施例品)とについて測定が行われた。
【0027】
そしてクラックが入る最短時間を電線の耐熱性寿命評価法の一つであるアレニウスプロット法により評価することとした。図4は、そのアレニウスプロット法により評価した測定結果を示している。横軸に恒温層の温度(℃)を採り、縦軸にクラックが入る時間(Hr)を採っている。尚、この図4では、上述の5段階の供試サンプルのうち供試サンプル(1)、すなわちPVC電線の本数が25本でハロゲンフリー電線が5本のものについて示している。
【0028】
その結果、この図4よりわかるようにPVC電線の電線被覆材に老化防止剤を配合していないもの(老化防止剤の配合量:0wt%)については、恒温層での加熱温度が140℃、120℃、及び100℃のいずれの場合もハロゲンフリー電線にクラックが入る時間が早く、PVC電線の電線被覆材に老化防止剤を配合したもの(老化防止剤の配合量:1.25wt%)については140℃、120℃、及び100℃のいずれの場合もクラックが入る時間が遅いとの結果になった。
【0029】
そして各温度140℃、120℃、100℃でのクラック発生時間をプロットし、これを直線で結んで10000時間のラインと交わる温度を調べた結果、PVC電線に老化防止剤が添付されていない(0wt%)ものは70℃という値が得られ、PVC電線に老化防止剤が配合されたものは87℃という値が得られた。
【0030】
これによりPVC電線とハロゲンフリー電線とが混在して使用される場合に、PVC電線に老化防止剤を配合することによってハロゲンフリー電線の耐用時間が延び、また比較的高温度(80℃程度以上)での使用にも耐え得ることが確認された。
【0031】
【実施例2】
尚、別の実験として次の表3は、図1の5種類の供試サンプル(1)〜(5)について、PVC電線の電線被覆材に老化防止剤が2wt%配合されているもの(本実施例品)と、老化防止剤が全く配合されていないもの(比較品)とについて、同様の試験を行ったのでその結果をまとめたものである。ハロゲンフリー電線の電線被覆材には老化防止剤が2wt%配合されている。その他の組成は表1及び表2のものと変わりはない。
【0032】
【表3】
【0033】
この表3よりわかるように、PVC電線とハロゲンフリー電線との混在比率が、供試サンプル(1)のようにPVC電線の混在本数が多い程、そのPVC電線の電線被覆材に老化防止剤が配合されていない場合には、ハロゲンフリー電線に早くクラックが入る傾向にあって、アレニウスプロット評価法による10000時間と交わる温度が低くなるという結果になっている。供試サンプル(1)の例でPVC電線に老化防止剤が入っていないと、アレニウスプロット法による10000時間と交わる温度が70℃という結果である。
【0034】
そして本実施例品のようにPVC電線に老化防止剤が同量配合されておれば、たとえ供試サンプル(1)の例でもハロゲンフリー電線の寿命が一定に保たれることを意味している。
【0035】
ちなみに、PVC電線とハロゲンフリー電線との混在本数の割合によりPVC電線の本数が多くなったときを想定すると、例えば、上述の図1に示した供試サンプル(1)の例でPVC電線の本数が25本に対してハロゲンフリー電線の本数が5本であるとして、ハロゲンフリー電線の老化防止剤の配合量が表2に示した1.04wt%であり、PVC電線に配合される老化防止剤の配合量が表1に示した組成において0.1部(0.06wt%)であったとすると、アレニウスプロット評価法による10000時間での温度は74℃となる。これは品質目標とする10000時間での温度80℃以上を満たすものではない。
【0036】
この10000時間での温度80℃以上という目標設定は、例えば、自動車用のワイヤハーネスとしての使用を想定した時に、1日3時間×333日運転/年×10年間=9990時間(運転時間)以上に亘って運転環境温度80℃に耐え得ることを条件としたものである。
【0037】
したがってPVC電線とハロゲンフリー電線の本数の混在比率によってPVC電線の電線被覆材に添加する老化防止剤の添加量を適宜調整することが必要であることがわかる。種々の実験結果よりPVC電線の老化防止剤の添加量は、ハロゲンフリー電線の添加量をXwt%としたときに、その10%量以上であれば、上述の供試サンプル(1)の例のようなPVC電線:ハロゲンフリー電線=25本:5本の使用状態には耐え得ると言える。
【0038】
そして以上の実施例の説明からわかるように、PVC電線とハロゲンフリー電線とが混在してワイヤハーネスとして用いられるときに、PVC電線の電線被覆材に老化防止剤が適正量配合されておれば、ハロゲンフリー電線の経時的な劣化が阻止され、ハロゲンフリー電線の寿命が保たれるものである。したがってこれによりハロゲンフリー電線が環境汚染の問題を回避する電線材料として恒久的安定的使用が確保されることになる。
【0039】
本発明は上記した実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施例では、PVC電線の樹脂組成物、ハロゲンフリー電線の樹脂組成物ともにその一例を示したものであって、それぞれ各種配合組成物のものについて適用される。要するにハロゲンフリー電線の被覆材に配合される老化防止剤がPVC電線側に抽出(溶出、移動)されることのないようにPVC電線の被覆材にも老化防止剤を配合することに本発明の趣旨が存するものである。老化防止剤の配合量はハロゲンフリー電線の樹脂組成によって異なるし、PVC電線との混在本数の比率によっても適正量が変わってくるので適宜調整することが望ましい。
【0040】
【発明の効果】
本発明のワイヤハーネスによれば、PVC樹脂絶縁電線とハロゲンフリー樹脂絶縁電線とが混在して束ねられて用いられる場合に、ハロゲンフリー電線の電線被覆材に配合される老化防止剤がPVC電線の電線被覆材との接触により溶出拡散していかないようにしたものであるからハロゲンフリー電線の恒久的・安定的使用が確保され、エコ材料として開発されたハロゲンフリー電線の利用が一層実効あるものとされるものである。
【0041】
そしてPVC電線の電線被覆材に配合される老化防止剤の添加量がハロゲンフリー電線の添加量に対して、その10%量〜5倍量の間としてあれば、ワイヤハーネス中のPVC電線の混合本数の比率が高くてもハロゲンフリー電線の電線被覆材から老化防止剤が溶出して寿命が短くなるというようなことはなく、またPVC電線の電線被覆材としての押出加工性も損なわれることはなく、生産性の維持が図れるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例としての各種供試サンプルを説明するために示した図である。
【図2】 図1に示した供試サンプルの外観図である。
【図3】 本実施例に適用されるPVC電線及びハロゲンフリー電線の断面形態図である。
【図4】 アレニウスプロット評価法による測定結果を示した図である。
Claims (3)
- ポリ塩化ビニル樹脂の絶縁材料で被覆されたポリ塩化ビニル樹脂絶縁電線と、老化防止剤を含んだノンハロゲン系の絶縁材料で被覆されたハロゲンフリー絶縁電線とが混在して束ねられたワイヤハーネスにおいて、ポリ塩化ビニル樹脂絶縁電線の絶縁材料中に老化防止剤が添加されていることを特徴とするワイヤハーネス。
- 前記ポリ塩化ビニル樹脂絶縁電線の絶縁材料中に添加される老化防止剤の添加量がハロゲンフリー絶縁電線の絶縁材料中の老化防止剤の添加量に対して、10%〜5倍量の範囲とされていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネス。
- 老化防止剤がポリ塩化ビニル樹脂絶縁電線とハロゲンフリー絶縁電線とで同種類のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤハーネス。
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