JP3864187B2 - ポリヒドロキシアルカン酸の高強度繊維およびその製造法 - Google Patents

ポリヒドロキシアルカン酸の高強度繊維およびその製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸類(以下、「PHA類」ともいう。)を原料とする繊維およびその製造方法に関する。詳しくは、破壊強度が高い、高強度繊維およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PHA類は生分解性および生体適合性を有することから、繊維やフィルムなどの各種成形品への利用が検討されている。
PHA類を原料とする繊維は、生分解性および生体適合性を持つために、手術用縫合糸などの医療用用具、釣り糸、漁網などの水産業用用具、繊維などの衣料用材料、不織布、ロープなどの建築用材料、食品その他の包装用材料などとして大きな需要を見込むことができる。
【0003】
PHA類のなかでも、ポリ(3−ヒドロキシブタン酸)(以下、「P(3HB)」ともいう。)は、多くの微生物により菌体内貯蔵物質として合成され、細胞質内にグラニュールの形で蓄積することが知られている(非特許文献1)。
また、本発明者らはポリ(3−ヒドロキシブタン酸)合成遺伝子の遺伝子組換え大腸菌を用いて、P(3HB)産生微生物の野生株に比べ、分子量が飛躍的に向上したP(3HB)を得ることに成功している(特許文献1)。
これらのP(3HB)産生微生物から得られるP(3HB)は、生分解性製品の原料として期待されている。
【0004】
これまで、P(3HB)を原料とする繊維は、重量平均分子量60万(数平均分子量30万)程度のP(3HB)を原料として、溶融押出し、高温延伸し、熱処理をする方法により製造されてきた。このような方法として、具体的には、非特許文献2に、重量平均分子量30万のP(3HB)をクロロホルム精製し、4段階の溶融ゾーン温度(170℃-175℃-180℃-182℃)で溶融押出し、110℃で、延伸倍率800%で延伸し、155℃で、1時間保温し、結晶化させて、繊維を作製する方法が記載されている。得られた繊維の物性は、破壊強度190MPa、破壊伸び54%、ヤング率5.6GPaである。また、非特許文献3には、粘度平均分子量54万のP(3HB)を精製することなく、一旦、粘度平均分子量36万のペレットにし、そのペレットを173℃で溶融押出し、2000-3500m/minあるいは250m/minの巻き取り速度で巻き取り、40−60℃で、延伸倍率400%あるいは690%で延伸し、40−60℃で保温し、結晶化させて、繊維を作製する方法が記載されている。得られた繊維の物性は、破壊強度330MPa、破壊伸び37%、ヤング率7.7GPaである。
しかしながら、これらの繊維は汎用高分子に匹敵する物性を有するものではなく、実用化には至っていない。
【0005】
これに対し、非特許文献4には、P(3HB)グラニュールを未精製にて使用し、溶融温度180℃、ノズル温度170℃で溶融押出し、28m/minの巻き取り速度で巻き取り、110℃で延伸倍率600%まで延伸し、0MPa、50MPa、100MPaの張力下で、75,100,125,150℃で2.5分間保温し、結晶化させて、繊維を作製する方法が記載されている。得られた繊維の破壊強度310MPa、破壊伸び60%、ヤング率は3.8GPaである。
しかしながら、精製したP(3HB)や、重量平均分子量60万以上の高分子量のP(3HB)を含めたあらゆる分子量のP(3HB)を原料とする高強度繊維およびその製造方法は見出されていない。
【0006】
したがって、PHA類産生微生物の野生株由来のPHA類をはじめ、種々のPHA類を原料とした、生分解性を保持したまま物性の改善された高強度繊維の製造方法の開発が望まれていた。
【0007】
【非特許文献1】
Anderson, A.J. and Dawes, E.A., Microbiol. Rev., 54:450-472(1990)
【非特許文献2】
Gordeyev et al, J, Mater. Sci. Lett., 18, 1691(1999)
【非特許文献3】
Schmack et al, J. Polym. Sci. Polym. Phys. Ed., 38, 2841(2000)
【非特許文献4】
Yamane et al, Polymer, 42, 3241(2001)
【特許文献1】
特開平10-176070号
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、PHA類産生微生物の野生株産生物、遺伝子組換え株産生物あるいは化学合成物等、その由来によって異なる、PHA類の分子量などに関わらず、高強度の繊維が得られる方法および該方法により得られる高強度繊維を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ポリヒドロキシアルカン酸を溶融押出し、該ポリヒドロキシアルカン酸のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度+20℃以下で冷延伸し、更に緊張熱処理することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) ポリヒドロキシアルカン酸を溶融押出し、該ポリヒドロキシアルカン酸のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度+20℃以下で冷延伸し、更に緊張熱処理をすることを特徴とする繊維の製造方法。
(2) 冷延伸を2本の巻き取りローラーにより張力をかけて行うことを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3) 熱処理を、多段階で行うことを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 熱処理の各段階の温度は、それぞれの段階の前段階の温度よりも高い温度であることを特徴とする、(3)に記載の方法。
(5) 熱処理を、2つの巻き取りローラーにより張力をかけて行うことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) ポリヒドロキシアルカン酸がポリ(3−ヒドロキシブタン酸)である、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) ポリヒドロキシアルカン酸を溶融押出し、該ポリヒドロキシアルカン酸のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度+20℃以下で冷延伸し、更に緊張熱処理することにより製造される、破壊強度350MPa以上であることを特徴とする繊維。
(8) ポリヒドロキシアルカン酸を溶融押出し、該ポリヒドロキシアルカン酸のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度+20℃以下で冷延伸し、更に多段階で緊張熱処理することにより製造される、破壊強度350MPa以上であることを特徴とする繊維。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(1)本発明の繊維の製造方法
(i)本発明に用いるPHA類
本発明の製造方法では、ポリヒドロキシアルカン酸類を繊維成形材料として用いる。好ましいポリヒドロキシアルカン酸としては、ポリヒドロキシブタン酸(以下、「PHB」ともいう)が挙げられる。PHBを得る方法としては、一般に、発酵合成法と化学合成法とがある。化学合成法は、通常の有機合成の手法に従って化学合成する方法であり、ポリ[(R)−3−ヒドロキシブタン酸]とポリ[(S)−3−ヒドロキシブタン酸]との混合物(ラセミ体)が得られる。これに対し発酵合成法は、PHB生産能を有する微生物を培養しその菌体内に蓄積されるPHBを取り出す方法である。発酵合成法により得られるPHBは、ポリ[(R)−3−ヒドロキシブタン酸]ホモポリマーである。
【0012】
発酵合成法で利用できる微生物としては、PHB生産能を有する微生物であれば特に限定されない。PHBは、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)、アルカリゲネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)等のアルカリゲネス属をはじめ60種以上の天然微生物の菌体内に蓄積されることが知られている。重量平均分子量100万(数平均分子量50万)以上の高分子量PHBを生産するものとしては、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属に属する菌種の菌株、具体的にはMethylobacterium extorquens ATCC55366が挙げられる(Bourque, D. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol(1995))。これらの菌株はAmerican Type Culture Collection(ATCC)にて市販されている。
【0013】
発酵合成法においては、通常これらの微生物を、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地で培養することにより菌体内にPHBを蓄積させることができる。菌体からのPHBの採取は、クロロホルム等の有機溶媒による抽出や、菌体成分をリゾチーム等の酵素で分解した後PHBグラニュールを濾別する方法等により実施できる。
【0014】
また、発酵合成法の一態様として、PHB合成遺伝子を含む組換えDNAを導入して形質転換させた微生物を培養し、その菌体内に生成したPHBを採取する方法が挙げられる。この方法においては、ラルストニア・ユートロファ等を直接培養する場合と異なり、組換えDNAを導入して形質転換させた微生物は菌体内にPHB分解酵素を持たないため、格段に高分子量のPHBを蓄積することができる。
このような形質転換株として、例えば、特開平10-176070号において、Escherichia coli XL1-Blueに、ラルストニア・ユートロファのPHB合成遺伝子、phbCABを含むプラスミドpSYL105を導入して得られる形質転換株Escherichia coli XL1-Blue(pSYL105)が開示されている。また、該形質転換株Escherichia coli XL1-Blue(pSYL105)は、Stratagene Cloning System(11011 North Torrey Pines Road La Jolla CA92037, USA)から入手することができる。
【0015】
形質転換体は好適な培地で培養し、PHBを菌体内に蓄積させる。使用する培地としては、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地が挙げられる。大腸菌を用いる場合、炭素源としてはグルコース等が挙げられ、窒素源としてはイーストエキス、トリプトン等の天然物由来のものが挙げられる。その他、アンモニウム塩などの無機の窒素化合物等が含まれていてもよい。培養は好気的条件下で12〜20時間、培養温度は30〜37℃、培養中のpHは6.0〜8.0に制御することが好ましい。菌体からのPHBの採取は、クロロホルム等の有機溶媒による抽出や、菌体成分をリゾチーム等の酵素で分解した後PHBグラニュールを濾別する方法等により実施できる。具体的には、例えば培養液から分離回収した乾燥菌体からPHBを適当な貧溶媒で抽出した後沈殿剤で沈殿させることにより実施できる。
【0016】
本発明に用いられるPHA類としては、市販されているポリヒドロキシアルカン酸類を用いてもよい。
【0017】
本発明に用いられるポリヒドロキシアルカン酸類の分子量としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、好ましくは重量平均分子量40万(数平均分子量20万)以上である。重量平均分子量の上限は特に制限されないが、入手容易性及び成形性の点から、好ましくは重量平均分子量400万(数平均分子量200万)以下、特に好ましくは重量平均分子量100万(数平均分子量50万)以下のものが用いられる。
【0018】
本発明に用いられるポリヒドロキシアルカン酸類としては、PHA類を含むグラニュールを精製せずに用いてもよく、以下に記載する精製方法などにより精製してポリマー化したものを用いてもよい。
【0019】
(ii)本発明の製造方法
本発明の方法においては、上記したPHA類を溶融押出し、該PHA類のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度+20℃以下で冷延伸し、更に緊張熱処理し、繊維を製造する。
【0020】
PHA類の溶融押出の方法としては、通常のプラスチック繊維の溶融技術を用いて行うことができ、例えば、PHA類を加熱、溶融し、加重をかけて、押出口より押し出すことにより行うことができる。
溶融押出する際の温度としては、通常、溶融するポリヒドロキシアルカン酸の融点以上であり、好ましくは融点+10℃以上、より好ましくは融点+15〜20℃以上である。PHBの場合、融点は175℃以上である。
【0021】
上記溶融ポリヒドロキシアルカン酸をガラス転移点温度+15℃以下、好ましくはガラス転移点温度+10℃以下、より好ましくはガラス転移点温度以下の冷却媒体中に押出し、急冷、繊維化する。急冷、繊維化の温度としては、特に下限はないが、経済性の点から通常−180℃以上で行うことができる。同急冷工程により、溶融ポリヒドロキシアルカン酸は非晶質の繊維となる。得られた繊維を冷却溶媒中で巻き取ることができる。ガラス転移点温度は、例えば、動的粘弾性測定を行うことにより評価することができる。動的粘弾性は、例えば、セイコー電子DMS210を用い、窒素雰囲気下、周波数1Hz、昇温速度2℃/minの条件で、-100〜120℃の範囲で測定することができる。低分子量のPHBでは、ガラス転移点温度は4℃以下である。高分子量のPHBでは、ガラス転移点温度は10℃以下である。さらに高分子量のPHBでは、ガラス転移点温度は20℃以下である。なお、ガラス転移点温度は高い方が、加工しやすいという点で有用である。
冷却媒体としては、例えば、空気、水(氷水)、不活性気体などが挙げられる。本発明において、急冷は、例えば、溶融ポリヒドロキシアルカン酸をガラス転移点温度+15℃以下の空気中または氷水中に押出し、巻き取りながら同溶媒中を通過させておこなうことができる。巻き取りの速度としては、3〜150m/min、好ましくは3〜30m/minである。
非晶質繊維であることは、例えば、X線回折などの方法により確認することができる。X線回折において、結晶に由来するピークが確認できなければ、非晶質であるといえる。
【0022】
得られた非晶質繊維を、冷延伸する。好ましくは、冷延伸は、ガラス転移点温度+20℃以下、より好ましくはガラス転移点温度+10℃以下、さらに好ましくはガラス転移点温度以下で行うことができる。冷延伸の温度としては、特に下限はないが、経済性の点から通常−180℃以上で行うことができる。延伸は、例えば、延伸器などに固定して、好ましくは2つの巻き取りローラー(two roll set)などにより巻き取りながら張力をかけて行うことができる。延伸器などに固定して延伸する場合、延伸倍率は通常200%以上、好ましくは400%以上である。延伸倍率としては、特に上限はなく、破断しない程度であればよい。延伸の時間としては通常1〜10秒であり、延伸倍率に従って延伸の時間を決定することができる。巻き取りローラーなどで巻き取りながら延伸する場合、延伸倍率は通常300%以上、好ましくは600%以上である。延伸倍率としては、特に上限はなく、破断しない程度であればよい。巻き取りローラーなどで巻き取りながら延伸する場合、延伸時間は特に限定されず、常法の範囲で行うことができる。
【0023】
延伸後、緊張熱処理を行う。緊張熱処理は、温風熱処理、乾燥機熱処理などにより行うことができる。なお、緊張熱処理とは、緊張下で熱処理を行うことであり、緊張は、例えば、固定、加重、張力などによって行うことができる。固定熱処理とは、繊維の両端を固定した状態で熱処理を行うことである。また、繊維の先に重りを吊して加重して行う場合、加重は繊維が切断しなければ、重ければ重い程良い。加重は延伸後の繊維に加重をかけて切断しない程度までの範囲で決定することができる。なお、加重0gとは、繊維が伸びない加重のことである。また、巻き取りローラーにより張力をかけて熱処理を行う場合、送りと巻き取りのローラー速度を変えて、張力をかけながら行うことができる。張力により繊維は延伸されながら熱処理される。巻き取りローラーにより張力をかけて熱処理を行う場合、通常延伸倍率0%以上、好ましくは300%以上で行うことができる。なお、倍率0%での延伸とは、繊維が伸びないように延伸を行うことである。延伸倍率としては、特に上限はなく、破断しない程度であればよい。巻き取りローラーなどで巻き取りながら延伸する場合、延伸時間は特に限定されず、常法の範囲で行うことができる。
【0024】
なお、本発明の方法においては、熱処理を一段あるいは二段以上の多段階で行うことができる。
一段熱処理の温度としては、通常50〜110℃、好ましくは60〜80℃で行うことができる。一段熱処理の際の時間としては、通常5秒〜10分、好ましくは1秒〜1分で行うことができる。
二段熱処理の温度としては、通常50〜110℃、好ましくは70〜90℃で行うことができる。各段階の熱処理の温度は、前段階の温度に対してより高い温度であることが好ましく、通常前段階の温度+5℃以上、好ましくは前段階の温度+10℃以上で行うことができる。各段階の温度としては、特に上限はなく、通常融点以下で行うことができる。二段目以降の各段階の熱処理の時間としては、通常5秒〜10分、好ましくは10秒〜1分で行うことができる。
【0025】
これまでは、重量平均分子量60万(数平均分子量30万)程度の低分子のPHBの繊維化に関する報告例はあるが、汎用高分子に匹敵する物性が得られていないものがほとんどであった。また、このような方法に関し、重量平均分子量60万(数平均分子量30万)以上の高分子のPHBに応用されたという報告例はない。しかし、本発明の方法によれば、PHBの分子量や精製の有無などに関係なく、高強度繊維を得ることが可能となった。
また、熱処理を多段熱処理により行うことにより、さらに物性を向上することができた。
【0026】
(2)本発明の繊維
本発明の繊維は、PHA類を溶融押出し、該PHA類のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度+20℃以下で冷延伸し、更に緊張熱処理することにより製造される繊維である。このような繊維のうち好ましい形態として、上記方法によって得られる、破壊強度350MPa以上であることを特徴とする繊維である。
【0027】
ここでいう破壊強度は、JIS-K-6301に沿って測定されたものであり、本発明の繊維では350MPa以上、好ましくは400MPa以上である。
【0028】
さらなる本発明の繊維は、PHA類を溶融押出し、該PHA類のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度+20℃以下で冷延伸し、更に多段階で緊張熱処理することにより製造される繊維である。このような繊維のうち好ましい形態として、上記方法によって得られる、破壊強度350MPa以上、好ましくは400MPa以上であることを特徴とする繊維である。
【0029】
また、本発明の繊維は、従来の汎用高分子と同等以上の弾性率を有し、例えばヤング率が2GPa以上、好ましくは4GPa以上、より好ましくは5GPa以上である。
【0030】
本発明の繊維は、PHA類繊維中の結晶部の向きが一定方向である配向結晶性繊維である。従来の製造方法によって得られる低分子量のPHA類を原料として製造される繊維は、汎用高分子繊維に匹敵する物性が得られていないものがほとんどであった。また、このような従来の製造方法は、重量平均分子量60万(数平均分子量30万)以上の高分子のPHA類に応用されたことはなかった。しかしながら、本発明の方法によって、分子量に関わらず汎用高分子繊維に匹敵する物性を有する配向結晶性繊維を得ることができる。
【0031】
本発明における繊維の成形材料としては、上記PHA類以外に通常繊維に用いられる各種添加剤、例えば滑剤、紫外線吸収剤、耐候剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、核剤、流動改良剤、着色剤等を必要に応じて含有させることができる。
【0032】
本発明の繊維は、上述したように十分な強度と柔軟性を有し、かつ生分解性および生体適合性に優れたPHA類からなるものであり、手術用縫合糸などの医療用用具、釣り糸、漁網などの水産業用用具、繊維などの衣料用材料、不織布、ロープなどの建築用材料、食品その他の包装用材料などに有用である。
【0033】
【実施例】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨をこえない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
【実施例1〜8】
モンサント社より購入したPHB産生微生物の野生株であるラルストニア・ユートロファにより産生された重量平均分子量40万(数平均分子量20万)のP(3HB)を含むグラニュールを未精製で、あるいはクロロホルム抽出により精製してポリマー化したものを実験に用いた。また、遺伝子組換え大腸菌Escherichia coli XL1-Blue(pSYL105)を特開平10-176070号に記載の方法に従って作製、培養し、菌体よりPHBを精製して得た後、グラニュールを濾別して得た。得られたPHBの重量平均分子量を特開平10-176070号に記載の方法に従って測定した結果、重量平均分子量は300万(数平均分子量150万)であった。
【0035】
これらのPHBグラニュールおよびポリマーを、220℃にて溶融し、押出加重53gにて押出口より空気中(20℃)または氷水中(3℃)に押出し、急冷し、繊維化した。得られた繊維を空気中(20℃)または氷水中(3℃)で巻き取った。この操作に使用される装置の一例を模式図として図1Aに示す。PHBグラニュールおよびポリマーをヒーターにて加温しながら溶融し、氷水浴槽に押出し、得られた繊維をローラーにて巻き取る。押出口径は1mmのものを用いた。巻き取り速度は、6m/minとした。繊維化の成否を表1に示す。
【0036】
この結果からガラス転移点温度+15℃以下での急冷により、PHBの分子量および精製の有無に関わらず、繊維化が可能であることが分かる。
【0037】
【表1】
Figure 0003864187
【0038】
【実施例9〜14】
実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、精製したPHBを原料とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた繊維を、延伸器に取り付けて、延伸倍率200〜1000%で、2〜10秒間、あるいはtwo roll setにて延伸倍率600%〜1000%で、室温(20℃)あるいは氷水中(3℃)で延伸した。この操作に使用されるtwo roll setの一例を模式図として図1Bに示す。1つの巻き取りローラーに巻き取られた繊維をもう一つのローラーにて氷水浴槽中にて巻き取りながら延伸する。このような装置では2つの巻き取りローラーの速度を変えることにより所望の延伸倍率で繊維を延伸することができる。延伸の成否を表2に示す。
【0039】
この結果からガラス転移点温度+15℃以下での急冷により得られた繊維は、PHBの分子量に関わらず、ガラス転移点温度+20℃以下の温度下で延伸器およびtwo roll setにより延伸が可能であることが分かる。
【0040】
【表2】
Figure 0003864187
【0041】
【比較例1、実施例15〜20】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は220℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた実施例15〜20の繊維を、延伸器に取り付け、実施例15〜20について、2〜6秒間、室温(20℃)で延伸した。なお、延伸倍率は、表3に示すとおりである。
延伸および未延伸繊維を、延伸器に両端を固定したまま、温風に曝し、60℃、5分間の熱処理を行った。得られた比較例1の未延伸繊維および実施例15〜20の延伸繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表3に示す。尚、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率は、JIS-K-6301に沿って、今田製作所製SV−200型引張圧縮試験機を用いて測定した。引張速度は50mm/分とした。
【0042】
これらの結果から、本発明の方法により、繊維の物性が向上することが分かる。
【0043】
【表3】
Figure 0003864187
【0044】
【比較例2、実施例21〜24】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は200℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた実施例21〜24の繊維を、延伸器に取り付け、実施例21〜24につき、4〜10秒間、室温(10℃)で延伸した。延伸倍率を表4に示すとおりとした。
延伸および未延伸繊維を、延伸器に両端を固定したまま、温風に曝し、100℃、3分間の熱処理を行った。得られた比較例2の未延伸繊維および実施例21〜24の延伸繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表4に示す。
【0045】
この結果から、延伸器による延伸、延伸器に固定した状態での熱処理により、繊維の物性が向上することが分かる。
【0046】
【表4】
Figure 0003864187
【0047】
【実施例25〜27】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は200℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた実施例25〜27の繊維を、two roll setで、氷水中(3℃)で延伸した。延伸倍率を表5に示すとおりとした。
延伸繊維を、延伸器に両端を固定したまま、温風に曝し、5分間の熱処理を行った。熱処理温度を表5に示すとおりとした。得られた実施例25〜27の延伸繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表5に示す。
【0048】
この結果から、two roll setで延伸、延伸器に固定した状態での熱処理により、繊維の物性が向上することが分かる。
【0049】
【表5】
Figure 0003864187
【0050】
【実施例28〜31】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は200℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた繊維を、延伸器に取り付け、実施例28〜31につき、7〜12秒間、室温(10℃)で延伸した。延伸倍率を表6に示すとおりとした。
延伸繊維に、重りを吊し、温風に曝し、100℃、5分間の熱処理を行った。加重は表6に示すとおりである。得られた実施例28〜31の延伸繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表6に示す。
【0051】
この結果から、延伸器による延伸、加重熱処理により、繊維の物性が向上することが分かる。
【0052】
【表6】
Figure 0003864187
【0053】
【実施例32、33】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は200℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた繊維を、two roll setで、氷水中(3℃)で延伸倍率700%で延伸した。
延伸繊維に、重りを吊し、加重を40gとして、温風に曝し、100℃、6.5分間の熱処理を行った。得られた実施例32、33の延伸繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表7に示す。
【0054】
この結果から、two roll setによる延伸、加重熱処理により、繊維の物性が向上することが分かる。
【0055】
【表7】
Figure 0003864187
【0056】
【比較例3、4、実施例34〜38】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は200℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
実施例34〜38の繊維を、two roll setで、氷水中(3℃)で延伸した。延伸倍率を表8に示すとおりとした。
延伸繊維を、two roll setで、延伸倍率300%で、温風に曝し、60℃、0.5分間の熱処理を行った。この操作に使用されるtwo roll setの一例を模式図として図1Cに示す。1つの巻き取りローラーに巻き取られた繊維をオーブンを通過させ、もう1つのローラーにて巻き取りながら延伸する。このような装置では2つの巻き取りローラーの速度を変えることにより所望の延伸倍率で繊維を延伸することができる。
比較例3、4の未延伸繊維を、延伸器に両端を固定したまま、温風に曝し、60℃、5分間の熱処理を行った。
得られた比較例3、4の未延伸繊維および実施例34〜38の延伸繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表8に示す。
【0057】
この結果から、two roll setによる延伸、熱処理により、繊維の物性が向上することが分かる。
【0058】
【表8】
Figure 0003864187
【0059】
【実施例39〜42】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は200℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた繊維を、two roll setで、氷水中(3℃)で延伸した。延伸倍率を表9に示すとおりとした。
延伸繊維に重りを吊し、温風に曝し、熱処理を行った。延伸倍率、加重、熱処理温度、時間は表9に示すとおりとした。
実施例41、42の繊維を、加重を20gとし、温風に曝し、100℃、5分間の二段熱処理を行った。
得られた実施例39〜42の二段熱処理繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表9に示す。
【0060】
この結果から、加重による二段熱処理により、一段熱処理繊維に比べ、繊維の物性が更に向上することが分かる。
【0061】
【表9】
Figure 0003864187
【0062】
【実施例43〜46】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は200℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた繊維を、two roll setで、氷水中(3℃)で延伸倍率800%に延伸した。
延伸繊維を、two roll setで、延伸倍率300%で、温風に曝し、60℃、0.5分の熱処理を行った。
実施例45、46の繊維を、two roll setで、延伸倍率0%で、温風に曝し、70℃、0.5分の二段熱処理を行った。
得られた実施例43〜46の二段熱処理繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表10に示す。
【0063】
この結果から、two roll setによる二段熱処理により、一段熱処理繊維に比べ、繊維の物性が更に向上することが分かる。
【0064】
【表10】
Figure 0003864187
【0065】
【実施例47〜50】
実施例1〜8で用いた遺伝子組換え株から得られた精製した重量平均分子量300万(数平均分子量150万)のPHBを試料として用いた。実施例1〜8と同様の方法で繊維を作製した。ただし、溶融温度は200℃とし、氷水中に押出し、繊維化したものを用いた。
得られた繊維を、two roll setで、氷水中(3℃)で延伸倍率800%に延伸した。
延伸繊維を、two roll setで、延伸倍率300%で、温風に曝し、60℃、0.5分の熱処理を行った。
実施例49、50の繊維を、two roll setで、延伸倍率150%で、温風に曝し、60℃、0.5分の二段熱処理を行った。
得られた実施例47〜50の二段熱処理繊維について、破壊強度、破壊伸び、及びヤング率を測定した。結果を表11に示す。
【0066】
この結果から、two roll setによる二段熱処理により、一段熱処理繊維に比べ、繊維の物性が更に向上することが分かる。
【0067】
【表11】
Figure 0003864187
【0068】
【発明の効果】
PHA類産生微生物の野生株産生物、遺伝子組換え株産生物あるいは化学合成物等、その由来によって異なる、PHA類の分子量などに関わらず、高強度の繊維が得られる方法および該方法によって得られる繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1Aは、溶融押出と氷水中での巻き取りの方法の模式図である。図1Bは、two roll set(2つの巻き取りローラー)を用いた氷水中での延伸方法の模式図である。図1Cは、two roll set(2つの巻き取りローラー)を用いた延伸熱処理方法の模式図である。

Claims (8)

  1. ポリヒドロキシアルカン酸を溶融押出し、該ポリヒドロキシアルカン酸のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度以下で冷延伸し、更に緊張熱処理をすることを特徴とする繊維の製造方法。
  2. 冷延伸を2本の巻き取りローラーにより張力をかけて行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 熱処理を、多段階で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 熱処理の各段階の温度は、それぞれの段階の前段階の温度よりも高い温度であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
  5. 熱処理を、2つの巻き取りローラーにより張力をかけて行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. ポリヒドロキシアルカン酸がポリ(3−ヒドロキシブタン酸)である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. ポリ(3−ヒドロキシブタン酸)を溶融押出し、該ポリ(3−ヒドロキシブタン酸)のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度以下で冷延伸し、更に緊張熱処理することにより製造される、破壊強度350MPa以上であることを特徴とする繊維。
  8. ポリ(3−ヒドロキシブタン酸)を溶融押出し、該ポリ(3−ヒドロキシブタン酸)のガラス転移点温度+15℃以下に急冷、固化して非晶質の繊維を作製し、該非晶質の繊維をガラス転移点温度以下で冷延伸し、更に多段階で緊張熱処理することにより製造される、破壊強度350MPa以上であることを特徴とする繊維。
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