JP3860775B2 - 口腔感染動物モデルの作製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、口腔内に微生物が感染して発生する病態(う歯、歯槽膿漏)、口腔内アフター、口腔真菌症等の予防法、診断法、治療法を開発するための、微生物を口腔内に感染させた口腔感染動物モデルの作製方法及び該方法により作製された口腔感染動物モデル、並びに該口腔感染動物モデルを用いた口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質のスクリーニング方法に関する。本発明の方法により作製された口腔感染動物モデルは、口腔感染症等の疾患を予防又は治療するための医薬品及び食品を開発することを目的としたスクリーニングに有用である。
【0002】
【従来の技術】
感染症の予防と治療のためには、発症のメカニズムを解明したり治療薬を開発しなければならないが、このためには感染症の動物モデルにおける実験が不可欠である。つまり、ヒトの感染症に近い病態を再現する動物モデルを作製し、これを用いることによって発症のメカニズムの解明や治療方法の検討が可能となる。
【0003】
特許第2720603号公報、及び特開2000−197427号公報では、胃内へヘリコバクター・ピロリ菌を定着させたヘリコバクター・ピロリ感染動物モデル及びその作製方法が開示されている。また、特開2000−262182号公報では、肺炎球菌等を肺へ感染させた肺感染モデル動物の作製方法が開示されているが、いずれの技術も口腔感染病態以外の動物モデルの作製方法であった。
【0004】
口腔カンジダ症は、ヒト免疫不全ウイルスタイプ1に感染した個人における後天性免疫不全症候群(AIDS)の初期日和見感染、並びに癌患者における照射及び化学療法の合併症として知られている(ジャーナル・オブ・アクワイヤード・イミュン・デフィシェンシー・シンドローム〔Journal of Acquired Immune Deficiency Syndromes〕、第1巻、第361乃至366頁、1988年)。更に、入れ歯利用者のカンジダ感染は年配者の間に広く起こる口腔内の問題である歯口内炎に主要な役割を果たしている。また、いわゆる虫歯や歯槽膿漏も口腔内において微生物が感染して発生する口腔感染症の一病態であり、口腔感染症の診断や治療に関する研究が現在も盛んに進められている。このような状況から口腔感染病態の動物モデルの開発は、口腔感染症の診断法や治療法の開発に直接結びつく重要な課題であると考えられる。
【0005】
従来、感染症の中でも口腔感染病態の動物モデルとしては、げっ歯目に属する動物が用いられてきており、口腔内に微生物を感染させることによって動物モデルが作製され、治療法の前臨床評価に利用されている。一方、疾病に対する治療効果を有する活性物質は、様々な方法によるスクリーニングが行われることによって、その効果が評価されるが、口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質についても、スクリーニングによって薬剤としての可能性や予防治療効果に対する検討がなされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の口腔感染動物モデルにおいては、微生物の定着が不十分であったり、感染巣ができない場合が多いなどの問題点を有していた。また、げっ歯目の動物は代謝が早く、比較的若い個体を使用しているため、通常用いられる系統の動物では満足のいく病態モデルができにくいことから、より強く微生物が定着し、且つ長期間感染状態を持続させるために、系統の選択や薬剤などによる処置など様々な検討がなされ、更に一般の研究室での実施が可能な微生物の定着率が高い動物モデル作製方法の開発が希求されていた。
【0007】
一方、従来のスクリーニング方法においては、微生物の感染率が低い口腔感染動物モデルを使用していたため、口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質のスクリーニングを行った場合、例えば、最適な投与量を判定するスクリーニングにおいては、本来効果が弱い活性物質であっても、その効果は現れやすいために、最適な投与量を検討するにはスクリーニング精度が低すぎるという問題が生じていた。また、特定の活性物質の選定を行うスクリーニングにあっては、種々の活性物質を使用しても治療効果にあまり差が出てこないことから、特定の病態の治療に対して、どの活性物質を使用することが最適かをスクリーニングするにはデータとして不十分であった。即ち、口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質に対する精度の高いスクリーニング方法の開発が望まれていた。
【0008】
このような実情に鑑みて、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、薬剤を投与して一旦麻痺させた動物の口腔内に微生物を接種し、一定時間麻痺を持続させることにより作製された口腔内感染動物モデルでは、従来よりも微生物の定着の効果が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。更に、本発明の方法に従って作製された口腔感染動物モデルを使用することにより、口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質のスクリーニングの精度が高まることが確認された。
【0009】
本発明の第一の目的は、簡便であり、且つ高い定着率で微生物を口腔内に感染させることが可能な、口腔感染動物モデルの作製方法を提供することである。
【0010】
本発明の第二の目的は、第一の目的の作製方法により作製された口腔感染動物モデルを提供することである。
【0011】
本発明の第三の目的は、第一の目的の作製方法により口腔感染動物モデルを作製し、作製した口腔感染動物モデルに口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質を投与し、投与した活性物質の効果を評価することを特徴とする口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質のスクリーニング方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決する本発明の第一の発明は、げっ歯目に属する動物に、該動物を麻痺させる薬剤を投与して麻痺させ、次いで該動物に微生物を経口接種し、2時間以上麻痺を持続させることにより、前記動物の口腔内に微生物を定着させることを特徴とする口腔感染動物モデルの作製方法であり、薬剤が精神安定剤もしくは麻酔剤のいずれか又はそれらの両方であること、微生物が真菌であること、及びげっ歯目に属する動物がマウスであることを特に望ましい態様としている。
【0013】
前記課題を解決する本発明の第二の発明は、第一の発明の方法により作製され、微生物が口腔内に定着している口腔感染動物モデルである。
【0014】
前記課題を解決する本発明の第三の発明は、第一の発明の方法により口腔感染動物モデルを作製し、該口腔感染動物モデルに口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質を投与し、口腔内の感染の程度を指標として、投与した活性物質の効果を評価することを特徴とする口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質のスクリーニング方法であり、活性物質が抗真菌剤であること及び口腔内の感染の程度を舌の症状により判定することを望ましい態様としている。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について具体的に説明する。尚、本明細書において百分率は、特に断りのない限り重量による表示である。
本発明に用いられる動物としては、げっ歯目に属する動物であればいかなる動物でもよく、マウス、ラット、ハムスター類、スナネズミ、及びモルモット等を例示することができ、特にマウスを使用することが好ましい。
【0016】
本発明における動物の「麻痺」の状態とは、動物の体の一部及び全体に係らず、及び覚醒状態の有無には係らず、動物本来の活発な動きや機能が鈍くなること又は動物の体の動きが殆どない鎮静化した状態であることを意味する。特に精神安定剤を使用して動物を麻痺させた場合を好ましい態様とする。具体的には、例えば、触れると反応して動くが、動きが鈍く、菌接種などの処置の妨げにならず、放置すると自発的に動かなくなる状態である場合は、本発明にいう「麻痺」の状態である。
【0017】
本発明の方法において動物を麻痺させる目的で用いられる薬剤としては、精神安定剤又は麻酔剤のいずれかが好ましい。これらの中では、精神安定剤がより好ましい。また、精神安定剤と麻酔剤の両方を用いてもよい。
精神安定剤としてはフェアノチアジン系(塩酸クロルプロマジン等)、ブチロフェノン系(ハロペリドール等)、その他の系(オキシペルチン等)が例示され、また、麻酔剤としてはペントバルビタール、フローセン、エトレン、笑気ガス等が例示される。更に、麻痺の効果を高めて微生物の定着率を効果的に上げる目的として、副腎皮質ホルモン等の免疫抑制剤、筋弛緩剤、及び呼吸機能賦活剤等を併用することも可能である。
【0018】
これら麻痺を目的とする薬剤の投与量は、薬剤の種類、投与方法、麻痺を維持させる時間、投与される動物の種類、年齢、性別等に応じて適宜設定することができるが、例えば、マウスに塩酸クロルプロマジンを投与する場合、麻痺を維持させる時間によって、0.5〜100mg/kg体重を投与することが可能である。
【0019】
麻痺は、げっ歯動物に微生物を経口接種した後、一定時間持続させる。「一定時間」とは、前記動物の口腔内に微生物を定着させることができる限り特に制限されないが、麻痺を持続させる時間は長くなるほど効果は良い。具体的には2時間以上であることが好ましく、3時間以上であることが特に好ましい。麻痺を持続させる時間が2時間以上であると舌症状の悪化の程度は高められ、麻痺を持続させる時間が3時間以上であると更に舌症状の悪化の程度は高められる。尚、麻痺を持続させる時間の上限は特に制限されないが、通常は5〜8時間程度で十分な効果が期待される。
【0020】
麻痺を持続させる時間は、薬剤の種類及び投与量により調整することができる。これは、予め、薬剤の投与量を変化させてげっ歯動物に薬剤を投与し、麻痺時間を計測することによって、容易に決定することができる。
【0021】
本発明の方法において経口接種される微生物としては真菌、細菌、ウイルス等が例示され、特に真菌類が好ましく、カンジダ属、マラセチア属、コキディオイデス属等に属する真菌が例示される。更に、細菌としては、ストレプトコッカス属、アクチノマイセス属、コリネバクテリウム属、ボルフィノモナス属、バクテロイデス属、スタフィロコッカス属、シュードモナス属等に属する細菌が例示される。また、ウイルスとしては、ヘルペス科、インフルエンザ属、エンテロ属等に属するウイルスが例示される。
【0022】
微生物の経口接種方法は特に限定されないが、例えば、接種する微生物が真菌の場合は、液体培地で107〜108個/mlに懸濁して接種液を調製し、あらかじめ薬剤で麻痺させたマウス等の舌をピンセットで引き出し、接種液を十分染み込ませた綿棒で、接種液を舌と口腔内に塗り付ける方法が挙げられる。
また、接種する微生物が細菌の場合は、液体培地で108個/ml程度に懸濁して接種液を調製し、あらかじめ薬剤で麻痺させたマウス等の歯と口腔内に、接種液を十分染み込ませた綿棒で塗り付ける方法が挙げられる。
本発明においては、げっ歯目に属する動物に薬剤を投与して麻痺させた後に、微生物を経口接種し、その後、一定時間麻痺を持続させることが好ましい。
【0023】
前記方法によって口腔内に微生物が感染した動物の感染微生物の菌数は、例えば感染動物を堵殺後、生理食塩水に浸した綿棒で口腔内の微生物を拭き取り、綿棒に付着した微生物を生理食塩水に懸濁して、懸濁液を培地上で一定時間培養し、形成したコロニーから微生物の数(CFU:colony forming units)を計測することが可能である。
本発明において、「動物の口腔内に微生物を定着させる」とは、感染後、一定数以上の菌が口腔内に確認できることをいう。具体的には、例えば、微生物がマウス一匹当たり103CFU以上、好ましくは104CFU以上回収できる場合、また、後述の舌症状スコアが1以上である場合は、微生物が定着しているということができる。
【0024】
一般に、薬理試験等において、スクリーニングとは、特別の目的で設計されたスクリーニング計画にかけて有効で毒性が小さいと推定される物質を選び出すこととして定義されるが、本発明においてスクリーニングとは、本発明の口腔感染動物モデルに、口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質を投与し、口腔内の感染の程度を指標として、投与した活性物質の効果を評価する工程等を組み合わせることを特徴とする口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質の判定又は選定を意味する。尚、本発明において、口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質は、抗真菌剤であることを望ましい態様とし、その投与方法は、経口投与、静脈投与、及び腹腔内投与等を例示することが可能であり、投与量は、薬剤の種類、投与方法、投与される動物の種類、年齢、性別、及び口腔感染症の症状等に応じて適宜設定することができる。更に、投与した活性物質による口腔感染動物モデルの病態変化の結果から、例えば活性物質の望ましい投与量の判定、又は特定の口腔感染症に最も治療効果を発揮する活性物質の選定等を行うことによって、活性物質の効果を評価することが可能である。
【0025】
また、本発明のスクリーニング法においては、口腔内の感染の程度は、例えば舌の症状により判定することができる。舌の症状は、例えば後述の「舌症状スコア」のように数値化することによって、定量的な判定が可能となる。また、口腔感染動物モデルの作製においても、前記のようにして舌の症状を指標として、口腔内の感染の程度を判定することによって、高い定着率で微生物が口腔内に感染した口腔感染動物モデルを製造することができる。
【0026】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
試験例1
本試験は、精神安定剤を投与して動物モデルを作製した際の微生物の定着の効果を検討した。
(1)動物モデルの作製と試料の調製
5週齢、ICR系雌性マウス(日本チャールス・リバー(株)より購入)、1群5匹で計25匹を、1週間予備飼育した。感染前日に副腎皮質ホルモンであるプレドニゾロン(三鷹製薬社製)を100mg/kg体重となるように皮下投与し、給水(滅菌水道水)液中に0.83mg/mlとなるように塩酸テトラサイクリン(武田薬品社製)を添加して自由摂取させた。
【0027】
感染させる微生物には、カンジダ菌(Candida albicans:TIMM 2640株、帝京大学医真菌研究センターより入手可能。)を使用し、感染直前に細胞数が2.5×107個/mlとなるように、2.5%ウシ胎児血清(ギブコ社製)を含むRPMI1640液体培地(ギブコ社製)に懸濁して接種菌液を調製した。
【0028】
動物を麻痺させる目的として使用した薬剤は、精神安定剤であるクロルプロマジン塩酸塩(和光純薬社製)を生理食塩水(大塚製薬社製)に、0.01%、0.04%、0.2%、及び1%となるように溶解し、試料1、試料2、試料3、及び試料4として調製した。また、対照試料1として生理食塩水を使用した。
【0029】
感染当日、前記マウスの左右大腿部に試料1乃至試料4又は対照試料をそれぞれ100μl筋肉注射した。マウスの体の動きが麻痺した段階で、マウスの舌をリングピンセットで引き出し、接種菌液を十分染み込ませた綿棒で、接種菌液を舌と口腔内に塗り付け、更に各時間麻痺を持続させて感染を行い、口腔感染動物モデルを作製した。
【0030】
(2)試験方法
感染3日目に、マウスを頚椎脱臼又はクロロホルムでと殺し、口腔感染の程度を、感染動物モデルの舌の症状によって表1に示す6段階の評価をスコア化し、その平均を算出することによって「舌症状スコア」として示した。
【表1】
【0031】
更に、口腔内を生理食塩水に浸した綿棒で拭き取り、5mlの生理食塩水に懸濁し、希釈後、これをカンジダGSプレート(栄研化学社製)にまき、37℃、20時間培養し菌数を計測した。
【0032】
(3)試験結果
本試験の結果は、表2に示すとおりである。表2は、マウスの麻痺を持続させた時間による感染した微生物の数、及び舌症状スコアを示した表である。尚、試料1乃至試料4をマウスに投与した際の麻痺持続時間は、それぞれ、1、2、3、及び24時間であった。表1から明らかなとおり、微生物を感染させてから1時間以上マウスを麻痺させておくと、微生物は効果的にマウスに定着することが判明した。また、微生物を感染させてから2時間以上マウスを麻痺させておくと定着の効果は高められ、3時間以上マウスを麻痺させておくと更に定着の効果は高められ、麻痺の時間が24時間程度まで高い定着率が維持されることが確認された。また、同様に微生物を感染させてから1時間以上マウスを麻痺させておくと、マウスの舌の症状に悪化が確認され、2時間以上マウスを麻痺させておくと舌症状の悪化の程度は高められ、3時間以上マウスを麻痺させておくと更に舌症状の悪化の程度は高められることが判明した。
【0033】
従って、口腔感染動物モデルを作製する際に動物を麻痺させて微生物を感染させると、微生物の定着率は上昇し、口腔感染動物として好適な舌症状を呈することが判明し、麻痺の持続時間は長くなるほど効果は良く、2時間以上が好ましく、3時間以上が特に望ましいことが明らかとなった。また、動物を麻痺させるために精神安定剤の代わりに麻酔剤であるネンブタールを使用して同様の試験を行ったところ、麻痺の持続時間が長くなるほど、微生物の定着率は上昇し、口腔感染動物として好適な舌症状を呈し、好ましくは2時間以上、特に3時間以上麻痺させることが望ましいことが確認された。
【0034】
【表2】
【0035】
試験例2
この試験は、本発明のスクリーニング方法の精度を確認するために行った。
(1)動物モデルの作製と試料の調製
実施例1と同様の方法で作製した動物モデルのマウスを試験群とした。一方、動物の麻痺のために投与するクロルプロマジン塩酸溶液を生理食塩水に変更し、麻痺させずに作製したことを除き、実施例1と同様に作製した動物モデルのマウスを対照群とした。
【0036】
抗真菌剤にはフルコナゾール(ファイザー製薬社製)を使用し、生理食塩水で0.05、0.5、及び5mg/mlの濃度に溶解して、それぞれ試料5、試料6、及び試料7を調製した。また、対照試料2として生理食塩水を使用した。
【0037】
(2)試験方法
試験群及び対照群のマウスに、試料5乃至試料7又は対照試料2を1日あたり10μl/g体重を胃ゾンデを用いて3日間経口投与し、3日後の口腔内菌数及び試験例1で用いた舌症状スコアを口腔感染症の予防治療効果を有する活性物質のスクリーニングの判定基準として用いた。以上の試験群によるスクリーニングと対照群によるスクリーニングそれぞれの精度を比較した。
【0038】
(3)試験結果
本試験の結果は、表3に示すとおりである。表3は、試験群及び対照群のマウスに抗真菌剤を投与した際の口腔内菌数及び舌症状スコアを測定した結果である。その結果、対照群のマウスでは抗真菌剤を0.5〜50mg/kg体重の範囲で投与したいずれのマウスも、口腔内のカンジタ菌は完全に除菌されてしまい、この系における抗真菌剤の望ましい投与量の推定は不可能であったのに対し、抗真菌剤を0.5〜50mg/kg体重の範囲で投与した試験群のマウスでは口腔内菌数及び舌症状スコアのいずれにおいても、差が大きく出ており、抗真菌剤の適正投与量を判定できることが明らかである。
【0039】
従って、本発明の口腔感染動物モデルを使用したスクリーニング方法は、口腔感染症において、治療効果の差を伴う精度の高い判定を行う際に、非常に有用であることが明らかとなった。
【0040】
尚、他の抗真菌剤(アンフォテリシンB)を使用して、同様の比較試験を行ったところ、対照群に比して試験群のマウスはいずれも効果的に治療効果の差が生まれ、試験群のマウスは対照群のマウスに比してスクリーニングの精度が高いことが判明した。
【0041】
【表3】
【0042】
次に実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
5週齢、ICR系雌性マウス(日本チャールス・リバー(株)より購入)を、1週間予備飼育し、感染前日に副腎皮質ホルモンであるプレドニゾロン(三鷹製薬社製)を100mg/kg体重となるように皮下投与し、給水(滅菌水道水)液中に0.83mg/mlとなるように塩酸テトラサイクリン(武田薬品社製)を添加して自由摂取させた。
【0044】
感染当日、前記マウスの左右大腿部に0.2%となるように生理食塩水で希釈したクロルプロマジン塩酸(和光純薬社製)溶液を100μlずつ筋肉注射し、マウスの体の動きが麻痺した段階で、マウスの舌をリングピンセットで引き出した。細胞数が2.5×107個/mlとなるように、2.5%ウシ胎児血清(ギブコ社製)を含むRPMI1640液体培地(ギブコ社製)に懸濁したカンジダ菌(Candida albicans:TIMM 2640株、帝京大学医真菌研究センターより入手可能。)懸濁液を十分染み込ませた綿棒で、該マウスの舌と口腔内に菌懸濁液を塗り付け、更に3時間麻痺した状態を保ち、感染動物モデルを作製した。
【0045】
作製した口腔感染動物モデルの口腔内のカンジダ菌の菌数は105個以上であり、舌症状スコアは3以上であることが確認された。
【0046】
【発明の効果】
以上詳記したとおり、本発明は口腔感染動物モデルの作製方法及び該方法により作製された口腔感染動物モデル、並びに該口腔感染動物モデルを用いた口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質のスクリーニング方法に関するものであり、本発明により奏される効果は次のとおりである。
(1)動物に殆ど負担を与えずに微生物を口腔感染させることが可能であり、微生物の定着率が高い。
(2)特定の飼育条件や環境、及び特定の系統の動物を必要とせず、簡便に口腔感染動物モデルが作製できる。
(3)口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質を使用して、治療効果の差を伴う精度の高いスクリーニングを行う際に有用である。
Claims (8)
- げっ歯目に属する動物に、該動物を麻痺させる薬剤を投与して麻痺させ、次いで該動物に微生物を経口接種し、2時間以上麻痺を持続させ、前記動物の口腔内に微生物を定着させることを特徴とする口腔感染動物モデルの作製方法。
- 薬剤が精神安定剤もしくは麻酔剤又はそれらの両方である請求項1に記載の口腔感染動物モデルの作製方法。
- 薬剤が少なくとも精神安定剤を含む請求項1に記載の口腔感染動物モデルの作製方法。
- 微生物が真菌である請求項1〜3のいずれか一項に記載の口腔感染動物モデルの作製方法。
- げっ歯目に属する動物がマウスである請求項1〜4のいずれか一項に記載の口腔感染動物モデルの作製方法。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法により口腔感染動物モデルを作製し、作製した口腔感染動物モデルに口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質を投与し、口腔内の感染の程度を指標として、投与した活性物質の効果を評価することを特徴とする口腔感染症に予防治療効果を有する活性物質のスクリーニング方法。
- 活性物質が抗真菌剤である請求項6に記載のスクリーニング方法。
- 口腔内の感染の程度を、舌の症状により判定する請求項6又は7に記載のスクリーニング方法。
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